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桜城やや「夢結び恋結び」3

桜城やや「夢結び恋結び」3

青の愛情表現はいつだって、好きだと繰り返して押すことだった。色々な手段を使ってはみたものの、かれの行動は一貫して、自分がいかにつよく思っているのかを隆明に示すことだった。子供だと言われても鬱陶しがられても、断られても、青は諦めなかった。恋愛経験が不足しているうえ、見た目とは裏腹に一本気な性格である青には、それしかなかったのだ。念力岩をも通す、とばかりにかれは頑張り続けた。たとえ隆明にしてみれば良い迷惑だったとしても、青が頑張ったことだけは確かだ。
そしてこれからも青は頑張り続けるはずだった。それ以外に知らないかれは、好きだと繰り返し続けるはずだった。しかし、青に母との同居の話が持ち上がる。それは今の暮らしを辞めなければ手に入らないものだ。引っ越して、転校して、新しい生活をする。一緒にくらしているばーちゃんとも、同じ高校に通う親友たちとも、なにより隆明とも離れることになる。

扶養される子供にはどうしようもない部分もあった。しかしなにより青は、乱暴な方法であれ、全く変化のない現状をぶち壊すチャンスなのだと気付いてしまった。隆明が自分を恋愛対象として見てくれないのは、両想いになるという問題ではなくそもそも自分の恋を真剣に受け止めてくれないのは、かれの中で自分がいつまでも小さい子供だからだ、と青は分かっている。埋められない年齢差や、同い年の子よりはるかに幼い容姿の所為ではなく、隆明の中から出会ったころの印象が抜けないのだ。青だって緩やかにではあるが成長しているのだということを、あまりにも身近にいたために隆明は受け止められないでいる。
一端離れてから再会すれば、自分をひとりの大人として見てくれるのではないかと青は思った。もちろん根拠も自信もないけれど、それに縋るしか方法がないくらいに、かれの恋は八方塞がりだ。このまま好きだと繰り返すだけでは、何も変わらないと青は悟っているのだ。勿論隆明と今までのように会えなくなるのは辛いけれど、恋を受け止めて貰えないほうが辛い。
そしてもうひとつ、そろそろ青の心も限界だったのだろうと思う。いくら茶化していたって、何度も振られれば心は傷つく。真摯に断られるのならまだしも、受け流されたり信用されなかったりするのだ。取り合っても貰えない青の恋は、いつだって宙ぶらりんのままだ。一度や二度ならまだしも、あれほど繰り返されれば心も疲弊する。擦り減って摩耗して、がんばり続けることができなくなったのだ。
だからと言って何も慣れ親しんだ街を出ることはない。けれど、この普通は起こり得ない振って沸いた話に、本当は街を出たくない青はそれでも賭けようとする。

一方隆明だって大変だ。可愛い弟分だと思っていたのに告白されたり乗っかられたり飽きるほど好きだと言われたりしているうちに、かれは混乱してくる。青が可愛くて大切で、誰かに渡したくないと思い始めてしまった。いや、そう思っている自分に気づき始めたと言うべきか。
ふと気付くと隆明は、青のことばかり考えている。あれこれシミュレーションまで開始したかれを見ると、青の「好き」という言葉の雨垂れが、隆明という石を(意思を)穿ち始めていると思わされる。徐々に深い穴を作り始めた雨垂れは、しかしながら一端遠くへ行こうとしている。
隆明の自覚が間に合うのか、否か。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 00:01 | - | - |

鳩村衣杏「天に誓いを立てるのさ」

鳩村衣杏「天に誓いを立てるのさ」
弟と一緒にクリーニング店を営む悠は、恋人の長嶺の友人であるイタリア人デザイナーのランベルトと出会い、仲良くなる。世界が広がっていく一方で、街は再開発計画が浮上したため、悠たちの店にも立ち退きの危機が迫る。

「愛と仁義に生きるのさ」「恋に命を賭けるのさ」に続くクリーニングみさわシリーズ第三弾。今巻は既にそれぞれの関係が成り立っている状態から始まるので、一冊完結ではあるけれど先に前の二作を読むのをおすすめ。

二年半ぶりの新作ということで、出たことにまず驚いた。久々の悠は相変わらずひとを疑うことを知らない馬鹿正直だけれど一本筋が通った漢で、長嶺も相変わらず有能で狡さも持ち合わせているくせに悠の行動に一喜一憂していて、その変わらなさが良かった。

世界を股に掛けるデザイナーである長嶺と、亡き父の後を継いで地元でクリーニング店を営む悠は、同じ時期に似た問題に巻き込まれてしまう。簡単に言ってしまえば、今まで通りに仕事を続けていけなくなるかもしれない、という危機。それぞれ仕事に情熱を燃やすひとりの男として、かれらは苦境に立たされてしまう。普段はなんでも話しあう二人が、お互いに、その話を相手になかなかできないところがもどかしい。はっきりしてから言おう、などと思っているうちにどんどん展開していって、先に第三者から話を聞かされてしまう。本人の口から聞きたかったというショックに、積極的に悠を口説きにかかるランベルトの存在が重なって、二人の仲はこじれてしまう。

