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高井戸あけみ「好きになったら10まで数えろ」

高井戸あけみ「好きになったら10まで数えろ」
友人と同居しているマンションの鍵をなくして部屋の前で座り込んでいた水尾は、初対面の隣人・加賀見の部屋に上げてもらう。部屋に戻れず一泊させてもらった水尾は、夜中、加賀見に寝込みを襲われそうになるが、翌朝かれは全く覚えていなかった。

高井戸あけみの描く不思議ちゃんは本当に不思議ちゃんだ。不思議すぎて感情移入が難しいくらいなのだが、その分相手の気持ちがすっごく分かる。可愛いけれど掴み所がなくて、何を考えているのかさっぱり分からないのに、なぜか猫のようになついてくる。情が沸いてしまえばもう離れられない、ちょっと魔性の不思議ちゃん。
マトモな大人の皮を被った不思議ちゃん・加賀見が繰り返す、夢遊病のような行動の原因がまた面白い。大きなトラウマや事故ではなく、自分の中だけで起こる問題だからこそ、理解してもらえず苦しんでいる。自分でも理由が見出せず、ただストレスだけが蓄積していく。
それを解決すべく動く水尾もまた、飄々としていていい。苦悩や葛藤が存在しないのではなく、ただあまり表面に出てこない。能面のような表情が、それでもどこか可愛かったり切なかったりする。
一般的な恋愛の段階のどれをも踏まずに、それでも成立してしまう恋愛がある。成立してしまえば何ら不自然なところのない、ふつうの恋愛。

同時収録の短編「紳士のたしなみ」がまたいい。
非の打ち所がないイケメンだけれども実は料理大好き縫製大好きの課長と、そんなかれのギャップを見ても片想いが止まらない作原くん。職場での課長が格好良い分、ラブリーなお弁当や手編みのニットがおかしい。かと言って少女趣味なわけでも心が少女なわけでもなく、単純にそういうことが好きなだけという、判断しづらい課長がおいしい。
かとおもえばいきなり「惚れ直した?」なんて直球も投げてくるから、あなどれない。


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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 23:03 | - | - |

AR

世間はセールシーズンに入ろうとしているのに、予約していた服をようやっとお買い上げするわたし。
リバティ
ドンルのリバティのリボンダンドール。
おそらく同じ生地が今期にロイスにも使われていたけれど、やっぱりわたしはJane至上主義。…ロイスに比べれると安いというのもあるけれど。
かなり色鮮やかで、避暑地にでもお出かけするようなOPだけれども、勿論そんな高尚なことはしません、できません。どうせ中にカットソーを合わせてカジュアルに着るのだ。これに合う帽子が欲しくなる。
ノベルティ
そしてハンカチ二種と、多少の水分ならば弾きそうなゴールデングースのエコバッグを貰った。ハンカチはいつもならそのままノベルティコーナーに保管しておしまいなのだが、なんとなく思い立ったので壁に貼ってみた。どう転んでもオシャレな部屋にならないことは知っているのだが、足掻き。

「DAZED&CONFUSION JAPAN #69」がアツい。
思想や主張が発されている服を選ぶことは、リスクを背負わなくてはいけない。その服が発信している意見が、その服を選んで着ているわたし自身の意見だと捉えられかねないからだ。それを十分に承知した上で、メッセージTシャツを着用するひとなどは凄いと思う。わたしはわたしの意見に可能な限りの責任は持ちたいけれど、ひとの言葉にまで責任は持てないからだ。たのしいもの、かわいいもの、誰かの意見に反発するような強い主張をせず、誰も傷つけないもの、そういうものに包まれていたい。
作り手もまた様々だろう。町に溢れている洋服にプリントされた様々な英語の羅列に、どれくらいの気持ちが込められているのかはさまざまだ。
けれどヴィヴィアンは本気で、なにかを主張しようとしている。環境に、地球に、あらゆるものに、破壊と再構築を齎してきた彼女が何を考えているのか、それを全く知らなくても彼女の服を愛することはできるけれど、知ったらもっと好きになった。
"IF YOU CHANGR YOUR LIFE,YOU CHANGE THE WORLD"特集の写真がとにかく可愛い。

