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ミュージカル「エリザベート」東宝公演ライヴ盤 山口祐一郎版

01年公演のライヴ盤、二枚組CD。
キャストは以下の通り。
エリザベート:一路真輝
トート:山口祐一郎
フランツ:鈴木綜馬
ルドルフ:井上芳雄

23日に家に帰ってすぐ、エリザベート関連でどういうものが発売されているのかを調べ、東宝版の映像作品が出ていないことに絶望し、CDを買おうと思って職場近くのCD屋に電話したら流通がないと言われ、送料をケチってようやく30日に会場で買った。
どうして通常のCD屋や、このCDの価格であれば送料が無料になるアマゾンなどで売ってないのか、どうして映像作品が一切発売されていないのかは分からないけれど、そしてブックレットに掲載されている歌詞が一部なのも何故か分からないけれど、ともかくこのCDが色々と頼みの綱である。このCDと、いずれ買おうと思っている内野さんバージョンと、記憶にしか頼れないというのはとっても心許ない。
おそらく何百回と言われていることなのだろうが、DVDが出たらいいのに。

「夢とうつつの狭間に」という曲は聞き覚えがないと思ったら、現在では歌われていない曲だそうで。じわじわとくるいい曲なので残念だ。「皇后の血筋」という曲も現在は歌われていない。ヴィッテルスバッハの血筋についてゾフィーが直接的にフランツに発言していて、この曲があると次の「精神病院」が非常に重みを増すのだけれど、さすがに現在の風潮では無理だろう。マックスに対する「キ印」という揶揄すら危ないのではないかと思った。
ヴィッテルスバッハにそういう噂が付きまとっていたことは事実だし、ゾフィーの悪意に満ちた進言もまたひとの在り方として少なからずあるものなのだから、別にいいじゃないと思うけれど。敏感になりすぎるのも良くない。勿論それで傷つくひとが沢山いるのであれば、排除すべきなのだろうが。

一路さんのシシィをこの音源だけでどうこう言うことはできないけれど、「最後のチャンス」の「違う!」の絶叫や、「死の嘆き」での号泣が悲痛ですてき。ルキーニに写真を撮られたあとの「嫌!」という叫びもすごい。
井上さんのルドルフもとっても繊細そうで、危うげでいい。カフェでハンガリー国王になるのだと周囲に煽られたときの「ハンガリー…国王?」という一言が微妙に嬉しそうで、いかに担ぎあげられたお坊っちゃん皇太子なのかがよく分かる。フランツにとうとう見捨てられたときの「父上」という震えた声もいい。

「我ら息絶えし者ども」「悪夢」「闇が広がる」「不幸の始まり」「ミルク」「憎しみ」「夜のボート」が大好き!聞きまくるぞ。
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posted by: mngn1012 | 音源作品 | 23:57 | - | - |

鳩村衣杏「ドアをノックするのは誰?」

鳩村衣杏「ドアをノックするのは誰?」
若くして両親を亡くし、弟妹を立派に育てあげたサラリーマンの頼久は、受講した大学での社会人向け講座で教鞭を取った甲田に誘われて食事に行き、その場で告白される。その告白を承諾し、二人の交際は何もかもが順調だった。しかし、甲田は少しずつ違和感を覚え始める。優しく面倒見のよい頼久は、甲田が何をしても怒らず、自らは何も望まないのだ。

面白かった…!
これまで特定の相手を作らず散々遊んでいた甲田は、興味本位で頼久を食事に誘い、その場の勢いで告白した。どう見てもゲイやバイではなさそうで、自分のように享楽主義でもなさそうな頼久がその告白を承諾するとは思っていなかった。肉体関係込みで気楽な付き合いを続けている相手が複数いることを隠して、そのまま甲田は頼久とも付き合い始めた。もともと深く考えて言い出した告白ではなかったし、この時点では甲田は頼久も奔放なセフレの一人くらいにしかカウントしていない。
そんなかれに、甲田は溺れた。翻訳家という仕事の所為か、何かと言葉を飾る傾向にあるかれは、いくつもの顔を持つ頼久を「天使なのか、悪魔なのか…」と称した。そのどちらでもあるかれに夢中になり、これまでの相手とは全く違う存在であると自覚する。百戦錬磨でここまで来た男が、いきなり年下の恋愛経験の少ない人間に踊らされている様子が可愛らしい。

