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二月ごはん

・Manner ウェハース ヘーゼルナッツ味
職場のバイトの子たちへのお土産に買った。


箱の裏。こういう小さいパッケージが18個入ってますよ、ということがよく分かる。
人数が結構いるためとにかく量が最優先。なのでウィーンのスーパーで見た瞬間に「これだ!」と思った。1キロ以上の重さがあるんだけれど、スーパーだと10ユーロしなかった。多分日本円で1000円くらい。絵の通りのウェハースなんだけれど、間に挟まっているクリームがいい具合に甘くてシャクシャクしてて美味しかった。高級感はないけれど結構食べ応えあり。
あと土産物屋で売ってる類のチョコも結構スーパーで売ってる&安かった。


これもスーパーで買ったペースト。上がバジルで下がトマト。パスタソースに!とか言いつつ結局パンにつけたりあれこれしてる間になくなった。ペーストおいしい。


ホーフブルクの売店で買った紅茶。同じシリーズでシシィの肖像画とかフランツの肖像画とかもあって、それは他の売店やスーパーでも見たんだけれどこれは見なかったな。人気というよりは生産量が少ないんだろうけど。いやそんなことはどうでもいいんだ王冠ですよ王冠。中は薔薇?の紅茶で、かなり香りがきつくて飲むのにちょっと苦労する。ポプリをお湯でこして飲んでるような感じ。でもどうでもいいんです入れ物が可愛いから。
ね!

・Demel

ウィーンのデメルで売ってた板チョコ。日本では見たことなかったので興奮。中はプレーンな板チョコで美味しかった。

・Gerstner

シシィの好物だったというスミレの花の砂糖づけ。30グラムで1000円オーバーだったのでなかなかいいお値段。いやでも食べなきゃでしょ!シシィのパッケージだし!と思って買った。そのまま食べるとまさにスミレを砂糖でコーティングした!という、スミレのつよい匂いと植物独特の苦みと砂糖の甘みが広がる。これは完全に経験として買ったと言う感じだなー。


これはホーフブルクかな。シシィの板チョコ。お土産で買いました。かわいいから。かわいいから。

・pâtisserie Sadaharu AOKI paris

サダハルアオキのマカロンラスク。マカロンラスクってなんだろ、と思って買ったのだけれど、型崩れしたマカロンにバターを塗って焼いたものらしい。なので風味と見た目はマカロンなんだけれど、あのふわっとしてたりうにょっとしている、口で言いづらいマカロンの食感はない。ラスクというかビスケットというか、しっかりした食べ応え。寧ろマカロンより好き嫌いが分かれないのかも。量とメーカーの割に値段も安かったし、家でつまむのにはいいかな。でもやっぱあのねとねとのマカロンが好きだよ!

・ROYCE

数年前から周囲で絶賛されていた、チョコレートがかかったポテトチップ。塩味にチョコってどうなの、と思って手を出さなかったんだけれど、なんとなく勢いで買ってみた。塩味にチョコでした。ポテトチップスにチョコかけたらどういう味になるか、と想像した通りの味がする。別々で食べたいと文句言いつつもなんだかんだで完食してしまったよ。くせになる。一緒に買った友人は「別で食べてもいいと思うけどこっちの方が楽だよね」と言ってた。…そういうことなのか?
ROYCEの生チョコは贅沢品と庶民のチョコの間の味がしてとてもすきです。

・Bruyerre
大好きトリュフコニャック!!!しっかりお酒の味がして、チョコも美味しくて、パッケージが王冠って何それ出来すぎだよ。
コニャックの味が強いのでお酒が駄目な人は絶対合わないと思う。いやでもこれ美味しいよーもっと沢山入った徳用サイズが欲しいです。




貰いもの、やなせたかしイラストの大きめマーブルチョコ。かわいい。

・赤い鳥
心斎橋に出たときに、本命だったカフェが物凄く混んでいたのでふらっと。ちょうどお茶の時間でお客さんの出入りが激しかったからか、一人って言うとあからさまに嫌な顔された。数少ない二人がけの席が既に埋まってるのはわたしの所為じゃないわよ…味はいいんだけど結構いいお値段なのでサービスが腑に落ちない…。


ココアと一緒に頼んだスコーン。ニワトリの背中に生クリームが入ってて、スコーンは卵のかたちの器に入っててかわいい。

・先斗町もつ鍋 亀八別館

ほんとここのもつ鍋美味しいよー大好き!デフォでついてる牛蒡もニラもモヤシもキャベツも全部苦手な食材なのに、ここで食べると美味しい。接客も凄く感じ良いし気が回るし大好きです。
以前行ってあまりの美味しさにおかわりした突き出しはこの日は品切れだった。でも代わりに出てきたハツの刺身もすごい美味しかったー大満足。
写真は〆のトマトチーズリゾット。奇跡的においしい…!!

cafe independants
地下にあるカフェ。階段を下りるときの印象がもろにライヴハウスでいい。

パスタランチ。厚切りベーコンとキャベツのパスタ。これにスープがついてる。いかにもカフェめし、という感じの味だけれど無難に美味しいし量もいい具合。店内が広いので気楽。ランチ時間はレジでメニューを注文して先にお金を払う半セルフサービスみたいな感じ。メニューや水は持ってきてくれるけれど、フォークなどは自分で取りにいく。

・Italian cafe dining 8Gspaghetteria
厨さまとわたしの大学の友達とその大学の友達の友達、という謎の四人でご対面。その人の職種の話とか政治の話とか(お察しでしょうけどわたしは聞いてるだけ)しょうもない話とか色々した。面白かったなー。接客業ではないんだろうけれど、不特定多数と接する職種ならではの社交性があった。うらやましい。
 
ガトーショコラ。中にとけたチョコとバニラアイスが入ってて、見た目の可愛さを裏切らない美味しさだった。こんなに可愛いのに見かけ倒しじゃないなんてすごい。

VIVACE.S
そのあとに厨と大学の友達と三人で行った、イタリア食堂。ワインワインワイン!三人で白ワイン4本開けてしあわせー最後の方の事はあんま覚えてない。大々的に酒をこぼして人のお札をびしょびしょにした記憶がうすぼんやり残っているので思い出さない方向で行きたい。翌朝携帯電話を見たらぶれまくった友人の写真が残っていた…。
料理は出てくるのが全体的に遅めなんだけれど味は美味しい。手打ち麺パスタばんざーい。
弟がいる長女で肉食女子、という二人に挟まれる、ひとりっこ草食のわたしでした。二人は気が合うと思ってたので心配は全くしていなかったんだけれど、盛り上がってなによりでした。

・牛角
どうも職場の友人たちは焼き肉好きばかりで、「何が食べたい?」と聞くと「肉!」という展開になる。で、四人で焼き肉。若者向けチェーン店の上のほう、という感じの値段設定に見合ったメニューと接客だった。チーズフォンデュとかエビマヨとかもあるのが楽しい。網があるんだから、ホイルさえ用意すれば何でも焼けるのを巧く利用している。デザートが豊富なのもいいね!

炉端長屋 一一
お仕事飲み会。もつ鍋と単品色々のコース。単品は美味しかったけれど、もつ鍋はあんまり印象になかったな。居酒屋の鍋としては悪くないのだろうけれど。あと店に入っても全ての店員から完全に無視される、という仕打ちを受けて心がおれました…。

・うしのほねあなざ
これもお仕事飲み会。余り何も考えず派手な格好で行ったら「シャアザクみたいやな!」と言われるようなタイプの飲み会。たのしいですよ居心地いいですよ。
褒められてるのかどうかは微妙なところ。

あとはお昼に定食おごってもらったり、スタバの桜メレンゲにはまったり、ファミレスでフライドポテト食べてて終電逃したりしました。よくたべた。
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posted by: mngn1012 | 日常 | 22:46 | - | - |

道満晴明「ぱら☆いぞ」1

道満晴明「ぱら☆いぞ」1

成年指定コミック雑誌 「失楽天」で連載されていた、殆ど下ネタの4コマ漫画。この本に年齢制限はついていないけれど、子供が読む類のものではないというか、子供が読んで面白い類のものではない、たぶん。
とりあえず口にするのもアレなオビ画像を見ていただければ大体のことが分かると思う。これが一番おとなしい部類に属するネタです。裏表紙側のオビは輪をかけてアレですよアレ。

思考が下半身に支配されているような頭のおかしい発言・行動をする、頭のおかしい女子高生たちが頭のおかしい日常を送るほのぼの日常漫画。嘘です。
嘘かな?

