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2009.05.31 Sunday
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桜城やや「夢結び恋結び」2
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桜城やや「夢結び恋結び」2
年齢差のある二人の物語の場合、大体先に愛情表現をするのは年下である。年上ははるかに以前から相手のことを思っていたけれど我慢していた、という場合と、まったくそんな気がない場合の両方があるけれど、大抵年下からのアピールに戸惑っている。戸惑うだけではなく、その気持ちがおさまって、以前のような友情あるいは疑似兄弟関係に戻りたいと願っていることが多い。
この話もまさにそれだ。青の露骨な愛情表現に隆明は動揺し、うまく対応しきれない。弟同然に、昔からずっと可愛がってきた青がいつの間にか恋をするようになっていたことだけでも驚きなのに、その相手がよりにもよって自分である。そんなばかな、と言いたくもなろう。しかも単なる憧れではなく、肉欲込みで好きなのだと分かってしまったから余計に複雑だ。
ランドセルを背負っていた青のことも、ついこないだのように思いだせる隆明は、当然ながら青に恋などしていない。だけれども、なぜか胸がざわつく。消化しきれない思いがある。そのことに苛立ってしまう隆明は、消化できない自分にではなく、消化できないようなことを言い出した青に苛立ってしまう。
青の気持ちを、気の迷いだと隆明は言った。そのことに青は傷ついてしまう。本気にしてもらえない。恋愛感情の有無以前の問題だ。それでもかれは責めたり怒ったりせず、必死で好きだと言い続けた。どんなに邪険にされても隆明のもとへ通った。しかし、とうとう自分が煩わしいのだと隆明に伝えられてしまう。かっとなって言いすぎてしまった隆明の言葉に、青は押し黙って、そのあと謝った。眉をハの字にして落ち込んだ青の表情はどこかコミカルだけれど、普段表情豊かなだけに不憫でもある。わたしはこの手の、気持ちを信じてもらえない・とりあってもらえない子の悲しみがとても好きだ。切ないシーンが大好き!
無表情のまま去った青は、その後数日を普通に過ごす。友人と談笑し、ほかの学校の女の子とも普通に遊び、だけれども、どこかひとつネジが飛んで行ったように壊れている。どれだけ食べても腹が膨れないんだと、小さな体にものを詰め込んで微笑む姿が痛々しい。高校生にはとんと見えない姿だからこそ、余計に気の毒だ。
青を自分から振り払った隆明は、失ったものの大切さに少しずつ気づき始める。かれが失ったものは可愛い弟分なのか、それとも自分を好きだと繰り返してくれるひとりの人間なのか。じれったいけれど、少し進展して、以下次巻。
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2009.05.31 Sunday
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堀田きいち「君と僕。」7
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堀田きいち「君と僕。」7
「ぼくたち男の子」が可愛かった。
弟・冬樹とその彼女間宮さんがキスをしたと聞いて荒れ狂う春の姿は、兄というよりはお母さんである。彼女のことが好きだから大切にしたい気持ちと、好きだからもっと先に進みたい気持ちの間で揺れる冬樹と、その両方の気持ちを分かっていて、でもうまく対応しきれない間宮さんがいじらしくて微笑ましくて甘酸っぱい。結局若さの所為か冬樹は若干暴走してしまい、その速度についていけなかった間宮さんが傷ついてしまうんだけれど、それもやっぱり好きだから、なのだ。彼女は好きだからこそ嫌だと言えず、試す前から嫌だの跳ね除けるほど嫌でもなかったんだろう。
そんな二人の気まずい状況を見た春が、カラオケボックスでマイク越しに怒るシーンがとっても可愛かった。基本スタンスは心配性の母親だけれど、やっぱり春も男の子で、そしてお兄ちゃんだなあ。冬樹にしてみれば信じられないほどの辱めだったけれど、でもそれも真実だし、間宮さんはそれを聞いてちょっと立ち直ったりもしたし。彼女がいない四人を差し置いて、どんどん弟は成長するのであった。