とにかく序盤は怖いほど上手くいく。告白して付き合って、家に呼ばれて肉体関係をもって、更には期間限定とは言え同棲生活が始まった。頼久はかいがいしく甲田に尽くし、何かを望むことも文句を言うこともなく、二人の関係は最高だった。
しかし、少しずつ歯車がかみ合わなくなる。勘違いした甲田の元セフレが乗り込んできたとき、頼久は微塵も怒っていなかった。なんともない顔をして内心では怒っているというのではなく、拗ねているのでも悲しんでいるのでもなく、絶望しているのでもなく、本当にかれは平気なのだ。
そして甲田は気付き始める。頼久には欲がない。薄いのでも我慢しているのでもなく、本当にない。甲田の幸せが自分の幸せだとかれは言ったけれど、きっとほかの誰かにも、相談を持ちかけてきた会社の人間にもそう言えるのだ。それは、頼久と一緒にいるのが甲田でなくても良い、ということだ。たまたま弟妹の手が離れて、恋愛を後回しにしなくても良くなったときに声をかけたのが甲田だったから、頼久は甲田と付き合っているように思えてくる。タイミングと先着順だったのではないか、とすら考えられる。
そしてその不安は、自分よりも随分前から頼久を思い続けていた後輩富永の登場によって、更に色を濃くする。危惧していたことを富永によって指摘され、甲田はどんどん自分の想像が事実だということに気づく。知らないままでいられればずっと幸福な関係が続けられていただろうに、甲田はもう戻れなくなっていた。頼久が好きだからこそ、甲田は苦しい。ルールやモラルを凌駕するほどの愛を知らないかれを思って、そしてそんなかれを愛してしまった自分を思って。頼久が自分を不幸だとも哀れだとも思っていない分、甲田が二人分苦しんでいるようで切ない。
正直な頼久は、甲田から「僕のことが好きか?」と問われ、「意味が、よくわかりません」と答えた。好きだという感情が分からないと、普通のことのようにかれは言う。そんな頼久を抱きしめた甲田のモノローグがとっても痛々しくていい。好きなひとと付き合っていて、一緒に暮らしている。喧嘩もせず、金にも困らず、病気もしておらず、仕事も順調、人間関係もまあまあ良好。それでも、どうしようもないくらい甲田は苦しい。
いっそ、頼久に他に好きなひとがいるほうがマシなのだろうと思う。諦めることもできるし、自分の方を振りむくように努力もできる。けれど、頼久にはもともと愛の概念がない。それは元々持っていないものを、自分の方に渡せと迫るようなものだ。つまり、頼久が甲田を愛することは不可能なのだ。

そして甲田は逃げた。頼久の心の中に、とてもわずかだけれど変化が起こっていることなど知るよしもなく、かれは逃げた。優しくて思いやりがあって、それだけに残酷な手紙を残してかれは消えた。
結果的にそれは頼久をとても傷つけ、かれの変化を増長させた。頼久は今まで後回しにしてきた、自分と向き合うことを余儀なくされた。何がほしいのか、何がしたいのか。そしてかれは自分を踏みとどまらせているものの正体が何だったのかを知る。幼い弟と妹の言葉に縛られ、罪悪感に苛まれ、変化することを自分に禁じていたかれが、ついに固く閉ざした扉から飛び出す。再会のシーンがとてもいい。甲田の台詞が沁みる。遠回りして、傷つけて傷つけられて、距離を置いたからこそ行きついた答えがある。かれが持っていないのなら、自分が渡せばいいのだと、教えて種を植えてやればいいのだと、ようやく甲田は気付いた。それまでヘタレだった分も含めて、ものすごく格好良い。

その後は一気に形勢逆転。三歩下がってついてくるような嫁だった頼久は、夫の浮気が心配で気が気じゃない嫁に変わった。どっちにせよ嫁っぽいあたりも秀逸。
コメディ調なのに底辺にあるものはどシリアスで、笑えて泣ける素敵な一冊。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 21:58 | - | - |

エリザベート@梅田芸術劇場 12時公演

エリザベート:涼風真世
トート:山口祐一郎
フランツ:鈴木綜馬
ゾフィー:寿ひずる
ルドルフ:伊礼彼方
少年ルドルフ:太田力斗

今回は二階の前列の中央。全体が見えるー。
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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 18:47 | - | - |

