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腰乃「鮫島くんと笹原くん」

腰乃「鮫島くんと笹原くん」
大学生の笹原は、大学もバイト先も同じ友人・鮫島にいきなり告白される。それをいなして適当に友人付き合いを続けていた笹原に、鮫島はしつこく食い下がってきたり、いきなり全てを諦めようとしたりする。

腰乃さんの作品にはコンビニがよく出てくるなーとか呑気に考えていたら、繋がっていた。傍から見るとばればれな鮫島と笹原の関係を見守っているというか、遠い目をしてみないふりしてくれているのは「コンビニ店長と落ちる男」の犬丸店長だし、二人よりもよっぽどしっかりしている高校生バイトは「名前で呼んでください」のコンビニ君こと大滝だ。別に知らなくても問題ないけれど、知ってるとちょっとうれしい。

普通の大学生、という以外に表現が見つからない普通の大学生笹原は、ちょっと潔癖でちょっとコミュニケーション下手でとってもヘタレでちょっと粘着質な友人鮫島からの告白を、その場でぶった切ってしまう。と言うよりもそれが本当の告白だと分からなかったのだ。そして最初にぶった切ったのをいいことに、そのあと鮫島が肉体関係を含む恋愛関係を望んでいると主張したのも適当にあしらって、かれと友人関係を続けた。鮫島も最初はやいやい言いつつも、なんだかんだとこれまでのような関係を続けてくれる。しかしかれは吹っ切れたのか、笹原への好意や欲求を隠さない。好きだと繰り返すこと、たまに一線切れて強引な行動に出ることで笹原にアピールする。そしてそのアピールに、あろうことか笹原は流されて、落ちる。

非常に作者らしい物語だ。一見普通なのにヘンテコで、ヘタレなのにエキセントリックな、全体的に残念な攻。とても普通で健全で前向きで底ぬけに明るい受。攻の不器用だけれど他の人からは貰えないような熱量のこもった愛情に、受は流されるようになる。繰り返される言葉に翻弄されて恋を開始する。そうなってしまえば元々ポジティブな受は、寧ろ攻をリードするようになる。
いつものパターンとも言うべきその流れは、繰り返されているだけに巧みだ。普段なら拾いあげられないような細やかでなんでもないやりとりや言葉を、小さなコマいっぱいに詰めてかたちづくる。駆け引きも真っ向勝負も雑談も逃げも、全部。手書きのひとこと台詞なんかも皆面白い。

自分で立てたフラグを自分で折る男、鮫島のトップスに描かれた鮫の絵がまたいい。普段黒い服を着ていることが多い鮫島は、決して表情豊かなわけではない。だからなのか何なのか、鮫島のTシャツには時たま鮫が登場する。海を泳いでいる鮫は、鮫島の気持ちを表情で代弁してくれる。つらい、かなしい、どきどきする、うれしい、舞い上がる。物言わぬ鮫の演出がにくい。

「嘘みたいな話ですが」と構造が似ていると思う。しかしサラリーマンの上司と部下であるあの話とは異なり、鮫島も笹原もまだ若く、幼い。若いゆえに鮫島は暴走しがちだし、恋愛経験が未熟なので、相手の裸はみたいけれど自分の裸は見せたくないなどと主張する。若いゆえに笹原は残酷で、自分に気がある鮫島に、バレンタインにお菓子をやったりする。相手のことを考えて行動すること、は今のかれらには無理だ。そのためかれらはよくぶつかり、くだらない理由の言い合いは耐えない。けれど、後先も相手のことも考えない生の、今の言葉がある。それを使って二人は関係を強固なものにしていくのだろう。大人なら気取ってしまうことをストレートに口にするだけの勇気や誠実さだって持っている。
それもまた幸せのかたちだ。
少し良くなった・進んだと思えばすぐに後退せざるを得なくなる展開はばかばかしくて可愛くてもどかしい。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 23:25 | - | - |

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