メリーと千鶴のその後も収録。メリーが千鶴を避けているのは嫌いだからじゃなく、どうしていいのかわからないからだ。だからと言って、千鶴の本音を知った彼女がかれを意識し始めて、恋が始まるかというとそうではない。もしかしたら今後はそうなるのかもしれないけれど、現段階では、メリーは相変わらず春が好きだ。そういう、一足飛びになにもかもが上手くいってしまいすぎないところがいい。そんなに簡単に気持ちって変わらないし、そんなに簡単に恋愛って上手くいかないし。打算のない高校生ならば、余計に。
祐希がバイトをする話もあった。というかなんでこの子たちは普段からバイトしていないんだろうな、むしろ。
変わらない日常の中にも、もうすぐ訪れるであろう変化のにおいが描かれている。すぐそこまで来ている変化の足音を感じながら、それでもかれらは平凡な日常を堪能している。ゆるくていい。
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2009.05.30 Saturday
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六青みつみ「寄せては返す波のように」
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六青みつみ「寄せては返す波のように」
アストラン研究所の所長であるエルリンクは、ある日、一人の清掃員を呼び止めた。自分の愚かさが原因で去っていった、誰よりも愛していた少年・ショアによく似たその清掃員・ルースのことが気にかかったエルリンクは、かれを気まぐれに自分の部屋に呼んだ。そしてルースが一定時間しか記憶をとどめられない記憶障害を持っていると知ったエルリンクは、かれをショアの身代わりとして扱うことを決める。
「蒼い海に秘めた恋」<AA> のスピンオフ。前作で主人公だったショアに手酷い人体実験をした挙句、抗体ができたらあとは全く構わなくなった、エリィことエルリンクの物語だ。前作ではかなりひどい人間として描かれ、最終的には不器用なかれなりにショアを大切に思っていたことが判明したエルリンクは、相変わらず有能な所長として日々を送っている。しかしかれの心はショアを失ってからずっと満たされないままだったのだろう、髪色と姿かたちが少しにているルースを見かけたエルリンクは、大勢いるい清掃員のひとりでしかないかれに部屋に来るよう命じた。全く違う人間だとわかっていて、少しばかり見た目が似ているだけでは何の意味もないとわかっていて、それでもかれは自分の暴走を止められない。それほどまでにかれは「ショア」に飢えていたのだとわかる。
しかしいくらエルリンクが権力を持っていて、ルースがショアに似ていたとしても、赤の他人であるルースをショアの身代わりにできるはずはない。聡明なエルリンクはそのことをきちんと把握していた。寧ろ最初にかれを誘ったときのエルリンクは、ルースと二人で時間を過ごすことで、かれとショアが全く別人だと思い知って、自分に諦めさせるつもりだったのだ。
だが、ルースが抱えている障害を知ったことで、エルリンクの考えは変わる。ルースは二年前の事故が原因で、それ以降、記憶を一時間程度しか保てない状態になってしまったのだ。二年前までに覚えたことは忘れていないので衣食住などの日常生活は営めるけれど、それ以降に出会った人や知った場所などについては、その記憶から一時間ほど離れていると忘れてしまう。全ての事情を知っている養父や仕事仲間の計らいでなんとか清掃員としてやっていけているというところだ。そのことを、義理の息子が呼び出されたことを心配した義父のゴドウから聞かされたエルリンクの頭を、残酷な考えがよぎってしまう。
どうせ忘れるならば、ショアとしてかれを扱っても構わない、と。
かれは忘れるのだから傷つかない。傷ついても、その傷はすぐになくなる。癒えるのではなく、なかったことになる。しかもそのことを口外される心配もない。そんな非人道的な行動に出てしまうほど、エルリンクは乾いていた。
エルリンクは何度もルースを部屋に呼んだ。部屋に入るたびに「初めまして」と挨拶するルースに、エルリンクは三つの命令を下した。自分のことをエリィと呼ぶこと。普段の「俺」ではなく、自分のことを「僕」と呼ぶこと。ショアと呼ばれても黙っていること。有無を言わせずに毎回そう告げて、かれはショアとひとときを過ごした。過去の仕打ちを詫びて、赦しを乞うて、今後の楽しい計画を話した。それらにルースは、会ったこともないショアのふりをして返事をしてくれた。
