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原作:英田サキ 漫画:山田ユギ「愛想尽かし」

原作:英田サキ 漫画:山田ユギ「愛想尽かし」
喫茶店オーナーの椹木はある雨の夜、猫と一緒にひとりの青年を拾う。かれは椹木が刑務所に入っているときに同部屋で、ヤクザの「女」にされていた柊也だった。

「たかが恋だろ」<感想>のスピンオフ。前作の主役・倉田の亡くなった妻の兄であり、勤務先の喫茶店のオーナーであり、違法薬物の売買で逮捕された、目元の皺が妙に官能的で、主人公二人より存在感があった椹木の物語。

「たかが恋だろ」において、逮捕されて途中退場した椹木はその後刑務所へ入った。刑期をつとめて出てくることになるまでの間、同部屋の柊也は、ずっと同じく収監されているヤクザの女だった。
男ばかりの空間にいれば、どうしたって女性的で整った顔立ちの柊也は目立ってしまう。のみならず、かれにはそういう男を惹き付ける雰囲気がある。一人や二人ではないそういう男たちの輪に放り込まれたかれは、ごく当たり前のように誰かの「女」になった。拒んだところで拒みきれるものではない、半端に抵抗して暴力を振るわれた後で強要されるよりは、進んで意のままに動いてやったほうがよほどましだ。
加えて柊也は、自ら力のある者にすりより、媚を売るようなところもあった。美しいことを自覚しているであろう容姿と肉体を使って、男たちを翻弄したり操ったりしていたようだ。年長のヤクザで整った顔立ちと引き締まった肉体、なにより他の男たちと違って自身を鼓舞したり柊也に興味を示さないところが良かったのか、実際椹木も柊也に誘われている。面倒ごとに巻き込まれたくない椹木はそれを跳ね除けたけれど、柊也の哀しい処世術は気になった。そうすることでしか生きていけないのか、もはやそうすることが普通になってしまったのか、柊也の生き方は自分を傷つけ卑下しながら守るようなところがある。その無理がかれ自身を苦しめている。
柊也より先に出所することになった椹木は、最後の夜にかれに出所後の事を問われたとき、「ムショの垢を落としていく」と言った。柊也もまた、出所前に落としてしまわなければならない垢だ。落としたあとは振り返ることなどない、すぐに忘れてしまう垢。柊也が心配な気持ちを抱きつつも、まっとうに生きると誓ったかれは敢えて関わらないことを決めていた。
この刑務所のシーンの、決して多くない描写がやけにリアルなところがさすが。当然椹木も柊也も坊主頭だし、複数の受刑者が所狭しといるシーンなんかもすごく生々しい。
「刑務所の中」のまんまだ!

決して願ったわけでも、狙ったわけでもない再会だった。けれどすっぱりカタギになった椹木は、あまりまともな暮らしをしているようには見えない柊也を拒まなかった。怪我をしている柊也を拾って家に連れて帰った。一晩だけのつもりだったけれど、もともと無理やり押し込めたような情は、数年の時を経ても簡単に甦る。一度は突き放したものの、椹木は行く場所がないという柊也を猫ともども自宅へ泊めるようになる。

柊也は基本的には年齢にそぐわない、幼さを残したまま大人になっている。その場しのぎの行動、収入、後先を考えず感情のまま話すことも多い。椹木に再会できたこと、かれと奇妙な同居生活が始まったことによろこび、椹木に懐いている。そういう子供のまま大人として生きているかれが、唯一自由に出来る武器がセックスだというのが哀しくて良い。誰かの怒りをしずめたいとき、揉め事をおさめたいとき、誰かと関係を深めたいとき、柊也は決まってその体を差し出そうとする。それしか知らないのだ。
椹木も例外ではなかった。椹木との再会に喜び、穏やかな同居生活に舞い上がったかれは、振って沸いた幸運を終わらせないために必死になる。言葉はきついが優しくて情け深い椹木に好意を抱き始めてからは余計に必死にかれに迫るけれど、椹木はそれを受け入れない。椹木に柊也への好意がないのではなく、柊也自身が自分の気持ちを分かっていないからだ。寂しいのは嫌だ、誰かに優しくされたい、後先を考えず目先の快楽や幸福に溺れたがる柊也は、本当に自分が何をしたいのか欲しいのかわかっていない。そんな子供に好きだと言われても信じきれないし、何よりこっちが好きになってしまって後々傷つくのも嫌だと椹木は思う。
柊也にとって必要なのは、生活を立て直すことと、自分の本音と向き合うことだ。そしてなにより、自分に必要なものがその二つだと気づいて、行動すること。椹木にはっきりとした答えも指針も貰えない柊也は、それでも自らその道を進み始めた。すべてが少しずつ、ゆっくりだけれどうまく行き始める。

けれど順調な日々は長く続かない。刑務所時代柊也を「女」にしており、貫禄があり誰かと群れたりせず挑発にも乗らない椹木を目の仇にしていたヤクザが柊也の前に現れる。義弟とその子供のために、自身のためにヤクザからは足を洗った椹木が大切にしているものを楯に脅しをかけられた柊也は、男についていく。
柊也と椹木はヤクザもの・刑事ものが得意な英田さんらしいキャラクターだ。中でも、自分の価値を見出すことができない、自棄っぱちで卑屈で口が悪い、すれたふりをする露悪的な柊也は何度となく書かれてきた人物像だ。普段は全然素直じゃなくて、素直じゃないもんだから素直になりたいときもなれなくて、べつに俺なんか、って構えることで正面から傷つくのを避ける。今にも泣き出しそうな弱い子供のこころが、必死に作った薄っぺらい防御壁の中に隠れている。ちょうどいい折衷案を取ることができないかれらは、相手を犠牲にするか自分を犠牲にするか、の二択しかもたない。自分と相手を天秤にかけて、大切なほうを取るのみだ。
だから柊也は椹木のもとを出て行った。

椹木の中にあった逡巡は、未熟な柊也を未熟なまま引き受けてしまうことへの抵抗、何か大切なものを持つことへのおそれ、面倒に再び巻き込まれるかもしれないことへの不安だ。柊也との過ごす時間は、それを徐々に崩していった。そして柊也が自分を守るために何もかもを捨てようとしたことを知ったとき、椹木はとうとう覚悟を決めた。この短い時間で精神的にとても成長した柊也の揺さぶられていた心が、向こう見ずな愛情表現にとうとう動いた。
一端腹を決めた、開き直った椹木がすごくいい。柊也のもとに必死で駆けつけて助け出し、恥ずかしげもなく他人の前で素直に気持ちを告げる。二人きりになると更に勢いを増し、思わず柊也がたじろいでしまうほどだ。年齢ならではの狡猾さと、年齢にそぐわない直球の緩急で攻めて来られたらひとたまりもない。いいぞ中年!

両思いになってからの台詞のやり取りが紋切り型なのが英田さんだな…と思ったりもしたけれど、椹木がかっこよくて柊也がかわいそうで、読み応えのあるいい王道ヤクザものでした。
「たかが恋だろ」とはかなり毛色が違う。思えばどこか手探りな印象の残った前作より、英田さんの得意分野をユギさんの漫画能力がきれいに増幅させた、完成度の高い話になっていると思う。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 17:51 | - | - |

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