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剣解「黒の騎士 歪む歯車」

剣解「黒の騎士 歪む歯車」

リブレ版で言うと「出逢い」「旅立ち」「運命の手」と続いたシリーズ四作目。(ビブロス版だと1〜3巻のあとリブレの「運命の手」に続くので五作目)

ジェイムズの従弟であるライオネルの遊びによってジークが深手を負ったことに動揺したクリスは、しかし以前の鷹の爪団のようにライオネルを憎むことはしない。真実を知って手のひらを返した鷹の爪よりも、退屈しのぎに人を傷つけるライオネルの方が悪辣だけれど、そのあまりに悪びれない悪辣さが、かえってクリスに新しい疑念を抱かせたからだ。身分が上だから何をしても良いのだと、ライオネルはおそらく本気で思っている。言い訳ではなく、純粋にそう感じているふしがある。そのことが、国の規模は違えと、一国の王子であるクリスを迷わせる。かれはライオネルがおかしいと感じるけれど、はたしてそれは本当なのか。ダンドゥークの人々にとっては自分の感覚の方がおかしいのだろう。では、ダンドゥークに在りながら自国をおかしいと感じ続け、変革を望んでいるジェイムズは本当に正しいのか?まだ幼さが残るクリスは良きにつけ悪しきにつけ、迷う。その迷いを聞いたジークは誠実に応えてくれるけれど、かれはきちんとクリスに考える余地を与えてくれる。お前はどう考えるんだ、どう思うんだ、どうしたいんだと常に聞いてくれる。王子の騎士として、恋人として。あまり口数が多くなく、言葉がうまいわけでもないジークの飾らない気持ちがクリスを癒し、宥め、大人にする。

次から次へと問題は起こる。火種はそこらじゅうにあって、ひとつふたつ取り除いたところでどうなるものでもないのだ。ひとつの火を消している間に、他の火種が新しい火を生む。
とうとうかれらは帝都・ダンドゥークへ辿りついた。初めて訪れるクリスとジーク、久々に訪れたジェイムズ、そしてなぜかいきなり同行すると言いだした皇太子ローレンスがやってきたことで帝都はお祭り騒ぎとなった。しかし国を追放された第二皇子・ジェイムズの帰国によって、皇太子派の枢密院側は揺れる。人望も血のつながりも、ジェイムズの方が上なのだ。このままではかれを追放し、ローレンスについている自分達の立場が危うい。それを知って枢密院を自分の味方にしようと話を持ちかけるジェイムズに、意見の割れる枢密院。かれらが出した答は、アラン王に毒をもったとして国外追放処分になったパウエルを拷問して、アランの動きを得ようとする、というものだった。

アラン王は人生で二度、毒を盛られている。一度目はまだかれが若いとき、そしてもう一度は、クリスが兵学校へ通っているときだ。パウエルは二度目の暗殺未遂の犯人として国外逃亡処分となった。しかしそれは未だ犯人の分からない冤罪である。ではなぜかれは抵抗せず国を出たのか。それは、一度目の暗殺未遂の犯人こそが、妻の命を人質に取られて脅された、若かりし頃のパウエルだからだ。パウエルの所業と事情を知った王の周囲の人間たちは、かれの人柄と反省を知り、今後一切を王に捧げることを条件にかれを許した。
既に王のものであったパウエルは、自分が犯していない罪によってアランを追放され、アランと敵対するダンドゥークでは、アランに与した反逆罪を問われ拷問にかけられようとしている。そのことを知ったクリスはいてもたってもいられず、ジークともどもかれを救うために立ち上がる。
クリス達が拷問部屋に辿りつく前、パウエルが拷問部屋に移動させられる前からそこに潜んでいるものがいた。いくつもの名を持ち、ブリガドゥーンの元で働く殺し屋ソレアだ。かれはパウエルの情人として作品に登場し、自殺したと言われていた男でもある。殆ど感情らしいものを見せてこなかったソレアがパウエルとの出逢いを思い出すモノローグがまたせつない。戦場でパウエルに見つけられたとき、
かれは既に人を殺すことに慣れていた。まだ幼い子供だったけれど、死にそこなった兵士の息の根を止めて歩いていたのだ。そんなかれに暖かく優しく接してくれたのはパウエルだった。たとえ周囲に稚児だと言われようと情人だと言われようとパウエルは全く気にせず、父親のような愛情を注ぎ続けてくれた。妻が亡くなったあと、パウエルはかれにソレアという妻の名をつけた。それは決してかれを妻の代わりにするというような下卑た考えではなく、妻の形見を子供に授ける真っ当な感情だったのだろう。
ソレアはパウエルに黙って殺しを続けた。それしか自分に出来ることはないと知っていた。そしてかれが次に命じられた対象こそが、パウエルだった。拷問にかけられればパウエルはアランに不利なことを言うかもしれない。それはアラン王を皇帝にするというアランの野望、ひいてはパウエル本人の夢を潰えさせることになりかねない。
命を落とすことになってもアラン王に忠誠を尽くすつもりだ、もし怖じ気付いたら励ましてくれ、と笑いながらパウエルは言った。皮肉なことに、かれを殺す命を実行しようとするソレアは、その願いを叶えることにもなる。拷問に怯え、自分が真実を吐いてしまわないかと震えるパウエルから、その不安の種を取り除いてやるのだ。もはや死しか待っていないパウエルに、少しでも穏やかで苦しまない死を与えにきたのだ。
国のためにある男は死に、国のためにある男は人生で最大の幸福を与えてくれた相手を殺した。全ての真実を知るものは誰もいないけれど、二人の間に流れるものを感知したクリスとジークは、無知のままでいることを辞めようと決意する。自分の国で、自分の知らないところで何が起きているのか知る必要があると、クリスは感じる。

本筋はここまでで、あとはダンドゥークの皇太子ローレンスのエピソードが二本収録されている。クリスの目に映るローレンスは、並外れた美貌と穏やかな態度、そして身分の差を主張する皇太子だ。その一方で、かれが持っている危うさや頑なな態度にも、気付き始めている。人の命を軽々しく扱ったり、笑いながらひどいことを言う残酷な面がところどころ顔を出しているのだ。ここで収録されている二本は、そういうローレンスの影の部分が色濃く出ている。

「雛の森」ではローレンスとジェイムズが、一晩に寝た女の数を競い合っている。女とだけ寝るジェイムズに対して、男も女もかまわないローレンスは分が悪い、と笑っている。賭けの商品は葦毛の馬。馬鹿貴族、馬鹿皇子らしいくだらないやりとりだけれど、ジェイムズが非常に注意深く、ローレンスの話を逸らしていることが分かる。皇后の不義によって生まれた、皇帝の血を引かないローレンスと、皇帝の血を引くジェイムズ。評判の良さも相まって、皇位継承がどちらになるのかは微妙なところだと、噂されていることはかれらも知っている。その話をローレンスが何気なく持ちだすと、ジェイムズは巧く話題を変える。ローレンスに気持ちの良い言葉だけを与えて、かれの自尊心を損なわない程度に逆らってみたり持ちあげてみたりして、ジェイムズはローレンスの寵愛を受ける。枢密院に言っていた通り、誰かがジェイムズの悪口をローレンスに言っても信用されないくらい、疑われないくらいかれはローレンスに人生を捧げている。
ベッドで自分の髪を引く力が強かったから、と一晩をともにした相手の腕を斬り落とす命令を出すローレンス。笑いながら言うかれに、ジェイムズがやんわりと止めに入ると、お前が代わりに手を差し出すか、とローレンスは笑う。必死に欺こうとするジェイムズの底を知っているとでも言いたげに、ローレンスはちっとも心を許さない微笑みを返す。そんな騙し合いすら、くだらない競い合いだとでも言いたげに。

「天使の顔で悪魔は微笑む」も同じ頃の話だ。ローレンスとジェイムズの教育係として帝都に赴任してきたアドルファスは、あってなきがごとしの皇位継承権を一応持ったかれらの親戚で、そして非常に真っ当な男だった。整った容姿を持っているがそれを利用したり鼻にかけるようなことをせず、美しさが眼に見えるものではないと知っている。見た目の美しさを利用して豪奢に飾り立てて享楽的な生活をしているローレンスとは正反対のかれは、あろうことか、ローレンスに恋をしてしまう。ローレンスのすべてに呆れ、秩序のなさを不快に感じながら、かれから目が離せない。誰とでも寝るローレンスのからかうような誘いをすんでのところで振りきって、必死に踏みとどまっている。自身がこれまで築いてきたモラルが、かれに会うと一瞬で崩れそうになる焦燥感がすごくいい。
その揺れをローレンスは知っていた。自分の魅力にあと一歩で陥落するであろうアドルファスが快感で、かれはどんどんアドルファスを追い詰める。しかし追い詰められたアドルファスは、これまでの男のようにローレンスに従わなかった。どころか、かれの在り方を非難し、真っ向から否定した。ローレンスがこれまでどんなくだらない理由で多くの人間を処刑してきたのかを知っていて、知った上で言った。外見の美しさしか求めないローレンスが哀しくて、愛しくて、かれは本音を告げ、ローレンスを抱いた。かれのよせ、という言葉を聞かない人間が、どれだけいただろう。アドルファスは取り合わなかった。そして元々快楽に弱すぎるほどに弱いローレンスは、抵抗をさっさと止めた。そのことすらきっと、アドルファスには哀しいだろう。
翌朝のローレンスは案外素直だった。きっとアドルファスが好きだ、済まなかったと一言言えば、かれはもっともらしいことを言って許しただろう。その程度には、かれはアドルファスに好意を抱き始めていた。それはきっと、これまでにない感情だったはずだ。けれどアドルファスはそうしなかった。愛が通じない男を愛してしまったことを知っていたはずなのに、命をかけたはずの愛すら通じていなかったことにかれは絶望し、諦めてしまった。
そのことをアドルファスは後悔することになる。生まれたときから構築してきたローレンスの人間性を、たった一晩で変えられるはずがないのだ。たとえアドルファスが一瞬でかれに恋に落ちて何もかもの景色が変わってしまったとても、ローレンスはそうではない。そのことを聡明なかれがもう少し早く気付いていたら、もう少し頑張っていたならば、何かが変わっていたかもしれない。けれどローレンスは、ジェイムズがドゥーガルに言った、「自分以外の何事を考えても無駄なのだ」と悟った子供なのだ。一度や二度で飼わるはずがなかった。
そしてローレンスは早々にアドルファスのことも忘れるだろう。