ルースは確かに記憶を保てない。保てないからかれの心についた傷は後をひかないけれど、その分、毎回かれはまっさらの心に傷を受けた。いきなり他人のふりをすることを求められただけではなく、自分の記憶が保てないことを利用されていることもかれは分かっていた。ショアの名前で呼ばれるたびに傷つくルースを思うと胸が痛い。しかもかれは、今はもう傍にいないショアを思い続ける寂しそうな男に、少しずつ惹かれていった。その記憶を手帳に記すことで、読みかえすたびに失恋するはめになった。
このルースの抱える切なさがとてもいい。前作では、真実を話したいのに頭に埋め込まれたチップの所為で話せないショアが、話せないがゆえにグレイに酷い扱いを受けるという展開が思いっきり切なかった。言いたいのに言えない。好きなのに言えない、好きだから言えない、そういうもどかしい健気な純情が沁みる。前作に比べると今作はその胸が苦しくなるやりとりが短かったけれど、それでもルースがひどくかわいそうでいい。
この作品は基本的に、実在しない、ファンタジックな世界観の元で生きているひとびとの物語だ。だからこそ起こる事件が、今回もストーリーに絡んでくる。ショアの身代わりとしてではなく、ショアの身代わりを演じてくれた心優しいルースに惹かれ始めていたエルリンクも、事件に巻き込まれることになる。
少しずつ育んできた優しい時間と感情が、それらの事件によって遮られる。穏やかな日々を過ごしている場合ではなくなり、更にそこにショア本人が現れたことで、ルースはまた揺れる。身代わりだった自分は、本人が登場すれば当然用無しになるとかれは思っているのだ。
心の傷のみならず、肉体も生命の危険に晒されてしまったルースは、限界ぎりぎりのところでエルリンクの本音を知る。
その後の話を書いた短編「跡白波」がとても良かった。
ルースはそれまで、決して弱音を吐かなかった。自分が、自分の責任ではなく障害を負ってしまったこと。それによって夢を諦めなくてはならず、ほかの人の何倍も努力し続けなくてはならないこと。他人の仕事を増やしたと謝ったり、悪意あるひとびとに嘲笑されること。そういう不条理なこと全てにかれは耐え続けてきた。これからも、耐え続けなくてはならないのだ。そのことにかれは一度も不平を洩らさない。毎朝起きて、自分が記憶を保てないことを知って、それでもかれはにこにこと仕事を全うする。そういう真っ直ぐで明るいかれだからこそ、エルリンクはショアを過去にして、ルースを愛することができたのだ。
そんなルースが、この話で初めて自分の境遇を嘆く。エルリンクと抱き合って、幸福をおぼえたかれは、「忘れたくない」と泣いた。今感じている幸福を、自分が覚えていられないとかれは知っている。こんなにも幸せなのに、こんなにも嬉しいのに、それすら忘れてしまうことが哀しいとかれは初めて弱音を吐いた。エルリンクはその言葉に、普段いつもにこやかにしているかれの本音を知る。忘れられてしまう自分よりも、忘れてしまうかれのほうが哀しいのだと、かれは知ったのだ。
そしてエルリンクは、以前繰り返したような残酷な三つの条件ではなくかれに毎朝する初めての挨拶のときにかける言葉を考える。この言葉がとてもありふれていて、それだけに沁みた。エルリンクはショアを失ってからずっと飢えていた。それはショアにではなく、自分がショアに対してはかけられなかった愛情を注げる相手に、だ。本当にいとしく思って、優しくしたいと考えられる相手に。そしてその愛情を受け止めてくれる相手に。
実は年齢差がとってもある二人なのに、それがあんまり活きていなかったのはちょっと残念だったけれど、読み応えがあって面白かった。とにかく前作が物凄く好きなので、併せておすすめ。
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2009.05.30 Saturday
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みろくことこ「運命は僕の隣」
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みろくことこ「運命は僕の隣」
