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大盤振舞@大阪BIG CAT

ドリンク代1000円のみの無料イベント。今年は浪花が大変が行われないようなので、これにでも行くかーと気楽な気持ちで言ったらS'CUBE主催だった。
規模とか人気が把握できないので、発売日に結構必死で電話してチケを取ったのだけれど、実際は少数ではあるが当日券が出ていて、ホールには机も出ていた。後ろがほどよくピクニックなライヴハウス大好き。

普段目当てのバンドがあるイベントライヴでは対バンは最低限しか見ないし、目当てのバンドが終わったら即効で帰ったりもする。そのくせこの長丁場のイベントに参加したのは、boogiemanのアルバムが良かったので久々にライヴでも見たいという気持ちと、冗談や皮肉ではなく結構真剣に、「今」のヴィジュアル系を見てみたかったからだ。自分が好きなものを追いかけることが一番で、その付加で見られるものを楽しむことが次点にくる気持ちは変わらないのだけれど、それ以外も見てみたくなる。少なくとも、何も知らずに、どうせ最近のバンドは〜なんて言う時代錯誤のオバンギャにはなりたくない。今のバンドを見た上で好き嫌いを判断して、やっぱりnoirを愛していると世界の中心で叫びたい。ジーク円盤屋!
関係ないけど自分のことオバンギャって言うの好きじゃないんだ。こういうライヴに行くと自分が既に平均年齢を超えていることも、なんだかんだで長くバンドを見続けていることも自覚するし、この日会場にたくさんいた中高生にとってわたしの年齢はもはや「おばさん」であることも分るのだけれど(自分が中学生のときなんて22歳くらいでもおばさんだと思ってたし!)、今それを肯定することは楽になるために、免罪符を手に入れるような感覚に近い。わたしはまだまだ必死になるよ。
あとは自分の周囲にいるひとが殆ど年上だから、というのもある。友人に比べてわたしはまだまだ若い、なんていう不遜なことを言うつもりはない。ただほぼ最年少であるわたしがオバだったら、あとのみんなはどうなるの、という気持ちがある。だってみんな超若いんだもん。
自分の年齢を受け入れて折り合いをつけて生きることと、もうおばさんだから、と自重して逃げることは全然違う、と思うわけです。そして若い子が(おそらく悪気無く)言う「オバンギャ」の自称/自嘲は、無意識であれ他者をも貶めていると、自分が若い子でなくなって気づくのでした。それに気づけないのが若さだ、ともいえる。

チケットを引き換えたかと思えば目当てのboogiemanがジュンノ脱退により出演キャンセルと言う報道が出たのだが、そんなこんなで色んな気持ちがあって、予定通り参加してきた。これがわたしの夏フェスだ!
開演は13:00。この手のイベントのいいところは、バンド数が多い分、開演時間も転換もものすごくきっちりしているところだ。

***
以下、自分の眼と耳だけで判断できたバンドが3バンドしかない人間の、感想以下のコメント。

イヴ
折角こんなに大規模のイベントなんだからバンド名を名乗って!13バンドでたら消去法で検討つけるのも大変!
後で検索したら今年始動したてのバンドだった模様。動いて半年以内には見えなかったな。

お遊戯ゎが魔々団×【PaRADEiS】
このバンド名で「パレード」って読むんだな…知らなかった…ふつうに「おゆうぎわがままだん」って心の中で発声してたよ…。見た目通りと言うべきか、ちょっとpleurを彷彿させるメルヘンっぽい要素があった。曲展開がふしぎなので、こなれると結構面白いのかも。

Royz
ヴォーカルがBIG CATのステージに立てて大興奮していた。「おじいちゃんになってもこの景色を忘れない!」とか言ってて、他のメンバーが苦笑してた。サビが「ワッショイ!ワッショイ!」の曲にびっくりしていたのだが、結構歌うまい。演奏はぺらめだけど、曲とか歌はクリアにきこえる。

パラレル虚構ゼノン
アキレスと亀…?
髪色がカラフルでー黒っぽい服でーというヴィジュアル系らしいヴィジュアル系。ライヴの経験値が高そうな感じ。

リルト
化粧がっつりなんだけれどとっつきやすそうな、キラキラバンド。個人的には笑顔なんて浮かべたこともありません、みたいなヴィジュアル系が好きなんだけれど、メンバーもファンも楽しそうなので良いと思う。

Arc
失礼ながらここでがくんと格が上がる。安心して見られるようになる。洗練されるというか、ヴィジュアルにせよ曲にせよ演奏にせよステージングにせよ個性にせよ、研磨されたものが提示される。人気があるのも分かる。「最高の夜をありがとな!」って言ってたけど16時にもなっていなかったよ、御愛嬌。

DOG in the パラレルワールドオーケストラ
セッションバンドかと思うくらい統一感のない服装ではあるが、聞かせる曲も盛り上がる曲も完成度が高くて良い感じ。結構好きだな。SEの犬の鳴き声が可愛くて分かりやすくていいね。


何はともあれきーさまおかえりなさい!正直Phantasmagoriaでラストバンドと言っていたときにさっぱり信じていなかったので、かれの復活に関しては驚きはない。寧ろ今になって、当時本当にラストだと決めていたつよい意思を知って申し訳なく思ったくらいだ。などと言うことはさておき、久々に見るKISAKIは相変わらずKISAKIで、その相変わらずさが良いのだと思う。
幕が上がったらセンターのお立ち台にマイクを持った人が二人。戮とMIZUKIのツインヴォーカル曲で始まる。何事かと思っていたら、これこの日初お披露目の新曲だったらしい。凛を見るのは初めてなのでMIZUKIがこれまで他の曲でどういう立ち居振る舞いをしているのか知らないけれど、遠目で見ていても物凄く手持無沙汰感が伝わって来て面白かった。動きが超ぎこちなくていい。
大盤振舞というライヴイベントなので、凛からも大盤振舞をする、とのこと。ガチャガチャのカプセルを投げるので、その中に当たりと書かれた用紙が入っているものを手にした人は終演後すぐに物販に来てくれ、ということだった。何が貰えたのかは定かではない。それを投げるにあたって、凛らしからぬBGMをかけたいんだけれど、といちいちKISAKIに許可を貰う戮でした。
あとはわざわざ見本として戮が広げて見せてくれた当たり用紙をKISAKIが無言で奪ったかと思うとぐしゃぐしゃに丸めて、戮にそっと投げていた。それをキャッチした戮が嬉しそうに飛び跳ねて、「当たりだー!」みたいなことを言う小芝居が可愛くて和んだ。実際客席に投げるときもKISAKIは戮に投げたりしてたし、演奏中もとにかく近づくし、楽しそうでなにより。小柄なヴォーカルを可愛がるリーダーという構図に傷ついたりなんか、してない、よ…!
盛り上がりも凄かったし、さすがに見ごたえのあるライヴだった。終わった瞬間に、心MUとハシゴする凛ファンがどかーっと出て行ったあたりも含めてお見事。

