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腰乃「あっちとこっち」

腰乃「あっちとこっち」
喫煙のペナルティとして校庭の花壇の世話もろもろを言いつけられた中島は、フェンス越しの会社に勤めるサラリーマン・松坂と出会う。とある事情から松坂が男に失恋したと知った中島は、かれに告白して付き合うことになる。

フェンス越しに出会った高校生とリーマンのじたばた恋愛。
炎天下に何も分からない花壇の作業全般を命じられてくさっていた中島は、フェンス下にあった松坂の名刺入れを偶然拾う。そして翌日、フェンスを越えたバドミントンの羽根を取りに来た男が「松坂」と呼ばれているのを聞いて、名刺入れを渡したところ、その翌日に松坂が礼にとジュースを持ってきた。その、ちょっと突飛だけれどありえなくもない不思議な出会いのあと、二人はフェンス越しに顔を合わせてはなんてことのない会話をするようになる。
この微妙なファンタジーとリアリティのバランスがちょうど良い。まだ若いサラリーマンたちの昼休みの軽いスポーツ、抜きん出て不良でもない学生のありがちな罰則。でも偶然拾った落し物の持ち主が目の前に現れるなんて、結構ドラマティック。社会人と高校生というとかなり年齢差があって別の世界の住人のようにも思えるけれど、実際23の松坂と高校生の中島ではそれほどの違いはない。やけに気さくで、暑いと言いつつわざわざ自分の傍で昼食をとるようになった松坂を変な奴だと思いながら、中島は松坂と仲良くなる。名前と所属と、あとは一日30分ほどのフェンス越しの会話で得られることしか知らない二人。その距離がちょうど良くもあり、もどかしくもある。

ある夜、飲み会帰りにタクシーをつよい眼差しで見送る松坂を見かけた中島は、気さくに声をかけて、完全に無視される。酔ってたとか聞こえなかったとかじゃごまかされない、明らかな無視だった。それを分かった上で、いつもの場所で改めて話題に出すことも、見つめていた相手について踏み込むことも、中島の若さがさせたことだろう。愚かさ、無神経さ、拙さと同義語であるかれの若さが、松坂が望まない場所に踏み込んだ。
けれど当然ながら激昂したあと、憑き物が落ちたように洗いざらいぶちまけた松坂を引き止めて、考えるよりも先に口説きおとしたのも中島の若さだ。勢い、怖いもの知らず、無鉄砲さと同義の若さが、自分のセクシャリティや片思いや失恋に弱っていた松坂の心をまるごと包んで引き上げた。かれらの間にあるフェンスを簡単に飛び越えてしまった。

そしておつきあい。
気がきく年長者に見えた松坂がそれはもうだめだめの適当男だと判明したり、それにぎゃーぎゃー言いながら世話を焼く中島が楽しそうだったり。初めてのお付き合いに舞い上がったり緊張したりと全く余裕のない中島が可愛かったり、そんな中島の前ではしれっとしているように見える松坂が輪をかけて緊張していたり。ちゅーするのも大変だったり、カラオケボックスでカメラがついているのを忘れて恥ずかしい目にあったり、写メ撮って怒られたり、走馬灯のように左右の乳首が脳裏を過ぎったり、過ぎったり、過ぎったり。

出会った頃のかれらの前にあったフェンスを心象モチーフにして、お互いが心の壁を乗り越えたり張ったり壊したりして、徐々に恋人同士になっていく。付き合うまでのあれこれやどきどきよりも、ふたりが心臓壊れそうに緊張しているのが手に取るように分かるから、付き合い始めのどきどきが可愛い。
腰乃さんの作品は首尾一貫している。お互いが相手と違う部分でヘタレたり腹をくくって男らしいところを見せたりしつつ、ぎこちない恋を築いていく。にじり寄られて壁際に追い込まれてあわあわしたり、完全にてんぱって理性をなくした相手が空回りして暴走して、怒られたり慰められたり。学生だったりサラリーマンだったり同世代だったり年齢差があったりとバリエーションはあるものの、基本的にはその辺にいそうな兄ちゃんのオスの部分とオトメの部分がこんがらがっている。ワンパターンのようなんだけれど、それぞれのキャラがあからさまじゃない微妙さで立っていて、どれもこれも面白い。通常営業ならではの安定感と、十人十色なキャラと関係性と恋。始まったばかりの恋のそわそわ感とか、好きな人と一緒にいるときの地に足がついてない感じとか、しょーもないことで笑い合える時間とか、そういうものが等身大なんだけどきらきら描かれている。好き!

中島が書いたり縫ったりする笑顔の松坂キャラが可愛い。鮫島くんのTシャツの鮫と並ぶ可愛さ。「嘘みたいな話ですが」(これが一番好き!)の一升瓶と並ぶ可愛さ。
安定の面白さでした。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 19:02 | - | - |

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