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凪良ゆう「積木の恋」

凪良ゆう「積木の恋」
男相手の恋愛詐欺を繰り返して大金を稼いでいる蓮が、次のカモに目をつけたのは大病院の長男で自身も医師をしている加賀谷だった。純粋で真面目な加賀谷を騙すのは非常に簡単だったが、次第に蓮の間に今までになかった感情が生まれてくる。

恵まれない家庭環境で育った透は、蓮と名乗り、これまでにも裕福な男たちを手玉にとって金を稼いできた。惚れさせておいて嘘の事情や生い立ちで同情をひき、金を受け取る。その手口は加賀谷と出会ったときには既にかなり巧みなものになっていたし、かれの中に罪悪感などというものはなかった。恵まれない環境で生きてきた分、恵まれている人間から奪うことで帳尻を合わせていると思っていた。
稼いだ金を派手に使うこともなく貯金し、貧しいアパートの一室で通帳の残高を見てはにやついているかれには、いつか実現させたい夢があった。家を買って、そこで犬と暮らすこと。人間は信用ならないから犬と一緒に、「自分の家」で生活する。そうすれば自分はまともな人間として働くこともできるのではないか、とかれは思っている。

そんな蓮にとって、生まれながらに優雅な生活も明るく華やかな将来も保証されている加賀谷が新しいカモになった。お人よしでどちらかと言うと気弱な性格、地味で偉ぶったところのない態度、そしてお坊ちゃま特有の世間知らず。加賀谷の長所であり短所でもある特徴すべてが、かれを危険度の低い標的たらしめている。

完全に蓮のペースで始まった出会いのあとすぐに、加賀谷は蓮に夢中になった。一目惚れだったのだろう。整った容姿と巧みな駆け引きでかれはその日のうちに加賀谷をたらしこみ、あれよあれよと恋人関係に持ち込んだ。
自分に夢中な加賀谷との恋人ごっこを続ける中で、蓮が少しずつ計画を進めていくさまはありがちだけれど鮮やかだ。なかなか会えないのは必死で働いているから、働いているのは金が要るから、という種を蒔けば、蓮に夢中な加賀谷は、金があればもっと頻繁に会えるのだと思い当たる。そしてかれには金がある。自分が金を出すことで蓮の仕事を減らせば、もっと蓮と会える。蓮が導くありがちな罠に、まんまとかれは嵌まってしまった。
しかし蓮にとって唯一想定外だったのは、金を払った加賀谷が、それを全く恩に着せなかったことだ。自分がやりたいからやったのだ、自分が蓮に会いたいからだ、自分のためだ、という態度をかれは崩さない。本当にそう思っているからだ。偉ぶったり、それと引き換えに蓮を言いなりにするようなことはない。加賀谷に恋しているわけではない蓮にしてみればそれは非常に幸福な想定ミスだが、かれが長らく続けてきた詐欺生活の中で初めて生まれたその違和感が、このあとの蓮を動かすことになる。

不器用な加賀谷の献身的な愛情と、辛辣な蓮の言葉を素直に受け取る素直さ、ただただ何の苦労もせずに生きてきたように見えて実は家族と衝突している事実などを知るたびに、蓮の中で加賀谷のイメージが変わっていく。
ぼろが出てはいけないし、そもそも面倒なのであまり自分のことを話さない蓮に対して、蓮を好きだからこそ自分を分かってほしいと思っている加賀谷が自分のことをよく話すたちなのが結果的に良かったのだろう。会話を続けようという努力もあるのかもしれないが、蓮のツッコミや感想で成り立つ加賀谷の会話が、距離を縮める。加賀谷が蓮の心に近づく。蓮が声をかけたその夜から何度も繰り返されたセックスや大金のやり取りや派手なデートではなく、なんでもない会話が蓮を変えていく。

そして、蓮の誕生日の日だった。
以前から加賀谷の家に通うようになっていた蓮に対して、加賀谷は同居を持ちかけてきた。答えは自分が出張から戻ってくる三日後に聞かせてほしいといって九州へ行ったかれが戻ってきた日こそ、加賀谷にも言っていなかった蓮の誕生日だ。
加賀谷の申し出に蓮は戸惑う。これでこれまでについた嘘がばれるとか、もう金が巻き上げられなくなるとかではなく、戸惑う。そして自分の暮らすぼろアパートで冷静になって、加賀谷と別れることを決意する。潮時だから貰うものだけ貰って別れようと自分に言い聞かせる蓮の心情から、加賀谷のために身を引こうとする気持ちや、正体がばれる前にいい思い出として消えたいという気持ちが透けて見える。蓮の弱さが透けて見える。
しかし三日後、加賀谷に会えば気持ちはぐらつく。蓮の料理に無邪気に喜ぶかれを見ると、すべてを吐き出して謝って、許されたい気持ちになってしまう。そうすればもはや蓮は加賀谷を罠に嵌め、加賀谷から奪う人間ではなくなる。昔のように、奪われる側の人間に戻るかもしれない。けれど、衝動が収まらない。
蓮は対等な関係を知らないのだ、と思った。奪うでも奪われるでもない、与え合って満たされるような関係をかれは知らない。子どもの頃から一度も体験したことがないから、奪うことを止めたら奪われるのだと思ってしまう。愚かで臆病であわれな子どものまま、手管だけを覚えてしまったのだ。
しかしそこへ、加賀谷が新しい提案をする。家族とうまくいっていないかれは、自分のやりたい研究に誘われているドイツへ行こうかと思っているのだと言う。そこへ蓮と一緒に行きたい、蓮とドイツで暮らしたい、と。プロポーズと同義のその言葉に、パスポートを取るときに本名がばれるなどと思いながらも、蓮は頷いた。そしてその夜蓮は初めて、自分が加賀谷を愛していることを知った。その気持ちのままかれに好きだと口にして、蓮は泣いた。
自分がどうするのかも見えないまま、夜中に目を覚ました蓮は、加賀谷がアルバムから写真を取り出しているところを見る。気持ちがざわつきながらも、声をかけることもできないまま見ないふりをした。強く出られないのは関係を壊して金蔓を逃したくないのではなく、恋をしているからだ。
仕事に出た加賀谷を見送ったあと、蓮はその写真を見る。そこに写っていたのは、自分とよく似た男だった。そこで蓮は、自分に一目惚れしていたように見えた加賀谷の真意を知る。自分はおそらく誰かの、この写真に写る男の代わりだったのだ。何十倍も酷いことを、現在進行形で続けていることを知らない蓮ではないけれど、それでもかれは傷ついた。都合のいい勝手な言い分だけれど、裏切られた、と言ってもいいだろう。
そしてそのまま加賀谷の家を出てアパートに戻った蓮は、自分を待っていた人々に、ある宣告をうけることになる。そしてそれっきり、誕生日を知らなかったから別の日に埋め合わせの食事に行こうと言っていた加賀谷との約束も、ドイツへ移る約束も、守ることができなかった。