原作も過去に張られた伏線がどんどん回収されて痛快だし、この後半二本の短編のいびつさが物凄く好みで好みでどうしようかと思った。作画も回を増すごとに良くなるし、宮殿も服装もマントもたまらない!
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 11:09 | - | - |

黒崎あつし「もっと甘く抱きよせて」

黒崎あつし「もっと甘く抱きよせて」
バーテンダーとして働き始めた司は、以前までバイトしていたゲイ専門の高級会員制クラブのオーナーであり、路頭に迷っている自分を助けてくれた恩人の和貴のことをずっと思っている。恋心ゆえに和貴の言いつけに従い続けてきた司は、和貴の弟分である光臣と付き合う気はないかと和貴に聞かれる。

「ぎゅっとずっと抱きしめて」のスピンオフだけれど、いきなりこっちを買って読んだ。ある程度話は分るようになっているので問題なし。

男を次々と変え、酒に溺れ、ついには自分を追い出したろくでもない母親に捨てられた司が行き倒れているところに偶々通りかかった和貴は、事情も知らないまま司を拾った。親切心や慈悲というよりは、なんとなく拾った、という感じにもみえるけれど、帰る家も行くところも金もない司にしてみれば、理由なんかどうでもよかった。だから和貴が連れて行ってくれた先が暴力団の会長の屋敷であろうと、かれが複数の名前を使い分ける不穏な職業であろうと、全く気にならなかった。この時から和貴は司にとって「神さまみたいな人」になった。

司という名前は、和貴がつけてくれた名前だ。ゲイ専門の会員制クラブで働くのに本名では都合が悪いからと言う、あまり褒められた理由ではないのだが、それでも司は喜んだ。いくつもの名前を持つ和貴に近付けた気がしたし、何より、かれが付けてくれたことが嬉しかった。たとえどんな名前であろうとも、和貴は喜んで名乗っただろう。
そのクラブ自体は男性向けのホストクラブのようなものだが、客は従業員と店外デートもできるし、肉体関係を持つことだって不可能ではない。まともな生活をしていない所為で知らないことの多い司にそこで働かないかと持ちかけたのは和貴だった。偶然助けた不幸な境遇の少年を、自分がオーナーであるクラブで働かせるかれは、傍から見れば非常にあくどい男だ。実際、司と同じ店で働いていた玲もその話を聞いて、自分にとってもオーナーだった和貴を「女衒だ」と揶揄した。
しかし司にはそんな気持ちは微塵もない。拾ってもらった恩があるから仕方がないと思っているわけでもない。和貴が薦めたから引き受けた、それだけだ。かれの提案かれの望みかれの願いはすべて、司にとっては疑う余地のない決定事項なのだ。和貴が好きだから。和貴に恋をしているから。

深く物事を考えることをせず、物事の裏を読むことをせず、裏があることすら疑わず、ひらがな多めで
喋る司は典型的なおばかキャラだ。気楽そうに見えるかれはしかし、悲惨な過去を経験している。母の男に襲われた揚句、母に邪魔だと怒鳴られて追い出されたかれだが、しかし母が追いだしていなかったら、もっと悲惨な目に合っていただろう。どちらにせよ救われない。
けれどその重く哀しい過去は、司の持ち前の性格と喋り方で緩和されている。緩和されすぎていて、司の和貴への想いの真剣さがいまひとつ伝わらないきらいもある。

和貴が好きだから、司は何でもした。和貴が好きだから客を取り、好きでもない男と寝た。和貴に振りむいて欲しくてかれの元から離れたり、やっぱり戻ってきたり、気持ちを表現する態度が分からない司は思いつくままにふるまっている。どうすれば和貴が喜ぶのか、を司は常に考えているけれど、かれの答はいつだってピントがずれている。どころか和貴を哀しませたり怒らせたりしているのに、その結果にすら司は気づかないのだ。独りよがりな恋だと思うけれど、それでも司は精一杯だ。

精一杯の恋はひとつも通じず、ついに司は和貴から、自分の弟分と付き合う気はあるのかと持ちかけられる。和貴の部屋にいきなり訪れた時に遊びに来ていた、光臣というイタリアンレストランの経営者が、そのあと何回か食事をしたり喋ったりした司を気に入ったのだと言う。別に和貴は強制しているわけではないから、司がここでその気はないと言えば、この話は終わっただろう。けれど司はあろうことか、和貴に判断を仰いだ。光臣の人柄を知っている和貴は、悪い話ではないと答える。複雑な家庭環境にありながらも、真っ直ぐ自分のやりたいことを実現している光臣は、お坊ちゃんならではの無神経さも多少持っているけれど、非常に好青年だ。きっと他の誰かが聞いたとしても、和貴は同じように応えただろう。けれど司にしてみればそれは、自分の恋にひとつの望みもないのだと改めて実感した瞬間だった。光臣と付き合ったらもう面倒を見なくてすむ、と素っ気なく言われて、司は光臣と付き合うことにする。面倒であるならば、その面倒事を取り除かなければならないからだ。自分が和貴にとって面倒な存在なら、終わりにしようと決めたのだ。

もはや健気という言葉を通り越して空回りし続ける司が和貴を好きなことは伝わってくる。けれど、はたして和貴が何を考えて行動しているのか、そもそも和貴がどういう人間なのかということがいまひとつはっきりしない。多分和貴という人はその経歴や職業や生まれ育ちの印象が強いだけで、ひどくまっとうな人物なのだろうと思う。道端で死にかけている子供がいれば助けるし、虐待の痕があれば事情を聞く。心の傷を癒してやろうとも考えるし、仕事が嫌なら無理強いはしない。他の誰かの恋人と関係を持ったりはしない。ものすごくまともなのだ。そのことを知るものが司の周りにいないだけだ。
そのまともな和貴がいつ司を好きになったのか、いつ自覚したのか、そのあたりがちょっとあやふや。

ばかっ子が健気すぎるくらい健気にふるまって、相手にされなくて、残酷な仕打ちされてもそれでも好き、という設定は美味しすぎるくらい美味しいし、家族から愛を受けなかった司が初めて優しくされた和貴を「神さま」と称する辺りも非常に好みなんだけれど、全体的にぽやんとした本だった。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:45 | - | - |

くもぎり太郎「幕末4コマ劇場 黒いぜよ!龍馬ちゃん」

くもぎり太郎「幕末4コマ劇場 黒いぜよ!龍馬ちゃん」

小学生で既におたく道を邁進していたわたしが、ファンロードに行き着くのに、そう時間はかからなかった。もはやどんなきっかけで手にしたのかも分からない、素人が描いた二次創作イラストが表紙を飾るその雑誌の圧倒的なコンテンツ量と質、内輪ノリにわたしはすぐ夢中になった。インターネットのない/普及していない時代だからこそ輝いていたのかもしれない。隅々まで読み、全く統一性のない作家陣や投稿者を好きになった。

その中の一人がくもぎり太郎(一條和春)だ。一條名義で重くて暗くて苦しい時代物を描いたかと思えば、くもぎり名義で四コマやギャグを描く、その振り幅の広さもさることながら、作品自体が非常に面白かった。私生活を切り売りしたようなエッセイも面白かった。「月とノスタルヂヤ」(一條和春)、「こんにちは劇場」(くもぎり太郎)、「新鮮絵草子」(アンソロジー)は未だに大切に取ってある。

完全に幕末ブーム時代ものブーム歴女ブーム龍馬ブームに乗っかったタイトルで発売されたこの本は、表紙に描かれている空洞のような眼をした龍馬を中心にした時代物4コマと、岡田以蔵を主人公にしたドシリアスの「粉雪抄」が三篇収録された、前半と後半で全く赴きの違う一冊になっている。ちなみにタイトルは出版社の意向らしい、念のため。

・「黒いぜよ!龍馬ちゃん」
その名の通り龍馬が黒い。他の登場人物は普段のタッチなのだが、龍馬と姉の乙女は表紙同様のこの顔である。お金あるもーん殺せばいいじゃーんと、見た目に似合わずお腹真っ黒の龍馬が色んな人を困らせている。
幕末だと主に新撰組ものを中心に読んでいたこともあって、倒幕派の人々はよく知らないということもあるんだけれど、正直それほど腹を抱えて笑えるようなネタはなかった。過去に対する思い入れの強さや無意識の美化もあるのだろうが、4コマは前述のコミックスに収録されているものの方が好きだと思う。それがいわゆる出版社の意向を汲んだ結果なのか、十数年を経た作者の変化なのか、わたしの嗜好の変化なのかは分からない。
あとはとっても自由そうだった当時に比べて、分かりやすく書こうとしているようにも思えた。つまんないわけじゃないんだけれど、十数年ぶりに出た新作コミックスの期待を上回るものには思えず。ただここで出てくる以蔵が貧乏ゆえに食うものにも困っていて、常に残飯のことを考えているキャラだというのが、後半のシリアスとギャップがありすぎて面白い。中岡慎太郎の立ち位置も良い味を出している。

