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草間さかえ「地下鉄の犬」

草間さかえ「地下鉄の犬」
離婚したばかりのサラリーマン・篠田は、帰路、コーヒーの匂いに誘われて、迷い込むように煙草屋兼骨董屋の扉を開ける。そこの店主朝倉と会話を交わすうち、篠田はかれと打ち解けていく。

篠田は真面目で偉ぶったところがなく責任感のつよい非常に良い上司で、何を考えているのか分からない夫だった。元々口数が多くなく、ひとに頼ることをせずになんでも自分で解決する。そういうかれは確かに一緒に暮らしていて退屈かもしれないし、なにより、自分の存在価値を見出せなくなるのだろう。
ともあれ独身となった篠田は朝倉の店にふらっと入り、年下ののんびりしたかれとなんでもない会話をする。骨董屋をやっているという朝倉に、あるものを収納するための家具を探してもらうことにした篠田は、かれと連絡先の交換をした。入荷したときに連絡をしてもらうためだ。それは決しておかしなことではない。珍しいことでもないだろう。
朝倉の店からの帰り道、篠田の携帯電話に朝倉から電話がかかってくる。番号登録をしようとして誤ってコールしてしまったのだ、というかれと、篠田はまた少し話す。夜道、ついさっきまで一緒にいて、コーヒーを飲んで、なんでもない会話をした相手。なんでもない会話。なのに、はっきりとは自覚していない恋の始まりの雰囲気が滲んでいる。日常の延長線上にある非日常の入り口みたいな、ぼんやりとした境界に立っている雰囲気がたまらなくいい。

朝倉は穏やかで明るくて優しく、篠田より年下な分、イマドキっぽくもあった。自分にはないところのあるかれを篠田は好ましく思う反面、昔の知人に似ていることに対する不安もあった。似ているだけで決め付けられるようなことではないと分かっていながらも、篠田は疑惑を隠せない。朝倉が同性愛者であるということ。
そしてかれの疑惑は的中した。眠っている自分に触れてきた朝倉に、篠田は言う。「私は同性愛者じゃない」と。それは単なる事実だ。篠田は異性愛者だ。篠田にとってその言葉にどれほどの意味があったのかは知らないが、朝倉にしてみれば、この上ない拒絶の言葉だった。つい先日離婚したという篠田が異性愛者であることなど、今更言われなくても分かっている。だからこそ、それをここで言うということは、朝倉を受け入れられないと言ったも同然なのだ。
ストレートすぎる篠田の言葉に朝倉はショックを受けるが、篠田がそれほど深く考えていったわけではないこともおそらく分かっていただろう。けれど朝倉は、篠田を拒んだ。篠田自身、篠田が提示する、「今まで通り」がこの先続けられないと分かっていた。露悪的に自分の気持ちを伝えて、かれは曖昧な友人関係を切った。

しかしさすがに、それで分かったと全てを終わらせられる篠田ではない。言葉の裏に感情を潜ませることが得意ではないかれの言葉は真実だけれど、足りない事が多い。ゆえにそれだけでは伝わらないことも多い。誤解されることも多い。それをこれまでの経験で身を持って知っている篠田は、一歩を踏み出した。「同性愛者じゃない」の言葉が意味する、若い頃のかれが経験した後悔。「今まで通り」を望んだかれの孤独と、決して関係を再構築できなかった過去への反省。
足りない言葉だけで伝わるはずもないそれらを、篠田の努力によって朝倉は知ることができた。何かとすぐに遠慮したり悲観的になったりする二人が、それでも諦められなくて頑張って掴み取る両思いは、ぎこちなくて、幸せそう。

草間さんの中では非常に分かりやすい物語だと思う。読みやすくて、どきどきできて、でもちゃんと個性も残っている。眼鏡もおじさんもある。バランスが良くて面白かった。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 14:50 | - | - |

斉藤まひる「愛の謎が解けたとき」

斉藤まひる「愛の謎が解けたとき」
板前の元彦は、月に数度、代議士と会食をするIT企業の社長・北村啓一のことが気になって仕方がない。自分達従業員に対する柔らかな態度、少しでも自信のない料理を出すと残してくる確かな味覚、そしてなにより美しい顔立ち。啓一のことばかり考えるようになった元彦は、ある日、代議士と北村の部屋に盗聴器を仕掛ける。

BLは初めて書いた、という作家さんの一冊目の本。
非常に不思議な作品だと思った。あれよあれよと予想できない方向に展開される序盤で、振り落とされそうになる。啓一を意識するあまり突飛な行動に出る元彦は、代議士と啓一が部屋で何をしているのかを知ってしまう。かれらは会談ではなく、逢瀬に来ていたのだ。それを見てしまった元彦はいてもたってもいられなくなり、盗聴器を仕掛ける。かれはもはや自分の理性で自分をコントロールすることができないほどに、啓一に惹かれていた。挨拶程度しか交わしたことがない、自分より年下の会社社長に。既にかれは正気ではなかったのだろう。そして盗聴器はすぐに見破られる。
その夜啓一がひとりで元彦のもとに現れ、かれに死を突きつける。というよりも元彦が先にそれに気付き、二つ返事で受け入れた。そしてかれらは樹海へドライブする。行動が突飛なら会話も突飛で、脈絡に欠けている。奇妙な状態で会話しているお互いも、相手が何を言っているのか理解しかねているようなところがある。一瞬でひとの命を絶てる道具が手の中にあって、周りは死体や死で充満している。そんな極限に近い死のなかで、つい先ほど初めてまともに言葉を交わした二人が、妙に落ち着いて会話をしている。
元彦の中には、別に死んでも構わない、と、何としてでも死にたくない、の両方がある。だから啓一も元彦の言葉の真意を掴みかねている。理解できない存在を目の前にして、自分の銃を見ても恐れおののいたりしないかれを目の前にして、啓一は動揺する。意のままにならないことへの苛立ちと、想像できない対応をする相手への焦燥と、むせかえるほどの死への恐怖。
一進一退どうなんだこれ、と思い始めたころ、二人は啓一のマンションへ戻り、共同生活を開始する。

一切の外出を禁じられた元彦は、啓一専用の料理人としてかれに食事をふるまうようになる。母の死以降目標らしい目標を失っていたかれにとって、偏食なうえに食が細く、舌の肥えた啓一が気に入る料理を作ることは非常に楽しかった。しかも啓一は、元彦が初めてと言っていいくらいの強さで好きになった相手なのだ。

仕事で飛び回る啓一と、料理の買い出しすら人を使わなければままならない元彦。元彦の才能と努力と、なにより想いやりに溢れた料理を食べるうち、啓一は次第に打ち解け始める。啓一に食事をふるまうときは、慇懃無礼なほど丁寧に元彦は喋る。かと思えば世間知らずの啓一を茶化したり、愚痴を聞いてやったり、年上の男らしく忠告したりもする。元彦は啓一に心底惚れていて、啓一はそれを知っている。知っているけれど何もしないし、何もさせない。ただ夜は同じベッドで眠る。ただ、眠るだけ。奇妙な生活は可愛くてぎこちなくて、いびつだけれど微笑ましい。どんどん険の取れていく啓一は可愛い反面、隠していた寂しさや哀しさを見せてくる。それを知れば知るほど、元彦はかれに夢中になる。距離が近づいていく過程がすごくいい。