・アヲイ
久々に見たら全員スーツで小綺麗になってた。最初に見たときから、音楽性はともあれヴィジュアル面が定まらないバンドの印象が変わらない。ただ相変わらずメロディーが良くて哀愁があって好きです。

・花少年バディーズ
転換中にミネムラさんが出てきて客席を写真におさめて帰って行った。開演してからも側転?で登場したり自由。悠希ブログの影響なのか、なんとなくミネムラさんを見る目が有名な芸能人を見るような雰囲気でおもしろい。
MCではお遊戯ゎが魔々団×【PaRADEiS】と楽屋が同じで、向こうが物販のグッズを忘れている、という話に。「なので誰か関係者の方は言ってあげてください」と客席に向かって言ったミネムラさんに、獏が「なんで客席に言うの!ここで『あ、はいわたし繋がってまーす』って手あげたら嫌でしょ!」と突っ込む。それが想像以上に客にウケたため、嫉妬するミネムラさんであった。物販のTシャツを勝手に一枚拝借して(お金は置いておいたらしい)衣装の中に着てる、というネタがいまいちウケなかったので落ち込んでいた。
ビリーは色々あったし、諦は更に色々あったし、バディーズはこの和やかで楽しそうな雰囲気のまま続くといいねえ。

・VELGREED
正統派のヴィジュアル系!という出で立ちで、登場時にはお立ち台での一人一人のアピールタイムも長め。でも実際曲は硬派めだし演奏も歌もそこそこうまい。マイクトラブルで、一時期ヴォーカルのマイクが一切機能しなかったのだけれど、そこで特に意欲が削がれることもなく続いていたし、安定感もある。

・A&D
コッテコテの関西弁で、ヴォーカルと上手ギターがしゃべくり倒すのが面白かった。喋り声が高いのもあって余計にやかましくていいと思う。かと思えば曲は安定してて、ライヴも楽しく。「これでアメンバー一人増えるな!」とギターが言ってた。聞いたことのないバンドだったので、(いくら一部のバンドがハシゴしたり直帰しなくてはいけないとは言え)もう少し知名度が高いバンドたちの中でこのバンドがトリ前ってどうなのかな、と思っていたんだけれど、問題なかった。

・12012
新譜の曲が中心。本編は全体的に薄皮が張っているとでも言うか、煮え切らない突き抜けない感じで勿体無かった。MCで宮脇が「トリが12ということで、心をちょっと開いて…」と言ってたのだが、トリなのにちょっとでいいのか!と地味に突っ込みたくなった。なぜそこ謙虚なの。
アンコールの「サイクロン」は一気に皮が剥がれたようにクリアになっていてとても良かった。

***
アンコールも含めて終演は21:45かな。全バンド全曲まじめに見た。疲れたけど楽しかったー。
高価な靴をきちんと脱ぎ揃えてスリッパで前方に向かう背中とか、転換中に振り付けのおさらいをする手とか、物販の写真の見せ合いとか、連絡先の交換とか、前方の盛り上がりに混ざりたくて何回もいつ前に行くか相談しあってるひそひそ声とか、絶対に目が合ったと興奮して飛び跳ねる子の揺れる髪とか、そういう懐かしいものがいっぱいあふれる会場だった。若い子いっぱい。意識しなくても見聞きできるそれらを壁に凭れてZIMA飲みながら眺めていたんだけれど、そういう文化も含めてやっぱりヴィジュアル系がすき!

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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 22:34 | - | - |

ヤマシタトモコ「BUTTER!!!」1

ヤマシタトモコ「BUTTER!!!」1
高校入学を機に、憧れだったダンス部に入部した夏は、見学もせず飛び込んだその部が社交ダンス部だったことを知る。出鼻をくじかれた夏だったが、社交ダンスの意外な魅力に惹かれていく。

夏が憧れていたのはヒップホップダンスだ。路上で、彼女にしてみれば年上のいかつい男たちが真剣にアクロバティックな技を練習している姿を見て引き寄せられた。その時まだ中学生だった彼女はかれらとうまく交流をとることもできず、ひとり家でひそかに技を検索し、練習した。無事に高校受験に成功した彼女は晴れて部活動を開始しようと、吟味することも比較することもないまま入部届けを提出した。提出して、気付いた。そこがヒップホップダンスの部活ではなく、社交ダンスの部だったことに。
しかしながら、ポジティブでまっすぐな夏は、先輩に導かれるまま踊ってみた社交ダンスに魅了される。一般的なイメージの社交ダンスは優雅で、穏やかで、いわばあまり大きく激しい動きのないもの、だ。しかしそれが誤解であることを身をもって知った夏たちは、真剣にかつ楽しみながら、社交ダンスと向き合うことになる。

