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「祈りと怪物 ウィルヴィルの三姉妹」Ninagawa version

作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:蜷川幸雄

トビーアス:森田剛
ドン・ガラス:勝村政信
バララ:原田美枝子
ヤン:染谷将太
テン:中嶋朋子
パキオテ:三宅弘城
マチケ:宮本裕子
レティーシャ:野々すみ花
アリスト:大石継太
エレミヤ:渡辺真起子
ペラーヨ:村杉蝉之介
パブロ:満島真之介
合唱隊長:富岡弘
ローケ:新川將人
ヤルゲン:石井愃一
ダンダブール:橋本さとし
ジャムジャムジャーラ/ドンドンダーラ:三田和代
メメ:伊藤蘭
グンナル:古谷一行

***

ケラリーノ・サンドロヴィッチの新作を、ケラ本人が演出したバージョンと蜷川幸雄が演出したバージョンで二種類上演しましょう、という企画。キャストも異なるこの芝居、可能ならばどちらも見たかったんだけれど予定上叶わず。見られたのが蜷川さんのみになったのも単純に日程が理由です。
しかし片方見ると、「ここの演出はどういうふうにやったんだろう」「この役はどういうふうにやったんだろう」と余計に気になるね。生瀬さんの評判が物凄く良いので気になる。
15分休憩が二回の三部構成で、4時間10分。18:30に開演して、会場を出たら23時だった。

***

架空の国、架空の町・ウィルヴィル。そこに暮らす人々の群像劇。
足が悪く気弱なトビーアスは、動物園で働いている心優しい青年。エゴイスティックな祖母ドンドンダーラと二人暮らしをしている。ドンドンダーラには双子の姉・ジャムジャムジャーラがいる。かつてドンドンダーラと結婚を誓った裕福な恋人と結婚したジャムジャムジャーラは、町一番の権力者エイモス家で暮らしている。ドンドンダーラはそれから80年以上、姉への恨み言を繰り返しながら生きている。
トビーアスには、教会で働く友人パブロがいる。明るく勝気なパブロは若者らしい軽率さを持ち合わせている。エイモス家の三姉妹の末娘マチケがトビーアスに好意を抱いているのをいいことに、トビーアスを説得し、かれは自分も一緒にエイモス家を訪れることに成功する。
それがかれらの人生を大きく変える。ドン・ガラスはトビーアスを気に入り、パブロとかれを自分のもとで働かせる。祖母が憎む祖母の姉の屋敷でトビーアスは働くことになった。

屋敷には元料理人現執事のアリストとメイドのメメの夫妻がつとめている。数年前に息子を亡くして以来、二人の気は晴れない。町を訪れた道化に「息子が見えるおまじない」をかけてもらった嫁は、息子の幻影と会話しはじめる。最初は妻を必死に制していた夫だが、おなじまじないをかけられ、ついに夫妻は幻覚の息子と三人で生活するようになる。

三姉妹の長女バララは、年上の司祭グンナルと両思いなのになかなかうまくいかない。生活に憂いた人々が信仰心を捨て教会に行かなくなったことに絶望し、バララともうまくいかないことに自棄になったグンナルは酒に走っていたが、久々に町を訪れた錬金術師と組んで計画を練る。金で雇ったエキストラを利用して奇跡を起こしたように見せ、神への信仰と自身への信頼を取り戻したのだ。
そしてとうとう行動にうつしたバララのおかげで、グンナルとバララは両思いになる。
錬金術師ダンダブールは、道化の格好をした白痴の相棒パキオテと組んで一発当てようとする。グンナルの一件で神の力を人々に示したあと、「願いが叶う薬」としてライ麦粉を高く売りつけたのだ。実際白痴のパキオテには人知を超えた能力があり、かれの力が込められているその粉はある程度の効果をもたらす。しかし後年パキオテの体調悪化が原因で効力は歪み、飲んだ人々を恐ろしい死に導くことになる。

次女で大酒飲みのテンは、町に流れ着いたヤンという男に夢中だ。溺れていたジャムジャムジャーラを偶然通りがかって助けたことでエイモス家の客人として迎え入れられたヤンは、テンと結ばれる。自分と母を捨てた顔も名も知らぬ父への復讐心を抱いているかれの背中には、被差別民「ヒヨリ」であるという焼き印があった。
三姉妹の父ドン・ガラスの言葉から推察すれば、ヒヨリは疑わしき者、裏切ったかどうかの証拠はないものの疑惑があるもの、のことのようだ。裏切り者は必ず殺すというドンは、疑惑があるが証拠がないもの・今後も疑い続けなければならないものをヒヨリだと読んだ。ヒヨリは個人の問題ではなく、ヒヨリの子供は生まれながらにヒヨリとして扱われ、差別され続ける。背中の焼き印だけでなく、外出の際には腕章をつけることが義務付けられている。エイモス家がしばしば利用する仕立て屋もヒヨリだ。何年も外に出ていない父ローケが社会の仕組みを諦めて受け入れているのとは反対に、年頃の娘レティーシャは疑問や不満で一杯だ。