どうなるかと思った代議士のその後は、描かれてはいたけれど結構あっさり。元彦が巻き込まれる事件や、もはや職場に戻れないかれの今後も、弱冠拍子抜けしてしまうくらいあっさりだった。啓一のことを心から考えた元彦の創る料理と、それに対する啓一の反応、そしてそれに応じて心を開いていく様子は好きなんだけれど、最初と最後が若干突飛な印象を受ける。トンデモ、というほどではないんだけれど、入り込むまでにちょっとてこずるかな。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:10 | - | - |

砂原糖子「天の邪鬼の純情」

砂原糖子「天の邪鬼の純情」
人見知りで会社でもあまり注目されない地味な津山は、男性からも女性からも一目置かれる社の先輩にして「王子様」の芦原に告白される。誠実なかれの言葉を悪し様に嘲って否定した津山は、実は、意識する相手ほど素直なことを言えない天の邪鬼だった。

かーわーいーいー。
最近復刊ものも含めてちょっとヘヴィーな話が続いていた砂原さんの、久々のおばかコメディ。
先に好きになったのは津山のほうだった。入社早々ある恥ずかしい失態を犯してしまったかれを、誰も助けてくれなかった。人間関係も築かれていなかったし、三白眼でおとなしい津山はあまり初対面の印象が良いわけでもない。そんな中、当たり前のこととして津山をフォローしてくれたのが芦原だった。ルックスが良くて仕事が出来て人当たりも良い、男性にも女性にも上司にも部下にも好かれて当然の芦原に、津山は恋をした。幼い頃のあるきっかけで女性が苦手になってしまった津山にとってそれは決してイレギュラーなことではなかったけれど、当の芦原からの告白は、イレギュラーそのものだった。

好きな相手ほど、意識してしまう相手ほど、素直になりたい相手ほど素直になれない津山の病の根は深い。勇気を出して告白してきた芦原をすげなく断るならばまだしも、迷惑だと不愉快だと傷つけてしまう。言いたくないのに、思ってもいないことばかり言ってしまう。そして直後に自己嫌悪。
それでも芦原は紳士だった。急にそんなことを言った自分が悪いのだと謝罪し、元の会社の先輩後輩に戻ろうと努力しているかれに、津山はまた惚れなおす。そしてまた意識する。最悪の循環は、続けているうちにさすがに芦原が怒るか、自分を嫌いになるかというゴールしかない。分かっていてもどうしようもない。じれったいじれったい!

ある条件が成立すると、津山は素直になれることが判明する。それを知った芦原は、津山の相談相手・ヒカルと共謀して、条件が成立する状況を作り上げる。好きな相手の本当の気持ちが知りたいという芦原の願いと、いい加減片思いに酔うだけで満足するのを止めろというヒカルの呆れ半分の後押しによって作られた状況に、津山は従った。かれ自身だって素直になれるものならなりたかったし、多少の恥ずかしさはここまでくれば投げ打つべきだと腹を括ったのだ。

恋愛経験がろくになく、芦原と両思いになれるなんてことは微塵も考えていなかった津山はとにかく色々なことがうまくできない。せめて芦原のためにとした努力も他人の手柄になるし、会話すらままならないし、好きなのに何度も芦原を傷つけている。けれどそれを謝罪することすら、津山の天の邪鬼が邪魔をする。
そういう自分を不甲斐なく思う津山は苛立ち、焦れ、悲しんでいる。いっぱいいっぱいになったかれの気持ちは、津山の望み通り強引に振舞ってくれる芦原の行動によって爆発する。縛るように言ったのも、止めるなと頼んだのも津山だ。その津山の真意を汲み取って芦原は津山を抱こうとする。顔を出した津山の天の邪鬼は酷く抵抗するけれど、芦原は意に介さない。喜びと怒りと、経験値の低さによる混乱でパニック状態になった津山は、罰されているような気にすらなって、「ごめんなさい」と泣き出す。罰されるほどのことを自分がしているのだという思いがかれの中にあるのだ。取り繕う余裕をなくした津山はやっと素直になれた。
勿論終わってしまえばまた、いつもの津山に戻ってしまうのだけれど。

素晴らしくタイトル通りの作品で、ほとんど恋愛しかしていないふたりの犬も食わないようなやりとりなんだけれど、そのラブコメ純度の高さがとても痛快。天の邪鬼=素直になれない、というテーマで期待することが全部入ってます、という感じ。異常なまでに天の邪鬼な津山が素直になれずにいるときもかわいいし、たまに素直になったときもかわいいし、そんな津山を理解して付き合いつつもたまに心折れてしまう王子様・芦原も実は変な人でかわいい。ド天然と言うか、変人津山の変なところに恋をしたこの男はやっぱり変だったのだ、というところ。破れ鍋に綴じ蓋、どっちもどっち、でもふたりは本気で純愛。一生やってろかわいいから!

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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 14:42 | - | - |

ミュージカル「エリザベート」@帝国劇場 13:30公演/終演後トークショー


エリザベート:朝海ひかる
トート:石丸幹二
ルドルフ:田代万里生
ゾフィー:寿ひずる
ルドヴィカ:阿知波悟美
少年ルドルフ:菊池駿

***
本来行く予定ではなかったんだけれど熱がおさまらず、よく考えたら金曜休みだし予定ないしトークショーだししかもスペシャルチケット出てる、あれ、これ行くしかないよね…!という答えに辿りついた。ここで使わずして何のための貯金だ!と思っていたところ、「カードはお守りじゃないんだ」という名言で背中を押された。ゼロライナーで帝劇まで行きたい。

数日前に慌ててとった席は二階前方の下手寄り。ちなみにS席13000円が9500円に。本当は早めに当日券に並んで取る方が見やすいんだけれど、遠方から行く身にはリスキーなので諦めました。
初の二階席はオケピが見えて楽しい。距離がある程度存在している分、曲や歌の聞こえ方が違ってくるのも新しい発見。

***
どんどん粘着質になる石丸トートがほんと素敵。「最後のダンス」で階段をのぼりながらのハミング、そして「俺だ」のあとのシャウト、ああもうこのトートは一本線が切れちゃってて、超好き。
倒れたシシィの下に医者として現れたあと、「命を絶ちます!」と言った彼女に対して「それがいい…!」と地響きを起こすようなうねりを帯びた声で囁いて、一気に扮装のコートを脱ぐところも大仰。異常な勢いで脱いで、そのコートをこれでもかと言うくらいに放り投げる。いちいちうるさい仕草がいい。そのときの、獲物に食らいつかんとする肉食獣みたいなポーズと眼もやりすぎでいい。
結婚式、問いかけるトートにシシィが「はい!」と返事をしたあとのトートの高笑いがまたすごい。トートが去ったあともスピーカーからいくつもの声が響き渡るんだけれど、「ハッハッハ」「アハハハハ」の中に「ウヒャヒャヒャヒャ」みたいなのがある…。
最後通告をフランツに着きつけたシシィの机に座っているシーンも相変わらず可笑しい。羽ペンを思いっきり舐め上げてた。
基本は勿論格好良くて麗しいんだけれど、オモシロカッコイイ要素が随所に入ってきている。本人というかトートは本気なんだけれど、その本気だからこそのおかしみがある。それはイコール憎めなさであり、愛すべきところ、でもある。最初に見たときからちょっと思ってたんだけど、石丸トートって跡部っぽい…。

