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薄桜鬼 碧血録 第十九話「天道の刃」

負傷した土方に代わって、新選組を率いるのは斎藤だ。会津藩主であり、これまで新選組を庇護しつづけてくれた松平容保に直接謁見することになった斎藤は、かれから忠実なる藩士30名を託される。
松平容保が森川さんなのにびっくりした。豪華!同じく豪華なのが、会津藩士のリーダー的存在である正木を石田さんがやっていることだ。終盤、ゲームでは登場しなかった(松平公は名前は何度も出たけれど)おそらく一話だけのキャラでこの豪華さ。正木さまがひとりだけ前髪を残しているのも、姫カットなのも、あきらかに年下なのも、お小姓臭がするのも気にしません。

松平を心から慕い、会津のために命を賭ける覚悟を全員が持っている会津藩は、新選組をよく思わない。会津は会津藩士で守るという気概もあるのだろうが、何よりかれらには斎藤をはじめとした隊士の洋装と、左利きの斎藤が刀を右差しにしていることが許せないのだ。松平の命令である以上行動を共にはするけれど、決して心を許すつもりはない、どころか言うことは聞かないと正木は真っ向から宣言してくる。島田や斎藤の言葉ではなく、正木の命令に従う他の藩士も同意見なのだろう。
そこで声を荒げたり、無理に命令を通したりしないところが斎藤だと思う。だからと言って黙っているわけでも退きさがるわけでもない。身軽な洋装こそ戦闘に有利であること、なにより、刀の差す向きで武士の魂の有無が決まるわけではないことを淡々と話すかれは、いつも通りの斎藤だ。その落ち着きがかえって哀しい。改めて、斎藤がこれまでに何度となく言われてきたことなのだと実感させられる。
正木率いる会津藩士との不和は、実際の戦場においても影響する。勝ち目がないと撤退命令を出す斎藤の指示には誰も従わず、直後に正木が放った「退くな」の言葉にかれらは応じる。勝てそうもないから、殺されるから退くと斎藤を罵る正木に、斎藤が声を張る。命はいつでも捨てられるからこそ、捨てどころを間違えると犬死にになるのだ、と。無駄に藩士の数を削ること、負けると分かっていてがむしゃらにぶつかって行くことには何の意味もない。それは結局のところ、少ない人数で踏ん張ろうとしている松平公の足を引っ張ることにもなる。斎藤は細やかな説明をしない。ただ、「いまは退くことが
真の忠孝」なのだと言った。正木が理解できると分かっているからか、これが分からないようならもう無駄だと思っているからか。自分への敵意や蔑視を隠さない自分たちを命がけで庇って撤退させた斎藤の姿に、会津藩士たちは何を思うのか。
次に斎藤が現れたとき、会津藩士は全員洋装になっていた。更には斎藤の姿が見えた段階で正木が整列の声をかけ、かれの元に並ぶしまつだ。斎藤の言葉が、言葉より何倍も雄弁な態度とつよさがかれらを動かした。

会津で斎藤・島田と顔を合わせた大鳥は、会津藩士への不満を口にする。その融通の利かなさ、気の回らなさを肌で感じたかれは、「愚直」だと呆れている。思考の回転がはやく、進んだものの考え方をする大鳥にしてみれば会津は古臭く、物足りない印象を覚えるだろう。けれど斎藤は笑ったまま、「それこそが頼るに足る証」だと会津を称した。庇ったのではなく、心からそう思っている。斎藤はそういう男だ。

会津にいる斎藤・山南・平助のもとに土方と千鶴が合流する。しかし圧倒的な人数の差もあり、戦局は悪化する一方だ。このままでは勝てないと判断した大鳥からは退却命令が下る。英断だろう。しかし敵にしてみれば、むざむざ逃がして形勢を立てなおされるのは良くない。執拗に攻撃してくる旧幕府軍に、正木は自分達が戦場を引き受けると主張する。新選組たちが無事に撤退できるよう、「盾となる」と言うのだ。
つい先日もこのようなことがあった。撤退命令が出ている戦場で、かれらはそれを呑まずに戦いに向かった。その時のようにまた死にに急ぐのかと責める斎藤に、正木はかつてとは違う澄んだ真っ直ぐな瞳で否定する。「今こそ我ら命の捨てどころ」だと。かつて斎藤が言った「命の捨てどころを間違えるな」という言葉で頭を冷やした正木は、その言葉の意味をずっと考えていたのだろう。考えた上で今だと思ったのだ。
それが正しいのか、は誰にも分からない。けれど自棄や見栄のためでなく、武士として冷静に判断したかれらが決めた答えであるならば、誰にも邪魔できるものではない。感情的になりやすく、うわべだけを見てものごとを判断していたかれらだが、今回の判断はそんな薄っぺらいものではない。だから斎藤はかれを「正木殿」と呼び、かれの提案に乗った。

