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更新お知らせ

ちるちるさんでコラム更新して頂きました。
初心者特集ということなので、初心者のひとにお薦めできるものを選んでみました。

わたしの初やおいが、多分以前も書いたけれど「そして春風にささやいて」だったので、いっそそれを薦めるという力技もあったんだけれど、さすがにイマドキのものにしてみました。今腐女子になったら買う本がありすぎて大変だけれど楽しいだろうなー!
普通の本の中で必死にやおい臭を嗅ごうとしていた自分の時代も楽しかったけれど。

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posted by: mngn1012 | その他やおい・BL関連 | 00:07 | - | - |

PSP 「学園ヘヴン BOY'S LOVE SCRAMBLE!」

待ってましたのヘヴンPSP!その前に買ったソフトにまんまと踊らされたのでちょっと忘れていたけれど、そもそもわたしはこのためにPSP本体を買ったのであった。

自分の「学園ヘヴン」に対する気持ちというのは結構微妙で、女性向けの作品においてしばしば出てくるスーパー生徒会を地で行くような設定に失笑しつつも、自分の中にも多数蓄積しているその要素から目をそらせないのだ。経営者や教師よりも権力のある生徒会、何百万という額の経費の割り振りを大人の承認なしに認可できる会計部。とにかくバブリーでトンデモである。しかも舞台はベルリバティ学園で、生徒全員が何かのエキスパートなんていう設定。荒唐無稽である。ただ、この荒唐無稽っぷりが、なぜかとっても大好き。
制服のカラーリングもすごいし、なんというか設定がとにかく過剰にドラマティックである。中学生女子があつまってノートに書いているような、そういうキャラ設定なのだ。でも、それが大好き。

その辺の兄ちゃん同士の、劇的な事件が起こらない中で恋愛が進んでいくBLというものがここ最近多い。自然な会話や服装のかれらは、ずば抜けて美形なわけでも有能なわけでもない。出来ることもできないこともある。恋愛だけが全てじゃないし、恋愛ばっかりにかまけていられるわけでもない。そういう、手を伸ばせば届きそうな距離にあるBLというものも大好きだ。むしろ普段読む作品はそういう系統のものが非常に多い。
けれどその一方で、ひとつのブーム終了を迎えてしまった気のあるゴージャスでスペクタクルなBLというものにも後ろ髪を引かれる自分がいる。だってフィクションなんだもん!派手できらびやかで何が悪いの!非現実なんだもん、入りこまなきゃ!という気持ちになるのだ。そしてCLAMPやタクミくんに思春期を支えられた者としては、やっぱりスーパー生徒会様は大好き。

ということで、学園ヘヴン。
あらゆるジャンルのエキスパートだけが入学を許可される、全寮制高校ベルリバティ学園。地元の高校に通う、運がいいことが唯一のとりえである伊藤啓太のもとに、なぜかいきなりベルリバティ学園からの入学許可書が送られてきた。理由も分からないまま、啓太はベルリバティ学園に転校することになる。しかし転校初日、学園までの道のりで、交通事故に会ってしまう。

たぶんCDは全部聞いていて、アニメも見た。氷栗さんの漫画も読んだし、ラジオも聞いた。でも実はゲームはろくにやったことがなかったので、今更挑戦。とは言えさすがにこのビッグタイトル、知らないエピソードが殆どない。

基本的にキャラ萌えの強い作品だと思うし、自分も例に漏れずアクの強いキャラたちに心を弄ばれているのだけれど、それと同じくらい、キャラ同士の関係性も濃厚に描かれている。啓太と誰かの恋だけではなくて、西園寺と七条、丹羽と中嶋、丹羽と西園寺、岩井と篠宮…と、決して人数の多くない学園の中で日々寝食をともにするかれらは、それぞれに対して距離を持っている。啓太との会話を通して、かれらが友人にどういう気持ちを抱いているのかが明らかになるのが楽しい。そしてそれを恋愛に相当するものだと曲解して萌えに転嫁することも、なんとなく「学園ヘヴン」では容易いと思う。

それはともあれ、学園ヘヴン。
実際ゲームをプレイすると、冒頭で選んだ会話が後半で活きてくるので侮れない。その時はどれを選んでも同じ反応だったり、同じ翌日になるんだけれど、後になってそのときのちょっとした選択が大きなイベントに繋がったりする。この辺りの周到さはさすが。遠藤の正体を含めたいくつかの謎なども一度には明らかにならないし、好きなキャラをクリアしておしまい、というわけにもいかなそうだ。

あとは一カ月前にPSPを買った程度の人間が言うのも何だが、機動がさくさくしているのでストレスがない。UMDが二枚組なので、途中でディスクを入れ替えなくてはならないあたりは多少不便だけれど、早送りにせよ巻き戻しにせよセーブにせよとにかくスムーズなので嬉しい限り。チェックの壁紙や羽根のアイコンなどの古臭さも、作品と相俟っていとおしい気さえする。

そしてやっぱりキャストが異常に、それはもう笑ってしまえるほどに豪華である。再三書いている通りわたしは七条が好きなんだけれど、いざ皆が出てくると目移りしちゃう。中嶋さん出たーヒィィとか、女王様だわアワワとか、そういう気持ちの悪い目移りをいくらしても大丈夫、なところがまた嬉しい。だってこれはそういうゲームなんだもの。
またもや睡眠時間を削る日々が始まります。
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posted by: mngn1012 | その他やおい・BL関連 | 23:54 | - | - |

ごとうしのぶ「タクミくんシリーズ 誰かが彼に恋してる」

ごとうしのぶ「タクミくんシリーズ 誰かが彼に恋してる」

やっぱり12/1発売予定がしっくりくる、一年ぶりのタクミくん新刊。
読み返したら二年前に出た「プロローグ」の感想のときにも書いていたのだが、それにも増して文章が読みづらくなっていると思った。わざと託生に分かりづらくするために敢えてややこしい言いまわしを選んでいると解釈できるところもあるが、それ以外にも、文章が長すぎて接続があやふやで何が言いたいのか分からないところがいくつか。昔はそんなことを感じなかったし、実際今読み返してもそういうところは殆どないので、ここ数年の癖なのかな。元々はくせがなくて読みやすい地の文を書く作家さんなので余計にもどかしい。