エリザベート@梅田芸術劇場 13時公演

エリザベート:朝海ひかる
トート:武田真治
フランツ:鈴木綜馬
ゾフィー:初風諄
ルドルフ:伊礼彼方
少年ルドルフ:田川颯眞

今回は超後ろの席。でも横の列としては中央付近。
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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 23:52 | - | - |

二越としみ「ガレキの楽園」

二越としみ「ガレキの楽園」
非合法な捜査のために潜入した島で、時雨は生意気な少年に出会った。利発で嫌味なその少年がマッドサイエンティストに性的虐待を受け続けていることを知った時雨は、かれを島から連れ出し、ユウトと言う名前を与えた。

物語は、二人の出会いのあと、十年後に飛ぶ。容姿の整った青年になったユウトは、時雨とともに仕事をしており、ずっと時雨のことを思い続けている。時雨は逃げられないと思っていたところから自分を救いだしてくれて、名前を与え、住むところも与えてくれた。そんなかれを好きにならないはずがなかった。
しかし時雨からはそういう類の好意が見えてこない。かれにとってはユウトは弟か、寧ろ息子でもおかしくないのだ。

噛み合わない感情を単なる片思いや悲恋だと受け止めるには、ユウトはあまりに一途過ぎた。無理を言って願望を通すほど子供でも愚かでもないけれど、諦めてしまえるほど大人ではなかった。仕事でもプライベートでもずっと一緒にいる時雨のことを思い続け、いつしか「時雨のために死にたい」と考えるようになった。
時雨の中に、一生消えない傷になって残ることだけを夢見て、かれは危険な仕事にもどんどん踏み込んでいった。ユウトは、なにか印象に残る死に方をすることでしか、自分の存在を残せないと考えている。生きている間に何らかの幸福を得ることをもはや期待せず、自分が死んだ後のことを想像して、今の自分を支えている。臆病なかれは本音を明かさない。予想していても拒まれれば辛いし、そのあとの関係がぎこちなくなることも予想できる。現状のままでは不満だけれど、それを失うことはもっと辛いから、煮え切らない関係をずるずると続けている。

そんなユウトは、仕事のため・時雨のためにならば自分の体さえ利用する。手を汚すことも自分が危険な目に合うこともちっとも恐れないユウトは、そのことを窘められても懲りない。自分の体も自分の心も、かれにはちっとも大切じゃないのだ。自分を愛せないまま生き続けているユウトの姿は痛々しい。そのことをかれが悲しんでも、卑下してもいないことが余計に切ない。こういう、自分を大切にできない主人公は好きだ。自分の価値を見出せないキャラのモノローグがツボるツボる。
そして、もし時雨が愛してくれたなら、自分を大切にできる気がするとユウトは感じている。自分のものは大切にできないけれど、かれのものは守ろうと思うのだ。時雨のものになれたら、自分を好きになれるという確信がユウトにはある。そんな日は来ないという確信もまた、同じ強さで抱いている。

とにかく気持ちが通うまでのユウトがかわいそうでいい。更にはシャレードらしいとも言うべき、仕事や事件の濃厚な描写も相俟って、物語が盛り上がっている。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:57 | - | - |

萌木ゆう「カテキョ!」

萌木ゆう「カテキョ!」
家庭教師・楓のスキンシップに戸惑いながらも翻弄されている高校生の倫太郎は、反抗しようとテストで悪い点をわざと取った。しかし楓はそれに傷つくどころか、反対に「おしおき」を口実に更にスキンシップを激しくしてくる。

どんな絵にも好き嫌いはあるだろうが、かなり王道を行く絵柄で、とっても上手い。そして絵柄自体はさほど似ていないのだけれど、全身が描かれたコマの構図や体の見せ方がねこ田米蔵系に思える。…と思ったら同人誌のゲスト寄稿をされているようだ。