冒頭のカラーページで、紫色のロングヘアーの女の子が「こーもんなめなめ略して」「こなちゃん!」「こなちゃん!」と命名されるシーンがある。こなちゃんのモノローグは「この日からわたしとカドカワグループとの戦いが始まったのです」だ。勝てるはずがない戦いに身震いするこなちゃん。がんばれこなちゃん。敵はそこだけじゃないよこなちゃん。タイトルに☆マーク入れてる場合じゃないよこなちゃん。全方向に攻撃的で毒づいてて、でも卑屈に下から目線なので余計に腹立たしくて、異様に面白い。
「大学生編とか続けてもろくなことにならない」って噛み付いてるくせに「そこそこ売れたらきららに移籍します」だそうです。これらエピソードは分かりやすいゆえに生ぬるく感じられるかもしれないけれど(こーもんだけど…)、それくらいしか紹介できるものがないんだ!

笑いというのは思考の早さと、発想の奇抜さと、性格の暗さと悪さ、更には頭のおかしさが必要だと思う。そうではないところから生まれる笑いというのも確かに存在するのだけれど、わたしの好きな笑いは大体そういうところから生まれたものだ。この本もまた、そういうところから出てきたものだと思う。狂気と紙一重の笑い。頭がおかしいけど天才。すっごい面白かったけれど、プライベートで誰かにすすめられる類の本ではないな…。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 11:57 | - | - |

崎谷はるひ「プリズムのヒトミ-ヤスメ-」

崎谷はるひ「プリズムのヒトミ-ヤスメ-」

信号機シリーズ三作それぞれのその後を描いた短編集。と言っても各話120ページ近くある上、時期がかぶっているので短編集という印象はない。

「ハーモニクス」
同棲している冲村と史鶴だが、生活はすれ違っている。冲村がバイトや卒業制作で遅くに帰ってきても、家でひとりパソコンの前で作業している史鶴は気づきもしない。恋人同士の会話はもとより、対人関係で疲れが蓄積していく冲村の異変を悟るどころか、冲村がそれを相談したり愚痴ったり関係なく甘えたりするような時間すら史鶴にはない。作業をしているかれの「邪魔をする」かたちで冲村が帰宅を主張してようやく史鶴が返事をし、すぐにまた作業に戻ってしまう。史鶴がしていることは趣味や遊びではなく、冲村が学校で集団で何かを制作していることと同じくらい大切な授業の課題であったり、今後の人生を決める作業であるとは分かるけれど、どうしたって冲村に不満はたまる。

史鶴にとって殆ど唯一と言っていい友人たち、ムラジと相馬が何とか宥めてくれることで冲村は精神状態を保っている。史鶴が今どんな状態にあってそれがかれらのようなジャンルで生きていくためにどれほど大切な時期なのか、制作に置いて史鶴がどれほど周囲をシャットアウトして挑むのか、冲村よりも付き合いの長いかれらが親切に教えてくれる。だから許してやってほしいとフォローするムラジの言葉も、待てないなら付き合うなと言う相馬の言葉も、どちらも正論だろう。史鶴を理解して大切に思う一方、冲村のことも分かっている二人だからこそ出た正反対の言葉だ。二人の言葉に冲村は励まされたり煽られたりするけれど、空しさも残る。
冲村が苛立っている理由は、ただ忙しいだけ・ただ史鶴に相手をされないだけではない。かれが仕切る制作チームに、学校側からの申し出で非常に厄介な、言い訳ばかりで何もやらない上に冲村を狙っている女子がいて人間関係が荒れていること、昔から憧れていたブランドに内定をもらったはいいが自信がないことがかれを追い詰めている。

もともと乱暴なほどに単純明快な冲村はどんどん苦しくなる。殆ど挨拶くらいしかしていない史鶴との関係より、史鶴がそれでも平気なこと、がかれを苦しめる。史鶴の状況は分かるけれど、それを史鶴からではなく周囲から聞かされることだって本意ではないだろう。史鶴のことを分かっているのはムラジと相馬で、冲村のことだって今や二人の方が把握しているくらいだ。話を聞くことも打ち明けることもできない関係は、傍にいるだけ辛くなっていく。史鶴にとっての自分、自分と史鶴の関係、そういうものに冲村が疑問を持ち始めても不思議ではない。
こういうところで二人とも学生なんだと実感できる。更には一般的とは言い難い業界・職種にいるんだな、とも感じる。就活や受験で余裕がなくなって、相手を思いやることができなくなってしまうことは多い。両者が同時にその状況を迎えるとすれ違いは更に大きくなる。そしてそれぞれが違う特殊な業界にいることで、相手がどういう状況にいるのかが輪をかけて見えづらい。いつまで我慢すれば終わる、というゴールも見えないし、会話ができないのでそれを知ることもできない。そもそもゴールがあるのかさえ分からない。

史鶴が何もかもを放り出して作業している間に、かれのあずかり知らぬところで悪化してゆく関係は、最悪の展開を迎える。冲村を狙っている女子がかれに迫っているところを、その一連の状況を何も知らない史鶴が目撃して、かれは呆然としながらも言ったのだ。「ごめん」と。
その言葉が冲村に限界を超えさせた。怒鳴りつけて女子を帰したあと、冲村は史鶴に「ほんとに、俺のこといるのか?」と聞いた。怒りで冷静さを失ったかれの言葉に嫌味や皮肉が全く入っていなかったとは思えないけれど、それは多分ずっと溜めてきたかれの本音だったのだろう。史鶴にとって果たして自分は必要なのか。かれがそれほどまでに自信を失っていたということでもあり、史鶴がそれほどまでに冲村を蔑にしていたということでもある。かれからの会話は一切なく、他の人間が気づく悩みにも全く気づいてもらえず、事情を打ち明けてももらえない。そしてそこまで冲村を追い詰めていたことに、史鶴はようやく気づいたけれど、冲村からのひどい言葉にかれもまた傷つけられるのだった。

この修羅場っぷりはとても好きだったんだけれど、このあと解決するにあたっても、周囲のフォローが入りすぎているのはいかがなものかと思ってしまった。過去に散々酷い目にあってきた史鶴だからこそ、冲村が望むようにできないことがある。かれが必死で作業をしていたのは、冲村のためでもあった。けれどせめてここは、史鶴が自分の意思で腹をくくって、自分から冲村に向き合って欲しかった。それができないからこそ史鶴なんだろうけれど、もうちょっと歩み寄ってもいいんじゃないの…。
まあでもそういう自分勝手なくせに真剣に落ち込んでる史鶴を分かって、「面倒くさい」と思いつつ冲村が愛でてるからいいのか。どんどん良い男になる冲村と、友人にも溺愛されっぱなしで甘やかされる史鶴。

元々誰かを思いやって気を回すようなことができるタイプではない史鶴と、普段は落ち着いているけれど年下で包容力があるとは言えない冲村の関係は、今後も穏やかに続けていけるようなものではないのだろう。同じことを繰り返して、周囲のフォローを受けて、今後も揉めながらやっていくんだろうなあ。もうちょっと史鶴は反省した方がいいと思うけど!

「シュガーコート」
相馬と付き合い始めた栢野はひとつの問題を抱えることになる。かつて教えていた学校の生徒であり、恋人であり、別れ話から自殺未遂をしてみせた有一からメールが頻繁に届くようになった。弁護士の伊勢からは、相馬に話したほうがいいのではないかとも言われたけれど、かれを巻きこみたくない栢野は学校が忙しいと嘘をついて、しばらく相馬と距離を置くことにする。