(一応半端に伏せてみたけれど)衝撃的な展開だった。当然といえば当然なのだけれど、全く想像していなかったので驚いた。
けれどこうでもしなければ蓮は加賀谷を騙し続けてどこかでぼろを出してしまうか、良心の呵責に耐えかねて逃げ出すしかなかっただろうし、加賀谷にしても冷静になる期間が与えられて良かったのだと思う。なによりこの過程を経ることで、二人は皮肉にもお互いへの愛情と、お互いからの愛情を知ることになる。そして蓮はかれの夢だったものを手に入れる。かれがリスクを犯して金を稼いででもほしかったもの。帰る家と、犬ではないけれど決して裏切らない同居人。
じめじめどよんとした雰囲気が充満していて、その中で恋をして一喜一憂する恋人たちの様子が切なくていい。全てがいきなり巧くいくわけじゃなくて、苛立ったり傷ついたり失敗したりしながら生きてゆく後日談二本も含めてむちゃくちゃ面白かったー!
まともそうでいて実はおかしい加賀谷と、人との付き合い方を知らないけれどけっこう普通の人間の蓮のバランスもいい。好み。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 12:37 | - | - |

エリザベート翻弄記

昨夜手違いだか何だかでいっとき情報がフライングしてしまったが、本日正式に東宝「エリザベート」のエリザベートのキャストが発表。
前回に引き続きの瀬奈さんと、今回初の春野寿美礼さん。
公式サイトの現段階の写真は、瀬奈さんのビジュアルは前回のキービジュアルをそのまま持ってきている。そのうち新しいもの・今回用のものが撮られて発表されるのかな。春野さんは当然ながら撮り下ろし。これがたぶん彼女のキービジュアルになるんだよね?コメント動画に出てくる撮影風景を見ていると、このキービジュアルより良さそうな写真があるんだけれど、まあそれは個人の嗜好だ。春野シシィ凛々しすぎてトートやフランツが太刀打ちできなさそうです。強そう。歌がお上手だということなので楽しみー!

ある程度想定していたことだが、朝海シシィとはお別れ。あの超絶可愛いシシィ、バートイシュルで蝶を追いかけている時の無邪気さとか(そりゃフランツも恋しちゃうよ!)、結婚式の「はい」のときの期待に目を輝かせた表情とか、トートを本気に向ける嫌悪と恐怖の眼差しとか、ルドルフを拒むときの冷酷さとか、すてきでした。歌については色々と言われていたけれど、個人的にはトータルで見てとても好きでした。トークの辛辣さも好きよ!
キャスト発表は出会いと別れの繰り返しだなー。新キャスト多数と言われているし、長丁場になるので、この先の発表もとても楽しみ。取り敢えずトートとルドルフとフランツとルキーニを出してもらわないことには始まらない。

帝劇の5、6月分の日程も一緒に出た。チケ発売は3月から。
新情報が出た段階でブログの記事にすることで、今後の傾向と対策を練ろうとしています。来年の秋まであるこの舞台の、その次回公演も見越しての行動。きもちわるいだろ!

「自由な世界へ、今こそ旅立とう」というコピーに少し驚いた。それ以前のことは知らないけれど、2006、2008-9、2010は「ずっとあなたを愛していた。」だった。
「私だけに」に代表されるような、「旧態依然とした皇室に縛られない自由な女性」としてのシシィ像を掘り下げるとこういうコピーになるのかな。世間知らずなおてんば娘が地に足のつかない夢と理想を抱いて結婚したものの、すぐに現実を知り、後戻りできないので改善のために戦うも全うできず、旅に出る(も結局安らぎや自由は得られない)という展開の中に確かにそういう面も存在するのだろうけれど、少なくとも東宝ミュージカル「エリザベート」ではそれはあまり描かれていないと思う。描こうとしていないのか、描けていないのかは分からないが。結局死によって彼女の自由な魂が安らぎを得るので、本当の意味で自由な世界へ旅立つことはできなかったと思う。
なのでそういう自立した女性としてのシシィを匂わせるより、「愛と死の輪舞」に代表されるトートのストーカー気質な愛を示す「ずっとあなたを愛していた。」の方が好きだなー。
まあポスターやチラシに入る程度の問題なので、そんなに大きなことでもないんだけど。この公式サイトひとつでてんやわんやして荒ぶることができる自分がかわいそう。自家発電しすぎて思考回路がショート寸前。
今すぐ会いたいよ!(エリザに)

***

来年2〜3月の「M.クンツェ&S.リーヴァイの世界〜2nd Season〜 ウィーンミュージカルコンサート」も発表。すっごい楽しみ!!!
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posted by: mngn1012 | 日常 | 12:33 | - | - |

草川かおり「はちみつさんかく。」

草川かおり「はちみつさんかく。」
結婚相談所に勤める長谷川は、自分の事情から人一倍幸せな家庭に憧れている。ある日職場に訪れた、結婚するつもりの全くない伊地知が引き取っている甥に懐かれた長谷川は、かれの家を毎週訪ねるようになる。

父親はおらず、二人きりで仲良く暮らしてきた母も既に鬼籍に入って身寄りがない。そしてゲイなので結婚や出産のようなかたちでの「家族」は望めない。そういう長谷川は、結婚相談所で人の幸せ・人の家族作りの手伝いをすることで幸福を感じようとしている。
そこで長谷川は、親族との折り合いで仕方なく相談所に顔を出しにきた伊地知と出会う。整った容姿を高価な洋服で包んだ伊地知は、恋愛にも結婚にも鼻で笑うばかりでまともに向き合わない。最初から嫌々来ただけで結婚するつもりなどないという態度を崩さない伊地知を、長谷川は自分たちが企画したシングルマザー・シングルファーザーばかりが参加するバーベキューパーティに呼ぶ。
亡き姉が遺したまだ幼い甥を連れて参加した伊地知は、参加者の女性にも辛辣な態度に出るばかりだ。どころか、一緒に暮らしているはずの甥・悠太にすら、優しくしようとしない。厳しいとかきついというのではなく、ただ冷酷に、会社で部下に接するようにしか接さない。そんな長谷川に驚きつつも、長谷川は見ていられないとばかりに悠太の相手をしてやる。まだ幼い悠太は優しく遊んでくれる長谷川に懐く。いくら保育園に通っているとはいえ、家に帰れば伊地知と、かれの実家から監視目的で派遣されているハウスキーパーしかいない生活は寂しいものだろう。長谷川に懐いた悠太は、そのまま眠ってしまう。
そして伊地知が長谷川と悠太を自分の車で家に連れて帰ると悠太は目を覚まし、長谷川と次の約束をした。悠太の提案は、子供ならではのものだった。長谷川と伊地知(と悠太)が出会ったのは仕事上のことなのだ。けれど、それを分かっている大人二人は、この悠太の願いを拒まなかった。いくらでも断り方はあるのに、悠太の提案に乗り、結局毎週会うようになる。

長谷川にとって伊地知は、一目見たときから好みの男であり、驚くことや呆れることの多い人間だった。金はあるし仕事も出来るのかもしれないが、言葉がきつく、物事を斜めから見て、人を信じない。けれど根っからの悪い人間・嫌な人間ではないことも分かる。分かるほど、かれに興味が沸き、情が沸く。
会社を経営する裕福な家庭に生まれ育ち、その会社に自身も就職した伊地知は、両親の不仲や親族との諍い、自分のバックボーンを見て行動する会社の人間や女たちに心底嫌気がさしている。自分よりも何をやらせても優秀だった姉は駆け落ちして家を出、甥を遺して事故で亡くなった。その甥をまだ独身のかれが引き取ったのも、ろくでもない両親に腹を立てたことと、勝てなかった姉へのコンプレックスの裏返しだ。悠太に憎しみや怒りはないけれど、愛情もない。
そんな伊地知にしてみれば、長谷川というのは非常に不思議な男だった。結婚相談所の仕事に一生懸命なのはまだしも、自分のプライベートを削ってまで悠太の面倒を見にくる。素っ気ない伊地知に対してもにこやかな態度を崩さず、伊地知に幸せになってほしいなんてことまで言い出すしまつだ。長谷川の言葉には裏表が無い。ないからこそ、食えない男だと思ってしまって、気になる。