家庭の事情で途中から高校の寮に入ることになった都築は、同室になった明るくて皆に可愛がられているカナがなぜか気に食わない。本人はいい奴なのだが、かれがほかの人間にいいように使われているような気がして、苛立ちが抑えられない。
高校生の割にはカナがちょっと幼なく見えるけれど、これまでのショタショタしたキャラに比べると大分大人っぽいかも。
年齢のわりに冷めた思考をもつ都築は、まだ幼さの残るカナとは合わないと、初対面のときから思っていた。しかしテンションが高くて悪気のない子供なのに、何だかんだでひとに気を使えるカナのペースにかれは次第に巻き込まれていく。どうして自分がかれと一緒に行動するのかと自問しながら、それでも故意に離れるようなことはしない。
そして一番近くにいるからこそ、自分の知らないカナの行動にすぐ気付いてしまう。カナが普段誰とどういう風に過ごしているのかを知ってしまう。そのことに苛立つ自分の真意には気付けないまま、都築はただ浮上した衝動に突き動かされてゆく。
自分が何故こんなにもカナを意識しているのか、都築は分からない。自分以外の人間と楽しそうにしているカナを見れば、傷つけて脅えさせたい残酷な衝動に駆られる。誰かに都合よく使われているカナを見れば、簡単に利用されるなと苛立ち、使っている相手には更に腹を立てる。そういう感情のままに動いてしまう自分の所為でカナは驚くけれど、それを悪いとは思えない。後悔と自己嫌悪はあるけれど、でもどうしてもその気持ちを止められない。
カナの方は都築の一貫性のない行動に振り回されながらも、なぜか悪い気はしていないようだ。可愛い見た目とは裏腹に、都築よりもよっぽど胆が据わっていて男らしいカナは、都築の行動に怒ったり戸惑ったりしつつもかれの傍を離れない。可愛い顔して男らしい受ってすばらしい。
まともな恋愛自体が初めて同士のふたりは、気持ちを自覚するのにも膨大な時間がかかる。その気持ちを口に出すのにも、更に時間がかかる。都築とカナが距離を縮めていく間にも、様々な事柄が起きる。試験や中学生の学校訪問、夏休みや家族との問題。そういう、普通の高校生が避けては通れない事柄をひとつひとつ、時には一度にいくつもクリアしながら、かれらの相互理解は深まってゆく。普段は見られない一面に気持ちは募るばかりだ。しっかりしたところを見れば好きになるし、情けないところを見てもやっぱり好きになる。始まったばかりの手探りの恋愛は大変だけれどかわいらしい。
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2009.05.30 Saturday
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ドラマCD「夜ごと蜜は滴りて 2」発売決定
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ドラマCD「夜ごと蜜は滴りて 2」発売決定
…びっくりした。
第五弾の「紅楼〜」には浅野以外にレギュラーキャラが長男と成田しか出てこないので(クラウディオと道貴もちょっとだけ出るけれど)、さすがにCD化しないのかな、新作が一向に発売されないから打ち止めかな、と思っていたらまさかの展開。しかし収録される3タイトル全部、次男がひたすら可哀想な話だなあ。しかも全部深沢と和貴がとらわれていてじめじめした不幸せそうな幸せ話。聞いたあともすっきりしない、じっとりした相互依存カップルの日常を見せつけられて不快になりそう。そこが好きなんだけど!
早く六作目でないかなー。8000円超えるドラマCDを買って、次のCDも予約するつもり満々で、すごくいいこにしてまってるんですけど。焦らしプレイに心が折れてきました。
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2009.05.29 Friday
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月組公演 三井住友VISAミュージカル『エリザベート』−愛と死の輪舞−@13時公演
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トート:瀬奈じゅん
エリザベート:凪七瑠海
フランツ:霧矢大夢
ルキーニ:龍真咲
ルドルフ:遼河はるひ
エリザベートが好き過ぎて行って参りました宝塚大劇場。人生初宝塚!用語がいろいろわからないので適当!すいません!