少年ルドルフが「ママ、何処なの?」で剣を抜くときにうまくいかずもたついていたんだけれど、そんなときでも声に動揺を出さず歌い続けて、何事もなかったように剣を無事抜いて掲げていた。失礼だけれど、この子はもう既にプロの俳優なんだな、と実感。すごい。

死の舞踏でトートダンサー達に上着を脱がされ、翻弄されるルドルフ。下手から来るダンサーのひとりが、いつもルドルフの右胸あたりから何かを奪うような素振りをしているのが気になるんだけれどいつも分からない。別に物を取っているわけではないし、最初は心臓かと思ったけれど左右反対なので、うーん謎。引き金を引くときのルドルフの表情が複雑。薄く笑ったり、覚悟を決めるような眼をしたり。ろくに愛を受けることなく、騙されて幕を下ろさせられた青年が最後に感じたものは何だったのだろう。トートダンサー扮するドレスの女性たちが与えてくれる甘い陶酔か、ゆっくりとしかし確実に追い詰めてくるトートの圧迫か。

ルキーニから受け取った新聞に眼を通して嬉しそうに笑うトートの、邪気しかないはずなのに、まるで純粋な子供のような屈託のない表情が良い。
繰り返しになるけど「夜のボート」のフランツが、回を重ねるごとに好きになる。自分の「分かって」はシシィに受け止めて貰えないのに、彼女の「分かって」をわかろうとする不器用な男。いくつも失敗した、何度もシシィを裏切った、でもかれはシシィを心から愛していたのだ。
自分とは別のゴールを目指して進むシシィという小舟を見送ったあと、待っていたルキーニに杖を預けるシーン、尊大なフランツとやけに恭しいルキーニという構図は、オペラを見に来た皇帝と従業員のそれに他ならない。ついさっき永遠の別れをしてきた、そういう哀しさをおくびにも出さない、出せないフランツの苦悩がみえる。そして悪夢の中でぼろぼろになるフランツが好き。若い頃の妙にテカテカした、夢と希望に溢れたフランツもかわいいけど。
血縁者の死が早送りで紹介されるシーン、火事で死亡した女性がこないだは「火事だわー!」と言って消えて行ったんだけれど、今日は「キャー!」だった。こういうところも味が出る。

ラスト、シシィを棺に入れ、ルキーニを自殺させたトートが片頬を上げて笑う表情で終わる。この得意そうな閣下の顔…。石丸トートはシシィのことを凄く好きなのは分かるんだけど、一目惚れした経緯の通り、彼女の内面とか本質をあんまり理解していない気がする。好き、を分析しないというか。好きだ、俺のものにしたい、以上!みたいな感じ。短絡的でもないのだけれど、自分が好き過ぎる。

***
カーテンコールのあと、実質5分くらいの小休憩を挟んでトークショー。
指揮者の塩田明弘さんが出てきて、「どうも、山崎邦正でーす!」とご挨拶。いや、似てるけど…!「似てる?似てる?よかったー!」とひとまずウケたことに安心してた。そしてトークショー参加の面々が登場。上手から田代さん、石丸さん、朝海さん、塩田さんの順番で座る。田代さん・石丸さんはカテコの衣装、朝海さんはボルドーで非常に襟の大きなドレス。

塩田さんから一人ずつ紹介されるのだけれど、石丸さんが、SEX MACHINGUNSが昔よくやってたヴィジュアル系のポーズしてた…手を顔のあたりに掲げるやつ。ただどう見ても跡部のインサイトです…。このふたつ書いておけば大体説明できるんじゃないかと思っている。ちなみにあとで塩田さんにポーズを突っ込まれて照れくさそうに笑ってた。

三週間ほど経過した今の心境は、という話のときに田代さんが、「僕あと数回で終わってしまうんです」という話をしていた。ルドルフとしての出番は冒頭と、「おはようございます皇帝陛下から死ぬまで」の20分出ずっぱりのみなんだけれど、その一部集中型の出番がルドルフの演技をする上で合っているとのこと。
毎日毎公演出ているルドルフとは逆に、トリプルキャストをまわしているトートは凄く不安らしい。先日五日間出番のない日があった石丸さんは、不安で仕方なくなって、四日目には帝劇に来て、マチネの間は別の部屋で一人練習し、ソワレは観劇したらしい。「あー城田くんこういう風にやるのか、って勉強にもなる」そう。Wキャストの朝海さんはあまり気にしないようにしつつも、自分が五日あくことを思うと恐ろしい、と言っていた。

カンパニーが凄く暖かくて、新しいメンバーも非常に暖かく迎え入れてくれる、という話。山口さんが自分と城田君にとても丁寧に教えてくれる、と石丸さん。田代さんは、朝海さんとの舞台上での接点は「僕はママの鏡だから」の一曲だけれど、実際裏では凄く親切にしてもらっている、と言う話。稽古が終わったあと、「闇が広がる」のダンスを熱血特訓してもらったらしい。朝海さんが「ちょっと見るに見かねて…」と優しい顔できつい一言。ルドルフ経験者だもんなー。田代さんはダンスが今回初めてなので仕方がない、しかも振り付けの先生も驚くくらい成長が早い、「次の日には出来てる」(石丸さん)とフォローもあり。田代さんは謙遜しつつも、皆さんのおかげでできるようになってきました、と言っていた。あと朝海さんが誰かにお菓子をあげようと思っているときに顔を合わせるのが大体田代さんらしく、「朝海さんはいつもお菓子をくれる」人らしい。

ルドルフとトートのキスシーンの話にも。石丸さんは昨日餃子を食べたらしく、キスシーンのある田代さんと、接近する機会の多い朝海さんに予め謝っていたそう。二人は感じなかったらしいが、田代さんがその話をしたメイクさんは、餃子くさいと思っていたらしい。
一番面白かったのが、田代さんが「伊礼さんとよく、『石丸さんが一番野獣だね』って言ってます」と屈託なく笑ってたことかな…何二人で喋ってんの…。石丸さん曰く、他の二人は身長があるので上から行けるけど、自分はそうじゃないので横からガバッと行かなくてはならないらしい。あとキスしつつ拳銃を出してこなくてはならないトートは内心必死らしく、ひっかかってうまく出せないときは、ルドルフを支えにしてるそうな。

トートのメイクについて、こういう長髪やネイル、指輪は初めてだと石丸さん。「劇団ホニャララで『美女とホニャララ』をやったとき」とぼかすと、塩田さんが「そう、幹二(幹ちゃん?)野獣だったんだよ!」と台無しにしてた。その時以来二度目のコテコテメイクだったそう。長髪に慣れていないので、髪が口元に入って大変らしい。石丸さん、愛媛出身千葉育ちって見たんだけど、結構コテコテの関西弁だった。トートが関西弁でガツガツ喋るのでおかしいおかしい。
田代さんはとにかく汗っかきで大変、汗がよく飛んでる、という話も出ていた。

塩田さん、自分の場所は特等席だ、と嬉しそう。石丸さんも、塩田さんノリノリだなーと思いつつ演技しているらしい。キャストによって間が違うので、そのあたりを変えるのも楽しいそうだ。