決して裕福ではなかったけれど、母とふたり幸福な短い家族生活を送ってきた長谷川と、両親共に健在だけれど一度も幸福を感じることのない家族生活を送っている伊地知。同じようで全く違う寂しさを抱えてきた二人は、悠太を交えたなんでもない、けれどまるで家族のような休日を重ねて距離を縮め、惹かれてゆく。

本を開いたときに白い、と思ってしまった。短めの地の文と台詞で構成された小説。内容も文字もみっちり詰まっているような本が好きなのでどうかと思ったけれど、重いバックボーンを引きずっている割に妙にさらっと生きている二人のテンションにそぐっていたと思う。重すぎず、かといって中身がスカスカなわけでもなく、不思議な感じ。

惹かれあったかれらが、毎週の時間を過ごして、次第に気持ちを強めていくのは当然の事だった。そこまでの感情の流れは決して事細かに描かれているわけではないんだけれど、やけにしっくりくる。付き合い始めたのにも納得するよね、というふたり。
晴れて両思いになったあとに、長谷川がかつて出会っていた「おじさん」と、伊地知の父親の関係が明らかになって関係が拗れるものの、結構あっさり解決した印象。火種はいくらでもあるんだけれど、どれも種のままで火がつかずに完結してちょっと肩透かし。もっと揉めてもっと傷ついてもいいのに!
しかし「家族が持てないゆえに家族に憧れる」というキャラが好きなのでゆるす。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 20:46 | - | - |

9月ごはん

月一で暴飲暴食を晒すこの記事、意外と好評で嬉しいけれどふしぎ!

・こんぴらうどん

お土産にもらったうどん。(雑な説明…)
茹で時間がかなり長くて、それでもなかなか柔らかくならないコシだった。堅い麺類すき! 

・たこやき やまちゃん

天王寺で友人に案内してもらったたこ焼き屋さん。友人が学生の頃よく行った場所だったそう。美味しかった。こういう、自分が出会う以前によく行った思い出の場所を教わるのってすごく面白い。

・オオサカオクトーバーフェスト2011
電車の吊り広告で知って楽しそうだなーと呟いていたら友達が誘ってくれた。Twitterは構ってちゃんと誘い受けに優しいツールです。勿論誘ってくれる人があってこそ成立するものですが。
野外でドイツビールを呑みながら、ドイツの民謡なんか聞いちゃって盛り上がろうぜ!というイベント。どうでもいいけど「ドイツもコイツも乾杯(フロスト)や!」というキャッチコピーが大阪すぎて泣ける。

ビールとソーセージ!海外のビール、と一概に言うのはいかがなものかというくらいさまざまな種類のビールが存在するのだけれど、こういう場で飲む海外のビールは大体あっさりしてて飲みやすい。日本のビールより薄味で好きかもしれない。でもその分ぱかぱか行けるのでお財布と体調が危険!
あいにくの雨だったのだけれど、テントがあるしその辺は問題なく。降ったり止んだりだったので、音楽も聴けた!
そしてこのあともう一件居酒屋に行きました。えへ。

・DALLOYAU
心斎橋に行くたびに前を通っては、混んでいるなあ…と眺めていたのだが、偶然この日は空いていたのでイートイン!

見た目で選んだチョコケーキ。マカロンとフルーツソースとラズベリーアイスがついている。ケーキは普通においしかった。紅茶も普通においしかった。雰囲気とか見栄え込みでの値段としては相応かな、という感じ。また行きたいかといわれると、どっちでもいい。

・nana's green tea

新歌舞伎座で昼の部と夜の部を続けてみたときに、間に入った。新歌舞伎座はひとつ下のフロアに飲食店がずらっとあるので便利。
マグロとトロロとアボカドの丼のミニサイズとスープとドリンクのセット。美味しくないわけがないじゃない!家でもやりたいなー。

・ちゃぶや
歌舞伎見終わったあとに飲み会に合流。ここの焼き鳥は本当に美味しい。あと生ビールがあって、サイドメニューがもう少しあればいうことなし…!

・閻魔堂
幹事を頼まれたので前から気になっていた店を選んでみました。名前がすてきじゃないか!
創作居酒屋。どれも美味しかったー。しかしメニューの写真が豊富すぎて(一品に二枚も三枚も写真があったりする)面白かった。なぜ。

・菜香新館


Moran横浜の時に中華街でランチ。炒飯が来たとき、ともだちがわたしの嫌いなグリンピースを避けてよそってくれた…手前がグリンピースのない炒飯だよ!
こんなかんじなので友人の殆どが妹・弟のいる姉ポジションです。面倒見てもらう人生。
となりで「虎徹さん!」っていっておいた。炒飯だけに。
日本人向けの中華料理って感じで、どれもこれも食べやすくて美味しかった。中華料理は飲茶とかも大好きなんだけど、なんでもない炒め物の類がすごく美味しい。XO醤ラブ。



そのあと横浜FADの真横のカフェでだらだら。案外混んでなくて盲点なのか、単に平日でギリギリに来た人が多かったのか。途中でもうひとり友人が合流して、うだうだびじゅある系の話をする。たのしい。

・Chowder's

この日は夜バスで帰ったので、それまでの時間付き合ってもらってご飯。
わたしこの手のスープ屋さんが凄く好きなんですが、地元ではなかなか存在しない…見つけられてないだけなのかな。くたくたに煮込まれると野菜でもなんでも食べられるので、そういう意味でもありがたい。増えろ!

・たん熊本家

クマー。
お墓参りの帰りに家族でお昼。経年とともに変化した味覚により和食が凄く好きになったので、和食を積極的に食べている。家族親戚が集まると、高齢者がいることで料理が和食になるのが昔はつらかったんだけれど最近大歓迎。天ぷらおいしかったー。

あとは王将で餃子たべたり、頻繁にスタバで休憩したりしました。 数か月前から分かってたことなんだけど、これ、月によってすごくひまな時とそうじゃない時が分かるんだよな…トホホ…この月ひまでした…。     
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posted by: mngn1012 | 日常 | 22:08 | - | - |

神奈木智「楽園は甘くささやく」

神奈木智「楽園は甘くささやく」
母の死後遠縁の四兄弟の家に引き取られることになった貴史は、大勢と暮らすにぎやかな毎日になかなか慣れることができない。特に長男の冬杜の素っ気ない態度に苛立つことが多いが、もともと不眠症のけがあった貴史は、なぜか冬杜のそばではよく眠れる自分に気づいてしまう。

