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若木未生「ハイスクール・オーラバスター・リファインド 天の聖痕 the rebellion」

若木未生「ハイスクール・オーラバスター・リファインド 天の聖痕 the rebellion」

色々あって、オーラバ最新刊はコバルト文庫ではなくトクマノベルスからの刊行。散々「まだやってたのか」「懐かしい」と言われたけれど、まだやってました。終わってませんでした。放り投げられたわけでもありませんでした。良かった。

「まだやってたのか」と言いたくなる気持ちも分かる。だって「オメガの空葬」以来、七年ぶりの続編。その「オメガの空葬」だって前作からは二年開いている。「天使はうまく踊れない」って1989年発売だよ…(どうでもいいけれど「絶愛-1989-」の連載が始まった年で、「アーシアン」と「源氏」が2巻目を同時に出した年、って言うと凄く激動)
そんなわけで「インテグラル」のようなサイドストーリー・関連作ではなく、純然たる本筋の、続編。

物語に入る前に、改めてのシリーズ解説・要約とキャラクター紹介がなされている。これが非常に簡潔で分かりやすくてよかった。

挿絵はここから三代目。しつこく言っているように小説に挿絵はあってもなくてもいい派なのだけれど、やっぱり杜さんが一番好きだったな。杜さんが抜きん出て優れているとかではなくて、読み始めたのが杜さんだったから、ということなのだろう。ゆんさんから続く希沙良の長髪に慣れない。
ただ今回の挿絵、諒が登場するシーンのイラストが、特に小説では言及されていない超時空シンデレラばりのポーズだったのを見て、この人は水沢を理解している…!と思った。

***
戦いの先を見越し・人の先を見越して判断する忍に、半ば強制的に送り出されるようにして亮介・諒・冴子は修学旅行へ向かう。他のクラスメイトのように何もかもを忘れて手離しで楽しめるはずはないのだけれど、新幹線でどうのこうのと描かれているのを見ると、改めてかれらが高校生であることを思い出す。「ハイスクール」オーラバスターなのだ。目の前で人が消えたことにふかく動揺する希沙良も、能力の終わりをひとり実感して受け入れる十九郎も。
同級生との恋とか、部活とか委員会とか、喧嘩とか宿題とか。そういうものの中にありながら、そういうものから遥か遠い世界の宿命を背負ってしまった。そこからかれらは逃げようとしない。

相変わらず観念的と中二的の間を行き来するような、けれど選び抜かれたこの上なく適切な言葉で飾られたモノローグと、遅々として戦局が進まないかと思えば一足飛びに色々起こる展開と、魅力的なキャラクターたち。
恐怖や逡巡を口にすることを恐れない、けれどどんなときも真っ直ぐに進む亮介の潔癖さ。大切なものを傷つけた過去から、危険になると自分ひとりで何とかしようとする諒の弱さ。忍の前では凛とした妹で、諒の前ではしっかりもののオンナノコになる冴子と、部外者であることを受け入れている亜衣の強さ。くだらない雑談と、同じテンションで交わされる命がけの戦いの戦略。
そんな中で亮介が諒にさらっと言った「一生」という子供みたいな約束が沁みる。失うことばかりで、何も自分には留まらないと思っている諒を知った上で、亮介は言う。今更言葉にしなければ伝わらないことに憤ってすらいるし、勿論本気でその誓いを守るつもりでいる。それは亮介の刹那的な思いや傲慢じゃなく、とてもプレーンな友情だ。
忍様は相変わらずの忍様だけれど、かつてのようなミステリアスな超人、の雰囲気は薄まった。それだけ妖の者との戦いが苛烈を極めた危機的状況であるということと、亮介がコントロールできない能力を持つだけの何も知らないままの部外者でなくなったことが影響しているように思う。少なくともかれは亮介が分かる言葉で説明するようになった。掴みきれないかれが見せる生への執着や、人間臭さが切ない。
希沙良は強くなった。もはや十九郎が作ってくれる居心地の良いシェルターの中にいるかれじゃなくなった。けれどやっぱり以前のように迷ったり不安になったりするし、それに加えて能力が枯渇した十九郎への配慮も抱くようになった。それらと向き合って判断することが希沙良を大人にし、同じくらい十九郎との距離を広げた。それでもかれは、険のない会話をすることすら難しくなってしまった十九郎の傍にいる。いつもの従弟の我儘と、術者の権力と、とにかく持っているものをなりふり構わず使って、十九郎が離れることを拒む。痛々しいけれど、頑張る希沙良はとてもかっこいい。地味に忍とメル友っていうのが可愛い。そして納得できる。

そして十九郎。
作者が言う通り、これは「里見十九郎のための物語」だ。「セイレーンの聖母」から連綿と続いてきた、十九郎の物語。因縁浅からぬ幻将・皓との戦いの最終決着をつけるということだけでなく、相変わらず面倒で遠回りで分かりづらくて自分も他人も幸せにできない生き方をしている十九郎がどういう答えを出すのか、ということに肉迫する物語だ。
里見十九郎という人間は厄介で、かれを表現した先からその言葉が間違っているような気にさせられる。強がっているように見えるけれど本当に堪えていないのかもしれない、飄々としているように見えるけれど誰よりも深く傷ついているのかもしれない。一事が万事そんな感じで、十九郎について確かなこと、これだけは自信を持って正しいと言えること、がひとつもない。優しいけれど残酷で、冷酷に見えるけれど優しくて、でもその優しさは自己犠牲的で周囲を傷つけるし、寧ろ傷つけるために自分を苛んでいるようにすら思えるし、ああでも。
本当はなにもかもどうでもいい、のかもしれない。かれが確固たる答えとか意志とかそういうものを今もなお持ち続けているのか、それとも作中で言っていたようにかれらしからぬ「気分」で動いているのか、ほらやっぱり何にも分からない。
そんな十九郎の誤算は、どこまでいっても希沙良がかれを諦めてくれないことなのかな。どんなに会話が成立しなくなっても、空気が悪くなっても、辛くても、希沙良は十九郎の傍にいる。見捨てない。それが十九郎を更に苦しめているように見えるけれど、かれの計算の範疇かもしれないし、寧ろ最後の救いなのかもしれない。
何も分からないからこそ、次を待つ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 20:09 | - | - |

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