・「粉雪抄」
いわゆる「人斬り以蔵」こと岡田以蔵の物語。仇討ち編、暗殺編、完結編の三篇のうち最初の二篇は「月とノスタルヂヤ」に収録されていたもの。最後の一篇は初収録だが、過去に本誌で読んだ記憶がある。
くもぎり太郎の描く岡田以蔵は細面で華奢な体つきをしており、黒づくめの洋服を纏っている。折れそうな細い腕、きつい眼差しを向けてくる三白眼が印象的だ。以蔵は口数が多くないし、たまに交わす会話ですら、迷っているようなそぶりを全く見せない。かれが何を考えて行動しているのかさっぱり分からない。分からないからこそ以蔵の些細な行動やしぐさが、かれの気持ちを雄弁に語ってくれる。かれの孤独、かれの空しさ、かれの哀しみを。
どこに属しても、誰に頼りにされても以蔵はひとりだ。一匹狼と呼ばれそうだけれど、以蔵の中にはそれを誇るようなものが見つけられない。うまくふるまえないだけで、本当はひとりを望んでいるわけではないのだと、来るものを拒まず去るものを追わずに生きているのはそれ以外の手段を知らないからだと思わされる。とにかくくもぎり太郎の描く以蔵は、尋常じゃなく格好良くて強くて孤独な男だ。

「仇討ち編」では以蔵を仇として憎んでいる一人の青年の物語が描かれる。主人公の幾之助の兄が以蔵に殺されたのは、幾之助が新撰組に入隊することが決まって間もなくのことだった。しかし人斬り集団に入隊した幾之助が配属されたのは、実戦部隊ではなく勘定方だった。その理由は後半明かされる。
兄の仇を憎みながらもどうすることもできない幾之助は、岡田以蔵の噂を聞きつけ、単身屯所を出る。破ればすぐに切腹が待っている局中法度では、私闘は厳禁されている。たとえ万にひとつ幾之助が以蔵を討ったところで、かれを待っている結果は変わらない。以蔵に殺されるか、以蔵を殺して切腹を命じられるか、死の結果しか待っていない選択肢をかれは選び、以蔵の元へ向かう。

ろくに刀を扱うこともない幾之助の名乗りを聞いても、以蔵は余裕のままだ。刀を向ける相手に向かって、かれはやめておけと言う。自分が殺されたくないからじゃなく、かれが死ぬから。人斬り以蔵は、命じられた者以外もとにかく斬りまくりたい、というような男ではない。
にやついたまま幾之助を見ていた以蔵は、かれが死をもとより覚悟の上であったことを知る。切腹覚悟だと言うかれに、ひとつ舌打ちをして、以蔵は目視できない早さで刀を抜いた。この舌打ちこそが岡田以蔵だ。必要のない殺人に快楽も興奮も、かと言って反省も自己嫌悪も覚えていない。ただ斬る、それだけ。何を向けられても、どんな言葉を言われても、以蔵のスタンスだけは変わらない。
主役が幾之助であるゆえに、以蔵の出番はさほど多くない。けれどかれの独特のな眼差しと、人斬りにしては優しい気持ちから来る小さな舌打ちが峻烈な印象を残す。

「暗殺編」は以蔵が話の中心に来ている。
自分が仕える武市半平太の義兄弟だと言う新兵衛と行動をともにする以蔵は、自分とはまったく正反対の人懐っこくて明るい新兵衛に戸惑っている。表情はいつも通りなんだけれど、おおらかなかれに翻弄されている様子が滲んでいる。普段の自分のペースやテンションとは全く違う相手に振り回されて、延々かれの話を聞かされる以蔵もまた相変わらずに見えるけれど、かれはかれなりに非常に楽しんでいたし、不器用な恋の始まりにうかれながらも大切に育てようとする新兵衛にも好印象を持っている。
しかし激動の時代は、ひとの幸せも平穏もやすやすと奪ってしまう。
真実が明らかになっていない史実を、作者流の解釈と想像で描いた読み応えのある展開に驚かされるし、その中で、短い間しか共に過ごせなかった友人を以蔵が大切に思っていたことが明らかになって切ない。騙し騙される世界では、皆が被害者で加害者だ。遺族であり、殺人者でもある。そのことを、数え切れないほどの人間を斬ってきた以蔵は知っている。かれが居る世界が根本的に変わらない限り、そのことは変わらない。そしてかれは先頭に立って変える力を持たない。変える力を持たない者同士の間では、説教も悔恨も意味がない。だからかれは人を斬る。それがかれに唯一できることだからだ。実行するよりほかに選択肢のなかった人々ではなく、そそのかした人間を始末する。
誰かと喪失を分かち合うような感傷はなく、以蔵はひとりで仕事を済ませる。かれなりの弔いなのだろう。

コミックス未収録の「完結編」は、遊女を以蔵が助けたところから始まる。彼女を買った男と遊女が揉めているところを通りがかった以蔵は、遊女によってその口論に巻き込まれた。当然無関係の以蔵だが、男が彼女を買ったと主張する以上の額を男に出して、話を終わらせた。出会ったばかりの遊女に恋をしたとか、男が許せなかったとか、そういう理屈はおそらく存在しない。ただ面倒だったのだろう。金を貰っておきながらやっぱり嫌だという遊女も、自分が本来払った以上の金額をうそぶく男も、同じくらいどうでも良かった。
人を斬る代わりに与えられた金を惜しげもなく出して、去ろうとする以蔵を遊女は追いかける。金で自分を買った男から、今度は以蔵が自分を買った。何より自分は行くところがないし、以蔵のことを気に入ったのだろう。家に押しかける遊女を以蔵は別に拒まない。
遊女が実は男だとわかってからも、出て行けと言うものの実力行使に出ることもなく、かれが作った料理を食べ、人を斬って帰ってきた夜にも出迎えを受ける。「おいと」と自称する名前ではなく、女性と見間違う華奢なかれに源五郎という不似合いな名前を勝手に付けて呼んだ。いつ出て行っても構わないというような態度ではあったが、それなりにかれとの生活を楽しんでいるようにも見える。孤独を埋める存在が出来たことはかれにとってさいわいだった筈だ。
恋ではなかったけれど、恋に近い雰囲気がある。源五郎が以蔵に向ける眼差しは憧れだけを含んでいるにしては熱っぽいし、以蔵は以蔵でかれに言いたい放題言いながらも、単なる友人や家族とは違うにおいを醸し出している。孤独な人斬りと遊女崩れの少年という奇妙な二人に似合いの、奇妙な関係だ。
けれどその幸福も、やはり長くは続かない。それぞれ自分のことを語らない二人は、相手のことも聞かなかった。知られたくないことがあるのはお互い様なのだろう。それゆえに、源五郎は、新撰組に入隊することになった。以蔵を見ていたかれは侍に憧れ、侍になりたいと願い、身分を問わず侍になれる新撰組を選んだのだ。その皮肉すぎる展開に、以蔵は怒りも嘆きも笑いもしなかった。ただ、次に会うときはどちらかが死ぬときだ、と言った。

しかし二人は生きて再会した。本当ならば会わずに死んでいたであろう源五郎を、助けたいと以蔵が主張したのだ。自分の危険を顧みず、かれは願いを口にした。

二人で生きてゆく道も在った。その選択肢もあったけれど、源五郎はそれを選ばなかった。以蔵もそれを強いるようなことはしなかった。以蔵の抱えているもの、進んでゆく道はあまりに深く暗い。ついてゆけるものはいない。そのことを目の当たりにした源五郎は身を引いた。以蔵は拒まれたと感じるだろう。けれど源五郎にしてみれば、以蔵の闇に進入を拒まれたのだ。誰も寄せ付けない男の孤独に、まだ世の中について知らないことが多すぎるかれは勝てなかった。

この本は上述の通り、あらゆるブームに便乗して出された本だ。ブームに便乗して出された沢山の本の中の一冊だ。けれどわたしにとっては懐かしさと昂揚を与えてくれる掛け替えのない一冊だ。あらゆる本が誰かにとって特別な本になる可能性を秘めているし、そのためにはまず本に出会う必要がある。そのきっかけとなるならば、ブームも便乗も決して捨てたものではない。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 16:40 | - | - |

