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ヘルタースケルター

原作:岡崎京子
監督:蜷川実花

りりこ:沢尻エリカ
麻田誠:大森南朋
羽田美知子:寺島しのぶ
奥村伸一:綾野剛
吉川こずえ:水原希子
沢鍋錦二:新井浩文
保須田久美:鈴木杏
比留駒千加子:住吉真理子
南部貴男:窪塚洋介
和智久子:原田美枝子
多田寛子:桃井かおり


原作は既読だけれど、特に思い入れはない。勿論きらいではないけれど、特に好きな作品でもないというのが本音。蜷川実花は写真家としてはすごく好きだけれど、「さくらん」は見ていないので映画監督としては初めて。

***
トップモデルのりりこは、全身整形によって美貌を手に入れたという秘密がある。気性の激しい彼女は自分の美が失われること、自分の勢いが続かないであろうことに怯え、マネージャー・羽田に当り散らすことも少なくない。
若くてうつくしい後輩モデルの登場や恋人の婚約などにより、りりこの精神は徐々に破綻していく。


ひたすらりりこの物語だった。美しさを後天的に手に入れた彼女が、自分の美しさに見とれ、美しさゆえに傲慢になり、美しさゆえに奔放に振舞う。彼女自身が妹に言ったように、彼女は美しいから強くなった。人の目も、揶揄も、批判も恐れない。マネージャーが持ってきたミネラルウォーターの温度が好みじゃないとぶち切れ、メイクルームに訪ねて来た恋人とその場で抱き合う。真っ赤な下着に濃いメイク、自室で高いヒールの靴を履いて煙草を吸う彼女は強くて美しい。
りりこは女王様だけれど馬鹿ではない。自分に演技力や歌唱力や話術がないことを知っているし、自分が替えのきく一時的な存在であることも知っている。だから映画の出演時間のためにプロデューサーと寝るし、仕事を休めば忘れ去られると分かっているからひたすら仕事を詰め込むし、金持ちのお坊ちゃんである恋人との結婚を狙って情報をリークさせる。強い彼女の心の中には、いつだって不安がある。どんなに支持されていても、どれほど歓声をあびていても、彼女は安心できない。何十万人が自分を好きでも、自分はそのひとたちのことを知らない、と彼女は言う。
カメラのシャッターを切られるたびにからっぽになる、とりりこは言う。けれどそのシャッターの音と、安っぽく繰り返される呪文のような「かわいい」「最高」の声で彼女は輝き、甦る。

沢尻エリカはとにかく可愛い。可愛くて綺麗で美しくて、非常に不安定だった。撮影後もりりこの演技に引きずられていると報道されていたけれど、実際に映画を見ると納得する。
りりこの画像を見た検事・麻田は「一見完璧に見えてバランスがずれている」と言う。皮膚と表情と骨格がアンバランスなのだ、と彼女の笑顔を称していた。そう言われてみると、本当にそう見えてくる。沢尻エリカがそう見せてくる、のだ。
羽田との最初の絡みのシーンが凄い。りりこの整形は、単に手術をして完了、の世界ではない。薬とメンテナンスを定期的に摂り続けることでしか維持できないように出来ている。だから放っておけばりりこの体には黒い痣が浮かんでくるし、髪が抜けたり、皮膚の反応が鈍くなってくる。自分の顔にその兆候を見つけたりりこは、部屋の掃除をしながらりりこの美しさを熱弁する羽田の言葉に相槌を打ちながら、涙を零す。真っ黒に縁取られたアイメイクを越えて、彼女の体で数少ない「もとのまんま」の目玉から涙がこぼれる。けれど口元は笑っている。りりこの表情はいびつで、不気味で醜くて、けれどやっぱり美しい。「バランスがずれている」顔だ。ここの芝居が凄すぎてふるえた。