ノベルスの文庫化。後日譚書き下ろしあり。どっちにせよ初読。
母子家庭で育った一人っ子の貴史は、母を亡くしたことで身寄りをうしなう。十八歳のかれを引き取ったのは、母の従姉妹関係にあった女性の長男である穂波冬杜だ。既に両親を失って、冬杜を筆頭に三男一女で四人暮らしをしている穂波家で暮らすことが決まった貴史は、初日から非常に憂鬱だ。
同居するのは冬杜のほかに、美容師の春臣、バツイチ出戻りで家の事を担っている秋那と彼女の双子の弟で大学生の夏那。性格は違えどもそれぞれ世話焼きなお人よしで、賑やかな三人に、貴史はなかなか合わせられない。というのも貴史は中学の途中から母の願いで殆ど学校に通わず、二人きりの生活を送っていた所為で、同世代の人間相手の接し方がよく分からない。会話のキャッチボールも、笑顔の応酬も、大勢でとる食事もなにもかもがうまく出来なくて、貴史は逃げてしまう。かれらの常識、それはおそらく平均的な家庭の常識でもあるのだけれど、それに馴染めない。馴染めない自分を晒すことで、奇異の目で見られてしまうのではないかという恐怖もある。心を許してしまえば傷つくし、物品であれ気持ちであれ、何かを受け取っても返せないことがつらい。とにかくあらゆる接触を絶つことでしか、貴史は自分を守れない。

そういう貴史に気づかないまま、本心から優しく接してきたのが次男の春臣だった。貴史が何を考えているのか、はっきりと理解できないまま、それでも春臣は貴史の世話をやいてくれた。貴史のために食器を用意し、これまで出来なかったことをしてやろうとする。紅一点の秋那と、元気な末っ子の夏那もまた、自分達のやり方で貴史と打ち解けようと努力してくれる。
春臣が買ってきてくれた自分専用のマグカップを一度は受け取ったけれど、与えてもらうばかりで何も返せないことと、それによっていつか全てを失ってしまうことを恐れた貴史は、それを春臣に返した。「いらない」とだけ言って。その時は腹を立てていたけれど、本当の理由を知った春臣は納得し、もういちど最初のやりとりをやり直そうとする。欲しいと自分で口に出すように言う春臣と、かれが意図していることを知ってきちんと気持ちを伝える貴史のやりとりが凄く好き。「欲しいって俺に言ったら、あれは貴史にやるよ」と言う春臣に、勇気を出して貴史は「欲しいよ」と言う。「だから、僕にください」と。それは、今まで欲求を口にしたことがなかった貴史の初めての主張だったという。穂波家で貴史はいくつものことを学ぶ。家族(ごと)のルール、家族(だけ)の常識、感情とその表し方。子供のまま成長することを故意に止められていたかれは、何倍ものスピードでそれらを吸収する。

そして弟妹のような分かりやすい好意は見せない代わりに、一番貴史を理解したのが冬杜だ。配慮するがゆえの回りくどい言葉や、貴史の真意を伺うような距離の取り方を冬杜はしない。ただかれが推察する貴史の気持ちは当たっているし、遠慮のない態度で一番貴史の気持ちを揺さぶるのもかれだ。
なにより、眠りがひどく浅い代わりに、ふとした時に眠気が襲ってくる貴史がもっとも安心して眠れる場所になったのが冬杜だ。事情を知った春臣が色々な安眠の方法を探して、試してくれたけれど、冬杜が仕事をしている時のかれの部屋以上に安らげる場所はなかった。冬杜の言葉に腹をたてたり、素っ気ない態度に無性に苛立ったりしながらも、なぜか冬杜の傍から貴史は離れない。冬杜がいる日はかれの部屋に行ってしまう。そのことを微笑ましく思っている弟妹たちの中で、ひとり、春臣だけが苛立っていた。

貴史を気にかけていた春臣は、その感情が徐々に変化していくことを自覚していた。夏那が一緒に風呂に入ったと言えば何とも言えない気持ちになり、冬杜に懐いているのを見れば腹がたつ。その気持ちの正体を分からないほど、春臣は子供ではなかった。そしてかれは休みの日に貴史をドライブに連れ出し、強引に迫ってキスをする。いきなりの展開に驚き、怖いと感じながらも、貴史は抵抗しなかった。恐怖で抵抗できなかったのではなく、親切な春臣が望むのなら耐えようと思ったのだ。決して望ましくはないけれど、傷つけるよりは我慢したほうがいい、と。拒むようなことは「してはいけない」と。

何も言わなかった春臣に対して今後どういう態度に出るべきか、答を出せずにいる貴史のもとに冬杜が来る。事情を春臣から聞いたかれは、普段のかれらしくないお節介な態度と回りくどい物言いで、あれやこれやと言ってくる。結局のところそれは、長兄らしい、拗れた家族の仲を潤滑にしようとする言葉ばかりだった。どころか、春臣の長所を述べ、貴史に付き合うことを薦めるようなことも言う。
その態度によって、貴史は自分の気持ちを知る。自分は冬杜が好きなのだと、他の相手を薦められたことで自覚する。恋の自覚と失恋を同時に体験することになる。困惑した貴史は冬杜に「それでいいの」と言うけれど、冬杜は気まずそうにしながらも話を続ける。失恋は決定的だ。
そこへ春臣が来て、話を更にひっかきまわす。貴史が好きだと二人の前で宣言したまでは分かりきったことだったが、かれは更に、「おまえ兄貴が好きなんだろう」と指摘してくる。貴史を好きな春臣だからこそ気づけることだった。貴史をずっと見ていたから、貴史の態度や表情をじっと見ていたから、冬杜相手のときだけ態度が違うことにも気づけた。そしてその質問に貴史が答えられないまま、冬杜が話を遮る。「俺と貴史の間にはなにもない」という、まっすぐな言葉で。

気持ちを自覚したあとの貴史が非常にかわいそうでいい。報われないと分かりながらも諦めきれず、かと言って今までのように無遠慮に冬杜に接することもできず、よく眠れず、かれがいないときに部屋に入って眠ろうとする。春臣への罪悪感と、冬杜への叶わない気持ちで弱った貴史が頼るのは、やっぱり冬杜なのだ。
その体当たりの好意と健気さに、冬杜がおちる。なりふり構わない好意に、必死で張っていた意地も虚勢も崩されてしまう。そこから先はなしくずし。

そのあともう一、二つ揉め事が起こるかと思っていたけれど、結構あっさり片付いた印象。しかし当事者をほったらかして揉める兄二人に対する秋那の怒りや、腹をくくったら恥ずかしげもなく愛情表現を繰り返す冬杜の態度とか、細かい部分が面白かった。恋愛そのものもいいけれど、他人だった貴史が四人の輪に少しずつ入って家族になってゆく過程が好き。

貴史の生活はなにもかもがこれからだ。当人の死によって母親から物理的に解放された貴史は、穂波家での生活を始めたことで、ようやく精神的にも解放された。外出することや他の誰かと交流を持つことを咎められない生活を手に入れた貴史は、これから先どうするのだろう。数年遅れの学生生活を始めるのが無難かな。学費もあるだろうし、なにより帰るところも応援してくれる家族もある。
そういうことが後日譚でも、一切描かれも匂わされもしなかったのが少し残念。新しい部屋まで借りて蜜月満喫している様子は伝わってきたけれど、冬杜が言っていた、これからさきの貴史が見えない。まあこの家族(と彼氏!)がいればなんとかなるか。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:23 | - | - |

一穂ミチ「シュガーギルド」

一穂ミチ「シュガーギルド」
赴任先のイギリスから八年ぶりに東京へ戻ってきた清坂は、再び自分が働くことになるオフィスで、ひとりの青年と出会う。清坂が在英中に就職し、今年異動してきたばかりだという青年・白石は、かつて清坂が旅先で一晩をともにした男だった。