「薄桜鬼DS」限定版特典ドラマ「竹取鬼語〜風間姫と五つの難題〜+声優インタビューCD」

こちらは限定版に同梱されているドラマCD。
一緒に、監督のインタビューやカズキさん吉岡さんのコメントなどが掲載されたアニメの設定原画集も同梱されていた。

・竹取鬼語〜風間姫と五つの難題〜
30分弱のドラマCD。
主人公が暇を持て余していると知った斎藤は、彼女を親身に考えるあまり、動物で心が和むのではないかと思いつく斎藤。その案は決して間違っていないのだけれど、ちょうど出食わした沖田にいきなり「にゃあと鳴け」と言って、沖田がその通りにしたら「違う」と溜息をつくのはあんまりだと思います。さすがです。
沖田の案に乗って、広間にいる永倉原田藤堂の三馬鹿が騒いでいるところへ混ざる斎藤。ちょうど本を広げて話していた三人の様子を見て、「本を食べても腹は膨れんと思うが」と言う結論に達するあたりもあんまりです。このコミュニケーションが全く取れない男相手に本気で怒るわけでもなく、ちょっと突っ込んだだけですぐ状況を説明してくれる試衛館の面々は優しいなあ…。ゲーム本編の斎藤も抜けたところがあったけれど、こういうコメディタッチのCDになるとその強さが一気に増す感じ。やりすぎのきらいもあるんだけれど、でも斎藤が目立つとおいしい。

その中の本を主人公のために借りてやろうとする斎藤。事情を話さず恋愛物の本を貸してほしいと言う斎藤に、「竹取物語」を進める三馬鹿。内容を知らない斎藤に、あらすじを説明する三人。銘々におぼろげな記憶を口にする様子を聞いて、勝手に納得した斎藤の想像で、竹取物語が始まる。斎藤の想像と、それを現実で聞く隊士の突っ込みで話が進む。
この昔話ネタシリーズの面白いところは、誰かの想像上の話でしかないのに、劇にでも出るかのように配役がなされていて、役をあてがわれた隊士が自分の配役に不満を持ったり妙にのりのりだったりすると言うところだ。「なんで俺がおばあさんなんだ!」「なんであいつが姫なんだ!」と言うノリ。

原田永倉夫妻が見つけた光り輝く竹に一攫千金を目論んで斬りかかったところで、刀を弾くゲームの効果音がして、風間の声。「俺の名は風間姫」っていつもの風間の偉そうなトーンと低音で言うのが可笑しい。飽くまでも高圧的に、恩着せがましく世話をするようおじいさんおばあさんに命令する風間姫。風間姫っていう字面が既に可笑しい。偉そうで我儘で光るんだからかぐや姫は風間で決まりだ、と言う斎藤の力説を聴くと、そんな気さえしてくるからふしぎ。

風間姫に求婚する貴族が近藤土方沖田斎藤藤堂の五人。
竹取物語では求婚する貴族にかぐや姫がそれぞれ無理難題を出すのだけれど、この竹取物語でもその設定は変わらない。ただ、用意しろと言われた物の内容が違う。簡単に持ってこられるようなものでないと言う意味では同じなんだけれど、ばかばかしくていい。ここでもやっぱり豊玉発句集の話題が出てきて弄られている土方であった。そして風間相手でも相変わらず悪気なく残酷なことを言う斎藤が、最後まで大活躍の巻きであった。

・声優インタビューCD
20分強。
三木さん司会で森久保さん鳥海さん遊佐さん坪井さん津田さんのコメントと、別録り大川さん&吉野さんのコメント。
予約特典では初めて作品に触れるひと向けの話をしていたはずなのに、同梱CDでは一切そのあたりを気にしないぼんやりっぷりであった。あっちのCDでもこっちのCDでも同じこと言っているよりはいいかな。薄桜鬼DSのコメントと言うよりは、上述のドラマのコメントという感じかな。そしてここでもやはり森久保さんはトラブルメイカーなのであった。何か憑いているんじゃないのかと思えるくらいに、次から次へと事件が起こる。

別録大川さんのおとぼけっぷりも相変わらず。大川さんの凄いところはいまいちどこまで本気でボケているのか読めないところだなー面白いなー他の人の役を羨ましがっているイメージもある。攻略キャラじゃないことにいじけているのはいつものことだけれど、今回はパロディシリーズでの女性役もやりたがったりもしている。誰か大川さんに女役を!近藤さんの姫を用意して!近藤さんの攻略ルートを!

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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 22:57 | - | - |

西原理恵子「西原理恵子の人生画力対決」1

西原理恵子「西原理恵子の人生画力対決」1
表紙にいる福本キャラの、向かって右側の髪の一部が白いのは塗り忘れだそうです。こないだの画力対決でスクリーンにでかでかと映し出された表紙を見て西原さんが気付いたらしい。「面倒なので塗っておいて下さい」とのこと。

画力というものをほとんど評価されないまま、ネタで25年漫画家をやり続けてきた西原理恵子が己の記憶と画力のみで、あらゆる漫画家に対決を挑む画力対決が本になった。

「すべての漫画家に喧嘩売ります」の帯の通り、実名であらゆる漫画家に挑戦状をたたきつけている。長い付き合いの作家もいれば、おそらくろくに会ったこともないような作家もいるのだろう。
柳沢きみお、国友やすゆき、三田紀房を「首寝ちがえ三人衆」と呼んでいるところでまず噴いた。そしてそれとは別枠の天上人、福本伸行。それらの画風を模写しようとして中途半端な結果になっている西原さんの画力がまた良い味。
それ以外でも、単にあんた絵がヘタだから対決しようよ、という事を西原は言わない。勿論含まれている意味としてはそうなんだけれど、それぞれの作家の作品を熟知したうえで突っ込むところを見つけて、そこを面白く弄った上で戦おうぜ、と言ってくる。
さいとうたかをの描く下着のデザインが古すぎることだったり、国友やすゆきが髪型だけで女を描き分けていることだったり、やなせたかしのキャラの殆どが「そのまんま」だったりすることを知った上で、挑戦を叩きつける。
そして戦いの場に向かうと、実際に待ち受けているのは戦いではなく程度の低い言い合いだったり、酒の席のばかばかしい盛り上がりなのでそれもまたよし。

実際に行われているイベントが存在するので、それのレポート漫画になるのかと思っていたら、さすが一筋縄ではいかなかった。勿論そのイベントで出た話題や客席の反応、イベントで披露された西原理恵子と相手の漫画家の絵や写真も掲載されているのだけれど、読み物としての付加価値がきちんと付いている。相手の作家を知らなくても、その絵柄や西原の形容で笑えるようになっていると思う。このあたりの料理の巧さはさすがだ。そして作家を知っていると、西原の形容が更に可笑しいし、その作家に対する西原の情の厚さや理解が伝わってくる。どちらの客にも親切な手法が光る。
それぞれの作家に付けたキャッチコピー(例:漫画界のヨハネパウロちばてつや先生)も秀逸だし、それぞれの味を残したデフォルメもいい。藤子A先生の人を食ったような態度なんか想像できすぎる。やなせたかし先生への同郷ならではの親しみと、利用されていることもあるていど理解してそれでも故郷に尽くすスタンスへの敬意を持って、西原はやなせ先生を「まんまキャラで当てやがって」と罵倒する。罵倒される方の懐の深さと、罵倒する方の恐れのなさがうまく噛み合っている。

対福本伸行戦のお題のレベルの低さにも噴いた。「いぬとねこ」って幼稚園児への課題じゃないんだから。でもそれが非常に正しい、両者を把握したお題であることを、我々はすぐに思い知るのであった…ざわ…。

最近いわゆる「叙情派」部分の露出が多かった西原の、久々に攻撃的で、気持ちいい一冊。余韻がなく、面白かったアッハッハで終われるところがまたいい。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 22:37 | - | - |

「薄桜鬼DS」予約特典 Webラジオ出張版

薄桜鬼DSの同梱特典ではなく、予約特典。
わたしはそれはもうゲームから縁遠い生活を送っており、ここ最近ゲームをやり始めるようになったばかりなので、多くの人が数年前から知っていることに今更動揺しているのだけれど。
限定版のみの同梱CDはいいよ分かるよ。店舗別特典もまあ分かるよ、ヴィジュアル系バンドでもあったから。でもな、予約特典って何だ。凄くないかそれ。購入特典だけじゃなくて予約特典もつくんだよ。はっきり言って意味分かんないよ!アニメイトでこのゲーム買ったらですよ、同梱されてるものも含めてCD三枚来るんだよ。一枚三千円しそうなCDが二枚と、あとまあオマケっぽいCD。これでもうゲームの値段ペイ出来るじゃない、とか思ってるわたしは騙されているのか。騙されているんだろうな。そこまでして店舗で買わせる算段、評判を聞かずに予約して発売日に買わせる算段は企業として凄いと思う。あくどいけどな!
一番感心したのは、同梱CD以外の予約特典と店舗特典が、おそらくそれを入れるために容易された特製の茶封筒に収納されていたのではなく、茶封筒とCD二枚がビニール袋に入っていたことだ。袋もきれいな状態で欲しい、と言うオタク心をさすが分かってる。まあ中身が見えた方が確認できるというのもあるんだろうけれどね。

さて、予約特典である。
アニメイトTVで無料配信されているWEBラジオ「新選組通信録」の出張版、とは言うもののノリや形式はいつも通り。40分強くらいかな。
パーソナリティは三木さん、ゲストが遊佐さんと吉野さん。
DS移植によって初めて薄桜鬼に触れる人も多かろう、という前提で話が進むのだけれど、すぐに、ゲームやる前にこれ聞いちゃだめだ、ということに行きあたって話が終わる。その時に三木さんがぼそっと言った「ほんとにいいよ、ゲーム」が沁みる。いいよね…!