「ラストゲーム」東京楽で城田がD-BOYS卒業を表明。
FCから以前来ていた個人FC立ち上げなどのDMから鑑みて、まあそうでしょう、というところ。D-BOYSというのはグループであってグループではないようなところがあるので、歌手グループから誰かが脱退したような寂しさはない。ここ最近の城田ブログを見ていると、いつ倒れてもおかしくないような働きっぷりだったので、さすがに無理だったのだろう。
しかしこれからはD-BOYS=城田のいる集団、という説明がもはや出来なくなるので、みなさんに頑張っていただかなくては。
(イヤ別にわたしは誰かに説明することもないのですが。)
そう思うと、初日に「これからもD-BOYSをよろしく」と頭を下げた城田は、自分が巣立っていったあとのことを踏まえて言っていたのだろう。
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posted by: mngn1012 | 日常 | 22:56 | - | - |

中村春菊「世界一初恋〜小野寺律の場合〜」

中村春菊「世界一初恋〜小野寺律の場合〜」
どんなに頑張って結果を出しても七光り扱いされるのが嫌で父の経営する出版社を辞め、丸川書店に転職した小野寺律は、希望だった文芸書ではなく少女漫画の編集部に配属される。少女漫画など読んだこともない律は抵抗するが、口は悪いが仕事を心から愛している編集長の高野の姿勢を見て態度を改め始める。しかし、高野が実は学生時代にこっぴどく別れた元彼だと判明、しかも実は一年前からマンションのお隣さんだったと分かる。

とりあえずタイトルセンスが凄いと改めて思った。世界一初恋。ありがちな単語をくっつけただけのストレートな言葉だからこそ、真っ直ぐ胸にくる。そして中身を思わず想像してみたくなる、そんな胸高鳴るワード、世界一初恋。
そして帯がCLAMP、さすがだぜ…!

慣れない職場でなかなかやりがいを感じられずにいた律が、徐々に仕事の面白さに目覚め、私生活をかなぐり捨てて没頭する。BL版「働きマン」とでも言うべきエメラルド編集部のみなさんのお仕事っぷりが、生きるか死ぬかの瀬戸際で踏ん張っているようで面白い。
そして編集サイドからの事情だけではなく、漫画家サイドの心情も伺える。当然ながら色々なタイプの作家がいるので、罵倒されて踏ん張れるひと、優しく慰められて立ち直れるひと、励ますコツもさまざまだ。ヒステリー状態の作家に正論を投げて言いくるめる高野の言い分は真っ当すぎるくらい真っ当で、かれ自身が自分の仕事を全力でこなしているからこその裏づけがあるので非常に気持ちいい。
そんな高野の仕事っぷりに尊敬の念を抱く律もまた、ばかがつくほど正直に真剣に、真っ当に仕事をする。お互いの真摯さにうたれて惹かれれば惹かれるほど、もう一度やり直したいと思う高野と、辛かった過去を思い出して及び腰になる律。言い分が異なるふたりの誤解が果たしてどう溶けるのか、言葉の足りない高野と、自分の気持ちに向き合えない律の温度差がもどかしい。
片方が相手のことをとてつもなく好きで、もう片方がそれに徐々にほだされて気付いたら気持ちが対等になっている(もしくは追い越している)というパターンを書かせると、中村春菊は上手い。愛情表現が不得手で独りよがりになりがちな男と、それに翻弄されることが嫌じゃない男。今はまだ高野の勢いに押されて抵抗している律が、対等の気持ちを再燃させる日が楽しみだ。恋に堕ちるまでの日数がカウントダウン表示されているのも面白い。
傍から見ればどう考えてもとっくに恋に堕ちている律だからこそ、どういう決着がつくのか楽しみ。宇佐見大てんてーのお名前もチラホラ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:01 | - | - |

タクミくんシリーズ映画化記念キャンペーン 全員サービス小冊子「La saison tournante」


タクミくんシリーズ映画化記念キャンペーン 全員サービス小冊子「La saison tournante」

年末に出た「15th Premium Album」、小説「恋のカケラ―夏の残像・4」、漫画「Pure」の全サ小冊子。しかしなんというか絶句するしかないような表紙だ…。同人誌っていうよりは公共施設のパンフレットみたいな表紙。
短編「ストレス」の直後の小説「Under Moon Light」23ページ、その話を受けての漫画「文化祭のその前に…ハート」4ページ、あとがきが半ページずつ。