そんな中、ひとりいつまでも乗り気じゃないのが、中学時代からの知り合いに勝手に入部届けを出されてしまったオタク男・端場だ。典型的な思春期のオタクである端場は、典型的なオタクであるがゆえに、同族以外とまともなコミュニケーションが取れない。つまり、ネットスラングを用いず、相手の眼を見て、相手に届く声の大きさで、はっきりと、自分の意思を伝えることが、できない。俯いたまま小さく、オタクにしか通じないスラングでぼそぼそと不平不満を言うだけだ。いざ問い正されたら言葉につまり、適当にやり過ごしたり小さく言葉を吐き捨てるのみで、まともに向き合うことをしない。どの集団にも一定数存在するであろう、典型的なオタクだ。
端場は自分の意思とは無関係に、他者の悪意によって無理に入部させられた。そのことをきちんと申告すれば、入部は取り下げられるだろう。けれどかれはそれをしない。そんなことはダサいし面倒なのだ。かと言って、腹をくくって部活に馴染むこともしない。最低一学期は活動するのが退部の条件であるならば、一学期間籍をおいておけばいいと思っているのだろう。ひとまず向かった社交ダンス部でも端場の魂胆は見え見えで、なにより、自分の意思で入部した人間たちを不快にさせる。そのことに端場は気づいていない。知ったところでどうでもいいのだろうが、まずかれは知らない。そんなことにまで気持ちが及ばない。同じ価値観の人間とだけ集まって生きてきたから、そうでない相手とのコミュニケーションがとれないのだ。取ろうとも、しない。
誰もが苛立ちつつも口にしなかった端場への感情を、夏は初対面のその日にはっきりと告げた。「みっともないね」と。「うける」「ヤバイ」などと言う上っ面だけの単語を繰り返し、なにもかもを鼻で笑っているかれの姿はまさに「みっともない」のだ。

かれが「みっともない」のはかれの所為であり、かれだけの所為ではない。端場を望みもしない部活に追いやった村谷といういじめっこの存在も大きい。かれは心底楽しそうにダンスをする夏と、それに引きずられた端場を見て、つまらないと感じたのか、端場にちょっかいを出すのを止めた。永劫なのか一時なのかは分からない。孤高の存在のような謎多きキャラ・二宮の本性もまだ見えてこない。

相変わらずキャラクターの細やかな心情や、いかにも存在しそうなキャラ設定描写が素晴らしい。その一方で、社交ダンスの面白みみたいなものはまだそこまで伝わってこなかった。案外体力を使うスポーツなのだということは分かったのだけれど、説明に特化しすぎて、夏が体験して実感したドキドキする気持ちは届いていないように感じる。夏が高揚していることは分かるのだけれど、その高揚をわたしはまだ分けてもらえていない。サイドは面白いのだけれど、本筋が少し物足りないかな。この先どうなるかに期待。

宝塚が大好きで社交ダンス部に入った掛井は、まだあまり焦点を当てられていないけれど地味に良い味を出している。宝塚が好き、と言わずに「宝塚歌劇」と呼ぶところにまずファンとしてのプライドを感じる。おそらく夏の趣味とは一切相容れないだろうけれど、自分が好きなものを大切にして熱中している彼女の情熱は痛いほど分かるのだろう、それを嘲笑する端場を咎めることもする。一番面白かったのは、小学校の時に「レビュー」と呼ばれていた、というエピソードだ。端場に、何もつらいことなどないかのように言われたかれがふと零す、かれにしてみれば決して良い思い出ではない話なのだが、地味にキた。こういうおかしみとか残酷さの表現が効いている細部は、やっぱり凄く巧い。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 10:13 | - | - |

ルビー文庫創刊17周年フェア 応募者全員サービスCD「Ruby Station~Version A~」

対象になっているルビー文庫と、1000円分の為替で応募できるCD。ちなみにバージョンAとBがある。両方頼んだのだけれど、本日Aだけが先に届いた。
パーソナリティは和彦さんと神谷さん。
全部で30分強くらいのCD。

・オープニング
声優活動37周年の和彦さんと、自分が何年目なのか分からない神谷さん。神谷さんの下の名前が「たかし君」だと混同する和彦さん。それ夏目や。
「最後まで聞かないとおしおきだぞ!」という、ユニゾンかつエコーのかかった決め台詞があるのだが、これについて一切言及されていないあたりが面白い。コーナータイトルの前の小芝居台詞も可笑しい。何なのこれ。

・特選☆ルビー文庫・名セリフ集
その名の通り、名セリフ紹介コーナー。物語の中にこの手の台詞が存在する分には別に問題ないんだけれど、より抜きでそこだけ紹介されると物凄く恥ずかしいな!乙女系のCDとかもその要領で恥ずかしい。
ジャケットには、09年11月刊行の作品七点のイラストが使われている。このうち●点がCMのように紹介され、残りの○点はあらすじと名セリフが紹介される。この台詞の時に超エコーがかかってて可笑しかった。いい声で台詞を言ったあとは、その設定や台詞についての二人のフリートークっていうか雑談が繰り広げられる。設定を自分たちにあてはめたりして、自然と相手を女性にして盛り上がるのだが、和彦さんと会話してるといかに神谷さんが妄想炸裂かが如実に分かるな…。実際はどうであれ、和彦さんが真っ当な分、芸能人に恋してるモテない高校生男子みたいで面白い。

しかしだな。11月刊にブルーサウンドの短編集二冊があるのに、そこがあらすじのみのCMになっているのは宝の持ち腐れじゃないのか…両方に笙惟が出てるので、笙惟の台詞をご本人様がおっしゃっても良いんじゃないのかな…持ち役だよ持ち役…。

・質問コーナー
応募券についていたアンケートに基づいたトークコーナー。
和彦さんの若さの秘訣についてとか、神谷さんの役作りの話とか。この役作りの話が、神谷さんだけでなく和彦さんの持論も含まれていてすごく面白かった。声をつくる・声を変えるのではなく、演技を変える、というのは考えてみれば当然なんだけれど、結構見落とされていることなんだろう。よっぽどデフォルメされたキャラでない限り、問われるのは声音や声質ではなく話し方だ。あとは脚本読んだ時点で演技は出来上がっている、と和彦さんが言っていて、それに神谷さんも賛同していた。神谷さんがよく「どういうふうに喋るのか声が鳴る、聞こえてくる(もしくはこない)」って言うけれど、そういうことなんだろうな。真面目な話だけれど興味深い。
二人が共演するならどういう話がいいか、というお題では、和彦さんが弟をやりたいと言いだす。そのあと和彦さんが突発でやった弟が明らかに幼稚園児か小学校低学年なんだけれど、「私立聖帝学園幼稚舎」を思い出した。いつまでたっても照れが取れない二人と違って、自らノリノリで児童をやり続ける和彦さんがおそろしい。

