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藤谷陽子「るったとこだま」3

藤谷陽子「るったとこだま」3

別のクラスになった同室の二人は、その季節・その時期にしか味わえないイベントを相変わらず仲良く過ごしている。
クリスマスを一緒に過ごす約束は、るったのバイト先のメンバーが次々と倒れたことで反故になってしまう。出かけようと誘ったのが自分だっただけに、るったの罪悪感は倍増しだ。
しかしこだまはそれほどダメージを受けていない。勿論寂しいし残念だけれど、るったがバイト先を見捨てて自分との予定を優先するような男ではないことは知っているし、そういうところも含めてかれを好きなのだ。理由が理由だけに仕方がないと思うし、バイトの手が足りないなら自分も行けばいいと思い立つ。このあとるったに、一緒にいられるなら「どこでもいい」と言ったこだまの言葉は本音だろう。遊園地じゃなくても、二人きりじゃなくても、るったのバイト先でも、一緒にいられたら楽しい。
そう思い立ってるったのバイト先に足を向けたこだまは、るったが最近よく話題にする友人・正人と笑っているところを見る。そこに、こだまへの裏切りはない。そこには全く恋愛のにおいはないし、多分こだまが声をかければるったは驚きつつも喜んで受け入れてくれたはずだ。しかしこだまはそれができなかった。自分でも整理できない感情を抱えたまま寮に戻り、これが独占欲なのだと実感して泣いた。
相手が女の子に告白されることや好意を抱かれることには心配がなく、さほど嫉妬もしないのに、全く恋愛の要素がない友人に嫉妬してしまうあたりが可愛い。恋人を信じているから、誰かが相手に恋したところで問題はない。けれど友人には心を開くから、それがどこまでいっても恋に変化しない類のものであっても、妬ける。猜疑心はない。ただ、独占欲だけがある。
そのことをこだまはるったに言えなかった。泣き腫らした目をこだまは漫画の所為にして、るったはそれを自分がクリスマスにドタキャンして一人にさせたからだと反省した。

こだまの中に生まれた小さな異変は、クリスマスが終わっても、新年を迎えてもなくならなかった。るったと正人は同じバイトを続けているし、将来進みたい方向やそのための大学が同じ二人の関係はこれからも続いていくだろう。こだまは独占欲に飲み込まれそうな自分を懸念し、るったに知られたくないと思う。るったはこだまがたまに見せる異変に気づいているけれど、それが何なのか把握しきれずにいる。
そもそもこだまの問題は、なにも正人相手だけの問題ではない。るったがこれから予備校や大学やバイトで人と知り合っていくこと、仲良くなって心を許すこと、それらを祝福しながら焦っている。るったの中に大切な存在が増えることに焦り、その中で自分が一番であることに安堵し、同時に自分の浅ましさを不甲斐なく思っている。友人とも家族とも良好な関係を築いてきたこだまの中のるったと違って、出会った頃のるったには誰もいなかった。クラスメイトとも家族ともうまくいっていなかった。そのころのかれにとってこだまは唯一だったし、全てだった。それがとても寂しいことだとこだまは知っている。けれど、それを悦ぶ気持ちも確かにあったのだ。

るったと久々に出かけようと約束した日に、一日限りの講習があることをこだまは偶然知ってしまう。事情を知るはずのないひろみから、届けるように頼まれたのだ。それをるったに渡さず自分で処分してしまうことも、るったの返事を聞く前に「約束は気にせず行け」ということもできなかった。るったの判断に任せることがこだまにできる最大の譲歩であり、賭けでもあった。
そしてるったが講習より約束を選んだ瞬間、こだまは卑怯な賭けをしていた自分を知る。自分が何を期待していたのか見せ付けられて、一気に怖くなったのだろう。徐々に追い詰められていたかれはここへきて爆発してしまう。

るったが好きな自分がどんな自分だったのかと悩み、今の自分はその姿から遠いと不安に思うこだま。けれどたぶんるったが好きなこだまは、悩んだ末にるったを優先したにも関わらず悩んだ自分を責めるようなこだまなんだろうと思う。ただ強いんじゃなく、弱さと葛藤しながら強くなるこだま。だからこそ高校を卒業しても、その先もずっと一緒にいたいと思うのだ。

きれいな終わりだとは思うけれど、やっぱり終わってしまって寂しいなー。大学生編・社会人編とか永遠に読み続けていたいかわいいふたり。まだリバってないのに終わるとか…!
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 20:15 | - | - |

神谷浩史、小野大輔「言ノ葉日和」(原作:砂原糖子)

Atis collectionのポイントチケット5枚で交換できるドラマCD。公式ブログでも発送までに時間がかかっていると明記されていた通り、応募してから一か月くらいで届いた。

原作は2008年に出た同人誌。休日に水族館に出かけた二人の話をほぼまるごと収録していて、30分くらい。コメントなどは音声にもブックレット(って一枚紙だけど)にもなし。
冒頭、長谷部が語りだす前に、お馴染みのSEが流れる。それだけでなんだかもう胸が締め付けられそう!