商社マンの清坂は、30歳の時に渡英し、八年ぶりに東京へ戻ってきた。変わらない上司や友人が迎えてくれる一方で、知らない顔も当然増えている。別部門から異動してきたばかりだという、口数の少なそうな青年もその一人だった。挨拶をしようと名刺交換をして、ようやく清坂はその相手が誰なのかに気づいた。
渡英直前、衝動的に行った北海道・紋別で困っていたところを助けてくれた大学生がいた。ろくな準備も下調べもなく一人旅にやってきた清坂に、名所を案内し、穴場の店を教えてくれたかれの名前は、白石和といった。出会った日とその翌日、白石にいろいろな場所を案内してもらった清坂は、かれといることで、その頃心の中に蓄積していたわだかまりが少しずつ昇華してゆくことに気づいていた。もう二度と会えないと分かっていてかれと一晩を過ごし、眠るかれを置いてそのまま紋別を離れた。それっきり、思い出すこともやめていた相手だった。

「is in you」と同じく再会もので、過去の出会いと別れ、そしてそれを気まずく思いながらも距離を縮めてしまう現在が交差して描かれている。受視点だった「is in you」に対してこちらは攻視点。年下視点だった「is in you」に対してこちらは年上視点。出会った日本ではなく香港で再会する「is in you」に対してこちらは赴任先のロンドンでも出会った紋別でもなく東京で再会する。
などと分類することもできるのだけれど、そういう設定の似通りをものともしない面白さだった。

紋別という土地に対して、ふたつの決して交わらない目線が向けられている。計画性もなくいきなり飛行機に飛び乗ってやってきた清坂は、普段自分が暮らす土地との違いを単純に味わい、驚いている。その寒さとか、車で感じる地面の感触とか、海が近い場所ならではのにおい。畏れを抱かずにはいられない圧倒的な自然、ネオンまみれの都市ではみられない景色を前にして、かれは言葉を失う。
美しいとかすごいとか、そういう言葉じゃたりないものを肉眼で見ているのだろう。計画していないからこそ堪能できた、旅人の驚きが魅力的だ。そして実際に存在するものや起きている事象を表現するにあたっての、作者ならではの比喩が冴え渡っている。
早起きして流氷を見たときの「朝が生まれるごとに、冬がすこしずつ死んでいく季節。巡る営みの無情さと残酷に人は「美しい」という名前をつける」という文章がすごくすき。
そこに、紋別で生まれ育ち、「何もない」ことを痛感して東京へ出た白石の目線が入る。家族に無理を言って、自分自身も必死で切り詰めてそれでも東京へ出てきたのは、閉塞感に押しつぶされてしまいそうな自分を必死に守ろうとしたから。そうやって、紋別から出た他の若者と同じ行動をとりながら、白石はそういう若者たちを苦々しく思っている。若者たちが出た結果として起きている過疎を、そんな資格はないと思いながら、憂いている。
そういう若者はきっと白石のほかにもいるだろう。けれど、繊細でまだ幼さの残るかれの言葉は人一倍響くような気がする。「ここが好き、でも嫌い。ときどきどうしようもないような気持ちになる」という言葉の重さに、釣り合うだけの言葉を誰が持てるだろうか。

年齢も職業も出身も違うふたりは、同じものを見ても全く違う気持ちを抱く。けれどそのことがきっと良かった。白石の飾らない本音に清坂は自分の中にある傲慢さを恥じる。自分でもどうしようもない愚痴めいたことをこぼす白石は、真剣にきいて、嘘のない言葉を返して、時には場を和ませてくれる清坂に救われる。全く違うふたりだからこそ居心地が良かった。名前と年齢とあと少しの情報しか知らないまま一緒に行動して、二人一緒に恋に落ちた。

24時間にも満たない紋別での出来事すべてが、とうていあり得ないはずなのに地に足がついたドラマのようで凄くよかった。冬の紋別という舞台に、身の振り方への葛藤、自分とは正反対の友人への羨望という清坂の精神状態が合わさって、独特の空気が出ている。

キーワードになるのは上述の紋別と、かれらが仕事で取り扱う砂糖だ。甘いものが好きで、砂糖そのものも好きで、砂糖について語りだすと止まらない清坂。甘いものが苦手で、家に砂糖がない白石。
何度も二人の会話には砂糖が出てくる。初対面の時も、相手が女の子ではないのをいいことに、自分の仕事の話を熱く語った清坂。再会したあと、白石が何も言わずに砂糖だけを入れたコーヒーを渡してくれたことで、清坂は相手が自分を覚えていることを実感した。
そして砂糖を含んだ清坂の話が、白石の将来を(現在を)決めた。地元が好きで、けれど息苦しくて嫌いで、どうすることもできずに焦っていた白石に、清坂の話は響いた。しっかりした仕事をしている大人との出会いがかれを動かした。清坂のもみじの話や砂糖の話が、自分にも地元に対して出来ることがあるかもしれないという希望を白石に与えた。こういうところは年齢差がある関係ならでは、だと思う。大人と子供。先輩と後輩。上司と部下。教えるものと教わるもの。職歴も人生経験も対等じゃないからこその関係。清坂の言葉が白石を動かし、白石の真意を知ったことで清坂が動く。これまで大胆な選択を一度もしてこなかった清坂が、一世一代の勝負に出る。

恋愛の要素は手堅く抑えつつも、どちらかというとそれ以外の物語が濃い作品という印象。面白かったけれど物足りない、というひとも出てきそう。いやでも素晴らしかったです。好き。

表紙の清坂はどう見ても38歳ではないな…50歳手前くらいの雰囲気。なのでこんな人は出てきません。中の挿絵は絵によって多少の揺らぎがあるものの、大方38歳くらいに見える。
表紙かわいいからきにしない。

全てを読み終えてから(白石がどういう経緯を経てこの職場にいるのかを理解してから)頭から読み直すと、白石が健気で可哀想でせつなくていい。清坂にこんなこと言われてかわいそう、こんな態度とられてかわいそう、そのいたみが醍醐味。
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J GARDEN新刊

・一穂ミチ「マイネームイズレッド」
「雪よ林檎の香のごとく」の番外編。赤色にまつわるタイトルがついた掌編が数本。真っ赤な表紙は、白シャツの志緒と桂。たとえ志緒が成人しても大学生になっても、高校のときの制服のカッターがいい。桂は桂で、先生としてのスーツのカッターがいい。
「Saturday night paralysis」「春情終夜」に続く、志緒のはたちの誕生日の物語「ヴァーミリオン」は、ホテルのディナーをキャンセルしたあと部屋へ急いだふたりの、そのあとの話。0時をまわって誕生日を迎えた志緒に、桂はプレゼントを渡す。何が欲しいか問われて悩んでいた志緒は、結局ディナーのキャンセルをプレゼントに決めたわけだけれど、それとは関係なく、桂はプレゼントを用意していたのだ。
判子。印鑑登録したり口座を作ったりする判子を貰うというのは、志緒が言っていた通り「すごい」ことだ。こういうものをあげるところが桂の(年の離れた)年長者らしさで、かれ自身完全には把握しきれていない重さだろう。そしてそれをきちんと理解した上で、重さを受け取れる志緒の度量と、昂揚する幼さのアンバランスさが凄くいい。
判子にまつわる思い出話もすごくすてき。自分たち(というよりは桂が一方的に)が決めたことだとは言え、抱き合えないことに焦れていたふたり。だからこそちょっとした会話とか、なんでもない接触が大切で、社会科見学の色気のない美術館みたいなところでも簡単に衝動に火がつく。意図せずラブレターになった志緒の感想もかわいい。
あと、提出物の返却にいちいち判子を押して、それで気持ちを入れ替えていたという桂のエピソードもすごくすき。卒業生に成人式に電報をうつ桂、と非常につながる。軽口きいてばかりのちゃらんぽらんんでへたれな先生に見えて、きちんと「学校の先生」なのだ。