携帯電話を手にした二人の、メールをめぐる掌編「崎義一クンによる、正しいメールの送り方」から物語は始まる。この「クン」のカタカナ表記が前時代的で、タクミくんシリーズにはぴったりである。相変わらず崎義一は嫌味なほどに頭の回転が速くて、気が利いて、ユーモアもある。同世代の同性としてその出来すぎた男を嫌味に感じてしまう瞬間というものが、きっと誰にでもあるんだけれど、託生にはない。それはかれが恋人だからかもしれないが、それを素直に受け取る度量の大きさがある。
「--はて?」という表現もごとう作品ではおなじみ。この90年代ノリがタクミくんなので、たとえかれらが携帯電話を持とうと、携帯電話でテレビを見ようと、このどこか洗練しきらない野暮ったさはそのままでいてほしい。

「誰かが誰かに恋してる」は前作「誘惑」の続き。
過去にひとりの人間を心から信じてどんなひどいことをされても慕い続けた結果、その相手に最悪の方法で裏切られた託生は、長い間ひとを信じることを止めていた。信じられなかったし、信じたくなかった。祠堂に入った頃やギイと同室が決まった頃の託生はそういうタイプだったし、面倒な相手に対してはかなりひどい言葉を投げたりもしていた。結構「イイ性格」をしていた。
けれど本来の託生はとても純粋で馬鹿がつくほどお人よしで優しい、そういう人間だ。そのあまり他の誰かや、自分が傷ついてしまうこともあるけれど、今かれの周りにいる人間は、かれのそういう部分を含めて理解してくれている。
かれはひとを憎んだり、恨んだり、責めたりしない。兄のことでさえ、許してしまった。けれど決して要領よく立ちまわれるわけでも、人一倍図太い神経をしているわけでもない。だから傷つけられることも沢山ある。そういう託生をギイは守りたいと思っているのだ。その気持ちが暴走するゆえに、かれが託生を傷つけてしまうこともあるけれど、守りたいという気持ちは本物だ。

ギイを含めた、いわゆる学内の有名人・人気者たちが集まって昼食をとる弁当会に、託生も参加している。大勢で人気のないところに集まることで、二人きりの時間がなかなか取れない恋人たちの願いが叶うと同時に、クラスの離れた友人と談笑したいと言う仲間の願いも叶う。木を隠すなら森だ。
しかしうまく隠せたつもりでも、所詮かれらは高校生で、しかも恋人との逢瀬に舞い上がっているのだ。そこに隠された意味を見出すことは不可能じゃない。崎義一をずっと見つめている誰かが、崎義一がずっと見つめている存在が誰なのかに気付くことは、きっとそれほど難しくないのだ。

昼食の時間、託生は担任が急ぎの用事で自分を呼んでいると聞いて、食べるものも食べずに一人温室へ向かった。すぐに戻ってくるだろうと思っていたギイだったが、託生は一向に戻ってこない。優しく気の回る担任が、午後の授業もある平日に、食事の時間も取らせないほど託生を振り回すとは思えなかった。そこに、託生の担任が外出しそうな様子を見かけたという情報も入る。
託生に嫉妬やもっと強い憎しみを抱いた誰かによって、かれははめられたのだ。託生が弁当を持参しなかったがゆえに一食抜くはめになった程度のことではあったが、もっと危険な、取り返しのつかない展開が起きることも考えられる。
慌てて温室に向かったギイに向かって、託生は、来なかった担任の心配をした。約束に来られなくなるような何かが起きたのではないかと心配した。約束を守らなかった担任に怒ることや、顔の見えない誰かの情報に怒ることではなく、イレギュラーな事態に不安を抱いた。それが本来の葉山託生だった。
起承転結で言うと、やんわりとした承と転が描かれた物語だった。ギイの家族のことや新しく名前の出たクラスメイトのことなど、謎は多いけれど、それはたぶん来年に持ち越し。かな。冒頭の掌編で出たなんてことのないやりとりが、あとあと活きてきそうで楽しみ。こういうところは巧いと思う。

ラストの高林に笑った。そうだよシャオシュピーレリンはこうじゃなくっちゃね!
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 21:02 | - | - |

薄桜鬼ポータブル 薄桜鬼遺聞 戦友絵巻

雑誌で連載されている小説にボイスがついたもの。選択肢は勿論無いし、プレイヤー=主人公ではなく、本当に小説を読んでいる立場で話が進む。攻略対象キャラ六名の物語があって、そのキャラごとの一人称で展開される。


・「始まりの宵月夜」土方歳三
文久三年の年の瀬、土方の部屋に近藤が現れたところから物語は始まる。ようやく芹沢を始末して、新選組としての日々が始まったところで近藤の心は明るいが、土方はそうはいかない。幕府から命令された新撰組の存在が、かれを悩ませているのだ。そういう土方の心情をうっすらと悟っている近藤は、土方のもとに菓子を持って現れたのだ。
本編では話題に出なかった芹沢鴨の話や、主人公の父である綱道が行方をくらました話題もちょっと出る。大の男二人がお菓子食べてると思うとちょっとかわいい。

そこへ沖田が現れる。二人だけでお菓子を食べていることに拗ねた口調で土方に突っかかる沖田は、近藤が誘うと嬉しそうに部屋に入る。この手のひらの返しっぷりがいい。近藤はあんまり気にしてないんだろうし、土方はうざったそうなリアクションを返しつつも本気で怒っているわけじゃない。結局両方で甘やかしてる。
お菓子を食べたあとで沖田は、羅刹化した隊士が二人、屯所から抜け出したことを報告する。さっさと言えよ、というところだが、多分沖田は幹部に招集をかけておいて、かれらが支度をする間に土方の部屋へ行って時間を稼いだのだろう。先に局長・副長が集合して、かれらに幹部を待たせるようなことのないように。

当然ながら隊士たちがどこへ逃げたかは分からないので、かれらは手分けして行動することになる。土方と沖田と斎藤。飄々とした沖田は「僕たちのほうが当たりですよ」「何か面白いことが起こるんじゃないかって思って」といつもに増して嬉しそうだ。そうだ、ここからかれの言う「面白いこと」が始まるのだ。かれらは変若水によって羅刹化し、血を求めて歩く隊士を始末して、そして、その一部始終を見てしまった少女に出会う。ここから、「薄桜鬼」の序章に繋がるのだ。