長谷部視点で進む物語。感情を表に出すことがとにかく昔から苦手だったかれは、小さい頃大人が期待する振る舞いを出来なかったことや、かつて余村を傷つけたことを未だに後悔している。恋人になる前もなってからも一貫して口数の少ない男なので、かれが何を考えているのかが描かれているのは貴重だ。
しかし朴訥な喋り方なので、長々と長谷部のモノローグになるとちょっと間延びする。小野さんが悪いのではなく、長谷部のキャラを貫くとこうなるほかないのだと思う。不器用ですから。

同人誌版を読んだとき、デートの日とその次の日に長谷部が、同じ内容を初めて言うかのように余村に話すシーンがあって違和感を覚えていたんだけれど、CDではきちんと訂正というか片方だけになっていたので良かった。

基本的にはお付き合いを始めた二人が相手を好きで好きでたまらなくて舞いあがってる、みたいな小話。いつかは家族にも打ち明けたい、どれほど一緒にいても時間が足りない、そういうちょっと不安な未来図と幸せな焦燥感。なんでもない恋人同士の会話も幸せそう。
余村さんは相変わらず穏やか。かつての憂いや厭世感は薄まったけれど、元々持ち合わせているであろう陰は拭いきれるものではない。そういうちょっとどんよりした感じと、その雰囲気を持ったままお土産選びにうきうきしている感じにズレがない。余村さんだ…!

長谷部が余村に体調不良を気づかわれたことがきっかけでかれを意識するようになったこと、慣れ染めと言うにはあまりに地味な過去のエピソードも、長谷部の回想というかたちで織り込まれている。この時の余村は人の心の声を聞くことができたし、実際その力によって長谷部の不調を察することができた。おそらくほぼ初めて長谷部に声をかけることや、力の所為で知ってしまう周囲の人間の本音に常時疲れていたであろうかれの声音は今より大分冷たくて素っ気ない。そうだ最初の余村はこんな感じだった。

原作でも凄く好きだと思ったラストの余村の台詞、想像通りというか想像以上というか可愛らしくて何回もそこばっかり聞いている。意外と恋愛偏差値が高い余村さんでした。

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posted by: mngn1012 | BLCD | 21:30 | - | - |

神谷浩史、小野大輔「言ノ葉日和」(原作:砂原糖子)

Atis collectionのポイントチケット5枚で交換できるドラマCD。公式ブログでも発送までに時間がかかっていると明記されていた通り、応募してから一か月くらいで届いた。

原作は2008年に出た同人誌。休日に水族館に出かけた二人の話をほぼまるごと収録していて、30分くらい。コメントなどは音声にもブックレット(って一枚紙だけど)にもなし。
冒頭、長谷部が語りだす前に、お馴染みのSEが流れる。それだけでなんだかもう胸が締め付けられそう!

長谷部視点で進む物語。感情を表に出すことがとにかく昔から苦手だったかれは、小さい頃大人が期待する振る舞いを出来なかったことや、かつて余村を傷つけたことを未だに後悔している。恋人になる前もなってからも一貫して口数の少ない男なので、かれが何を考えているのかが描かれているのは貴重だ。
しかし朴訥な喋り方なので、長々と長谷部のモノローグになるとちょっと間延びする。小野さんが悪いのではなく、長谷部のキャラを貫くとこうなるほかないのだと思う。不器用ですから。

同人誌版を読んだとき、デートの日とその次の日に長谷部が、同じ内容を初めて言うかのように余村に話すシーンがあって違和感を覚えていたんだけれど、CDではきちんと訂正というか片方だけになっていたので良かった。

基本的にはお付き合いを始めた二人が相手を好きで好きでたまらなくて舞いあがってる、みたいな小話。いつかは家族にも打ち明けたい、どれほど一緒にいても時間が足りない、そういうちょっと不安な未来図と幸せな焦燥感。なんでもない恋人同士の会話も幸せそう。
余村さんは相変わらず穏やか。かつての憂いや厭世感は薄まったけれど、元々持ち合わせているであろう陰は拭いきれるものではない。そういうちょっとどんよりした感じと、その雰囲気を持ったままお土産選びにうきうきしている感じにズレがない。余村さんだ…!

長谷部が余村に体調不良を気づかわれたことがきっかけでかれを意識するようになったこと、慣れ染めと言うにはあまりに地味な過去のエピソードも、長谷部の回想というかたちで織り込まれている。この時の余村は人の心の声を聞くことができたし、実際その力によって長谷部の不調を察することができた。おそらくほぼ初めて長谷部に声をかけることや、力の所為で知ってしまう周囲の人間の本音に常時疲れていたであろうかれの声音は今より大分冷たくて素っ気ない。そうだ最初の余村はこんな感じだった。

原作でも凄く好きだと思ったラストの余村の台詞、想像通りというか想像以上というか可愛らしくて何回もそこばっかり聞いている。意外と恋愛偏差値が高い余村さんでした。

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posted by: mngn1012 | BLCD | 21:30 | - | - |

名古屋(小)旅行記4


重要文化財・呉服座。勧進帳の絵なんかが飾られていて胸が高鳴る!


小泉八雲避暑の家。
手前は駄菓子屋になっている。

このふすま凄く好き!ろくろっ首のシルエット。
奥は八雲の書いた妖怪の絵や設定、簡単な英語の勉強のためのメモなどが飾られている。たんすの引き出しを開けると怪談のプロットが見られるようなつくりにもなっている。

雪女のイラスト。


本郷喜之床。
一階が理髪店で、二階に石川啄木が家族と暮らしていたという。二階に上がることはできない代わりに啄木のパネルが二階から見降ろしてくれています。
「ろくでなし啄木」のエピソードと照らし合わせると啄木ほんとろくでなしだけど世界が広がるなあ。

ということで文学者祭りと洋館祭りが楽しめる明治村だった。難あり問題ありではあるんだけれど、楽しかったー。やっぱりいつか太宰の生家めぐりとかもしたいなあ。

このあと名駅までバスで戻る。帰りは道が混んでいて60分のところが90分くらいかかったのかな。
そのあと京都駅でも売ってる赤福買って、お茶してめいめい帰宅。行きたかったところに時間が足りなくて行けなかったりもしたけれど楽しかった!

