<< M-1グランプリ2009 | main | 冨樫義博「HUNTER×HUNTER」27 >>

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

web拍手
posted by: スポンサードリンク | - | | - | - |

和泉桂「タナトスの双子 1917」

和泉桂「タナトスの双子 1917」

「タナトスの双子 1912」<感想>の続編。
最悪の別れで終わった前巻のあと、双子の境遇は大きく変化した。二度も犯罪者を逃がした罪を追ったユーリは拘束され、屈辱的な立場に身を置かれ、ミハイルを憎むようになった。ただ憎いのではなく、憎しみを抱くことを決めた、という感じがする。どうしようもなく哀しくやるせない事件を前に、憎む相手を欲したのだ。誰かを、愛情と同じくらい強く憎まなければ、愛よりも深く思わなければ、もう二度と立ち上がることさえできなくなっていた。
空っぽになったユーリの心に、憎しみの種をまいて培養するのがヴィクトールだ。かれはユーリに屈辱を味わわせることで、かれの中に眠る復讐の意思を起こそうとしている。優しさや慈しみではなく、そんな風にしかふるまえないヴィクトールの歪な思いがいい。もちろん調教つき。

ユーリの心に消えない傷となった最悪の瞬間を、ミハイルは目にしていなかった。目を覚ましたかれは幼いころの記憶を取り戻し、その代わり以前事故に合ったあとの記憶を一時期失ってしまった。
この展開には驚いた。ようやくユーリがミハイルを殺したいほど憎みだして、二人が対等な関係になったかと思いきや、今度はミハイルの中から憎しみが消えた。自分と同じ顔をした半身への愛情でいっぱいになったかれの無邪気さが哀しく恐ろしい。
そのあとミハイルの記憶は落ち着き、かれはこれまでの全てを思いだすけれど、そのあともユーリへの思慕は募る。募れば募るほど、自己嫌悪も強くなる。それと同じくらい、ユーリへの憎しみも芽生えては消えてゆく。
安定しないミハイルの心を支えるのはアンドレイだ。かれは初めからずっと、ぶれることのない思いでミハイルを見つめ続けている。永遠に叶わないかにも思えたその優しい愛情は、少しずつミハイルの頑なな心を溶かしてゆく。

お互いへ向けた双子の思いは、どんどん縺れていく。相手の所為でマクシムを失ったのだとかれらは思い、そのために相手を憎んでいる。それと同じくらい、マクシムを失ったのは自分の所為だとも思っている。相手からマクシムを奪った自分は、相手に殺されるべきなのだとも思っている。誰よりも愛しい相手を傷つけたのだという気持ちと、誰よりも愛している相手に傷つけられたのだという気持ちが、ひとつの矛盾もなくかれらの中にある。
絶対に相手を殺すことなどできないくらい愛している。誰よりも憎いからこそこの手で殺したい。愛する相手の手で命を終わらせて欲しい。憎しみは憎しみを生むだけだと知っていて、それでもかれらは憎むことを止められない。愛することを止められない。お互いに、自分を想ってくれる相手を傍に置きながら、自分と同じ顔の男のことばかり考えている。そこには確固たる理由がない。ないからこそ、二人の体を流れる血がそうさせるのではないかと思ってしまう。ないからこそ、その想像の信憑性が高くなる。命をかけて本気で憎しみ合うか、命をかけて愛し合うしか選択肢がない。そういうさだめだ。カルマだ。

どんどん高まる市民の不満、一向に良くならない景気、ロシア帝国の終わりはもう始まっている。正反対の立場なれど、激化する戦いに身を置く双子は、あらゆるしがらみを断ち切って生きてゆく。兄弟への歪んだ愛ゆえに、自分の立場での仕事を全うできない双子は共に集団から疎まれ始めていた。どうしても裏切れない存在を前にしたら、長年付き合ってきた仲間ですら意味をなさない。次第に家族とも友人とも疎遠になり、かれらは傍にいる男と二人きりになる。終わりゆく国と同じように、双子もまた、ひとつずつ関係を終わらせてゆく。淘汰でもしているかのように、繋がりあう社会を遮断する。
生きるために。

そしてラスト。ついに再会した双子はお互いに銃口を向け合い、話し始める。

どうなるのかなかなか読めないラストだったけれど、後味が良い終わり方だった。かれらが一連の争いを終えるためには、そうするしかなかったのだろう。

ロシアの歴史については詳しくない。「オルフェウスの窓」を読んだ程度である。ただ、ひとつの国が終わりを目前にしている、目に見えて衰退していく様子というのにはやはり惹かれるものがある。滅亡直前、腐り果てる直前の危うさがたまらないのだ。
前巻の感想でも書いたけれど、作者のほかの作品と比べても、明らかに心情描写を減らした作品だった。人間関係や恋愛などのエピソードもあまり多くは語られない。ヴィクトールの調教や、ユーリの足の怪我など、いくらでも膨らむ素材はあったのに、描かないことを選択したのだろう。しかし言葉少なに語られるエピソードはどれも印象的だし、描かないことが雄弁にそれらの事実を現わしている。個人的には、この設定と世界観描写にいつもの調子の心理描写を加えて、全10巻くらいで発行してくれたら最強だったのに、と思うが。
ともあれ強い意欲を伺える作品だったし、今後もこういう系統の物語が生まれることを待ちたいと思う。歴史、主従大好き!
web拍手
posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 01:25 | - | - |

スポンサーサイト

web拍手
posted by: スポンサードリンク | - | 01:25 | - | - |