「変なところでナイーブ」な桂を、何も知らない志緒の機転がなぐさめる「カーマイン、クリムゾン」と、電車のホームに自分を戻してひとり帰って行った志緒の家に向かう桂が、北海道での朝を思い出しながら歩く「スカーレット」、色々不慣れな志緒がかわいい「マイネームイズピンク」もあり。
ナナカマドの実のいわれに志緒をだぶらせるところが好き。

・和泉桂「夢のまた夢」
発売前のブログでも、本編前のまえがきでもとにかく夢オチだということが告げられている、深沢と伏見と冬貴の本。なので夢オチです。このろくでもない夢を見ちゃうのは勿論和貴さまで、それを素直に深沢に話して、いっそこれも夢なら良かったと思うような目にあわされます。いつものことです。
深沢と冬貴は、かつて接近しているところを和貴が見てしまってやきもきしたというエピソードがあったけれど、いざ実践しようと思うと(夢の中だけど)こういう温度にしかならないんだろうなあ。深沢さんの貞操観念?はすばらしい。

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ヤマシタトモコ「BUTTER!!!」3

ヤマシタトモコ「BUTTER!!!」3
少しでも克服したくて部活を始めて、それでもなかなか昇華できない柘のコンプレックスは、中学の同級生・秦との再会によってぶりかえした。どころか入部直後よりもひどくなっているきらいすらある。自己嫌悪で心を閉ざし、表舞台に立ちたくないと籠もってしまう彼女の悩みの根は深い。
おそらく娘のコンプレックスを分かった上で、母親が繰り返してきたであろう「お姫さま」という言葉も、彼女には響かない。そんなわけないと苛立ち落ち込み、隠れたいと願ってしまう。けれど大柄な彼女はそのまま立てば目立つし、背筋を丸めていてもかえって悪目立ちする。
柘にしてみれば羨ましい小柄で童顔な夏は、しかしそれがコンプレックスだと言う。友人たちの言葉も、頑なな柘には届かない。他の女子が言った「とみながあいは178せんち!」という言葉が凄く「らしい」なあと思った。今の女子高生がこんなことを言うのかは知らないけれど、抽象的な「きれい」「かっこいい」や真偽の分からない「あこがれる」「うらやましい」より、純然たる事実のほうが反射的な否定の入る隙を与えない。友人たちは言う「もっと怒りなよ」「戦え」と。今も昔も、柘はからかわれたり酷い言葉をかけられたとき、何も言わない。秦やかれの周囲の男子が何か言っても、悪気のない近所の人や心無い教師がひどいことを言っても、怒るのは周囲の人間であって柘ではない。嫌だとか哀しいという気持ちを表せば漬け込まれるかもしれないし、反論したところで柘のコンプレックスは昇華されないし、寧ろ返り討ちにある可能性だってあるのだけれど、それでも夏はその言葉を支持した。
一人きりになった柘は、冷やかしの言葉をかけられた端場が、いつものかれらしいぎこちない言い方で、それでも反論しているのを見る。決して格好よくも端場が「戦ってる」のを見る。それが彼女の背中を少し押した。これまで母親や友人たちが少しずつ、何度も一生懸命押してきた言葉と相俟って、柘は少し前を向くようになる。
前髪を上げた彼女が美人だというのはお約束。げっつは素敵なメンズと結ばれて幸せそうに歩いているところを、人生がうまくいってない秦が遠くから見かけて傷つけばいいよ!勿論この先どうなるか分からないけれど、秦のいびつな、けれど思春期の少年にありがちなタイプの純情が成就されないところが凄くすき。いじめっこが実は素直になれないだけで、一途に思ってたっていう程度で許されて報われてたまるか、という(一部の)女の気持ちをヤマシタさんも持っているのではないかと思っている。

夏にとって最大の長所であり強みであった「ダンスが好き」という気持ちは、一度挫かれている。プロダンサー・宇塚の前でミスをしたことが原因だった。それはクラスメイトやまさかの端場の配慮によって復活したけれど、やっぱりかれの前に立つと緊張してしまう。そのことを知ってか知らずか宇塚は言う。緊張したほうがいい、ドキドキして気持ちいい、パートナーのことだけを考えていれば雑音は聞こえない、格好つけたくて緊張してるなら人より勝ってる、「音楽が鳴ってるのに踊らないなんてばかだ」と。
ある程度払拭されていた夏の悩みは、ここで解決されたのだと思う。勿論彼女はこれから先も踊る上で緊張するだろうし、ダンスをただ純粋に好きなだけではいられなくなる時もあるだろう。けれどひとつの壁をたしかに越えた。

そして次は掛井の話。宝塚や少女漫画が好きで、容姿がよくて人格者で、ダンスもそれなりにこなしてきたかれを見て宇塚は言った。何故本気出さないの、と。
育ちが良さそうであまり苦労をしてきた感じのない掛井だが、かれもまた悩みを抱えるひとりの高校生だった。皆の前でさらっと「兄貴と仲悪い」「家にいるのキライ」と言うかれだが、その言い方にあまり感情がこもっていないため、誰も重く受け止めなかった。多分この年代の男女にとって、親兄弟とうまくいっていないことなどは日常茶飯事なのだ。

掛井の違和感を本当の意味で最初に気づいたのは柘だっただろう。運動神経がよくないことを自覚している彼女は、自分のミスにも、それが掛井に迷惑をかけていることにも気づいている。そのことを申し訳なく感じ、練習してうまくなりたいとも思っている。だからこそ、遠慮せず指摘や注意をしてほしいと彼女は言った。掛井はそれを聞いて笑顔で受け止め、自分のミスも気づいたら言ってね、と返事した。
それはある意味理想的な返事だった。柘の願いを掛井は断らなかったし、一方的な関係ではなく双方伸ばしあえるような関係を作ろうと提案した。けれどそれが柘の望むような関係に行き着かないことを、彼女はもう知っている。悪気があるわけではないけれど、これは端場が称した掛井の「コトナカレ」だ。そのことに柘は焦燥感を覚えるけれど、なかなか掛井に通じない。