・エンディング
そつなくエンディング。18周年もこの二人で、とアピールを忘れない神谷さん。

作品の一部分をドラマ化していた「ルビーにくちづけ」とは違って、ほぼトークCD。どちらかと言えば遊佐さんと神谷さんがやっていたGUSH channelと似た作りかな。それよりも更にBL度数は低いと思う。なのでルビー文庫や作品が好きで注文していたらちょっと拍子抜けするかもしれない。殆ど作品については言及されない。
個人的にはトークCDとして楽しめたのでよし。

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posted by: mngn1012 | 音源作品 | 22:23 | - | - |

山本小鉄子「ラッキーナンバー13」1

山本小鉄子「ラッキーナンバー13」1
長身の大学生・妻夫木は、ある日寮の窓から、木の枝に引っかかった人間を見つける。それは先日、公衆の面前で別れを告げられていた大学の先輩・佐藤だった。佐藤に一目惚れした妻夫木は勢い余ってかれに告白し、即OKを貰う。

妻夫木は非常に背が高く、顔も決して悪いほうではない。ただ見た目にも恋愛事にも一切頓着しない。野球オタクのかれは常日頃から野球グッズばかりを身に付けるし、合コンに呼ばれて行ってもべつに乗り気ではなく、更に空気を読まずに余計なことばかり言う。決して悪いやつではないのだが、なんというかトータルでみると残念さが強い、モテない男だ。
そんなかれは佐藤に恋をする。大学構内で、土下座して別れてくれと頼まれていた佐藤は、妻夫木は知らなかったものの有名人だった。可愛らしい容姿と素直な性格の持ち主である佐藤だが、かれと付き合った人間には次から次へと災いが振りかかるのが原因で、すぐに振られてしまうのだという。

そんな馬鹿な、な設定なのだけれど面白い。
佐藤はある事情により、基本的にフリーのときであれば他人からの告白は受けるようにしている。それゆえに、殆ど面識のない関係である妻夫木からの告白もかれは受けた。かれらは好き合って付き合い始める、そういう恋人同士とは少し違う。
基本パターン二人が顔をあわせると妻夫木が散々ひどい目に立て続けに合い、佐藤が落ち込むのだけれど、妻夫木の佐藤への気持ちは一切変わらない、というもの。お約束の踏襲で話が進むのだけれど、まず妻夫木の災厄のパターンが豊富かつばかばかしくていい。まさに踏んだり蹴ったりなのだけれど、それでも決して佐藤に当り散らしたりしない妻夫木の懐のひろさが微笑ましい。これまで付き合ってきた沢山の(そりゃあもう結構な数の)恋人たちとは違う妻夫木の反応に、佐藤は救われ、徐々に心惹かれていく。そりゃ顔は可愛いけれど、子供っぽくて普段はあまり色気のない佐藤がたまに見せる恋愛モードの表情に、妻夫木の気持ちも高まる。付き合いたての恋人同士としてはすばらしく盛り上がってゆく二人だけれど、災厄は決しておさまってくれない。どころか生傷の耐えない妻夫木の姿を、かれに恋した佐藤は見ていられない。かれが傷つくくらいなら、別れたほうがいいのかなんて考えたり、でもやっぱり好きなので離れられなかったり。

あっさりめの絵柄で重めのドシリアスもおばかなラブコメもいける作者の新作は、またもやラブコメ。安定した軽さと、間に挟まれる胸キュン具合がちょうどいい。

そしてもはや常識となりつつある小鉄子さんの野球好きは今回も冴え渡っている。妻夫木がなかなかどうしてなヒドい野球オタクなのだ。ただ、何かと野球や野球選手で喩えるかれの言葉を、佐藤も友人たちもいまいち理解できないでいる。分かるひとは分かるひとで楽しいだろうし、分からないひとは佐藤たちと一緒に、何言ってるのかよくわかんないけどとりあえず野球バカ、くらいの認識でおさえておけば問題ないので気楽。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 19:33 | - | - |

月村奎「CHERRY」

月村奎「CHERRY」
成績よし、顔よし、家柄よしの大学生・直希は、辛辣な物言いや我儘な態度すら許される王子キャラとして通っている。しかし本当は裏で必死で勉強している努力家で、女の子からの告白を断り続けているのは、自分が恋愛経験のない童貞だと知られたくないからだ。しかし誰にも気づかれなかった直希の真実は、生徒から人気の准教授・阿倍に見抜かれてしまう。

なんというタイトル通りの、タイトルで全てがわかってしまう話。だけどそこが良いのだ。
勉強ができて顔が良くて金持ちの息子で、金持ちの息子なのに成績優秀で学費免除なんかしてもらっちゃってる直希は当然モテるし、敵も多い。気を使うこと一切しないし、誰の前でも偉そうな俺様だ。そして直希の周りにいる殆どの人間は、そういう俺様なかれを許している。容姿を鑑賞したいからどうでもいいという女もいれば、その傲岸さに憧れるという男もいる。性格を知ってもなお、やっぱりかれと付き合いたいなんて思ってしまう女もいる。とにかく直希の擬態は完璧だ。完璧ゆえに、かれは本当の自分を誰にも晒すことができないでいる。
何せ知名度が物凄く高いかれのことだ。適当な女と付き合って、童貞だとばれた日には、それこそ大学全土に知れ渡ってしまう。のみならず、中高の同級生などにも広がるだろう。だからと言って風俗に行くのも厭だ。内心の焦りとは裏腹に、非常に慎重に、緻密に、ことを進めて行くしかないのだ。