パブロとトビーアスが「先生」と呼ぶペラーヨは、地下組織の一員としてエイモス家の失墜を狙っている。ドン・ガラスの後妻エレミヤと通じているペラーヨは、彼女からドンの情報を聞き出している。
ドン・ガラスに憧れ、かれのような強者になりたいと願ったパブロの密告によってエイモス家に捕らえられたペラーヨは、拷問を受けるも仲間のことは一切話さなかった。しかしその後何者かにパブロが襲撃された事件の犯人であると考えられ、処刑の対象となる。下手人に立候補したトビーアスによって逃がされるも、再び町に戻ってくる。

***

和装の合唱隊(コロス)たちが、パッヘルベルのカノンを背景に一気にうたいだすところから物語は始まる。左右に設置されたモニターには、コロスがうたう歌詞が表示される。コロスたちが出てこないシーンでは、あらすじや場所の説明、場面転換のト書きが表示されている。(「エイモス邸、リビング」「汽笛の音がする港」など)コロスが一糸乱れぬ歌、寸分たがわぬ発声、という感じではなかったので歌詞が出たのは助かる。状況説明が多いので、歌だけではおそらく把握しきれなかったのでは。
寺山修司を彷彿させるような風体のコロス、途中から使われる鏡の背景、一本ずつ火をつける蝋燭で埋められたシャンデリアあたりはまさに蜷川さんの得意分野。森田剛の芝居も非常に蜷川さんの好きそうな感じだった。蜷川演出を見に行くと「あ〜幸雄こういう子好きだよね〜分かる!」と脳内で一方的女子会が始まります。
ギリシア悲劇あり、カラマーゾフあり、おとぎ話あり、猿の惑星あり、の群像劇。4時間超は長いんだけど、ふしぎと蛇足や冗長気味に感じられるところもなかった。ひとつの無駄もない!というのではなく、ここ要らないだろ…と思うところがなかった、という感じかな。眠いとかだるいとか思わなかった。

トビーアス森田剛。気弱な19歳少年を好演。森田剛の知識が剛健コンビで大人気ジュニア→バレーボールに合わせたドラマ「Vの炎」出演、の時点で長らく止まっていて、気づいたら「金閣寺」とかに出てたのだが、舞台はかれにとっていい場所なんだろうな。失礼なことを言えば、身長が低くて30歳越えると、ドラマの仕事って限られてしまうのではないかと思うので、舞台があって良かった。存在とマッチング両方の意味の「あって」で。
動物園で働いていたトビーアスにとっては、何の見返りもなく食べ物をひたすら要求する祖母は、ある意味で動物だったのだろう。更に今の自分が存在するのは祖母のおかげであることも分かっている。だからかれは祖母に食事を与え続けた。
トビーアスが何を考えていたのかははっきり分からない。かれは横暴なところのある強引な友人パブロが好きで、動物が好きで、祖母を大切にしていた。寂しそうなガラスより、自分を信じて優しく接してくれるガラスより、悪態をつくだけの祖母が大切だった。おそらくガラスはトビーアスが祖母のために食料を持ち出していることに気づいていたのだろう。それでもかれはずっと黙っていた。しかしジャムジャムジャーラの宝石を盗んだことは許さなかった。それは生きるためではないから。それが何度も口にしながら、内容については語られなかったガラスの「倫理」なのではないか。

トビーアスを慕う三女マチケ。傲慢で我儘な父親そっくりだと二人の姉に言われる末っ子は、可愛くて傲慢でとってもかわいい。若さならではの愚かさも魅力だ。
マチケのシーンで一番好きなのは、自分の制止も聞かずに食料や宝石を持ち出したトビーアスがガラスに処刑されようとしているところに彼女が現れるシーンだ。娘がトビーアスの命乞いをするであろうと考えたガラスは、マチケに家の中に戻るよう命令する。しかしマチケはそれに従わず、トビーアスを父親の前の地面に叩きつけて「殺して」と言う。それがエイモスの「倫理」であり、彼女の生き方だ。
そしてマチケの目の前で、トビーアスはガラスの撃った弾によって死ぬ。息絶えたトビーアスに駆け寄った彼女は「死んだの?」と繰り返し、泣き喚く。そこに矛盾はない。愚かで美しい、傲慢で馬鹿で愛すべき三女。
宮本さんは写真よりだいぶかわいらしかった。声もかわいい。

