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ミュージカルテニスの王子様』青学vs聖ルドルフ・山吹@新大阪メルパルクホール 12時開演 

久々テニミュ。
セカンドシーズンの最初の公演は、チケを取っていたのに体調を崩して行けなかったので、ドリライぶり。セカンドシーズンを見るのは初めて。
で、ものすごい良席だった。これまでのテニミュで一番前方の、しかもど真ん中。ステージ全体を見るにはもう少し後ろのほうが良いんだろうけれど、それでも前にいないと分からないことはある。大石の髪型がどういう風に作られているのかを初めて知った。

開演前の放送は桃城役の上鶴くん。諸注意をきちんと、面白おかしいセリフも交えつつ案内。

***
青学に偵察に来た千石。右手で壁打ちをしているリョーマの姿を見て、誰か分からないものの筋がいいと気付く。あれこれアドバイスをしたり、リョーマの球筋を見切って避けたりする千石をわずらわしく感じたリョーマが左手にラケットを持ち替えて打ったボールが千石に当たり、かれは倒れる。

青学全員が登場しての一曲目はしょっぱなからいきなりウォウウォウ言い出す新曲。「青く燃える炎」のメロディーが途中入ったり、「勝負の炎は青く燃える」というような歌詞もあった。

意識を取り戻した千石は、同じく青学を偵察している観月の背中を見て退散。当の観月は緑ジャージの乾と少し会話をして、去っていく。次の対戦相手であるルドルフについてトリオが乾に尋ね、乾が一人ずつ解説する流れで、ルドルフ陣が青学戦のオーダーを決める。
後で全員が並んだら乾は別に突出して背が高いわけでもなかったんだけれど、トリオの子達が小さいので、このシーンの身長差が原作っぽくて可愛かった。
紹介を兼ねたオーダーのあとは「選ばれしエリート軍団」!きたよ校歌!!わたしがそれほど真面目な原作ファンじゃないからなのかもしれないが、セカンドはキャストとキャラを比較するというより、初演のキャストと比較してしまう。裕太の小西くんは顔がけんぬにすごい似てるとか、観月役の小林くんは塩澤くんとは方向性が違う観月だなとか、今回の部長さわやかだよ!とか、そういうのも楽しい。個人的には金田がものすっごく金田で、全方向から金田でびっくりした。大久保祥太郎っていう名前もじわじわくる。ダーネ柳沢をつとめたD2陣内は、「NOW LOADING」でのドレッド警備員が良かったので気になっていたのだが、今回の柳沢も好演。
あと木更津の廣瀬くん(すごく人気だと後で実感した)がかわいい顔で、この子六角でも出るのかなあ、と思ったり。

その後は青学オーダー。ダブルス任命されたことが腑に落ちない桃城と海堂で「ライバル以上敵未満」ラケットで膝かっくんしたりつついたりする犬猿の仲っぷりがかわいい。前回を見ていないので成長したのか元からなのか分からないけれど、桃城も海堂もさまになってて良いと思う。低音とお調子者。

D1、D2の試合は隣り合うコートで同時開催、という説明を受けたトリオが「どっちを応援しよう」と迷う。この同時進行はよくも悪くも一幕のキモだと思った。舞台にはひとつのコートしかないので、コートを回転させたり間にトリオなどのコメントを挟むことで、二つの試合がどんどん入れ替わる。
赤澤に翻弄され、疲労が蓄積する菊丸と、かれが回復するまでの間一人で戦い続ける大石。むきになって一人で戦おうとする赤澤の目を、「ばかざわこのやろー!」で覚まさせる金田。菊丸を労わる大石の「Depend on me」と、復活した菊丸の「充電完了」は、どっちもこれまでのゴールデン・ペアを正統に引き継いだような歌でございました…ゴールデン・ペアはこれでいいんだよ!
観月の作戦、シナリオに従ってプレイすれば勝てると主張するルドルフと、筋書きは存在しないと言う青学。結局最後はボールが当たった柳沢が気絶して、赤澤が棄権を申告する。

寮生活をしているためになかなか会えない裕太の健康を気遣う不二と、反発する裕太。自分が孤独なときに、自分のプレーを褒めてくれた観月の存在に救われたことを「Hand in hand」で伝える裕太。優秀すぎる兄を持った裕太にプレッシャーを与え、コンプレックスを強めた青学での日々。かれは兄と違う場所へ行くことで解放された。ルドルフが、それを率いる観月が裕太を救ってくれた。そういうバックボーンを知ってこの曲を聴くと凄くいいんだけれど、その背景を示すには「俺は俺の名前で呼ばれたい」が必要だったと思う。ルドルフ戦においては校歌の次くらいに有名な曲だと(勝手に)思うので残念。なんとなく不二に敵意を持ってる弟、くらいの印象しか残らない。
しかし裕太が手を差し伸べてもらったと思っている観月は、裕太を自分に従うコマに育て上げることしか考えていなかった。それを示す観月ソロの新曲が残酷。

出番が近いリョーマを探しに来たトリオは、喫煙している阿久津に出くわす。調子に乗って注意しようとした堀尾、更にはカツオとカチローも巻き添えを食って阿久津に暴力を振るわれたところへリョーマ登場。「俺に指図するな」を歌う阿久津、低い声だけれどはっきり聞き取れる歌詞でいい。しかし改めて見ると阿久津ってものすごく酷い奴だな…ちゃんと大会に参加するのが逆に不思議なレベル…。

そして左利きのリョーマと、「左殺し」の裕太のシングルス3対決。裕太のコンプレックスとか観月の作戦を、おそらくはっきりではないんだろうけれど本能的に悟ってたリョーマが裕太にかける言葉がどれもいい。むきになっている裕太には届かないけれど。「俺は上に行くよ」は、ちゃんとリズムを取って歌うとこういう曲になるんだな!エンヤのずっこけそうな歌も可愛くて好きでした。最初歌の入りを間違えたのかと思ったけれど、違う、これが正しいんだ…。
このシングルス3の途中まで、ルドルフのベンチでずっと柳沢が半目で倒れていたのが面白かった。途中で眼を覚まして、事情を木更津に聞いたらしい柳沢のリアクションもいい。テニミュはベンチでどれだけ輝くかもたいせつ!

観月が使うように指示した裕太の技は、かれの腕を壊しかねない。そのことにリョーマだけでなく、手塚も、勿論不二も気づいていた。観月が分かった上で指示しているであろうことも、察していた。
この辺りだったか試合の後だったか、手塚が観月に「まだ体が出来上がっていない子供の段階で打ち続ける」ことの危険性を主張するシーンがあるんだけれど、そんなことを熱弁している手塚も中3だと思うとじわじわくる。いや確かに体出来上がってるんでしょうけど…部長…。
観月の姑息な手段に最も憤ったのは、勿論不二だ。手塚まで試合を回さないと断言して、観月を有頂天にしてから完膚なきまでに倒す不二のチートっぷりが好き。苦手なコースなんてないんです不二だから!弱点なんか悟られないんです不二だから!「静かなる闘志」を歌っていた。

試合が終わったあと、観月が崩壊してしまうのが面白い。仲間達に励まされた観月が悔しさを隠して高笑いをしたまま、下手にハケていくところがいい。
たまには家に帰ってこいという不二の言葉に珍しく了解する裕太。リョーマ戦で自分の全力を出し切ったことで、かれの心は晴れたようだ。

地味'sがうすぼんやりしたライトの中で登場したのはこのあたりだったか、それとも二幕に入ってからだったか記憶があやふや。「どうして俺たちが登場しただけで笑いが起きるんだろうな」「ライトがどんどん暗くなるー!」みたいな地味’Sらしいネタ。
あと山吹の他の面々も登場していた。神谷さん曰く「本物の小野」こと小野賢章くんが室町役で出ていたのだけれど、やっぱり喋ると声の出方が全然違う。他のキャストも悪くないんだけれど、子役上がりというか、長く訓練を積んできた分の差が出ていた。あまり台詞の多くない役なので残念。

勝利した試合の反省会をしているような部員達を背景に、手塚の「ドリームメイカー」で一幕が終わる。早足ではあるけれど、ルドルフ戦終了!

休憩を挟んで二幕。幕が下りたままの舞台に、私服の裕太が現れる。ルドルフの校歌の着メロが鳴って携帯を見れば、不二からの電話。楽しそうに電話をしている裕太を、ルドルフの他の面々がにやにやと見ている。彼女が出来たのだと思っているらしい。慌てた裕太が話し相手が兄であることを告げると、電話に出ようとする観月。しかし不二兄は、受話器越しに観月の声が聞こえた時点で華麗に通話オフボタンを押す。取り敢えず観月の白地に真っ赤な薔薇柄のシャツに目を奪われる。皆で同じポーズを取ったり誰かをいじったり、てんやわんやのルドルフかわいい。観月が道化っぷりを出すことで、ルドルフ全体の空気が柔らかくなっている。

ルーキー「越後屋」を調べる太一。お馴染みのハチマキがずれて前が見えなくてリョーマを踏んでしまう茶番が愛しい。体格を理由にマネージャーに甘んじている太一に、「テニスは身長でやるんだ」と皮肉を吐いて去って行くリョーマ。そこから山吹戦へ。「行くぜ!」のあとは「山から吹きあげるぜ」というサビが何度も繰り返される山吹校歌。校歌がないことが持ちネタでもあった山吹にとうとう校歌が出来た!吹きあげるぜ、のあたりで忍者のように人差し指と中指をひっつけて立てるポーズ。山から吹きあげる、で山吹…これこそテニミュクオリティ。