二階の後方の席でした。
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2009.05.28 Thursday
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ユキムラ「おいてけぼりブルース」
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ユキムラ「おいてけぼりブルース」
課長に昇進した国吉は、同期入社したあと退職してカフェを経営中の平山と曖昧な関係を続けている。もともと自分から誘って始まった関係に自信がもてない国吉のもとに、ある日上司から見合い話が持ちかけられる。
著者のこれまでの作品で一番面白いと思った。これが麗人の力か…。麗人は他誌とは違って、敢えて型にはめないことで麗人の色を出しているような印象がある。実際どうなのかは勿論知らないけれど、NGが少なそう(なさそう)なので、そのことが良い方向に転がっているのだろう。
そんなこんなで面白かった。サラリーマンとしてばりばり仕事をして、上司からも部下からも慕われている国吉は、同期の中でも出世が早かった。課長に昇進したかれは、平山が営むカフェに報告にやってくる。それは、嬉しいことがあったときに、かれが一番伝えたいのは平山だということだ。
同期ならではの、長年付き合っている友人ならではの会話のあと、二人はそのままベッドになだれ込む。気がきつそうではっきりした男前の国吉が受で、ほやほやしたパーマ頭で性格も口調も行動ものんびりした平山が攻というのがいいじゃない。大体こういう場合、わたしの希望する受攻は反対であることが多いので、それだけで内心ガッツポーズである。
何度も繰り返されたその行為に、国吉は満足と、同じくらいの不満を覚えている。自分は平山のことが好きだけれど、かれの心は読めない。言葉にされたことは一度もないし、何より、この関係が始まったきっかけが、国吉を不安にさせる。
誰にも、一番仲が良かった自分にも相談せず、平山は脱サラすることを決めた。何もかもが決定してからそれを知った国吉は、そのショックと酒の勢いで、なし崩しにかれと関係を持った。持つように、仕向けた。思えばそれは、玉砕覚悟の足掻きだったのだ。アルコールで朦朧とした意識の中で、もう二度と会わないかもしれない元同僚に、いっそ振られてしまえば国吉の気は晴れたのかもしれない。しかし平山は、いとも簡単にその誘いに乗った。そのことで、皮肉にも国吉は、思いつめていた自分とかれの間にある感情の温度差を認識してしまった。
そんなところに舞い込んできた見合い話。平山のことが好きな国吉は、それでも少し揺れる。結婚することにではなく、もしかしたらこのことがあやふやなままの関係になんらかの変化を齎してくれるのではないかと。
関係に自信がもてないサラリーマンの元に見合いが舞い込んでくるというのはひとつの王道パターンだ。しかしこの話が面白かったのは、その王道の道具を振りかざした国吉に対しての平山の反応が、ちょっとばかり普通ではなかったところだろう。別の意味で言葉が足りない二人のすれ違いを、自覚していたのは国吉だけだった。もやもやしている国吉とは正反対に、平山はこの関係がすべて上手くいっていると思っていた。思っていただけではなく、実際うまくいっていたのだ。とんちがきいたようなラストが秀逸だった。
書き下ろしの短編がまたにくい。ぼんやりした平山と、そのぼんやりにカリカリしつつも嬉しそうな国吉の平和ぼけ感が可愛い。
それ以外の短編も面白かった。普通の恋愛ものがあるかと思えば、不穏な屋敷で生きる主従があったり。主従はむしろサイドの親父と叔父が気になって仕方がない…。
ユキムラさんと麗人ってちょっとイメージが沸きにくかったのだけれど、蓋を開けてみればすごくいい組み合わせ。国吉がぱんつ履いてるところがちょっとまぬけですごく好きだった。
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2009.05.27 Wednesday
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遊佐浩二・神谷浩史「新宿退屈男〜欲望の法則〜」(原作:愁堂れな)
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ある殺人事件の容疑者を追っていた新宿東署の刑事・竜野は、とある便利屋に辿り着く。飄々とした所長の早乙女の食えない態度に腹を立てつつも、容疑者に個人的な思い入れのある竜野は、竜野に容疑者の捜索依頼を出す。
原作は未読。
愁堂さん原作ということで、以前「unison〜ユニゾン〜」がさっぱり合わなかったのだが、懲りずに手を出してしまった。結果から言えば、この話も同じような感想に落ち着く。
