<< 椎崎夕「ひとでなし」 | main | よしながふみ「きのう何食べた?」4 >>

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

web拍手
posted by: スポンサードリンク | - | | - | - |

薄桜鬼 碧血録 第十六話「誠心は永遠に」

最近横行している辻斬りと山南の夜間の行動の関連性を追求すべく、かれを尾行する斎藤は、血に狂った羅刹が天霧と対峙しているところに出くわす。斎藤が一瞬右利きになっていることはおいといて、土佐藩から抜け出してここ一月ほど辻斬りを繰り返しているという羅刹が目の前で砂になって消えた模様は、斎藤にとって衝撃的なものだった。羅刹は斎藤が手を下したことで絶命したのではなく、ちょうど寿命がきていたのだと天霧は語る。まだ若かったその男の寿命は、かれが羅刹化してその力を使ったことで、こんなにも早く訪れてしまった。羅刹化によるあらゆる特徴は、寿命 を削って得られるものなのだと斎藤は知る。

そのことを知った斎藤はすぐに土方に報告したのだろう、土方は早速羅刹隊の増員・羅刹の増強を中止するとの決断を下した。原田・永倉の離隊や先の戦いでの戦死者からしても羅刹の増強は必要不可欠だし、羅刹に欠陥があるからこそ研究を続けるべきだと山南は反論する。「羅刹になった君のためにも!」という山南の叫びが痛い。
自身が羅刹だから、寿命を縮めないために羅刹を禁じるのか。自身が羅刹にも関わらず、助かる道を探す研究を禁じるのか。土方がどうしようもなく後者の人間だと分かるから、みんなかれについていく。みんながかれを見て心を痛める。そっと部屋の外で会話を聞いていた近藤もまた、そのひとりだ。

江戸での駐屯を取りやめ、隊士を募って立て直すため 新選組は会津を目指す。死んだことになっているかれらをいつまでも江戸においておくのは危険だと、山南 藤堂は羅刹を率いて先に会津へ。
部屋で二人きりになった途端、千鶴は土方に、羅刹の力を使うことを制止する。「何故お前にそんなことを言われなければならないんだ」という土方の返事はもっともだけれど、あまりに鋭い。原田が気付いてるくらいだ、土方は千鶴の気持ちに気付いていてもおかしくない。その上でこういう質問をしてくる。
自分の所為で土方が羅刹になったと言う千鶴に対して、土方は自分の意思で変若水を飲んだのだと言う。そこで「羅刹になんてなりたくなかったって本当の気持ちを言ってください」と返す千鶴がいい。それを聞いたところで土方の状況は変わらないし、ただ千鶴が己を更に責めるようになるだけだ。けれどそれでも彼女は、真実を聞こうとする。普段は穏やかな彼女がここ一番という時に見せる強さがいい。
土方を突然発作が襲う。刀を取り出して自分の血を与えようとする千鶴を追い出して、土方は平助がくれた薬でなんとかその場を凌ぐ。襖越しの発作が…いい… 。どうすることもできずにそばで歯がゆい思いをしていたのは千鶴だけではない。近藤もまた、土方の苦しむ声を聞いていた。

一向はひとまず下総流山へ。斎藤は訓練のため別行動 。
千鶴が近藤の下へ茶を運ぶと、かれは軍記物を読んでいる。それらに書かれた武人に憧れた近藤は、立派な武将になって、自分ではない誰かのために戦おうと心に決めたのだという。その思いを抱いてかれは仲間と京へ出て、新選組局長となり、大名の位までを手に入れた。けれど、それが自身の望んだあり方からは程遠いことをかれは実感している。「望むだけでは名君になれないことに気付くのが遅かった」と笑う近藤の表情は悲しみに満ちていて、既に先がないと思っている 。名君になる未来が永遠に訪れないことを知っているし、もはや欲してもいない。

