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おのれナポレオン@東京芸術劇場プレイハウス 14時開演

作・演出:三谷幸喜

ナポレオン・ボナパルト:野田秀樹
アルヴィーヌ・モントロン:天海祐希
シャルル・モントロン:山本耕史
マルシャン:浅利陽介
アントンマルキ:今井朋彦
ハドソン・ロウ:内野聖陽

***
セントヘレナ島に幽閉されたナポレオンは、パリに戻ることなく胃癌で生涯を終えた。それから20年後、かれの死に疑問を抱く人間が、かれと晩年を過ごした人間たちに話を聞いて回る。かれらによって語られる英雄ナポレオンの真実の物語。

ステージシートという、ステージ横(実際ステージ上になりうる場所と高さ)の席だったため、むちゃくちゃ近いけれど正面からは見られなかった。その代わりに舞台脇に演者が来たときや、正面から顔を隠して何かをしようとしている様子はとてもよく見える。正面とサイドの両方を見られたらとても良さそう。日程が合えばライブビューイングで補完したいところだけれど、叶わず。

ナポレオンの死を調べる人物は実際には出てこない。その人物がそこにいるていで、代わる代わる出てくる人物はナポレオンについて語る。セントヘレナを出たあとばらばらになった自分たちを探し当てた人物に対して、みなそれなりに好意的だ。飲み物を出してやり、ナポレオンと過ごした孤島での思い出を語りだす。
かれらが実際に語っている現在と、その会話によって振りかえられるかつてのセントヘレナでの出来事が入り組んで語られ、次第にナポレオンの死の真相が明らかになる。

今は独身で酒場の女主人をしているというアルヴィーヌは、かつて夫のシャルルと共にナポレオンのセントヘレナ行きに同行した。もともと社交界で浮名を流していた彼女は、ナポレオンと懇意にしていたようだ。枕元で本を朗読し、ピアノを演奏し、彼女はセントヘレネでナポレオンの子を出産した。
アルヴィーヌは天海さん。やっぱり超絶きれい。格好良いし美しい彼女だけれど、すてきなコメディエンヌでもある。というかあの美貌で面白いことやると、普通の容姿でやるより数倍インパクトがあってギャップがあって面白いんだよな…。
ナポレオンに「でかい!!」と罵られたアルヴィーヌが、かれが居なくなってから「自分が小さいんじゃない!!」と叫んでいたところが好き。

夫シャルルはナポレオンから譲られた高額の遺産も賭博で使い果たし、今は女に食わせてもらっているジゴロだと言う。多くの臣下が去っていく中、最後までナポレオンの傍に残ったかれは、妻を寝取った皇帝陛下について怒りや憎しみを抱いていたわけではないと言う。
シャルルは山本耕史。こういうひとくせもふたくせもある、頭はいいけれどひねくれすぎているような役が本当に似合う。皮肉屋で、どこまでが本当で嘘なのか分からない。誰のことも好きじゃないような目をして笑っている。

ナポレオンの主治医であったアントンマルキは、現在も医師として活動しているようだ。一時期ナポレオンの不興を買って屋敷への立ち入りを禁じられていたこともあるかれだが、ナポレオンの死因については胃癌であったと確信を抱いている。そう、疑われているのはナポレオンの死因だ。病死であったと公表されたものの、かれの生前の状況や死後の状態から、ヒ素中毒の可能性が囁かれているのだ。
アントンマルキは今井朋彦。けちな男というか、どこか小物感が見え隠れする医師っぷりがすごくよかった。自意識の強さと脅えが共存しているような感じ。

イギリスに命じられて、セントヘレナでの全権を掌握していた男ハドソン・ロウは、ナポレオンの死後帰国してからの風当たりが強く、今は貯蓄を少しずつ減らしている日々だという。かつては栄華を極めた男が老いて、貧しさの中で生きている。訪ねてきた人物に妙に優しいのは、あまり人と接していないからだろう。そんな嬉しそうな姿さえ哀れでならない。
内野聖陽のハドソン・ロウがすばらしかった!今は凄くだめな見苦しい老人だが、かつてのかれは自信に満ちていた。自信があるからこそナポレオンに反発し、対立さえした。人間くさい意地とか見栄とか、常識とか倫理とか。秀才な凡人であったかれの人となりがよく見える。