長嶺と悠は基本的には恋愛の駆け引きを必要としない、ストレートに愛情を表現しあうタイプの恋人同士だ。照れや気をひくために嘘をついたり隠し事をすることはほとんどない。真っ直ぐすぎるほどに真っ直ぐな者同士の関係は見ていてスカッとする。
任侠ものの作品が好きで自身もちゃきちゃきの江戸っ子である悠と、その世界観に通じる男気と、その筋の者と見まごう容姿を持っている長嶺は、仕事に対しても同じスタンスを取っている。かれらは自分の仕事に誇りを持っており、妥協もずるもしない。職種は違えども、かれらは仕事に対する熱量が同じなのだ。他のことのために仕事を疎かにしない。自分の仕事のことは、自分でかたをつける。誰かに簡単に頼ったり任せたりしない。意志のつよさも痛快。
しかし仕事に対する問題が生じたときは、その強さがあだにもなる。お互いのことを思っているのに、どんどんぎこちなくなっていく関係が切ない。片方が歩み寄るときはもう片方が頑なで、片方が許したかと思うともう片方が新たな火種を持ってくる。二人とは正反対で、ずるいテクニックも駆け引きも利用するランベルトの策略にもはめられてしまう。

相手が自分と同じように仕事を愛していると知っているふたりは、自分の仕事と相手の仕事、相手の仕事と自分の恋心を、ランベルトによって天秤に掛けさせられる。どちらも同じくらい大切だけれど、かれらはその選択からも逃げない。本当に大切なものは何なのか、それ以外の全てを失ってもかまわないほど欲しいものは、守りたいものは何なのかを、自分に問うて答えを出そうとする。両方欲しいと駄々をこねても意味がないと分かっているから、辛かろうと哀しかろうと篩にかける。
高河ゆんの「恋愛-CROWN-」の中で、高校受験に合格した大人気アイドルが所属事務所の社長に、自分の中の優先順位を決めなければならない、という話をされるシーンがある。社長の「順番をつけられない人間は卑怯だから」という凄く印象的だった台詞を、ここで思い出した。順番をつけたくない気持ち、両方同じくらい大切だという気持ちは当然存在する。けれど両方選べないのなら、どちらかを選ぶしかない。そうしなければ、ぐずぐずしていれば風向きが変わって、両方失うことになるかもしれない。そのことを二人は知っている。そしてかれらは、一番大切なものを選ぶのだ。同じくらい大切なものをふり捨てて、一番だけに手を伸ばす。
この話はハッピーエンド大前提であり、荒唐無稽さが気持ちいいラブコメだ。だから最終的には何もかもがうまく行って、めでたしめでたしで幕を閉じる。そんなことは始まる前から分かっている。けれど、作品の中のかれらが必死で自分の一番を選ばんとすることや、心を決めたかれらの思い切りの良さは痛快だ。もしもかれらが心の中で一度切り捨てたものを本当に失ってしまったとしても、きっと二人は後悔しないと思わせてくれる。悔やんだり、ねちねち口にしたり恩を着せるようなことは一切せず、自分の決めた道だと肩で風を切って進んでいきそうなのだ。
勿論最後に勝つのは愛、だけれど。

悠の弟・透と、長嶺の秘書であり暴力団組長の息子である新海のその後の物語「永久の想いを告げるのさ」も収録。
悠を狙っていたランベルトの兄であるロマーノが、パーティに付き添いで参加した透をひとめで気に入って、モデルになってくれと熱烈に口説き始めたことと、表題作から続いている再開発運動が絡んできて、一難去ったのにまた一難やって来てしまった。
悠たちとは違って、透と新海は正反対の性格だ。素直で単純な透と、複雑で本音を晒さない新海は、紆余曲折を経て恋人同士にはなったものの、兄たちのような分かりやすい関係にはなっていない。しかし口を開けば罵詈雑言の新海と、おおらかだけれど子供っぽいところもある透のやりとりは、なんだかんだで犬も食わない喧嘩っぽくてかわいい。

新海との恋に殉じるために、一度透は店を捨てている。主人である兄が許可して、笑顔で背中を押してくれてのことだったし、実際は店と恋の両立が可能になったわけだが、透にとっては苦い過去だ。一度捨ててそのあと舞い戻った店。そのためなら、かれは自分のこだわりを曲げてもかまわないと思い始める。店を守るために必要な金を得るべく、モデルをやるのもひとつではないかと、かれは揺れる。迷いを誰にも見せない悠とは違い、透は、詳細は話さないまでも迷いを新海に打ち明ける。かれから、期待したような甘い言葉はひとつも齎されないけれど。
とは言え新海がひどいわけでも冷たいわけでもないことは、兄の入院で参ってしまった透を慰めるかれの態度で分かる。相手の望むことを理解して歩み寄ってくれる新海が、モデルの件に関しては口を出さない。透に一任している。職業人としての、社会人としてのかれを信用しているからだ。透が迷った上で出した決断なら、どちらでも構わないのだ。
とはいえそこには黒い噂も浮上する。慌てた新海が乗り込んで行ってきった啖呵がまたいい。すごく格好良くて、それだけに最高に格好悪い。恋のためになりふり構わない新海は、これまでのかれからは想像できないだけに、すごくいい。

ラストはやっぱりハッピーエンドで、新しい火種も設置されたかな。富樫さんとイタリア人の恋がみたーい。

***
案の定面白かった。
そして二枚出ているドラマCDが異様に面白いので(ちなみに通販特典座談会の面白さも異常である)、この巻もCDになるといいな。新海さんの啖呵が聞きたいよ聞きたいよ!
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 23:17 | - | - |

DVD「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 EVANGELION:2.22 YOU CAN (NOT) ADVANCE.」【初回限定版】

日本中がオレンジになった、ような気さえしたヱヴァ破DVD・BD同時発売。
好き嫌いはあれどもやっぱりヱヴァは化け物のような人気コンテンツだと改めて実感させられる、そんな勢いがあった。「序」の時も勿論凄かったけれど、「破」はDVD・BD同時発売であることやテレビシリーズと大きく異なる内容であったことなどもあってか、更に勢いを増したような印象がある。あっちこっちで「届いた!」「フィルムが●●だった!」という声が上がる、お祭り騒ぎだ。