最後に半裸のスチールが出る意味はよくわからない…。

・「舞い落つ紅葉」沖田総司
ごませんべいを食べつつ、子供たちと一緒にいる沖田。子供といるときも沖田のスタンスは変わらない。招集されてかれらと別れる沖田は、「遊んでもらってたんだよ」と主人公に言う。ピスメでも沖田が同じことを言ってたな。あちらは無意識に出てしまった失言という感じだったけれど。
急いで帰った屯所で土方から下された命令は、主人公と紅葉狩りに行くことだった。近藤が主人公に京都の紅葉を見せてやりたいと言ったのだというのが名目だ。近藤の名前を出せば沖田が拒めないことを土方は知っているし、土方がそう思って敢えて近藤の名前を出していることを沖田は知っている。そのことも土方は知っているだろう。頭が良すぎて素直に付き合えない二人。

景色に素直に喜ぶ主人公の横で、沖田は余計なことばかり考える。険しい崖から落ちてしまったらどうなるのか。自分が落ちたら主人公はどうするのか。ついていけなくなるから困る、という彼女の返答に更に沖田は惑う。もうすぐ新選組に、近藤についていけなくなる自分を知っているからだ。ついていけなくなった自分はどうするのか。
「命が尽きる瞬間まであの人の【剣】でありたい だけど僕は あの人に最期までついていけるのかな」というモノローグが切ない。ついていく過程で死ぬのならば構わない、けれど、たぶんついていけなくなって死ぬのだ。ついていけなくなってまず、剣として死ぬ。そのあとも肉体は生き続けて、そして、その肉体すら近いうちに弱って死んでしまう。新選組の沖田としてではなく、ただのひとりの男として死んでしまう。
主人公の付き添いに沖田を選んだのが近藤なのか土方なのかは分からない。沖田を選ばせるように近藤を仕向けるくらい、土方にはなんでもないことだ。おかしな咳をする沖田にきれいな空気を吸わせ、美しい景色を見せて張り詰めている心を和ませてやりたかったのかもしれない。いつ見られなくなるとも分からない景色を、今のうちに見せてやりたかったと予想するのは考えすぎだろうか。

・「暖かな初雪」斎藤一
斎藤だけスチールが最初にくる。いまいち何をやっているポーズなのかは分からないが、あの、ものすごく、いいです。

誰よりも朝早く道場に来る斎藤がいつも通り精神統一を図っていると、原田永倉藤堂の三馬鹿登場。朝帰りなのかわいわいやってる三人の会話に、斎藤は一切入らない。何か言われると答えるが、基本的には黙って聞いている。たとえ話題が自分のことであっても、必要最低限しか話さない。三人の会話を聞いている間のモノローグも殆どない辺り、本当にこの人ただ聞いているだけなんだなあ。
道場での朝稽古に、近藤に連れられた主人公がやってくる。そして見取り稽古をしたいと言う彼女の面倒をみることを近藤に頼まれた斎藤は、彼女に淡々と幹部の腕前を解説する。このくそまじめっぷりが斎藤さん。人間性について語るより、太刀筋や剣について語る方が得意なんだろう。

沖田から分けてもらった、と近藤が焼き栗を持ってきてくれる。朝から栗を焼く沖田の話を聞いて、土方の怒りを想像する斎藤さん。でも別に何もしないし何も言わない。そんな斎藤さん。
体調がよろしくないのに稽古に出てくる沖田に怒る土方。揚げ足取りの追っかけっこ楽しそう。

騒がしくなった道場から彼女を避難すべく、出ることを斎藤は促す。栗を食べていると初雪。すぐに消えてしまうその在り方に、自分の武士としての在り方を重ねていると斎藤が漏らす。それは憧れであり好意であるのだと、彼女が言う。斎藤は自分が思ったことをいちいち掘り下げて考えないというか、思ったことを真っ当することが全てだと思っているようなところがあるので、彼女の分析にいちいち驚く。全く表に出さずに主人公に惹かれている斎藤の、物凄く分かりにくい好意の示し方がもどかしくていい。

・「大切なもの」藤堂平助
鬼に狙われ、父の行方はさっぱり分からず、性別を偽って隠れ住んでいる主人公のことが、平助は気になって仕方がない。そんな不憫な状況にありながらも、明るく笑って気丈にふるまっているところに胸が締め付けられるような思いがするのだ。何かしてやりたい。彼女を喜ばせたい、彼女の心労を少しでも軽くしてやりたい、そんなことばかり考えている。

しかし、そう思っているのはかれだけではなかった。局長である近藤からして、蜜柑を差し入れてくれる。近藤さんは食べ物持ってくるキャラになりつつあるな。似合うからいいけど。近藤の気遣いに嬉しそうに笑う主人公を見て、平助は俄然やる気を出す。自分も彼女のために何かして、彼女を喜ばせてあげたいと思うのだ。しかしかれの考えはすべて他の誰かの考えと被り、あと一歩のところで全て先回られる。アイディアが枯渇してしまい、他の隊士に相談までして得た手段すら先回られてしまう。しかも、想定外の存在によって。かわいそう!この子かわいそう!

平助はたぶんこの日一番彼女のことを考えている。目的を果たしたほかの面々と違い、ちっとも願いが実らないからだ。一日中ずっときみのことを考えていたよ、きみが心配で、きみが笑ってくれる方法をずっと考えていたよ、と伝えられればいいけれど、そんなことはできない。戦に次ぐ戦の中で生きる自分が、長生きできるとは思えないからだ。恋愛よりも大切なものがあるからだ。だからそんな自分が、彼女に何かを誓ったり告げたりするようなことはできないと、かれは思っている。勿論照れもあるだろうけれど。
これを見てると物凄く平助を応援したくなる。大丈夫、きみの恋は叶うよ!(平助ルートで)

・「満ち足りた桜」原田左之助
藤堂と斎藤が御陵衛士として離脱した直後の話。試衛館で皆で花見をしていた夢を見て以来、原田は花見のことにとらわれる用になる。藤堂・斎藤はいないし、山南は羅刹化して人間が変わってしまったようだ。近藤はもはや過去のかれとは比べ物にならないくらい忙しい。新八は内部のごたごたに機嫌を悪くしたままだし、沖田は病で伏せっている。もはや昔の連中で花見をすることなど、誰も考えられなかった。