ナポレオンは本当に殺されたのか。そうだとすれば一体誰が、どのように、何の理由で殺したのか。砒素で殺されたという疑念を持った人物は、その三つを徐々に解き明かそうとする。
同じようにナポレオンが砒素を盛られているのではないか、と疑った人物がいた。主治医であるアントンマルキだ。ナポレオンが食事に毒を盛られているのではないかと考えた彼はいくつかの事象から、誰かが毒薬辞典を使ってナポレオンのワインに砒素が入れたことを突き止めた。では一体、誰が?
皆がナポレオンへの憎しみを抱いていた。同性愛者(両性愛者?)であることを従僕のマルシャンに密告されて、ナポレオンに一時期出禁にされた医師アントンマルキ。ナポレオンに妻を奪われたシャルル。幽閉されている捕虜だという自覚が皆無のナポレオンに振り回され、更にはチェスで大敗して恥をかかされたハドソン・ロウ。誰にでも理由はあった。
しかしそれは決して殺すほどのことではなかった。アントンマルキに下された罰は期間限定のものだったし、シャルルは次第に狂ってゆくナポレオンに憐れみすら覚えていた。ハドソン・ロウは軍人として、天才ナポレオンをある意味では尊敬していた。ナポレオンを殺そうとしていたのは、いつからかかれを本気で愛し、かれと永遠にこの島にいたいと願うようになったアルヴィーヌだ。彼女はナポレオンのセントヘレナ脱出計画が実現しそうだという話を聞き、独占欲のためにかれを殺そうとした。パリに戻って大勢の女のうちのひとりになるくらいなら、かれを殺してしまいたかったのだ。
しかしその計画はナポレオンの命を奪う前に終了した。彼女の犯行を見抜いた人々が、彼女を島から追い出したのだ。
ではナポレオンはやはり病死だったのか。それも少し違う。体調を崩したナポレオンに、医師としての能力があまり高くないアントンマルキが、数回にわたって誤った薬を出したのだ。ナポレオンの体に、かつてアルヴィーヌに飲まされた砒素が残っている可能性があることを考えれば、決して正しい選択ではなかった。しかしアントンマルキはその薬を最善だと考え、ナポレオンに飲ませた。医療ミスがナポレオンを殺したのだ。
アルヴィーヌが飲ませた砒素の残っていたナポレオンに、アントンマルキが誤った薬を処方し、それを(そうとは知らないにせよ)シャルルが飲ませた。三人の行為が重なって起きた死亡事故を、全て知った上でハドソン・ロウが揉み消した。セントヘレナ総督だったかれは、敵国の英雄を手違いで死なせたと言うわけにはいかなかったのだ。
このくだりが明かされる前、シャルルやアルヴィーヌが首を必死で絞めてもナポレオンの筋力が鍛えられすぎててびくともしない、というドタバタのやりとりが長く続く。もともとそこまでコメディが好きではないということもあってか、ちょっと冗長に感じた。シリアスと笑いの割合がもう少しシリアス多めだと嬉しい。完全に個人的な趣味だけどさ。