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posted by: mngn1012 | 日常 | 21:33 | - | - |

名古屋(小)旅行記3


デンキブラン汐留バー。

昼間っからデンキブランサワー。ストレートはちょっと臆病風吹かせてしまいました。ちょっと甘いのかな、よくあるようなちょっと不思議なような味。チョコ関係のスイーツやドリンクも沢山あった。


川崎銀行本店。左側の外壁の一部。この切り取り方というか持ってきかたが凄いなあ。ちょうど空がとてもきれいで非常に絵になる建物だった。中に入れる&昇れるんだけれど、実際昇って見る景色は普通で、下からこれを眺めるほうが好きだった。向かって左の窓は上った人の安全のためにプラスチックで補強されているんだけれど、右側はそのまんまなので空が見えていてとてもきれい。


帝国ホテル中央玄関。

中。

柱。

中。ここも「Fate/Zero」一話で使われた場所。綺礼が璃正と時臣にぐるぐる回られていた場所。
昔の建物だからなのかとっても天井がひくい。長身の人だとぶつかりそう。赤い絨毯はやっぱりときめくなあ。


金沢監獄中央看守所・監房。
石川県にかつてあった監獄。独居房のうちいくつかには実際に入ってみることができる。布団や枕のセットが置いてあるので体験できる。あとは手紙を書くためのボックスにも入れる。ちょっと面白い。
前橋の監獄雑居房もあったけれど、こちらは吹きっ晒しでとても寒そう。


重要文化財・聖ヨハネ教会堂。


墨や硯。幸田露伴住宅「蝸牛庵」。当然なんだけれど幸田文の小さなときの写真が飾ってあったりして面白い。


重要文化財・宇治山田郵便局。
なにこのおしゃれな郵便局!宇治だから抹茶色だったりして、と友人談。どうなんだろう。中には歴代のポストも飾られていて面白かった。前の方が可愛いけどいまのほうが機能的ではある。
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posted by: mngn1012 | 日常 | 21:09 | - | - |

名古屋(小)旅行記2

起きてチェックアウトしてモーニングを食べたあと、バスセンターから高速バスで一路、明治村へ。
栄駅から約1時間、850円で明治村正門へ。
ちなみにバスから降りたら同乗していたおばさまに「チケット持ってる?」と聞かれ、受付で買うつもりだったので「持ってないです」と答えたら「一枚余ってるからあげるわ」と入場券を頂いてしまった…ありがたや…。

●博物館明治村
最近洋館とか教会とかがとみに好きで、あとは文学者の生家なんかも見られるということで楽しそうだなーと思って行ってきた。
取り敢えず結論から言うと、シーズンが悪いんだろうけれど土曜日なのにガラッガラ。混雑のストレスみたいなものは当然全くなかったけれど、不安になってしまった。急な山道を歩きつつ「今転んで意識失っても誰も発見してくれないよね…」とか言い合うほどに。まあめちゃくちゃ寒かったのでさもありなん。
あと行くなら歩きやすい靴にしたほうがいいです絶対。ヒールありのブーツで行って結構大変だった。村内を走るバスもあるんだけれど、乗り放題500円と有料なので使わなかった。一枚入場料ういてるのにこのケチっぷり。
博物館らしい建物ごとの説明看板がある以外に、至るところにボランティアの人やスタッフがいて案内・紹介・説明してくれる。それはいいんだけれど、客が少ない時期だということもあってか積極性が異常。最初は「よければ説明します」と声をかけてくれるんだけど、実際のところ断っても後ろをついて口をはさんでくる。自分のペースで見て色々考えたいのでこれはもう少し考えるべきだと思うわ…。ちなみに普通に道歩いてても声かけてきて、ぐいぐい説明モードに入るので危険。

てきとうにピックアップ。

三重県尋常師範学校・倉持小学校の教室。机も椅子も、教室にあったピアノもなにもかもが低い!


重要文化財・西郷從道邸。配色がカワイイ。


森鷗外・夏目漱石住宅の縁側。猫の置物があって、近づくと「吾輩は猫である」の冒頭部分の朗読が鳴る。分かりづらいけれど中に漱石の等身大プレートなどがある。


北里研究所本館。こういうパステルカラーの壁の建物心が躍る。おもちゃみたい!

芝川又右衛門邸。柿みたいな色の屋根。週末だけ来てた家とか金持ちの考えること意味わかんない!