ゴールデン・ペアと地味'Sの対決。ルドルフと山吹を一回でやると、青学は物凄く試合が多いキャラと全然試合のないキャラが出て来る。大石・菊丸は大変だろうな。地味’Sの「やあ」だけで爆笑を取れるキャラの強さが凄い。初演の地味’Sや原作の力もあるのだけれど、今回の二人もいい。「俺達地味's」に「グッド・コンビネーション」で対抗。
そしてあっさりタカさんと不二のペアは負けているのであった。苦手なコースないのにネ不二先輩…。ゴールデン・ペアが忙しい反面、タカさんは出番が少ない!ボールペン持ってバーニングしていたけれど、それ以外に見せ場が少ない。細かい演技は色々なところでやっていて面白いので勿体ない。タカさんの見せ場?になるはずだった、喫茶店で亜久津に水をかけられるところもカットだし。

シングルス3は桃城対千石。運も努力も兼ね備えた食えない男・千石の新曲あり。千石の聖也くんはアクロバットが非常に得意みたい。千石の軽さ・調子の良さ・食えない明るさはあるけれど、まーくんが凄かったのでどこか物足りなさも感じる。「ラッキー千石」のイントネーションが微妙に独特かも。
片足が痙攣した状態でも戦い続ける桃城も桃城なら、そんな状態の桃城に負ける千石も千石である。

そこからリョーマ対亜久津戦へ。新曲と「勇気VS意地」で張りあう二人。勝つためなら何でもする、なんて言った亜久津の「なんでも」が緩急をつけることだけかと思えば物悲しい。勝つために努力しなさいよ。友人を傷つけられたことへの怒り、強い相手への興味、テニスへの愛情などからどんどんこれまでになかった技を繰り出すリョーマ。生意気なスタンスを崩さないまま、トリオの仇をさらっと取るあたりがいい。リョーマって同級生のトリオを結構大事にしてるよね。
青学勝利のあとは、一人去ろうとする亜久津を追いかけた太一の「勝つです!」がある。妙に太一には優しい亜久津さん。

そして「輝け、もっと」のあとは最初の曲リプライズで二幕終了。
カーテンコールは聖也くん飛びすぎです!アクロ間近で見るとびびる。学校別の登場のときも、亜久津だけ数歩距離を置いた場所に立っていたのがいいな。きちんと亜久津になりきっている。なりきるというのは、実際にそのキャラの態度や台詞を模倣するだけでなく、こういう状況になったらその対象はどうするのか、ということが見えること・そして見えたものをそのまま演じきれることだと思う。なので亜久津はこれでいいのだ。

最後は「F.G.K.S」に代わるようなハイテンションの曲。「ハイタッチ!」と繰り返し歌いながら、多くのキャストが客席に降りて近くの人とハイタッチをする。客席大歓声。巧いなあ。

***
終演後は不二役三津谷くんと・木更津役廣瀬くんの放送が流れる。ここの歓声がすごかった…兄と間違ってルドルフにスカウトされたとか、木更津の秘密を列挙する黒不二。どうして知ってるんだと怯える木更津に、公式ファンブックの存在を伝える不二。泣き出す木更津の化粧を直す間(=お見送り準備が出来るまで)しばしお待ち下さい・規制退場にご協力ください、というアナウンスでした。
そのあとスタッフが壇上に上がってキャストお見送りの件と、お見送りを希望しない人の退場口を案内。なのでお見送りいらないから早く帰りたいという人も安心。そのあとは規制退場についての再アナウンスに加えて、当日券・当日引換券の案内、グッズの案内、生写真プレゼントの案内、更には待っている間にアンケートを書いてね、という説明。これだけの内容を丁寧に分かりやすく、まったく何も見ないで言うこの人は何者…すごかった。

二階席からのお見送りなので一階前方は結構後。誘導されるままに出口から出ると、微妙に離れた距離にいるキャストが手を振ってくれる。三津谷くんが全員と目を合わせて「ありがとうございます、また来てください」と微笑みながら言ってて、感動とか興奮の前に感心してしまった。頑張れD2。としよりの気持ち。
しかしステージを下りたところにいる、キャラの格好をしているキャストの違和感がすごい。

***
ということでテニミュセカンド。
キャッチーな過去の曲に頼っていて新曲はどれも耳に残りにくいという、セカンドに限ったことではない後期からの難点は継続しているものの、過去の曲のフレーズを使って作られた新しい曲は感慨深い。過去を引き継いで新しいものを作る、というテニミュセカンドのスタンスが透けて見える。
早送り感・駆け足感は当然あれども、思っていたより充実した構成だった。短めの芝居を二本見たような達成感がのこる。原作を読んでいない人を置いていくのは今に始まったことではないし気にしない。
ずば抜けて上手い子には出会えなかったけれど、椅子からずり落ちそうな音痴の子・滑舌の悪い子もいない。そこそこ平均的で、その平均値が高め。(飽くまでテニミュ比だからな!)結構よかったです。リピートするぞ!何回も見るぞ!とまでは思わないけれど、次の公演も楽しみ。

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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 12:00 | - | - |

森羅万象tour'11#1@名古屋Electric Lady Land

・BORN

・ケミカルピクチャーズ

・DuelJewel
「華唄」から始まってテンション上がった。バンギャルが好きな要素が詰まってて非常に好きですこの曲。
二曲演奏終了したあたりかな?メンバーが後ろに下がる中下手の祐弥さんだけがギターを外していきなり「ハッピバースデートゥーユーハッピバースデートゥーユー」と謳いだす。一端ハケてケーキを持ってきて、「ハッピバースデーディアゆーーちゃーーん!」とまさかのセルフ祝い。そのあと、自腹で買ってきた、レシートあるからリーダー支払ってくれ、とばるさんのところまで行ってOKを貰う。そのあとケーキを片付けて、下手のマイクに戻った祐弥さんが「サーティワーン…アイスクリーム!」と得意げに言ってた。31歳と31アイスクリームをかけたそうです。メンバー失笑。隼人さんが笑いながら、ゆうちゃんがどうしてもやりたいと言って31アイスを探したのだ、とネタばらし。時間がないのでさくっと行こう、と曲に戻る。イベントライブで誕生日当日だと、持ち時間的にこれくらいが限界なのかな。巻き気味だったけれど面白かったのは祐弥さんの力技のおかげだな。
盛り上がってたこともあったんだろうけれど、京都よりいいライヴだったと思う。すかっと突き抜けるような、うまくピースが噛み合ってる感じが心地良かった。
頭から「華唄」離れない…。

・アンド

・Moran
衣装は全員京都と一緒かな。京都のときはあまり主張せずに、サポートの位置を守って入場してくる印象があった真悟さんだけれど、この日はちょっとだけ前に出てきて定位置につく。別にもっとどーんと出てきても良いと思う。
「はじめようか」の言葉あと、「渇きを求めて」「南へ」。
そこへ行けば分かるよ、俺たちが何をもとめてるのか、とHitomiが言う。こころが疲弊しないところへ行くということでもあり、心が疲弊する隙がないくらい体が疲弊するところへ行くということでもあるように思える。純粋な肉体の餓えの前で、心の飢えは果たして無力でいられるのか。心はもっと渇いてしまうのか。
「A life never dry up」の前の間奏でフロント三人が背を向けてしゃがみ、真悟→Sizna→Hitomiの順番で振り返って立ち上がるフォーメーションが出来ていた。これ楽しいなー!
「Stagegazer」ではSoanが立ちあがって煽っていた。頭を左右に揺らしながら笑顔でドラムを叩くSoanさんのにこやかな顔と、低くて太い煽り声のギャップがいい。
「昔黒い髪の毛が大嫌いで、ブリーチかけたでしょ頭に。それと一緒で、空の色が嫌だから僕らはこういうブリーチをかける」で「Bleach」へ。最初「黒い髪」って言うから「彼」かと思った。諦めや絶望が深すぎて逆にあっさりして見えるような喪失の匂いがするこの曲のタイトルの意味が、やっとわかった気がする。「期待はずれの夜明けにブリーチを零す」ことの本意がようやく見えた。
歌が終わったあと、センターの前方にいるHitomiが、後方に照らされる白いライトに向かって手を伸ばす。何かにふれるように伸ばしたあと、そっと掌を上に向ける。何かを受け止めるように、落ちてくる林檎を受け止めるように伸ばして、受け取ったあとそれを抱きしめてうずくまるような仕草をしてみせる。命を。
「伝えたい歌がある」全力で出すから全力で受け止めろ、というような煽りのあと、「彼」へ。「彼」もライヴの回数を重ねていい感じになってきている。Siznaさんはいい感じに見えないものと戦うステージング。そのあとの「Party Monster」のイントロあたりでHitomiがSiznaのところへ行ったり、SiznaからHitomiの方へ向かって行ったりしてキャアキャアしてた。その所為なのか何なのか、冒頭完全に歌わなかったHitomiさん。歌うことが飛んでしまったわけでも、歌詞を忘れたわけでもなさそうだった。単に上手にくっついてにこにこしてた。謎。
そのあとはたまにやるインスト曲でお別れ。
「さらけ出してほしいんだ何もかも」「だから俺も本当は曝け出したいんだよなにもかも!」で叫び声をあげたHitomiが、胸元を開いてタトゥーを見せてはけていく。「本当は」ってところが意味深。

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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 20:22 | - | - |

原作:木原音瀬・漫画:小椋ムク「キャッスルマンゴー」1

原作:木原音瀬・漫画:小椋ムク「キャッスルマンゴー」1
実家が流行おくれのラブホテルである高校生の万は、AVの撮影に来た監督・十亀と出会う。ゲイを公言する十亀が中学生の弟と仲良くしていることが心配な万は、酔った十亀を騙してかれと付き合い始める。