今回はディスクは一枚。
特典は前回同様の台本、色々なところで使われた予告映像に加えて、クライマックスシーンの別バージョンや「Omit Scene」と名付けられた、編集時にカットされた4シーンの仮映像もある。テレビシリーズの終盤を彷彿させるマンガのネームのような仮の絵とアフレコで描かれている。人は殆どマネキン状態で、そこにキャラ名前などが出るので判別する。どれも何ということはないシーンなのだけれど、この表情すらない絵の多い状態でアフレコする声優さんは偉大だと思った。
後は、こちらも前回同様の「Rebuild of EVANGELION:2.02」も長時間収録されている。コメントや解説などは一切存在しない、ひたすらシーンのリテイクや試行錯誤が伺える映像が続く。これまた前回も書いたけれど、説明されないと何がなんだかわからない…空のほんの僅かな色味の差や、エヴァの動きの差などにも当然ながらこだわりがあることは実感できるが、それ以上の事が分からない。それだけ分かればいいのかな。この不親切さ、媚びなさがエヴァなのだろうと思うけれど、べつに収録されてて嬉しい特典ではないというのが正直な気持ち。

生フィルムコマは冬月。どれが欲しかったかと言われれば、ラストシーンのプラグスーツを着たカヲルだけれど、エヴァで一番好きなキャラは冬月なので嬉しかった。まあ至るところで、フィルムが冬月でハズレだ、と言っている方を見たけどね!好きです冬月先生。
ちなみに冬月の好きなところは、想いを寄せていた生徒を横からかっさらって言った胡散臭いにもほどがある年下男と、かれの部下として行動を共にしている歪さに他ならない。

本編に関しては、劇場で見たときの感想があるのでよければこちらへ。<一回目><二回目
エヴァは「繰り返しの物語」であるし、新劇場版の所信表明でも「繰り返しの物語」であることが再度明言されている。冒頭から改めて紡がれる繰り返しの物語は、徐々に新しい道を歩み始める。

音だけでは頭に入って来づらい台詞もあるため、字幕付きで見てみたのだけれど、ところどころ誤字があるように感じた。顕著なのはエンドロールで流れる「Beautiful World」の歌詞で、明らかに「~World」と歌っている個所でも「~Boy」と出ていた。微細な作画にこだわるのなら、こういうところも気にしようよ…。

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posted by: mngn1012 | 映像作品 | 09:18 | - | - |

SHY NOVELS ハードコアロマンスフェア/英田サキ「あなたと飲みたい恋の酒」

大洋図書SHY NOVELSのフェア。ハードコアロマンスっていうぼんやりした、何とでもいいようのあるくくりがウマい。

八種類ある中で、英田サキ「最果ての空」<感想>の番外編ペーパーを選択。

・英田サキ「あなたと飲みたい恋の酒」
A5サイズのペーパーに二段組みで書かれた、本編から一カ月ほど過ぎたある夜の物語。

本編の最後、江波が繰り返した告白を、篠塚は丁重に断った。江波は我儘で幼いけれど、ひくべきところはきちんとひくし、どこがひくところなのかを判断できないほど愚かでもなかった。かれは泣けるほど篠塚が好きだったけれど、自分の恋に見込みがないことは分かっていた。時間をかけて忘れるしかないのだと、諦める以外の選択肢はないのだと知っていた。
何度も足を運んでいた篠塚のマンションで江波は、もう会いに来ません、と言った。今のような距離感で付き合いを続ければ忘れられなくなる。恋を引きずってしまうから、けじめとしてかれはそう言った。それは二度と会わないという宣言ではなかったけれど、その時はそれくらいの重さのある決意だっただろう。篠塚もそんな江波の気持ちを理解していたのだろう、その方がいい、と言った。なにもかもを失いつづけてきた男は、自分の返事が原因だとしても、またひとつ心を許せる相手を失ったのだ。と、思っていた。
しかしその直後のあとがきで作者が、実際は江波は篠塚に会いに行く気がする、と書いていた。最初に読んだ時、わたしはそのことがすごく不満だった。本編ではないあとがきで知らされたことも、それが二人にとって覚悟の要る別れをうやむやにしてしまう内容であることも、煮え切らない想いで受け止めるしかなかった。
ただ実際二人が会っている場面を読むと、これはこれで良いのだと思わされる。江波が篠塚のマンションへ行くシチュエーションではないけれど、たかだか一か月で再会する二人も悪くない。江波の気持ちはまだ篠塚にあるし、篠塚もそれをおそらく察知しているだろう。けれど江波はなんでもないふりをする。なんでもないふりを必死でしている、内心なんでもないわけではない江波に篠塚は気づいていて、それでも普通に接する。それは頑張っている江波への配慮なのか、それとも割り切ったアイディアなのか、寧ろ自分に気持ちを残している江波を翻弄したいという欲求なのか、分からない。食えない男である篠塚の考えは読めないけれど、かれが椎葉に見せていた優しい人格者以外の顔を持っていることは既に分かっている。なので、江波の気持ちに応えられないくせにかれを振り回したい、自分に恋している人間を見て安心したいのだと思っている可能性は払拭できない。
諦める以外の選択肢をくれなかった癖に、唯一江波に残されたその道すら簡単には進ませない、篠塚の狡さがすごくいい。篠塚さん大好き!

