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麻生ミツ晃「ティアドロップ」

麻生ミツ晃「ティアドロップ」
初めての恋に破れて傷付いた悠介は、気軽に恋愛を楽しもうと出会い系で連絡を取った男と待ち合わせする。そこに来たのは悠介が提示した条件にぴったりの十歳上の男・剛毅で、二人は適度に距離を保った関係を持ちはじめる。しかし悠介は、次第に剛毅が気になり始める。

まだ若い悠介は、言葉遣いも乱暴で、遠慮なく他人のテリトリーにずけずけ侵入していくように見える。しかし実際のかれは、真正面からぶつかってぼろぼろになった心をうまく修復できないでいる子供だ。本気の恋愛で傷付いたから、今度は本気にならない恋愛をすればいいんだ、と心から思っている、ばかで可愛い子供だ。
周囲の書き込みを見て状況を理解するような能力のない悠介は、顰蹙ものの募集条件を掲示板にアップした。しかも実際連絡を取りつけて会う段になってからドタキャンを繰り返していたので、その掲示板を利用する人間たちの間で悪評が高まると同時に、募集主が一体どんな人間なのかという興味も高まっていた。
噂の的になっていた悠介が初めて会うことを決めたのは、かれより10歳年上で、落ち着いた雰囲気の剛毅だ。かれがゲイであることや、今恋人がいないことは事実だけれど、掲示板を見て連絡を取りつけたのは、唯一かれの性癖を知る叔父だ。話題の男がどんな奴なのかという興味と、おそらく消極的な剛毅の気晴らしのために無理やり取り付けた連絡だった。

最初から、本気の恋愛はしたくない、と言う悠介の主張を剛毅はそのまま受け止めた。受け止めて、かれの望むように振舞った。自分が「本気」になりそうになると、予定をキャンセルしてでも気持ちを抑え込んだ。10歳も年下だということや悠介が打ち明けてくれた恋愛の傷、剛毅のもともとのお人よしな性格を鑑みても、剛毅の優しさは普通じゃない。偶然知り合っただけの男の子に、なぜかれがそこまでするのか、と思わなくもない。しかし、初対面からあけすけに本音を語り、表情をころころ変える悠介の様子を見れば、剛毅がかれの望みを叶えてやりたいと衝動的に思ったとしてもおかしくないように感じる。一目惚れしたなんていう大層な話じゃなくて、だからと言って小さな子供やペットに無条件に奉仕したいと言うような気持ちでもなくて、言葉に表しづらい情が沸いたのだろう。

本気の恋愛をしたくないという子供は、優しい大人と時間を共有するうち、懲りずに恋をしてしまった。けれど相手の大人は、自分の言い分を守って、距離を保ち続けてくれている。そのことが子供にはよく理解できず、焦れったい気持ちになる。悠介が勝手に作り上げた壁を、剛毅は律義に補強しつつ守り続けてくれた。そのことが今度は悠介を苦しめる。自分勝手だけれど、自分でコントロールできないのが恋愛だ。本人たちの中で荒れ狂っている不安や葛藤や、やっぱり拭えない好きという気持ちが、おとなしい絵柄で繊細に表現されている。なんとなく線の細い、ともすれば不幸そうな気配のつよいタッチなんだけれど、気持ちの些細な揺れが見えて凄く好きだ。

付き合うまでの曖昧な関係でも、付き合ってからの恋人関係でも、二人の間には色々な問題が起こる。ずっと同じ町にいれば昔付き合っていた相手と再会することもあるし、社会人を続けていれば仕事のトラブルもある。そういう誰にでも起こりうる、けれどやっぱり当事者にしてみればすごく大きな問題。そういうものにひとつひとつ傷付いて、立ち向かっていく。
年齢だけでなく、立ち位置も家族との関係もそもそもの性格も違いすぎるふたりは細かいことですれ違う。言い分が異なってぶつかるのではなく、なんでも話してほしい・話したい悠介と、どうすればいいのか分からない剛毅の価値観の差によってすれ違う。ぶつかることすら、気を使いすぎてコミュニケーションがうまくとれない二人には難しい。すぐに話したくても、日々の忙しさや、他の楽しいことに翻弄されて、なかなかうまくいかない。不協和音すら鳴り響かない。理解し合って恋人同士になるのはあんなに大変なのに、自然消滅にも似た状態になるのなんて簡単だ。
けれどこのまま終わりたくない、という気持ちがある以上は、慣れないことでもやるしかない。
感情的になって逃げ出したり、相手のことを思いやったつもりで向かい合うことをせずに放りだしてきた問題と、悠介は対峙する。一方、去っていく相手を繋ぎとめるすべを持たない剛毅も、このまま終わらせないために走って後を追う。お互いによって次第に変化していくふたりが微笑ましい。そして悠介と元恋人との邂逅や、剛毅の見る父親の夢で分かるように、ふたりは自分を縛るものから解放されていく。派手さはないけれど、丁寧で沁み入ってくるような表現がいい。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:48 | - | - |

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