あまり変わっていないのは原田と、土方だけだ。土方に呼ばれた原田は、「御陵衛士の情報は筒抜けだ」と告げられた。それだけでかれは、斎藤がそのために向こうへ行ったのだと悟った。だから、「平助のこと、どうするつもりなんです」と聞いた。二人とも斎藤の名は出さない。別に誰かに聞かれている恐れがあるとか、そういう理由ではないだろう。通じ合っている。それが長年共に生きてきた人間たちの絆なのだ。

そして土方は酒を出し、「お前らで片付けろ」と言う。自分は忙しくて飲んでいる暇もない、というのがかれの言い分だが、最近ぎこちない雰囲気になっている昔なじみの連中をもう一度ひとつにまとめたいというかれの願いであることは誰の目にも明らかだ。原田同様土方も、今の状況を寂しく思っている。
原田と土方は、幹部の中で抜きんでて思想が薄い。仲間と共にあることや、自分たちを苦しめる身分制度を見返してやることを存在理由にしている節がある。だから、思想によって仲間を裏切ったり離れていく面々の気持ちを理解しきれない。理解できない現実に、ただ傷ついている。それでもまだ、取り戻せるのではないかと心のどこかで期待している。自分たちの絆はこんなものではないだろうと、思想にも権威にも心を預けられない男ふたりは信じている。

結局、桜の下で酒を飲むのは原田一人だ。そしてそこで初めて、先陣を切ってはしゃいでいた永倉や平助ではなく、一番花見を楽しみにしていたのが自分だと、かれは知る。失って初めて、自分がいかにそれらに依存していたのかを知った。桜の花が散っていくように、自分たちの絆もどんどん無くなってゆく。最終的には一輪の花も残らないように、ただ失われるだけなのかもしれないと思い始めたころ、主人公が現れる。自分を心配している彼女の様子に救われたかれは、桜が散ってもまた来年花をつけるように、絆が薄れて仲間が減っても、増えるものもあるのだと思いだした。

・「飽くなきもの」風間千景
恩返しのために薩摩藩からの要請を受けた風間とそれについてきた天霧、高杉の人間性に惹かれて長州藩に手を貸すことを決めた不知火が席を設け、鬼同士の不可侵を約束する。
この話では、風間は千姫の存在にちっとも心を惹かれなかったために、血統の良い彼女ではなく主人公を求めたのだと言うことになっている。確かに嫁としては彼女以上の存在はないので、何も命賭けで新選組と戦ってまで主人公を手に入れようとすることもなかったのだ。
千姫に興味の持てない風間に、人間の中には面白いやつもいることを知っている不知火が「人間の嫁でも貰ったらどうだ」と言う。厳密には「どうだァ?」と言う。それを風間は一蹴するが、それが現実になる未来も確かに存在する。

高杉を悪く言われた不知火が本気で怒っているところが結構すき。「欠けてるところも含めて人間」だというかれは、本当に友人を尊敬し、慕っていたのだろう。

人間に手を貸すも拒むも同じくらい愚かだ、と風間は自嘲を込めて呟く。けれどかれは以前一族を救ってくれた人間への恩義を忘れることはできない。それは誇りを失うことになる。その一方で、自分たちの一族を生かしてゆく方法も模索しなければならない。風間ルート以外の主人公から見ると我儘でろくでもない奴だった風間だけれど、かれは沢山の仲間の命を預かっている長として立派に生きている。

それから五年。森で迷った主人公を連れて、新選組に合流すべく連れていくところに場面は変わる。大分とふたりは打ち解けている。新選組を悪く言う風間に怒る主人公を、風間はそれなりに気に入っている。その旅路が永遠に続いてもかまわないというほどに。主人公は結局、それぞれのキャラにとって「飽きない」存在なのだ。色々な面を持っているので驚かされて、予想ができなくて、魅了されてしまうのだ。それは風間にとっても同じことだ。
多分風間は、不知火のように人間を評価することはできないだろう。けれどかれはかれなりに、戦い抜いた新選組に対しての敬意を抱くようになる。少なくとも全ての人間がろくでもないという思想から、かれは解き放たれる。
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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 19:13 | - | - |

高河ゆん「LOVELESS」9 限定版

高河ゆん「LOVELESS」9 限定版

お久しぶりの「LOVELESS」はようやく9巻で、気付けば高河ゆん史上最長コミックスになった。「超獣伝説ゲシュタルト」は8巻で終わったし、「源氏」は8巻で止まってるし。終わったんじゃないよ、止まってるんだよ!待ってる、よ?

ここへきてようやく「ななつの月」の面々が明かされた。元メンバーであった清明以外に、七、渚、律がメンバーであることが判明する。以前ウィズダムリザレクションの中で立夏に会った渚と律は、自分たちはメンバーじゃないと言っていた。食えないひとばかりだし、立夏の怒りをそらして話を円滑に進めるための嘘だったのか、それとも作家が忘れているのか。後者を否定しきれないところが高河ゆんのかなしいところではあるんだけれど、ともあれここまで出ていない三人の名前も出た。
ゲーム内では清明と一番親しくて、かれの死を執行する役目を負っている「4番」の存在も話題にあがっていたけれど、これが誰を意味するのかも謎のまま。

立夏の世界は立夏の我慢によって成り立っていた。暴力をふるう母と庇ってくれない父に耐え、心ない級友の態度に耐え、唯一の救いだった兄の不在にも耐えてきた。「立夏さえこのままでいいと思って」いれば、世界は矛盾や歪を抱えつつも回っていったのだ。けれど草灯が現れて、新しく転校した学校でユイコと出会って、立夏の世界は変わり始める。今まで知らなかった世界に触れて、かれは疑うことを知った。
全てをありのまま受け入れることは美しいかもしれないが、自分の身に降りかかる災厄を掃うことができない。それでは立夏は傷つけられるばかりだ。そのことは、かれを大切に思う人間を苦しめることでもある。だから立夏は疑い始める。なにもかも見ぬふりでやり過ごすことを止める。
かれにとって絶対者であった兄・清明が、自分に沢山嘘をついていたことを立夏は知った。それと同時に、うすうすおかしいと気付きながらも見ないふりをしていな自分のことも、かれは知った。草灯もまた、自分に黙っていることがあると立夏は気づいている。年齢にしては大人びているとは言えまだ小学生の立夏は子供で、ひとを欺くことをしない。だからこそ、欺かれることがもどかしくて悲しいけれど、立夏は逃げない。
疑うことはできるけれど、信じることもまた出来るのだとかれはようやく気付いた。疑うばかりじゃなく、今まで時間を共有する中で得たものや自分が感じた思いを信じる。何を信じて何を疑うのかは、ほかでもない自分が決める。食べ物の好き嫌いや細かな行動まで母に指定されてきた立夏が、何を好んで何を嫌うのか清明に無意識のうちに強制されていた立夏が、自分の意思で選びとる決意をした。