***
そういえばサイバーフェイズが倒産してしまったことで、淡い期待を抱いていた「最果ての空」のドラマ化が夢物語になってしまった。サイバーが今もあったとして、この最終的にカップル成立しない物語が音声化されていたかは勿論分からないのだけれど。もはや入手困難になりつつある「エス」シリーズにしても、他の作品にしても優れたCDが多かったので、どこかが引き継いで出してくれるといいな、と言うのはタダなので言っておこう。
「貴公子の求婚」もどこかが出してくれないかな。
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posted by: mngn1012 | その他やおい・BL関連 | 22:44 | - | - |

ベリー・ベリー

夏物が店頭に出ているけれど、これは春物。
 
ベリー・ベリーのプルオーバー。
わたしより先に春物のカタログを見たひーたそが、春物はこういうものがあったとメッセで解説してくれたのだが、その時に、ドンルに変なイチゴがあった、と言っていた。そのあとわたしはFUDGEでこの柄を見て、なにこれ超かわいい!と思ったのである。

OPでも良かったのだけれど、カタログで見た感じだとちょっと不思議な形だったので吉と出るか凶と出るか分からず、保守的にプルオーバーにした。店頭で店員さんが着ているのを見たらワンピも可愛かったけれど、ロリっぽさが薄いこのプルオーバーがわたしは好きだ。
ちなみにこれは「青か緑、予約余ってるほうでいいです」と言って買った。頼むのが遅かったこともあるが、どっちも可愛くて色が選べなかったのでちょうど良かった。我ながらこだわりがあるんだかないんだか分からない。

***
twitterを始めるとブログの更新が止まる・頻度が下がる、と言っているひとを沢山見る。その気持ちは非常に分かるけれど、わたしはmixiもtwitterも仮のすみかであり、自分が残したいものを書くのはブログでしかないと思っている。無料レンタルの、広告が入ったようなブログではあるけれど、ここが(べつに今のjugemブログのみが、ということではなく)わたしの場所だと思っている。なので、相変わらずだらだらと書き連ねては更新しているのだけれど、ふと気付くと過去の自分と比べて、日常の話をすることが少なくなった。
理由はいくつかあって、仕事と家と時々お酒、な日常を送っているので特筆すべきことがない、ということ。アクセス数が昔に比べて当社比ではあるが増えたために、軽はずみに行った店や出来事を書くと特定されてしまうのではないかという危機感を持ったこと(いやまあ見る人が見ればすぐ分かるんだろうけれど)。あとはわたしのことを知らないひとが読んで面白いのか?という自意識過剰にも陥った。以前はしていなかったカテゴリ分けをし始めたので、そのカテゴリと異なる内容の事柄を載せることに抵抗を覚えるようになってしまったこと。つまり「舞台」カテゴリに、舞台に行くまでの過程や行った後にお茶したことなどを書くことが、なんとなくしっくりこないように思い始めてしまったのだ。こういうところ無駄に神経質。あとはやっぱりtwitterにそのときの気持ちをすぐ乗せてしまうので消化されているということ。
それでもいいかなあと思っていたのだけれど、数ヶ月前に設置変更した、どのエントリに拍手をいただけたのか分かるweb拍手(本当にいつもありがとうございます)を見ると、案外わたしのどうでもいい日常に拍手を頂いていると判明。更にひーたそが自分のブログでわたしの六年前の恐ろしいエントリにリンクをお張りくださったので恐々見てみると、今と大差ない痛々しさのわたし記しているその当時の出来事を、まざまざと思い出すことが出来ることが分かった。まさに「自分より偉い日記様」((c)ひすいさん)である。こりゃいいわ、と思い返したので、ちょっとずつ書こうかな、と思います。
という決意表明に見せかけた、ひとつの日常。

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posted by: mngn1012 | 日常 | 20:47 | - | - |

薄桜鬼 第八話「あさきゆめみし」

ちょっと一息、の回。

風間の言葉や沖田の病など、気が重くなることばかりが降りかかる千鶴は元気がない。そのことを隊士たちはそれぞれ気にかけている。
千姫が「千鶴ちゃん」と彼女を呼んだ事に無反応な原田新八斎藤。前者二人はまだしも、斎藤も無反応なのはびっくりした。まあいいか。
とまれ千姫の言葉で千鶴の状況を思い出したかれらは、千姫に千鶴を励ますよう依頼する。彼女が単なる町娘のひとりだと思っているのか得たいが知れないと疑っているのかはさておき、見張りつきではあるがかれらは千姫と千鶴のひとときを守ることにした。他の女の子キャラと一緒にいると、千鶴の平凡さが際立っていい。目立ってきれいでも可愛いわけでもないし、気がきついわけでもない、ふつうのこ、という感じが非常によく出ている。でも千鶴かわいい。この、平凡なのに(だからこその)可愛さがちょうどいい。

風呂上りに髪を乾かさずぼうっと外に出ている沖田を見つけた千鶴は、心配からくる怒りで沖田の髪を乾かしてやる。嬉しそうな顔を隠して沖田は、自分の髪型の由来を話した。いくら髪の話題をしていたとはいえ急な話題転換にも、もう千鶴は戸惑わない。沖田という男のテンポに慣れているのだ。
「他の人には内緒だよ」と笑う沖田は、二つ目の秘密を作った。不治の病なんていう最悪の秘密だけではなく、幼くて不器用な秘密を無理に作り上げたという感じがする。もちろんその内容は決して嘘ではないのだろうけれど、わざわざ他言無用を敷くほどのものでもない。けれどそれを二人きりの秘密にすることで、相手が特別な存在であることを匂わせる。はっきりした年齢は示されないけれどまだ若いであろう沖田の、年齢や見かけより更に幼い恋が可愛い。沖田ルートもクリアしたし、楽しかったんだけれど、沖田の恋は叶わないほうがいいと思ってみたりする。ただそうすると近藤の一番にも千鶴の一番にもなれずに若くして死んでいくことになるので救いがない…。
そ、そんな沖田が好きだよ!