栢野が相馬に有一の件を隠したのは、金持ちの馬鹿親に溺愛されて育った有一がどんな行動に出るのか分からないという不安と、母親の件で常に死と向き合うことを続けている相馬に、簡単に死を手段として使う有一を見せたくないという気持ちからだ。
しかしその栢野の気づかいや、かれなりの誠意は全て裏目に出る。栢野にメールを送っても返事が来ないことに痺れをきらした有一が、相馬のもとに現れたからだ。栢野からかつての恋人の話は聞いていたものの、名前なんか知るはずもない相馬は、いきなりのことに対応ができない。見た目だけはきれいな知らない男に栢野とのことを言われたり、わけのわからない一方的な言葉を投げかけられた相馬は、当然ながらその怒りを栢野に向けた。
相馬が腹を立てたのは、有一に色々言われたことでも、栢野が有一とのことを巧く対処できなかったからでもない。栢野が自分にその話をしなかったからだ。そして、自分に黙って解決するために、嘘をついて自分を遠ざけたからだ。それはかれが母親のひかりの病状に関して、ずっと家族に取られてきた対応と同じことだ。それが自分のためなのだと分かるから、理解はできないけれど分かるから、相馬はそのことを誰にも言わなかった。自分達だって辛いのに、相馬を庇おうとしてくれる父や昭生を責めずに、ひとりで溜めこんでいた。その気持ちを初めて打ち明けたのが栢野なのに、そのことを知って父や昭生に憤り抗議までした栢野なのに、同じことをした。それが相馬には辛い。家族から子供扱いされることより、恋人から子供扱いされることのほうが何十倍も苦しいだろう。対等ではないのだと思い知らされるからだ。信用されていないのだと思ってしまうからだ。
相馬の悲しみを知っていた栢野が同じ過ちを繰り返したことに対して腹立たしい一方で、栢野がどういう思考でこの行動に出たのかを知ることで、相馬の家族が相馬をどう思っていたのかも改めて理解できる。本当に相馬が大切で、相馬を守りたいと思っているのだ。その結果取った行動がかれを何より傷つけていたとは言え、気持ちは本物だった。

「ハーモニクス」とほぼ同時に起きている事件なので、冲村視点で描かれる「ハーモニクス」では分からなかったことがこちらで明らかになる。結果的には最悪の事態を見られてしまったあのとき、何故史鶴が冲村の元へ向かっていたのか。一応歩み寄るつもりがあったこと、が伺える。
また、相馬が史鶴を追い返したときのことも描かれている。相馬は相馬で色々あって、本当なら他人の恋愛の面倒を見てる場合ではなかったのに、ここまで気をまわしていたんだなあ。世話焼き相馬。ちょっと冲村に当たりがつよかったのはいらいらしてたからなのね。

有一との直接対決から解決までは拍子抜けする展開だったけれど、この大きな問題にならない勝手にやってろ感でちょうど良かったのだとも思う。有一に対して史鶴が言った「ずるい女の子みたいな」という表現に、冲村とのことで史鶴がどれほど嫉妬してたのかが分かって地味にうけた。それを冲村の前で出さないところが史鶴の良心なんだろう。
恋人同士の揉め事は、抱き合って好きだと言えば解決する、というムラジの言葉を実行してそのまま解決してしまう二人。おいおい揉め事を散々見守っていたこっちの身にもなれよ、と言いたくもなるけれど。相馬を思っているがゆえにこういう行動に出た栢野と、栢野が好きだからこそそういう行動を望まない相馬の意見はどこまでも平行線だ。相馬が大人になっていくことで歩み寄って行くしかないから、今回のことを解決する落とし所としては、これが一番ベターな選択なのだろう。ムラジ最強説。

「バズワード」
そんな栢野と有一の問題に弁護士として関わりながら、栢野の朗への態度と昭生への説明をどうしたものかと考えあぐねているのが伊勢だ。

デレ昭生というか、必死でデレようと頑張ってデレてる昭生が異常にかわいい…。
もともとシリーズ内でこのふたりが一番好きだというのもあるんだけれど、揉めまくってようやく地固まっただけに、今の平穏が微笑ましい。
仕事柄精神的にダメージを覚えても人にたやすく相談できないことが多い伊勢にとって、唯一打ち明けられるのが昭生だ。だからこそ昭生は伊勢のために料理をつくり、伊勢が話しやすいように促し、慣れないなりに慰める。心配してくれるのかという伊勢の照れ隠しの軽口に条件反射で反論しそうになって、呑みこんで「心配してる」と言う昭生のかわいさがたまらない。口の悪い受かわいいよー口が悪いままで頑張って歩み寄ってる受かわいいよー昭生かわいいよー。

有一について昭生に話すべきだ、と伊勢は思っている。その反面、朗については異様に心配性で融通がきかない昭生の反応が恐ろしくもあった。だからなかなか言い出せない。言わなきゃいけないと後にしようの間で揺れる伊勢は、昭生の機嫌を害することを物凄く恐れていてちょっと情けない。
昭生を無防備にしてから話そう、と思っているせこい伊勢の算段は外れる。有一に絡まれた朗が怒って帰宅し、伊勢と昭生の前でその話を始めたからだ。朗の話を聞きつつも、昭生の反応に怯える伊勢がまた情けない。情けなさがかわいいんだけど。大人組かわいい。かわいいしか言ってない。

しかし昭生の反応は意外にも冷静で、栢野の肩を持っていると言えるものだった。かつて自分にひかりのことで説教をしてきた栢野が、自分と同じ対応に出て朗を傷つけたことに怒りを覚えないではないけれど、昭生にしてみれば同じくらい共感もできる。結局みんな朗がかわいいのだ。栢野も自分も、知っていて朗に言わなかった伊勢も。
好きだからこそ栢野の態度が哀しい朗の気持ちを誰より理解しているのが、かつて誰よりも心を許した伊勢に裏切られた経験をもつ昭生だ。だからこそ昭生は栢野を庇い、朗に許すように諭した。そのことを事件解決後に問われた昭生は、自分と似たところのある甥が意地を張ってしまわないか、その結果かつての自分達のように長くこじれて辛い思いをするのではないかと心配したと語る。誰よりも可愛い朗に絶対にそんな思いをさせたくないほど、昭生も辛かったのだ。好きだから許せないけれど好きだから許せる、と言う昭生の言葉が、散々拗れた結果かれが辿りついた結論なのだ。
話すのがうまくないことを自覚している昭生が、必死に気持ちを伝えようとする姿勢、言葉を選んで頑張って伊勢に届けようとする努力が微笑ましくて可愛い。終わり良ければすべてよし。


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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 23:41 | - | - |

原作:京極夏彦・漫画:志水アキ「百器徒然袋 鳴釜 薔薇十字探偵の憂鬱 」

原作:京極夏彦・漫画:志水アキ「百器徒然袋 鳴釜 薔薇十字探偵の憂鬱 」
奉公先で数人から凌辱を受けた挙句、金目当ての言いがかりだと言われた姪一家の汚名を晴らしたいと願う男が訪れた先は、友人に紹介された「薔薇十字探偵社」だった。個性的な面々に呆気に取られている男の前に、更なる変人が現れる。

榎木津礼二郎主役の「百器徒然袋--雨」に収録されている最初の一編「鳴釜」のコミカライズ。一冊まるごと鳴釜。原作は既読。学生時代に交通機関の中で読んで本気で噴出した思い出がある。というか外で本読んで笑ったのはこの一冊だけだ…。

志水さんのコミカライズ能力、シリーズを理解して咀嚼して分かりやすく且つ細かく漫画に再構築する力が素晴らしいことは、完結した「魍魎の匣」、開始された「狂骨の夢」で明らかだけれど、これもまた例にもれず素晴らしかった。読み手が多い分個人のイメージは幅広く別れるし、熱狂的なファンが多い分賛否あるのだろうけれど、個人的には文句がない。
ビスクドールと称される榎木津は下睫毛ばしばしで麗しく、黙っていれば深窓の令息・儚くか弱い美青年だけれど、喋って動くと生命力に溢れている。最強で最凶の、話が通じない探偵っぷりが登場してすぐに伝わってくる。美しいんだけれど図太くて、図々しいんだけれど人の気持ちが分からないわけでもない。ある意味で誰よりも鋭い。榎木津礼二郎というなかなか説明しがたい男を、その説明しがたさを残したままうまく描いていると思う。

世界を呪ったようなしかめっ面がデフォルトの中禅寺も相変わらず。学生時代からの友人関係、腐れ縁である榎木津との駄目なツーカーっぷりが可愛らしくていい。仕事を離れた分野での理解力や道徳がまともである木場、かれらから見ると理解が遅い上、会話の途中でもひとりで思索に耽ってしまうことの多々ある関口がいない分、かれらの会話は無駄がなく通じ合う。というよりも、必要なことすら話さない。
榎木津が抽象的・観念的なことを言えば、中禅寺にはその詳細が即座に把握できる。煙草を奪い合って「やれ」「面倒くさいなあ」「やるな?」「唆すなあ」で交渉成立。ここの悪友っぽいところが子供みたいで好き。「やるな?」と言う榎木津は、中禅寺が断らないことを確信して笑っている。
更に「悪趣味なことを考えてしまった」と京極が自己嫌悪に陥りつつひとりごちれば、榎木津は喜々として「それだ!」と言う。それだけで話が簡潔し、かれらは他のだれにも全容を打ち明けることなく計画を開始する。

