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西炯子「娚の一生」3

西炯子「娚の一生」3

つぐみと海江田の関係が周知のものとなり、その年齢差や海江田の不審さに眉を顰めるものもあるけれど、基本的には皆が祝福なり納得している。適齢期を迎えても仕事に全力を賭していたかと思えば田舎に隠居してしまったつぐみが結婚するんだから、多少相手が胡散臭かろうが年上だろうが構わない、という現実もある。親戚が集まった場で槍玉に挙げられた海江田が滔々と語った本音は、かれの大人としての余裕と、つぐみへの愛情に溢れていたことも、親戚を安堵させた。
けれど問題はそんなところにはない。結婚に踏み切るために必要なものは揃っている。あとは、つぐみの気持ちだけだ。それがいつまで経っても揃わない。海江田はそういうつぐみを分かっていて、「待つ」と言ってくれている。決して残りの人生が長いわけではないかれにとってそれは最大限の譲歩であり、愛情なのだと、つぐみは分からない。自分が踏み切れないことを、いっそ無理やり引っ張って欲しいとすら思っている。仕事に関しては誰よりも優秀で積極的な彼女は、恋愛になるとてんでだめだ。臆病で自分の気持ちすら分からない子供のままなのだ。

ある日つぐみは知人の男性に偶然再会する。職場の仲間だったかれは、つぐみのこれまでの恋愛遍歴を知っていて、悪気のない思い出話をしてくる。決して悪い人ではないけれど無神経なかれの言葉に、つぐみは引っ越してくる前までの自分自身がどうだったのかを思い出す。その言葉を聞いていた海江田はそれを責めるようなことを言わないのに、彼女が彼女を断罪する。駄目な女、ろくな恋愛の出来ない女、そういうレッテルを自分に貼りたくって、ミノムシのように自分自身を隠してしまう。
恋愛はこりごりだとつぐみが感じるのは、決してこれまで実ってこなかったことと、自分の中に眠るどうしようもない自分と向き合うことに対する恐怖があるのだろう。それが海江田の以前言っていた、つぐみの中にある、抜けないトゲだ。

長い時間をかけてどんどんつぐみの奥深くまで刺さっていったトゲを一気に抜く方法はない。海江田の愛情とつぐみの変革を願う気持ちで、少しずつ壊してゆくしかない、と思っていた。多くのひとが見過ごしたり、何とも思わないようなことに一喜一憂するつぐみの繊細さと、そのたび立ち止まったり後退する面倒臭さが変わってゆくさまが楽しみでもあった。
しかし後半に入って、物語は一気に展開する。田舎の町につぐみが持ちかけたひとつの大きな仕事が転機となって事件が起こり、そこへ他の事件が立て続けに起こる。つぐみにだけ関係があるプライベートな問題と、周囲の人々全てに起こった問題が重なって、つぐみは自分の進むべき道や選ぶべきことを見出す。

3巻で完結することは分かっていたので、後半どうなるのかとわくわくしながら読んでいたところに、この展開。びっくりしたし、何だこれは悪い夢でも見ているのか、と思った。事件のどれもが、決して人事ではないし、いつ起こってもおかしくないようなことなのだけれど、一気に非現実に引っ張り出されたような気がした。ひとつひとつの描写はリアルだけれど、それまで二人が紡いできた平穏な日々との差が激しすぎて、読んでいてうまく対応できない。
こんな終わりが見たいわけじゃなかった。窮地に立たされないと分からない真実や自分の気持ちというものは確かに存在するし、そういうときにこそ人の本性が出るのだとも思う。取り繕うことに慣れた大人であれば余計に、相手や自分のことを一足飛びに理解できる良い機会だと思えなくもない。しかし、そんな人生で一度起こるかどうかという出来事が頻発した上でしか距離を縮めることができなかったのかと思うと切ない。これまで積み上げてきたものが土台にあってこその関係だと分かるけれどやるせない。

コミックナタリーで作者のインタビューが読めるのだけれど、ラストについて、第一話のときに考えていた淡々としたラストを編集長が否定して、事件が起きて終わるかたちにすべきだと言ったというエピソードがある。二話終了時点で作者がそうすべきだと実感したと言っているので、このラストは作者が選んだものであることは間違いないのだけれど、その一言がなければどんな終わりだったのだろうか、と思わずにはいられない。淡々とした日常の延長にある最終回、を見てみたかった。

完全に嗜好の問題だとは分かっているけれど、わたしはこの終わりが好きではない。勝手にラストを想像しておいて予想が外れた、と言っているだけなのだが、それでも、なかなかどうして撃沈させられる最終巻だった。不器用で面倒臭い大人同士の恋を、一般的な「優しい男」にも「かわいい女」にもなれないお互いの中に潜む優しさや可愛さを見つけ出してゆける恋を素敵だと思ったし、胸が高鳴る物語だったので、好きだっただけに残念。好きだからこそ、悔しい。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 12:35 | - | - |

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