それはさておき。
楓のきれいに取り繕った笑顔の裏に何かがあることは分かっているのに、その何かが倫太郎にははっきりと見えてこない。ただ、本音を見せられていないことだけは伝わる。あらゆるものに敏感に反応してしまう年頃のかれにしてみれば、その「子供扱い」は結構な屈辱だろう。
楓にからかわれて意地悪をされて、反抗すれば何倍にも膨らんで返ってくる。悔しくて悲しくてむかついて、本当に嫌で嫌でたまらないのに、いざ止められるとさびしい。やめてほしいと本心から願っていたはずなのに、もうしないとばかりに普通に接してこられると哀しい。そうして何より、なくなったことに物足りなさを感じている自分自身に倫太郎は戸惑う。
勿論ここまでは完全に楓の思うツボだ。単純でわかりやすい倫太郎が可愛くて可愛くて、可愛いがゆえに苛めたいと思う楓が巧妙にしかけた罠のようなものだ。その罠にまんまと引っ掛かり、楓の行動に一喜一憂している倫太郎がいい。多少気がきつかろうが、普通の高校生でしかないかれは、楓の言葉にすぐそそのかされ、言いくるめられる。自分が持て余している寂寞の正体を、恋なのだと言いくるめられ、ひとときの優しい態度と何より快楽に流される。
それでも最後まで倫太郎が気付かないままなのは、単純に楓がずるがしこいだけではなく、本当に倫太郎が楓を憎からず思っているからだ。いじめられてもひどくされても、それでも構われたいと感じたなら、それは確かに恋なんだろう。
いじめっこ年上とおばか年下のテンプレ漫画だけれど、絵のうまさと倫太郎のフツーの高校生っぽさでフォロー。面白かった。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:55 | - | - |

現状

23日の「エリザベート」からずっと、世界に薄い膜が掛かっているようだ。
数ミリ浮いているのかと思うくらいに自分が落ち着かなくて、ふわふわしている。相手が二次元であれ三次元であれ、紙にインクで描かれた存在であれ俳優であれバンドマンであれ傍にいる人であれ、誰かに恋をして眠れなかったことなんてない。なのに、今回ばかりは気持ちが昂揚していてなかなか寝付けない。胸が一杯だ。頭から曲が離れず、夜中にいきなり叫びだしたくなる。
ああ、30日が遠いなあ。

Jane Marpleとブライスのコラボ一発目、CWC限定プチブライス「ブルーミーブルームスベリー」は無事確保。仕事中のわたしの代わりにいろんなひとが協力してくれた。皆が口を揃えて「余裕だった」と言ってくれるのだけれど、わたしが休憩時間に入ったときにはすでに売り切れていたので本当に助かった。ネオブライス発売の日は休みの日だといいな。
最近あらゆるひとに迷惑をかけっぱなしなので本当に申し訳ないけれど、自分が恵まれていると実感できることが多くて幸せだ。なくさないようにしたい。

半月くらいずっと風邪をひいているのだが、治りそうで治らない。あと一息、というところで遊ぶからいけないのだ。分かってるんだけどやめられないのだ。
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posted by: mngn1012 | 日常 | 21:53 | - | - |

大槻ミゥ「calling」

大槻ミゥ「calling」
自分の仕事に自信が持てないサラリーマンの一明は、偶然公園で撮影していたAV男優の煌と出会う。翌日、自分を待ち構えていた煌に一明は怯えるが、かれは思いもしなかった行動に出る。

こういう特に大きな事件もないまま、他人だった二人の関係が少しずつ縮まってゆく過程を描いた漫画は好きだ。あと凄く失礼なことを言えば、この作者はどんどん漫画がうまくなっているように思う。どこか一か所がと言うのではなく、全体的に読みやすくなっている。面白かった。

一明はかなり大手企業で庶務をしている。花形である営業の人間の輝きをどこか卑屈な目で見ており、仕事にプライドが持てない自分にさらに落ち込んでいる。自分の仕事を心から誇れる人間がどれくらいいるのかは分からないけれど、他人から見れば決して悪くない会社に勤めて、内部の人間には定時で上がれることを羨ましがられて、それでもかれは納得できないでいる。仕事内容というよりも、仕事を誇れない自分を誇れないのだ。
そんな一明が出会ったのが、AV男優の煌だ。後ろ指を指されることや、揶揄されることが多い職業に就いているかれは、自分の仕事を誇っている。世間がどのような目を向けてくるのかもすべて承知で、それでも、初対面の相手に堂々と職業を明かす。そんな煌が、自分を好きだと言っている。一明が戸惑うのが当然であるように、煌の人間性を知るにつれて一明がかれに惹かれてゆくのも当然だと思わせてくれる。
派手な見た目で強気なのに、好きな相手にだけはどうしても強く出られない煌の、一見情けなくうつる優しさが可愛らしい。