そんな直希がひそかに狙っていたのが、バイトの後輩の女子だ。ひとの悪口を言わない、他人の陰口大会に参加しない態度が気に入った。彼女のそういう真面目で綺麗な気持ちを好きになったのではなく、彼女ならば、自分が童貞だということを人に言わないだろうという、そういう意味で。この辺りが直希の頭の良さと、人間としてのバカさの両方を表している。かれはもはや、黙って自分の初体験を終わらせてくれる相手を探すことに必死になりすぎて、一番大切なことを忘れている。そしてそんな男に、心根のまっすぐな彼女が惹かれるはずもない。彼女が憧れているのは、紳士的で能力も高い、准教授の阿倍だった。

直希にとって阿倍の第一印象は最悪だった。自分がこっそり隠れて勉強しているのを見られたり、テキストに書きこみしまくってるのを見られたり、転んだところを助けられたり。狙っている女はかれに夢中だし、あまつさえ、童貞であることを見抜かれてしまう。
しかも阿倍はゲイだと言う。それは、直希が狙っている女生徒が自分に好意を抱いていると気づいていたかれの、自分は恋敵ではないというフォローであると同時に、ひそかな直希へのアプローチでもあった。ヘテロの直希は阿倍のセクシャリティに厭な顔をしつつも、弱みを握ったと子供のようにほくそ笑み、かれの研究室を私物化する。と同時に、通常ならば単に反感を抱くだけの「デキる男」である阿倍を、やけに意識してしまうようになる。恋愛の可能性がある対象として見始めるようになる。

基本的には性格が捻じ曲がっている上に、たまに心に浮かぶピュアな気持ちを言葉にしようとすると憎まれ口に変わってしまう、直希はどうしようもない。かれの周りにいる友人たちは、それを気にしないことでかれと付き合っているけれど、阿倍は違う。直希の我儘もかれにしてみれば可愛いものだし、本気ではない罵声はすぐに見抜いてしまう。大人であるゆえの余裕と、本来の性格から、阿倍は本当の直希と向き合ってくれる。それは直希にとって最大の屈辱であると同時に、気を張らなくてもいい空気を与えてくれた。そしてかれは初めて恋をする。童貞を捨てるための相手ではなく、そのひとのことばかり考えて意識してしまう、そういう感情を知る。

阿倍を好きになった直希は更に素直じゃなくなる。けれど百戦錬磨からは程遠い直希は、すぐボロが出る。必死で阿倍を振り回そうとして、挑発しようとして失敗する。真っ赤になって空回って、それでも涼しい顔をしたがる直希がバカでバカでバカで可愛い。普段はひとを食ったような物言いの阿倍が、たまに必死になるところもいい。大学ではスマートな人気者として男女ともから慕われている阿倍がたまに見せる大人気ない姿や、思いっきりオヤジな部分が魅力的。桃に引っ掛けた下ネタなんておっさんそのもの。
阿倍の言うとおり、Mに見せかけたSの阿倍と、SぶりたいMの直希はとってもお似合い。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 13:48 | - | - |

中村明日美子「呼び出し一」1

中村明日美子「呼び出し一」1
可愛い後輩に告白されて、ついに彼女が出来た高校生の肇。あまりまともな進路を考えていない肇は、熱狂的相撲ファンの両親に「呼び出し」になることを薦められる。最初は抵抗していた肇だが、生で見た相撲の世界に引き込まれてしまう。

わたしは作者を「コペルニクスの呼吸」で知った。偶然店頭で見かけたあの表紙に度肝を抜かれて購入し、内容にもう一度度肝を抜かれた。そのあとも中村明日美子は多ジャンルで活動を続け、活躍するようになった。やおい、エロ、グロ、爽やかBL、暗黒BL、百合から少女漫画、そしてサスペンス。なんでもござれの明日美子さんだが、敢えてカテゴライズするならば、サブカル作家のイメージがつよいように思う。
しかしこの漫画はそうではない。初めて出来た彼女の存在にうかれている普通の、ちょっとおバカな男子高校生を主役に据えたこの新作は、非常に分かりやすい話になっている。間口をぐいっと広げたような、老若男女問わないつくりになっている。
だからと言ってこれまでの個性や世界観が薄まっているということではない。独特の絵も間も台詞もきっちり中村明日美子色だ。そのバランスが物凄くうまい。なんていうか一言で言い表すならば、超面白い、だ。

相撲狂のラブラブバカップルな両親に育てられた肇は、決して相撲が好きではない。相撲そのものがどう、というよりは、両親の熱狂に疲れている。相撲を愛するあまりかれらが自分を力士にしようと無理やり食事量を増やしていたことなどを思えば、そこに混ざって相撲を好きになれるはずもなかった。自分たちの好きを押しつける両親にはもう慣れたけれど、だからと言ってそれに付き合う気もない。
そういうかれは、呼び出しになれ、という父の言葉も適当に聞き流していた。普通に大学に行って就職するんだ、という、高3にしてはあまりにぼんやりした進路ヴィジョンしか持っていない肇だけれど、相撲に関係する仕事につきたいなどとは一切考えていない。

しかしいくつかの偶然が重なって、かれは相撲を、しかも一人で見に行くことになる。幼いころには家族と見に行ったこともあったようだが、モノゴコロがついてからはおそらく初めて。何も知らずに国技館に足を踏み入れたかれは、見るものすべてが目新しく、いちいち驚き、そして感動する。
相撲に全く興味がない(寧ろ抵抗のある)肇が、相撲に惹かれていくようすがとても分かりやすく描かれている。知らない世界を体感して、言葉にできない高揚した気持ちになり、常識をすっ飛ばして引かれてしまう。これまでの抵抗が長かったぶん、その引力は強い。肇のドキドキがこちらにも伝わってくる。
作品の冒頭、告白されたことを喜ぶあまり階段の上から大きくジャンプする、かけたばかりのパーマ頭の肇がいる。そしてラストは、相撲へのよくわからない興奮にいてもたってもいられずジャンプする、丸坊主の肇がいる。かれは変わったけれど変わっていない。ひとまず、呼び出しへの一歩を踏みだした、というところか。