ごとうしのぶ「Under Moon Light」
階段長たちにはめられて、ギイと託生が二人で飲み物を買いに行くことになった短編「ストレス」のその後の話。飲み物を買って戻ってきた二人と野沢・吉沢・赤池・矢倉が、文化祭の演劇合戦についてキャストや出し物の話をするというもの。ちょうど一年前に真行寺と高林が共演したあの演劇合戦。託生が三洲と真行寺のアレを見てしまった演劇合戦。なつかしい。
生徒会やその他の委員会が非常に大きな権力を持っていて、とかくイベントには全力で向き合う祠堂らしい会話だった。皆がそれぞれグダグダ話しているだけなのだが、サービスとばかりに色んな人の名前が出てくる出てくる。しかし皆が誰がどういう美人だ、という話をしていてちょっときもちわるい。
そしてこのギイはわざとなのかボケているのかどっちだ、と言いたくなるくらいに迂闊すぎる。「違うからな」という台詞と、それまでの託生に対する明らかに恋人同士の会話が全くもって矛盾している。やっぱりわざとなのかな。

おおや和美「文化祭のその前に…ハート
着物コスプレ。おおやさんなので勿論あのお方も出てきます。
さすがだ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 23:34 | - | - |

純情ロマンチカ 第12話「袖すりあうも他生の縁」

とりあえず井坂さんの「チビたん」を聞きたかったので大満足。
ウサギさんから与えられたものが何なのかを知っていて、自分より歳も収入も遥かに上のウサギさんに、きちんとお返しをしたいと思っている美咲はやっぱりとても真っ当な子だ。それはウサギさんと、ウサギさんの周りにはなかった真っ当さだ。
そして活字を見ると眠たくなるくせに、自分の名前が使われているからなのか、なぜかBLは読める美咲チン。最後までたどたどしくて可愛かった。

お兄さんの話題&お花は、二期へのフラグだと信じたい。

さてさて最終回ということで総括感想。
全体を通して非常に原作に忠実で、コミックスに収録されていないようなエピソードまで採用する徹底振りには感心させられた。作っている側が原作を理解し、そのよさを存分に発揮させようとする気合いが感じられる作品だった。
ただ、あれやこれやの修正は仕方がないことだけれど、画面の半分以上が黒かったり靄がかかっているような状況にしてまで、そのシーンを組み込む必要があったのかは少し疑問にも思う。放送している局によって修正の度合いが異なるという事情もあるが、殆どを原作と想像で補わなくては成立しないようなシーンを流すならば別にフェイドアウトでも朝チュンでもよかったんじゃないのかと思った。いかがわしさを演出するという意味では寧ろよかったのかもしれないが、勿体無い。
もうひとつ、多用されたモノローグにも疑問が残る。原作に忠実ではあるし、修正を必要とする状況においては不自然さが減少するので良いかもしれないけれど、モノローグというのはやはり漫画の技法だと思う。勿論文字の全てが不要だとは言わないし、最終回でも美咲が自問自答するシーンなどにおいては、活字を使うことでより一層笑いが強まっている。ただ、心情をそのままモノローグにすることはちょっと不満だ。その微妙な感情を作画の表情と、声の演技で表現することがアニメという媒体なのではないかと思う。わたしが畳みかけるように心情を吐露するドラマCDが好きな所為もあるのかもしれないが、最初は笑って見ていたモノローグも後半は若干不服でした。
しかしそういう点を踏まえても、やっぱり凄く楽しめるアニメだった。アニメの後原作を読みかえして、改めて原作の序盤の面白さを認識することもできた。BLではよくあることだが、キャラクターたちは恋愛以外に何かをすることがない。学生だったり社会人だったりするものの、地球を脅かす敵が来るわけでも人外の生物に遭遇するわけでも、殺人事件が起こるわけでもない。ただ毎日恋愛する。恋愛以外の事件は起こらないけれど、それでもこんなにも楽しめるというのは、ひとえにストーリーとキャラがよくできているからだと思う。
さあて二期が楽しみだな!
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posted by: mngn1012 | その他やおい・BL関連 | 23:04 | - | - |