重要文化財・品川燈台。燈台ですね!このへん水辺でものすっごく寒かった…。


食堂楽のカフェでランチ。
村井弦斎の著書「食堂楽」を元にして作られたメニューがある。

カレーと、半分こした牛タンフランク。牛タンフランクはあんまり牛タンを感じられなかったけど普通に美味しかった。
カレーは「第二百十六 ライスカレー」を基にしたカレー。豆っぽい味を感じたんだけれど入っていたのかは定かではない…具がなにもかもとろとろでかたちがなくなっているカレー。あんまり今ふつうのお店では出てこないような、懐かしい味。こういう企画いいなあ。


聖ザビエル天主堂。「天主」の文字のインパクトがすごい。やっぱり教会好きだなあ。

入口。


入って右手には薔薇窓!
薔薇窓っていう字面だけでお酒が飲めるレベルですね。


奥から撮った入口。


正面。内陣の聖像はマリアからキリストまで九体で中心がザビエル。一番よく見る絵のザビエルとはだいぶん顔が違ったなあ。トンスラじゃないようにも見えたけれどなにぶん遠いのでそのあたりは定かではない。
アニメ「Fate/Zero」の第一話のラスト、切嗣とアイリがセイバーを召喚するシーンの舞台になっていたのがここ。明治村に行きたいなーと調べていて偶然知ったんだけれど、結果ここで一番写真を撮って聖地巡礼みたいになってしまった。でもすてきな場所でした。
惜しむらくはクリスマスからずっと飾られているというリースがどまんなかに吊られていることだ。聖地がどうこうということではなく、普通に聖像が見えづらい。


大明寺聖パウロ教会堂。上の鐘を見なければ、一見日本らしい学校か何かのようにも見えるのだけれど、こちらも教会。


正面。イエスとマリアの周囲にひらがなと漢字で「ひとびとをあいしたまひたるこころをみよ」とか書いてあって、その絵やデザインと日本語のアンバランスさが好き。長崎っぽいなあと思ったら長崎だった。キリスト教禁制時代の色が濃く残っている建物だそう。
ザビエル天主堂のほうが建物として好みのデザインだったのだけれど、この教会堂の何とも言えない違和感にはすごく当時の生活とか状況が滲んでいて、胸をうたれた。この密接な感じ、素朴な感じがなんともいえない。長崎もまたいつか行きたいなあ。もっかい「SHIROH」を見てからね!

つづく。

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posted by: mngn1012 | 日常 | 20:02 | - | - |

名古屋(小)旅行記1

去年東京でともだちに会ったときに、ライヴ後に食事するとばたばたしてじっくり話したり呑んだりできないねえというところから、どうせなら真ん中(くらい)の名古屋で一泊旅行しようよ、という話になり、無事実現しました名古屋旅行。個人的に名古屋は近いから「遠」征じゃないと思っているし、狂ったように通いつめた名古屋に行くことを今更旅行と呼ぶのはちょっと気恥ずかしい。
でもベタに名物食べたり観光地に行ったり、旅行らしいことしました。

●名古屋市科学館

GANTZ!(見てないけど)
ずっと行ってみたかった科学館、HPを見ていると、平日はプラネタリウムのチケットがそれなりに確保できる傾向にあったようなので行ってきた。午前中にひとまずプラネタリウムの席を確保。それでも既に早い時間は完売だった。その後昼食をとって戻ってくると既に完売していたので危なかった。完売時間が掲示されているのだけれど、この日は14:20だったそう。

で、科学館。
理工館と生命館から成っており、最上階の真ん中にプラネタリウムが設置されている。漠然と表現すると階が上がるごとに難しくなってゆく印象。水や砂に触れて「理科」を体験できる二階から上がってゆくにつれ、自然現象の解説や科学技術の紹介になる。普段の食生活から栄養について考えたり、住まいに使われている断熱材が紹介されたり、一つの部屋を人間の体に見立てて各器官の説明をしたり、色々。実際上の階には小さな子供は殆どいなかった。
こういう科学館というものに殆ど行ったことがないので、他と比較できないんだけれど、知識のある人やそういう人と同行した人(教師同伴の学生とか)以外にはちょっと不親切な印象があったんだけれどこういうものなのかな。「ふしぎ」を感じることはできるんだけれど、そのネタばらしが不十分だった。不思議だね、なんでだろ、…なんでだろうね、で終わってしまう。勿論疑問を持って調べて・考えて答えにたどり着くのが学習なんだと言われてしまえばそれまでなのだけど。
途中の階からは面白いオブジェがある美術館を回る気持ちになってたなんていわない…。当方骨の髄まで文系。


天文についてのあれこれのところにあった望遠鏡。

部屋を人体に見立てた部屋にあった心臓。右心房とか左心室とか動脈とか静脈とかやったなあ。

これ面白かった!裏から回ってテレビの丸い穴のところから顔を出せるようになっているのだが、机の脚の間が鏡張りになっていて床の模様を映すので、顔を出した人間が首から下のない人間のように見える、というやつ。
手品とかマジックとかサーカスとかもこういうトリックなのかな。あんまりタネを考えたことがなかったんだけど面白い。下の方のフロアはこういう参加型のものが多くって楽しかった。


竜巻できてます。

そしてプラネタリウム。
16:30から50分間の最終投影に参加。月代わりのテーマは「宇宙誕生」だった。
とにかく広い。指定席の非常に余裕のあるスペースで設置されている独立したリクライニングシートで、左右30度ずつまで回転できる。自分のま後ろの方向であってもかなり見やすい。
本日の名古屋市の空の状況、数時間後の状況、郊外へ行った場合やネオンがなかった場合の状況などから紹介。月と金星と木星の位置や、冬の大三角形と星座のエピソードなどを非常にいい声の男性が解説してくれる。星座の絵っていつ見ても非常に苦しいこじつけだと思うんだけど、エピソードが好きなので気にしない。
本筋宇宙誕生は面白かった。ビッグバン、銀河の話、地球と月と太陽の話。ハッブルから始まって去年ノーベル賞を受賞した三名の研究まで、噛み砕いた言葉と天井の映像で説明してくれる。しかし多分ちいさな子供には難しいと思う。
星空はもちろんだけど、地球の歴史をダイジェストで紹介する映像における恐竜や動物の映像も非常に美しくて見ごたえがあった。象がすごい!銀河がすごい!
入った時はまだ空も明るい夕方だったんだけれど、徐々にプラネタリウムの空が暗くなって「こんばんは」、夜明けになって「おはようございます」って声がかかるのがとても好き。

