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中村明日美子「卒業生-春-」

中村明日美子「卒業生-春-」

「同級生」として出会った二年生の夏から三年生の夏を経て、もうすぐ「卒業生」になる冬を越えて、とうとう春が来る。卒業生として迎える、高校三年生として迎える最後の季節。

佐条は気難しそうで、プライドの高そうな男だった。バカ高にふさわしくない成績の良さや、黙っていると冷たそうに見える顔の造形の所為もあったのかもしれないが、ひとに簡単に心を許さない気位の高さが透けて見えた。張り詰めすぎてぷつんと一気に切れてしまいそうな危うさも持っていた。
根本的な部分は変化していないけれど、そのころに比べると、佐条はやわらかい雰囲気をもつようになった。自分とは全くタイプの異なる草壁と付き合う中で、佐条は息の抜き方を覚えたように思う。ふたりを繋ぐリボンが邪魔になれば、何度でも結びなおせるから切っても良いのだと、佐条は草壁から学んだ。草壁が直接言葉にしたのではなく、かれの言葉や態度から知ったのだ。
喜怒哀楽の表現が激しい草壁の影響で、人当たりがやわらかくなった佐条の変化に、母親が気付いた。無意識に鼻歌をくちずさむ息子が、少し前まで見せていた険をどこかへなくしてしまったことに気付いたのだ。彼女できた?と嬉しそうに聞いた母親に、彼女の手術が近いと知っていて、それでも佐条は答えた。「つき合ってるの 男なんだ」と。多分これも、今までの佐条ならば決して口にしなかっただろうと思う。そんなことないよ、と笑っていなしていただろう。けれど、真っ直ぐで素直な草壁の影響で、かれは真実を打ち明けた。それに対する母親のあまりの物分かりの良さにちょっと拍子抜けしたけれど、このシリーズだから、これでいいのだと思う。相互に与えるものが良い方向に作用する、それでいい。

その一方で、草壁は以前よりも大人になっている。明るく楽しく適当に、という感じのスタンスで日々を過ごしていたかれは、友人が心配するくらい恋愛にものめりこめずにいた。友人とやる趣味のバンドは楽しいし、学校もそれなりに楽しいけれど、佐条と出会うまでのかれには、芯になるものがなかったのだと思う。それまでがずば抜けていい加減だったりするわけではないんだけれど、佐条と出会って付き合い始めたことで、草壁は誰かを真剣に支えたいとか守りたいとか初めて思ったのだろう。愚痴を漏らさず、疲れを隠して「大丈夫」と言う佐条の強さや潔さを好きな一方で、誰にも自分にも頼らないかれの態度をもどかしく思ってもいる。ひとりで頑張るかれの力になりたい、と真摯に佐条に説く草壁の表情はいつもより大分大人びている。男っぽくなっていてすごくいい。
佐条の表情も含めて、「同級生」の最初から今までの数年で絵が変化したこともあるけれど、それだけじゃないと思う。かれらの世界の時間ではたった一年余りだけれど、それでも確かに二人は大人になっている。

でもやっぱり二人はまだまだ子供だ。
おそらく東京にあるであろう事務所に所属するより、フリーのままでいた方が目指すものに近付けると言われた草壁は、佐条が春から暮らすことになる京都へ行こうかな、と考える。それほどの距離でもないし、仕事があれば移動すればいいのだ、とかれは言う。それより何より、佐条と何年も離れて暮らすことが耐えられないと思ったのだ。
けれど佐条はそれを拒む。東京にいた方が絶対に仕事には有利だから、青臭い夢のために必死になっている草壁が好きだからそのままでいて欲しいのだと、自分のためにそれをないがしろにするようなことは許さないと怒る。それを草壁も承諾した。
一週間会えないだけで心が擦り減ってしまうようなかれらは、一緒に暮らす道が目の前にあるのに、敢えてそれを選ばなかった。考えた結果出した答えだけれど、若さもあるのだと思う。離れ離れになること、とかれらはまだよく分かっていない。ほとんど毎日、努力しなくても会えていた相手と、会えなくなる。会いたいと思っても、時間も金もかかる。それぞれ異なるタイムスケジュールで動くようになれば尚更だ。辛いことがあったから顔を見せて、と言うわけにはいかない。その寂しさをかれらはまだ知らない。知らないからこそ、別々の土地で生きてゆこうと言えるのだ。知っていてもやっぱり、言うだろうけれど。

草壁の一大告白もまた青くて可愛い。人生設計があって言っているわけでは当然なく、幼い子供のように、恋愛の最終地点を結婚だと思っているのだろう。それが今のかれに示せる最大限の愛情表現なのだ。好きだからずっと一緒にいたい、という気持ちがその言葉に集約されている。佐条もそれを受け入れた。離れたくないと泣いて、それでも一緒に京都に来ることは嫌だと泣いて、草壁が好きだと泣いて。涙もろい草壁も泣きまくって、この日を持って永遠に失ってしまうものの大きさを噛みしめる。二度とふたりは「同級生」にはならない。恋人は続くし、家族になる日も遠くないかもしれないけれど、同じ制服を着て同じ校舎に通った日々はもどらない。戻らないからこそ美しい。

最後はちょっとロマンチック過ぎるきらいもあったけれど、一貫してまぶしい物語だった。成就して、永遠に続くはつ恋の輝きが凝縮されたような、きれいでかわいくて甘くて酸っぱい物語。
OPERAでほとんど読んでいたのだけれど、毎回どきどきしてキュンキュンさせられた。背中に走るむず痒さと、思わず口元が緩むような微笑ましさが沢山詰まっていて、楽しみで仕方がなかった。大好き!


***
「同級生」「卒業生-冬-」「卒業生-春-」と三冊並べたときの背表紙が可愛い。ハラセンを挟んで向かい合っている佐条と草壁。しゃがんでいるハラセンは当然佐条の方を向いている。
表紙も、表がそれぞれのシーズンに歩く二人のイラストで、裏はその途中で立ち止まってキスしてるイラスト。口絵の後ろ姿も統一されていて良い。丁寧に描かれた内容同様に、丁寧に作られた本だと思う。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 00:51 | - | - |

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