そしてそのあとりりこは泣いていたそぶりも見せず羽田に近づき、彼女を誘惑する。羽田が心酔する美しさで彼女を魅了する。沢尻エリカがすごければ、寺島しのぶはもっと凄い。原作の羽田は20代前半の女性だったが、映画の羽田は35歳だと名乗っている。なぜ羽田の年齢を上げたのか、寺島しのぶにキャスティングしたのか、不思議だった。その確固たる理由はやっぱり分からないけれど、ともかく凄かった。
原作の若い羽田は、その年齢もあって世間を知らないところがあり、おそらく初めて就いた仕事に全力で取り組んでいる。同世代であろう彼氏も仕事をしていて、お互いに愚痴ったり労りあったりしながら同棲している。若いので肌は綺麗だけれど、安い化粧品しか使えないので、りりこにランコムのスキンケアを貰って喜んでいた。
映画の羽田は35歳で、化粧っけが全くなく、りりこに口紅をもらっていた。同棲しているのは年下で、派手な容姿の彼氏だ。りりこの仕事の影響でしばらく家に帰れないというとき、羽田が財布から札を数枚出して食事代だと言っていたのでおそらく無職だろう。仕事から帰ってきた羽田がかいがいしく、似合わないぶりぶりのエプロンをつけて料理をしているのを尻目に、ひたすらソファでゲームをしている。
羽田はお人よしで、馬鹿で騙され易い女だ。人の裏を見ることをせず、言われたとおりに振舞う。似合わないエプロン、ダサい下着(この下着のチョイスは神がかっていた…!!!)、見ているだけで苛々する要領の悪さ。その裏に、狂気のようなりりこへの心酔を秘めている。巻き込まれた感じがつよかった原作の羽田と異なり、映画の羽田は自分で選んで行動した印象がある。りりこに惹かれ、彼女は自分の行動を決めた。りりこの命令に従う、という決断をしたのだ。だから、南部の婚約者を襲ったときも、奥村より羽田の方がキモが据わっていた。
奥村がダメなヒモ(推定)になったことでより一層羽田の要領の悪さ・バカ女っぷりが明らかになった。ふたりの部屋に来たりりこの誘惑に、簡単に乗ってしまいそうなのは映画の奥村だ。

りりこの美しさ、りりこ・羽田・奥村のドラマが濃厚に描かれた分、端折られてしまったのが和智久子を中心にしたクリニックの問題だ。違法な医療行為を重ねていたクリニックの実態や、和智久子の考えなどがぼやけてしまった。麻田がどういう事件を追っていたのか、映画だけを見るとすこし不明瞭ではないかと思う。
個人的には、この和智久子が化粧っけのない女であったという事実と、顔に傷を負った南部の婚約者が母親と一緒に彼女のクリニックに縋ったというエピソードが物凄く印象的だったので、削られてしまったのは残念。南部の婚約者もまた「タイガー・リリー」であったということ、女性心理を煽ってたくさんのタイガー・リリーを生み出した女が自身の美を求めなかったことは非常にシニカルでいいエピソードだと思う。
あと最大のあおりを食らったのはりりこの妹と麻田の関係かな。容姿と気弱な性格でいじめられている千加子に、麻田はりりこの話を聞こうと近づく。彼女の過去の写真を麻田が手にしたのは、かれに憧れていた千加子の強力があったからだ。
りりこが失踪したあと(おそらく)数年が経過したのち、麻田は渋谷の交差点で、かつてよりかなりきれいになった千加子と偶然再会する。前半部分が全くなかったので、数年後のシーンでいきなり千加子が麻田に親しげに話しかけてくるのにびっくりすることになる。
濡れ場そんなに長くなくていいからこっちをもうちょっと見せてよ、と思った。

南部貴男は窪塚洋介。窪塚洋介って格好良いんだな、と今更知ったよ…キャスティングを聞いたときから、漫画から出てきたような似方をしていると思っていたが、想像以上だった。顔がよくて金があって女にもてて、空っぽの男。なりたいものを見つけては片っ端から諦めてきた男は、人にも諦めることを強要する。りりこには自分との結婚を、婚約者には自分とのまともな夫婦生活を諦めさせる。
婚約者がけがをしたあと、りりこは南部と久々に会う。壁を壊すことをせず諦め続けてきた男の言葉を、抱きしめながら聞くりりこの表情は、もはや恋愛をしている人間の顔ではない。仕事も恋人も自分の美貌すらも、自分の手で奪ってきた彼女には、南部はどういう風に見えたのだろう。