万と十亀の出会いは最悪だった。幼い頃に教師が陰口を叩き、父の葬式のときに親戚がいやな顔をしたラブホテルで育った万は、あまり人に自分の家について語らない。亡き父の跡を継いで母はホテルを経営しているが、ド派手な内装が仇となって売上はよろしくない。万も、奨学生として高校に通っているくらいだ。
けれどかれは実家であるホテル「キャッスルマンゴー」を大切に思っている。家の所為で嫌な思いを何度もしてきたのに、決して家を悪く考えたり、恥ずかしく思ったりしていない。生真面目で融通がきかなさそうな万は(実際そうなのだが)、誰よりもこのホテルを愛している。
古くてイマドキじゃない内装のおかげで、十亀が勤める制作会社・カレイドフィッシュがAVの撮影に現れる。買い物に出た母の代わりに部屋を案内した万は、遅れて現れた十亀に、初対面とは思えぬ態度を取られる。状況を知らないかれは、私服の万を男優だと間違えたのだ。きつい言葉と冷たい目線、失礼な態度は、万が呆れても仕方がない。出会いは最悪だった。

最悪の出会いは、最悪の再会になる。その後もかれらはキャッスルマンゴーに撮影に来ることになるのだが、そのたびに万は十亀に憤っている。
その中で一番万が気にしたのが、ゲイを公言して憚らない十亀が、まだ中学生の弟・悟と仲良くしていることだ。万とは違って人懐っこい悟は、サッカーの話で盛り上がったと屈託なく笑うのだけれど、万には心配でならない。カレイドフィッシュのスタッフ・吉田が、冗談で十亀が悟に手を出すかも、と言ったこともあって、万は弟を守る気持ちに燃え始める。
万の疑惑を知った十亀は怒った。中学生をそういう目では見ないし、そもそもゲイだからと言って男なら誰でもいいわけじゃない、こういう職業をしているからといって節操がないわけではない。偏見と先入観による万の勘違いを謝罪するように十亀は言うが、そういう職業を選んだのは十亀自身だ、と万は認めなかった。
散々家の仕事のおかげで嫌な思いをしてきた万らしくない思い込みであり、それが自分では選べない親の職業である万らしい主張でもあった。実家がホテルなことは万にはどうすることもできないけれど、AV監督を職業にしている十亀は数ある仕事の中からそれを選んだ、とでも言いたげだ。

ともあれ弟のことが心配な万は、本屋で男同士の恋愛についての本を立ち読みし、それを吉田に見られてしまう。本を買えばそんな目には合わないけれど、裕福じゃないから立ち読みで済ますんだろう。こういうところがやけにリアル。そしてそんな本を読んだことで、万の不安はどんどん募る。br> そして知らないうちに見ていた吉田によって、万はゲイらしいと十亀に報告されてしまう。

ある夜、飲み会帰りのカレイドフィッシュの連中がキャッスルマンゴーの前を通る。スタッフの一人が泥酔した十亀を一泊させてくれと頼みこみ、吉田が宿泊料を手渡した。渋々意識のない十亀をベッドに運び込んだ万は、何かがひらめいたような顔をする。
そして翌朝十亀が目を覚ますと、隣には裸の若い男が寝ている。一夜限りのことも多いのだろう、またやったか、と思ってよく見ると、それは万だった。さすがに焦る十亀に、好きだ・付き合って欲しいと言われたから寝た、初めてだったのに、と布団に顔を突っ伏してしまう。記憶はないものの(ないからこそ)、責任を取ると十亀が言うと、付き合う以上は他の男と仲良くして欲しくないから悟と接しないで欲しい、と万は言う。吉田の先日の目撃情報が頭にあった十亀は、それにも承諾する。
その言葉を伏せたまま聞いた万は、涙を一粒も流しておらず、ひどく冷静な表情をしている。身を挺して弟を守ろうとした万の作戦は、ひとまず成功したことになる。

時を前後して、万は一人の友人を作る。かれの持ち物であるカレイドフィッシュ制作のAVを万が拾ったことがきっかけで話すようになったクラスメイトの春日だ。カレイドフィッシュの作品、十亀が監督した作品のファンだという人のよさそうな春日を、万は家に連れてくる。
春日の性格もあるだろうが、多分高校生くらいになるとAVやラブホテルへの認識がほぼ一律の「(よく分からないけれど)悪いもの・いけないもの」からそれぞれの考え方に変化するんだろうな。
家に連れてきたり、カレイドフィッシュでバイトしたいという願いを十亀に伝えてやる程度には春日に心を許している万だけれど、春日が何気なく聞いた将来なりたいもの、という問いには答えられなかった。
同じ質問を十亀も万に二度している。最初はAVの撮影を手伝った帰り道、二人きりの車の中。忘れ物を取りに行っている間に置いていかれた万を十亀が迎えに来てくれた時だ。口が悪い十亀の優しさに触れつつも、万は答えられず黙ってしまった。こういうときに適当に誤魔化せないのが万の不器用で生真面目なところだ。
しかしこの一件は二人の距離を縮める。ぎっくり腰になって家で安静にしている十亀のもとに万は通うようになる。十亀は寝ているだけ、万は勉強しているだけという関係だが、二人きりのアパートは居心地が良かった。図書館と母に嘘をついたり、友達と一緒だからと悟を振り切る程度には、万にとって独占したい時間だったのだろう。
そういう時間を過ごしたことと、万引きの冤罪をかけられた万を十亀が庇ってくれたことで万は一気に十亀に心を許すようになる。自分が何になりたいかという問いに、ホテルの経営がしたいのだと素直に答える。春日に問われたときに過去の嫌な思い出が頭を過ぎっていたことを思うと、おそらく万が誰かにこの夢を語ったのは初めてだったのだろう。笑われたり呆れられたりする覚悟で話したが、十亀は笑顔で肯定してくれた。十亀のらしからぬ屈託のない笑顔に、万の気持ちが揺さぶられる。嘘から出た真、偽りで始まった恋愛なのに、恋の一歩を踏み出してしまった。

それから先はあれよあれよ。デートらしきものをしたり、家でくっついたり、映画館でキスなんかしたりして、挙句の果てには一泊旅行の約束までして、何やってんだと思いつつも万は十亀と会うのを止めない。大人と子供の嘘の恋人関係は、本物のように順調だ。
しかし蜜月は短い。気になる女の子が来るからと一緒に花火を見に行くよう春日に頼まれた万は、軽い気持ちでそれを引き受ける。そのあと十亀に花火に誘われたときも、春日と先約があると断ってしまう。花火や祭りというのは一般的に恋人たちのイベントであること、友人との約束よりも恋人を優先する場合が多いことを万は知らない。女の子が来る場へ行くことが恋人を持つ男にとってあまり褒められたことではないとも知らないし、それらについて罪悪感もない。そこまでは情緒が発達していない・恋愛経験のない子供だからと思えるけれど、春日や知らない女子ではなくて十亀と行きたかった、とすら思わないのがかなしい。やっぱり恋人関係は多少進展したところでにせものなのだ、と思えてしまう。
そしてその場を十亀と吉田が見たところで、以下続刊。少女漫画ばりのヒキ!

木原さん原作、ムクさん漫画というタッグは非常に成功だと思う。木原さんの得意とする特異な設定や職業・嫌な奴が放つ毒が、ムクさんの柔らかい絵で少し緩和されている。ムクさんが普段描く、繊細すぎる心情ゆえにあまり大きく変化しない関係性が、木原さんのドラマティックさで引き伸ばされている。
個人的には木原さんは好きなんだけれどたまにやりすぎに感じられるところがあるし、何より文章がしっくり合わない。ムクさんは作品が出るたびにどんどんおとなしくなって、繊細だけれど起承転結が生まれない短編を目にする機会が多かった。なので、二人が補い合って引っ張り合うようなこのコラボはとてもお気に入り。相性良いと思います。

Cabのvol.1<感想>の付録として掲載された、十亀の過去を描いた小説「リバーズエンド」はこちらには収録されず。あれを読むと、現時点の万には理解できない事柄、たまに匂わされる十亀の過去が分かってより楽しい。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 20:30 | - | - |

えすとえむ「equus」

えすとえむ「equus」

同月に発売になった同著者の「はたらけ、ケンタウロス!」同様、ケンタウロスと人間が共生する世界でのオムニバス。同人誌初出ということもあってか、「はたらけ、ケンタウロス!」よりもかなり説明が省かれているが、上半身が人間で下半身が馬という姿を持つかれらケンタウロスが、現代の人間と同じように学校に通ったり会社に勤めたり、出兵したりしている。

現代の人間の観点からすれば「異形のもの」であるケンタウロスが、非常に美しく描かれているのがいい。人間社会とは異なる社会で生きる「野生」のかれらは、服を纏わず山野をものすごいスピードで駆けていく。無駄のないしなやかな体と、人間が到底及ばない運動能力、取り繕う必要のないあっけらかんとした口調。それはどれも自由の象徴であり、偶然かれらを目にした人間が憧れ、焦がれ、虜になるのもおかしくない。
その一方でかれらは非常に人間と近い価値観を持っている。人間と共生しているからなのかもしれないが、サークル活動でバカをやったり、真面目に働いたり、下半身が描かれなければ誰が人間で誰がケンタウロスなのか分からないくらいだ。同じ感覚を持った異形のもの。異形ゆえの官能と、同じ感覚を持つがゆえの共感や愛情のアンバランスさが魅力的だ。