原作:鹿住槙、漫画:夏乃あゆみ「花舞小枝で会いましょう」

原作:鹿住槙、漫画:夏乃あゆみ「花舞小枝で会いましょう」
母子家庭で育ち、母を亡くして天涯孤独となった少年・瑞城は、普段は姿も態度も女の子・美月として生活している。ある日、父を名乗る資産家の使いで美月を尋ねに来たのは、瑞城少年のバイト先の常連・波多野だった。美月の前では誠実な態度を取る波多野だが、実は逆玉狙いであることをバイト先で豪語しており、心を決して許すものかと瑞城はかたく誓うのだった。

女装ものや、彼と彼女が実は同一人物でしたものは決して珍しくはないけれど、戸籍まで女として生活させられているというのはちょっと驚いた。事情はわかるけれど、いやでもその。
この手のBLは「二人がどうなるのか」ではなく、「二人がどう結ばれるのか」を楽しむものだと思っているので、ベッタベタの展開がいっそ心地よい。はじめ、美月の前に現れる波多野はいつだって紳士で、瑞城のバイト先で店長に愚痴をこぼす波多野は誠実さのカケラもない酷い男だった。しかし直接言葉を交わすようになった波多野は、美月と会っている時同様に誠実な男だと分かるようになる。
好きな女の子のために頑張る波多野を素敵だと思う瑞城、自分を守ってくれる波多野に恋する美月。儚く見えて強靭な少女に惹かれる波多野、一生懸命働く瑞城が気になる波多野。答えはひとつしかないのに、絡まった糸がなかなかほどけない。
ラストも良い具合にベタな収束。

しかし絵柄がかわいらしい所為もあってか、美月は「少年が女装している」というよりも「単純に美少女」だった。美月も瑞城も女だったら最初から波多野は誤解しないだろうし、話としては成立しないことは分かる。女にしか見えない受けだって他にいくらでもいる。ただそれをおいてもBLっぽさやおいっぽさが薄かったことが少し残念。

父親からの援助を断った美月に、彼女の母親の遺産が少額であることを揶揄した波多野に対して、母親が命を賭けてつくってくれた金をそんな風に言うな、と美月が言い負かすシーンがいい。うまいこと言うなあ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 23:17 | - | - |

砂原糖子「真夜中に降る光」

砂原糖子「真夜中に降る光」
ろくでもない両親に嫌気が差して家を飛び出し、東京でホストをやっている、いかにも柄の悪い新二は、喧嘩後の満身創痍の状況をばか丁寧な口調で話す見知らぬ男に助けられる。その男津久井は新二がどんな口をきいても、酷い扱いをしても意に介さず、にこにこと笑っている。しかしある日新二は優秀で何ら後ろぐらいところのないかれがゲイだと知り、強請ってやろうと連絡をとる。

「夜明けには好きと言って」スピンオフ。とはいえこれだけでもほぼ問題なく読める。
前作で完全にコモノの悪役だった、全身ピアス男・新二の話。

こっちはこっちでホストというよりは寧ろチーマーかも。(いや何がホストらしいホストなのかは知らないが)
妻子への暴力が日常茶飯事だったろくでなしの父親と、息子を庇うことなく泣いてばかりで酒に逃げたどうしようもない母親の間に間違いで出来た新二は、案の定まっとうな生活を送ることができなかった。縋るところもなく、他の皆が普通に享受しているものが与えられず、多くのものを憎んで生きるほかなかった。創作では(そしておそらく現実でも)非常にありふれた、ヤンキーのプロトタイプのような設定だけれども、やはりそれは哀しいことだ。不幸な生い立ちが災いして自分を肯定する要素をひとつも持てなかった新二少年は当然のごとくひねくれて、口と性格の悪い虚勢ばかりを張りたがる大人になった。

