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凪良ゆう「まばたきを三回」

凪良ゆう「まばたきを三回」
亡くなった恋人がかつて暮らしていた屋敷で食事をとるのが日課になっている一佳は、恋人・令の幽霊と出会う。事故で亡くなった令は、地縛霊として思い出の土地から離れられないのだと言う。

田舎の村で陶器職人として暮らしている一佳は、家族を早くに亡くしているため一人暮らしだが、地元の人間たちとは仲良くやっている。けれどかれはある屋敷の管理人のアルバイトを引き受け、毎晩そこで夕食をとることにしている。そこは恋人の令がかつて暮らしていた屋敷で、一佳はそこで令に一日の報告をする。哀しいけれど、それがかれの毎日だった。
しかしある日大きな地震が起き、顔を上げるとそこには亡くなったはずの令がいた。死んでいなかったのか、と動揺する一佳に、令は自分が幽霊だと告げる。

現在23歳の一佳が令と出会ったのは14年前、二人が9歳の時だ。東京からの転校生、女の子のような容姿と内向的な性格、自然の中で遊ぶことに慣れていない体、というあらゆる要素が令を田舎の小学校でひとりぼっちにした。
しかし、ある事件をきっかけに令に友達が出来る。ある日一佳が「一佳、上」という知らない男の声につられて顔をあげると、崖から令が落ちてきたのだ。令を助けたことで一佳は腕を骨折するが、その代わりに誰にも心を開かなかった令と仲良くなれた。令がお見舞いに持ってきてくれる、地元には売っていないおしゃれなお菓子や、絵を描くのが好きだという令の話は、一佳にとって刺激的で、楽しかった。
令が東京へ戻ることになったあとも、二人の友情は続いた。休みごとに令は村を訪れ、一佳との時間を過ごす。二人がこの頃お互いに持っていたであろう、相手への正体がはっきりしない淡い感情は、次第に育っていく。そして、裕福な権力者の息子である令と繋がりを作っておきたい東京のクラスメイトたちの存在により、二人は自分の気持ちを確信する。親しげに接する女の子を見て、ふたりはそれぞれ嫉妬をするのだ。
寧ろ自覚したのは一佳だけで、令はとっくに自分の気持ちを理解していたようにも思う。都会と田舎の差というわけでもないだろうが、一佳に比べて令は早熟で、お互いの距離をもどかしく思っていたように見える。一佳視点で描かれる物語のため令が何を考えていたのかははっきりしないけれど、このとき、高校二年生だった令は結構思いつめていたように感じる。だからこそ、一佳への「好きだ」という最初の告白と、一佳が自分を好きじゃないのならば「いらない」「来ない」という脅迫めいた選択肢のつきつけが同時に出たのだろう。答を急ぐのは、もうかれの気持ちが限界にきていたからだ。小学生のころからの初恋はこの時点で既に八年目に突入している。もどかしさを抱えたふたりが両思いになる過程が青くてとても可愛い。
そして二人は恋人同士になる。順調に年月を重ねた二人は、人生を考える年になっていた。既に祖父の後を継いで陶器職人となる道を進んでいる一佳と、絵を描いて生計を立てることのめどがたちそうな令。地元を離れられない一佳のことを理解している令は、村で一緒に暮らしたいと望む。実際かれには東京よりも、この村で過ごした数ヶ月のほうが輝いていたのだろう。
男性の恋人と添い遂げるために村に引っ越すことを両親に打ち明けるため、令は一端実家へ戻る。そしてそのまま、帰ってこなかった。音沙汰がないことを不安に思った一佳が実家に電話すると、電話に出た母親は電話相手が息子の恋人であることを知ると、令がなくなったと告げた。口論の末に家を飛び出して交通事故にあった、すべてはあなたのせいだ、と。

それから二年経って、令は一佳のもとに現れた。否、ずっと傍にいたらしい。言わなかったことを責める一佳と、気づかなかったことを責める令。けれどそれはお互いを思っているからこそで、二年間のお互いの孤独も分かるからこそ、かれらは再会を素直に喜ぶ。
あまり頁を割いて描かれなかったけれど、二年間一佳を見ていた令の気持ちは想像するとやるせない。自分の死に悲しむ一佳、必死で働く一佳、女性から好意を寄せられたり、友人と飲みに行く一佳をただ見続けるのはどれほど辛かっただろう。けれどその一方で、自分をずっと思い続ける一佳も、令は見つめていた。人の誘いにも心を動かさず、思い出の屋敷に足を運び、もういない自分に語りかける一佳の愛情をかれは知っている。それは令にとって喜びであり、もどかしさであっただろう。いつまで続けてくれるのかという不安や、幸せになってほしいという願いもあったかもしれない。二年間ひとりきりで、変わってしまうかもしれない恋人を見つめている辛さ、は計り知れない。
ともあれ一佳は幽霊になった恋人と再会した。会話はできるが触れられず、村からも出られない令だったが、それでも一佳は幸せそうだった。オモチャや小さな動物に「入る」ことができる恋人との日常は、かれの心を満たした。
中1のときに一佳がお祭りでとってやったオモチャを令が大切に残していて、それにかれが「入る」シーンがとても好き。かわいそうな純愛!

幸せな日々はしかし長くは続かない。今まで見えなかった令が見えるようになったきっかけを、令は地震による周波数の変化ではないか、と推測した。けれど本当は、一佳は地震で亡くなった、令と同じ幽霊だった。のみならず、家族に投げたひどい言葉を悔いて地縛霊となった令と違い、一佳は既に消えかかっている。
一佳は残り僅かな時間を使って、令の後悔を晴らすため、村を出るよう計画する。村を出て東京の令の家に向かい、両親に謝罪をするために。

そして両親との体面を果たしたあと、二人は不思議な情景に飲み込まれる。かつて一佳と令を引き合わせ、令の命を救った声を一佳は「神さま」の声だと言った。二人は神さまに導かれて出会った運命の二人なのだと、離れてもめぐり合う運命なのだ、と子供ながらにかれは令に伝えた。その「神さま」の声の正体が終盤に明らかになる。

冒頭で幽霊が出ているうえで言うのも何だが、軽いファンタジー要素を含んだ物語に、更に大きなファンタジー展開が加わる。けれど興ざめすることなく話にのめり込める物語だった。物語の中で言われる通りの「奇跡」もご都合主義的な感じがしない。運命に導かれている二人の幸福に安堵できる、自然な、現実的なファンタジーだった。

二人の手紙のやり取りもすごくいい。令からの手紙の演出は思わず鳥肌が立った。とにかく二人は出会ったときからずっとお互いが好きで、他には目もくれず、相手のことばかり考えていた。「死ぬほど」愛しているという言葉にちっとも誇張がない、運命という言葉に負けない繋がりのあるふたり。面白かったー。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 19:54 | - | - |

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