特に詳しい解説もないまま、「局中法度」「斬り捨て御免」「入隊希望」と言った通常のラジオのコーナーに進む。このラジオは公開録音を含めて全部聞いたけれど、このCDが一番面白かったと思う。それは、通常リスナーの手紙やメールからのみ送られる投稿を、キャストと制作関係者からも募集したことが最大の要因だ。
真面目に書いてるつもりなんだろうけれど異様に面白い坪井さん。一番笑ったのが「収録お疲れ様です」と冒頭に書いてあったことだ。その真面目さが光ってる。
そしてここでもやってくれた森久保さん。どうも他の人はその場のアンケートかメールで予め記入してあったようなのだが、森久保さんだけが収録日当日にFAXで送ってきている。しかも誤字を修正液で消さずにぐちゃぐちゃ、と塗りつぶしているらしい。日本語がおかしいとか口調がなれなれしいとか、喜んで揚げ足を取る三人。三木さんも言ってた通り、「薄桜鬼」の森久保さんには何かが降りているのではないかと思えるくらい「足並みが揃わな」くて美味しい。ゲストも含めて誰もフォローしないのでこてんぱんに言いっ放し。
あとは大川さん、飛田さん相手だとコメントしづらい三人。斬り捨て御免って言われても斬り捨てにくい、と皆が押しつけ合っていた。大川さんはここでもおもしろい。

入隊希望は更にカオス。入隊希望のそれぞれの内容はキャスト本人のエピソードなのに、入隊希望をしているのがキャラなのかキャストなのかぼんやりしたまま話が進むので、山南さんは総長で羅刹隊所属なのに、飛田さん(山南)は二番組に入隊した、みたいなややこしい展開になる。羅刹隊に山南不在なのか、山南ごと二番組に吸収される形になるのか、勿論なんにも考えてないので行き当たりばったりで進む。面白いからいいのだ。むちゃくちゃ!吉野さんの「分かりづれー!」が一番正しい答。
カズキさんとか藤澤さんとかも投稿していて面白かった。カズキさんが「絵が得意です!」とか言ってて突っ込みどころ沢山。この全く意味のないばかばかしさが良いなー。

ぬるっと始まってぬるっと終了。

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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 22:07 | - | - |

オトメイトCD BOOK「薄桜鬼-新選組奇譚-」

オトメイトCD BOOK「薄桜鬼-新選組奇譚-」

まずもって帯がずるい。でかでかと描かれた「斎藤一、絶句。」っていっつも絶句してるじゃない。会話の殆ど「……」じゃない。

・CD
薄桜鬼外伝「士魂盲進の影」
風間視点で描かれる、20分強のシリアスドラマ。池田屋で隊士たちと風間が顔を合わせてから数年後の夏の設定。
風間が不本意ながら協力している薩摩藩の連中と同じ部屋で酒を呑んでいるところへ、新選組の御用改めが入る。泥酔していた連中が動揺する中、次々現れる隊士たちと会話をすることで、風間は隊士たちの本音を知る。
沖田が土方の発句集を盗んだり、沖田が土方の俳句を空で言ったり、斎藤が発句集を欲しがったり、斎藤が句についての疑問を率直に土方にぶつけたり、沖田が拾ってきた猫に土方の名前をつけたり、斎藤が黒猫相手に敬語で喋ったりするコメディタッチのドラマも好きなんだけれど、やっぱり薄桜鬼はこういうドシリアスなドラマが良い。

時代は既に尊王派に厳しいものになっている。このまま幕府についていても勝ち目はない、と風間は言う。人間ではない風間が冷静に見て下したその見解が誤りでないことを、幹部隊士たちも気づいているだろう。けれど風間にそう言われた原田と土方の心は揺らがない。幕府を信じているからでも風間が知らない理由によって勝利を確信しているからでもなく、外部に結果を必要としていないからだ。己の志に殉ずることは、どのような状況であれ可能だから、かれらは揺れない。その生きざまが、先ほどまで同じ部屋で酒を呑んでいた連中よりよっぽど胆が据わっていて爽快なものであるかを風間は知っている。けれど口にせず、部屋を出る。

池田屋の直後から体調を崩していた沖田は、それでもこの場まで来たようだ。原田土方のような先行舞台ではなく、部屋から出るものを斬る役を任されている。かれの強さと、あまり動き回れない状態を配慮してのことだろう。当然それが分からない沖田ではない。
病のことと、病の人間を連れ出す新選組揶揄された沖田が動揺すると、話を聞いていた土方が現れる。侮辱するな、と怒るのだ。ここに沖田がいるのは自分が命じたからだ。何故命じたのかと言えば、腕の立つ沖田の剣が必要だと感じたからだ。誰でもよかったわけでも、人出が足りないわけでも、そう遠くないいつか剣を握ることすらできなくなる沖田を憐れんだわけでもない。それが伝わる土方の言葉に沖田は何も言わない。普段はくだらないことで諍いを起こす似た者同士の二人の、土方の中にある沖田への情がとてもいい。

屋敷を出たあと、新選組を抜けて現在御陵衛士として伊東のもとに身を寄せる藤堂、斎藤の会話に風間は行きあたる。伊東のやり方に不満を覚えている藤堂と、相変わらず必要事項しか述べない斎藤の噛み合わない会話のもとにやってきた風間は、それまで信じていた新選組を疑った二人を揶揄する。
風間が現れる前からすでに激しい動揺をしていた藤堂は、かれのことばにもっと熱くなる。けれどかれは、迷って揺れて悩む自分を理解している。分からないなら分からないまま、分からないなりに走りだすしか、ない。
斎藤は風間の言葉に微塵も動揺しない。土方の命を受けて変装していることを誰にも知られず罵倒されても、誤解されたままでも気にしない。かれには信じるものがあって、それが絶対だからだ。それさえあれば生きてゆけるくらいに強い、何かが。

そういう時代があった。
隊士たちは満身創痍のようすだが、夢や憧れを胸一杯に抱えて生きている。楽しそうでこそ、ある。バカが付くほど正直なかれらのことを今思えば、人間には珍しいほどの強い者だと風間は考えるのだ。

出演声優陣によるフリートーク「薄桜鬼一問一答」
津田さん司会で、攻略対象キャラのキャストによるフリートーク17分弱。
攻略対象キャラ全員集合、のはずが、始まっても森久保さんがいない。森久保さんの似ていない物真似まで登場して、森久保さん以外でタイトル通りの一問一答開始。とは言え「パスあり」なのでパスが飛ぶ飛ぶ。真面目な話3割、ふざけた話とパス7割で総尺の半分くらいが過ぎたところで森久保さん登場。
しばしば三木さんがラジオで森久保さんを弄るとき、イベントに参加できなかったことと遅刻したことを上げていた。イベントがオトメイトパーティーなのは分かるんだけれど、遅刻についてはいつのどの収録だったかさっぱり分からず、まあでもわたしがこの作品に出会ったのが遅かったからと気にしないでおいたのだが、これだったのか。遅刻理由は刀の音で消されているのだけれど、前後の会話から推して知るべし。これをそのまんま収録してしまうところがフリーダム。
実在の人物について「シャクレだったっていう噂も」と鳥海さんが言うのに噴いた。言うな。
定番の一人ずつの挨拶が終わったあと、一人残された森久保さんが一問一答を淡々と答えるのが気の毒で面白かった。公開処刑!

・本
声優インタビュー
攻略対象キャラのキャストそれぞれのロングインタビュー。第一印象からストーリーについて、アニメ化についてなどかなり掘り下げたインタビュー。既に何度も聞かれているであろうことや、読んだことのある・聞いたことのある内容も当然あるのだけれど、長いだけに読み応えがある。自分が関わった作品の特集本で正面切って不満や不足をコメントする人もなかなかいないだろうし、他にも力を入れている作品は当然沢山(それこそ作品の数だけ)あるけれど、それにしても薄桜鬼はキャストのコメントに熱が入っていて微笑ましい。

カズキヨネインタビュー
キャラデザカズキさんのインタビュー。描き下ろしのカバーについての解説もあり。絵を文字で、言葉で説明するのって大変そう。アニメで見たいとかなり早い段階から思われていたようなので、その希望が満たされるアニメになるといいな!

声優陣×製作者 真昼の密談録
前述のキャストと、製作者の藤澤さん、お名前の出ないスタッフ二人の対談というか居酒屋談義。これが長いうえに、他では言えないようなことがもりもり出てくる。そして今の段階で明かせないことや永遠に明かせないであろうことは伏字になっているのだけれど、単に伏せられているのではなく、文字の上に血しぶきがかかっている仕様だ。モノクロの記事なので血も黒いのだが、インクと同じ黒さのものと、それよりは明るい薄墨のような色のものがある。つまり後者は目を凝らしたり、光の当て方を工夫すれば読めるようになっている。わざと文字全部でなく2、3割を出して予測できるようになっているものもあるし。そうなれば勿論、必死になって読もうとするよね。そりゃね。
当初はあの男も攻略対象キャラ予定だったと言う話はどこかのコメントで出ていたはずだけれど、何故かれが削られたのかとか、その分のフォローをする予定があるとかないとか。千鶴が京にやってくる前の物語についても言及されていて、そこでは現時点では名前しか登場していないあの人物が出てくるとか、その人物と同じ流派のあの男が日の目を見るとか、新選組の物語が好きな身としては気持ちが高ぶるような話がいっぱい出ていた。雑誌で公開されていた、扇子を持った男があの人物なのかな。すっごい楽しみなんだけど、据え置き機から発信だよね…?
キャスト配役についての話もある。風間と原田は最初津田さんと遊佐さんが反対という案もあった、とは初耳。遊佐さんの風間って必要以上にいやらしい感じがしそうで、それはそれで妖艶な鬼っぽくて面白いのかも。でもやっぱりあの低音でゆっっっくり喋ってこそ風間、と、今のキャストの世界にはまった身としては思う。藤堂ルートの後半、平助と幼稚な言い合いをする風間とか超かわいかったもんね!
ラジオの話やイベントの話、グッズの話なども出て、頁をめくってもめくっても終わらない幸せに浸った。