以前からエッセイなどで相撲が大好きだと明言していた明日美子さんの描く国技館、力士、取り組み、呼び出し、行事、もろもろの相撲に関係する全ては、これでもかというくらいの愛情に溢れている。本人の嗜好を知らなかったとしても、これを見れば作者が本当に相撲が好きなのだということが実感させられる。わたしは相撲に対して知識も興味も殆どないのだけれど、明日美子さんの眼を通して見る相撲の世界は愛すべき文化であり、手に汗握るスポーツであり、独特のルールに満ちた、とっても楽しい世界だ。

しばらく仕事を休養されるということなので、ゆっくり治して、いつかまた続きが読めるといいな。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 00:10 | - | - |

ヤマシタトモコ「ドントクライ、ガール」

ヤマシタトモコ「ドントクライ、ガール
諸事情により父親の知人宅に居候することになった女子高生(処女)のたえ子。彼女を迎え入れてくれたのは在宅エンジニアで、イケメンで、独身で、紳士的で、家では常に全裸の男・升田だった。

本誌で第一回目を読んだときにぶったまげた、このシリーズがとうとうコミックスになった。
あらすじ通りひたすらバカな話。生まれも育ちも良い上に自立していて仕事で立派に成功した升田が、たえ子曰く物凄く「バカ」な両親とどのように出会ったのかはさっぱり分からない。何故両親が娘と共に生活できなくなったのかも、それを升田が引き受けたのかも、もっと言ってしまえばよりにもよって一人暮らしの妙齢独身男性と女子高生の同居以外に選択肢がなかったのかも、わからない。こまけぇことはいいんだよ!たぶん。

単なる裸族なだけではなく、升田はきちんと変態的な性癖を持った男だった。たえ子の言動に萌えてみたり、罵られて大興奮したりと、期待を裏切らない変態だ。更にかれの友人であるパティシエの陣内がまた良いキャラをしている。長髪で、升田とはまた違った種類のイケメンであるかれも非常に人当たりの良い、優しげな男だ。たえ子にも初対面のときから笑顔で接してくれるかれは、別に升田の家に上がっても服を脱いだりはしない。が、どうしようもない下ネタ男だった。ふたりして非常に整った容姿と、地に足のついた生活をしているからこそ可笑しさが引き立つ。
「薔薇の瞳は爆弾」や「YES IT'S ME」などでも描かれてきた、残念なイケメンがここにも出ている。残念なイケメンと言うか、イケメンだからこそ残念さが引き立つと言うか。涼しげな顔立ちで、しれっとした表情でとんでもなく馬鹿なことを言うものだから、そのギャップが一層シチュエーションをおかしくしている。まともに服を着て、まともに恥じらって生きているたえ子が滑稽にすら見える。息つく間もなく突っ込み続ける彼女が気の毒で、また可笑しい。血管切れそう。

たえ子の友人二人もいい。二人の個性(キャラの違い)みたいなものはいまひとつ分からないのだけれど、三人が盛り上がってるときのテンションがすばらしい。男性の前では取り敢えず借りてきた猫になってみたり、知ってることも全力で知らないふりしてすっとぼけてみたり、そんなすっとぼけている自分たちをカマトトぶってんじゃねえよと内心突っ込みあいつつもやっぱりすっとぼけてみたり。
女だけになるとどうでもいい話で大盛り上がりして、今流行っているものやハマっているものから引っ張ってきた言いまわしだけで何時間でも爆笑できたり、そういう、まさに箸が転がってもおかしいテンション。ああまさにこれは、思春期に同世代の異性と一定時間を過ごすことのない女子高テンションだ。男性のことはある程度分かっているけれど、やっぱりよく分からない。物理的にも精神的にもどこか一歩引いたところがある分、妄想ばかりが膨らんでしまう。異性の眼を気にしない、と言うことはこういうことだ…HEY DJ TAEKO、のやりとりに超・共・感…!

同居男が全裸、という、ともすれば出オチになってしまいかねない作品を、6話まで高いクオリティで続けられたのは、女友達をはじめとしたサイドの面白さによるものだと思う。なんでもない会話やしぐさが、突発的なものから練りこまれたものまで心底バカバカしくて面白い。

「3322」
そんなタイトル作を嘲笑うかのようなシリアス短編。はっきりとした原因はないけれど、いきなり高校に行くのが嫌になった哉子は、父の元部下で千代子という女性の家で暮らすことになる。千代子の傍には、彼女の中学時代からの友人だという瑶子がおり、哉子は夏休みを二人と過ごす。
哉子には母親がいない。既に亡くなっており、会社では非常に面倒見がよいという父と暮らしている。学校でもそれなりにうまくやっていたであろう哉子は、ふと、あらゆるものの必要性が分からなくなってしまった。半永久的に繰り返されるように思える毎日、一緒にトイレに行こうとかメールの返事とかお弁当とか、そういうものの価値をいきなり失ってしまう。失ったというよりも、多くの子たちが気にとめないことに、彼女だけが引っかかってしまったと言うべきか。考えても栓ないことをふと思い立ち、そのあとは防波堤が壊れたダムのようにあらゆる疑問や不安が彼女を襲う。その理由を探した彼女は、自分が母について何も知らないことにある、と結論づけた。それが正しいのか正しくないのかは勿論誰にもわからないけれど、彼女にとって謎のままである母の存在の大きさは膨れ上がるばかりだ。

千代子と瑶子の関係や、哉子の想いなど、消化不良な点もたくさんある。けれど、その消化不良こそが人生そのものだ。沢山の伝わらないメッセージ、相手を思うあまり取った行動が相手を深く傷つけること、それを知るのが大人になるということなのかもしれない。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 22:52 | - | - |

不在

重要なお知らせ|Moran Soanオフィシャルブログ「All about Soan」

7月23日にZillが亡くなった。

15日に大佑が亡くなったばかりで、そのことについてもまだよく嚥下しきれていない。蜉蝣のカリスマだったかれのことはよく知らないけれど、the studsでのかれは、とても脆そうで可愛らしい、危ういヴォーカルだった。かれがもういない、ということがまだ現実味を帯びていないこの時期に。

わたしの「好き」は最初から死の傍にあった。そんな好きを続けてきた結果なのか、中でもかれやかれが死にひどく近いところにいたことは分かっていた。驚きはしたけれど、どこかでひどく納得できてしまった。とうにいなくなったあのひとやこのひともまた、そうであったのだということを、この年になって理解できるようにもなった。それでも寂しさはひとつも減らないけれど。