煌が自分の仕事を誇っていることが、一明を変えた。自分の仕事に対する意識を変え、煌に対する感情も変えた。しかしいざ恋人同士になると、その仕事がネックになる。演技だとわかっていても、恋人が自分以外の人間と寝るのはいい気分じゃない。自分以外に優しいことばをかけるのはいい気分じゃない。そう思ってはいけないとわかっているからこそ、一明の葛藤は深くなる。
それでも仕事を辞めろとは言わないところが、仕事を愛する煌を好きになった一明の、一仕事人として生計を立てている一明のプライドだ。男特有とまでは言わないが、男だからこそそういう価値観をわかり合ってやれるんだろう。
可愛い絵柄とポップな色合いでありながら、男の矜持みたいなものが暑苦しくなく描かれている。恋は可愛く、仕事は真剣に。バランスがいい。

ラスト、全体的にぼんやりしている一明から発した台詞が自然で良かった。前から考えていたのではなくて、ふとその瞬間に、自然にそう思えたのだとわかるからこそ微笑ましい。幸せだなあ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 01:10 | - | - |

長門サイチ 「幸運の理髪師」

長門サイチ 「幸運の理髪師」
冴えない髪型とデカい体の所為でクラスで浮いていた司は、ある日訪れた理容室でのカットのおかげで、一気に人生が変わることになる。理容師・那智に任せた髪型によって顔が良いことが明らかになったかれは、あっと言う間にトップスターになったのだ。それでも司は忙しい仕事の合間をぬって、恩返しという口実を使って那智の元を訪ね続ける。

美容師じゃないんです理容師なんです、ヘアサロンじゃないんです三色のポールがまわっている床屋なんです、というところがポイント。と言うのも那智個人はオシャレな町のヘアサロンで勤めていてもちっともおかしくないような容姿だけれど、かれは誇りを持って、敢えて様々な人が来店する町の床屋さんで在り続けるのだ。気さくな性格でどんな人にも優しい、そういう那智だから、司はかれの店に通い続けている。
元々素材がよかった司は、プロの手によって磨かれ、今や押しも押されぬ人気者になった。たくましい肉体と男らしい顔つきを持つかれは、未だ誰とも付き合ったことがなく、ひたすら那智を思っている。常連客にはバレバレなその感情を、隠そうとすらしていない。素直に、純粋に、そして臆病に思い続けている。整い過ぎた容姿とのギャップがおかしい。

そんな司の気持ちを、那智がとっくに気づいていたという展開が好きだ。考えてみればあれだけ露骨にふるまっていてばれないわけがないのだけれど、その後に明かされる、気付かないふりをし続けていた那智の本音がとてもいい。
司が若いからこそ那智は大人になる。大人ぶっているのではなく、自然とそうなってしまう。那智が素直じゃなくても司は照れずに本音を投げる。かれにとっては当然のことだからだ。全く違うからこそ、惹きあうのだろう。

付き合ってからも二人は些細なことで不安になる。喧嘩にならずに、思いつめて落ち込むのがデフォルトの関係は、かわいそうだけど可愛い。なかなか会えないことも、くだらない思い込みで一喜一憂することも、付き合い始めには結構なスパイス、のはず。
年齢も、置かれている状況も、恋愛経験もかけ離れている二人だからこそ、何事においても一筋縄ではいかない。それは、相手の不安や疑念を想像できないからだ。自分にしてみれば取るに足らないことで、相手が本気で落ち込んだり悩んだりする。それは驚きであるけれど、不快じゃないのは恋だからだ。違う存在だからこそ面白くて、愛しいのだ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:32 | - | - |

機動戦士ガンダム00 #16「悲劇の序章」

ハーキュリーのクーデターの目的は、アロウズの蛮行を世界に知らしめることだった。国民のため、多くの人間を救うために夢と理想を抱いて戦い続けていたかれは、知らないことは罪なのだと思っている。今目の前にある豊かさを享受することで手一杯で、他の世界に意識を向けず、なにも疑わないことは愚かだ。その愚かさが、アロウズの独裁を許しているのだと言う。
自分は何も悪くない、戦争に全く関係ないのだと言っていた沙慈のような人間はたくさんいる。殆どはそうだ。勿論、わたしも。そういう人間の目を覚まさせるためには、荒っぽい方法しかないのだとハーキュリーは思い、行動に移った。それは乱暴で決して良い方法ではないけれど、悲しいかな、きっとそうでもしないとわたしたちは気付かないのだ。目の前で人が死ななくては、血が流れなくては、他人ごとだという意識を手放せない。
そのためになら、人々が現状に疑念を抱くようになるためなら、喜んで捨て石になるとかれは言った。