ドラマCD「志魂盲進の影」シナリオ
同梱CDの台本。沖田についての土方と風間の言い合いがやっぱり好き。

わたしは画集というものにそれほど興味を持てず、ゲーム関係の本も殆ど手をつけていない。カズキさんの絵は素晴らしいと思うし、この絵で本当に良かったと、これ以上の絵はないとすら思うけれど、それでもスチルや原画が収録されている本を買うには至らないでいる。これもCDが付いているなら、という気持ちで買ったのだけれど、本も凄く読みごたえがあって面白かった。キャラが好きでキャストや製作者に興味がなければ厳しいかもしれないけれど、個人的には大満足!
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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 09:29 | - | - |

鳥海浩輔、森久保祥太郎、楠田敏之「朝から朝まで」(原作:一穂ミチ)

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鳥海浩輔、森久保祥太郎、楠田敏之「朝から朝まで」(原作:一穂ミチ)
早朝の生放送テレビ番組でバイトをしている大学生の結は、ようやく仕事も覚え始めてなんとか楽しくなってきたところだ。先輩の本橋は優しくしてくれるし、何より報道記者の京平の存在が気になって仕方がない。

原作既読。感想はコチラ
一枚組のCDなので、当然話はかなり端折られている。結の家族の過去の話が一切カットされているので、それによって母親が息子のバイトをよく思っていないこと、逆に京平の家族には良い影響を齎したことも全く描かれていない。バイト仲間の女の子・尾崎も出てこない。一般的ではない時間帯や忙しさの中でバイトする結と、カタブツで有名な京平の不器用な恋愛に、京平が携わっている病気の子供のエピソードが少し挟まれるくらいだ。

結視点で進むこの物語の序盤は、かれのバイト先での状況が語られる。本橋が優しくしてくれることや、とにかく一分一秒を惜しんで仕事していること、最初は失敗も多かったけれど最近は慣れてきたこと。バイトの自分にも敬語で話す京平の誠実な人柄と、仕事への真摯な態度。そして過去にかれと交わしたなんでもないような会話のあれこれ。わたしがこれまでに聞いた森久保さんは大体ひと癖もふた癖もある、ちょっと嫌な奴を演じていることが多かったのだが、屈託のない結の天真爛漫さが出ていた。あんまり先のことを考えない、とても普通の青年だった。
楠田さんの本橋は、原作からそのまんま出てきた感じ。見た目も口調も軽そうなのに、実は物凄く熱いものを持っている。仕事への愛情、仲間への愛情、後輩への愛情、普段は恥ずかしくて見せないそれをたまに出してくる羽村は頼れる先輩であり、格好良い仕事人だ。
仕事は出来るが、口数が少なく何を考えているのかよく分からない京平は鳥海さん。聞かれたことに生真面目に答えている京平はまさに堅物という感じなのだけれど、たまに自分から口を開いたときのピントのズレた会話が微笑ましい。かれもただ真面目なだけではなく、仕事に対する情熱も人一倍持っている。なかなか窺い知れない部分がたまに見えるのが良い。

派手な業界が舞台なのにも関わらず派手さのない原作同様に、地味に、しかし着実に、物語は進んでいく。京平の昔の彼女である女子アナが、代打で番組にやってきた頃から話は盛り上がる。普段の結ならば気にならなかったような彼女の言動にいちいち腹を立てて、言ってはいけないと分かっていることが口をついたり、その勢いで更に心にもないことを言ってしまったりする結に当然京平は良い顔をしない。結自身も自己嫌悪でいっぱいになってしまって落ち込んで、なかなかうまくふるまえない。その上新人でもしないような大きなミスをしてしまって落ち込み、皆が気を使って自分を責めないことにも落ち込んでいる。基本的には結の恋愛の物語であるけれど、随所に出てくる仕事に対するそれぞれの向き合い方やこだわりみたいなものが顔を出すのは原作もCDも同じだ。

落ち込んでいる結のもとに、先日ひどいことばを投げてしまった京平が現れる。自分のミスを知っているかれが、わざわざ様子を見に来てくれたのだと分かっていて、それでも結はいやな態度をとってしまう。嬉しいはずなのに、先日のことすらまだ謝罪できていないのに、憎まれ口がこぼれてしまう。それでも京平は気にせず、話しかけてくる。
差し出されるコーヒーを突っぱねた結に、京平はおにぎりを差し出した。そして何を思ったか、おにぎりの話を始める。いまどき中学生でももうちょっと気のきいたことが言えそうなものだが、かれにはそれ以上のアイディアは浮かばなかったんだろう。真剣なトーンでおにぎりの海苔についての雑談を始める京平の不器用さが可愛い。それに呆れつつ結が笑うこのシーンが一番可愛くて好きだ。なんでもない日常の中のその一頁は、きっと京平にしてみたら破り捨てたいほど恥ずかしい不出来さだろうけれど、可愛らしくてあったかくて凄くすてき。

本橋が番組を降りると知った結は落ち込む。可愛がってくれたかれがいなくなることは寂しいし、何よりその理由が哀しかった。そのやるせなさを抱えた結は家に帰りたくなくて、結はまたテレビ局へ向かう。そこで偶然顔を合わせた京平と、その寂しさを分かち合いたくて話を振るも、京平の態度は結の期待していたものではなかった。会話の途中でかっとなる結は、しかし京平の言葉に腹を立てていたわけではない。大人の決断をどうこう出来るわけがない、すぐに慣れると冷たいことを言う京平が、本当にそう思っていないことが分かるから、苛立つのだ。憔悴した表情の癖に、その気持ちを隠そうとすることに怒っているのだ。
いつも結が突っかかってもそれなりにいなしている京平が、しかしすぐに声を荒げた。そして荒げたかと思うと、すぐ冷静に戻って謝罪する。取り繕いきれないほど心に澱を貯めこんでいる京平に、「三文字で距離を取らないで」と感じる結のモノローグが哀しい。

いやになるほど常識人の京平がいきなり結に電話をしてきて、話があるから今から会いたいと言ってきた。そこでかれは、ずっと自分が隠し持っていた結のメモについて明かす。それは良いんだけれど、ここは原作通り先に、亡くなった少年の番組の告知が欲しかったところ。普段決してそんなことを言わない京平が、唯一結に「見てほしい」と言ったのだ。ただ見てほしいのではなく、「君に」とかれは言った。そこは端折らないで欲しかったな、と地味に突っ込み。

告白のときのちょっと決まらない、間の抜けた感じはすごくよく出ていた。仕事に関しては誰よりも格好良い京平の、格好つけられないプライベート。格好がつかない駄目な告白がいい。
結の告白もまたいきなりで、シチュエーションもくそもなくて、京平の挨拶の言葉と被さっちゃっていい。休暇中であろうと携帯電話が鳴ればすぐ仕事に向かう京平と、携帯電話のメールで親に連絡する結の、物凄くアナログな恋愛。余裕で一カ月とか間が空いちゃうかと思いきや、いっそくとびに事が進んだりして、まるで二人の仕事(とバイト)みたい。

本編CDにコメントはなく、初回特典として鳥海さん森久保さん楠田さんの10分弱のフリートークCDが付いてきた。森久保さんが司会で、特にお題もなく、作品についてだらーんと喋る。楠田さんが原作を読んだと言っておられて、まあ原作読むひとは他にもおられるんだけどやはり原作ファンとしては嬉しいなーとほくほくしていたら、CDにない場面やエピソードについても語っておられて気持ちが高揚した。だよねだよね!と言いたくなる。
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posted by: mngn1012 | BLCD | 21:13 | - | - |

サウンドシアター ドラマCD「ロミオとジュリエット」

イメージ・アルバム,石田彰,神谷浩史,石川英郎,成瀬誠,菅沼久義,楠大典,橋詰知久,河本啓佑,楠見尚己,竹本英二

サウンドシアター ドラマCD「ロミオとジュリエット」
モモグレメンズオンリーシリーズという、男性声優だけで構成されるドラマCDの第三弾。
 
石田彰(ロミオ/男性)
神谷浩史(ジュリエット/女性)
石川英郎(ティボルト/男性)
成瀬誠(ベンヴォーリオ/男性)
菅沼久義(マキューシオ/男性)
楠大典(乳母/女性)
橋詰知久(モンタギュー/男性)
河本啓佑(モンタギュー夫人/女性)
楠見尚己(キャピュレット/男性)
吉野貴宏(キャピュレット夫人/女性)
溝口謙吾(エイブラハム/男性)
増田隆久(パリス伯爵/男性)
竹本英史(ロレンス神父・ナレーション/男性)
性別付きキャスト表。

映画とか舞台とかで見ているので大筋は把握している。
ヴェローナでも有数の名家、モンタギュー家とキャピュレット家は常に対立している。あまりのひどさが太守である公爵の怒りを買い、かれらは次に治安を乱したものが現れたら死罪だと言い含められている。

キャピュレット家の令嬢ジュリエットは、愛されて育てられたというのが滲み出ている、我儘なところのあるお嬢様。言い寄ってくるパリス伯爵を歯牙にもかけず、自由にふるまう様子はまだ子供だ。
ジュリエットよりも先に登場する、彼女の乳母が大典さん。キャストを聞いたとき、一番驚いたのも、一番想像が出来なかったのもこの大典さんの乳母だったのだけれど、第一声を聞いて更に驚いた。キャストを知らなかったら大典さんだとも、男性だとも思わないような、まさにおばさんだった。特に金持ちなわけでも上品な訳でもないけれど、優しい情に溢れているおばさん。すっごい!