石丸さんはゴンドラで降りてくるのが楽しいらしい。客席を見ながら、「まだ誰も上げてないな」とオペラグラス確認に余念がないそうだ。「こんなこと絶対ないけど、スタッフさんに失礼だけど、ゴンドラ止まったらどうしようって思わない?」と塩田さんに聞かれて「思ったことない。止まったらその場で『愛〜』って歌う」と石丸さん。

朝海さんのドレスの話。カテコのドレスか、ハンガリー皇后即位のドレスで出てくるもんだと思ってた、と言われた朝海さんは、自分が凄く気に入っているからと「パパみたいに(リプライズ)」の衣装を選んだそう。あのシーンは暗くてドレスがはっきり見られないので、明るいところで見られて嬉しかった。確かに超かわいい。襟が凄く大きいので朝海さんが更に華奢に見える。裾のドレープもかっわいい。

連日満員のお客さまの前で演じられて幸せ、是非口コミでもっと広めて、ちなみにあなたたちももっと回数増やしていいんだよ、みたいな挨拶でおしまい。塩田さんが「今度もあと2回3回と見に来てください」と仰ってて、内心「最低でもあと6回あるよ…」と項垂れた。
全部で30分くらいかな、あっと言う間だった。満足!

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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 23:34 | - | - |

乾燥対策とか

殆どの季節において乾燥と戦っていますこんにちは。

冬と花粉の季節の比ではないのだけれど、年中乾いているのが唇。はっきり言って学生時代なんてリップクリームは必要なかった。リップクリームを塗ることによる効能に意味があったのではなく、リップクリームを縫っているワタシ、に意味があった。その後ランコムのジューシーチューブの物凄い流行によって、グロスという効果的かつ口紅ほど難しくないものを覚えてそちらへ移行するのだがそれはさておき。
ここ数年はずっと唇カサッカサ。片岡吉乃「クールガイ」の氷室くんが彼女に向かって、唇がカサッカサだから「絶対チュウしたくない俺」と言い捨てていたのを思い出す。まあ氷室くん俺様だから好きじゃなかったんだけど。えっと何の話だ。
唇のケアです。見た目もよろしくないし、何より痛みがあるのでいろいろ対策を講じていたのだけれど、いっこうに良くならない。たっぷりケア用品を縫ってサランラップでパックすると翌朝はマシだけど、夕方にはもうかさついてる。勿論夕方までもずっとリップは塗っている。
ドラッグストアのプチプラだの、医薬部外品だのから、百貨店コスメの結構お値段のはるものまでチャレンジした。でもだめ。もう叶姉妹みたいにハチミツ塗って寝るしかないのか、でも寝返りうったらシーツや枕にハチミツつくよね、虫、来るよね…とかおびえていたら、ひーたそからDHCのリップスティックが評判良いから試してみたい、という話を聞く。
わたしは効果があると評判の睫毛美容液がさっぱり効かなかったことでDHCを軽んじていた。オイルクレンジングが会社を問わず苦手なので、オイルクレンジング界の雄っぽいイメージもまた、そのイメージダウンに拍車をかけていた。のだが。たまたまドラッグストアで安売りしていたのを見つけて、しかもそれがひーたそが泊まりに来る日だったものだから、二本まとめてお買い上げしてみた。

結論、超、良かった。

塗った瞬間からいい。最近は固形じゃなくてクリーム状・ジェル状のものを中心に試していたのだけれど、固形って塗りやすいしコスパもいいし、それで効くなら文句ない。まあ本質的な改善には至っていないので放置してると乾くけれど、そのスパンは前より大分長くなった。半月くらい使ってるけどトラブルないし、塗ってれば問題ないので取り敢えず送ればせながら、薬用リップを崇める行列の最後尾につきたいと思います。

700円のリップひとつでこんなに書く必要があるのか。

あとは口紅・グロス自体も見直す時期に入ってきたとつよく感じる。外資コスメのスキンケアやファンデが使えない身としては、ポイントメイクが小さな楽しみだったんだけれど、それも諦める時期かな。そのうちアイシャドウもダメになったりするのかしら。こわい。

***
乾燥魔なのにTゾーンがテカるのもデフォルトですこんにちは。
なんかこう、不特定多数の人に向かって、唇がカッサカサでTゾーンがテッカテカです、と語るのもどうかと思うんだけれど、そもそもこんなにほもまんががすきなの!って毎日言い続けてる人間の倫理観なのでたかが知れている。

ファンデはRMKのクリームとエマルジョンに変えたことで劇的に改善されたのだけれど、RMKの下地はどうもいまいちで、皮脂を押さえる効果が強い(且つ肌が荒れない)ものを探すべく、サンプル荒らし中。正直一長一短で決め手に欠け、どうでもよくなってきて、もはやテカらない選択肢がないんじゃないかとすら思えてきた。しかし諦めたって誰も助けてくれないのでめげない。
パーフェクトなものがあれば皆それを買うんだから、これだけメーカーが乱立している以上それはありえない。結局自分に合うものを探し続けるしかない。

なので下地を保留にしつつ、ローラメルシェのルースセッティングパウダー、トランスルーセントを買ってみた。評判がいいのは前から知っていたのだけれど、二の足を踏んでいたのは、手持ちのパウダー(ジル)がちっともなくなる気配がないことと、京都にないこと、東名阪でコスメカウンターに行くと異様に混んでいること、が原因。
しかし有楽町の西武は一味違った…!平日の開店直後に行ったこともあり貸切状態…!閉店時間なのに帰らず居座っている客になったような居心地の悪さを覚えつつ、色々質問してお買い上げ。使い始めて数日経つけど、確かにかなり皮脂を抑えてくれる。勿論全くテカらないわけじゃないけど、頻度というか勢いがかなり控えめ。
あんまりにも顔がテカるって連呼したからか、BAさんがお直しのジェルも塗ってみてくれたのだが、これもいい。長時間テカりを抑えるものなので効果は夜に実感したんだけれど、そのうち買おうっと。京都から来たって言った瞬間にリピーターにならないと感じたのか、接客のテンションがだだ下がりしたけど負けない!

あとパウダーのときにされた「油を食べ続けてくれる成分が入っている」って言う説明が地味にツボった。こわい。でもたすかる。

***
MACで限定品のアイシャドウ買った。
ブルー×ピンクって服としては好きな色合いなんだけれど、アイメイクでは挑戦したことがなかったのでトライ中。発色が控えめというかあっさりしてるというか、もしかしたら単に良くないだけなのかもしれないんだけど、あんまりガッツリ出ないので使いやすい。MACでガンガンに焼いたBAさんに「お客様は色白でいらっしゃるから」と言われるときの複雑な心境たるや。
べつに外に出ない人間としては普通の白さです。

***
あとは母親が買ってきたメイベリンのジェルアイライナーがわたしのBOBBI BROWNのアイライナーと大差なくてちょっとへこんだ。これで色バリエ増えたら浮気してもいいよ。

***
おかっぱにして一ヶ月余。目の上ギリギリだった前髪が伸びてきている。まっすぐぱっつんだと自分で調整できるけど、ラウンドで切って貰っているのでメンテナンスが難しい。切って貰った美容院で500円の前髪カットメニューがあるので行こうかなあ。

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posted by: mngn1012 | 日常 | 20:00 | - | - |