こういう一筋縄ではいかない、言ってしまえば心を開かせる前に面倒くさくなって匙を投げたくなるような人間の相手として、津久井は非常に適役だ。温厚そうに見えて腕っ節が強く、ひとの嫌味をさらっと受け流し、腹黒いけれど基本的には善人で、結構遊んでいた過去がある大人。新二の悪意を理解した上で、気付かないふりでなかったことにしてしまう津久井は、そうすることでまるで新二の罪を軽減してくれているかのようだ。天然ボケに見える津久井の行動に、抵抗するよりも先に呆れてしまった新二は、徐々にかれに心を開いていく。初恋に目覚めたように一喜一憂し、容姿も恥かしいくらいに激変させるかれの無意識の純真さが可愛い。それでも自覚がないなんて、どこの中学生だ。
初めての感情にそれと知らず振り回される新二は、心を開くのが早かった分、閉ざしてしまうときも一瞬だ。変われるかもしれない、やっぱり変われない、という感情の狭間で揺れるかれは脆い。一進一退の恋愛はじれったいけれど、その分カタルシスも十分。因果応報、なことが良くも悪くも立て続けに起きる展開は、どこへたどり着くのか最後まではらはらさせてくれる。
個人的には新二の両親、津久井の弟とのエピソードがもう少し見たかった。ふたりの人格形成のキモになっていることだと思うので、ちょっと物足りない。

あらゆるところにピアッシングした新二のピアス描写も見どころ。自傷にも似たその行為は津久井には痛ましくうつったようだが、肉体的な傷みに通じるような表現はないし、倒錯的になりすぎずよかったのでは。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:55 | - | - |

砂原糖子「夜明けには好きと言って」

砂原糖子「夜明けには好きと言って」
優秀な成績で一流大学を卒業して銀行に就職したものの、小さな頃からの自分の容姿に対するコンプレックスからひとの目が見られずリストラされた一葉は、交通事故をきっかけに整形して、名前を変えて別人として生きていこうとする。一夜と名を変え、知人の頼みでホストとして働くことになったかれは、中学時代に自分を騙した男・黒石と店で再会する。

舞台はホストクラブ、二人ともホスト、周りもホストばかりなのに、何故かちっともホスストものらしくないという不思議な物語。面白かった。
容姿を批判され続けた所為で社交的になれなかった一葉は、整った顔立ちの一夜になり、自分のことを誰も知らない東京に出てきたことでまさに別の人間になった。自分より上の人間に勝ちたいと考え、そのためなら何でもする一夜は、本来のかれの姿というよりも、蓄積している一葉の過去によって生まれたものだ。ホストの仕事を内心馬鹿にしながらものし上がる、華やかな世界もあざとい人間も嫌いなままの一夜は、それでも一葉から逃れるために敢えてその世界に身を置こうとする。
親の借金を返済すべくホストになり、そのままナンバーワンになった黒石も決して華やかな夜の世界を好むタイプではない。かれが住んでいる家が、本来のかれそのもののようだ。失って、おそらく永遠に取り戻せないものに似たものを傍において、気持ちを慰めようとしている黒石の姿が切ない。

過去に黒石に騙されていたことがトラウマになり、かれに復讐してやりたいと願う一葉はそれでも、今の黒石に中学時代の不器用で純粋なかれの面影を見て惹かれてしまう。惹かれては自分の気持ちをなだめ、無理に憎もうとする。嫌な面を見ればほっとするのに、そのあとには必ずかれの本心が分かり、余計に惹かれてしまう。「好きになってはいけない」と自分に課す時点で既に恋に落ちているということから、一葉は懸命に目を逸らす。二度と傷つかないために、相手を傷つけてでも保身に走るのに、何故か憎みきれないという葛藤がいい。
今の黒石が、一夜を好きだと知って、更に一葉は戸惑う。一夜だから好きなのか、一葉と同じ人物だから好きなのか、それすらも偽りなのか。誰にも言えない秘密を持っているからこそ、誰にも相談できず、ひとり沈んで懊悩する。一葉との過去について語った黒石に向けられた「そいつに…会えたらどうする?俺はもうやめとくか?」という一夜の問いは、黒石の側から見れば非常に愚かな問いだけれども、一夜にとっては一番知りたくて一番知りたくない禁断の問いだったのだろう。好きな相手が自分と自分の間で揺れているように見える、というどこか滑稽な状況が苦しい。