面倒だと言いながらも結局このくだらなくも壮大な計画の立案者になってしまった中禅寺は、しかしながら物凄く楽しそうに、ノリノリで実行する。果心居士と身分を偽ったかれの演技の堂に入り方は尋常じゃない。釜とカマのだじゃれをここまでのものにするんだから凄い。というか酷い。

本筋にあるばかばかしくも胸のすく復讐劇に、被害者でありながら泣き寝入りするしかない女性への配慮と幸福な結末が合わさった作品の中に、榎木津という破天荒でこの上なく魅力的なキャラクターが燦然と君臨している。絵の力もあって原作よりもコミカルになっている印象だけど、どの要素も程よいバランスで構成されていて面白い。榎木津の口から出る名言というかなんというか、なあれやこれやが漫画で堪能できる。あと益田の気持ち悪さとか、仕草の不快さが秀逸!
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 10:08 | - | - |

鹿乃しうこ「Punch↑」4

鹿乃しうこ「Punch↑」4

浩太が15歳から現在の19歳までの記憶を失った。15歳の浩太は当然恋人だったことどころか、牧の存在すら知らない。そのことにダメージを受けながらも、一番苦しいのは浩太だと牧は知っている。15歳のかれには自分が記憶を失ったことの自覚もないのに、思い出さなければいけないことが沢山あって、自分が覚えていないことが沢山のひとを落ち込ませていることに焦り、苛立っている。そういう浩太の繊細な心情を誰より理解しているから、牧と恋人の関係を再構築しようとする浩太に無理をすることはないと告げた。戻ってくるまで待っているという言葉も、手を出してしまいそうだから家に帰らない行動も、自分の辛い現状より浩太の自然な気持ちを優先した牧の誠意だ。
けれどそれらが浩太を更に追い詰める。「戻ってくるまで」という言葉は牧の恋人だった浩太、19歳の浩太に向けられている。今の15歳の浩太に言われたものではない。職場の仲間も牧の職場の人たちも皆優しいけれど、それは全て19歳の浩太の友人知人であり、15歳の浩太を肯定したり励ましてくれるものではない。
だから浩太が深津を見かけて追いかけたのは決しておかしなことではなかった。15歳の浩太を知っている男なら、15歳の浩太に言葉や気持ちを向けてくれる気がしたのだろう。けれど深津はあの時のままの深津ではない。19歳の浩太を見ている深津は、牧のところへ帰ることが浩太の幸せなのだと知っているから、そのことを匂わせる。おそらく深津にしてみれば弱っている浩太が欲しがっている言葉をやって、自分に気持ちを向けさせることは簡単だっただろう。けれどかれはそうしなかった。そうしなかったことが、深津の誠意だった。けれどそんなことが分かるはずもない浩太はどんどん追い詰められる。

追い詰められていく浩太を察知したのは、牧でも深津でもなく、牧の同僚の久嗣だった。牧や深津のようなダメージを受けていないからこそ分かったのだろう。かれが背を押したことで牧は家に帰って浩太とコミュニケーションを取ることを再開し、浩太に笑顔が戻る。
牧が19歳の浩太の恋人であることを知っている浩太は、かれを意識している。けれどその意識がどういうものなのか浩太には分からない。牧が帰ってくると嬉しいし、構ってくれると楽しい。どこかへ出かけることも楽しい。それが恋なのか友情なのか、家族の愛情が不足している少年の飢えなのかは、浩太にも牧にも分からない。分からないまま、けれど相手を繋ぎとめるためや関係を保つためでなく、徐々に抱き合うようになる。牧に出会った、深津に手を出されたあとこっぴどく捨てられた過去を持つ浩太ではない、屈託のない15歳の浩太と牧の間に恋が芽生え始める。
一方で浩太には過去の記憶がいきなり断片的に襲ってくるようになる。自分が知らない牧の表情や態度を見るたびに浩太は不安になる。前日の夜には嬉しかった未来の家の模型図が、翌朝にはこの上なく不快なものに見える。それは牧が19歳の浩太と住もうと思っていた家だから。今の浩太と住もうと思っていた家ではないから。浩太の中で徐々に、けれど確実に、記憶を失う前の19歳の自分と現在の15歳の自分が別のものとして扱われ始める。牧に愛されていた19歳の浩太を、15歳の浩太は敵視し始める。そういう敵意をむき出しにしたり、不安で衝動的に物を壊して泣き出したり。「俺でいいって言って」と言葉を欲しがったりするところはまさに15歳の少年だ。斜に構えたり、我慢することの多かった19歳の浩太からは見られなかった表情だ。

浩太の心情はそのまま牧にも伝わる。19歳の浩太が戻ってくる日を待ちながら、19歳に戻りたくないと泣きじゃくる15歳の浩太も可愛い。茶化された「二股」が案外的外れでもない、と牧は悩む。15歳の浩太にそのままでいいと言いながら、19歳の浩太がずっと捨てられなかった深津のレシピを大切に持っている。19歳の浩太が捨てられずにいたことに傷ついたはずなのに、いつか浩太に返してやりたいと思っている。普段はろくでもない牧の根っこにある馬鹿みたいな誠実さが切なくていい。
今の浩太は深津との一連のことも情報としては知っているけれど、記憶として残っているわけではない。深津への執着がない浩太は牧の願いだったはずだけれど、実際にそうなってみると牧はそれを押し通さない。深津とのことがあったからこそ今の浩太があるのだと、口だけなら誰にでも言えるようなことを、かれは本気で思っている。消せるチャンスを目の前にして、敢えて残そうとする。その思いがふたりの浩太を繋ぎ合わせる。

浩太の記憶が戻るところがちょっと駆け足で、コミックスを跨がないように終わらせたのかなと余計な勘繰りをしてしまったけれど、台詞とモノローグの多いこの作品で、敢えて説明されない辺りが良かった。
晴れて付き合い始めた恋人同士に起こるイベントとして、記憶喪失は非常に定番である。恋人が記憶を失っている間の葛藤や献身、記憶があやふやという不安な状況で知らない同性と恋をすること、そして何をきっかけにして戻るのか。盛り上がるだけに使い古された気のある設定だけれど、さすがに読み応えがあってめちゃくちゃ面白かった。ベタな設定も鹿乃しうこが描くと、これまでに積み上げてきた二人の物語の先にあるとこんなにドラマティックになるのか。満足!
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 12:07 | - | - |

砂原糖子「職業、王子」

砂原糖子「職業、王子」
職場にいきなり現れた金髪碧眼のアラブ王子と言い合いになった綾高は、そのままかれの部下の手で中東の島国へ連れていかれる。訳が分からないままの綾高を、王子・リインシャールは性奴隷にすると決めていた。

BL作品の中でおそらく燦然と輝き続けているジャンルのひとつであるアラブ。その多くは途方もない富を手にしているアラブの王子が、冴えなかったり平凡だったりする日本人を気に入って自国へ連れ帰り(もしくは訪れていた自国から帰さないように)軟禁する。日本人は売買オークションにかけられたり王家に伝わる媚薬をつかわれたり王位継承争いに巻き込まれてさらわれたり性奴隷にされたりしつつも最終的には玉の輿でハッピーエンド、みたいなジャンル、アラブ。そういう王道アラブをおそらく敢えて踏襲したのであろう作品。そこここに王道をふまえつつネタにするような心意気が感じられるものの、ごく普通のアラブBL。
でもただひとつ違っていたのは、アラブが受だったのです。

母親が作った借金返済のため大学を辞め、レンタルビデオ屋で使えないバイトに辟易しつつも店長をやっている綾高は、白い頭巾に白い服をまとった、あからさまにアラビアンな一行を迎えることになる。中心にいる男はレンタルだと言っているのに購入したいと繰り返し、ようやく折れてレンタルで納得したかと思えば18禁のアニメビデオを借りようとしているのに堂々と17歳だと入会書に記入する。しかも触手もののアニメ。売れない貸せないを繰り返す綾高に苛立ったのか、かれは部下に命じて綾高を気絶させ、金で周囲の人間や家族を買収し、何事もなく自国へ連れて帰った。
自国へ連れて帰るまでの展開に持って行くのに、日本の文化として触手アニメを持ちだすあたりが砂原さんだなあ。凄く真面目にラブコメしている。