そこへ土方と島田が現れ、圧倒的な数の敵に包囲され始めていることを報告する。ここは何とかする、と一人留まろうとする土方に対して、近藤は自分が行くと主張する。大名の位がある自分は簡単に殺されないから、お前たちが逃げる時間を稼げる、と近藤は言った 。それはかつて仲間の前で得意げに自身の位を発表し、そのことに喜んでいたときのかれとは違う。ただ今目の前にいる土方を納得させるため、土方ではなく自分が留まることが正しいのだと思わせるための言葉だったと思う。そのことは土方も気付いている。だからこそかれは、「旧幕府から貰った身分なんざ奴らには 毛ほどの価値もねえ」と言って近藤の考えを変えさせようとする。けれどそれは、既にその事実を知っている近藤を、やはり傷つけたのだろう。哀しそうな笑顔を浮かべる近藤がやりきれない。
なんとか自身が残る理由を作ろうとする近藤に、土方は負けていない。羅刹の自分は「心臓を貫かれない限り死ぬ事はねえ」から残る、という暴論はかれの本音だけれど、それは先ほどよりも更に近藤を傷つけただろう。近藤の体はもう近藤勇一人のものじゃない、という土方は、周囲の人間が自分の体に対しても同じように考えていることを知らない。のみならず、たとえすぐに回復しても、たとえ死ななくても傷を負わせたくないと思っていることも、知らない。敢えて知ろうとしない。土方の痛々しい生き様は、かれには物理的な傷を負わせ、周囲の人間に精神的な傷を残す。ばかだなあ。ばかでいい。
ついに近藤は命令という言葉を使う。かれが持っているたった一枚のジョーカーをこの場で使ったことに、さすがに土方は動揺する。話し合いではなく絶対の権限を振りかざしてきた近藤の決意のつよさ、覚悟の深さに土方の声が震える。
そしてその次に近藤が言った「そろそろ楽にしてくれ」という言葉は、何よりも土方を傷つけただろう。近藤が土方の言葉に傷ついたように、土方は近藤の優しいひとことでこの上ない傷を負った。その一言で、かれは自分がどれほど近藤を追い詰めてきたのか悟ってしまった。近藤を喜ばせたい、一緒に楽しいことをしたい、近藤を上へ担ぎ上げたいという土方の思いは最初からずっと変わっていない。ただ、時代が変わり、状況が変わり、近藤も変わった。変わらなかったのは土方だけだ。それはきっと、並大抵のことではない。普通の人間に出来ることではない。人並み外れた機転と信念を持つ、そういう土方に、揺らがない気持ちを注がれ続ける事が、近藤の重荷になった。自分のために鬼と呼ばれる厳しい副長になり、身を粉にして働き、とうとう本当の鬼になってしまった。近藤が土方の生き様を見ることが辛いのは、自分が追い詰めたせいだと思ってしまうからだ。せつない。
命令という言葉と、その裏に隠された近藤の本音に気づいた土方は、遂に近藤の提案を呑んだ。土方が島田ともども準備に行ったあと、残された千鶴は、近藤から逃亡資金を預かる。皆が言いたくて言えない、「一緒に逃げましょう」という言葉を彼女が言えるのは、彼女が武士ではないからだ。羅刹の寿命の事を知っていた近藤は、「今の」自分が生き延びるために、土方の命を引き換えにするわけにいかない、と言う。もはや名君になれないことを知ってしまった、変動する時代から取り残された、「今の」自分の命は、土方の命よりも優先されるべきものではなくなったとかれは確信している。これまで散々大らかで鈍感で、少し道化のような立ち回りにもあった近藤が最後に見せる冷静な判断は、おそらく事実をついているからこそやるせない。
仲間のために囮になることはできる、というかれは、今まさに「自分ではない誰かのため」に戦う「立派な武将」となった。かれが憧れた名君と同じ生き方をしている。

最後に重てえ荷物を俺一人に背負わせて、と土方は言う。今まで敢えて何も持たないからこそ動き回れた、自分の身すら数に入れずに暗躍できたかれが、何よりも重いものを受け取った。受け取って、生きていく。
千鶴との約束も、近藤の真意も知っていて、それでも土方は羅刹になった。圧倒的な数の敵と戦うにはそれしか方法がないというのもあるが、寿命が縮むと知っていて羅刹の力を出し惜しみせず敵に立ち向かう土方の戦い方は、自傷行為のように見える。近藤が受ける苦痛、自分が与えてしまった苦痛を思えば、そのほうが楽なのだろう。
けれどその行為も長くは続かない。自分が全滅させた敵の屍の中で、戦う相手を失った土方が立ち尽くしている。自分の言葉を拒否して傍にいる千鶴に、自分がこれまで築いてきたものが瓦解した空しさを口にする。ゲームでも大好きだった、土方の後姿のスチルと共に語られるこのシーンはやっぱりアニメでもすごくいい。きれいな夕陽、夕焼けに照らされた地面、そこに広がる無数の死体というアンバランスな場所で、土方は自分を責める。自分のこれまでを問う。一番大切にしていたものを失っただけでなく、自分の手で壊したような自己嫌悪とか、絶望とか、もっと単純な哀しみとか。そういうもので満ちていてたまらない。

前回の原田・永倉に続き、今回は近藤がいなくなる。どんどん仲間が減っていく中、心も体もぼろぼろになって、北へ。日常の中に戦いがありつつも、なんだかんだで平和で皆でばかをやっていた頃が暖かくて好きだけれど、このやりきれない展開も大好き。
web拍手
posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 21:28 | - | - |

スポンサーサイト

web拍手
posted by: スポンサードリンク | - | 21:28 | - | - |