そんな掛井が「コトナカレ」の仮面を外すのが、かれの兄に対してだ。実家で兄と接する時の掛井は、今まで見せたことがないような鋭い目をしている。そしてかれ曰く「類友」だという兄の友人たちとすれ違ったあと、掛井はうまく外面を繕えずに夏たちの前で本音を出してしまう。
けれどやっぱり掛井は「コトナカレ」であろうとする。にこにこ笑って人に譲ってうまくやる、それなりにやっていく、それがかれの処世術だ。要領よく、いい奴でいること。けれどそれは、かれと本音で付き合いたいと願っている人間にとっては寂しいことだ。適当に、距離を取って気を使ってもらって、うまくやりたいわけじゃない。ただ、本音でぶつかって、揉めたりしながら一緒にいたいだけ。腹を割ってぶつかってきた仲間たちに、ようやく掛井は素の自分を出すことに成功する。
既婚者だという女性教師が言った「家族の問題なんて一生解決しないわよ絶対」がいい。勿論100パーセント全てが解決も改善もされないわけではないだろうけれど、彼女が力んで「一生」「絶対」という程度には、殆どのことが解決されない。割り切って付き合うか、離れるか、しかないと思う。
掛井はひとまず前者を選ぶ。ただ、これまでのように兄の軽口を憎むような目で見て無視するのではなく、言いたいことを言うようになった。自分が兄を許していないことを兄に直接言うことで、かれは「コトナカレ」の檻から解放される。

高岡と二宮の出会いの話もかわいい。
あと柘父が超絶格好よくて目がハートです。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 20:59 | - | - |

天禅桃子「フラッター」

天禅桃子「フラッター」
通勤途中に毎朝見かける男が気になっていた浅田は、ある日その男・観月と仕事をすることになる。左手の薬指に指輪をしていることから結婚していると思い込んでいた観月が、職場でゲイだとカムアウトしていると知ったことで、浅田の気持ちがざわつきはじめる。

整った容姿と、それにふさわしい洗練された身なりの観月は、確かに目をひく男だった。更に仕事をするようになったことで、かれが非常に仕事が出来る男だということも分かる。さらには人当たりもよく、後輩たちからの支持も得ている。ある意味見た目通りの完璧な男である観月の薬指に指輪を見つけたとき、浅田はなぜか同様してしまう。客観的に見れば年齢的にも条件的にも結婚していて何ら不思議なところのない男なのに、驚いて、初対面で思わず指輪を話題にしてしまう。そんな浅田の言葉に、観月は微笑んで答えをごまかした。
その対応になんともいえない気まずさを感じてしまった浅田は、その後観月がゲイだとカムアウトしていることを知る。「超有名」だというその情報にかれは更に驚き、観月とうまく接することができなくなる。嫌悪感や不快感ではなく、どうしようもない動揺がかれを支配する。
たぶんそれは、今まで単にきれいだと思って見ているだけの男と、恋愛することができるのだという選択肢が急に訪れたことへの動揺だろう。浅田はゲイではないし、観月には指輪をするくらい心に決めた相手がいる以上、観月がゲイだったところで何も進展しないのだけれど、思いもよらなかった情報を得たことで、浅田は新しい道を見つけてしまった。

明らかに昨日と違う浅田の様子に、気づかない観月ではなかった。浅田がどこからか自分の噂を聞きつけたことを悟った観月は、今後の仕事を円滑に進めるために浅田を飲みに誘う。観月と浅田の間の認識を統一するというよりは、観月の質問に答えることで浅田の混乱をおさめようとしてくれたのだろう。それさえ過ぎてしまえば、この先も仕事仲間としてうまくやれる。

実際観月は非常に魅力的だった。浅田が思わず毎朝確認してしまった外見の華やかさだけでなく、人間としても面白い人物だ。軽妙な会話と有無を言わせない笑顔と、他の人間と同じように隠し持っている劣等感や策略。そういうものがいちいち浅田を驚かせ、次第に惹きつけていく。親しくなるほどに、うまく咀嚼できない気持ちが生まれていく。
そんな浅田の背中を押すことになったのが、帰り道見かけた観月の涙だった。誰かと電話している観月は、往来で泣いていた。それを見た浅田は一目散にかれのもとに駆け寄り、そのまま手を引いて街を歩いた。そして浅田は、自分が観月を好きなのだと気づく。
詳しいことは話さないけれど「今フリーになった」観月の言うままに飲み歩き、翌日の休日も出歩いて、そのままかれらは親しくなった。

今の仕事が終わったあとも、つまり二人が仕事仲間でなくなったあとも連絡していいか、と観月は言った。二人きりのときに面と向かって告げられた言葉に、当然浅田は含まれている意味を探そうとする。けれどその直後、通りがかった人にぶつかられて胸に倒れこんだ観月に動揺した浅田の顔を見た瞬間、かれは背を向け「友人になれるかもしれないと思ったんだけど」と先ほどの言葉を撤回した。自分に触れて動揺する浅田を見て、つまり他の男友達相手とは違う反応をする浅田を見て、無理だと一線を引いた。
けれど浅田の動揺は、観月が予想していたのとは全く違う心情からなるものだった。他の男友達のように思えないのは事実でも、浅田は観月を好きなのだ。好きだからこそ、浅田に触れれば動揺する。そして、そのあと知らされた観月の本心に更に動揺したのだ。観月が欲しているのは今後も続く友人関係で、浅田の欲しているものとは決定的に違う。それでも浅田は気持ちを伝えず、観月が望んでいる友情に応じた。

このまま親しい友人関係を続けていればいつか恋愛になる日がくるかもしれないと、浅田は思っていたのだろうか。観月に恋しているかれは、その気持ちを持ったままかれと仕事をし、かれと飲みに行った。そしてある店で、浅田の指輪の相手と偶然会うことになる。「友人」だと名乗ったその男にまだ観月が気持ちを残していることはひとめでわかり、浅田はようやく自分の不毛さに気がついた。傷つく観月を見て心を痛め、恋を失った観月を見て安堵し、「一人でいたくない」と自分を呼ぶ観月に喜んでしまうことの空しさを知って、これ以上友人関係は続けられないと自覚する。
決意して友情の終わりと告白を同時にした浅田に、観月は冷静だった。浅田を「ダダ漏れ」だといったくらいだから、少し気づいていたというのもあるだろう。ゲイではない浅田の言葉を鵜呑みにせずなんとか治めようとする観月に、浅田は言う。自分を好きじゃなくても構わない、と。その言葉が観月の胸に刺さる。

かつて自分も同じ事を言ったと苦そうに観月は過去を語りだす。吉野との出会いと再会と、あっという間の失恋。それでも吉野と恋敵とずっと一緒にいた観月は、ある夜失意の観月につけこんだのだと自嘲する。そのあとの年月と、今の喪失を振り返って、そういう関係は良くないと、破綻すると観月は言う。
しかし浅田は諦めない。自分は観月や吉野とは別の人間だというかれは、「俺のこの気持ちは」と言ったあと、続きを話さずに口をつぐんだ。
その後、自分を待ち伏せしていた吉野と顔をあわせた浅田は、かれと話をする。自分が最低の選択をして傷つけた観月に合わせる顔はないけれど、かれを心配しているという吉野との会話で、浅田は観月への気持ちを見抜かれる。どこが好きなのかと聞かれて応える浅田の言葉は凄く簡単で、飾り気のないよくある言葉で、それだけに誠実だ。「傷ついてもこの気持ちは俺だけのものだ」という言葉は、あの時観月にぶつけようとして躊躇した言葉だろう。ふられても、報われなくても、代わりにしかなれなくても、それでもこれは浅田の思いだ。浅田の恋だ。たとえ吉野の代わりをつとめたところで吉野の思いじゃないし、観月のものでもない。
その会話を、二人がどこかへ向かうところを偶然見かけた観月が聞いていた。浅田がどんな風に自分を好きなのかを知った観月は、かれの気持ちを信じるほかない。そして自分がかれのことばかり考えていること、かれに恋をしていることを認めるしかなかった。