ケンタウロスと人間の関係性を描く上で特徴的なのは、かれらのその人間とは異なる肉体と、人間の想像を超えた寿命だ。一話目に登場した50歳くらいだという大学生のケンタウロスは友人に種族の平均寿命を問われたとき、うまく答えられなかった。近くで死んだ人いないから、とかれは答える。
たかだか100年程度で死んでゆく人間からは考えられないような長い時間をかれらは生きる。その間に時代は変わり、文明は変わり、政治は変わり、ある国は滅び、ある国は生まれた。気の遠くなるような時の中で、人間と関わりあって生きてゆくものも少なくない。自分よりも圧倒的に早く死ぬ相手、自分が未来にその死を見届けることになる相手と仲良くなることは辛い。かれも、彼女も、皆死ぬ。仲良くなった人数が多いほど、その友情や愛情が濃いほど、別れは辛いものだからだ。
それでもかれらは人間との関わりを絶たない。友人、恋人、主人を作り、かれらとの時間を精一杯過ごす。刹那的な幸福や充足を堪能し、数百年後に反芻したときに再び満たされるような、輝いた思い出をつくる。何百年も同じ家に仕えることで、思い出を連続させていくことも出来る。
かれらにとって人間との共生は、哀しみと幸せがないまぜになったような感傷の中で生きるということだ。その報われなさ、やりきれなさが非常にやおい的だ。 (やおいとは何か、と言われるとうまく言葉で説明できない。そもそも人によってその定義はばらばらだろうし、言葉で定義づけられる人自体が多くないとも思う。ただ少なくともわたしにとってこの物語、この物語の中で生きるケンタウロスたちはやおいだ、と感覚的に思う。)

最後の物語で、金持ち男の奴隷として扱われていたケンタウロスが登場する。その男が死んだのをきっかけに、跡を継いだ息子はかれを解放しようとするが、ケンタウロスは逃げない。その理由をかれは死にたかったからだと打ち明ける。かつての恋人は自分を愛した罪によって死んだ。けれど自分はケンタウロスであるがゆえに殺されなかった。ケンタウロスが死ぬには殺されるか、耐えきれぬ悲しみに心が壊れるかしか方法がない、だからこの家に留まって殺されたかったのだ、と。
何の情動も失ったような瞳で淡々と酷い仕打ちを受けてきたケンタウロスが語る過去は衝撃的だし、一話目で生まれた死の謎が最終話で明らかになるという構成も巧い。
しかし男はケンタウロスを殺しはしなかった。その代わり、数十年後に、ひとつの願いを託した。まだ幼い自分の子供の面倒を見て、自分がかつて教えたように本を読ませ、自然に触れさせること。かつて死ぬことだけを考えて屋敷に来たケンタウロスに、同じ屋敷で生きる意味が与えられる。死なないことと生きることは同じであって同じではない。人間はケンタウロスを殺すことも可能だけれど、かれらを生かすこともできる。
アイディアの突飛さだけに収まらない、非常に魅力的な作品。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 19:35 | - | - |

梶ヶ谷ミチル「放課後の不純」

梶ヶ谷ミチル「放課後の不純」
放課後一人教室に残っていた水谷は、同じクラスで殆ど話したことがなかった沢木に告白される。それを真剣に受け取ろうとしない水谷に逆上した沢木は、いきなり水谷にキスをする。

こういういかにもセンシティブっぽい学生の初々しい初恋みたいなやおいが好物です。相手の気持ちに戸惑って、自分の気持ちが理解できなくて、心にもない言葉で傷つけてしまったり傷つけられたりして、でもやっぱり好きだ、みたいな不器用な恋。
比較的地味で大人しい友人たちと一緒にいることが多い水谷だが、その日クラスに残っていたのはかれ一人だった。そこへ陸上部に向かう前の沢木がやってきて、声をかける。明るく人懐っこい沢木のいきなりの会話に驚きつつも水谷が対応していると、沢木は水谷が好きだと言った。会話の流れで、夏が好きだとか犬が好きだとかあのドラマが好きだとか言うような、何か深い意味を含んでいるようには到底聞こえない「好き」だった。他意の無さそうなその言葉を水谷は聞き流したので、沢木は改めて気持ちを告げる。けれど水谷は受け止めない。断るとか拒絶するとかの前に、微塵も本気にしていないような返事を繰り返す。おとなしそうに見える水谷の、眼鏡の奥の目が嘲笑の色になる。そのあと迷惑そうな戸惑いになったとき、沢木は水谷にキスを仕掛ける。
それは勿論合意の好意ではなかった。当然水谷は抵抗するけれど、次第に流されてしまう。この冒頭のシーンが二人の関係を決めてしまったのだと思う。この日は他のクラスメイトが現れたことでうやむやになり、自分を避ける水谷の寝込みを沢木が襲おうとしたこともまた中断されたけれど、沢木が自分を探して図書館に来たとき、水谷はもう拒まなかった。最初こそ口だけの抵抗を示したけれど、それが本気でないことは明らかだ。避けながらも、かれはどこかで沢木を待っていたのかもしれない。どこまでも追いかけてくるかれの積極的な好意に引きずられて、その気になってしまったように見える。

うやむやな感じで始まった二人の恋愛は、そのスタートゆえにか煮え切らない。人気のない学校で、親がいない日の家で、何度も抱き合うけれど、どうも相思相愛の雰囲気がない。かと言って友情のにおいもしない。決して気が合うわけでもない二人の、奇妙な関係が続く。
最初から好きだと言っている沢木と、それをただ受け入れている状況の水谷。だけれど水谷が沢木に強要されている・何も考えずひたすら流されている、という雰囲気ではない。けれど同じ強さの気持ちを持っているようにも見えない。場所や時間を言い訳にする軽い抵抗を繰り返すけれど、本当の意味で抵抗するわけでもない。かと言って沢木がそれに物凄く焦ったり憤ったり傷付いたりもしていない。恋人扱いする沢木と、それを受け入れも拒絶もしない水谷。なんとなく、なんとなくで日々が過ぎる。
そのなんとなく、にピリオドが打たれたのは、水谷が沢木に「好きだ」と言った瞬間だ。久々に再会した年上の幼馴染みに二度目に迫られているところを助けられたあと、水谷は問われてもいないのに自分から言った。それに沢木は当然舞い上がる。ここまでの流れが少し物足りないというか腑に落ちなかった。そもそもなぜここで水谷が沢木への想いを告げたのか、またいつからそう思っていたのか・確信したのか、全然わからない。このあと別の日に沢木が自分がいつから水谷が好きだったかを告げ、水谷の場合はどうだったのかを聞くのだけれど、水谷はうやむやな返事でそれを終わらせてしまっているものだがら余計に気になる。助けてもらって好きだと思ったとか、他の相手に触られて嫌悪感を覚えたことで自覚したとか、そういうよくある王道パターンでもなさそう。前半の水谷は何を考えているのか見えてこない。

ただ、晴れて恋人同士になった二人の日常の物語はすごく良い。お互い恋愛に慣れていなくて舞い上がっていて大切なことが見えなくなっていたり、肉体が暴走して精神がうまく付いていけなくて戸惑ったりして何度もすれ違う。気持ちも態度も求めるばかりで与えることを忘れてしまう、相手を好きだという気持ちが、相手を思いやる行動にまで結び付けられない稚拙な思春期。二人ともがそうだから失敗するけれど、でも乗り越えるのも二人しかいないから、やり直す。
友人に沢木との関係を見抜かれてしまった水谷が動揺のあまり、沢木と別れようとする話が切なくていい。元々女の子に興味が持てず、男といるほうが満たされていた沢木は、改めて自分の性嗜好と向き合って、心を閉じてしまう。多くのひとびとと自分は違うのだと気づいてしまえば怖くて仕方がなくなる。そしてその多くのひとびとの中に、水谷は沢木を含んでしまう。かれは本来「そう」ではないからこそこの怖さが分からないんだと決めつけて、傷が浅いうちに逃げようとする。それは冒頭の告白の時に少し顔を出した、水谷がずっと抱えている地雷だ。かれが一人で向き合って、打ち勝てないものだ。
それを知った沢木は、根気強く水谷に歩み寄る。かれが一人で抱えてしまっているものを共有したい、かれがすぐに固く閉じてしまう扉の中に入り込みたいと言う沢木に、水谷は救われる。不器用な少年たちは衝動的で空回りすることも多いけれど、遠慮をあまり知らない年齢だからこそできることもある。当たって砕けるような勢いで沢木は水谷にぶつかって、かれの頑なな門をこじ開けた。一人で心配して傷付いて勝手に答えを出してしまった水谷に、沢木が「ごめん」と言うところが好き。思い詰めて暴走した水谷こそ謝るべきなのだろうが、沢木が優しく詫びてくれる。
好きっていう言葉とか、行動が先に出て、気持ちが最後に噛み合う二人。青くてみずみずしくて傷付きやすくて、やっぱりこの世代の話がすきだ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 21:13 | - | - |

森羅万象tour'11#1@岡山 CRAZY MAMA KINGDOM

人生初岡山。

しかしクレイジーママキングダムってすごい名前だな。インパクトという意味では圧勝だが、しかしどういうことなの。

・AYABIE
伸びしろがまだまだあるのか、夢人どんどん上手くなる。フロントマン向きの度胸があると思うので、バンド全体で今の超絶楽しそうな感じを保ってまっすぐ進んでいってほしい。
相変わらず間奏イントロ全部喋ってる。楽しそうだからいい。今のAYABIEは傍観者としてはそれに尽きる。何度でも立ち上がって、跳んで回って羽ばたいてほしい。
トップバッターだから会場をあっためる責任を感じているらしい夢人の強引なあっためかたが素晴らしかった。「前の方イエー!」「真ん中イエー!」「後ろの方イエー!」みたいな前後での分割のあと、センターと上手下手で客席を三分割して煽る。上手に「オイ!オイ!オイ!オイ!」という基本的なコール&レスポンスをさせた次に、センターで「ワァオ!ワァオ!ワァオ!ワァオ!」バージョンで同じ煽り。客席が笑ってあまりやらないと、「恥ずかしいの?普段あんな頭振ってんのに?」と笑顔でサディスティック。下手には「イェア!イェア!イェア!イェア!」と言わせて、全体で「オイ!オイ!ワァオ!イェア!」と言わせる。ちなみに最初の三つは拳で、最後のイェアは両手を高く掲げるラッパー的なチェケラッチョ的なポーズ。「他のバンドのお客さんドン引き!でも楽しいからいっか!」「みんなこういうの好きなんだな!」とご満悦の夢人さん。そのまま曲へ。
嬉しそうな夢人と、笑いを堪えきれない弦楽器隊。ギターソロで「タケヒトに向かってー!」とか夢人が言うもんだから、タケヒト俯いて客席を見ないようにして必死で弾いてた。
「アメブロでAYABIEで検索すると、「MC面白かった」しか書いてないことがある」と、散々こんな掛け合いをやらせてから言ってた。じごうじとくだとおもうよ!
絶対的な唯一無二感(たぶんそれは涼平というとんでもない男の唯一無二っぷりによるところも大きかったのだろうが)は薄れたけれど、今のAYABIEは非常に安定していて、曲同様本人達もきらきらしてていい。真ん中の人放し飼いだけど、それでも崩れないもの、がある。
インテツさん眼鏡かけないの…?