ひとつ謎が明かされれば、また謎は増える。名字だけが明かされた三名のななつの月のうちの一人が顔を出した。そのことはまた、大きな波紋を呼ぶ。
全く終わりに向かう気配がなくて、面白くて楽しいんだけど不安もいっぱい。だけどついていくしかないのだ。

限定版の小冊子はユイコと弥生さんの出てくる学校ネタ。二人が仲良くしている姿に、誘ってもらえないことに拗ねる立夏は普通の小学生そのもので和む。
あとは羽音たらく・千葉道徳の寄稿。まだまだガンダム関連。千葉さんのヘルメットかわいすぎる。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 11:22 | - | - |

大和名瀬「無口な恋の伝え方」2

大和名瀬「無口な恋の伝え方」2

畠山の執拗な愛情表現が山崎の心を動かし、晴れて恋人同士になった二人だけれども、まともな恋愛をするのが初めてという山崎と、山崎が好きすぎてたまらない畠山がそう簡単に落ち着くわけがない。感情が表に出にくい分気づかれないが、山崎はかなり舞い上がっている。それは顔に出ないけれど、態度に出る。何よりも大切にしているはずの仕事に遅刻したり、初歩的なミスを繰り返したりしてしまう。そしてオーナーから、しばらく休職するように通達される。
山崎は度が過ぎるほど真面目だし、他人に対して厳しいけれど、自分に対してはもっと厳しい。恋愛にうつつを抜かして仕事を疎かにする自分を、かれは許せなかった。山崎は頑固で語調がきつく、特に畠山に対しては遠慮がない分きつい態度に出てしまうけれど、かれは決して畠山を責めなかった。かれを好きで、かれと付き合うことを決めたのは自分だ。かれを拒まないのは自分だ。かれを喜んで受け入れたのだ。だから、両立できないのは自分が悪いのだとかれは言う。その排他的なまでに高潔な山崎のスタンスは、畠山にしてみれば少し寂しい。
畠山は畠山で、山崎の地雷が未だに分かっていない。仕事のミスと休職で落ち込むかれに、自分のレストランで働けばいいと畠山は提案する。それはかれにしてみれば、仕事を失ってしまうということに重くなる山崎の心を軽くしてやろうという優しさであり、愛する山崎と同じ職場で働きたいという願いでもある。けれど落ち込んだ山崎にとっては、その慰めは逆効果でしかない。二人ともお互いが好きなのに、なかなかうまくいかない。相手が欲しい言葉や態度ばかりを与えることなど出来ないのだ。

それでも二人は、以前に比べるとかなりの譲歩をする。恋愛中心の畠山と、仕事中心の山崎は、自分の大切なものと相手の大切なものを尊重しあって生きていこうとする。気を抜くとすぐに仕事中であろうと山崎への思いを表にしてしまいそうな畠山に対して山崎が言った、「混同したいのではなく両立したい」という言葉が凄く好きだ。公私共に一緒にいることになる未来のために、今から素地を作ろうとしているのだ。駆け引きや嘘が苦手で、まっすぐすぎるほどにまっすぐな山崎の発言は全て真剣で、殺し文句ですらある。

一難去ってまた一難、いつまでも結婚しない畠山は父親から見合いを勧められる。そこで自分には恋人がいるんだと父親に明かせば、当然連れて来いという話になる。色々と画策するも、畠山は結局、父親に真実を打ち明けようとする。畠山という男の本来の度量の深さが、山崎の正直さにあてられたのかもしれない。こうと決めた畠山は、考えなおせと焦る山崎を強引に連れて実家へ戻る。もはや畠山を止められない、今から本当のことを知られてしまうんだと思った山崎が、そっと畠山の肩に顔を寄せたところがすごく良い。常にまっすぐ前を向いていたかれでも、お世話になった畠山の父の顔は怖くて見られなかった。大切だからこそ失うのが怖い、嫌われるのが怖い、情を知って怖さを知り、畠山に頼る山崎の弱さがいい。

忙しさと頑なさによって感情を凍らせていた山崎が、畠山によって少しずつ軟化してゆく。知らなかった感情を教わり、忘れていた気持ちを思い出す。人間らしくなっていく過程が微笑ましい。

そして巻末の四コマは相変わらずのクオリティ。面白かった!おかっぱ男子大好きだけど、おかっぱを差し引いてもやっぱり大好き!
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 21:49 | - | - |

斑目ヒロ「いとしい悪魔」

斑目ヒロ「いとしい悪魔」
地味目の優等生秋吉は、強面だけれど心は誰よりも優しく穏やかな今井ともども、成瀬と同じ大学に入学した。お人形のようだった外見から一転してワイルドになった成瀬は大学に入ってからも男女問わずにもてまくり、とても忙しそうにしている。相変わらず成瀬の支配下に置かれている秋吉だったが、忙しい成瀬と少しずつすれ違い始める。

「かわいい悪魔」<感想>の続編。あちらが高校生編だったのに対して、こちらはみんな揃って大学生になった。
男子高校生の庇護欲の対象となっていた高校時代、休み明けの急激な変化に戸惑う友人たちの哀しみの眼差しを受け流していた高校時代とは違い、颯太の大学生活はとにかく手放しでもてた。女子のみならず、圧倒的な存在感で君臨するかれに仕えたがる男子も沢山いた。そんな中でも颯太は秋吉を特別扱いし続けた。そのたびに耳に入る心ない連中の嫉妬や悪意の言葉に傷つきながらも、秋吉だって満更ではなかった。皆から憧れられる男が自分を特別扱いする、他のだれにも見せないような態度や言葉をくれる、そのことは、本来そこそこに自意識過剰な秋吉を気持ち良くしてくれる。