ドラマティックなんだけれど決して珍しくない出会いに始まり、誤解を含んだ色々な交流によって距離が近づいて、気持ちを自覚して、一筋縄ではいかなくて、障害や過去を乗り越えて結ばれる。無理したところや早送りされたところのない、非常に丁寧で繊細な物語だった。最近の天禅作品の中でかなりのヒット!
吉野さんの過去がもっと見たいけれど…ラストがあれだからな…無理だな…。
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英田サキ「ダブル・バインド」4

英田サキ「ダブル・バインド」4 

父の葬儀のあと、事件の犯人を葉鳥が単独で追っているという連絡を受けた新藤は、一緒に行くといってきかない瀬名と共に現場へと向かう。途中、瀬名は車内で上條から祥の行方が分からないと連絡を受ける。祥の中の人格であるケイが犯人を追っているとにらんでいる上條に事情を話し、結局三人で向かうことになる。
GPSがついている葉鳥のバイクが乗り捨てられている場所からほど近いところに、その建物はあった。犯人が被害者を拉致して餓死させ、今も新しい被害者を生みだそうとしている場所。葉鳥と祥が監禁されている場所。呼び鈴を鳴らした上條が顔を合わせたのは野々村の娘の美久で、この建物は一度会った柄の悪そうな彼氏・保の持ち物なのだと言う。

案の定犯人は美久だった。隠れていた保の攻撃を食らいながらなんとか倒した三名は、彼女が地下室に閉じ込めている男たちを助けに向かう。その中で上條だけが、更に奥にある真実を見抜いていた。ここにいる少女は美久ではなく、彼女の兄・怜一だと。
そして真実が明らかになる。レイプ事件の被害に会った美久は、その後も映像によって脅され続け、芸能界に入るという夢が断たれたことに絶望して自殺を図った。一命を取り留めたものの植物状態になり、衝撃で心神耗弱になった母親は、娘の友人に娘が死んだと告げる。その後本当に美久が息を引き取ったあと、家を出たまま帰らなかった兄は妹の日記を発見し、真実を知って、自分を信奉している保とともに復讐を計画する。

刺されたまま放置されていた葉鳥は、生死の境をさまよい始めていた。自分なんてどうでもいい、いつ捨てても構わない愛人だと嘯いていたかれは、死の際に新藤を見て、死にたくない、と泣いた。新藤と一緒に生きたい、と、ここまできてようやく本音を吐いた。むしろここまで追い詰められたことで、ようやく自分の本音に行きついたとも言える。

上條の説得もあり、自首することを決めた怜一に向けて、それまでおとなしかった祥が刃を向けた。それは当然殺された三人の復讐などではない。かれの中でずっと抑え込まれていた過去が、怜一の犯行によってよみがえったのだ。
その場で唯一事情を知っている瀬名が祥を落ち着かせたあと、解離性同一障害となったかれの過去、ときどき出てくる謎の発言の真実が明かされる。祥とケイは双子だったこと。病んだ母のネグレクトによって放置された双子のうち、ケイだけが餓死したこと。そのことに衝撃を受けた祥は、自分の中にもうひとりの人格ケイを作ってしまったのだ。
しかしそれは真実ではなかったことが、催眠療法によって後々明かされる。死んだのはケイではなく祥で、今生きている少年こそが真宮慶だった。元々慶に比べて体の弱い祥は熱を出し、死んでしまった。その時残り僅かだった食糧を譲らなかった所為で祥が死んだと思った慶は、罪悪感を感じ、助け出されたときに「祥」を名乗った。祥が死んだこと、自分が死なせたことを受け入れたくなかった慶は、祥を生かして自分を殺した。
全てを自覚した祥は真実を受け入れ、これから先も祥を名乗って、祥のことを忘れずに生きてゆくことを決める。不幸な事件の被害者だった子供たちは、ようやく前を向いて歩いてゆける。

怜一が復讐を計画した四人のうち、三人は既に殺されていた。かれが知る最も残酷な死に方であった餓死という方法で、怜一は三人を殺害した。そして残ったもう一人は、三人が怜一の居場所を突き止めた時点では命があった。けれどかれもまた、怜一に飲まされた農薬によって生涯後遺症と付き合っていくことになる。怜一の復讐は、ある意味で成功したと言える。かれがやったことは決して良いことではないけれど、四人の犯罪と美久の生涯を思えば、清々しい結末だった。
そして怜一はおそらく最初から覚悟していた通り、自ら命を絶った。ある意味で鮮やかな、見事な復讐だったと思う。
けれどそいいう同情や感傷を、上條という男は許さない。全てが終わったあと、上條は野々村の入院先へ向かい、野々村が息子の犯罪を知っていて隠していたこと・寧ろ捕まらないように捜査情報を流していたことを指摘する。娘の復讐の手助け、これまで愛情を示せなかった息子への親心、そういうものによって殺人幇助がなされたことを上條は受け入れない。四人がどんな罪を犯したかも知っていながら、かれは野々村を責める。この上條のまっすぐさ、ぶれなさが上條たる所以だろう。個人的には野々村の気持ちに近いけれど、上條はこれでいいのだ。

無事に一命を取り留めた葉鳥は結局もとの葉鳥に戻る。厭味ったらしい口をきき、悪ぶって飄々と生きる、前の葉鳥に。そんなかれにいつもの通り愛を説く新藤は、いつもにはない武器を持っていた。新藤と前妻の間にできた娘・葉奈は、本当は葉鳥と新藤前妻の子供だった。当然葉鳥には身に覚えがないが、豪快で無茶苦茶な性格の前妻が、葉鳥を泥酔させておいて襲いかかったのだという。DNA鑑定も済んでいると言われてしまえば、認めるほかない。
この展開は予想していなかったし、驚いたし、凄く腑に落ちなかった。べつに葉奈が誰の子でもいいんだけれど、葉奈が自分の子だと知った葉鳥が気持ちを入れ替える、これまで張っていた意地を抑えて、新藤と葉奈ときちんと向き合って生きてゆこうと決めるというのがなあ…結局新藤本人では葉鳥は変えられないのか、と思ってしまった。それなら死にかけて本音が出て結ばれた、というベッタベタの展開のほうが何倍もいい。
しかし最初っから死亡フラグが立ちまくってた葉鳥なので、死ななくて良かった、というのが一番。

高校時代の同級生である絵里と、彼氏でありながら上條に敵意剥きだしの日下、それに瀬名と上條で飲みに行ったシーンがかわいい。ゲイだということをさらっとカムアウトした瀬名に驚いていた上條は、ふと自分と瀬名が付き合っていることを公言する。この時のカップル感がいたたまれなくてもどかしくていい。ういういしいなーにやにやしちゃう。
それが影響したわけではないだろうが、時間が欲しいと言っていた瀬名はついに上條と本気で恋愛する覚悟を決める。それでも何かと不安がるかれに対して上條が言った、「女か男かで言えば女のほうがいい。でも世界中から誰かひとりだけを選べって言われたら、お前を選ぶ」はけだし名言だと思う。「男とか女とか関係ない」じゃなくて、やっぱりゲイにはなりきれないけれど、でもそんなことよりも瀬名が好き、という上條の偽らざる本音だ。

事件メインでラブぼちぼち、なシリーズだった。連続猟奇殺人にあんまりドラマティックすぎない恋愛が混ざっていいバランス。面白かったー!
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:21 | - | - |