戸川視友「ぼくたちの吉祥寺恋物語」全4巻

戸川視友「ぼくたちの吉祥寺恋物語」全4巻
大阪から東京へ引っ越してきた哲を待っていたのは、マンションの大家だという青年・左宗。その美貌が原因である事件に巻き込まれたこともある哲は馴れ馴れしい左宗に警戒心を隠さないが、実は同級生だった左宗の穏やかさや優しさに次第に心を開いていく。

「視」の字が出ない!
べつに吉祥寺じゃなくても問題のない話なのだけれど、そこはそれ、吉祥寺企画だから。タイトルにまで吉祥寺って入れちゃう。きっとその当時の吉祥寺を知っているひとにはたまらないんだろうな、と思わせる地元ネタや、やけにリアルな風景もある。
90年代に発売された作品の文庫化なので、当然ながら現代とは状況が違うところが多々ある。携帯電話どころかポケベルもないし、みんな家にある黒電話で連絡を取っている。そういう時代だった以上、こういう展開が生まれてくるのは必然なのだけれど、「駅の改札や出口の名称がややこしいために、お互い違う場所で相手をずっと待っていた」なんていうエピソードは今では考えられない。そういうことで一喜一憂しながら思い出を作っていく恋人たちの姿が微笑ましい。

非常に整った、中性的な顔立ちをしている哲は、黙っていればかよわく、守ってやりたい気にさせられる。しかしかれは決しておとなしい性格ではないし、初っ端から大家の域を超えて接してくる左宗に対する不信感・警戒心を滲ませている。哲の容姿を潤いだと感じている男子校の級友たちにもうんざりしている。その、見ようによっては生意気な態度は、哲の容姿に騙された人間を我に返らせると同時に、一部の人間の加虐心を煽る。可愛がってやりたいけれど、懐かないのなら屈服させたい、そういう気持ちを起こさせる。

これまでに散々そういう連中の秋波を受け取ってきた哲は、あらゆる人間を十把一絡げで警戒している。左宗もまた、例外ではない。女の子をからかうような事を哲に言ったり、不用意にスキンシップをとったり、あわよくばその先を狙っている左宗は、哲にとってはその他大勢の連中と同じだった。嫌味で、人をからかう食えない男。しかしその評価は次第に変わってゆく。

自分にとって左宗は特別な相手なのだと哲が思い始めるのに、そう時間はいらなかった。恋愛に不慣れなかれがそれを自覚するのには少しの時間が必要だったけれど、左宗の根気強さと哲の隠れた純真さが、二人を恋人にした。けれど、哲はその先に進めない。それはかれが大阪からひとり上京してきたこととも関係している。かれは地元で複数の男に乱暴をされ、警察沙汰になり、ニュースで報道されたのだ。

酷い目に合わされた過去がトラウマになり、恋愛に臆病になった主人公が、徐々に全てを受け入れてゆく物語は、それこそ数え切れないほど読んだ。BL/やおいのお約束中のお約束と言っても過言ではないと思う。
これもまたそういう作品のひとつなのだけれど、事件のあとの母親の反応や、土地を離れても回ってくる噂に苦しめられるかわいそうな哲が、ただ左宗に出会って愛されて救われたのではなく、少しずつかれ自身が強くなっていったのがとても良かった。
哲に降りかかる辛いこと悲しいことが途中から二人が立ち向かう問題になり、それに何度もくじけそうになりながらも、哲は逃げなかった。左宗がいてくれたからだ。物理的に左宗が傍にいないときでも、哲がかれのことを思うと立ち上がることができたからだ。絆は強くなり、その分だけ哲は強くなった。これまで気づけなかったこと、母親の弱さや愛情にも気づけるようになった。左宗もまた、守りたい存在を得て強くなった。譲ること、耐えることを知った。

帰省を終えてマンションに戻ってきた哲は、迎えに来た左宗と町を歩き、既に自分にとってのホームが吉祥寺であることに気づく。かれのホームはすっかり馴染んだこの町だけじゃなくて、隣に居る男でもあるのだろう。

当然ながら絵や表現に時代を感じるところもあるけれど面白かった!正統派のテーマで四冊ばっちり読ませてくれる。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 20:44 | - | - |

雲田はるこ「野ばら」

雲田はるこ「野ばら」
亡き両親の後を継いで洋食屋を取り仕切っている梶原は、子供を置いて妻に出て行かれた年上のスタッフ・神田がゲイだということを偶然知ってしまう。まさかの事実に驚きつつも、梶原は神田を意識し始める。

嫁に逃げられた子持ちの神田は四十前で、洋食屋と在宅の仕事を掛け持ちし、更には元気盛りの子供を育てている。小柄で痩せっぽっちでいつも控えめに笑っているかれは、事情をよくしらない梶原にしてみれば、この上なく気の毒に見えた。娘のモネが梶原にも懐く良い子だったことも影響していたかもしれない。とにかく梶原は神田の味方だった。かれの妻が神田の不在時に現れ、離婚届を梶原に預けて帰ったときも、勿論。だからかれは初対面の妻をひどく責めた。神田の性格からして、きっと何も言わずに判を押しそうだったから余計に、事情も知らないのに彼女が一方的に悪いのだと決めつけた。
ただ、真実はそうではなかった。上手く言っていた夫妻の中を粉々にしたのは、神田のカムアウトだった。彼女に自分を解ってもらいたかったのだとのちにかれは言ったけれど、妻である女性に対して、自分がゲイだと言うことはそれだけで裏切りだ。夫を愛していた彼女が耐えきれなくなって逃げ出すのも無理はない。
しかし梶原はそれどころではない。神田がゲイだと知った瞬間から、かれの頭の中が神田で一杯になる。これまでの神田の仕草や態度が、もしかしたら自分への好意によるものだったのではないか、とかれは勘ぐり始める。そしてかれの予感は的中していた。同時に、神田の心も大きく変化してゆく。

自分がゲイであること、ゲイである自分の本心を表に出したことで一家がばらばらになったと思っている神田は、目の前にある幸せに手を伸ばすことを恐れる。もう行動を起こさずにいよう、モネと二人きりで生きていこう、とかれは決めている。それは自分を愛してくれた妻を手ひどい方法で傷つけたことへの償いであったかもしれない。残酷な仕打ちをした自分への罰であったかもしれない。もう二度と傷つかないための予防線であったかもしれない。
けれどその決意は、口にした先から崩れていく。神田は梶原を拒みきれなかった。自分の幸せを望んでしまった。

相変わらず独特の表現を多用する作家さんなんだけれど、一作目より格段に読みやすくなっている。何世代も前の少女漫画のような表現と、イマドキならではの表現が上手く混ざっていて、可愛らしくて甘酸っぱい、けれどそれだけじゃない世界になっている。かわいい!