しかし颯太は毎日非常に忙しいようで、当分は一緒に過ごす時間もろくにとれやしないのだと秋吉に言ってくる。珍しく殊勝なかれの発言に、秋吉はいくら恋人とはいえ異常なまでに自分を独占したがるかれから解放される喜びを覚えた。男の子と遊ぶことも、女の子と飲みに行くことも、ハメを外すことも、全部自分の思うままになる。
颯太の古くからの友人という、派手な男に誘われるまま、秋吉はコンパに参加し続けた。男女問わず色々なひとと酒を飲んで会話をする、酔ってくだらないことをしてはしゃぐ、そんなことがこれほどまでに楽しいとは思わなかった。かれは新入生らしく、大学生活にハマった。
その一方で孤独もある。颯太からは連絡もなく、かれの噂を聞くたびに胸が詰まる。いつもならば何かと難癖をつけて自分を連れ帰り、好きなように貪るのに、颯太はちっとも現れてくれない。
徐々に不安になり始めた秋吉は、きれいな女性と連れ添って歩く颯太を見てしまう。自分に会う時間はないのに女と会う時間はある、そして女性が自然に秋吉の腕に手をかけるシーンのあまりの自然さに、かれは爆発した。颯太を思って泣いてしまう秋吉が切なくていい。

すれ違いが始まるのがいきなりならば、収まるところに収まるのもまたいきなりだ。ここしばらくの放蕩っぷりに怒った颯太は公衆の面前で二人の関係が分かるような会話をして、秋吉を丸めこむ。そのあとはマンションに連れ帰って、心配させた分とばかりにお仕置きをしようとする。いつもならば、颯太のテクニックに翻弄され、威圧感のある美しい顔に押されて終わるのだけれど、この時ばかりはそうもいかなかった。
だってかれだって寂しかったはずだ。連絡もとれず構内ですれ違っても気づいてもらえず、どころか自分が一生かかっても勝てるはずのない美しい女性と中睦まじく過ごしている様子を見て、絶望するほどには。そのことをかれは言う。押し倒されて脱がされても、秋吉の気持ちの高ぶりは切り替わることがない。泣きじゃくって颯太に甘えた愚痴ばかり繰り返す様子は切なくて可愛い。これまで秋吉が散々耐えたことをかれは吐きだした。そしてその無意識の罠に、颯太はかかってしまうのだろう。惚れた弱みを抱えて強く出られないのはお互い様なのだ。
暴君そのものでまったくもって褒められたところのない颯太が、秋吉にだけは気を回す。秋吉の到底無茶な我儘や嘆きを聞いて、それを満たしてやろうとすらしている。めったに見られないかれの本気に、このまま行くと秋吉は呑みこまれるだろう。

強面の友人ひさしくんと、颯太の真ん中の弟の話は前巻で多少ほのめかされていて気になっていたのだが、今回も短編でネタになっているくらいだった。勿体ない!まだか!
シリーズの色であるアホっぽいラブコメ、という芯はぶれないまま、楽しませてもらった。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 00:20 | - | - |

シルフ 2010年01月号

シルフ 2010年01月号
もはやシルフの半分は乙女ゲーのコミカライズでできている気がする。

・「腐女子ッス!」…相変わらず面白い。元々レイヤーのユキに誘われてめぐみと一緒にコスでイベントに参加したえりだけれど、それぞれが単独行動をするようになるといきなり人の目が気になる。美少女という設定のキャラのコスプレをしている彼女は、十人並みの自分の容姿がいきなり恥ずかしいものであるように思えて、耐えられなくなる。
思春期の自己愛と自己否定は紙一重だ。しかもえりは三人の中でも一番自己肯定が苦手なタイプで、頭の回転が速い分落ち込みだすと止まらない。おたくならではの自意識過剰も相まって、もう大変。「腐女子ッス!」はこういう心のすごく柔らかい部分を表現することに非常に長けている。自分でも嫌になるくらい繊細で、コントロールできない過敏な神経を見事に表している。三人ともすっごくかわいい!

・「薄桜鬼巡恋華 土方歳三編<前編>」…土方ルートのコミカライズ。とにかく話が細切れで、物凄い速さで進む。一応作品の前に設定の説明とキャラ紹介があるのだけれど、それだけを読んでこの漫画を読んだら何のことやらわからないだろう。いきなり風間との戦いのシーンになり、土方が変若水を飲んで羅刹になるあたりの話がダイジェスト的に描かれていた。
物語のコミカライズと言うよりは、名シーン集という感じ。漫画が良いとか悪いとかではなく、さすがに無理がありすぎる。

・「薄桜鬼巡恋華 沖田総司三編<後編>」…また別の作家が描く沖田ルート、こちらは後篇。病気を松本先生に申告された後から後編は始まる。後編だということもあってか、こちらの方が読み応えはあった。細かい設定などは徹底的に省かれ、病の中で沖田がどのように自分の立場を考えているのか、ということに話が終始する。暴力的なほどの本音を主人公に投げる沖田の生きざまが良い。終わり方には驚いたが、コミックスとしては良いと思うので、折角なら余裕のあるページ数で読んでみたかった。

・「DearGirl〜Stories〜響」…扉絵面白かった。オノDの作る雪だるまの顔に悪意を感じる…。どれくらい細かいお題が来ているのかは分からないけれど、一枚絵の至るところにさーやはラジオのネタを盛り込んでくるので感心する。
物語は暗黒響の登場によって揺れる響二人の話。響の特徴は、あんなふざけたラジオから生まれたふざけた漫画なのに、ストーリーは非常にマトモで健全で乙女向けだということだ。そのまっすぐな青臭さには正直ついていけないというか、素直に入りきれないのだが、芯のぶれないいいストーリーだと思う。
あとはゲームソフトの紹介や、電フェスのレポートもあった。

・付録 ドラマCD「DearGirl〜Stories〜響「響特訓大作戦!」ガチde声だけ体験版」
15分ほどの音声ドラマ。
いつものヒロC、オノDだけでなく、ゲームの主人公であるいずみも加わった三人の響のもとに、とある来客がある。アヤと名乗る小学生で、大切にしていたクマのぬいぐるみがなくなったから探してほしいと依頼してくる。
アヤはおとなしいけれど明るく素直な子供で、いずみたちが優しくするととても嬉しそうにする。聡明な彼女はきちんとお礼も言う。その一方で、子供らしさが足りない部分も見える。父亡きあと女手ひとつで自分を育てるべく仕事に精を出す母を思って、我儘を言わないのだ。嫌だとか寂しいとか、そういう感情を母の前で出さない。