聞いたこともない国カトラカマルで目を覚ました綾高は、王位継承者であるリイン王子の「性奴隷」となっている自分の身の上を知る。縛られた綾高に乗っかって好き放題する王子に抵抗できず、かれのまさに奴隷、道具として使われる。
綾高がそれほど精神的に傷付いたり、心底怒ったりしなかったのは、この急過ぎる展開にかれがついてゆけずにいることと、かれが攻の立場だったからなのか。臣下が見ている前での行為のあとも、結構タフにこの国から抜け出すことを考えたりしている。彼女の元へ帰りたいとか、日本へ戻りたいとか、そういう気持ちがあるはずなのにあまり表に出てこない。情がないわけでもないのだろうけれど、薄いのかもしれない。逃げられないと悟ったときも、その後何度王子の好きにされようとも、どこか他人事のようだ。忠臣サイードが綾高に向かって「王子がお嫌いですか」と聞いたときに、「好きか嫌いか語るほど親しくねぇ」と答えたのがその良い例だ。サイードを恐れて返事を選んだわけではない。綾高は実際こんな目にあわされても、王子を「嫌い」ではないのだ。
実際そのときはまだ親しくなかった。親しくなれば好きか嫌いか、王子に対する気持ちが出てくる。そしてかれらは同じ時間を過ごすことで、親しくなってゆく。

王子はどこまで行っても王子だ。国の王となって、一番上に立って民を率いてゆく責任がある。だからかれは海も空も砂も自分のものなのだ、と言う。自分と国民は全く違う生き物だ、と。家畜だとも言っていた。その言葉に当然綾高は呆れたり憤ったりするけれど、次第にリインの言葉の裏にある気持ちを知るようになる。そう遠くないいつか枯渇する石油。その後も、自分達の世代の後の事もリインは考えなければならない。自分の子孫だけ守れればいいと私服を肥やす連中とは違う。かれは、国民全ての悠久の幸福を探さねばならないのだ。国全体が自分のものだからこそ大切にして、守るのだ。
外では食事を殆ど口にしないこと。ひとり浮いている金髪碧眼という容姿。亡くなった沢山の兄弟。父の見舞いに行こうとしないこと。それらの理由は、17歳の少年が背負うには重すぎるものだ。それを必死で持っているかれを知って、綾高はリインを見直すようになる。かれが喜ぶことをしてやりたくなる。
石油のことを綾高に打ち明けたときにリインが言った「この国は沈みかけの船だ」という台詞がすごく好き。沈みかけた国の王子様が大好きだよ…しかも金髪碧眼…父と不仲…。

日本に帰りたいという一心で行動していた綾高の心に、ようやく帰るチャンスが目の前に来たころ異変が起こる。日本へ帰ればもう二度とリインとは会えない。かれを裏切ればひどく傷つけてしまうことも分かる。かれが公務にどれほど熱意を持って向き合っているのかも知っている。甘い言葉も気持ちを確認するような言葉も一度も交わしていないけれど、綾高は自分の気持ちも王子の気持ちも知っていた。ひとつしか選べないなら、どちらを選ぶべきなのか。

本人があとがきで言っていたけれど、確かに要素を詰め込みすぎたきらいがある。後半は特に顕著だった。前半はのんびり触手だのなんだのと言っていたのに、中盤から畳みかけるように要素が盛り込まれて、回収を優先した結果余韻が薄くなってしまった感じ。ひとつひとつがテンプレならではの安定感と、砂原さんのオリジナリティ溢れる発想で魅力的に描かれているので勿体ない。三部作くらいで描かれたらラブコメ超大作になったような気がするけれど、実際にやったらやりすぎだな。
試みとしては面白かったけれど、物語としては若干尻すぼみかな。
小椋ムクさんのイラストの王子がものすっごく可愛いので、王子の可愛さが二割増し。

あとがきの、「言ノ葉〜」とのリンクはなんだったんだろう…。
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片岡仁左衛門 昼夜の仇討 二月大歌舞伎「通し狂言 盟三五大切」@大阪松竹座

続きまして夜の部。昼の部が15時半に終演して、夜の部は16時半開場の17時開演。幕間1回で20時半終演。

薩摩源五兵衛:片岡仁左衛門
芸者小万:中村芝雀
笹野屋三五郎:片岡愛之助
芸者菊野尾上:尾上松也
若党六七八右衛門:坂東薪車
船頭お先の伊之助:市川猿弥
家主くり廻しの弥助:坂東彌十郎
富森助右衛門:市川段四郎

***

浪人源五兵衛は芸者の小万に入れあげ、蓄えの殆どを失ってしまいつつある。けれど小万は三五郎と夫妻で、夫のために芸者に扮して金を稼いでいる身だ。ある日、源五兵衛が伯父から百両を受け取ったと知った三五郎たちは、それを巻き上げるために一芝居を打つ。
かつては不破数右衛門という武士であった源五兵衛は、百両の金を盗まれたことへのお咎めとして主家を追われた。塩冶判官の刃傷沙汰による主家取潰しが起きた現在は、金子百両を調達して仇討ちの一味に加わろうとしているところだ。しかし実際のかれは芸者に溺れ、家財道具を売り払ってその日暮らしをしている体たらく。
そんな源五兵衛を単なる浪人だと思っている小万は、かれから金を搾り取る。出会ったときには既に父親に勘当された身の夫三五郎が、父から百両の金策を頼まれたのだ。これを用意できれば勘当は解消されるかもしれない。惚れた夫のため、彼女は芸者業に精を出す。
畳すら持っていかれた源五兵衛の家に訪れた伯父助右衛門は、持参して亡き主君の仇討ちの一味に加わるようにと、金百両を差し出す。この数右衛門の主君の仇討ち、というのは大星由良之介が先導する仮名手本忠臣蔵とリンクしている。義士たちが行動を起こすまでの間の日々のひとつ、なのだ。
その場に居合わせた小万たちは、その百両を手に入れようと画策し、芝居を打つ。小万を気に入ったほかの客が百両で彼女を身請けしようとしている、と慌てて源五兵衛の元へやってきたのは三五郎だ。伯父の気持ちに撃たれた源五兵衛はあまり乗り気ではないが結局座敷へ乗り込まされる。小万を代わりに身請けするような金はないと言う源五兵衛の心を揺さぶるのは、小万の腕に彫られた源五兵衛への愛を誓った「五大力」の文字と、他の男のものになるくらいなら死んでやるという彼女の行動だ。目の前で刀に手をかける彼女を源五兵衛は見捨てられず、とうとう伯父の金を差し出してしまう。
刺青まで彫って誠実さを訴えようとする小万は、夫のためとはいえ大したものだ。そして小万を身請けしようとしている男も、間に入ってわあわあ言う連中も皆ぐるという徹底っぷり。
全てを投げ打って小万を手に入れた源五兵衛だが、得るものを得た三五郎たちはすぐにねたばらしをしてしまう。小万には夫がいるので嫁には出せません、その夫は自分です、なんてしゃあしゃあと言ってのける三五郎のろくでなしっぷり。三五郎はこんな芝居をやってのけるくらいには頭がきれるので、その場ですぐに打ち明ければ決していい結果にならないと分かりそうなものなんだけれど、どうしてここで言ったのだろう。その場で斬り殺されたっておかしくない。準備がありますとかいって先に源五兵衛を帰してから逃げればいいのに。いやそうしたら話が始まらないんだけど。自分のためとは言え妻を良いようにされて嫉妬してた、と思っておこうかな。

念願叶った嬉しさから知人宅で宴席を設けたあと眠りについた三五郎たち。夜深くに、その家に忍び込むものがある。源五兵衛だ。深酒のあと熟睡している者たちを、ろくに顔も確認せずかれは斬ってゆく。けれど物音に気付いた三五郎と小万は逃げのびる。
もうちょっと警戒しようぜ!
かれらが泊まらせてもらっている虎蔵の家の窓の襖に男の影がうつる。男はそっと襖を開け、白い足を忍ばせて家へ入り込む。恐ろしいほどの無表情で、言葉はない。寝ている人間の首を落としてから灯りのもとへ持ってゆき、誰なのかを確認する。淡々と、作業でもするように人を殺す。それまでの要領の悪そうなおひとよしの源五兵衛はどこにもいない。もう何にも心が動かないかのように、冷え切った眼差しで復讐を遂げようとする源五兵衛が哀しいけれど美しい。その脇を、物音たてずに三五郎と小万がすり抜ける。恐れも悲しみも表に出さずに、今はとにかく逃げることが最優先だと分かっている小万は大した女だ。死体の転がった床を歩き、首を超えて窓から逃げ出す。見事な女だと思った。