・R指定

・BORN
ヴォーカルが途中でオイワァオイェア!やってた。ちょっと間違って覚えてたみたいで夢人とは違うことを言ってたけれど、どっちにせよ面白いのでいい。「岡山って言えば桃太郎だよな…俺ら、鬼。お前ら、桃太郎」倒すつもりでかかってこい的なことを言ってた。客が笑ったのか最初のリアクションが薄かったら、「お前ら…桃太郎が不満なのか?」みたいな返し。地方ごとにご当地MCしてるのかな。
暴れ曲っていうか騒ぎ曲で、そのパーティ感は結構いい。

・ケミカルピクチャーズ
この日のケミカルすごい良かった。前に見たときはてんてんの悲痛さが行き過ぎてて、結構好きーレベルの好意では向き合えない感じがしたんだけれど、今回は間口の広い悲痛さでした。
岡山に前来たときは髪が真緑で、変な女に絡まれて怖かった、というなんともリアクションのとりづらいMC。今回は無事だといいね。あと前に見たときはてんてんだけボーダーじゃなくて柄シャツだったのだが、今回はボーダー羽織ってた。
楽器隊の初っ端から激しく折りたたんでる感じ、始まった瞬間から破裂を繰り返してる瞬発力が好き。

・Moran
Soanの衣装はベージュっぽい膝丈くらいのコートでインナーが茶色だった。茶×水色。真悟は今日は白のフリルブラウスに黒のカーデ?ジャケット?かな。Siznaがストライプのノースリワンピに黒のアームカバーで、Hitomiが「Helpless」の衣装の眼帯なしバージョン。Siznaさんのこの衣装が好きと話してたところだったので大興奮。回ったときの翻りが好き。男らしいワンピース好き。

「さあ岡山、始めようか」から「マニキュア」へ。Let me go(たぶん)、のあとのラーラーララーのところを真悟さんがコーラス入れるとどんちゃん騒ぎ感が増していいと思う。
Soanが立ってドラム叩いてたのはこの曲だったか、次の「Sea of fingers」だったか。フロアはフラットだけれど、結構ステージが見やすいハコだと思う。

「たとえば信じているものが見えなくなってしまったら たとえば信じていたものが形を変え始めてしまったら どうすればいい」と話して、まぶたに手をかざして「俺は目を閉じるよ」と話し出すHitomi。そうして、薄暗い目蓋の闇の中に信じているものの姿を思い出す。
「伝えたい歌があるんだ 届けたい人がいる だから歌う」「君に届くように」一周年ワンマンでお披露目された、Hitomiが「自信作」と言い切った「同じ闇の中で」が、かなしい理由で説得力を増していく。届かないところにいるひとへ、届くように歌う。届かなくても。
「Silent Whisper」のSoanの煽りが定着して楽しい限り。ステージ上の三人モッシュとか、センターに三人集まって狭いところで楽しそうにしているのとかがほんと和む。「パーティを始めよう」で「Party にMonster」へ。お前の林檎を見せてみろ、見たいなこと言ってたのはこのあたりかな。その後は高速インストでしっちゃかめっちゃかになってハケていくメンバー。残ったHitomiがセンターに立って、前髪を両手でかきあげるようにしてフロアを見つめる。このときの目のつよさがいい。
「こういうむちゃくちゃな感じが大好きで 君たちとこういう時間を共有したいと思ってるんだ 本能がさ」と言って帰っていく。
「Silent Whisper」がずっと前からやっている曲だということもあって、新譜が出たあとのツアーっぽくない、目新しさの薄いセトリだったけれど、楽しかったのでまあいいか。「Fender」がライヴで聴きたいですとても。

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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 17:38 | - | - |

森羅万象tour'11#1@京都FAN J

自分が学生の時はさっぱり思わなかったけれど、平日の17時開演(しかも都市部から離れたところ)って結構な暴挙だな。ということで16時半会場17時開演のライヴです。自分が休みの時は早く帰れるので助かるんだけれど。

・DuelJewel
相変わらず巧い。なんというか煽り方ひとつ取っても巧くって、引っ張りすぎることもなく強要しすぎることもなく、嫌な気にさせずに煽ってくる。客の反応が鈍い時のかえしかた、とかも慣れたもの。
ニューシングルだと紹介されていた「Vamp Ash」がいい曲で好きだなー。

・BORN
この会場に初めて来たというヴォーカルが、「ライヴハウスの周りがこんなにのどかで…」「本当にのどかで、俺ら通報されちゃうんじゃってくらい…」と繰り返してたのに噴いた。確かに都市部から離れたところにあるからなあ。言葉を選ぼうとしたんだろうけれど、(きっと「田舎」って言ってはいけないと思っていたはず)その結果見つけ出された言葉が「のどか」だったんだな…。なごんだ。

・Moran
Tour「常闇で、集いし謡うは林檎売り」
新衣装お披露目、Soanは茶系統。笑顔だなーとぼんやり見てて、衣装見なきゃ!と慌てて目線を下に落としたときには既にドラムセットに向かっていたという体たらく。明日見る。登場が控えめな真悟さんはレース柄っぽいジャケットでかっちり。Siznaが黒地に真っ赤なレースが貼りついたようなジャケットに黒のパンツ。髪も右サイドに赤いメッシュ。エクステかな。散々CD特典でハードルを上げられていたHitomiはジャボのたっぷりついた白いブラウスに、ナポレオンジャケットばりの金刺繍が入ったベスト、黒のパンツをロングブーツにイン。パンツのサイドかベルトに、色とりどりのレースがわさわさ付いたしっぽみたいな大きいコサージュを付けていて貴公子でございました。あと黒手袋。左サイドだけ金髪のカラーリングは同じだけれど、全体的に髪が明るくなった?

「はじめようか!」の言葉から「彼」のイントロへ。冒頭の低音早口部分はCDでもちょっと心もとなかったけれど、ライヴだと輪をかけて何言ってるのか分かんない!でも盛り上がるし楽しいからまあいい。音響がいいハコだともうちょっと緩和されるのかな。
三か月ぶりくらいに見たらなんだかものすごく緊張してしまって、一番心もとなかったのはわたし自身だ。Moranだーあわあわーみたいな感じで動揺しっぱなしでした。見るものとか聞くものとか情報量が多すぎて脳が対応しきれない。
そこからCDと同じ流れで「Breakfast on Monday」へ。CDが初お披露目になったこの曲はライヴだとどうなるのか楽しみだったので、早いうちに聞けて嬉しい。リズムの面白さと間奏のギターが凄く好きなんだけれど、ちょうどその直前からSiznaさんのギターがトラブっちゃってすっ飛ばしになってしまったのが残念。代わりにHitomiさんがoioiコールしてたので萎れた感じにはならなかった。
今に始まったことじゃないけれど、新しい曲やあまり演奏されない曲の出来がいまひとつで、とは言えライヴで演奏されないと出来が上がらないし、演奏されていくうちに前からあった曲のようになると思うので、長い目でみる。聞く方も慣れ不慣れがあるはず。

京都に来るのは久しぶり、というMC。FAN Jには初めて来たけれど京都から遠すぎて京都に来た感じがしない、滋賀の気分だ、とHitomiさん。交通機関を使うと結構近いんだけれど、車だと遠いだろうなあ。
Soanのブログでも紹介されていた泉涌寺の住職に会ったという件を「素敵な人にお会いしました」「心洗われちゃった」「貴重な経験をした」と言いつつ、「何も始めたりしないよ!」と言う。そういう人いるでしょ、という話から、shamanipponのことをぼかして話していた。わたしは剛のソロ曲結構好きなのでぴんときたけど、分からない人にはさっぱり伝わらない感じの説明であった。その伝わってなさを感じ取ったのか、最終的には「ジャニーズの関西に関係ある二人組の一人」って言ってた。名前出したのと一緒だね…。
けれどステージには還元できるので、と言って「LOSERS' THEATER」へ。間奏の途中で「林檎を粉々に」と言ってたのが印象的。林檎は心臓の、命の象徴だと言っていたからこそなおさら。
「そんな時でもその手を握って」「さあ行こう海岸へ」で「今夜、月のない海岸で」へ。全体的に流れがスムーズでいい感じに盛り上がっていたと思う。最後の「Stage gazer」でも、「林檎を粉々にしようよ」と繰り返していた。命を粉々にする、の意味はなんだ。
イントロやら間奏やらで嬉しそうに上手へ下手へと一人モッシュ状態のHitomiさん。この曲に限らずたびたびセンターへ出てくるSiznaさんにわざとぶつかってみたり、反対に真悟さんのところへ行ってみたり。左右に移動してどちらにも背中から抱きついてみたり、肩を組んだりと終始にっこにこだった。最後も何も言わず、ただ胸元を左右に開けて胸のタトゥーを見せて帰って行くだけ。珍しい!
バラードのないセットリストはちょっと寂しいものの、こんな日があってもいい、と思える程度には楽しくていいライヴだった。