依頼人の小学生を金田朋子が演じる、と聞いたときは思わず噴き出しそうになったけれど、実際に聞くと当然のことながらすごく可愛くて可哀そう。クマの所在と母親の本音を知ったあとも、彼女のスタンスは変わらない。お母さんが大好きで大切。だけど、だからこそ寂しい。お母さんが好きだからこそ、一緒にいてほしい。とうとう限界まできたのか、気持ちを吐き出すうちに泣き出してしまうあたりがとっても可愛かった。

こちらも漫画同様に、健全な良い話。響の活動をすべく「オノD!」と呼ばれたオノDのお返事は、もちろん「もす!」だった。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 21:46 | - | - |

木原音瀬「夜をわたる月の船」

木原音瀬「夜をわたる月の船」
営業部に所属する河瀬は、営業部への移動を引き換えに上司の柴岡から肉体関係を迫られる。呑まざるをえない条件に屈したかれは柴岡と寝るも、約束したはずの日に移動が決まったのは、河瀬ではなく、柴岡だった。遠く離れた北海道に転勤してしまうかれを憎むあまり、河瀬は柴岡を路上で殴り、突き飛ばされたかれは車に轢かれてしまう。

河瀬は普通のサラリーマンだ。希望とは違う部署に所属しているかれは、それなりに不満を抱きながらも目の前の仕事をそれなりにクリアしている。契約が取れれば嬉しいし、同僚や上司ともそれなりに仲良くやっている。けれどやっぱり第一希望は花形と言われる企画部で、そこにもし入れたら、きっと自分はなにかいいものを作れるだろうなんてぼんやり思っている。抜きんでた才能や、他のひとよりも誇れる努力などはないけれど、取り立てて悪いこともない。有能で顔のきく上司が自分を気に入っていると知れば、もしかして口利きをしてくれないかと思うことは別に珍しくない。浅はかでずるいかもしれないが、人間なんだからそういう面があるのは至極普通だ。
そういう河瀬の気持ちに柴岡は付け込んだ。移動したくばセックスをしろ、という文句だけを見れば、かれにも断る余地があるようだ。しかし柴岡は更に続けた。断れば自分が定年退職するまでは絶対に移動させない、と。河瀬はその裏にあるものを予想した。もしかして順当な出世すらできなくなるんではないだろうか、かれの采配によってもっと悪い何かが起こるのではないだろうか。
それは結局逃げられない選択肢だった。犯される気分でベッドに横たわった河瀬はそこで、柴岡の求めるものを知る。肉体だけで言えば、犯されたのは柴岡だった。けれど、たしかに河瀬は犯されたのだ。肉体的な怪我も痛みもかれにはない。ただ、確実にかれの心は恐怖に支配され、貪られて凌辱されたのだ。それはたしかに暴力だ。終わったあと、ホテルから逃げ帰る河瀬の描写がすごく生々しくて切なくていい。

そんなことまでしたのに、その月に移動したのは河瀬ではなかった。柴岡が、北海道支社の支社長として、遠くへ行くことを示した紙が張り出されているのを見て、河瀬をぎりぎり保っていたものは切れた。騙された、馬鹿にされた。だからと言って誰かに、このことを言うわけにはいかない。40過ぎた男の上司と寝たのに移動の願いを聞いてもらえなかったなんて、言えるはずがない。しかもかれはさっさと遠くへ行ってしまう。
怒りがピークに達した河瀬は柴岡を尾行し、殴り付けた。そのはずみでかれの体が飛ばされ、そこに車が来た。かれは轢き逃げに会い、大きな怪我を負った。河瀬も逃げた。柴岡は河瀬のことを、誰にも言わなかった。

そして一か月後、経験も実績もない河瀬に企画部への異例の移動辞令が出される。

二人の再会は六年後だ。企画部で実績をあげている河瀬は、上司の提案で北海道に出張に出る。当然ながら支社長である柴岡と顔を合わせることになる。再会した柴岡は、六年が過ぎているとはいえ未だ40代であるのに、真っ白になった髪を染めることもなく後ろに流し、作業服のジャンパーを着ていた。
数日の出張期間に、いくつかのトラブルの所為で河瀬と柴岡は何度も二人きりになる。宿泊で、車内で、何度も二人きりになる。その度に河瀬は、単なる有能で人望のある上司でも、自分の上に跨ってきた男でもない柴岡を見る。とにかく死にたがっている、なにもかもに嫌気がさしている、すべてを終わらせたい衝動に駆られている柴岡を。皮肉屋で嘘ばかりつく柴岡を。外でのきちんとした姿とは全く違う、なににも頓着しないだらしない柴岡を。かれへの怒りも恨みも消えたわけではないのに、河瀬は柴岡が気になって仕方がない。それは恋のような優しい感情ではなく、不可解なもの・未知のものへの恐れと好奇心だ。

本社に戻ったあと、河瀬は柴岡の姿を社内で見る。退職の挨拶にきていると知った河瀬の心はまた揺れる。かれがこの先の未来を全く予定していないと、ただもうあとは死ぬだけのつもりでいるのだと知ってしまえば放っておくわけにいかない。酔って歩道橋から落ちようとするかれを引きとめ、家に連れてかえり、舌を噛み切ろうとするかれを拘束する。視力を失ったかれの世話をする。なぜ自分がそんなことをしているのか分からない。一度は本気で死ねばいいとすら思った男だ。今だって恩が有るわけでも情があるわけでもないのに、なぜかかまってしまう。かれが勝手に死んだところで困るわけではないと頭で思いつつも、自分が手を離せば死んでしまうかれの手を離せない。

開きなおった柴岡の描写がとにかく秀逸だった。死の匂いに包まれたかれは気だるげで、なにもかもを疎んでいる。生きることを憂いている。本当に活きることに一切の執着のない柴岡に、読んでいてなんども背筋がぞっとした。とにかく死にたがるかれの行動を制限すべく、河瀬はマンションの扉に、内側からは開けられない特殊な鍵を設置した。出ていけばかれは死ぬ。だから、出ていかせない。分かっていて死なせたなんて、後味が悪すぎるからだ。