このあとはカフェで一服してパルコとかぶらぶら見たのちに一端ホテルに戻り、そのあとご飯を食べに出て日本酒久々に飲んで寝た。

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posted by: mngn1012 | 日常 | 13:01 | - | - |

買い物

財布がだいぶん傷んでいて、前から新調したいと思いつつしっくり来るものに出会えずにいた。ANNA SUIの超好みの柄はジッパーが固すぎて使いづらいし、Anya HindmarchのJOSSはデザインが出すぎて選べないし、Vivienneのシューズ展限定財布は売り切れているし。

で、買いましたBALENCIAGA!
よく考えると昔っから白の財布というのはずっと欲しくて、そのたびに、汚れるから…と自粛してきた。でもまあよく考えるとそれほど汚れた手で財布を触ることもないし、そもそも手ってそんなに汚さないし、気をつければいいかな、っていうかどうせ一生使うものじゃないんだし欲しい色買えばよくね?ということで買いました。白!白い財布!かわいい!ポケットが一杯あるのでチケットも入れ放題!
ちなみに今持っている財布がくたびれた&派手すぎて困る、という友達と色違いで買ってみました。
よく考えるとこの友人とは大学時代にも同じ財布を持ったぞ。

Jane Marleのセール行ってきた。
あまり目当てもなくセールに行ったので、プロパーで買ったものがセールに出ていなくて安堵したり、人が手にしているものが異様に欲しくて売り場に返さないか伺ってみたりしつつ、パーティにも対応できそうなワンピース一枚お買い上げ。

黒にも見えるけれど紺地に濃紺のドット。普段は重ね着しないとちょっとフォーマルすぎるかな。スカートがバルーンになっているのがカワイイ。これで派手なタイツ履いて友人の結婚式に行くぞ…っ。

earth music&ecologyでカーディガン衝動買い。
何が凄いってセールのときに店員さんが「いらっしゃいませ」の間に「全点●●パーセントオフです」「今流行りの●●がXXXX円台で買えます」とかのフレーズを挟みながら終始声を出している。「トータルコーディネイト10000円以下も夢ではありません!!」って言ったのには噴出しそうになった。
近くにいたカップルは噴いてた。

そんなアースのセール終盤の夕方。50パーセントオフの商品が更にタイムセールで20パーセントオフになってて、結局元値の4割で買えてしまったカーディガン。元から安いので二枚で3000円しなかった…すごい…もっと色があればもっと買ったのに…。
袖が地味にふわっとしていて結構かわいいニクいやつ。


immanoelのピアス。京都の常設店舗が結構前になくなって以来久々に見たんだけれどやっぱり可愛いなー。リボン!きらきら!この色は自分では大人気ないと思いつつ買ったんだけれど、結構褒められたのでご満悦です。
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posted by: mngn1012 | 日常 | 20:41 | - | - |

雨隠ギド「犬とつばめ」

雨隠ギド「犬とつばめ」
高校生の楓は、海外留学に行った兄の不在を埋めるかのように一緒に遊んだ同い年の男の子・野呂と再会する。かつての復讐をするために楓に会いに来た野呂だったが、クラスメイトから、楓の兄が少し前に亡くなったことを聞かされる。

楓の兄・朝日はベランダで足を滑らせて亡くなった。まだ若いかれの死は誰が聞いても不幸な事故で、落ち込んでいる楓の心情を皆が慮り、悼んだ。
ちょうど朝日がいない時期にこの町に来ていた野呂は朝日を知らない。当然話題に出ていたので存在は知っているけれど、かれの死に特に思うところはない。ただ、かれにしてみれば、久々に会った楓が意気消沈しているのは予想外のことだった。

楓が自分にすごく懐いたことが原因で、11年前、野呂は休みが終わるぎりぎりまで実家に帰れなかった。帰ってもいいという祖母の言葉を拒みつづけ、休みの終わりに合わせて帰った家は、すでに崩壊していた。母は去り、父はまだ小さな楓に暴力を奮った。当然ながら何の非もない野呂はこの理不尽な生活に哀しみ、憤り、怒りの矛先を楓に向けた。楓に付き合っていなければもっと早く実家に帰れた。そうすれば両親の関係が決裂していなかったのではないか、自分は肉親から恒常的な暴力を受けずに済んだのではないか…それもまた理不尽な言いがかりだと、おそらく野呂は分かった上で、それでもこの町に戻ってきた。
けれど野呂は楓にそのことは告げない。代わりに「楓に会いたくてこの町に来たといったら気味悪いか?」と聞いた。それが楓を安心させようとした野呂の作戦だったのか、それとも何も考えていない言葉なのか、案外本心なのかは分からない。そのことを考える前に、野呂の言葉が楓の地雷を踏んだからだ。「気味悪い」「気持ち悪い」は、ぼろぼろになりながら何とか保っている楓の心を簡単に崩すキーワードだ。

