<< ミュージカル テニスの王子様 Supporter's DVD volume8 -立海大付属編- | main | たうみまゆ「隅田川心中」 >>

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

web拍手
posted by: スポンサードリンク | - | | - | - |

崎谷はるひ「甘い融点」

崎谷はるひ「甘い融点」
ラブホテルやヘルスなどを幾つも経営している風俗チェーン会社の三代目社長橋爪恭司は、自社が経営するラブホテルを見回っているとき、ヤクザ客に殴られていたウリの少年・陸を助ける。話を聞けば、暴力を振るうヒモ同然の彼氏に命令されて、体を売ろうとしていたと言う。20歳を目前にしているとは思えない幼い容姿同様に、知識も殆どないまま仕事をしようとしていた陸を何故か放っておけず、橋爪はきちんと知識がつくまでの条件つきで陸を自分と専属で契約させる。

復刊。
作者本人があとがきで書いている通り、おばかキャラとエロ産業に関わる男の特濃小説。「ANSWER」シリーズや「ねじれたEDGE」も大概濃いけれど、それ以外の「崎谷はるひにしてはおとなしめ」の作品でも業界的には濃いほうだと思うけれど、そういう次元を越えている。気持ち良いくらいにポルノだと思う。内容がないよう、ではないのだが、内容が殆どえろだよう。そして完全に性別受。ただ一回一回が長い上に頻度も高いけれど、あんまり好みの分かれるようなマニアックなエロではないので、性別受が嫌じゃなければ良いのではないかと思う。

口数が少ない上に話してもあまり要領を得ず、更にはひとに言いたくない過去が多いため、陸はほとんど自分のことを話さない。ただ時々、自分では不幸だとも思わずに吐き出す言葉から得られる情報だけでも、かれがかなり悲惨な人生を送ってきたこと、そして今もそのまま続いていることは窺い知れる。ろくでもない男に襲われているところを助けられたと陸は恋人のことを説明するが、傍から見ればそれは助けたのではなく、泥棒が他の泥棒から獲物を横取りしただけだ。けれどその泥棒がその前の泥棒より少しばかりマシだったために、陸はそのことに気付かない。気付かないことでしか生きてこられなかった陸
が気付かないふりをしているのか、本当に気付いていないのかは定かではないけれど、どちらにせよかれの生活が変わるわけではない。

そんな哀れな陸を見た恭司は、お節介ながらもバイト先の世話を焼いたり、食事を奢ったりしてやる。まあ教育と称してそれなりにやることはやっているのだが。そんな、これまでに出逢った人間とは比べ物にもならないくらい「やさし」い恭司を、だからこそ陸は「好きになれない」と思う。その後も会うたびに親切にされても、いつしか金のためだけでなく恭司と次に会う日を楽しみにするようになっていても、陸の頑なな気持ちは変わらない。いつもやさしい人間を好きになれない・信用できないことも、陸の過去に関係している。本当に優しい人間も存在することを本当の意味では信じられない陸はろくでもない恋人から離れられず、だからこそ永遠に幸福になれない。バイトと恭司から得た金があれば一人暮らしもできると思うのだが、そんな発想には至らず、ただただ金を巻き上げられ続ける。陸が恋人を憎みきれない理由を知った恭司は陸を更に不憫に思い、哀れみ以外の感情も抱くようになる。

この話は頼れるものを持たず、惨めな生活を送ってきたけれど心だけはまっすぐなままの陸が、運命的な出会いをして幸福になるまでのシンデレラストーリーだ。ただ、なかなか上手くいかないのは、陸自身が幸福になろうという意志を削がれて久しいからだろう。スタート地点の遥か後方に立ち尽くしたままの陸は、事あるごとに挟まれるエロシーンの所為で余計になかなか歩みが進まないが、それでも前進していく。本質的にはとってもプレーンな恋愛小説だと思う。
web拍手
posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 21:55 | - | - |

スポンサーサイト

web拍手
posted by: スポンサードリンク | - | 21:55 | - | - |