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阿仁谷ユイジ「刺青の男」

阿仁谷ユイジ「刺青の男」
牡丹の刺青を背負う潟木、ラナンキュラスの刺青を胸に入れた武藤、鮫の刺青を腕に入れた埜上。三人のヤクザの前に現れる自称詐欺師・久保田。やがてそれぞれの物語がひとつに繋がってゆく。

すごい。
最初は「ヤクザなのに潟木(カタギ)君かー上手い事言ったなー」などと呑気に読んでいたのだが、とんでもない。読み進めていくうちにあまりに壮大な世界に奮えた。そしてラストには息を飲むしかない。終わったあと、何度も読み返すうちに鳥肌が立った。すごい。

ある朝、ひとりのヤクザが逮捕された。そのため、かれにある依頼をしていたべつのヤクザの予定が狂った。
それだけの話だ。ただ、それぞれにどうしようもなく人生がある。ひとりの人間の些細な行動で、誰かの人生が大きく左右されることがある。多少のズレが、本人すら自覚しないまま命取りになることもある。

再会した幼馴染みとあれよあれよと同棲生活を送ることになった、ものごとを深く考えないタチのヤクザ潟木の物語はとてもコミカルだ。状況的には、そんなに気楽で楽しそうでいいのかと突っ込みたくなるくらい。
二つ目の物語は、組長の妻に惚れていた男がその息子と微妙な関係を築いていく物語だ。無骨で昔ながらのヤクザ然とした武藤が、母親にそっくりの息子・有馬に翻弄されながらも惹かれてゆく。なかなか立場を崩さない武藤が懐柔されてゆく過程がかわいい。
三つ目はろくでもないヤクザ・埜上の物語だ。埜上のシマにある風俗店に面接に来た女の狙いに驚いた。付け睫毛がはがれ落ちるところが官能的。
そして完結編。潟木の予定が変わったことで起こった事態はあまりに残酷だった。眠る男が見ている夢があまりにも現実味がなくて、まるで幸せな現実なんてこの世のどこにも存在しないかのようで、全てが分かった瞬間にどん底につき落とされた。

自称詐欺師の名に相応しく、好きな相手の前でも自分を偽っていた久保田にとって、セックスは武器だった。自分の体の全てと感覚の全てを利用して、自分の仕事を全うする。理由がまともであれ、相手が悪人であれ、そうやって肉体を軽んじてきたことへの報いをかれは受ける。それも自分の正体と相手の正体を全て明かしてからは初めて潟木と抱き合ったときに。潟木が隠していた秘密もかれがそれほど深く考えないままに向けた凶器だということも分かっていて、更には後悔するのは潟木だと分かっていて、それでも久保田は拒めるはずの罰を受け入れた。
自分の振り下ろした腕も、つけた傷も直視できないような潟木のために、負わなくてもいい十字架を引き受けるほどに久保田は潟木を愛していたのか、それともどこかで誰かに裁かれたかったのか。不条理の渦を見つめるうちに、その中に飛び込んでしまいたくなったのか。刺青などは一瞬で霞むほどの、消えない印を自分にも刻みたくなったのかもしれない。

何度も書くが、とにかく凄い。好みが分かれることうけあいだけれど、わたしはものすっごく好きだ。散りばめられた伏線と、収束されてひとつの大きなうねりになってゆく過程のすべてにぞくぞくする。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:58 | - | - |

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