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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 22:59 | - | - |

ひのもとうみ「遠くにいる人」

ひのもとうみ「遠くにいる人」
ろくでもない男とばかり付き合ってしまう治樹は、勤務先の工場へ移転してきた副工場長の小田島に二人きりで食事に誘われたり、口説くようなそぶりを見せられる。幼馴染みで同じ会社に勤める三津が止めるのもきかず小田島を好きになってしまった治樹は、裏でかれが自分の悪口を言っているのを聞いてしまう。

ぱっと目に入る夕焼けが印象的な表紙。ふらっと手にとってそのまま買ったので知らない作家さんだな、くらいにしか思っていなかったのだけれど、これが初めての本だという。新人さんとは言え文章はこなれていて安定しているし、当たりだった。

治樹は非常に地味な、寧ろあまり整っていない容姿をしている。痩せっぽちの体と、地味な顔にそばかす。全体的に貧相なかれは、男運の非常に悪いゲイだ。一晩限りの割りきった付き合いの相手に殴られたり、きちんと付き合っている(つもりだった)相手に金を騙し取られたり、散々酷い目にあっている。おそらく元々自信のある方ではなかった治樹は、それらの経験によってより一層自分についての評価を下げたのだと思う。自分は哀しいけれどそんなものなんだ、と。
そういう治樹のセクシャリティも過去のひどい恋愛も、男の趣味も惚れっぽさも理解しているのが、幼馴染みでもある違う部署で働く三津だ。三津は治樹とは正反対で、華やかで整った顔立ちをしている。本社勤務をしていた三津は、数ヶ月前に治樹が勤務する工場へ転勤してきたばかりだ。
そしてそんな三津同様本社から移転してきたのが、工場長の息子で副工場長をつとめる小田島だ。あからさまに爽やかな風をまとった色男。オシャレで会話が巧みで親切で優しい、おまけに将来も安泰の小田島を、三津はうさんくさいと称するが、治樹にはそうは思えなかった。食堂で積極的に話しかけてくる小田島の姿は爽やかで感じがよく、偉そうなところのない好青年だとしか思えない。

あからさまに避けたり嫌そうな態度を取る三津と、元々の性格もあるだろうが誠実に丁寧に向き合う治樹。三津が頻繁に出張に出ていることもあり、小田島は治樹ひとりを食事に誘う。それは上司と部下が、もしくは立場を超えた気の合う友人が仕事帰りに呑みに行くレベルを遙かに逸脱した、完璧な、昔の映画やトレンディドラマのようなデートコースだった。さりげなくエスコートされ、優しく甘い会話を交わし、ファーストネームで呼ぶことをねだられた治樹が舞い上がるのも無理はなかった。おそらく簡単に言えばものすごく好みだったに違いない小田島の方から誘ってくれて、夢のようなデートを演出してくれた。そのことに満たされ、同じくらい小田島への想いを強くした治樹は、小田島に会いたくなって職場でかれのもとを訪ねる。会いたい気持ちの中には、小田島が治樹に会ってもきっと喜んで優しく迎え入れてくれるだろうという確信もあったはずだ。自分が小田島にほのかな思いを抱き始めているように、小田島の中にも自分への淡い気持ちがあるのではないかという願望交じりの予感もあったはずだ。
しかしそれは打ち砕かれる。出張から帰ってきたばかりの三津との会話から、治樹は小田島が三津を狙ってずっと前から口説いていること、相手にされていないこと、自分は三津の気をひいたり三津が素っ気ないときに小田島を慰める手近な存在という認識であることを知ってしまう。治樹の確信も予感も、小田島が故意に演出した結果によるものだ。新しい恋の予感に舞い上がっていた治樹の気持ちは地に落とされる。騙されたこと、気持ちをもてあそばれたことへの悔しさと哀しさでかれの心は一杯になる。

真実を知った治樹は、そのことを小田島に言わなかった。責めることをせず、ただかれを避けるようになった。治樹が言わなかったのは、小田島が工場長の息子であることより、美しいかれが醜い自分をからかっていると言葉にして向き合うことや、かれが自分を好きではないと実感するはめになるのが辛かったのではないだろうか。何事もなかったようにうやむやにして、元の他人に戻ることをかれは望んだ。
けれどそんなことは全く知らない小田島は、これまで通り治樹を誘ってくる。雑談を振ってくる。それを治樹は悉く無視したり避けたりしたが、目の前にかれが現れて優しい言葉をかけられると哀しいかな、心が動く。そういう自分に気付いた治樹は、誰かを好きになることで小田島を諦めようとする。本来無理して作るものではない「好きな人」を作って、すぐに「恋人」らしい関係になった。名字も職業もはっきり知らない、それでも「恋人」だ。
この男・ショージが治樹を本当に好きだったとは思えないんだけれど、ともあれかれは治樹とべったりになった。金が目当てか体や住むところが目当てかそれとも同じように何がしかの孤独を抱えているのか、ショージは治樹が最初に別れを切り出したときに逆上して、治樹を社員寮のかれの部屋に閉じ込める。暴力をふるいながらも治樹を離そうとはしないかれが何を考えていたのか、が少し見えると良かったかな。

治樹は出勤できなくなる。もともとは真面目だったのだろうが、少し前から勤務態度に問題があると言われていたかれがぱたりと来なくなったことは、当然会社でも問題になる。それを聞いた小田島は、自らかれの社員寮へ向かった。心に決めたら手順を踏まずにすぐ行動できる状況であったこと、治樹が自分で借りている物件でなかったことがせめてもの救いだった。
しかし治樹にしてみれば、一番見られたくない人に自分の醜態をさらすことになった。ろくでもない同性の恋人、痣だらけの体、痩せっぽちの肉体。何もかもが情けなくて恥ずかしくて治樹はパニックを起こし、助けに来てくれた小田島を罵る。小田島が誰を好きなのか、何のために自分に近づいたのか知っている、助けにこられても迷惑だと言う治樹に、小田島がきれる。にこにこ愛想よく笑っているか、あからさまに押し黙って避けるしかしてこなかった治樹が大きな声で本音を主張した。それだけ治樹が追い詰められていたということだ。そして追い詰めたのは他でもない、小田島だ。小田島がつけた傷を癒そうとしてショージに手を伸ばし、結果的に広げられることになった。
しかしそれを自覚したり、こんな状況だからと寛大に受け止める小田島ではなかった。逆上した小田島は治樹を抱く。コントロールしきれなかった怒りの中に、ショージへの嫉妬があったことは自覚しないまま。

ここでようやくお互い素直になって気持ちを告げ合う、ような簡単な二人ではなかった。「遠くにいる人」だった小田島はようやく治樹にとって「そばにいる人」となるわけだが、そこからがまたすれ違いの連続。
小田島の陰口を含めたこれまでの不幸な恋愛と元々の性格によって疑心暗鬼と自己否定に磨きがかかり、これ以上傷付かないように自己防衛をつよめた治樹と、そんな治樹のことを理解できずどんどん自分の解釈でことを進めようとする小田島が、そもそも簡単にまとまるはずがないのだ。
何も言わない小田島の態度から、「昨晩のことはなかったことにしようとしている」と感じ取った治樹。わざわざ言葉にしなくてもなあなあのままでいいじゃないかと思う小田島。解けない誤解が関係を悪化させる。
冒頭こそ、心の中で「隕石が落ちろ…!」と願った酷い攻・小田島だったけれど、かれが自覚できないまま自分の治樹への感情に振り回されていく後半は面白い。傍で見ている三津には分かる小田島の変化・感情の芽生えが、治樹には全然わからない。分からないから逃げる。小田島は自分のことも治樹のことも分からないので、何故逃げられるか分からない。追いかけて怒って、また逃げられる。無自覚の治樹に翻弄されて一喜一憂するみっともない小田島がおかしくて、徐々に微笑ましくなる。かっこつけた鎧をすてて、必死になってこそ、だ。

破れ鍋に綴じ蓋というか、俺様と卑屈の恋。結局治樹は「何であなたなんだろう…」と胸を痛めながら小田島に恋をして、小田島は「僕は自分を好物件だと思ってるけど」なんてしれっと言いながら治樹を大切にしていくんだろう。面白かった。

いくらそれが自分の本質ではなく容姿だけを見た上でのアプローチだと分かっていても、三津は自分が小田島に気に入られて狙われていることを治樹に言わなかった。治樹の気持ちが恋に代わるまえの段階で三津が愚痴としてでも言っておけば、治樹もこんな目には合わなかったのに、と思ってしまう。別に三津は小田島に本当に恋愛感情を持っていないし、治樹に友情以外の思いも持っていないようなので余計に不思議。あいつ俺に迫ってきてキモいんだよ、って一言いってくれれば…!
でもそれだと恋愛も始まらないから、結果的には三津さまさまなの、かも。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 13:52 | - | - |

砂原糖子「スイーツキングダムの王様」

砂原糖子「スイーツキングダムの王様」
次から次へと男が変わるだらしない母親に嫌気がさして、一人貧乏暮らしをしている高三の珠希は、アルバイト先のコンビニに来た世間知らずの男・杏藤に告白される。杏藤が大企業の御曹司だと知った珠希は、かれの告白を受け入れる。