源五兵衛の元を離れた八右衛門は昨日引っ越したばかりの家に幽霊が出るのが嫌で、また引っ越そうとしている。金の話で最初はごねていた大家は、ちょうど若い夫妻が家を探していると聞いて、好条件を出して八右衛門を追い出す。そこへ現れたのが赤子を連れた三五郎と小万だ。早速入居を決めた夫妻は挨拶をする途中で、大家の弥助こそ小万の実の兄だと判明する。
弥助との挨拶を終えた二人の家の前に、ひとりの僧侶・了心が現れる。それは三五郎の父が出家した姿だった。再会を喜ぶ三五郎は父に頼まれていた百両を父に託し、勘当を解かれる。

出ましたあれよあれよと繋がる縁。のみならず、幽霊が出ると怯える八右衛門に、弥助が「かつて伊右衛門が暮らしていたからお岩さんの霊が出るのだろう」というくだりは「東海道四谷怪談」が関わっている。鶴屋南北が自分の作品のセルフパロをやってるのだ。

勘当が解けたことを喜ぶ夫妻の元へ源五兵衛が現れ、これまでのことは水に流そうと酒を持ってくる。怯える二人が家へあげて源五兵衛をもてなしているところ、虎蔵の家の五人を殺した罪で源五兵衛を捕まえようと役人が家を囲む。しらを切る源五兵衛の前に八右衛門が現れ、自分が犯人だと名乗り出て捕らえられる。
ここの源五兵衛はある意味ものすごく演技が下手というか、どこが水に流す奴の態度なのだ、と言いたくなるくらい威圧感があって面白い。病人のふりまでした京極内匠とは大違いだ。三五郎も小万も心底怯えながら、かれの相手をする。あと源五兵衛さんは持ってきた酒を飲め飲め言い過ぎです。で勧められると自分はいらないって、毒が入ってるって言ってるようなものです。不器用。
八右衛門は源五兵衛を庇って五人殺しの罪で捕らえられた。かれは何故、主人らしいふるまいをさっぱり見せないような主人を庇ったのだろう。小万に心底惚れていたことを知っているからか。お家再興のために動いてほしいとまだ信じていたからか。

源五兵衛が帰った夜、安堵して眠る三五郎夫妻の前に幽霊が現れる。樽代を儲けたいために早く住人を出て行かせたい弥助の仕業だ。正体が明らかになった弥助が開き直って酒を飲んだことで、真実が明らかになる。
実の妹相手にも手を緩めない弥助は、正体がばれたところで反省するわけもない。悪びれず笑い、かれらが手をつけずに置いていた源五兵衛の酒を飲む。弥助の腕に彫られた刺青から三五郎は、父が懸命に尽くしていた旧主から金を盗んだ犯人が弥助だと知る。三五郎が更に問い詰めようとしたとき、いきなり弥助が苦しみだす。源五兵衛の酒に入っていた毒がまわってきたのだ。もはや助からない義兄であり、父の恨みでもある弥助を三五郎が手にかける。弥助が懐にしまっていた屋敷の絵図面を手にしたところで、了心が再び家を訪れる。事情を知ったかれは家にあった大きな樽に、用心のための出刃包丁と一緒に息子を入れ、寺で匿うことを決める。あれよあれよの急展開だけれど、わざとらしいところはない。ただ、どんどん真実が明らかになってゆくに連れて、悪い予感が濃くなっていく。
家に残されたのは赤子の面倒を見ている女性と、赤子と、小万のみ。

毒酒の効果を確かめようと三五郎の家を訪れた源五兵衛は、かれらが酒を飲まなかったと知り、とうとう刀を抜く。
最悪のところへ現れた源五兵衛が手を下す。
先ほど来訪したときのように、心を殺したような態度を取る源五兵衛だが、小万と言い合ううちに少しずつ気持ちがこぼれだす。哀しみ、恨み、憎しみの気持ち。かつて「五大力」とあった小万の腕の彫り物が、文字を加えて「三五大切」となっていることを知ったときの動揺が哀れだ。こんなになってもまだ裏切られたことに傷ついている。気持ちが嘘だったことを改めて確認して悲しんでいる。まだ好きなのか。まだ好きなんだな。小万が決して源五兵衛に媚びるようなことを言ったりしないのもいい。三五郎の名前を呼び、三五郎だけが好きなのだと繰り返す。最初は源五兵衛を騙すことにどこか躊躇うような態度を取っていた小万だけれど、どんどん図太くなる。ろくでもないけどいい女だ。そして源五兵衛はひたすら報われない切ない男。
源五兵衛は隣室で眠る女性を殺して赤子を連れ出し、小万に刀を持たせて彼女の手で無理やり子供を殺させる。「彦山権現〜」のラスト、仁左衛門さん演じる六助が幼い弥三松に刀を持たせて両親と祖父の仇を打たせたシーンと残酷な重なりを見せる。まだ誰かと戦うような強さを持たない子供に仇をうたせてやった六助、命を賭けてでも守りたい子供を自分自身の手で殺めさせた源五兵衛。
これまではひと太刀、ふた太刀くらいで人を殺めていった源五兵衛だが、小万の最期は非情に長い。何度も床に倒れては立ち上がる小万を、繰り返し斬る源五兵衛。小万の生きようとする執念、お前の手にかかるものかという執念と、源五兵衛の何が何でも息の根を止めてやる執念、自分の手で命を終わらせてやるという執念がぶつかり合う。まさに修羅場だ。鬼だと罵る小万に、二人が自分を鬼にしたのだと源五兵衛は言う。男は恋をして修羅になった。
源五兵衛ついに絶命した小万の肉体から首を切り取り、帯でくるんで懐へ丁寧にしまう。そして家を出て雨が降っているのに気づいて傘を差し、夜道を行く。研ぎ澄まされた表情と仕草がとてもきれい。

了心の寺へ戻った源五兵衛のもとへ、三五郎から受け取った絵図面を持った了心が現れる。全ての事情を知った源五兵衛・了心が共に動揺していると、部屋の端にあった樽から、腹に出刃包丁を刺した三五郎が出てくる。
早くに勘当されて人物像を知らなかったためとは言え、父の旧主本人から卑劣な方法で金を騙し取っていたと知った三五郎は、全ての罪を被ると腹を切ろうとする。了心もそれが筋であり、それ以外の道はないと思っている。その代わり仇討ちを果たしてくれという父子の願いが響く中、準備が整ったからと源五兵衛を仲間が迎えにくる。旧主のために献身した父は息子を失い、父との和解のために手段を選ばず行動した息子は後悔の中で命を絶つ。恋に溺れて支度金を身請けに使おうとした武士は怒りのままに何人ものひとを殺め、罪のない忠臣が捕らえられたあと、迎えに合流し、義士となる。皮肉だ。しかも暗くて救いがない。こういう話好き!

こちらも自害した三五郎を演じていた愛之助さんがすくっと起き上がって「本日はこれまで」のご挨拶。昼も夜も仁左衛門さんの仇が愛之助さんなんだけれど、誰から見てもいいところがひとつもなかった京極内匠と違って、三五郎は色々な面を持つ人間だ。そして非の打ち所のない人格者の六助と違い、源五兵衛はなかなかどうしようもない男でもある。だからこそ切なくてややこしくて面白い。人間味があって、すれ違いが取り返しのつかない事態を起こすからこそいい。

長屋のくだりで「本日満員御礼!」という台詞が出た通りの大入りで、大阪だからなのかは分からないが大向こうが凄く飛んでいて、熱気に包まれたいい舞台でした。
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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 17:30 | - | - |

片岡仁左衛門 昼夜の仇討 二月大歌舞伎「通し狂言 彦山権現誓助剱」@大阪松竹座

 「片岡仁左衛門 昼夜の仇討」とうたわれた二月の松竹座。昼の部と夜の部で全く違った趣の仇討ちものを、どちらも通し狂言でやる、という企画。色々な作品の名場面だけをピックアップして見せられるのもいいけれど、あらすじがダイレクトに分る通し狂言が好き。
11時開演で幕間が2回。終演したのが15時半頃。

毛谷村六助:片岡仁左衛門
一味斎姉娘お園:片岡孝太郎
京極内匠:片岡愛之助
一味斎妻お幸:坂東竹三郎
一味斎妹娘お菊:尾上松也
衣川弥三郎:坂東薪車
若党佐五平:市川猿弥
吉岡一味斎/杣斧右衛門:坂東彌十郎
衣川弥三左衛門:市川段四郎