会津での勝ち目はないと悟った大鳥は、仙台へ向かうことを決意する。容保公への恩義、自分達が離れていけば一層勝てなくなる会津への配慮に揺れる土方に、それが容保公の意向である、とかれは言った。早くから新選組を見出し、いかなる時もかれらの味方だった容保公は、最後の一兵になるまで会津で戦い抜くかわりに、かれらを仙台へと向かわせる。その潔さや深慮があるからこそ、正木たちがあんなにも忠実に従ったのだろう。容保公が信じた新選組を信じ、かれらを生かすために命を捨てることも惜しまなかった。
そういう容保公だからこそ、土方は余計に後ろ髪を引かれる。大鳥の判断が正しいことも、トップに立つかれの命令が絶対なことも分かっている。分かっていて、それでも人格者であり恩義のある容保公を置いていくことに焦りがある。近藤の時の二の舞だと自嘲気味に吐き捨てるかれがやるせない。

そんな中、斎藤が会津に残ると言う。百戦錬磨のかれだからこそ、戦いの勝敗ははっきりと見えている。会津は負ける。けれど、かれはそれでも残るのだ。これまで自分達を庇護してきてくれたのが会津だからこそ、会津で微衷をつくしたいと言う。
アニメオリジナルのエピソードであった正木たち会津藩士の行動に、斎藤がいかに心を動かされたのか、非常によく分かる。大鳥が愚直と称した生きざまこそ、斎藤が共感できる在り方だった。忠義のために生き、最期まで忠義のために行動しつづける。死に向かうのではなく、死すらも畏れないで戦う。それこそが「まことの武士の魂」なのだとかれは実感した。自分の行動理由や存在理由、なにより信じられるものを探し続けてきた斎藤にとって、会津は格好の場所であった。
武士として、生死や勝利よりも優先すべき物を見つけた斎藤に、土方は「耳が痛ぇ」と苦笑する。武士であること、を他の隊士ほど重要視してこなかった土方だが、普段無口で自分の最大の理解者のひとりであったかれから言われると、さすがに堪えるものがあるのだろう。
けれど斎藤には嫌味を言っているつもりも、土方を批判しているつもりも当然ない。土方がやるべきことは、近藤から引き継いだ新選組を率い、最期を見届けることだ。単なる感情論ではなく、「武士を導く道標」としての新選組を継続していくこと、を斎藤は求めている。

「薄桜鬼」を全ルートプレイした中で一番好きなエピソードが、この斎藤と土方の決別のシーンだった。土方の命令とあらば、それが新選組のためとなるならば、離隊して御陵衛士入りをすることも辞さなかった斎藤が、思想によって土方のもとを離れる。別の道を選ぶ。それは、かれにとっては決して理解も納得もできないような諍いで藩を離れて以降、ずっと自身の指針を探し求めてきた斎藤が、最優先すべきものを見つけた瞬間だった。それが新選組の中になかったこと・土方の進む道になかったことは哀しかったけれど、話し合いの末にようやく答えを見つけた斎藤を土方が最終的に送り出してくれるきれいなエピソードだった。
アニメはゲームのエピソードとはかなり違う。上述の正木たちオリジナルキャラによる話が入ったこともあるが、二人の決別はスムーズだ。ゲームの展開を期待していたので少し残念だけれど、同じことをアニメでやるより、他の選択肢があったほうが広がりがあっていいのだろう。原作の良さを台無しにするどころか、膨らませる話だったと思う。

新選組とは行動を別にすることとなった斎藤は、誠の旗を掲げることを許可してほしいと願い出る。土方は笑って、「おまえの旗でもある」と受け入れる。旗を掲げるということは、新選組隊士として戦うという斎藤の宣言でもある。誠の旗は窮地に立たされている武士たちを導く道標だ。のみならず、武士たらんとするものひとりひとりの心のよりどころでもあるのだろう。「離れていても、俺たちの魂は旗のもとにひとつだ」と言う土方の言葉が斎藤の背中を押す。それとともに、仲間に去られてゆく土方自身を慰めるのだろう。
仙台に向かう土方たちとは行動を別にした斎藤は、新選組の名乗りをあげて、戦に駆けてゆく。

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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 22:33 | - | - |

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