最初から父親はおらず、水商売をしている母親は男と付き合っては別れて…の繰り返し。そんな母親譲りの整った繊細な顔立ちの珠希もまた、男女問わず恋人が途切れない毎日を送っている。ただ珠希の場合、恋人は食事や生活の援助をしてくれる相手、という意味合いも大きい。同じく裕福ではない友人たちと一緒になって恋人に奢ってもらう、それ以外にも肉体を引き換えに色々な融通をきかせてもらう生活をしている。
珠希のアルバイト先のひとつがコンビニだ。老若男女あらゆる人間が訪れれるコンビニにある日一人の男がやってくる。20代半ばか後半くらいの身なりのいい男。しかしあからさまにコンビニに慣れておらず、いまどき誰も聞かないような質問をしたり、全国共通のサービスに感動したりする。そんな浮世離れした男が、偶然最初に接した店員である珠希に、つまりかれにしてみれば信じられないほど親切で思いやりのある行動を取り続けてくれる珠希に恋をするのに時間はかからなかった。
その男、杏藤の分かりやすい気持ちなどとうに気づいていた珠希は告白に動じなかったけれど、かれの身元には十分動じた。スイーツを中心に扱う、大手企業の跡取り息子。20代にして、既に専務。今まで多くの人間に食い物にされ、また食い物にしてきた珠希が、その告白を断るはずがなかった。

適当に奢らせて、その代わりにやらせてやる、くらいの割り切りで付き合い始めた珠希だが、かれは思いもよらなかった杏藤の行動に驚き、シダに振り回されることになる。珠希の体調や安全を気遣った最低限のメール、友人同伴での食事(勿論全ての支払いは杏藤)、家に呼んだかと思えば新しく買ったゲームで遊んで、手作りの料理やデザートもてなしてくれる杏藤は、珠希にとって非常に調子を狂わされる相手だった。
見事なほどに真面目で誠実で育ちの良い杏藤にしてみれば、親に嫌気が差して家出同然で一人暮らしをはじめた珠希の行動が不誠実にうつることもあったが、それに関してもかれは自分の中で咀嚼して理解する。珠希が年齢をごまかしてバーでバイトをしていることも、想像もつかないような貧しいアパートで暮らしていることも全て、杏藤は受け止める。真面目で融通がきかないけれど、自分と異なる世界や文化を拒絶するような男ではない。いちいちリアクションが大きくて面倒くさいところもあるけれど、空気が読めなくて嫌味に気づかないこともあるけれど、根本的に杏藤は器の大きな男なのだ。

そんな杏藤に珠希は歩み寄りはじめる。杏藤が行きたそうなところをリクエストしてデートに行ってみたりする。ディズニーランドを元にしたような遊園地に行くのだけれど、アヒルのキャラクターの着ぐるみ(その名もレナルド)が通ったときに杏藤が「合鴨」と言うのが地味にツボった。
なんだかんだで楽しんでいるデートのおかげで二人の緊張は解れる。その所為か、杏藤は今まで何度話題に出したときにも言わなかったかれの母親の秘密を語る。よく話題に出てくるのでマザコンなんじゃ、と勝手に思っていた珠希にしてみれば、その話は少しばかり衝撃的で、おそらく杏藤に一歩進んだ興味を抱くきっかけになった。全てが揃っていて完璧な人生を歩んでいるかのように見えるかれが抱えている闇に安堵したといえば非常にいやらしいけれど、そういう部分も無きにしも非ずなのではないかと思ってしまう。完璧に見えるかれにもある苦労や葛藤に、かれが同じ人間なのだということを知る、という意味合いも勿論ある。 ともあれ珠希は本格的に杏藤に心を許しはじめた。中学生男子のような嫉妬すら、呆れつつも満更でもないと思い始めている。そして恋人だと言いながらも全然手を出してこない杏藤に焦れて、自分から誘った。

珠希のお膳立ての甲斐あってとうとう杏藤は手を出してきたけれど、珠希の「慣れてる」という言葉に愕然として手を止める。どころか「初めてじゃないんですか」なんていう最低の言葉まで口にして心底驚いている。
珠希がこういうことに「慣れてる」のは事実だし、過去のそれらが必ずしも愛情によるものではなく、寧ろ殆どがかれの意見を無視した行為か利益の代償であったことは(前者はさておき後者は)褒められたことではない。けれど今それを杏藤が言うのは完全にマナー違反だし、そもそも珠希がそんなことを口にしたのは、初めてのことに混乱する杏藤を宥めて許容する理由もあったはずだ。慣れてるから心配しなくていい、慣れてるからそんなに気を使わなくていい、それらは珠希の不器用な思いやりだった。そんなことがこの状況で把握できるわけもない杏藤はそれをぶち壊した。
そして珠希は逃げる。
逃げた珠希が頭の中で思い出す、幼い頃の思い出が切ない。母親の職業と、何より場を弁えない格好や態度に珠希は何度となく辛い思いをしてきた。心ない大人が言った「汚らわしい子」という中傷は幼いかれの心に大きな傷をつくり、何よりその後の珠希の生き方を定めてしまった。珠希の行動を縛り、抑制し、自棄にさせた。だから母親の付き合っていた男に乱暴されたときも、かれは誰にも言えなかった。諦めと、更に軽蔑されることへの恐怖を、少年の時点で既に持ってしまった。これまで散々杏藤に対して傲慢に、強気に、かれの反応など気にせず振舞ってきた珠希がろくに反論せず、その後も逃げ続けていることから、いかにこのことがかれにとって根が深いことなのかが分かる。
「汚らわしい子」の母の男や杏藤を責められなかった珠希は、杏藤が別れた珠希にしつこく食い下がっていると勘違いしたダイキチが言った「金目当てだった」という言葉も否定しなかった。否定しなければ杏藤が本当に離れていくと分かっていながら肯定し、「ちゃんと女と恋愛しろ」とかれを励ましさえした。それは珠希が杏藤を思うあまり取った、杏藤から「汚らわしい子」を取り除くやり方だった。自分の幸せより杏藤の幸せを選んだ、珠希の精一杯の愛情表現だ。不器用でばかでかわいそうで、ああもうこういう受が好き…!

自分で選んだ別れとは言え、杏藤を失った珠希は傷つく。そこに塩を塗りこむのが、自分と同じくらいどうしようもないと思っていた母からの結婚報告だ。自分はこんなに惨めなのに、母が幸福の中でまともに人生をやり直そうとしているかと思えば腹が立つ。どんどん自棄になった珠希はかつて何度か関係を持ったバーの店長にろくでもない仕打ちをされかける。そこで届くはずがないと分かっていて杏藤の名前を呼んだ瞬間、かれは現れる。
はい来たよメロドラマ!!呼べば来るよ!一応かれが来てもおかしくないように伏線は張られているのだけれど、そんなことはどうでもいいと言いたくなるラブストーリーっぷり!ずっと辛いめに合ってた子が幸せになる、言葉にしなかった思いが通じる、それでいいんだ。
そして無事助けられた珠希は、今まで誰にもいえなかった過去を打ち明ける。それは、真実を知っても杏藤は珠希を「汚らわしい」と言わずに愛してくれることを珠希が確信していたから出来たことなのだと、この後語られる続編「スイーツキングダムの生活」で明らかになるのがいい。
珠希はかわいそうな子供だった。家庭環境や母親の職業の問題ではなく、自分に非がない状況で受けた暴力を素直に打ち明ける相手を持たなかったことに代表される、心を預けられる相手・安心できる存在が不在だったという意味で、不幸な少年時代だった。けれどその日々が終わる。スイーツキングダムの王様が現れて、珠希を幸せにしてくれる。珠希が幸せになることが王様の幸せで、王様の幸せのために珠希は頑張る。せつなくてかわいい、砂原さんの通常営業極まれり、なラブコメ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 20:37 | - | - |

ヤマシタトモコ「ミラーボール・フラッシング・マジック」

ヤマシタトモコ「ミラーボール・フラッシング・マジック」

取りたてて特徴のない地味めの高校生が、美術教師のことばかり考えてしまう短篇「うつくしい森」でコミックスが始まる。決して不細工ではないけれど、でかくて化粧っけがなくて色気のない、気の強い女。男子高に通う、多少絵のうまい森口は彼女のことばかり考える。凝視するほどの女でもないと思いつつも、目が追ってしまう。
自覚のない視線、が一歩進んだのは、クラスメイトの雑談だった。長袖ばかり着ているんだからワキ毛を処理していないのではないか、なんていう、知識と欲望ばかり先走ったばかの陰口が、森口の心に刺さる。もしかしたらそうなんじゃないか、なんて考えてしまって、それからずっと彼女の裸のことばかり考える。なにもかれが体毛に特別興奮するたちだったというわけではなくて、そのばかばかしいネタが、彼女の裸を想像すること、のきっかけになったのだ。
ろくに恋を知らない思春期男子たち。期待の的だった若い女性教師は想像と大分違っていて、結局皆はグラビアを見てかわいいとか、ほかの学校の女子を見てああだこうだ言う日常に戻る。そんな中で森口は、かわいくもおしとやかでもやさしくもない、地味でがさつで、案外性悪な女に捕まってしまった。