冒頭で幹部が語っていた土方への不満はどんどん膨らんでいく。そういえば序盤のシーンで新八原田が土方の不満を言っているとき、斎藤が黙って聞いていたのも意外だったな。土方の考えを見抜くかれなのでそれを口にするか、もしくはいつもの土方らしくないと言うか、なにかしらリアクションが欲しかった。
酒を飲んで門限破りをした平助原田新八に土方は声を荒げる。酔った三人の売り言葉も取り合わず、頭ごなしに叱り付ける土方にとうとう新八がきれた。そもそも伊東の入隊も気に食わなかった新八である、最近の近藤・土方への不満を口にするかれに、意外にも土方はすぐ謝罪した。普段はピリピリしてるのに、こういうところで素直になれるあたりも土方の魅力。
そして外で聞き耳を立てる千鶴原田平助が可愛い。

家茂公が崩御したこともあり、朝廷は長州に大敗してしまう。その流れを示すかのように、長州藩が朝敵だという札が引き抜かれて捨てられるという事件があった。犯人を捕まえるべく、第二の事件を起こさないようにすべく、新選組は札の警護を命じられる。
原田が敵から札を守って報奨金を貰う、というエピソードはゲームにもあったけれど、千鶴は(主人公は)全てが済んでからその話を聞くだけだった。しかしアニメではそれに至る過程や、原田がいかにして戦ったのかも見られる。主人公の目が届かない場面も沢山描かれるのがいい。
顔を隠して現れた薫が途中で頭巾を落とされるシーンもあった。頭巾を落とされたのは原田の機転と能力の所為だが、そのときに敢えて振り返ったのは薫の故意にほかならない。顔を隠しているくせに、自分からその顔を見せたのだ。

そして報奨金で飲みに行く面々。
君菊に「役者みたいなええ男」と言われた土方が「よく言われる」と返すシーンが凄く好きなんだけれど、ゲームとアニメで若干解釈が違うかな?という印象。ゲームでは、あまりにしれっと土方が返すので「うっわーモテ男…やなやつ…(でも勝てない)」みたいな雰囲気になるんだけれど、アニメでは「おいおいもう酔ってるよーアイタタタ」みたいな扱いに思えた。昔からモテまくって、モテることも褒められることも言い寄られることも普通、なしれっとした土方が好きなのでちょっと残念。

千鶴にそっくりな子が現場にいたという話から、確かめるためにも千鶴に女物の着物を着せてみようという話になる。斎藤さんのそういうまったく気が利かな過ぎて逆に気が利いてしまうところ、好きだよ!
着物姿になった千鶴をハイテンションで照れつつも褒める平助原田新八と、皮肉で褒める沖田と、直視しない斎藤。
その空気にいたたまれずに部屋を出ると土方がいたー!余裕の微笑み!そうそうこういうしれっとした土方さんを求めてるの!百戦錬磨の匂い!かと思えば、いつもの「副長」のトーンで千鶴に「気にしなくていい」と言う。オンオフの切り替えが自在。
そして久々のどんちゃん騒ぎを一歩引いて見ながら、土方は試衛館時代を振り返る。回想シーンの子供沖田の凶悪な目つきが超絶可愛い。
金はなくとも楽しかった時代を思い出して、そのころを思い出せば、今の自分の立場が信じられないと土方は言う。「長くて幸せな夢を見続けてる」気がするというかれもまた、千鶴と二人きりの秘密を作ったようだ。
そしてやっぱり楽しい時はスローモーション。

試衛館の面子を中心とした新撰組物では大体、芹沢鴨のいる不遇の時代を乗り越えて上昇し、池田屋事変がクライマックスであり最も栄光の時代となる。
そのあとは徐々に仲間が分裂したり減っていったりする。しかし薄桜鬼はそのピークである池田屋直前から物語が始まり、わずかばかりの幸せな時代を経て、敗戦と別れに満ちたストーリーを突き進むことになる。既に時代は討幕派に追い風が吹いているけれど、それでもこのひと時の宴は非常に楽しく、かれらにとって最後の幸福な出来事であったと思う。
それが長く続かないこともまた、自明の理だ。
鬼たちはすぐそこまで来ている。
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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 21:00 | - | - |

中村光「聖☆おにいさん」5

中村光「聖☆おにいさん」5

発売日は立川のみならず全国的に雨だった。さすがすぎる。

相変わらず面白い、と新刊が出るたびに言っているのだけれど、今回も面白かった。さすがに最初のころに感じた圧倒的な刺激はないけれど、その代わり、継続されることで得られるテンドン的な面白さと、尽きないネタの両方が楽しませてくれる。

普段は自由奔放なイエスに呆れたり突っ込んだり叱ったりしているブッダがたまに見せる、悟った人・目覚めた人としての態度が凄く好きだ。正月に遊びに来たラーフラが、ドトールのトイレ設備に恐縮していると、サーリプッタが二人のアパートのトイレの簡素さを示してくるシーンがある。きれいな心の二人が、全く悪気なく、ブッダとイエスのアパートのトイレを馬鹿にしている会話を聞いたブッダは、「お前が喜んでくれたら何よりですよ ラーフラ…」と遠い目とひきつった笑みで呟く。目上の人やそれほど親しくない人に対しての敬語ではなく、仏陀として敬語を使って話しているシーンが可笑しくていい。そしてちょっと気の毒。