乳母に支度するよう声をかけられたジュリエットの第一声は、「こんなヒラヒラはきらい」だ。ドレスが気に入らないと言う彼女は、不満を口にすることに慣れているお嬢様だ。そして、すっごく、かわいい…かわいいよかわいいよえええなにこれかわいいよたすけて!ラジオやフリートークでたまに神谷さんがやる、あからさまな裏声の女の子キャラとは当然ながら違って、高音だけれど自然な声色だ。
ジュリエットは我儘ばかり言うけれど、決して彼女の性格が悪いわけでもない。ただ、彼女には名門の家も、結婚して跡取りを迎えるという使命も、とにかく重い枷でしかない。幼いからか、それとも性格なのかは分からないが、着飾ってパーティに出ることに魅力を感じられないのだ。人を家で判断しない性格もあるだろう。生意気な口を聞くジュリエットと、そんな彼女に慣れっこであやす乳母のやりとりがいい。

モンタギュー家のロミオは冷めた青年。恋に破れたことで心を荒ませたままのかれを元気づけようと、従兄弟のベンヴォーリオが仮面舞踏会に誘いだす。街中の女性が集うそこに参加すれば、かれの恋の傷を癒す新しい恋に出会えるかもしれないと考えたのだ。問題は、その舞踏会会場が、憎きキャピュレット家で行われる、ということだ。仮面をつけているから問題ないと、かれらは舞踏会に乗りこむ。
必死に気を使う従兄弟の提案も舞踏会もくだらない、と苛立っているロミオは、まだまだ神経過敏な青年と少年の間くらいの年齢のようだ。若木のようなみずみずしさと、尖った感じがよく出ている。石田さんのこういう正統派なキャラクターって久々に聞いたような気がするのだけれど、無茶苦茶格好良かった。なんだろう凄く自然なんだけれど普通じゃない。その辺にいる男の子じゃなくて、ちょっと特別な男の子の感じがする。女の子が一目で恋に落ちてしまうのも分かるような、非凡な格好良さがある。

ばかばかしいと舞踏会から出たロミオと、伯爵に呆れられるようわざと粗雑にふるまった揚句料理をこぼして汚した服を着替えに席を離れたジュリエットは、偶然出会ってしまう。追いかけてくる伯爵を振り切ろうと、偶然そこにいたロミオとの熱烈なキスを見せつけるジュリエット。そこへロミオの顔や声を熟知している、ジュリエットの従兄ティボルトがロミオを見つけて追いかけてくるので、名前も知らぬまま共に逃げるふたり。ジュリエットはロミオの知らない道を教えて、かれが逃げる手助けをする。ティボルトは石川さん。いかにも気性が激しくて、ひとの話を聞かなさそうな感じが出ている。言葉よりも拳が先に出そう。
逃げ切ったロミオはジュリエットの顔を初めて直視して、一瞬で恋に落ちた。そして言葉もないまま口づけてくるロミオに、ジュリエットは「人を呼びます!」と焦って怒る。お前ついさっき同じことしただろ、とは言わない。このあたりの世間知らずっぷりお嬢様っぷりも可愛いのだ。

呼べるものなら呼べばいい、とうそぶくロミオの歯の浮くような台詞はシェイクスピア作品ならではだ。石田さんのロミオは仰々しくなくて、さらっとそんなことを言ってのける。軽口みたいな気安さと爽やかさで、深刻な愛を告げてくる。その言葉に、若いジュリエットは抗えない。彼女もまたロミオの瞳を見て、ひといきに恋に落ちてしまった。

失恋して以降傷が癒えなかったロミオは、名前も知らない少女と運命的な恋に落ちたのだと知る。知った直後現れた乳母によって、自分が心を奪われた彼女が、キャピュレット家のジュリエットだと知ってしまう。
ロミオが慌てて姿を消したあと、ロミオを探しているティボルトがジュリエットの元にやってくる。その特徴を聞いて、ジュリエットはかれこそがロミオなのだと知る。出会って、恋に落ちて、恋に落ちてはならない相手だと知った。しかしあまりに急激に劇的に始まってしまった恋は後に引けない。

落ち込みながらも庭に忍び込んだロミオは、ジュリエットが部屋の窓を開けるところに出くわす。全てが運命的で、かれらに味方をしているようだ。
ロミオが隠れていることなど知るよしもないジュリエットは、思いを夜空に向けて呟いている。有名な、あなたはどうしてロミオなの、のシーンだ。恋する少女の切なさと愚かさが混在するジュリエットの独白は可愛く、それをこっそり聞いて動揺するロミオも可愛い。

庭の薔薇がどんな名前でも香りに違いはない、の台詞に思わず「せつなさは夜の媚薬」のクラウディオを思い出した。薔薇は薔薇だ、と言ったあとに、自分達をロミオとジュリエットに喩えたクラウディオ・コルシバルディ・アルフィエーリさん…。

ジュリエットの思いを知ったロミオは、彼女に声をかける。夜にまぎれて顔もよく見えない、と彼女が呟いた直後、夜に娘の話し声がするのを不審に思って母が部屋を訪れた。必死に誤魔化して追い返して一息つくと、部屋にロミオがいる。顔が見えないと言ったから、見えるようにここまで来たのだと言うかれは、完全に冷静さを失っている。恋に浮かされ、両想いに浮かされている。
見つかったら殺されるから帰ってと言うジュリエットの言葉もロミオには通じない。敵の家に忍び込んで、しかも令嬢の部屋に潜り込んでいるのに、かれは全く危機感がない。それどころじゃないのだ。
そうこうしている間に、今度は父親の声がする。ジュリエットを呼ぶかれの声はどんどん大きく、近づいてくる。帰ってくれと頼むジュリエットに、ロミオは、愛の誓いをしてくれたら帰ると言ってきかない。あまりに早すぎるとジュリエットがいくら言っても、ロミオは聞かない。このままでは父が部屋にやって来て、ロミオは殺されてしまう。焦っても頼んでもロミオは譲らない。
父親が部屋の前で扉を叩いて、無理にこじ開けようとしているのに、ロミオは繰り返す。「誓うかい、僕と結婚すると?」と。この「誓うかい」が低音で異様に格好良かった。ギリギリの状況での駆け引きが、結末を知っているのにハラハラさせてくれる。
そして根負けした彼女は、数時間前に会ったばかりの男に、結婚の約束をした。「誓います」と父に聞こえないように小さな声で言ったジュリエットに、ロミオは更に「聞こえない」と嬉しそうに言う。そしてジュリエットは高らかに宣言し、二人は結婚の約束をする。

舞踏会での粗相が原因で自宅謹慎を言いつけられたジュリエットは、ロミオとの仲を乳母に取り持って貰う。ジュリエットと乳母のやりとりは、親子のようでもありおばあちゃんと孫のようでもあり、微笑ましい。身分が下だからというよりは、ずっと一緒にいる家族よりも近い存在だからこそ、ジュリエットはばあやに我儘を言う。ばあやはお小言を挟みながらも、可愛い彼女のお願いを聞いてしまうのだ。
水を得たようにぽんぽんと言葉が飛び出すジュリエットに、ばあやは結局甘い。僅かな味方だけをたよりに、二人は秘密の結婚式を迎える。

二人の結婚を知る者はほとんどいない。しかしこの結婚が、長年に渡る両家の抗争の終結に役立つのではないかとロレンス神父は考えた。ロミオはその言葉を信じ、両家の和解に尽力しようと思っていた矢先、友人のマキューシオがジュリエットの従兄のティボルトと争っているところに鉢合わせる。必死に諌めようとするも、両者の因縁は深い。ロミオの態度がマキューシオを怒らせ、二人はとうとう剣を抜いた。辞めさせようと割って入るロミオが陰になり、ティボルトの剣がマキューシオを貫いた。息も絶え絶えのマキューシオはロミオを責め、キャピュレットもモンタギューも呪ってやる、と恨みの言葉を吐いて死んだ。この辺りの展開がちょっと早すぎて、ついて行きづらかったけれど、友人の死に激怒するロミオの呻くような叫び声がすごかった。
感情のままにティボルトを追ったロミオは、かれを殺してしまう。

治安を乱せば死罪と言われていたけれど、ロミオは温情をうけ、翌日街から追放されることになった。この街に、ジュリエットのいる街に戻れないということは死も同然だと嘆くかれだったが、神父がいずれ引き合わせると約束してくれた言葉を信じ、生きてゆこうとする。
最後の夜を過ごした二人は、朝、目を覚ます。鳥や天候を見て朝だと言うロミオに、無理やりまだ朝じゃないと言うジュリエット。本当はもうそこまで朝が来ていると知っていて、離れたくなくてそんなことを言うジュリエットの稚拙さがいとしい。ロミオは柔らかく笑って、「じゃあ、僕はもう捕まってもいい」と言う。ジュリエットへのあてつけなんかじゃない、その瞬間の素直な気持ちだ。若いかれらには、先の事なんて考えられない。今一緒にいたい、それがすべて。ここのロミオがもう、もうもうめちゃくちゃ格好良いの…!自分の中にこんな真っ当な乙女心が残っていることに驚いた。

