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冨樫義博「HUNTER×HUNTER」27

冨樫義博「HUNTER×HUNTER」27

心を持たなかったものたち、心を持つことを必要としなかったものたちが、心を持ち始めた。最初にその兆候が現れたのは王だった。自分以外のすべてを統べるという最大にして唯一の目的を抱いて生まれたかれは、生まれながらにして自分以外の世界が愚かに見えた。美味い食糧と美味くない食糧、役に立つ部下と別に役にも立たないけれど本人が望むから受け入れてやっただけの部下、それだけだった。
そんなかれはコムギと出会い、まるで人間のような心を抱き始める。相手に興味を示し、関心を抱き、相手の状況や心情を慮って尊重することを覚える。それは無情の王にとっては異例のことで、かれの周囲にいる者はそれを危険だと薄々気づいていた。強くも美しくもない特定のものに心を奪われることなど、あってはならなかった。世界を統べるためにのみ、行動すればよいと思われていたのだ。
しかし王はコムギのために自分の体を傷つけた。彼女の治癒をユピーに依頼すらした。それまでの暴虐の限りを尽くす愚かな獣のような王の姿は薄れ、よく研いだ刃物のように鋭利で聡明な存在であるように見えた。王は確かに変わった。

ピトーもまた新たな顔を見せてきた。王のためなら、王の望みを完遂するためなら、敵に頭を下げることなど辞さない。王のため、王にしかできない統治のため、かれはプライドを捨てた。
そしてこれまではただの戦う獣だったユピーにも、心が生まれ始めた。命を賭けて友人を守り戦うナックルの見苦しいまでの熱血っぷりに揺さぶられ、尊敬の念を抱くまでになった。実力は自分の方が上だと分かっていて、それでも相手に敬意を抱いた。簡単に殺せるはずの相手なのに、殺せなかった。殺したくなかったのだ。

頭数は多いものの実力で劣っている部分も多いゴンたちにとっては、キメラアントたちの変化はありがたいものになるはずだった。力で勝てなくても、なんとかかれらが計画を止める可能性が出てきたからだ。
だがそれと同じくらい、危険でもある。心を持ったかれらは、今までのような100%の敵ではなくなってしまった。戦いの中であらゆる感情を知り、あらゆる関係を結ぶ自分たちと、変わらないものであると分かってしまうかもしれない。問答無用で根絶やしにしてしまって構わない悪いやつ、じゃなくなれば、振り上げた拳で襲いかかることは難しくなる。

圧倒的に強い力を持って生まれた王は、自分が先天的に取得しているその力が何のために存在するのか、自分はそれを何のために使うのか考えた。そして答を出した。暴力や恐怖という方法を用いて、かれが作り出すものは理不尽なことのない世界だと言う。圧倒的な独裁者のもとでは、かれ以外の全てがひとしく無力となる。そこには貧富の差も、飢えもない。そんなものを王は願ってしまった。
それを聞いたネテロは、これ以上王と会話することを嫌がった。「心がぶれる前に」早めに闘うことを望んだ。ぶれるのは未だ成熟しきっていない王の心であり、なによりネテロ自身の心だ。武道を極め多くの人間から慕われるかれですら、逆らえないものはある。面倒な人間関係や権利問題に巻き込まれて生きている。命をかけることも戦うこともしない奴らに顎で使われて、こんなところまで派遣されたことにだって複雑な思いはあるだろう。王の話は魅力的だ。口だけでなく、かれにはそれを実現する力がある。そのことを傍にいるネテロは肌で感じているからこそ、余計に惹かれそうになるのだろう。
一歩のところで踏みとどまったネテロが選んだのは、卑怯な方法だった。いくら強くても王はまだ幼い。老獪なネテロの罠にひとまずかれはかかった。しかしそんなもののために理念を曲げてまで戦おうとすること自体、王が持つ心の闇の深さを物語っている。

バトルに次ぐバトル展開はさすがにちょっと食傷気味になってきたけれど、ストーリーは相変わらず腹が立つくらい面白い。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 02:03 | - | - |

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