生きてる限りは送り続けるばかりだ。わたしはとにかく天国とか神様とかそういうの思考が、個人的にはだいきらいだ。人が信じる分には構わないけれど、わたし自身はそんなものは存在しないと何の証拠もなく確信しているし、存在してたまるものか、とも思っている。「今」しかないんだ。死後の世界とか生まれ変わりとか、そんなものがあってたまるか。そんなものに慰められてたまるものか。わたしはそこに何かを求めたくはない。声は届かないし、「また」はないと思っている。居るか居ないかというよりは、要らない。それだけがわたしの信仰。
だからこそ後悔の無いように、今を生きなければならない。けれどいくらその時後悔のないようにベストを尽くしたつもりでも後で悔やむことは出てくるし、そもそも殆どの場合はベストを尽くすことすらかなわない。その対象に向けてベストを尽くすことが、わたしという人間のベストの選択ではないからだ。いつだっていきなりやってくる喪失に対して、わたし(たち)が出来ることは、ほぼない。

Zillのことを考えて、もう疲れた、と何度も思った。果たして自分が何に疲れたのかを考えた。たぶん傷つくことだ。けれど何かを好きになる以上、傍にいる死のみならず、あらゆる喪失や崩壊は避けて通れない。何かを好きになることそのものにも疲れそうになるけれど、好きになってしまうことは止められない。世界はわたしの好きなもので満ちている。それを見ないふりで、何も感じないで生きていくことはたぶんできない。

かれがもうこの世にいない、ということを受け入れるのが難しい。かれが生きていた22日といなくなってしまった今日の違いが、わたし個人には届かないから。どんな文面を見てもなお、ブログの更新を数日さぼってるだけ、にしか見えないから。でも絶対にもう会えない。その実感がまだない。  

かれのことを書こうとして、そもそもかれがいなくなったことすらまだよくわかっていないことに気付いた。わたしの大好きな曲を作ったベーシスト。誰よりも暴れまわるステージングで、ライヴの終盤や終わったあとは朦朧とした目でふらふらハケて行く、余力を残すことができないベーシスト。心配になるほど気をつかったブログを書いたかと思えば、後先考えない攻撃的なことを書いたりする、優しくてばかで、気持ちが揺れてるひと。何回も繰り返される同じ質問に、丁寧に応えていた。あまり動かないVeloの前まで行って、顔を覗き込んで目を合わせて笑っていた。痩せていることを気にしていた。お気に入りのサングラスを皆にネタにされていた。キネマ倶楽部でのワンマンで、HitomiがVeloの脱退と活動休止を発表するとき、かれはずっと下を向いていた。その後演奏された「同じ闇の中で」のときもずっと俯いていた。顔を上げられなかった。その姿が、遠くから見ていたはずなのに、やけにくっきり思いだせる。

もういないなんて。

瞬介が亡くなったあと。そして大佑が亡くなったあと。Hitomiは直後に出演したライヴで、自分はファンが大事だから、悲しませるようなことはしない、と語っている。その言葉に嘘はない。けれど、保証もない。何がいつどうなるかなんて誰にもわからない。(健康で、死ぬ気など全くないひとが死んでいく姿もたくさん見た。)ただ、かれがその時そう思ったという事実があれば構わない、とすら思う。

8/9ボトムラインで、ZillのいないMoranを見ることになる。ZillのいないMoranは何度も見た。真悟さんが下手にいるMoranも、何度も見た。けれど次を見るのはこわい。

さようなら。ありがとう。(またね、とは言わないよ。)

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posted by: mngn1012 | 日常 | 22:05 | - | - |

桑原水菜「針金の翼」

桑原水菜「針金の翼」

わたしは絵に描いたような90年代の洗礼を受けたオタクだ。「絶愛-1989-」(のっけから80年代だけど!)、「アーシアン」、「東京BABYLON」、「ハイスクール・オーラバスター」など、一世を風靡したと言っても過言ではない作品にあれよあれよとハマって今に至る。世紀末がそうさせたのか、不思議なほどに終末思想がふつうのこと、として存在していたあの時代。バブル期ならではの派手さと刹那主義。それらに、こどもだったわたしははっきりと理解できないまま、酔いしれた。その中でも欠かせないのが「炎の蜃気楼」だ。ミラージュに関しては好きすぎて今更何を言うということもないのだけれど、桑原水菜作品の中でわたしがいちばん好きなのは、もしかすると(ミラージュではなく)この本かもしれない、と思う。

この本は風景写真と小説、エッセイ、詩からなるハードカバーの単行本だ。中に入っている宣伝チラシもコバルト文庫のものではなく、文芸のものだ。イラストがあるわけでも、「炎の蜃気楼」のエピソードがあるわけでもない、文庫と比べて非常に高額な本が刊行されたこと自体、作品の人気と作者の人気、それに時代を思わせる。