セルゲイはリビングに写真を飾っている。妻とハーキュリーと自分の若いころの写真や、妻とおそらくアンドレイの少年時代の写真に混ざって、ソーマと二人で撮った写真があった。ぎこちない表情の二人の写真がとても可愛くて微笑ましくて、そして悲しい。マリーというひとりの女性が、アレルヤと再会できたこと・記憶を取り戻したこと・お互いを支え合う恋人同士になったことはとても良いことだ。しかし、自分の前から姿を消してゆく者を数えきれないくらい見送ってなお、彼女さえ送りだしたセルゲイの気持ちを思うと、素直に喜べない。神経質で頑ななソーマ・ピーリスが好きだったなあ。
そのうちマリーとソーマ間の齟齬が薄れていきそうではあるが。

クーデターを起こした人間の中の人に、あの人やこの人が。
オートマトンで、自分たちを危険に晒すことなく攻撃してきたアロウズの卑劣さは相変わらずだが、それに対して「迎撃するな、世界が見ている」と命令したハーキュリーも結局は同じ穴の狢だ。待機するように命令されたマネキンの部隊にいるルイスは、戦うことについて「理由など関係ありません」とアンドレイに話した。彼女もまた、軍人の心を持ってしまった。理由があれば戦ってもよいというものではないけれど、理由さえも投げ捨ててしまえば、もはや落ちるところまで落ちてゆくだけだ。憎しみと戦争と、裏切られたという衝撃が彼女を変えた。
平和がほしい、平和のためだと言いながら、戦わないことが最初から選択肢に入っていない軍人たち。気付かないのか気付かないふりをしているのか、みんなが一気に武器を捨てればそれで終わるのに、そんな日は絶対に来ない。

セルゲイは相手をハーキュリーと姓で呼び、ハーキュリーは相手をセルゲイと名前で呼ぶ。このあたりがセルゲイの人間性を現しているようで可愛らしい。
そしてどの立場にいる人間の予想よりも遥かに悪辣なアロウズの仕打ちには驚いた。敵は手強すぎる。ただハーキュリーたちを悪人に仕立て上げることでこの独裁を守ろうとするだけでなく、かれらを処刑する正当な理由を作ってしまったのだ。

そしてブシドー対刹那。ブシドーって呼ばれることがいやだと言っていたわりには、「斬り捨て御免!」と来たものだ。トランザム状態に耐えきれないのか、血を吐きながら、それでもかれは戦う。もはや、ただ戦うためにかれは生きている。戦うための人生だと、自分で叫んで、刹那に切りつける。なにもかもを失くした男の決意が哀しい。
同じように、戦うことで生きていた刹那は、その言葉に過去の自分を重ねる。そして、今の自分はそうではないと言うことも知っている。「俺自身を革新させる」と刹那は宣言する。自分に、どこかで今も子供たちと歌っているかもしれないマリナに、これまで共に闘ってきた仲間に、殺めた両親に、そしてもう会えない仲間に。
「お前は変われ、変わらなかった俺の代わりに」という刹那が過去のクルジスで会ったニールの言葉が再度刹那の脳裏に蘇る。変われなかったのではなく、変わらなかったとかれは言った。変わるつもりなどなかったのか、変わろうとしたけれど変われなかったのか、仇を取ったあとで変わるはずだったのか。考えても栓無きことだけれど。
マリーという守るべき存在を得てアレルヤは変わった。四年前の悲劇と、それからの人間関係、そしてイノベイターとの決別によってティエリアも変わった。次に変わるのは刹那だ。

そしてアロウズが不審な行動をとる。なぜか包囲をといて、戦闘的にはおかしな形で集まりだした。そしてスメラギの直観が当たる。
メメントモリがもう一台。一撃で国を消した、あの悪夢のような兵器はひとつではなかったのだ。

次回予告でマリーも戦っているように見える。
今回は地味で、言ってしまえばおやじばっかりの回だったけれど、ただ血気盛んに理想に燃えているだけではない男たちならではの戦いがあった。掲げた理想が所詮は理想でしかないことを知って、たくさんのものをなくして、それでも生きてきた人間の言葉は深くて痛い。
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posted by: mngn1012 | 機動戦士ガンダム00 | 23:32 | - | - |