いきなり兄の家に泊まりに行った楓は、着替えを借りようとクローゼットを開け、男性サイズの女性服を目にしてしまう。兄が必死で言った「忘年会」という言い訳が嘘だということは、震える声と、慌てた表情でわかってしまった。分かった上で、「気持ち悪いから捨てなよ」と話を流した。それが兄と会った最後になった。三日後にかれが死んだからだ。
そのことが楓を苦しめている。兄が楓の言葉を苦にしての自殺だったのか、それとも本当に足を滑らせたのかは分からない。けれど、どちらにせよ楓は兄を傷つけた。それが兄との最後の思い出になってしまった。

結局野呂は復讐を果たせず、そもそも果たす気が残っているのかもあやふやなまま、楓とその友人たちと普通の高校生活を送る。自分にやけにくっついてくる楓、あからさまに野呂を狙う女子を警戒する楓、そういうものを目にする中で、かれは本当は楓に会いたかったのだと思う。そして最低だと思いながらも、弱った楓につけこもうとする。
明確な物語、ドラマとして進んでいく兄の事件とは対照的に、楓と野呂の恋はぼんやりと進んでいく。恋なのか依存なのか優しさなのか卑怯なのか、自分にも相手にもわからないまま、徐々に恋人同士のようになっていく。作者の他の作品がこういう毛色じゃないので、おそらく故意なのだろう。ふわふわと、足元が覚束ない不安定な恋が育まれる。少しのきっかけでだめになってしまいそうな恋だ。

野呂の部屋で楓はナイフを見つける。一般的な男子高校生の部屋にはない生々しいそれを見た楓は驚き、何故そんなものを持っているのか問いただす。「護身用」という一言の返事では到底納得できずに責めるような口調になる楓に、野呂は怒り、無神経だと咎めた。
ナイフが野呂にとって簡単に打ち明けられない地雷であるように、その言葉は楓の心を抉った。兄の服を見つけて揶揄した時と同じことを自分はしているのだと、傷つけて、もしかしたら死に至らせてしまったかもしれないあの時と同じことをしているのだと気づく。そして泣きながら、「もし教えてくれるなら ナイフが護身用だと言う野呂のことを知りたい」と楓は言った。これは多分楓が兄の死後、もしくは兄と分かれた後まだかれが生きていたときから抱えていた気持ちなのだろう。どうして持っているのか、どうしてそれが必要なのか、教えてほしい。知りたい。大切な相手だからこそ。
兄の服を見た楓の中に生まれた感情は驚きや動揺であったけれど、おそらく本質的な嫌悪感ではなかったはずだ。瞬間的には異質なものに対する排除の気持ちが生じたかもしれないが、かれがもし不快感を抱いたとしたら、それは兄に自分の知らない(大きな)一面があったことに対してだろう。けれど慌ててなんとかやり過ごそうとする兄にそんなことは言えず、笑い話にして終わらせようとして、「気持ち悪い」と言った。言ってしまった。そして弁解も謝罪も永遠にできない。
けれど楓は野呂に弁解することができた。きちんと自分の本音を話すことができた。兄には出来なかったことが、野呂には出来た。

それを聞いた野呂はナイフを持つ理由を話しはしなかったけれど、ナイフを楓に預けた。ずっと持っていたもの、たぶんかれの精神安定剤のようなものを、楓に託した。それはそのまま、心の大きな部分を預けてくれたということだ。そしてようやく楓は、野呂がいかに自分を思っているのかを知る。
きっと同じように兄に言えていたとしても、兄ではこうはいかなかっただろう。かれは飽くまで兄で楓とは対等ではなかったし、楓を家族として愛していただろうけれど、心の一番奥にある重いものを渡してはくれなかっただろう。野呂だからできた。そのことを楓は実感する。

タイトル「犬とつばめ」の「犬」は野呂のことだ。11年前、楓の「犬」だった野呂。再会後、アニマルセラピーの動物のように楓の傍で楓の傷を癒した野呂。野呂は犬ではない、と楓がひとりの男として野呂を見るようになる経緯も含めて、「犬」は楓についてくる存在だ。
そして「つばめ」が象徴するもの、「つばめ」が導いてくれる物語は後半描かれる。兄に片思いしていた男に声を賭けられた楓は、兄の女装癖も兄自身が自分の性癖や性嗜好を掴みかねていたことも知っているかれに誘われて、兄のマンションに向かう。
野呂も誘って三人で向かったマンションには何も残っていなかった。警察が散々調べた後だし、賃貸である以上家具だってそのままにしておくわけにはいかない。少し前まで確かに兄がいた、けれどもう何もない場所はそれだけで楓を苦しめる。弟に女装がばれたこと、近所の子供達が自分を見て笑っているような気がすること、そんなことも兄はこの男に相談していた。けれど男は、兄が自殺じゃないと確信している。根拠はない。証拠もない。ただ「好きな人のことだから分かる」のだと言う。
兄が足を滑らせたベランダを見ていた三人は、向かいの家の子供達がこちらを見て笑っているのに気づく。おそらく兄も見たであろう光景。しかし彼女たちは女装している男を笑っているのでも、かれの痕跡を探す三人を笑っているのでもない。ベランダの下にできた、つばめの巣を見て騒いでいるのだ。
つばめが多いこの町で、マンションのベランダの下にできた巣。子供達の目線を追ったのか、それとも他の理由からか、もしかすると兄も気づいて確認しようとしたのではないか。そして足を滑らせてしまったのではないか。それらはすべて憶測の域を出ない、寧ろ自殺ではないと思うための無理やりの解釈にも見える。しかしその想像が生んだ選択肢がかれらを救う。「つばめ」が兄を死に導いたけれど、遺されたものの心を救った。