・「補陀落洞門」
書き下ろし小説。一人旅に出ていた画廊で勤務する男は、満月の夜に断崖でスケッチをする男と出会う。旅の気楽さや自身の職業の事もあって気軽に声をかけた男は、その画家・潮田の闇を見ることになる。
桑原作品では、「天才に焦がれる凡人」の構図が多用されている。高耶に焦がれる直江、榛原を狂信する連城、それらの関係がキリストとユダ、アマデウスとサリエリなどに喩えられることも多い。この物語でもその構図は取り入れられている。他の作品と異なる点は、「アマデウス」であるところの、焦がれられる対象が姿を現わさないことだ。
潮田は将来を期待されている日本画家のひとりだった。才能豊かな若者のひとりだった。美しい満月の夜に、月には目もくれずに断崖を一心不乱に描くその姿勢や、接するたびにころころと変わる態度は決して凡人の持ちうるものではなかった。短い間ではあったが自身も絵を描き、諦めて筆を折った恩田にしてみれば、潮田はまさに「アマデウス」だった。自分にはない才能や魅力を持った天才だった。
しかし潮田もまた、圧倒的な才能の前にひれ伏すしかないサリエリだった。日本画界に彗星のごとく現れた天才・横田隗堂というアマデウスの前で、無様に踊らされたサリエリだったのだ。横田の絵に魅せられた潮田は、気づかないまま横田フォロワーそのものの作品を量産し、気付いたときには取り返しのつかないところまで到達していた。有名すぎる男から受けた影響をありありと世間に晒してしまったかれは嘲笑され、罵られ、憐れまれた。それらの情に、それまで「アマデウス」のひとりであった男が耐えられるはずもなかった。
自分が胃の中の蛙でしかないと思い知らされた潮田は、それでも絵を描くことを辞められなかった。それが、自分に才能がないと早々に気づいて諦めた恩田とは決定的に違う点だ。横田というアマデウスと、かれに翻弄される潮田というサリエリ。横田というアマデウスに、何の心の痛みもなく惹かれる恩田という凡人。潮田というアマデウスに魅了される恩田というサリエリ。潮田というサリエリに、かける言葉すら持たない恩田という凡人。この物語においては、三人の関係が幾重もの構図で描かれている。
横田を誰よりも理解し、愛し、心酔する潮田の情熱と、それが自身と同じ道を志すものであったことに対する絶望の吐露が痛い。そしてなんとかかれを慰めて立ち直らせる言葉を見つけようと必死で探して、結局探し出せない恩田がいい。うわべだけの言葉をいくつも思い浮かべて、それを片っ端から否定していく。どんな優しい言葉も厳しい叱責も、長い間苦悩し続けていたかれならば既に考えただろう。もしくは誰かから貰っただろう。その上で、今ここにいるかれは自分に絶望している。つまり、それらの言葉はすべてかれの内側によって否定されたのだ。横田の圧倒的な才能の前には、すべてが無意味だった。凡人の、サリエリにすらなれない恩田にいまさら出来ることなど残っていないのだ。
旅先で出会ったばかりの、赤の他人ができることなどなにもない。
たったひとつを除いては。
結末まで非常に無駄がなく、最後の最後まで先の読めない素晴らしい小説だと思う。タイトルにもなっている「補陀落洞門」は横田の絵のタイトルでもある。先にあるものは無でしかない死なのか、それとも永劫に続く安楽か。やりきれない恐ろしいテーマ同様、峻烈で大好きな話。


エッセイは「ミラージュ紀行」や普段のあとがきのような気軽なものから、答えを出しきれずにどろどろした心情をつづったものまで幅広くある。そして、そのどろどろした心情だけを抜き出して、飾らない(もしくは過度に飾った)言葉で描かれたのが一連の詩だ。自己愛と自己否定が混在する剥きだしの自意識がたまらない。こういうものが許される/好まれる/支持される/熱狂される時代であった、というひとつの事実を物語っていると同時に、時代に左右されない価値があるとも思う。
飛ぶことなんて決してできない針金の翼。のみならず、はばたくことで周囲の人間を傷つけてしまう、針金の翼。その無様さや哀れさがいとおしいのだ。

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今日、7/23が高耶さんのお誕生日だとTwitterで知って、久々にイメージアルバム引っ張り出して「氷結の夜」聴いたらテンションが上がってしまった。創作されたキャラクターの誕生日というものにさほど盛り上がることはないのだけれど、色々なことを思い出したり懐かしむいい機会なのかもしれない。
(若いうちにオタク友達と、キャライラストの描かれたホールケーキ注文してパーティとかやってみたかったな!)
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 21:58 | - | - |

倫敦巴里子「三村と片桐」

倫敦巴里子「三村と片桐」
学生の頃から付き合っている三村と片桐は、もはや長年連れ添った夫妻のような関係。落ち着いた関係を非常に喜ばしく思っている片桐に対して、三村はこのままで良いものかと悩み始める。

ふたりは20代にして既に付き合って14年になる。それぞれ別の会社で働くサラリーマンであり、同棲生活も安定している。いちいち言われなくても相手が欲しがる調味料が分かる。カミングアウトしていない職場で合コンに誘われたことも、その面子にあからさまに自分狙いの女の子がいることも、笑って話せる。それはどちらも、二人がこれまで一歩ずつ築いてきた関係が確かなものであるからこそなせる技だ。築いた壁が強固である証拠だ。
そんな関係を、暢気な片桐は愛している。何でも話せる関係、何でも分かり合える関係、お互いがのびのび過ごせる関係は居心地が良い。しかし三村は、居心地のよさを覚える一方で、焦燥感を抱いている。緊張感の全くない関係は、熟年夫妻のようでもあるが、気の置けない男友達のようにもみえる。そして三村は、本当にこのままでいいのかと考えるようになる。
何のムードもなく久々に抱き合う夜、二人が全く正反対のことを考えているのが可笑しい。今自分達がおかれているシチュエーションが熟年夫妻のたまの刺激のようだと考え、それすらも楽しんでいる片桐と、自分が恋愛対象として見られていない気がして熟年離婚する妻の心境を思い浮かべて別れたいと考える三村。まだ若い二人の男が悶々とすれ違っている様子がいい。
好きだからこのままずっと続けたいと願う男と、好きだからこのままじゃ嫌だと思う男。同じ気持ちから発する全く異なる願いを持ってしまった交際14年目の恋人たちは、喧嘩も和解も初々しいところが全くなくて、だけれども(だからこそ)かわいい。誰よりも相手を知っている親友で、誰よりも相手を知らない恋人で、倦怠期すら微笑ましい。他のBLだと大盛り上がりする、もしくは真っ赤になって目尻に涙まで浮かべちゃいそうな設定で、大爆笑するふたりがいい。生っぽくて、そしてナイス倦怠期!

短編集というか中編集というか、これ以外にも色々な読みきりが入っている。他の話も佳作揃いだし、寧ろ目玉は「長生きにゃんこ」シリーズなのだろうけれど、個人的にはこの表題作がすごくすきだった。書き下ろし掌編のばかばかしい可愛さも良かったので、もっと表題作の関連話を読みたかったなー!
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 19:38 | - | - |