好きだと言われても、抱き合って傍にいても、一夜の不安は当然ながら拭い去れない。嘘の上に成り立った黒石との関係が、永遠に続くわけがないと知っているからだ。いつか足元をすくわれるのではないか、いつか破滅するのではないかという恐怖は、徐々に予感になる。とうに日付が変わってから、日付上ではその日のことを「明日」と呼んでスケジュールを確認しあうふたりについて、「明日はもう来ていた。なのに、昼夜逆転した生活を送るものたちはよく言葉を間違える。今日が、昨日の続きのように思い込む。夜がまだ終わっていないのだと、信じたがる。」「眠れないのは、この夜を終わらせるのを恐れているからかもしれない」という文章が続くのだが、ここが物凄く好きだ。眠らなければ明日が永久に来ないような、脆いふたりの関係が崩れる日が永久に来ないような、そんなばかげた祈りだ。儚くて愚かで、こどものようでいい。

中学時代の二人のやり取りがまた初々しくて好きだった。転校前日に黒石が一葉に向けた言葉が、とても朴訥で純粋で可愛い。

ラストもなかなか衝撃的。砂原さんの、ともすればトンデモになりそうな設定に乗せられる切なさが好きだ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 18:43 | - | - |

佐倉ハイジ「大人になっても」

佐倉ハイジ「大人になっても」
人気漫画家と、かれが仕事をしている出版社に勤める編集という関係で偶然再会した高校時代の先輩後輩の物語。

ずっと気になっていた斉川に再会するも、なかなか相手の気持ちが読めず、混乱する三園。全体的に説明不足がちで、不思議ちゃんの気もある斉川に一見普通に対応しているようで、頭の中は常時こんがらがっている三園の葛藤が可愛くていい。
まさに「大人になっても」、かれらは高校生のままだ。高校生のままの不器用さと、時間の流れの遅さと、初々しさでもって生き続けている。駆け引きなんかひとつもできないまま、行動力と金だけは昔よりもある大人になって、そのギャップを埋められずに七転八倒する。
斉川の「好きだって言うんなら ……まぁいいや」という台詞もいかにもで好きだ。いい加減なわけでも適当なわけでもなくて、色々なことをひっくるめて、好きならいいか、と許せてしまう大らかさが佐倉ハイジだなあ。

同時収録の義理の兄弟モノも弟の必死さがちょっと滑稽で可愛い。

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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 00:41 | - | - |

楢崎壮太「渇愛モンスター」

楢崎壮太「渇愛モンスター」
ひとの生気を食べて生きる我舞谷は、女にだらしがないと同性からの評判が悪いのだが、同じクラスの桐山だけは普通に接してくる。それまで特に興味もなかった桐山に、ふと食欲が沸いた我舞谷はいきなり行動に出ようとする。

とりあえず設定はかなり緩い作りになっている。なぜ我舞谷がそうなのか、かれの家族もそうなのか突然変異なのか、生気を食べなければどうなるのか、そんなことはあまり気にせず、雰囲気としてとりあえず「そう」なのだと思っておけば良い。
その点さえ越えればあとは面白い。
生きるためにセックスしてきた我舞谷は、それがイコール愛情表現になることをなかなか自覚できない。生存できるかできないかという問題の前では、確かに好きだの嫌いだの言っていられないだろう。そういう特殊なかれの環境が災いして、我舞谷は自分がどうして桐山を求めるのか、気になるのかが分からない。分かろうともしないから、未来永劫答えが出ないような、そんな気になる。
そんな我舞谷の感情が伴わない行動に振り回されるうちに、愛情を抱いてしまった桐山は、何よりも我舞谷の気持ちを求めている。この桐山が、誰に対しても裏表のない、ひとを穿った目で見たりしない本当に「いい奴」だ。こういう受けは最近見ないので懐かしかった。真っ直ぐで、前向きで、ちょっと器用貧乏。自分の不幸や失敗を誰かに転嫁しない、だけど人並みに欲も怒りもある、いい子。そんなクラスの中心人物と、とにかく体で解決しようとする我舞谷はあらゆる面で食い違う。お互いのことが理解できずに苛々して、それでも恐くて本音が聞き出せない、じれったい恋愛がいい。

同時収録の「恋チュ!」(すげータイトル…)は陸上を引退した先輩と、かれに憧れて陸上を始めた後輩の物語。自分を慕う後輩に対して、ふざけて可愛がっているのか本気なのか読めない先輩に苛々する後輩。こういうディスコミュっぷりが好きだ。

これまで大人なのにショタっぽい絵、というイメージが強かったのだが、今回はどのキャラも年齢相応の絵柄になっていてよかった。これくらいのほうが好きだ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:52 | - | - |