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表題作「野ばら」もいいのだけれど、個人的にはその後に入っている「みみクンシリーズ」が大好き。
みたみつお略してみみクンは、新宿二丁目のオカマバーで働く20歳、体は男だけれど心は女の子で、女の子の体を手に入れるべく貯金をしている。もうすぐ達成される金額までいけば手術をして、そして、「王子様」であるところのバーテン・薫ちゃんに告白するつもりだ。みみクンが上京してきた日に声をかけて助けてくれたときから、みみクンは薫に恋をしている。

純真だけどお喋りなみみクンはそのことを誰彼かまわず何度も話しているので、当然ながらみみクンの恋は周知の事実だ。みみクンの健気な恋を知っている仲間たちは、みみクンの誕生日の夜、プレゼントだと言って、酔っ払った薫と二人きりの時間をくれた。
さて、周囲の人間が皆しっている恋というのは、当然当事者も知っている。みみクンと二人きりになった薫はいきなりみみクンにキスをして、それから思いっきり突き飛ばした。酔っているように見えたかれは真剣な顔をしていて、そして言う。どうしても女の子とはできない、と。薫はゲイだった。薫もまた、みみに好意を持っていることは明らかだ。だけれど、ヘテロが同性を愛するときのように、ゲイが異性を愛することも非常に難しい。
それを聞いたみみクンは言う。「だってあたし男だよ。女の子なんかじゃないよ」と。長くてふわふわの髪、きちんと施されたメイク、リボンが沢山ついたドレス、凝ったネイルで、みみクンはそう言った。男の体に違和感を持ち、女の子になりたいと願った。そして女の子の格好をして、もうすぐ、女の子の体を手に入れる。そういうみみクンのことを薫は知っている。そういうたくさんの人たちの中で生きているかれは、自分もマイナーなセクシャリティを持つかれは、痛いほどに分かっている。
だからこそかれは言う。みみクンも自分も、そしてみみクンと薫の恋を応援してくれた仲間たちもみんな、自分に嘘をつきたくなくて、自分の心のままに生きたくて、ここにいるのだ。だから、その根幹を棄ててはならない。「君は女の子だよ。正しい姿にならなくちゃ」と。
この「正しい姿」という言葉が刺さる。みみクンにとって女の子の体になることは、「なりたい姿」になるのではなく、「正しい姿」になることなのだと薫は思っている。なりたいものは変えられるけれど、正しいものは変えられない。無口で照れ屋なかれだけれど、強い意志をもってこの世界で生きているのだと思わされる。だからこそみみクンが恋したのだ、とも思う。

それを聞いたみみクンは肩を落として帰宅する。「あたしの性別は、いつだってあたしの邪魔をする」と言うみみクンの言葉もいい。女の子になりたいのに男の体だった20年間。とうとうその齟齬を埋めるための手段を手にしたと思ったら、女が駄目な男に惚れてしまった。女の子になったら告白しようと思ってたみみクンと、今のみみクンは好きだけど女はどうしても無理な薫。皮肉にもほどがある。
薫はみみクンの長年の齟齬も、その解消のためにみみクンがどれだけ頑張っていたのかも知っている。けれど、かれはひとつだけ知らなかった。みみクンがどんなに自分を好きか、ということを。

みみクンは恋に必死なだけじゃなくて、自分自身の在り方についても必死だ。肉体も在り方も最初から持っているものではなく、獲得しなければならないものだからだ。ちぐはぐでどこか滑稽なんだけれど、本人たちは至って真剣で、せつない。その真剣さが可愛くて、やるせないんだけれど微笑ましい。アンバランスで凄く好き。
セクシャリィに対する葛藤、というテーマは大好き。単にみみクンが悩んでいるだけでなく、薫にも強い意志があるところがいい。お互いのことを思うからこそ上手くいかない、でもやっぱりお互いのことを思うからこそ歩み寄れる。だって恋してるんだもん。
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英田サキ「ダブル・バインド」

英田サキ「ダブル・バインド」
性器を切断された男性の餓死死体が発見されたのを機に、刑事の上條は高校時代の後輩・瀬名と再会する。第一発見者で、いわゆる多重人格の少年の保護者が瀬名だったのだ。少年の証言を聞くために瀬名のマンションへ通ううち、自分に懐いていた学生時代とは全く異なる可愛げのない物言い、おそろしく整った容姿の男たちをベッドへ引きずり込む性癖、家庭環境など、上條は瀬名の新たな面を知るようになる。

現段階ではミステリ7:恋愛3、くらいの比率の、シリーズ第一弾。
夢の島で発見された奇妙な死体をきっかけに物語は動き出す。第一発見者の祥が、ひとつの体の中にいくつもの人格を持つ、解離性同一障害だったことが、事件を更にややこしくしている。主人格である祥は、自分がその死体を発見するに至った経緯を覚えていない。他の人格がヒントになりそうな目撃をしているのだが、かれが表に出る頻度は非常に低いのだという。
解決の糸口は掴めない中、新たな事件が起こる。大物政治家の隠し子で暴力団構成員という非常にアレな青年が行方不明になったのだ。本拠地を同じくする警察は、人員を分割することを余儀なくされる。しかしながらあるきっかけで、この全く無関係に見えた二つの事件が、実は連続殺人なのだと明らかになる。

仕事に対しての勘は働くけれど、妻の本心に気づけず離婚してしまったバツイチ刑事の上條は、夫妻間に関わらず、人の心の機微に鈍いところがある。悪い男ではないのだが、気が利かない。仕事が出来ないわけではないのに、肝心なところでうっかりしていて騙される。相手の言葉が本音なのか嘘なのか、嘘だとしたら何故そんな嘘をつくのか、そういうことに気づけない。とくに瀬名のように、感情が表に出ない(出さない)男になるとお手上げだ。
学生時代は思いっきり上條に懐いていたなんて想像もできないくらい、瀬名はクールだ。冷たくて、遠慮がない。祥という、目を離すと危険な事態に巻き込まれたり陥ったりしかねない少年を保護する意識が強いということもあるのだろうが、非常に手厳しい。よく言えば鷹揚、悪く言えばだらしない上條を一刀両断する。かと思えば挑発して見せたり、幼い子供のように甘えたりする。手がかかるんだけど、だらしないひとはこういう手がかかるひとの面倒を見るのがちょうどいいと思うよ…!

祥を含めた上記の人物たちが、最初に発見された死体に関連する。そしてもうひとつ、暴力団構成員の失踪に関わってくるのが、暴力団の若頭である新藤と、新藤の自称愛人・葉鳥だ。
次期組長の面子にかけて鈴村を見つけ出さなければならない新藤と、新藤の面子を守るためになんとしてでも鈴村を見つけ出さねばならない葉鳥。口が悪くて態度もでかい、チンピラ丸出しのようなこの葉鳥が、そんな性格なのに新藤に関してはこの上なく健気なのがいい。健気ビッチ葉鳥かわいいです。
挨拶が出来ない下っ端に対して、葉鳥はいきなり暴力で会話する。それは自分が腹を立てたからでなく、下がちゃんとしていないのは全て、上に立つ新藤の能力不足と思われる世界だからだ。のみならず、新藤と直接交流することも難しいかれらが新藤を舐めないようにするためでもある。自分の金を新藤からだと言って下の人間にやるのも、なかなか下のことまで把握できない新藤から、かれらが離れないようにするためだ。葉鳥は新藤のために飴と鞭を完璧に使いこなして暗躍し、そんなことはおくびにも出さずに新藤に跨って笑っている。
かれは新藤に心底惚れているけれど、そういう態度をとる。政略結婚した相手は事故死し、子供は自分に懐いている。新藤は堂々と、葉鳥を「恋人」だと言って憚らない。けれどかれだけが、自分を「愛人」だと主張するのだ。正妻も、本命もいない相手。どころか、自分がまさにその位置にいるのにも関わらず、葉鳥は主張を曲げない。面倒くさい奴だけれど、そういうところが可愛くて仕方がない。
葉鳥は長生きしそうにない生き方をしているけれど、うまいこと幸せになってほしいものだ。