表題作の「ミラーボール・フラッシング・マジック」は、数組のカップルに起こった一晩のちょっとした奇跡の話。自分の仕事が忙しいのを理由に浮気を繰り返す彼女に愛想が尽きて、口論の果てに別れようと言いかけた男。忍び込んで愛を告げる中学生男子を拒み続ける三十路の女。二年にもなるセックスレスに耐えられない妻。
そして、恋人に舞い上がって引っ越した揚句、捨てられた女。彼女が一緒に暮らそうとしていた、夢ばかり追いかける生活力のない男は、新居の照明にミラーボールを提案した。それはかれの美学であり、非凡さの象徴であり、そのセンスを理解して支えようとする彼女の愛の形でもあった。リモコンのスイッチを入れてミラーボールが光を放ち回りだした瞬間、それらのことが頭をよぎって耐えられなくなった彼女は飛び上がってミラーボールを天井からもぎとり、ハンドボールで鍛えた腕で窓から放り投げる。それがマンションの部屋から地面に落ちるまでの、ほんのわずかな時間。その時間に彼女は意図せず三組のカップルの危機を助けたり、背中を押したことになる。勿論そんなことで世界は平和にならなかったけれど、それぞれが胸の中に抱く嵐は少しの間おさまったりして。
ヤマシタさんの持っている、老若男女問わず「こういう奴いるよな…!」というあるある感、うまく言葉にできない葛藤や辛さをみごとに紙の上に再現する力、突飛なアイデアが炸裂する展開、が全部詰め込まれた不思議な話だった。必殺技のようなタイトルもさすが。ミラーボールの持つ美しさと安っぽさとばかばかしさ、というあらゆる側面が描かれた作品だと思う。すごい面白いわけじゃないんだけれど、ジワジワくる。

愛とか恋を信じない思春期の少女が友人の恋を見つめる「don't TRUST over TEEN」は雑誌で読んで早くコミックスになって欲しかった一編。読み方を変えると大変なことになるろくでもない名前がコンプレックスのかずこは、何も信じないと言う強い意思が表に出ているきつい視線で世の中を見つめて生きている。のんびりしたあまりかしこくない友人があれよあれよと友達以上恋人未満の関係になってしまった犬飼を、あからさまに疑っている。ひとがよくて単純な友人が騙されないか、傷つけられないか、裏切られないか、酷い目にあわされないか、警戒心を剥き出しにして犬飼に接する。友人があまりに無垢なので心配したくなるかずこの気持ちも分かるし、実際そういう警戒心を持たなかったことで辛い結果になった少女もたくさんいるのだろう。この年齢の少女特有の過敏さ、過剰さ、神経質さ、潔癖さをかずこは体現している。
けれど、彼女(たち)が見落としていることもある。彼女が警戒するということは、彼女に警戒される対象が存在するということだ。疑われ、嫌悪され、露骨に不信感を滲ませて接される相手がいるということだ。性別や年齢が違っても、それもまたひとりの人間なのだ。
恋をろくに知らない少女に好きだと言われて、その友達という16歳の少女たちと顔を合わせる犬飼にだって不安はある。少女たちは好き嫌いに敏感で、その感覚も移ろいやすい。自分や同世代の女性の「好き」とは違う種類のそれを本気にしたとき、馬鹿を見るのは自分の方だと犬飼は知っている。別れたときダメージが大きいのも、立ち直って気分を入れ替えるのに時間がかかるのも自分だと分かっている。だからどうしても積極的になりづらい。かれもまた傷つけられることを恐れて保身に回ろうとする、一人の人間なのだ。
大人を信じない子供の傲慢さ。子供を信じない大人の狡猾さ。愛を信じたいけれど怖くて、愛を信じられない自分は哀しい。犬飼の気持ちを知ったことで、かずこはようやくかれや自分の両親のような「大人」も同じ人間なのだと知ったのだろう。拒まれても毎日家のお菓子をすすめてくる母の言葉が愛情であること、それに振り向かれないことが彼女を傷つけていたことを知る。

若くて美しい遠縁の青年を数週間限定で預かることになった37歳独身OLの話「blue」でも、同じようなことが描かれているのだと思う。元の素材がよくない自分を、努力とお金でそこそこ見られるちゃんとした女に保っている彼女にしてみれば、素材が良いだけでろくにあてもなく上京してきた青年はバカでいい加減で見ているだけで腹が立つ存在だ。けれど実際は、彼女はかれとまともに会話すらしない。最初の会話は確かに適当なものだったけれど、本当にかれが何も考えずにやってきたのか、本当はそれなりに事情があったのか、聞かないので分からない。ただ自分と正反対のかれの存在そのものが不愉快でならないのだ。同じように、ミスばかりする若い部下も、会話のレベルについてこられないネイルサロンの店員も彼女を苛立たせる。
家族も会社も店も馬鹿ばっかりで嫌い、と侮蔑しながら生きる彼女は、自分のことも好きじゃないのだ。若くもなく、若いときですら美しくなかった自分。誰にも好かれなくて当然で、だから彼女も誰も好きにならない。
青年は初対面の時に彼女を「キレイ」と言った。世話になる相手へのお世辞か、誰にでも言う挨拶か、それとも本音かは分からない。けれどかれは彼女に興味を抱き、彼女に手を出した。彼女は拒まなかった。ひとときでも若くてきれいな男と関係を持てることがそれなりに愉快だったのか、どうでもよかったのか。求められることにそれなりの充足を得ながら、彼女は男を「キライ」だと言う。やさしくされたいと言いながら、男の心を拒み続ける。男に心があることすら、彼女は考えていない。
色々な鬱屈がたまって疲れ切った彼女を刺激するような言葉を男は投げる。それを拒む女に、遂に男は不快感を示す。今までとは全く違う冷静さと、冷たさを持って。そこで彼女は優しくしないで優しくされたいと願う自分の愚かさを初めて知る。馬鹿にしている部下には舐められる、嫌悪している男には望まない言葉を貰う。かと思えば、親身になって接した部下には慕われる。そういうふうに世の中はまわる。
きれいなものに焦がれると同時に憎まずにいられない、愚かなものを馬鹿にすると同時に救われる。面倒な女の面倒な、けれど共感できてしまう心情がにくい。

バカ女に惚れてしまったバカ男「いつかあなたの不思議のおっぱい」はもう少しフラットな話。
自分にだけは振り向かないだらしのない女を思い続けている男は、彼女とその娘の前では決して煙草を吸わない。普段煙草を吸っていることに女が気づいているのかいないのか、別にそんな細かいことを気にしていないのかは分からない。ただ男はいつか女と懇意になったときに煙草の匂いに気取られないよう、禁煙をしようと思い続けている。叶わない恋も煙草もやめられずにずるずる続けるだめな男。惚れた女の代わりに色々な女と関係を持って、それもきちんと清算するんだと思っている愚かで、不器用で、かわいそうな男。
目の前にあって、谷間くらいなら薄着のシーズンなら見られて、けれどけして触れられないもの。自分よりよっぽど付き合いの短い歴代の彼氏には与えて、その結果生まれた娘にも惜しげなく与えて、けれど自分には決して与えられないもの。そう言うとおっぱいはイコール愛である、と言えなくもない。
こじつけ。

ずっと自分を恋愛対象として見ていない男に恋をしていた「カレン」は良い感じにせつない。
学生時代にせよ何にせよあだなって結構馬鹿馬鹿しい理由でつけられたものが定着して、その由来を知らないまま広まって皆が呼ぶようになったりする。それが本名とリンクしないものだと本名なんだったっけ?ということになることもままあるだろう。ただそれは全部友情の範囲で、お互い様だから笑えることなのだと思う。
「カレン」はずっと好きだった人が付けてくれたあだなだった。中学の時にファッション雑誌を見てかわいいモデルを表現するときに口にした何気ない「可憐」の言葉がツボに入ったかれが、ネタで呼ぶようになったあだな。呼びやすさやまるで実際の名前のような響きが定着したのだろう。皆がなんでカレンなんだろうと思いながらもカレンと彼女を読んだ。好きな男がつけた名前は彼女を特別な気持ちにさせて、同じくらい傷つけた。カレンと呼ばれて嬉しい、でもわたしはカレンじゃない。
可憐になりたいカレンはいつまでも可憐なカレンにはなれなかった。かれとの距離が縮まったつもりでいたけれど、縮まったのは友情の距離ばかりだった。なりたいもの、なれないものへの憧れに付けられた名前を、ずっと好きだった男に呼ばれることの切なさ。
一瞬でも可憐なカレンとしてかれの目にうつること、可憐なカレンになることが、自分を恋愛対象にしなかった男への仕返しであり、祝福であり、報われない長年の恋に耐えてきた自分への労りになる。着飾ってもやっぱり可憐になれないカレンの、どこかまぬけな表情がやりきれない。せめて一度くらい名前で呼ばれてみたかった、と彼女は思う。

見た目に気を使わないけれどモテる女、平均的な女子力のある格好をしている女、仕事が出来てオシャレが大好きでモテない女。全くジャンルの異なる三人が集まって飲んでぎゃあぎゃあ言う女子会炸裂「エボニー・オリーブ」が大好き。
それぞれの仕事の話とか、最近買った服の話とか、気になる人の話とかを好き勝手に喋って(でも意外とちゃんと聞いていてどうでもいいことまで覚えられてる)、こういう人と恋がしたいっていうありえない夢のような妄想をして(でも心の隅っこでもしかしたら…って期待してる)、他の席のカップルを値踏みしたり男性グループをちらっと覗いてみたりして、食べて食べて飲んで飲んで食べて、女は生きる。今日までのいやなことを吐きだして分かち合って、楽しいことを嫉妬しつつもおすそ分けしてもらって、明日からのエネルギーにする。くだらない略語とか言いまわしが何年も使われるネタになったりもする。そうやって何十回何百回とリセットして強くなる。自分と違う価値観を持った友達のアドバイスを参考に背伸びして頑張って玉砕して、でも慰めてくれる友達がいるから大丈夫。一緒に悪口を言って怒ってくれる人がいるから傷付いたって生きてゆける。
仕事ができてスタイルがよくてオシャレだけれど積極性がなくてモテない大椋はヤマシタさんの自己分析する自分なのかな、と思ったりしている。モテないモテたいモテない…と言ってるヤマシタさんが好き。

おとなしめの作品が集まった一冊かな。一冊まるごと一本の話だった「Love,hate love」や連作「HER」に比べると地味な印象だけれど、これはこれで。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 23:26 | - | - |