闇鍋中に現れたマーラとルシファーも良いキャラだ。マーラさんの携帯電話はiPhoneの様子。弟のミカエルを引き合いに出されたルシファーが「大体カインとアベルだって ダメな方がお兄ちゃんですけど!?」と逆ギレするシーンも好き。一番見本にしたらいけない人出してきちゃったよこの人。

そしてとうとう登場したユダが、想像を遥かに超える陰気キャラでたまらない。最後の晩餐のくだりを自虐ネタにするユダが読めるのは「聖☆おにいさん」だけ!…たぶん。このユダのくだりにしても、他の全てのシーンにしても、ちょっと知識がある程度では到底描けないエピソードやギャグが沢山使われていて面白いにもほどがある。設定に負けないひとつひとつのネタ、有名すぎるエピソードを用いて「実はこうだったんだ…」とかれらが語るとんちんかんな真実、それらを現代のものに喩えた結果余計に分かりにくくなってしまうボケ、どれをとっても秀逸だ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 21:55 | - | - |

原作:崎谷はるひ、漫画:冬乃郁也「微熱の果実〜バタフライ・スカイ〜」1 限定版

原作:崎谷はるひ、漫画:冬乃郁也「微熱の果実〜バタフライ・スカイ〜」1 限定版
ホストクラブで人気NO.1を誇る光聖は、現役大学生でありながらNO.3の座におさまっている秀穂と、全く意見も客層も合わないながら、気まぐれに寝る関係を続けている。日常ではろくな会話すらしない二人だが、秀穂の退職を別の人間から聞いた光聖は、ひどく腹を立てる。

「ぼくらが微熱になる理由〜バタフライ・キス〜」<感想>「バタフライ・ルージュ」<感想>に続くシリーズ第三弾。ホストと公務員、ホストとサラリーマンときて、今回はホスト同士の話になる。この話から読んでも特に問題はない。

ホストクラブ「バタフライ・キス」のNO.1である光聖は、一般にオラオラ系と言われる、優しい態度や甘い言葉やお世辞を与えず、上から目線で叱ったり適当に扱ったりするホストだ。きつくて派手な顔立ちと似合っているそのキャラで、かれは長い間店のトップを走っている。
ホストを職にしている人間が殆どの店で、NO.3にのし上がった秀穂は現役の大学生だ。有名な大学に通いながら、学費を稼ぐためにアルバイトとしてバタフライ・キスで働いている。温厚そうでやわらかい雰囲気を持ち、後輩からも先輩からも評判の良い秀穂を教育したのは光聖だ。ホストとしてのルールや店のルールを、ぶっきらぼうで乱暴な言葉ではあるが光聖は伝えてやった。秀穂は笑顔で例を言い、光聖の冷たい態度にも微笑みを絶やさず、気付けばNO.3の位置まで上って来ていた。

しかし穏やかな秀穂は徐々に本性を見せ始める。礼儀正しい新人から人望あるNO.3へと変化を遂げながら、かれは光聖に突っかかるようになる。口は悪いが客が風俗で金を稼ごうとすると本気で止めたり、NO.1だと偉そうに振舞いつつも自分に価値がないかのようにふるまってみせる光聖の不安定さに苛立っている。そして秀穂は、おそらく光聖が、自分でも無意識のうちに求めていたであろう「頭からっぽになる」時間を餌に、光聖を釣った。光聖はそれが危険な甘言だと分かっていながら、乗った。分かりあうための会話も歩みよりもないまま、気ままな時にセックスするだけの関係が構築される。

本当はきちんと向かい合って、告げる言葉があったはずだ。先に昇華しておくべき感情、伝えておくべき気持ちがいくつもあったはずだ。けれどいつだって、そのことに気付くのは、既に別の関係が始まってしまってからだ。気付いたときには二人の間には亀裂やぎこちない空気が存在しており、もう今更なにを言ったって無駄だと、どんな態度を取ったって信用されないという諦めをかれらに抱かせる。関係が始まる時には、あやふやで曖昧で自覚できなかった気持ちが何だったのかを知ったときには、もう、遅い。気持ちの自覚とそれが決して成就しないことの理解が一緒に訪れてしまう。
崎谷はるひの十八番とも言える、肉体関係を持ってしまったことで気まずくなる、ぎこちなくなってしまう関係がここでも描かれる。以前は気がねなく言えたことが何故か喉でつかえてしまって音にならない。友達だったはずなのに、恋愛をすっ飛ばして肉体関係を持ったことで、他人よりも遠い存在になってしまう。そういう関係は何度となく書かれてきた。秀穂と光聖もまた、そういう間柄になりつつある。かれらの間にはもとより友情のようなあたたかい情は生まれていなかったけれど、少なくとも今よりはもう少しまともだった。僅かの絆すら、衝動と挑発で断ち切ってしまったのだ。
どうせ自分は秀穂に嫌われているんだと目を手で覆う光聖の歪んだ口元とか、もはや自分に正面から向き合わなくなった光聖を見て「攻略方法間違えたかなあ」と呟く秀穂の少しさみしげな様子とか、いつも通りなんだけれどやっぱり好きな展開だ。
秀穂が辞めること、それを光聖だけが知らなかったことをきっかけに、停滞していた関係が動き出した。隠していることが沢山ありそうな二人なので、その辺の謎も、こんがらがった関係と一緒に解けるといいな。完結していない段階ではあるけれど、三作の中では一番すきかも。今のところ。