***

同じ殿に仕える剣術指南役のふたり、吉岡一味斎と京極内匠。
内匠は一味斎の娘・お菊に恋をしているが、家老弥三郎と恋仲で子供までいるお菊はその思いに応えるはずもなく、一味斎も内匠を追い払う。更には試合で負かされた内匠は逆恨みし、鉄砲を使って一味斎を殺してしまう。
遺された家族は一味斎を殺されたことに嘆き悲しみ、男勝りな武術の腕を持つ長女お園を筆頭に、次女のお菊と夫の弥三郎、母のお幸が使用人たちとともに仇討ちを志す。
仇討ちの相手となる京極内匠。愛之助さん演じるこの男がとにかく全方向から悪いやつ。恋愛も仕事もうまくいかないことを、両方に関わる一味斎への憎しみとして蓄積させた挙句、試合を申し付けて負ける。判定が出たあとも食い下がって更に怒られ、もうだめだと暗殺計画。しかも剣術指南役だって言うのに鉄砲。更に鉄砲を準備させた男を、話がまわっては厄介だからと平気な顔で殺してからの暗殺という、それはもう最低っぷり。でも普通に犯人がばれているあたりも小物。憎み甲斐があるというか、同情の余地無く憎めるのが痛快。というかこの悪さは気持ちいい。

手がかりのない京極内匠を探すため、ほうぼうへ探しに出る家族たち。体調の悪いお菊と弥三郎が二人で家にいるとき、体を悪くして歩くこともままならなくなった内匠が家を訪れる。うらみは最もだから殺してほしい、しかしその前に、一味斎から奪った秘伝の一巻を取りに来て欲しいと言う内匠の言葉をふたりは信じ、まんまと騙し討ちに合う。
どんどん憎たらしくなる内匠さん。天罰が下ったんだ、歩けないと周到な演技で二人に近づき、存在しない一巻を探して地面を掘る夫妻をぶった斬る。暗い中、運ばれていた荷車?からそっと立ち上がるところがいい。灯をぱっと消してしまうところも格好いい。結局悪役が好き。
愛之助さんは「染模様〜」ぶりに見たけれど、役柄と関係なく、そのときより凛々しくなられた印象。遠くから見ても華があるなー。おとなしめの華だったのが開花した感じ。大輪。

一方、毛谷村。
非常に優れた剣術を習得しながらも謙虚に鍛錬を続ける樵の六助は、亡くなった母への弔いを続けている。そこへ盲目の母を連れた、弾正と名乗る武士が現れる。世間話の中で相手が六助だと知った壇上は、余命短い母に楽な暮らしをさせるため、ひと芝居うってくれと頼んでくる。六助に買ったものは賞金と身分が与えられるというお触れが以前から出ているのだ。お人よしの六助は、母思いの弾正の心に触れ、快く承諾する。

二度目の幕間を終えて、ようやく登場仁左衛門さん!!!最初に六助が花道から出てきたときの拍手がさすがにすごい。そして田舎に住む馬鹿がつくほどのおひとよし、なんていう役なのに美しいよ…ノーブルだよ…。
この母思いの弾正こそ、京極内匠。六助の人柄を事前に調べあげたのだろう、かれにとって今一番琴線に触れるキーアイテム:母を効果的に使ってまんまと賞金と、「弾正」としての立身出世を獲得する。

いいことをした、と思っている六助は、集団に襲われている男を助ける。既に深い傷を負った男は助からなかったが、男が連れていた子供はどうにか助けることが出来た。人の良いかれは子供を連れ帰る。その子供以降、六助のもとへ次々と客人が現れる。旅をしている老婆。強そうな女性。そして殺された母(婆?)の仇をとってほしいと願う村の仲間たち。かれらの話を総合し、六助は己の運命を知る。
子供というのが、使用人に連れられていたお菊の息子・弥三松。旅の途中、一休みさせてもらいに家を訪れた挙句、いきなり「親子になろう」とか言い出す老婆がお幸。強そうな女性はお園。何かのきっかけになればと家の外に干した弥三松の服が功を奏したのか、一家が六助のもとに集結する。更に六助はかつて一味斎に剣術を習っていた弟子であり、一味斎がひそかにお園の婿にと思って秘伝の一巻を託していた男でもあった。つながるつながる。お幸がもちかけた話もあながち無茶ではなかった、という縁のふしぎさ。こういう一気に点がつながる展開って現代劇だと「そんなばかな」って思ってしまうのだけれど、歌舞伎だと素直に受け入れられる。寧ろ因果とか運命とかそういうのを感じられる構成になっている。
そして気のいい仲間連中が持ちかけた仇討ちもまた、無関係ではない。仲間のひとり杣斧右衛門の殺された母(これ「婆」って言ってたけど年齢的には「母」だと思うのだ。というか母を指しての婆なのか、年齢的なものなのか。ガイド聞かないので細かいとこがわかんないけど取り敢えず大切な肉親だ!)の骸を見た六助は、かつて弾正がつれていた母親と同一人物であると知る。そして聞かされた師匠一味斎の仇・内匠の特徴から、弾正=内匠がかれのなかでつながる。
杣斧右衛門は一味斎と兼ね役で彌十郎さん。声が特徴的なのでどこにいてもすぐ分る彌十郎さんだけど、好々爺のようでありながら非常に腕の立つ一味斎と、家族を失った悲しみで顔を真っ赤にして泣く杣斧右衛門は姿だけを見れば同一人物とは思えない。
ちなみにこのあたりが有名な「毛谷村」のシーン。ここだけ見ても面白いけれど、それまでの京極内匠のろくでもなさが積み重なってこそ、の見ごたえがあった。
孝太郎さん演じるお園が、それまでは長女!大女!強い!という感じの気丈さが前面に出ていたのだけれど、六助が許婚だと分かった瞬間から妙なしなをつくったりあからさまなアプローチをし始めるのが可笑しい。

そして大詰めの仇討ち。
弾正のもとに六助が最初に向かい、試合を申し願うが身分が違うと弾正は跳ね除ける。最初に六助が現れて話を持ちかけたとき、見るからに動揺していた弾正が、自分が構築した言い訳でどんどん自信を取り戻していくのが小憎らしくていい。
けれどその虚勢も長くは続かず、結局は恨みの刃を受けることになる。白装束に身を包んだお幸、お園、弥三松が三人がかりで内匠を囲い込む。あくまで仇討ちをするのは遺族であるかれらだ。六助はまだ幼い弥三松の手をとり、かれが握り締めている刃で内匠に応戦する。奇妙な情景だし、まだ幼い子供の手を汚させるという見方もあるけれど、かれもりっぱな家族の一員であり、その務めを果たしたのだと思う。少なくとも弥三松は何も分かっていないままではない。

面白かったのは、遂に地面に倒れた内匠に三人揃って止めをさしてかれが絶命したあと、すくっと起き上がって整列することだ。絶命した時点で物語は終わり、この瞬間起き上がったのは芝居を終えた愛之助さんなのだけれど、そのぶった切り感が不思議。一度幕がひいてカーテンコール、という文化じゃないからだけど、面白かった。「昼の部はここまで」と仁左衛門さんが挨拶して、一同礼、でおしまい。満員だった客席を、上のほうまで端から順番に目で追う仁左衛門さんが印象的でした。
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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 11:00 | - | - |

渡海奈穂「夢じゃないみたい」

渡海奈穂「夢じゃないみたい」
ただ一人の友人だけと連絡を取りながら在宅で仕事をしている千野のもとに、いきなり大学時代の友人であり片思い相手であった棚澤が現れる。泥酔した棚澤は会社を退職し、妻とも離婚したと荒れている。そのまま家に帰りたくないと居つく棚澤を、千野は追い返せない。

「夢じゃないみたい」ってすごいタイトル。なにか信じられないような嬉しいこととかびっくりすることがあったときに(もしくは悲しいことがあったときに)「夢みたい」と言うのではない。夢だというのになにかとても生々しいこと、さも現実のようであることが起きて「夢じゃないみたい」と言う。これは夢なのに、現実じゃないのに、と言う前提でものごとを見る。
そんなタイトルについては特に言及されないのだけれど、主人公の千野は夢前提でものを見て幸せなことを真正面から受け止めない習性が染みついているような感じがする。結構な頻度で、ふと死んでしまいたくなる千野の心情がとてもいい。仕事の切れ目、ふと冷静になったとき。そういうときにいきなり襲ってくる自殺願望みたいなもの、とかれは長らく付き合っている。それが決していいものではないこと、仕事をつめれば頭から追い出せるものであることを知っているから、極力向き合わないようにコントロールして生きている。というのも、確固たる死にたい理由がないからだ。生きたい理由もないけれど、積極的に死を得るほどの事情もない。

