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ひちわゆか「今宵、雲の上のキッチンで」新装版

ひちわゆか「今宵、雲の上のキッチンで」新装版
超高層ビルの近くにあるカフェでマネジャーをしている新は、容姿端麗でどんな男でも魅了するゲイでありながらも度を越えた毒舌の持ち主。ある日かれの働く店に来た酔っ払い集団を上手く収めたのが、超高層ビルの最上階に住む実業家の眞宮だった。端整な見た目とは裏腹に、好みの相手には素直になれず無意識に憎まれ口を叩いてしまう性格の眞宮は、口を開けば新と衝突ばかりする。しかし新はある理由で正体を隠して眞宮に毎日食事を届けることになる。

ひちわさんは文章にアクがないので読みやすい。こざっぱりしていると言うか、内容を追うのに全く障害がない。アクだらけでむせ返りそうな文章もツボにはまれば大好きだけれど、こういうあっさりした文はあまり読み手を選ばないので良いと思う。

新は自分の見た目の良さを知っていて、更には難アリの性格も自覚している。全面肯定するまではいかないけれど、取り立てて改善しようとも思っていない。歪んだ性格がそのまま言葉に反映されている、けれど悪人でもない。初対面の相手だろうと目上の人間だろうとぶつけられる、すらすらと流れるような皮肉は読んでいて気持ちいい。
眞宮は実際は非常に地味な男で、お洒落なものやみんなが羨む住まいにも頓着がない。仕事以外ではうだつが上がらないなりに「いいひと」なのだが、長年連れ添った妻にだけは素直に愛情表現出来なかった父に似て、ほぼ一目惚れだった新には何故か素直に感情が出せない。緊張して、何か気の利いたことを言おうとして自爆する。傍から見ていれば喧嘩を売っているとした思えないような会話を繰り返し、ひたすら後悔する。いい駄目おやじだ。
対極の性格でありながら、どちらも素直に好意を表現したり、相手の言葉の真意を聞くことが苦手だという意味では共通している。究極にオトナコドモ、な二人。本当は最初から相手が気になっているのに、顔を合わせると本音とは違う言葉ばかりが零れる。反省して次こそは素直になろうと思ったときに限って相手が憎まれ口をきいてくる辺りはとてもお約束なのだが、いちいち上手く行かない展開がじれったくていい。本人たちが噛みあわない状況をもどかしく思って苛立ったり傷ついたり自棄になったりするところも可愛い。

そんな上手く行かない日常の憂さを晴らすかのように、正体を隠した新と眞宮はひどく思いやりのある会話を繰り返す。
眞宮の秘書・多岐川の計らいで料理を届けることになった新は徹底して自分が誰なのかを隠し、電気もつけない部屋の中、「N」という名前で眞宮と接する。話しかけてくる眞宮に筆談で返事をする。自分が誰なのか知られていないということに加えて、思いつきをすぐに言葉に出せないその状況が新を変えたのだろう。対人関係を相談してくる眞宮に優しい言葉をかける新は、この奇妙な関係だけではなく、ひとに優しく接することのできる自分にも満たされているように思える。ぎこちないやり取りの中で確かに育まれていく情を大切にしている二人がいじらしい。

全てが明らかになったあとも、二人の関係は余り変わらない。余計なことを言う眞宮と、感情に任せて言葉が強くなりすぎる新。それでも互いに思いやって歩みよって、オトナコドモのコドモ部分がちょっとずつオトナになろうとしている。

新装版書き下ろしは新の誕生日のエピソードを描いた「春風の頃に」と、その直前の眞宮の状況が分かる「春風・前夜」の二篇。誕生日プレゼントを考えた眞宮が、その選択肢を多岐川に悉く殲滅させられるくだりが面白かった。「動産、不動産はもう少しおつき合いが深まってからにすべきかと」に噴いた。何を送ろうとしたんだろう…。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 23:05 | - | - |

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