こずえも良かった。すらっと伸びた手足と白い肌と、あまり化粧をしていない整った顔。彼女の美しさは、存在するだけでりりこを傷つけるナイフのようだ。
南部の婚約者だけでは飽きたらず、こずえの顔を傷つけるようにりりこは羽田に命令する。思いつめた顔の羽田が自分にカッターナイフを向けたときも、こずえは動じない。どうせ自分もそのうち飽きられる、刹那的な「欲望処理装置」だとこずえは知っている。
モデルの仕事にも人気にも執着しない、生まれながらに美しいこずえ。彼女こそ、りりこが語る「きれいだから強い」の体現者だろう。
映画は、りりこについて関係者が語るシーンを挟む演出で進んでいく。その中でこずえは、「モデルは皆(体型維持のために)吐いている」となんでもないことのように語っていた。実際この日の彼女も、トイレで慣れた手つきで吐いていた。個人的にはこれでこずえのイメージがブレてしまった。渦中にいてなお「タイガー・リリー」にならないのがこずえだったのに、彼女も片足を突っ込んでいるような感じになっている。遊園地でポッキーを食べているところなんかはすごくこずえっぽいのになー。

繰り返す手術と投薬、そのたびに仕事を休まねばならないことへのストレス。自分が休んでいた間にこずえが表紙を飾っていたことを知ったりりこは思いつめる。ビルの屋上にむかう彼女を社長、羽田、メイクのキンちゃんが必死で宥める。屋上で座り込んで、「もうこんな仕事やだ」と泣きじゃくるりりこはまだ少女のようで、それだけに痛々しい。どうしても沢尻本人と重ねてしまって、余計につらい。思わず貰い泣きしてしまった。
生きづらいだろうけれどいい女優だよなあ。鈍化すれば多少は楽だろうけれど、たぶんこの嗅覚あってこそのこの芝居だと思うので、なんとかこのまま女優として続けていってほしい、と思わされる。

錯乱したりりこが見ている幻覚が面白かった。セットの苺に目玉が出て、林檎に口が出て、沢山の蝶が飛び回る。戸川純!マメ山田!(なんという蜷川遺伝子!)

羽田によって全てが白日の下に晒された。押し寄せるマスコミの前で、「特殊メイク」ばりに手をかけて美しくなった彼女は、ナイフを自分の目につきたて、そのまま倒れた。整形を重ねたりりこの、数少ない「そのまんま」の部分。どんどんオリジナルの部分を削って、彼女は更に強くなるのだろう。

全身整形の話、欲望処理装置の話で浜崎あゆみの曲がかかるって、話を持ちかけた方も許可した方もすごいかっこいいと思うよ…。

見ているだけで生気を吸い取られてしまいそうな反面、背中を思いっきり押される映画でもある。物語としての完成度はそこそこで、映像としての完成度はなかなかいい。カメラワークというのか絵コンテというのか、ところどころ違和感を感じることもあれど、どこを切っても濃厚でむせかえるような作品だった。
りりこやこずえが表紙を飾るファッション誌が実在のものであることを始めとした細部へのこだわり、一瞬の撮影シーンのためのメイクとドレスがいちいち可愛くて良かった。羽田の絶妙なダサさ、足が痛くてすぐに脱いでしまうにも関わらずヒールを履き続ける社長の美学、雨の中を走るときですらピンヒールの(おそらくそうでない靴を持っていない)りりこ。オネエであるヘアメイクキンちゃんの服装。全力でオシャレで、全力でイマドキで、全力で消費される刹那的なものたち。残酷で面白かった。
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posted by: mngn1012 | 映像作品 | 12:43 | - | - |

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