そのあと明らかになった兄の死の真相や、楓と野呂の心の動きと関係性の変化もすごく良い。曖昧なままの心、明かされないままの事柄も含めた雑多な感じ、絶望と救い、生と死が混ざり合っている感じが叙情的。取り返しのつかない喪失とか、補完できる空白の期間とか、おぼつかない恋とか、なにもかもが拙い子供たちが必死で生きているのが切なくていい。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 20:34 | - | - |

凪良ゆう「真夜中クロニクル」

凪良ゆう「真夜中クロニクル」
太陽の光に当たれない病気のニーナは、ある夜公園で小学生の陽光と出会う。あからさまに冷たくしても気にした様子もなく懐いてくる陽光にペースを崩されつつも、拒みきれないニーナ。家庭の事情に振り回されてもう会えなくなると分かった二人は、車で遠くへ出かけようとする。

光線過敏症と言う、日光に当たると皮膚がひどくかぶれる病気のニーナは、小学校でも他の生徒と同じようには振舞えなかった。休み時間も体育の授業も参加できない。しかしある日病気をよく理解していない教師に誘われたことでクラスメイトと一緒に炎天下に出て、一気に発疹が出たニーナは、心無いクラスメイトたちから容姿のことで罵られる。緊急入院のあとの治療を終えて復学してからもそれは変わらず、かれにとって「あんこく」の時代が始まる。小1からずっと、不登校を決意する小5の時まで、ニーナは「妖怪」と言われ、苛められ続けた。
かれが陽光と出会ったのは18の時だった。小5から不登校を続け、通信制の高校に在籍しているニーナは、友達もなく、弟とは不仲の、ひねくれた18歳になっていた。実家が裕福なため生活に不便はなかったが、昼間出かけられないのは変わらない。夜になってからコンビニに出かけ、公園に寄って、人間にあまり懐かないぶさいくな猫を適当にあしらって帰る。
つっけんどんだけど本当は優しい、なんていう人間ではなく、態度同様に心もひねくれているニーナが野良猫に餌をやるのは、その猫が可愛くないからだ。皆にかわいいと言われるような、餌を貰いなれているような猫ではない。そのことが、散々容姿をからかわれてきたニーナにとって心地よい。かと言ってその猫に自分を重ねて可愛がるようなこともない。同じ立場の猫をいじめて優位に立つようなこともしない代わりに、相憐れむようなこともない。ほどほどの距離をおいておく。それがニーナという人間の性格をよく表していると思う。

そんな、かれの本質的な性格を見ている少年がいた。両親の喧嘩が原因で母親に連れられて祖父の家に遊びに来た11歳の陽光だ。子供ならではの図々しさと怖いもの知らずな態度でニーナに話しかけてくるかれを、子供に優しくするようなメンタリティを持ち合わせていないニーナは邪険に扱う。しかしニーナがひどいことを言おうとも陽光は嬉しそうに笑っている。そして公園にニーナが来ないと分かると、祖父や母親からニーナの家を聞いて遊びにくる。ニーナが拒もうが無視しようが家に来る陽光に、ニーナは呆れ、そして慣れて、誰にも言っていなかった作曲のことまで話すようになった。
陽光もまた、自動劇団に入っているけれどそれほど売れているわけでもないために、学校でからかわれたり苛められたりしていると、拍子抜けするほどあっさり言う。友達を持たないかれらにとって、家族以外の、毎日顔を合わせることが苦ではない・楽しい相手は初めてだったのだろう。
しかしその時間は長く続かない。両親が和解し、比較的大きな仕事が決まったこともあり、陽光は東京の実家へ戻ることになった。帰りたくないと言うかれの希望は当然通らない。家族に振り回されて、願いが叶わない子供の陽光と、病気に振り回されて、やりたいことが出来ないニーナ。小さな幸福も持続できないかれらはいきなり突きつけられた別れを前に、衝動的に二人で「逃げ」ようと決める。
人生は最低だ、とニーナは言う。陽光もまた、人生は最低だ、と言う。すべてに絶望した子供二人はかつて公園で拾ったぶさいくな猫を連れて、真夜中の旅に出る。
しかし夜は永遠に続かない。朝が来て日光に当たったニーナには病気の症状が出てしまう。かつて自分に症状が出た瞬間に手のひらを返し、汚いものを見るような目をしたクラスメイトの事を改めて思い出すニーナの不安をよそに、陽光は本気でニーナを心配している。動揺するニーナにキスをしたあと、子供ながらに救急車を呼んで貰おうと奔走するかれを見て、ニーナは気を失う。
ニーナがひどいことを言うとぞくぞくする、ニーナは美人だ、と言葉だけ見れば立派な口説き文句を陽光はこれまでも繰り返していた。まだかれがチビの小学生だったので相手にしていなかったけれど、その気持ちが決して嘘ではなかったこと、かれが本当に自分を好きなことはここへきてようやく実感できただろう。皆が逃げたニーナの姿を見ても陽光は戸惑わなかった。そして混乱したニーナには言葉が通じないとこれまでの経験から確信していたから、かぶれたかれの頬に触れて、キスをした。
ニーナ宛の陽光からの手紙がまた可愛い。それに動揺したニーナが、嬉しいくせにどうしていいのかわからず破っちゃうとこも可愛い。陽光が手紙に書いた一方的な約束、かれの目標であり夢の先にあるものが、「最低」だったかれとニーナの人生に灯りをともす。