トビーアスの友人パブロ。
大きな声と空回る配慮、意味をなさない積極性。トビーアスより何倍も気を使っているのに、すべてトビーアスに持っていかれる男。バカだけどいい奴だったかれは、エイモス家で次第に狂い始める。力で全てを手に入れ支配してきたドン・ガラスに憧れてしまう。不器用だった男が、次第に狂って行く。
パブロの笑顔の卑屈さが秀逸だった。大きく剥かれた目は笑っておらず、むきだしになった歯とつりあげられた口の端からは何の感情も伝わってこない。あの笑顔はどんな冷たい目よりも怖い。
襲撃され失明したあと、パブロはドン・ガラスにトビーアスの解放を願い出る。いつでも動物園に戻せると最初に約束したガラスに、そうしてやってほしいと言う。結局トビーアス自身が拒んで終わったのだが、パブロはどういうつもりだったのだろう。酷い目にあったから、友人には二の轍を踏ませたくないという優しさか。出世できないから、トビーアスだけ成功してたまるかという嫉妬か。

次女テン。大酒飲みで物事を斜めから見ている彼女は意地悪で奔放で、けれど優しい恋人・姉の部分も持っている。頭がきれる彼女は、最初からヤンの正体をある程度見破っていた。ヤンがわざとジャムジャムジャーラを溺れさせ、そこを助けることでエイモス家の庇護を得たのだと知っていた。知っていて、それでも惹かれた。
流れついた男、ヤン。他のキャラの濃さにかれが割を食ってしまったというか、薄味になっている印象。自分と母を捨てた父への復讐を狙っている、ということがいまひとつ押し出されてこなかった。ヤンがこそこそしていることと、常に重そうな茶色の袋を持ち歩いていることから、かれがウィルヴィルの町を騒がせている連続殺人の犯人であることは明らかだった。そもそもこの連続殺人自体もインパクトが薄かったんだけど。
ヤンが復讐のために連続殺人を犯していること、「もうすこし」で成就すると言うかれが何かを狙っていることは分かっていた。自分の子を身ごもったテンに「誰かに妊娠を打ち明けたか」と確認していたので、胎児や嬰児を生贄に使うのかと思っていたら、必要なのは町一番の老人の臓器だった。
復讐を願っていた父はガラスだった、テンとヤンは血のつながったきょうだいだった、と明らかになるあたりはギリシア感満載!祖母の内臓を手にして、祖母の血にまみれた男は真実を知る、なんてできすぎていていい。

アリストとメメ。幻覚の息子と三人で暮らしはじめてからの二人の、幸福な狂気がとてもよかった。夫妻が見つけ出した、息子が集めていたサナギの缶の蓋をあけると、無数のきれいな蝶が出てくる。サナギはとっくに死んでいるのに、蝶が見える。現実を見ないふたりの目に映るものが、この芝居で一番きれいなものだ。
幻覚の息子が反抗期になって、アリストに暴力をふるうようになる。幻覚に首を絞められて死にそうになる夫を見て、夫妻は自分たちにかけられていたまじないの終了を願う。現実に戻れなくなる両親への、それくらい自分を愛していた両親への、息子の最後の孝行だったのかもしれない。

ローケとレティーシャ。ナチス政権下のユダヤ人を彷彿させる「ヒヨリ」の親子。レティーシャに向かってマチケが言った、「(何の罪もないのに生まれながらに差別される人生を)理不尽だと思っているんでしょう。でも理不尽なのはあなたの父親よ。普通そういう生まれの人は子供をつくらないのよ」という台詞が印象的。自分にはつれないトビーアスが親切にしたレティーシャへの苛立ちからくる悪意も十分に存在しているが、その言葉はある意味で、マチケの本心なのかもしれない。圧倒的に理不尽なシステムを目の前にして、同じ思いをさせると分かっていて子供をつくったレティーシャの親、システムに対応できない親に本気で驚いている。辛い思いをさせるだけなのに何故、と。それはマチケの優しさだ。狂った町でいちばん狂った家に生まれた彼女の倫理だ。