親友横倉以外の誰とも連絡を取らずにいた千野のもとに、その横倉をうまく騙して居所を聞いてやってきたのが棚澤だった。千野と横倉の大学時代の友人であり同じ部活の仲間であり、千野がずっと片思いをしていた相手。明るくて優しくて聡くて誠実だったかれにはその気持ちを知られてしまったけれど、真摯に受け止めて断られたのでその後も友人関係を続けることができた。
そんな非の打ちどころのない好青年であった棚澤は夜遅くにいきなり千野のマンションのベルを鳴らし、家へはいりこんできた。これまで見たことがないかれのやさぐれた様子・荒れた原因は、結婚二年になる妻が原因だった。棚澤の上司と以前から不倫関係にあった妻は、棚澤と結婚したことで上司への気持ちを再認識したのだと言う。更には上司も妻と別れて棚澤の妻との再婚を決意したのだと聞かされた棚澤は、慰謝料と退職金をもらって会社を退職した。信じていたものが全て崩れたかれの絶望は深く、自暴自棄になる態度が痛々しい。毎夜好きでもないギャンブルで金を使い、酔って前後不覚になって帰ってくる棚澤を千野は介抱する。諌めるようなことを言わないわけではないが、特に強く出ることもなく健気にかれの面倒をみる。それを心地よく思ったのか棚澤はかつてのことを口にして、千野に「慰めてくれ」と言った。その慰めがどういう意味なのか、分からないふたりではなかった。

千野の状況だけを見ると非常に切なくやるせないのだけれど、当の本人は案外冷静だ。好きだった相手、未だに気持ちを残している相手にひとつ屋根の下に居座られて、面倒を見させられた揚句、「慰め」として何度も手を出される。けれどかれはそれを幸運だとすら思っているふしがある。どうせ長く続かないから今のうちに堪能したい幸福、つかの間の夢みたいな経験だと受け止めている。いわゆる健気受の状況なのに胸が苦しくならないのは、かれ自身がいまひとつ傷付いていないからだ。元々の自失願望のせいなのか、案外タフな精神のせいなのか。失くすことを恐れていないので強い、という悲しい状況になっている。

一生友達でいたいと心で誓った棚橋を含む、非常に暖かい人柄の持ち主ばかりが揃っていた部活仲間と千野が連絡を取らなくなったのは、その部活内でひとつの事件を起こしたからだ。起こしたと言っても千野は被害者だった。付き合っていた先輩・小倉に別れ話を持ちかけたところ、逆上して刺されてしまったのだ。近くにいた横倉に手伝ってもらってこっそり病院へ行くも当然ながら事件は明るみに出る。慰謝料の代わりに就職も家族の絆も失った千野は、現場にいて事情を知っている横倉の支えだけでなんとか立ち直った。
そんな横倉だからこそ、千野は状況を相談というか報告というか愚痴った。他に言う相手もいない。そして遅くまで語り明かして家に帰れば、浮気を咎めるようなやさぐれた棚澤が待っている。男と会ってきたんじゃないのか、ホテルに行ったんじゃないのかと疑われ、誰でもいいんだろうと罵られ、そのまま犯されても千野の心はどこか冷めている。泣きながらも、弱っている棚澤につけこんでいる自分が悪いのだと思っている。そもそもは棚澤が千野の好意を利用して始めた関係だけれど、千野は千野で罪悪感を抱いている。ふしぎな負のループに陥っている。

どうしようもない螺旋は、棚澤の就職が決まったことで断ち切られる。千野が唯一交流を続けていた横倉とのことをあれこれ卑屈に揶揄してくる棚澤に、とうとう千野が終わりを切りだした。横倉をあからさまに褒めて自分を否定してみせたり、それによって千野の甘い言葉を引き出そうとするかれをこれ以上みていたくなかったのだ。好きだから、自信を持ったかつてのかれに戻ってほしかった。だから出て行くように告げた。かれの傍にいたいという気持ちより、安定した状態に戻ってほしいという願いが勝った。
けれど棚澤はそれを呑まず、千野と一緒にいたいと繰り返し告げる。それを千野はなかなか受け入れない。信じられないというのもあるし、人目を気にする関係よりも、もっと堂々と出来る相手と関係をっ結んで欲しいと言う願いもあった。弱っているときに面倒を見たから勘違いしているのだという気持ちもある。やさぐれている棚澤を千野がめげずに介抱した日々が逆転したように、棚澤が千野に気持ちを伝えてかれの心を開かせる日々が始まる。

上述の通り千野の精神状態が少し変わっているので、棚澤のひどさがちょっと宙ぶらりんかな。千野につく傷が薄い分、棚澤の謝罪も薄い。千野は気にしていないし、寧ろ幸福なのでいいかもしれないが、あんなに散々千野にひどいことを言ったりしたりした無神経棚澤がこんなに簡単に許されていいのか…という腑に落ちなさもある。

その後の話「病める時も健やかなる時も」では、絶縁状態だった千野の家族から、かれの兄が連絡を取ってくる物語。高圧的で、上司の結婚のために最低の状態にあった千野を切り捨てた兄は、案外まともな人間だった。一番辛い時の千野に手を差し伸べなかったことは事実だが、その分も今なんとか挽回しようとしている。棚澤にもコンタクトを取ってくる兄は非常識だが、なりふり構わないほどに弟を心配しているともとれる。意外と理解のあるまっとうな兄だった。
しかし兄からのコンタクトの本題であっただろう一通の手紙に関しては消化不良で、解決策なく終わってしまったような感じがする。それまで横倉を除くだれにも守ってもらえなかった千野を、兄と棚澤が庇いたいのは分かるけれど、くさいものに蓋をしたままでいいとも思えない。とりあえずはこれから、段階を経て少しずつ、なのかな。

口絵で仲良く何かの雑誌を見ているふたり。何を見ているのか、が後半明らかになる。読み終わってもう一度イラストを見ると納得。千野の精神状態がデフォルトで悲惨で、多分完全には治らない(治る、というのが正しいのかは分からないが)だろうけれど、今後は棚澤がしっかりするからいいだろう。物足りなさもあるけれど、渡海さんはこれくらい暗めの話の方が好きだ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 23:11 | - | - |

買い物

Jane Marpleモナリザアリスのカットソー。

プロパーの時から可愛いと思っていたのだけれど、Janeを着るひとにも着ないひとにも一度も肯定されなかったモナリザアリス。クリアランスでもまだ残っていたので、やっぱり諦め切れなくて買ってしまった。カットソーも薄手だけど凄く着心地のいい気持ちいい素材で、袖もちょっとパフになってるんだよ…かわいいよ…。

Jane Marpleのヒョウ柄帽子。

店員さんにヒョウ柄って言われるまで意識していなかった程度のぼんやりヒョウ柄。ウィーンを極寒だと思ってたので防寒のために買いました。まあ寒くなかったけど、ふわふわで気に入っている。ウィーンではウィッグとコンボでかぶっていたんだけれど、いまの自毛だと微妙に似合わない。
共布で作られているリボンは安全ピンで取り外せる。

Jane Marple iphone4カバー。

iPhoneですか?持ってませんよ!
ラフォーレ原宿とweb限定販売だったギズモビーズとのコラボ。柄も値段も見る前からとにかく欲しい!と思って友達に買ってきてもらったという頭のおかしさ。ケースじゃなくてシールなので、クリアのケース買って貼るという選択肢がある模様。
そろそろ携帯が2年経過するためiPhoneにするかなーと悩んでいたところだったので背中を押された。結局どんなアプリよりも利便性よりもJaneなのです。機械に弱い。
最後の砦だったDGSの隙間(これが最後の砦だったってあたりも十分あたまがおかしい)は完全には諦め切れていないんだけれど、最近ちょっと不発なのでいいかなーとか。思ってるときっとまたすげー面白い視覚的な内容が出るんだろうけれど。


買いに行ってくれた友達が商品と同封してきたiPhoneケース。手作り!!!!わたしのすきな内向的な色味!持ち手とリボンがリバティのペイズリー!この柄のドンルのスカート持ってる!かわいいよおおおおお早くiPhoneにかえたい!えへへへ。
iPhone所持者の友人いわく道を塞いだ、らしい。塞がれた。

という自慢でした。

春物のJaneはいまひとつときめくものがない。可愛いんだけど似たようなやつ持ってるんだよなーで完結してしまいそう。あっちの花柄もこっちの花柄も可愛いんだけれどさ。あとスカートが全体的に短いため選択肢がものすごく狭い。カムバック膝丈。

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posted by: mngn1012 | 日常 | 13:20 | - | - |