刑事と医療関係者、ヤクザ。刑事とヤクザはさておき、瀬名とヤクザは非常に縁遠いところにあるように思える。しかしながら、かれらを結ぶものは、連続殺人だけではなかった。葉鳥は以前上條に補導されたことがあるし、新藤は瀬名と因縁浅からぬ中だ。瀬名の回想で微かに描かれるに過ぎない二人の過去が凄くいい。上條と瀬名、新藤と葉鳥もいいんだけど、新藤と瀬名もすごくいい…両方本音を隠すことに長けているからどんどん話がこじれていきそうでいい…!とうの昔にあったことだけれど、それが完全なる過去になっていないことは、お互いの反応で明らかだ。いいなーいいなー。

事件は続いているし、瀬名と上條に至っては、まだ恋愛関係になってすらいない。さらに、祥の正体も怪しい。人当たりの良い、優しすぎるほどに優しい主人格を持つ祥だけれど、気は許せない。かれの交代人格が見たものの正体、真偽も含めたそれの謎も明らかにはなっていない。

物語はこれから。続きも楽しみ、な新シリーズ!
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崎谷はるひ「はなやかな哀情」

崎谷はるひ「はなやかな哀情」

シリーズ第五弾。三部作と番外編、という立ち位置だけれど、番外編扱いの「やすらかな夜のための寓話」内「ネオテニー<幼形成熟>」を読んでいないと分かりづらい部分があるので、五作目だと思う。

因縁の相手・鹿間に誘われてかれの元を尋ねた慈英は、鹿間の家に侵入していた強盗と鉢合わせて殴られ、その衝撃で記憶の一部を失ってしまう。記憶喪失はなにもフィクションの世界に限られた出来事ではない。実際に事故などで記憶を失った人は沢山おられる。それを知っていてもやはり、フィクションにおける記憶喪失はどこか空々しい気持ちになってしまう。わたしはこのシリーズがそれはもう、尋常ならざる勢いで大好きなので、大好きなシリーズで空々しい気持ちになることは避けたかった。これまでにかれらが対面した殺人事件や強盗事件とは異なるテイストが入ってくることに、あまり気乗りはしなかった。
その気持ちは読み終えた後も変わらない。記憶喪失という、古今東西使い古された展開に対するわたしの違和感が強いということもあるのだろう。奇跡はあんまり好きじゃない。とは言うものの、さすがに崎谷さんなので、ずば抜けてトンデモな話にはなっていなかった。慈英の症状はそもそもすぐに記憶が戻るはずのものだったし、香りで昔のことを思い出すのも決して珍しいことではない。
なにより、この数年の臣との記憶を失った慈英がそれでも臣に惹かれたことと、慈英との七年によって変わった、諦めない臣の様子が見られたことが良かった。

記憶を失った慈英との時間を持つ間に、臣は今自分が対峙しているのは、鹿間とぶつかって自信をなくした経験のない慈英なのだと気づく。その記憶を失ったことにより、目の前にいるのは挫折したことのない青年となった。挫折を知らない慈英は、若さも相俟って非常に傲慢だ。更にはかれにしてみれば不可解な行動ばかり取る臣に苛立っているため、非常に臣に対して当たりがきつい。
そういうかれに対して臣は、一歩引いている。目の前にいるのは最愛の恋人なのだと思っている一方で、今自分が会話しているのは、かれであってかれではない人物なのだと思っている。自分が好きになった慈英、これまでいくつもの事を共有して乗り越えてきた慈英ではないと知っている。慈英を「なくした」「俺の慈英、どこ行っちゃったんだろ。もう一度、会えるのかな」などと言う口調からもそれは確かだ。
別人となった慈英と、もう一度恋愛を初めからやり直す気持ちにはならなかった。最初からむちゃくちゃだった出逢いを思い返し、もう一度同じことはできないと臣は確信しているのだ。何故慈英ほどの男が自分をあんなにもつよく思い続けてくれたのか、臣には結局理由がわからないままだ。けれど七年目になる今は、その理由は分からないけれど、慈英が自分を愛していたことは痛いほど分かる。自分に心底惚れてくれているかれの思いを疑うようなことは、もうしない。偶然にしてもひどい出逢いのあと、臣の弱さと慈英の狡さですれ違う一方だった時期を経て、そのあとも何度も衝突して、ここまできた。そんなことはもうできない。「あんなふうに俺の事、好きになってくれるやついないから」「俺もそうで、ほかのやつとか、絶対無理なんだ」と微笑んで臣は言う。目の前にいる慈英に向かって、一生ものの恋をした相手のことを話す。ここ泣けた…。それが臣にとっての慈英だ。最愛の恋人は、今かれの目の前にいる青年ではない。まるでもう慈英と会えないかのように、慈英が死んでしまったかのように話す臣が痛々しい。かと思えば、思いださないままでも、「死ぬまで好きだ」と真剣な目で伝えてくる。疲れたときに慈英の体温だけでも欲してしまう弱さと、もう二度とあんな恋は出来ないと笑う強さの波が臣の中で満ち欠けしていて切ない。
その危うさに、慈英はやはり目が離せなくなる。たまにフラッシュバックする記憶と、現在のかれの思いで、ふたたび慈英は臣に恋をする。恋をすると、自分と臣の間に築いてきたものを思いだせないのが厭で、思いだしたくなる。最初はべつにどうでもいい、欠けているほうが美しいなんてしれっと言ってのけていたのが手のひらを返したようだ。かれがまともな感覚を持つためには、やはり臣に恋していないとだめだ。

最後に登場するかと思われた、慈英のクロッキーブックが出てこなかったことがすごく好きだった。作品と関連付けることで記憶を手繰り寄せている慈英に、臣のスケッチを見せれば、もっと簡単に記憶が戻ったかもしれない。けれど臣はその可能性があることを知った上で、出してこなかった。慣れない長野で生活し、ひとつも絵を描けずにいるかれの葛藤を見抜いて「東京に帰れ」と言うばかりで、引きとめようとはしなかった。
臣はそもそも、慈英に対して記憶を取り戻させるような計らいをしていない。医者に、情報が上書きされるような行動はしないように言われていたのもあるだろうが、かれはどこかで今の慈英と以前の慈英はべつものだととらえていて、本人が現状で満足しているのならば別に構わない、と思っている。思い出せない記憶なんてその程度のものなのだと言うかれの言葉を、そのまま実行させようとしている。

ページを削らざるを得なかったと作者が言っていたからなのかもしれないが、ラストがちょっとあっさりめかな。臣が大変だった分、記憶を取り戻してからはもっとべったべたに甘やかしてもらえるのかと思ってた。起承転結の承転に対して結がおとなしめでカタルシス不足気味。でもクロッキーブックを返却する条件として臣が挙げたことが可愛すぎてかわいそうすぎて無茶苦茶良かったので帳消し!