限定版には崎谷はるひ書き下ろし小説「その骨に蝶のくちづけ」が収録された小冊子が付いている。
タイトルから分かるように、バタフライ・ルージュの二人の番外編。散々揉めてこじれて、命の危機にまで発展した結果、なんとか恋人同士っぽく落ちついた二人のその後の物語。
本編ではまったくもって何を考えているのか、考えが分からなければその行動の意味も分からない暴君だった将嗣だけれど、流石に反省したようで、千晶に優しいところも見せている。かと思いきや完全に優しい男になりきらない。千晶はそれに一喜一憂して振り回されて、そうやって楽しく暮らして行くんだろう。根っこの部分から揺らいでしまうようなことはもうない。土台の上に乗ったものはぐらぐらしているけれど、それくらいのスリルが多分合っているのだ。これを読むと本編が報われる。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:02 | - | - |

砂原糖子「イノセンス〜幼馴染み〜」

砂原糖子「イノセンス〜幼馴染み〜」
ひとよりも成長がゆるやかな睦は、幼稚園からの幼馴染みである来栖が彼女とキスしているのを見て、自分もして欲しいと打ち明ける。当然取り合ってくれない来栖は、睦の暴走に苛立って距離を取るようになる。

先の読めない展開にやきもきさせられて、最後まではらはらしながら読めた。けれど読んでいる間中ずっと、志織が言うところの「あなたみたいな人」である睦を、もしくはそういう人たちを「イノセンス(イノセント)」だの「ピュア」だのという言葉で称することに対しての疑問もあった。睦は成長が同年代の他者と比べて遅く(もしくは足りなく)、言葉の裏や発されない部分を読むことが出来ない。疑うことや、嘘と事実が混ざった言葉から真実を見極めることができない。それは決してかれの所為ではないし、かと言ってかれの周りの人間の所為でもない。そういう風に生まれたのだとしか言いようがない。そのことについて睦を馬鹿にしたり罵ったり利用しようとする人間たちも作品の中には出てくる。現実に起こりうる事態だとは言え、加害者の幼さを加味しても許されていいものではない。睦に非はない。けれど、だからと言ってかれが他の人間よりも純粋であるのか無垢であるのかと言われると、それもまた違うと思うのだ。それもまた差別と大差ない区別だ。
しかしその疑念は後半で拭われる。睦が、他者との差異ゆえにピュアだという考えは誤りなのだと来栖は実感する。疑わずに言葉をそのまま受け取り、信じきる行動だけを取ってみれば確かに純粋だと言えなくもない。けれど、そんなことはさしたる問題ではないのだ。睦が睦として存在していること、自分の傍にいてくれること、それがかれにとって大切なことなのだ。睦が傍にいることで、忙しさや出世欲にかまけて色々なものを置き去りにしそうな自分に気づくことができる。立ち止まって思い出を振り返ったり、走り抜けるだけでは見落としてしまいそうな沢山のものを見つけることができる。それはかれの心の充足に繋がる。自分で好きだと思える、優しく穏やかな自分を保てる。それは全て、睦といるからこそ可能になるのだ。それが保護欲なのか庇護欲なのか憐れみなのか、そんなことは問題ではない。

幼稚園からの付き合いである来栖のことが、睦は徐々に分からなくなる。幼稚園の時は同じ価値観でものを見ていたし、睦が来栖に教えてやることもあった。けれど次第にそういうことはなくなり、気付けば優等生中の優等生の来栖との友人関係は、周りからは釣り合わない・似合わないものだと言われるようになっていた。睦はそんなことを気にしなかったし、来栖も気にかけたりはしなかったが、来栖が何を考えているのか、睦には分からなくなっていった。
来栖が自分に対して長い間恋愛感情を抱いていることなど、恋愛感情が何なのかもよく分からない睦に気づけるはずがない。だから、それに端を発した来栖の行動のすべてが、睦には不可解だ。自分の想像できる範囲で来栖の行動の理由を考える睦の発想が何度も出てくるけれど、そのどれもが哀しい。
幼稚園の時に二人とも好きだったヒーローを、睦は未だに大好きだ。けれど来栖はとうに冷めてしまっている。部屋に飾ってあった玩具はなくなり、そのあともどんどんジャンルが変わって行った。それは思春期の男子としてはよくあることだけれど、自分がそうならない睦には分からない。来栖以外とこんなに長く深い友情を続けてこなかったからこそ、余計に判断がつかないのだ。睦に分かるのは、来栖はある程度の年月で好きなものが変わる、ということだけだ。だから、来栖に冷たく当たられた睦は思うのだ。自分も同じように、飽きられてしまったのだ、と。
こういう睦の、一方的だけれど精一杯な心情が沢山描かれている。その繊細な誤解がとても巧く、伏線の回収も見事で、それだけに睦の心がやるせなくもある。

来栖もまた、単なる美形の優等生ではない。やけにつよい向上心を持ったかれにも、それなりの理由があった。単純だと思っていた家庭環境が実はひどく複雑で、危ういものを孕んでいるのだと、いちばん多感な時期に知ってしまった来栖は、追い詰められてでもいるかのように上を目指すようになる。それと同時に、自分の望みを口にできない人間になってしまった。相手のためを思ってとった行動が裏目に出ているとも知らず、来栖は暴走気味になる。
いつの間にか抱いてしまった幼馴染みへの恋愛感情も、決して来栖を救ってくれるものではなかった。寧ろかれを更に追い詰め、罪悪感を強めるものになった。その気持ちは睦と再会しても、一緒に生活するようになってもぬぐい去れない。
セックスの意味も内容もよく分からない睦を抱きしめて、来栖は泣いた。俺はお前が好きで、お前も俺が好きで、それだけで充分なはずなのに、どうして、と泣いた。どうして、の後の言葉を来栖は続けなかったけれど、かれはプラトニックな関係で満足しきれない自分を責めている。お互いがお互いの一番だと確認して、一緒に暮らして、仕事も順調で、だけれどもそれだけでは足りないのだ。睦が想像だにしないような欲を自分は抱いていて、それを叶えるために、睦の恐怖や痛みを蔑にしようとすらしている。そのことが来栖を傷つける。
しかし睦は来栖を受け入れる。想像しないのは知らないからだ。知らないことはこれまでも来栖が教えてくれた。今度だって、来栖が教えればいい。来栖が望むのならば構わない、と睦は思っている。その言葉にどういう対応をするのが正しいのかは分からない。睦の優しさにつけこんで、甘えただけなのかもしれない。けれどそのことが来栖を救った。おそらく幼いころからずっと抱いていた来栖の不安が、解き放たれたのだ。
睦はまさに、「クルちゃんの神様」になった。