錬金術師ダンダブールと、白痴パキオテ。橋本さとしさんの濃いお顔でみる、長髪+帽子+濃いメイク+怪しげな衣装のすばらしさ!ダンダブールは一二を争う気楽な役どころというか、それほどしがらみのない軽快な立ち位置だった。しかしパキオテが死んだとき、「一人ぼっちだ」とかれに駆け寄るダンダブールにも闇があるのだろう。会話のうまく成立しない相棒と二人で旅をする日々は楽しかったのだろう。
白痴の道化パキオテ。白痴で聖人、というのはよくあるネタだけれど、コミカルで切なくていいキャラだった。パキオテの体調悪化にともなって、かれが力をかけていた粉が悪いものに転じたので、アリストとメメの幻覚の息子が暴力をふるいはじめたのもその影響かな。

長女バララ。予知夢の能力を持つ女性。しっかり者で貞淑でおくてに見えた彼女だけれど、三姉妹揃って会話をするシーンあたりからそうではない一面が見えてくる。長いドレスに隠れた太腿に銃を常備している彼女の、あっけらかんとした生死観がいい。
司祭グンナルと一時の恋愛の成就がかわいらしかった。

ペラーヨ。グループ魂のバイト君だ!朴訥とした優しい先生は、じとっとした陰気さと粘着っぷりを持っている。自分に恋している女を利用し、頭ごなしに怒鳴りつける。豹変っぷりがこわい。

ドン・ガラス。何もかも力で手に入れてきた権力者。病で死んだ妻を愛し、祈ったけれど助けてくれなかった神と教会を怨み続けている情のつよい男。自分の帰宅をいつも待っていてくれた犬を溺愛していた男。略奪してきた女を後妻にし、使用人に片っ端から手を付ける男。裏切り者を次々始末するかれの顔は、トビーアス曰くつらそうでやりたくないことをやっている表情をしている。
傲慢で愚かなのに憎み切れない魅力がある。強奪殺戮を繰り返してきたかれは、ウィルヴィルの怪物だ。恐怖政治を敷き、暴力で何もかも意のままにして、けれどかれの中には確かに「倫理」がある。狂った都合のよい倫理だけれど、筋が通っているように思えてしまう。

三姉妹がリビングできゃあきゃあ会話しているシーンがとても好き。「女なら惚れた男を何人か殺しているもの」という彼女たちの狂った感じが華やかでかわいらしいの何の。めいめいに持っている銃を部屋の中でぶっぱなし、ガラスが割れる音を聞いて笑っている。生命力に満ちた美しい狂人たち。
ドン・ガラスよりよっぽど、この三姉妹のほうが狂っている。彼女たちの良心は傷まず、狂った善悪の中で生きている。

架空の町ウィルヴィルは荒廃していく。エイモス家の没落を狙っていたはずの地下組織の人間たちは思想を捨てて暴徒と化し、「願いがかなう薬」の効力が歪んで人は殺し合いをはじめた。エイモス家からも人が少しずついなくなる。
それぞれ恋人を失った三姉妹と、母を失ったドン・ガラスは、ウィルヴィルの町を去ることを決意する。荷物をまとめ、真っ白なドレスを着て彼女たちは旅立つ。しかし彼女たちが生きてウィルヴィルから出ることはなかった。コロスによって語られる顛末は、彼女たちの凄惨な死ではなく、「宝石になって九つの国の女王に使われた」というような寓話めいたもの。三姉妹に惨めな死は似合わないから、それでいいのだろう。

数年後。ウィルヴィルの町にある教会に、老いた乞食が訪れる。「どこかで会った」気がするけれど思い出せない司祭(ローケ)からパンと毛布と灯りをもらった男は、一人夜の街をさまよう。見る影もない男は、「俺はドン・ガラスだぞ」と虚空に向かって呟く。男がステージの奥に向かうと背景セットが開き、そのままサイレンの音がする、夜の渋谷に男は消えてゆく。
ウィルヴィルは架空の町だ。作品冒頭で、きちんと「架空の町」と注釈がつけられている。けれどウィルヴィルの町を歩くと、渋谷につながる。ウィルヴィルは渋谷だ。ウィルヴィルは東京だ。大阪でやればウィルヴィルは大阪に、梅田になるだろう。ウィルヴィルは現代日本だ。
「猿の惑星」のようなラストだなーと思ったけれど、それまでのエピソードが、かつて現実にあったことのオマージュだったので納得。ウィルヴィル=東京や大阪ひいては日本を、荒廃から立ち直った町と考えることも可能なんだろうけれど、あらゆる残酷なことが起こっている怪物だらけの町と考えたほうがしっくりくるな。怪物は潜んでいるし、限界を越えた祈りもまた、沢山潜んでいるのだ。
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posted by: mngn1012 | ライヴ・舞台など | 12:31 | - | - |

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