どこか物凄く許せない箇所があったとか、矛盾があったとか、そういうことではない。ただなんとなく自分と合わない、という感じ。キャストの演技はいつも通り安定しているし、それなりのCDなんだとは思うけれど、良くも悪くもBL刑事やBL麻取とBL便利屋(ニアイコールBL探偵)のBL巨悪事件という感じだ。先が読める読める。出てきたときからこの人悪い人なんだろうなあ、この人はすごい力を持っているんだろうなあ、というのがわかってしまうのだ。二時間ドラマ的とでも言うか。しかしその必ずオチがつく二時間ドラマを愛しているひとも沢山いるので、単に好みの問題だという自覚はある。
暴力団絡みの殺人事件の容疑者にあげられたのは、ある女性だった。仕事でその女性を追う刑事・竜野に神谷さん。低音で口があまり丁寧ではなく、事件のこともあって気が急いているのがとてもよく伝わる。その女性の足取りを追う途中で浮上してきたのは、便利屋の存在だ。新宿にあるその便利屋の所長・早乙女に遊佐さん。決して相手のペースに合わせないのんびりした口調と、横柄な態度がいい感じに腹立たしい。当然竜野は怒るのである。
実は早乙女はその女性から、濡れ衣を着せられたので逃亡したいという依頼を受けていた。それを竜野が知ったとき、上司から連絡が入る。犯人と自供する男が自首してきた、それで事件は解決だ、もう女を追うな、と。
それでも竜野は彼女とどうにかして会いたいという気持ちを止められない。それは、自殺と断定された麻薬取締官だった兄の最期に、彼女が関わっているからだ。もはや自分では動けないとわかった竜野は、客として早乙女に彼女の捜索を依頼する。金銭ではなく、自分の興味や感性で仕事を受けるかどうか決める早乙女は、その仕事を引き受けた。代金は、竜野の肉体奉仕。
もうこのあたりでずっこけた。一枚組だから仕方がないのかもしれないが、話の進行が全体的に物凄くスピーディで、飛躍しがちである。そしてキャラクターの思考が悉くBL的。この肉体奉仕は実は家事全般の労働という意味でした、というオチがつき、更に、と見せかけて夜のご奉仕もしてね、という二段オチがつく。動揺と焦りでろくに抵抗もできない竜野はそのまま快感に流されて、なんとなく出来上がったような感じだ。
上司の忠告を無視して、竜野は早乙女とともにどんどん事件に深入りする。その中で、かれが今追っていた事件と、過去の兄の死が関連していることが明らかになる。かれの兄のひととなりや、かれがどんなに兄を慕っていたのかも明かされる。そしてそれに対する反応によって、早乙女がどういう生活を送ってきたのかも明らかになる。へらへらしている表情が声だけで思い浮かべられる、終始ふざけた態度をとるかれにも鬱屈があったようだ。
竜野は謎の男たちに拉致され、連れて来られたその場で催淫剤を与えられ、お決まりの性的な拷問が始まる。BL刑事の敵はBLヤクザである。
そんなこんなで項垂れていたら、早乙女の機転によって明かされた真実はなかなか重かった。真面目な兄が麻薬に溺れるわけがないという竜野の確信は真実だった。しかし、その真実が証明されたところで、高潔な兄が卑劣な仲間に裏切られた事実は変わらない。そしてそのあとに語られた更なる真実はなかなか衝撃。さすがにこの展開は続きが気になった。いいところで終わるんだ。
最後の最後に出てきた人気キャスターの春野秀二に成田さん。奥様に人気のキャスターだということなのだが、もうこの胡散臭さが最高である。業界人っぽい!うそくさい!俳優かキャスターか自分の道を迷ったというかれの演技がもう、拍手もののわざとらしさである。大根にもほどがあって、一瞬で全部かっさらってしまった感が否めない。この春野のおかげでラブコメのレベルが上がった気さえする。
このCD全体に漂う気楽さと軽さは、ある意味では長所でもある。耳障りが良く、安心して何度でも聞ける。基本的にはドシリアスで陰鬱なものがすきだけれど、常に重苦しいものばかり聞きたいわけではないので、そういうときにいいかも。
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2009.05.27 Wednesday
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カラスヤサトシ「カラスヤサトシのおしゃれ歌留多」
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カラスヤサトシ「カラスヤサトシのおしゃれ歌留多」
意味を説明されずに流行キーワード、オシャレキーワードだけを聞いて、そこからそれがどういうものであるのかをカラスヤサトシが妄想する企画四コマ。
カラスヤサトシのイメージからは程遠いところにある「オシャレ」。本人が実際のところどうなのかということはさておき(と言っても本当に知らないが)、この組み合わせは最強だ。
内容はいたって単純。たとえば「ブーティ」「グラディエーターサンダル」などという単語だけを聞いたカラスヤが、それがどういうものであるのかを妄想する。妄想して、漫画で表現する。その数が百以上。
カラスヤサトシの作風にはいくつかの特徴があるが、そのうちの孤独や不条理さと言うものは、この作品では殆ど存在しない。知らない言葉を楽しそうに妄想して、それに本気で怒ったり笑ったりしているという意味で、若干の狂気はあるかもしれないが、全体的には楽しい部分で構成された一冊。お題がある以上、オチがパターン化されてしまうのは仕方がない。