デリケートな設定を含んでいるだけに、好みの別れそうな物語だ。手放しで面白かったからおすすめー!と言うことは難しいし、わたし自身も引っかかるところがないわけではない。逆に、自分が過剰に反応してデリケートな問題にしてしまっているだけなのかもしれない、とも思う。ともあれ読み手を選びそうな作品であることは確かだが、このひとクセが砂原作品の醍醐味だとも言える。
好きか嫌いかと問われれば、好きだ、と言う。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:23 | - | - |

神江真凪「臆病者の嘘」

神江真凪「臆病者の嘘」
サラリーマンの悠人は、人気俳優の亨と頻繁に会う友人関係を続けている。元々地元が同じで、妹の彼氏であった亨のことを悠人はずっと好きだけれど、決して口には出せないでいる。今の関係を壊してしまうのが怖いから、何より、過去に一度だけ大きな嘘をついてしまったから。

初めて読む作家さん。こういうどよんとした日常物は好きなので、衝動的に買ってみたのだけれどなかなか面白かった。

二つ年下の妹の彼氏だった亨との出会いは、家から出られなくなった妹の代わりに、待ち合わせ場所にいる亨へ事情を伝えに行ったときに遡る。当時中3だった亨はその後、悠人の通う高校を受験して無事合格した。妹とは学校が離れてしまったけれど、悠人は積極的に間を取り持った。三人で遊ぶことも多かったし、その時間はひどく楽しいものだった。別の生活を始めると同時に距離があいてしまう恋人より、亨は悠人と長い時間を過ごすようになっていった。
年齢差をものともせず、学生時代に親友になった二人は、今も変わらず友情を育んでいる。スカウトをきっかけに俳優になった亨は、映画を中心にした売れっ子となったし、悠人は大学卒業後就職して、先輩の合コンに駆り出されたりしつつもなんとか楽しくやっている。亨は時間が出来ると悠人の家にやって来て、二人で食事をとる。しかし今の関係になるまでには、いくつも困難があった。亨の家庭環境や引っ越しなど、高校生の二人にはどうすることもできない問題を乗り越えて、かれらは今の関係を取り戻したのだ。現在と過去を行き来するかたちで描かれる過程によって、そのことが分かる。

その過程の中で、悠人がいつ何によって亨を好きになったのかも描かれている。好きになるのに確固たる理由は必ずしも必要ではない。そんなものなくたってどうしようもなく好きになることはあるし、きっかけだって傍から見れば本当につまらないものだということも多い。大切なのはきっかけではなく、そのあとだ。けれど、はっきり好きだと自覚するまでのあやふやな感情の芽生えから、確信に至るまでの心の揺れが描かれている作品はとても好きだ。それがどんな些細なことであっても、偶然でしかなくても、ぱあっと世界が開ける瞬間が見えるのがいい。その日のことを悠人は「すべてを変えた夜」だと考えている。ずっと続いてゆくだろうと思っていた関係が、悠人の中でだけ変わった。関係は何ら変わらなかったけれど、気持ちについた名前が変わったことで、悠人の中のすべてが変わったのだ。
悠人が亨を好きだと自覚したのも、日常の延長だった。上手く行っていない両親に心を痛めた亨の、他の誰にも見せないであろう弱音に悠人の心は動揺する。更に亨との物理的な別離によって、悠人の想いは一層強まる。

年月を経ようと、住むところや環境が変わろうと、悠人の気持ちは変わらなかった。しかしかれは決して気持ちを伝えようとはしない。それは亨が同性であることだけが原因ではない。好きになった当時、亨は妹の彼氏だった。とある理由をきっかけに別れてしまい、妹は新しい恋人と幸せに過ごしているけれど、そのこともまた悠人を思いとどまらせる。かれが亨を思うあまりとってしまった卑怯な行動が、幼かった二人の仲を引き裂いたからだ。何年たっても消えない罪悪感と、それにも関わらず黙って亨の傍にいる背徳感が悠人を雁字搦めにする。
タイトルにある「臆病者の嘘」はそんな悠人の過去の罪のことであり、悠人に最後の一歩を踏み出させないストッパーだ。亨の希望より自分の願望を優先してしまった後悔が、悠人を縛る。

そんな悠人がどうやって気持ちを亨に明かすのかと思っていたけれど、告白のきっかけも個性的で面白かった。ありえなさそうだけれど意外と起こってしまう、そういう事故の所為で悠人は何もかもを晒す。知られてしまったらもうおしまいなんだと、偽悪的に振舞って逃げようとするかれの、混乱っぷりが切なくていい。

内容はテンプレだし会話がかたくてしっくりこないところもあるけれど、二人の出会いから徐々に起こる変化が終始丁寧に描かれた作品だった。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 18:10 | - | - |