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シギサワカヤ「溺れるようにできている。」

シギサワカヤ「溺れるようにできている。」
おとなしい大学生・佳織は幼馴染みで八歳上の圭に告白して、付き合い始めた。初めての彼氏と最初から中距離恋愛というハードルの中、それでも恋愛に溺れていく。

官能的な表紙とタイトルから連想できるほどにはえろくない。ただ性描写という意味ではさっぱりえろくないが、特にスタイルが良いわけでも顔が良いわけでもない佳織の、なんともいえない色気に満ちている。下世話な言い方をすれば、初めてひとの手がついたことによって、あらゆる快楽に敏感になっているので、そのあたりの熟れかけた感じが脆くて良い。触れなば落ちん、とでも言うか、そういうえろさは十二分にある。

佳織は一見おとなしめの普通の大学生だが、気が弱すぎて他人とコミュニケーションを取ることが不得意になってしまっている。ひとの優しさに感謝するまえに「そうさせた」ことを反省してしまう、ひとの悪意に腹をたてる前に貧乏くじをひいた自分にへこみ、そういう風にしか受け止められない矮小さに落ちこむ、そういう子だ。彼女のそういう性格は長所でありながら短所である、とバイト先の主人は言った。まさにその通りだ。そういう彼女のおどおどした態度が一部の人間の被虐心を煽ることもまた、事実だ。
初めて恋人が出来た佳織にとっては全てが初めての経験で、そのひとつひとつに戸惑ったり新発見があったりするけれど、社会人の圭にとってはそうではない。この溝を埋めることは佳織にとっては非常に難解だ。些細な事に気を使ってくれる圭に申し訳なく感じたり、さりげない優しさに過去を想像して嫉妬したり、冷静な大人の態度に寂しさを覚えたり、これまでなら素直に長所として受け止められたことにもいちいち過敏に反応してしまう。
この佳織の不器用さがいたたまれないくらいにリアルだ。勿論全てのひとが共感できる類の感情ではないけれど、すっごく分かる。
そして圭もまた、聖人君子なわけではない。佳織が気に病むと気付かずに仕事の忙しさや自分のスケジュールの大変さを愚痴ったり、自分なりに一歩を踏み出した佳織の精一杯の頑張りやSOSを無視したりする。本当に気付いていないのか、思いやる余裕がないのか、分かっているのに知らんふりで少し苛めたいのか。どれであってもそれは、素敵な年上の彼氏像からは少し離れる。今まで知らなかった圭の一面に佳織はまた驚き、必要以上に傷つく。しかし必死に格好良い彼氏然としている姿も良いけれど、決して完璧ではないのだと思わせてくれる圭の姿もいい。しかもちょっとSでちょっと変態。ナイス。

自分がもっと嫌になるからひとの優しさがいたたまれないときがある、思い返して恥かしさと自己嫌悪のあまり泣けてくる過去がある、それでもなんとか踏ん張っている、そういう全てのひとに。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 23:52 | - | - |

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