一ページごとにテーマが異なり、きちんとキーワードの解説もされているので、かなり読み応えがある。というか一冊一気に読み終えるのはなかなか困難だ。ゆっくり読んで、そのあとは、適当に開いたページから読み始めて楽しめばいいかな、という本だ。
あとがきにかえて、ということで、タイトル一文字ずつのアイウエオ作文風かるたが描かれている。15枚からなるそのかるたが、ものの見事におしゃれの極意を突いてしまっており、笑う前に感心してしまった。何も学んでいないようで、大事なことを学んでいる…。
「すきな色よりも似合う色」「れいぎとしておしゃれすると心得よ」など、最後の晩餐柄のトレーナーを気に入って着ていた人に言われたくないが、その通りだ、くそう。意外と勉強になります。
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2009.05.26 Tuesday
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御徒町鳩「腐女子っス!」2
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御徒町鳩「腐女子っス!」2
読んでいるだけで頬が上がる。自然に口元がほころんで、にやにやしてしまうくらいに、男の子も女の子も可愛い。まっすぐで純粋で眩しい。直視するのが恥ずかしいくらいに輝いていて、胸が暖かくなる。ユキ、めぐみときて、三人娘の最後のひとり、えりの恋。
弟の親友である溝口がどうやら自分のことを好きらしいと知ったえりは、だからと言って何か行動に移すわけではない。本人から面と向かって言われたわけではないし、大体恋愛経験がないから何をどうしたらいいのかもわからないし、そしておそらく、自分に全く自信がないから。
独創的な考えを持つえりは、中学時代いじめられていた。暴力をふるわれたり、物をとられたりするようないじめではなく、本人に聞こえても構わないボリュームで陰口を叩かれ続けていた。おたく気持ち悪い、と。そのことに彼女は最後まで抵抗しなかった。数が違うから勝ち目がないこと、もしかすると余計にひどい目にあわされるかもしれないこと、時間潰しで手を出した本が彼女を容易く楽しい世界へ導いてくれたことなども大きな理由だが、なにより、どこかでえりは自分がそう罵倒されるに値する人間だと思っていたのかもしれない。みんなと考えが違う、好きなものが違う、集団の中で生きるには辛い価値観の相違と、断続的に否定されてきたことで、彼女は自分の好きなものや自分自身に全く自信を失くしてしまった。わたしは1巻の感想のとき、これは「腐女子限定というよりは、「日常の多くを費やしている趣味がある女子」の恋物語」だと書いた。その気持ちは今も変わらない。それほど何かひとつのものにのめりこまない人間から見れば、何かに必死すぎる人間は時に痛かったり、不気味だったりする。
そしてその「何か」の内容によって、更に評価は変わる。それが部活ならばどうか?勉強なら?恋人なら?ファッションなら?芸能人なら?マンガやアニメなら?
たくさんある「何か」の中で、えりが選んだものは、一般的に最も批判されやすいもののひとつだった。自分はそれを愛している。本気で愛している。だけれども、どこかで、それがあまりいい顔をされないものであることも、聡明な彼女は知っている。知識としてだけでなく、批判され続けた中学時代の実体験として。自分が誰かに、家族や同志ではない誰かに大切にされることにえりは慣れていない。溝口の好意がうれしいのに戸惑う。うれしいけれど、本当の自分を知ったらかれがひいてしまうのではないかと恐れている。
恐れるあまり、自分たちの文化祭にきた溝口に、自分は漫画部ではないと彼女は思わず叫んだ。叫んで、叫んだ先から後悔した。最高に楽しい学校生活を送れているのは、本来の自分を受け入れてくれる友人がいるからだ。そういう本来の自分の居場所であるものを、彼女は瞬間的に恥じて、否定した。所属する友人や先輩のことも、自分が今まで築いてきたもののことも、何もかも否定した。
そのことを実感したえりが泣いて謝ったとき、ユキとめぐみは笑顔でそれを何でもないこととして許してくれた。恋愛の面ではえりよりも少し先輩である二人は、自分の趣味をどこかで後ろめたく思う気持ちも、好きな相手にあまり知られたくない気持ちも知っていた。恋愛に必死になって暴走してしまうことも、知っていた。好きなものを堂々と公言できない茨の道に、そうと知っていて足を踏み入れた彼女たちは痛みに敏感だ。相手の痛みにも敏感だからこそ、許す。好きなものを好きだと思うことがなんだか後ろめたくて、悪いことをしていないのに隠してしまったりする。でもどこかで、本当はそういうものを全部曝け出して、そんな君でもいいんだよと言われたい、そういう我儘な願いがこの漫画の中では叶う。夢物語だけれど、現実では困難だからこそ、それくらいのほうがいいのだ。
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