自分がなぜこんなふうになったのか、理由だけは頑なに話そうとしないかれの真実を、河瀬は探り始める。あらゆるところから得たヒントを柴岡に投げるも、かれは飄々と嘘をつくし、動揺すらしないので河瀬には見抜けない。かれに翻弄されることにもかれの面倒を見ることにも限界が来た河瀬は、真実を話すよう柴岡に言う。柴岡は答える。真実を話すから、その代わりに「出ていけ」と言ってくれと。それは、「死ね」ということと同意だ。いくら柴岡の目が見えなくなっているとは言え、本気を出せばかれだって逃げる機会が全くないわけでもない。けれど柴岡はそうしなかった。河瀬の隙を突いてこっそり脱げるのではなく、河瀬の所為で死ぬんだと、河瀬が最後のひと押しをしたのだと、かれに思い知らせたかったのだ。悪趣味にもほどがある、最低の男だ。なのにどうしてこんなにも魅力的に見えるのだろう。

母親との過去、彼女の死と遺言の存在が柴岡を狂わせていた。なんでもないことのようにさらっと、謳いあげるようにかれは言った。何故かれがこんなにも暗闇を怖がるのか、という理由もここで明かされる。
柴岡が最初に暗闇が怖いといったのは、最初に二人が食事をした日だった。帰り道、暗いのが怖いと歩みを緩める柴岡に、河瀬は若干苛立っていた。終電が近かったからだ。だから河瀬はかれの手を乱暴に引いて歩いた。それはある意味利己的な振る舞いだったけれど、柴岡にしてみれば、河瀬が暗闇から連れ出してくれたように映ったかもしれない。とても普通のサラリーマンであるかれの普通さが、柴岡を無間地獄から助けてくれるように思えたのかもしれない。月の船のように、暗闇を照らして導いてくれる存在にみえたのかもしれない。

死にたがる男と、かれを死なせたくない男の攻防はそのあとも続く。理論がだめなら肉体でかれを繋ぎとめているうち、情も沸く。河瀬は優しい言葉で根気よく柴岡を説得した。明るい未来を、死以外の未来を提案した。けれど、柴岡の傷にはまだ先があり、非常に根が深い。何故柴岡が白髪を染めなかったのかも明らかになって、苦しくなる。
口を開けばろくなことを話さない、質問にまともに答えない柴岡の口を塞ぐ方法を河瀬は知ってしまった。セックスに溺れる柴岡と、柴岡と寝ることにハマり始める河瀬のやりとりはひとつも微笑ましいところがなくて、厭世感に満ちていてすごく良い。柴岡の傷は永遠に癒えないし、河瀬はたぶん永遠に柴岡を安心させられない。だけど、今抱き合うことはできる。抱き合うことしかできない。

このハッピーエンド9割のBL市場において、本当にラストが予測できない数少ない作家のひとりである木原音瀬が書いているからこそ、余計に先が気になって仕方がなくなる。はらはらしてページをめくる手が止められない。ラストにどんなどんでん返しがあるのか、と期待してしまう。どんなに心を抉るような言葉で締めてくれるのか、どんなに後味の悪い作品を提供してくれるのかという楽しみもある。
そういう意味ではラストは地味だった。悪くはないけれど、中盤が良すぎただけに少し肩すかしかもしれない。

でもこの柴岡という、生きることに全く興味を示さないひどい男の醸し出す雰囲気がとても好きだ。気だるくて猥雑で自暴自棄でワイセツでもある。かれの母親に対する情を思えば苦しくもなる。かれは確かに、歪んだかたちではあるけれど、最悪のきっかけではあったけれど、母を愛していたのだ。
救われる気もない男と、かれを救いたいけれどおそらく救えない男の哀しい物語。濃厚で陰鬱で面白かった!
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 23:56 | - | - |

博多旅行二日目

二日目
各々起きてだらだらしつつ、残ったケーキを朝ご飯にして、出発準備。他のひとが昨日使った帽子をかぶったりしてお出かけ。

この日の博多は小雨。全員が狂ったように派手な傘を指していて笑った。あと我々、他の誰かから貰ったものを使いすぎである。なにこの気持ち悪い集団。

ロッカーに荷物を入れて、雨なのでキャナルシティまでバスで移動。
ひとまずご飯、に選んだのが博多芳々亭。

もつ煮込みちゃんぽんとオプションの黒豚角煮のばくだんおむすび。ひとりずつ鉄鍋で来る。ちゃんぽんの中はもやし・牛蒡・にら・キャベツ・もつ。甘めの出汁で麺が硬くて美味しかった。ここでもモツ美味しい!

おにぎりの断面。黒豚角煮とタレを和えたご飯の真ん中に半熟の煮玉子を入れて、おにぎりにするという、美味しくないわけがないメニュー。美味しかった。ただ、玉子とご飯の大きさからみて分かる通り、かなり大きい。二人でひとつにすればよかったんだけれど、空腹だったことと行列をクリアしたあとだったということで気持ちが高ぶってしまったのだ。全員が、一瞬そう言おうかと思ったけど言わなかった、とあとで言っていた。そして食べられないよね、といいつつ全員完食。

そのあとはひたすらウィンドーショッピング。そしてなぜか博多くんだりまできてカチューシャを買ったわたしです。

お土産を買うべく駅まで戻って、散々試食してまたお腹が膨れて、結局最終的には駅弁を買う気力を失ってケンタッキーでクリスピーを買って新幹線に持ち込んだ。別に何の具体的な予定もない厨の結婚式の妄想話を延々して、新大阪駅でお別れ。次に揃うのはいつなんだろうか、さっぱりわからないけれどたのしかったー。

自分の家から博多までなら新幹線一本で行けるのに、皆で合流して行くために一度わざわざ新大阪駅で下車して、割高な乗車券を買った揚句、帰りもまた一端下車するので夜行バスでしか帰れない姫南さんとか、夜バスで帰る姫南さんにあわせて自分も夜バスで帰るひーたそとか、ほんと馬鹿ばっかりだと思うけれど、共通のバンドがなくなったときから我々の心中にあるスローガンは「無理しないと会えない」なので、そんなことしなくていいよ、とは言わない。無理しないと会えないから、無理をする。無茶でもある。お互い生活や仕事とすり合わせて、できる限りの無理はしましょう。全部笑い話。


台湾に行ってきたひーたそから貰ったおみやげ。白菜ストラップ。白菜きらいだけど愛でるよ!

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posted by: mngn1012 | 日常 | 23:30 | - | - |