五年後の二人もまた可愛い。
「元子役」の殻が破れない俳優の陽光は、地元で作曲家兼バーのアルバイトをしているニーナの元に通いつめている。背はニーナより高くなったけれど、陽光の気持ちも態度も子供の頃から変わらない。ニーナが好き、冷たくされても好き、のまま。昔と違うのは、あの時は友達がいないことも苛められていることも言えたけれど、今は仕事が奮わないことをニーナに言えない。事務所の後輩に抜かれていることも、ニーナが作曲家として徐々に仕事を増やしていくことに焦りを覚えていることも、言えない。
そんな時、陽光は友人の女優とでっち上げの熱愛報道を雑誌に載せられる。慌ててニーナのところへ向かい、ひと悶着あった後かれとようやく会うと、ニーナは当然機嫌を悪くしている。それが恋人の嫉妬のような単純なものならまだ話は簡単だった。けれどニーナはその報道を見て、不安に駆られてしまう。元々口数の多くないかれが陽光に告げたのは、セックスしたらずっとそばにいてくれるのか、というものだった。
陽光がくすぶっているのと同様に、ニーナもまたくすぶっていたようだ。陽光が本音を吐いたり愚痴ったりしてくれないことがニーナにとっては不満なのかもしれない。陽光が仕事で成功するニーナに焦るように、ニーナは仕事の話をしない要綱に焦っていたのかもしれない。そこへ同世代の綺麗な女性との熱愛報道を見て、陽光と他の人間との恋愛の可能性に気づく。けれどそれをすんなり受け入れられるわけもなくて、体と差し出して繋ぎとめるような事を言い出す。
11歳の時からずっと、好きだと言い続けてきた陽光は当然怒る。かれにしてみればニーナの提案は、自分の誠意も言葉も伝わっていなかったように聞こえるからだ。自分の病気のことを持ち出して、「俺はこんなんだから」と言うニーナに、陽光は自分の仕事の現状を話す。話した上で、『俺だって「こんなん」だよ』『でも「こんなん」同士慰めあうのは嫌だ』という陽光の台詞が凄く好きだ。それは多分ニーナがかつてあのぶさいくな猫、コニーナに抱いた気持ちと同じだと思う。自分を卑下して、同じレベルの相手と相憐れんで一緒にいるのではない。
そして更に、隣に並んで前を向いて進もうとしている。ここで「ちゃんと付き合おう 形が整うことで安心することもある」と言った陽光は凄く格好よかったと思うんだけど、なぜかニーナは受け入れない。それを自分の未熟さの所為だと感じた陽光は、永遠に縮まらない年齢差を補って余りあるすごい男になると誓う。
自分を「こんなん」と言ったニーナの問題は、もはや病気じゃなくて性格じゃないのかと思うんだけれど、この病気とそれによるいじめがかれの性格形成に大きく影響しているので同じことか…基本的に労わりの心が育っていない…。

このままずるずるいきそうだった関係を大きく変えるのは、ニーナが有名映画監督の新作の主題歌に抜擢されたこと、主人公の親友役の俳優を探しているとこぼした監督にニーナが陽光を推薦したこと、がきっかけだ。
これまで子供番組向けの曲を作っていたニーナの仕事にも、相変わらず大きな役がなかった陽光の仕事にも大きな変化を齎したこの一件によって、ニーナは大きく変化することになる。
辛くても腐らずに仕事をすること、嫌なことがあっても折れないこと、チャンスには食らいつくこと。既に落ちぶれた子役として地獄を見ている陽光はそのあたり胆が据わっている。だから、演技力の劣る主役が自分を目の敵にしてきても耐えられた。しかし、自分が憧れていた監督の映画に抜擢されたのがニーナの推薦のおかげだということと、自分では得られないマスコミの注目や世間の話題づくりのために、ニーナが顔を出す話が浮上しているということには流石に落ち込んだ。ニーナにつりあう男になること、ニーナが年齢差を気にしなくなるくらいすごい男になることを目標にしているかれにとって、自分の力不足でニーナを困らせるなどあってはならないことだったのだ。そしてかれは、しばらく会わないことを決めた。
それにニーナは大きなダメージを受けた。そして陽光と会わない日々の中で、かれは今まで陽光がどれくらい自分との関係を続けるために頑張ってくれていたのかを思い知る。返事をしない自分に根気強くメールを送ってくれたこと、仕事のあと電車で会いに来てくれたことを今になって実感する。このまま終わってしまうのではないかという不安、共演女優と仲良く話している姿を見てそちらの方がふさわしいのではないかという不安と戦いながら、それでもニーナは前を向く。以前のように卑屈になってくすぶらず、音楽と向き合い、自分の気持ちと向き合う。「こんなん」と自分を枠に収めて完結せずに、進もうとする。
そしてようやく、かれは陽光への気持ちを認め、それを示すための行動に出る。
二人が長い時間をかけて自分と仕事と相手に向き合って、どういう風に付き合っていくのかを見つけ出す。ここはゴールじゃないし、陽光がかつて描いた夢からはまだ程遠い。そこに果たして行き着けるのか、行き着けたとしても維持できるのかは分からない。けれど、浮き沈みしながら一緒に生きていく覚悟だけは、二人とも持っている。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 20:24 | - | - |