これまで、二人のことについて行動してきたのはいつも慈英だった。長野にいる間だけの関係でいいと言う臣に対して、かれは黙って東京から引っ越してきた。仕事で移動があると聞けば、更に過疎地域に家を移した。事あるごとに卑下する臣を叱り、甘やかし、かれに自分を大切にすることを教えた。愛情を疑わないこと、ひどい過去も含めて愛していることを何度も繰り返し、七年言い続けた。
それが今の臣を形成している。臣と出会う前の自分と、そのときの自分が描いていた絵は、今の自分と全く違うと言ってのける慈英と同じように、臣も変わった。だからかれは自棄になることも、うまくいかない気持ちを身体でうやむやにしてしまうこともしなかった。その臣のつよさと、見え隠れする弱さや孤独が慈英を惹きつけた。慈英がつくった臣に、慈英は恋をした。奇跡は好きじゃないなんていったけれど、奇跡みたいな二人だなあ。

これまでの四作がものすっごく好きだったこともあって今はまだ新刊にそれほどどっぷり入れ込めていないのだけれど、やっぱりじえおみだいすき。あとがきに「これからも慈英と臣をよろしく」と書いてあったので、全力でよろしくしたい。

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しっかし照映さんのよさがやっぱり分からない…。慈英が臣を忘れたことに苛立って臣を責めたり、臣を思い出せない慈英を頭ごなしに怒鳴ったり、なんなのこの人。かっとなっただけで悪気がないことは、あとで素直に謝っている姿を見れば分かるのだけれど、好きになれないなー。勿論これまでに慈英を支えたり、臣の相談に乗ったりしてきた過去があっての発言なんだけれど、うーんうーん。実際にいたらこういうタイプがすっごいモテることは分かるんだけどさ!よくも悪くも後を引かない人なんだろうな。照映に輪をかけて、怪我人の慈英にとっても冷たい久遠の神経もちょっと疑う。呼ばれて行った家で暴漢に殴られて記憶を失った挙句に責められっぱなし、のかわいそうな慈英さんであった。気を使ってにこやかに接した弓削にも怒られて踏んだり蹴ったり。
その分臣さんが優しかったから、いいか。

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あとはやはり早くドラマCDを出すべきだと思うんだ…上述の通り「ネオテニー」がないと何のことやらわからないので、まずは「やすらかな夜のための寓話」を全話ドラマ化するところから始めればいいと思うんだ…何枚組でもいいよ…何円でもいいよ…。
じえおみはもはや脳内再生が余裕なんだけれど、今回の話はどういう風に話すのか見えてこないところもあったので、是非ここはCDを。CDを。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 21:28 | - | - |

ミュージカル「エリザベート」@帝国劇場 13:30公演

翌日のマチネ。

エリザベート:瀬奈じゅん
トート:石丸幹二
ルドルフ:田代万里生
ゾフィー:杜けあき
ルドヴィカ:阿知波悟美
少年ルドルフ:坂口湧久

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この回もA席のセンター。

物販コーナーに、それぞれのキャストのCDや写真集などが並べられている。演じている役に合わせてまとめてあるのだが、伊礼さんのグッズの横にある浦井さんの本のタイトルが「彼方へ」で地味にツボった。本のタイトルとして単体で見れば何らおかしくないんだけれど、伊礼彼方の横で「彼方へ」って…名指し…。
というどうでもいい話。

***
三人目のトートは石丸トート。石丸さんはこれまでに見たことがないのだけれど、どうも好きになりそうな予感がしていた。顔立ちもあるんだろうけれど、トートの写真から滲んでいる爬虫類っぽさがいい。実物も、妖艶で美しい爬虫類、という感じだった。あと銀髪から覗く横顔がきれいで、ちょっとアニメ・ゲームのキャラみたい。
そして歌い出すと低音がかっこいい。ソフトな見た目からは想像できない重低音っぷり。重低音なのに身軽ですてき。石丸トートはひたすら愛情表現がしつこくて、粘着質で、過剰で、いい。「最後のダンス」のラスト、コーラスの「勝つのは」に応じるかたちで、階段の上で「おーれええええっっっだあああああーぐはぁ!」と歌い上げてて超好きだと思った。なにこのトート…いいよ…!

石丸トートは自信に満ちている。城田トートが子供ゆえ、若さゆえの傲慢さでシシィから愛されるものだと思い込んでいたのとは違い、もっとナルシスティックなものがある。俺様っぽいと言うか、高飛車な感じが滲んでいる。それがすごく様になっていて格好良いんだけれど、ちょっと面白い。憎めない。
最後通告をフランツに提示したシシィの元にいきなり現れたときも、かれは机に横向きに座り、シシィの羽ペンを手にとって遊んでいる。妙に子供っぽいところもあるのだ。

ルドルフがエルマーたちとカフェで話しているとき、ハンガリー国王の言葉に舞い上がったルドルフを横目に、下手で渡された新聞に目を通したとき、トートはルキーニに笑いかける。時代が自分の意のままに動いていることを確信したかれは、そのことが嬉しくてたまらないようだ。こういうところも子供というか、幼いままだ。幼さと色気が共存している。姑息さと単純さが共存している。
とてつもなく魅力的!

今回初めて見た杜さんのゾフィーは、寿さんのゾフィーより控えめかな。「宮廷唯一の男」という言葉がふさわしい寿ゾフィーに比べると、杜ゾフィーは線が細い意地悪ママっぽさがある。寿ゾフィーが頑固なのに対して、杜ゾフィーはツンツンしてそう。わたしは結構「おばあさま」なゾフィーが好きなので、寿ゾフィーのほうが好みだけれど、嫁に火花を散らしてそうな姑の杜ゾフィーもいいな。

この日の少年ルドルフ・坂口くんは、電王トリロジーYELLOWで少年時代のレイジを演じた子。家宝を奪われたあの子。利発的な顔がまた、ルドルフの衣装と合うんだ。ゴンドレクールトから逃げたまだ幼いルドルフはゾフィーと鉢合わせし、ママに会いたい会わせて欲しいと歌い出す。このときルドルフはゾフィーのドレスを掴んでいるのだけれど、体がものすごくぴんと張って斜めになっててオモシロカワイイ。後ろ足がカワイイ。
「ママ、何処なの?」で、ルドルフが抜いた剣をトートが預かり、かれの首筋にそっと剣先を向けるシーンも好きだ。「友達」が出来たルドルフは、おそらく誰にも話したことがなかった本音を打ち明ける。理想と孤独で小さな体を引き裂かれそうになっている少年の歌に対して、トートは意に介した素振りも見せない。ああ残酷。

「悪夢」で髪も服もぐちゃぐちゃになったフランツが、センターで膝をつく。見ているもののあまりの陰惨さにぼろぼろになったかれを見下ろすのは、登場時と変わらぬ美しさを持つトートだ。年月とともに老いていくフランツに対して、かれは一切変わらない。トートは人間ではないのだと、改めて実感させられる。
シシィの愛を巡る、トートとフランツの掛け合いが刺さる。石丸さんの歌声がとてもクリアで、様々な歌が重なり合う中でさえ、トートが何を言っているのか刺さるように聞こえてくる。絶叫して制止しようと試みるフランツを鼻で笑い、「救うのはこれだ!」とナイフをルキーニに投げる。かれにとっての愛は死だし、救いもまた死なのだ。生も永遠もすべてが、死だ。

ルキーニの凶刃に斃れたシシィはついにトートと結ばれる。ようやく自分の元へやってきた彼女に、トートは歩み寄るようなことはしない。ただ手を広げて、待つ。尊大な笑みだけれど、やはり嬉しそうだ。

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石丸トートいいよ!という話。

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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 13:30 | - | - |