ナポレオンの死にまつわる真実にたどり着いた人物は、最後のひとりを訪ねる。ナポレオンの忠実なるしもべ、マルシャンだ。ナポレオン以外の人物とは最低限しか口を利かず、常にかれのために行動し続けた男。ナポレオンの紹介で得た仕事に就いているかれは、人物にカフェオレをすすめ、全てを話した。
ナポレオンに恋したアルヴィーヌの暴走。いつも同じ処方をするアントンマルキ。かつて自分の遺産を狙ってセントヘレナについてきたシャルル。名誉を重んじるハドソン・ロウ。それら全てを、天才ナポレオン・ボナパルトは知っていた。かれらがどう行動するか知っていて、マルシャンに狙いを打ち明けた。幽閉された島で安全ながらも不自由で不名誉な生涯を送ることは、かれにとっては「緩慢な死」だ。それよりも「一瞬の死」を選ぶ、と。
しかしナポレオンにとって自殺は惨めなものであったし、かれはカトリック教徒でもあった。そのかれが思いついたのは、マルシャンにいくつかの手助けをして貰い、周囲の人々の連携によって自分を殺させる、という一世一代の作戦であった。それはすべて、ナポレオンの想像の通りに進んだ。そう、ナポレオン暗殺の犯人はナポレオンなのだ。
躊躇うことなく全てを語るマルシャン、そして四人。かれらの話には続きがある。アルヴィーヌが使った砒素は、セントヘレナに残っていた。だからかれらはそれを五等分し、ナポレオンの死に疑問を持って自分たちに辿り着いた人物がいたら、少しずつ砒素を与えて消してしまおうと誓ったのだ。ある人物が訪ねた先で飲まされたワイン、お茶、カフェオレ。それらがすべて、砒素入りだったのだ。
真実に至った人物は、そうして息を引き取る。ナポレオンの名誉は、ナポレオンの死後も、ナポレオン自身の計画によって守られるのだ。

ナポレオンは野田秀樹。さすがに当て書きしただけあって、せっかちな小男だったというナポレオンはぴったりだった。甲高い声をあげ、ちょこまかと走り回り、自分で自分に笑ってしまうところもある。ものすごく頭がきれて、奇妙な人望があって、自尊心が高い。我儘を言っても、女にでれでれしていても、どこかにいつでも底知れないものを持っている。
ハドソン・ロウとナポレオンは一度だけチェスをした。数手先のロウの手まで読んだナポレオンの圧勝だった。しかしチェスと同時並行で行われた舌戦の時に激昂したナポレオンのある態度がルール違反に当たるとして、ロウは負けを認めなかった。それはチェスの試合内容には関係のないルール違反であることはロウが一番良く知っていて、それでもかれは「勝者」として振舞い、席をたった。その時ナポレオンはロウに言葉をかける。これが本物の戦場じゃなくてよかった。そうだったら君の軍は既に、殆どを失っていただろう、と。
情けないロウの態度に怒る臣下たちの中でナポレオンだけが冷静だった。冷静で冷酷で、何よりもロウを苦しめた。このうすら寒いまでの知性と、嫌味。おのれナポレオン、である。

途中から明らかにマルシャンがあやしかったし、訪ねてきた相手に二度も「カフェオレを飲みながらゆっくり話をきいてください」というようなことを繰り返していたので砒素が盛られているのだろうということも分かった。その先にナポレオンがいることも、かれがナポレオンの忠実なるしもべであるということを考えればそれほど難しい答えではない。なによりこれは「おのれナポレオン」なのだ。ナポレオンに悔しさと憎しみをにじませつつ、それでも感嘆してしまうのだ。よくもやってくれたな!と、笑いながら怒るしかない。
ミステリではあるものの、犯人が誰であるのかはそれほど大きな問題ではない。そういう意味でこのオチに不満はないけれど、そこまでのガイドが親切すぎる気がした。そこまで一から十まで言わなくても察することができるよ、わかるよ、と言いたくなる。噛み砕きすぎて、こちらに想像の余地がない。きっちり話を伝える、広い間口に向かって見せる、という意味では正しいんだろうけれど(そしてこの舞台はその話題性や今後ライブビューイングされることなどを鑑みてそういう舞台なんだけれど)、ちょっと淋しかったな。
十分面白かったんだけどドラマ的というか、あんまり舞台見た!という感じではなかった。

***
ロビーには舞台の模型が展示されている。美術は勿論堀尾さん!
この試みとても好きだなーすべてのお芝居でやってほしいくらい。

特筆すべきは物販の素晴らしさです。王冠。
トートバッグが1000円なので二つ買ってしまった。可愛いんだもん…。同じデザインでTシャツも出ていたんだけれど、色がトートバックに比べて淡いというか好みじゃなかったので断念した。携帯ストラップもあったけれど付けるところないし、ね!がまん!


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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 21:38 | - | - |

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