「話そう、もっと。まだ朝じゃない」と言うロミオの言葉に、けれどジュリエットが我にかえる。「やっぱり、朝だわ」と弱々しく告げる彼女は、自分の今よりも二人のこれからを選択した。死ではない未来に賭けようとした。少しずつジュリエットの声が震えていくのがまたいい。泣きだしそうな気持ちを堪えて、夫を送り出そうとしている。
ロミオを送りだしたのと入れ違いに部屋に来た母親に、ジュリエットは普段通りの態度をとる。身を引き裂かれるほどのかなしさも寂しさも呑みこんで、悟られないようにふるまう彼女は、もう何も知らない少女ではない。

父親に呼ばれたジュリエットは、パリス伯爵との結婚を言いつけられる。既に自分はロミオとの永遠の愛を神に誓った身だし、何より好きでもない相手と結婚なんて絶対にしたくない。それが出来ないのならば死ぬ覚悟だと泣きついてきたジュリエットに、神父は危険な手段を持ちかける。かれらが追っ手に悩むこともなく生きていくためには、その方法しかなかったのだ。

そのあとも原作通りことが進み、目覚めたジュリエットは傍らで毒を飲んで死んでいるロミオを見つけて死を選ぶ。無意味な争いに巻き込まれた男女、運の悪すぎる恋人たち。ジュリエットがロミオに触れて、「まだ暖かい…」というところが残酷でたまらない。本当についさっきまで生きていたのだ。もう少しロミオが死を決意するのが遅ければ、全てがうまく行った。ジュリエットが目覚めるのがあと僅かだけ早ければ、何もかもがうまく行った。切ない。今更よくできた物語だな、と感心してしまった。

これまでのメンズオンリーシリーズ同様に、話のつくりというか長い原作の端折り方はそれほど巧いとは思えない。原作の知識ありきで聞く分には構わないが、何も知らずに聞いたら何をしているのか分からない部分や謎の残る展開もあるだろう。二枚組にしてたっぷり聞かせて欲しいんだけれど、この一枚のお手軽さが良いのかもなあ。駆け足で話をさらうダイジェスト版、という感じ。
しかしながら石田さんのロミオはまさにヒーローらしい格好良さだし、神谷さんのジュリエットは贔屓目込みにしても腹が立つほど可愛いし、大典さんの乳母は紛うことなき乳母だし、それを期待していた身としては十分すぎるほどに満足。ただ前二作に比べると、脇の女性役がちょっと物足りないかも。どちらのお母さんもあんまりお母さんという感じがしなかった。その分大典さんの凄さを実感できるのだが。

本編CDの最後のトラックは、石田さん司会でキャスト全員の一言コメント。大典さんが石田さんに弄られてた。「キャーヒロシーカワイイー」と棒読みの黄色い声を上げる大典さんであった。

初回特典の同梱CDは、石田さんと神谷さんの20分ほどのフリートーク。基本的に二人とも真面目なんだけれど、ちょいちょい面白いことを挟んでくる。石田さんってこんな人だったっけ…こんな人だったな、そうだな…。
神谷さんが、蜷川幸雄演出、藤原竜也・鈴木杏主演の舞台「ロミオとジュリエット」を見て、感動したという話をしていた。わたしもこれを見に行って、正直いまひとつだなあと思ったのだけれど、神谷さんの熱弁を聞くと、そういう見方もあったのねと思わされた。面白い。

ブックレットの一言コメントの神谷さんに噴いた。
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posted by: mngn1012 | 音源作品 | 11:34 | - | - |

一穂ミチ「キスなんてだいきらい」

一穂ミチ「キスなんてだいきらい」

今月のJ GARDEN新刊同人誌。「雪よ林檎の香のごとく」<感想>の番外編で、同人誌「Why Don't You」<感想>の続編。とはいえ本編の関係さえ分かっていれば、これだけで読んでも問題はない。

商業誌である本編で挿絵を担当した竹美家ららが今回も表紙を描き下ろしているのだが、これがものすっごく可愛い。それと同時に、全体的にぼんやりとしたタッチの挿絵だったので、こういう顔なのか、と今更ながら思ったりもした。とにかく物凄く可愛い。

明日の朝起きたらキスしてもいい?と聞いた夜が明けても、桂はキスをしてこなかった。本当は起きてすぐにしたかったけれど、さすがにがっつきすぎているかと我慢したり、おそらく志緒が初めてだろうと思ったりしているうちにタイミングを逃したのだ。そんなこと考えもしない志緒は桂に苛立って、ぶつかって、ちょっと揉めてすぐに仲直りして、それでもその日のうちに二人はキスをしなかった。
それが、十月の話。

そして十二月。ほぼ毎日顔を合わせる二人は、飽き足らず夜に電話で話し込む。学校でたとえ話しができたとしても、それは先生と生徒の会話だ。恋人同士の気安い、けれどもぎこちなくて気まずい会話はこんな風にしかできない。始まったばかりの恋特有の、距離を測りかねている感じや、話が途切れてしまう感じが初々しくていい。いつまでも話していたいし、まだ知らない相手の事をもっと沢山今すぐ知りたいと願うけれど、うまく口にできない。もどかしくて些細なことで一喜一憂して、疲れて、それでも一緒にいたいという気持ち。クリスマスの予定を24日や25日ではなく、敢えて23日に合わせた二人は、お互いに同じことを、全く違う状況で悩み始める。

バイトをしているわけでもない志緒は何が欲しいか分からないことと金がないことで悩むし、大人の桂は、金はあるけれども何が欲しいか分からないと悩む。二人の間にはどうしても埋めようがない年齢差だけでなく、大人と子供という区分がある。それは収入のあるものとないものとか、恋愛経験のあるものとないものとか、色んな事を区切ってしまう。
自分が相手のことを思ってあげたものなら、どんなものでも喜んでくれると志緒は知っている。けれどもそれに甘えたくはないのだ。なんでも嬉しいよ、なんて言って当たられる喜びでは気が済まない。親の情みたいなそれは確かに愛情だけれど、自分のセンスも褒めてほしい。けれど大人のかれが何をほしいのか、さっぱり予想がつかない。プライドだけがはやって、答がでなくて悩む志緒の気位の高さや意地がかわいい。これでいいか、と妥協をしないかれの真っ直ぐさが微笑ましい。
桂は桂で、ずっと志緒にあげるべきプレゼントを逡巡している。相手が何を欲しがっているのか考えて、相手を喜ばせたくて、二人とも恋人の事ばかり考えている年末。

恋人がいることをオープンにしていない二人は、それぞれに23日に誘いを受ける。それぞれのコミュニティでの集まりを、二人はそれぞれのやり方で断った。恋人との先約があるのだから当然だし、大勢の集まりである以上、勘ぐられることもなく簡単に受け入れられた。問題はないはずだった。
自分の持っているクラスが23日に皆で出かけることを偶然他の生徒から聞いた桂は、志緒にその話を振る。かれはよりにもよって、遠慮すんなよと身をひくようなことを、クラスの集まりに行かせるようなことを言った。志緒は少しむっとして、「先に先生と約束した」と言う。ここで志緒が順番ではなく、先生といたいから、と言っていたら桂の対応も変わっていただろうか。先に誘われたから桂といるのではなく、桂が好きだから桂といるのだと、桂といたいのだと言っていれば。たとえそうだとしても、多分同じだ。桂は気を使わず行ってこい、と志緒に言った。志緒が気がねしないように、自分も他の飲み会に誘われたから問題ない、とまで補足して。
当然志緒は怒る。自分が楽しみにしているように、桂が23日を楽しみにしていたわけではないのだと感じるからだ。自分がどれだけ桂のことを好きなのか知っていて言う桂に腹を立てる。言葉にされない桂の真意など悟れるはずもない志緒は苛立っていて、そのことに桂は苛立っている。かっとなったかれは、志緒がクラスのみんなと遊んでいる方が安心だ、と言った。それは、自分と付き合っていることで志緒が普通の高校生としての生活を我慢したり、邪魔されたりしていないと実感できるからだ。そのことで桂が罪悪感を覚えたり、志緒が本来ならば受けられるべき楽しみを失わずに済むと思うからだ。志緒がそんなものを望んでいないと知っていて、色々なものを天秤にかけたところで迷わず自分を選ぶと知っていて、それでも桂は迷ってしまう。大人であるがゆえにかれに付きまとう、ぬぐい去れない不安だ。何かを選ぶことは何かを選ばないということだと知っていて、それでも自分が無理やり志緒に誤った方を選択させているような焦燥感があるのだ。そのことを志緒が本当の意味で理解する日は永遠に来ないだろう。桂の迷いに志緒が翻弄され、傷つく気持ちが桂に永遠に分からないように。
歯のエピソードも印象的。同じ時期に歯のトラブルを抱えてしまった二人だけれど、その内容は全く違う。そんなところにも二人の年齢差は現れている。
年齢差が埋められないように、価値観の違いも不安の種類も分かりあえることはない。それでも二人は一緒にいたいと願っているし、そのための努力を続ける。「好きでいてもらう方法」に正解がないから、思考錯誤して、失敗して、埋められない溝をなんとか乗り越えようとする。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 01:54 | - | - |