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崎谷はるひ「くちびるに蝶の骨〜バタフライ・ルージュ〜」

崎谷はるひ「くちびるに蝶の骨〜バタフライ・ルージュ〜」
会社員の柳島千晶は、ホストクラブのオーナー柴主と十二年も共同生活を続けている。大学時代に偶然知り合ってあれよあれよと肉体関係をもたれ、かれの言うがままに暮らしてきたけれど、傲慢な柴主の態度に疲れ果てた千晶は、転勤を機にかれと別れようと決意する。

バタフライシリーズ第二弾。第一弾「ぼくらが微熱になる理由〜バタフライ・キス〜」<感想>は漫画だったけれど、こちらは小説。とはいえこちらから先に読んでも問題なし。漫画を先に読んでいると、漫画の中で主人公二人が見てしまったとんでもない濡れ場がどういう理由でなされたものだったのかが判明する、くらい。

崎谷さんの作品で言うと、「チョコレート密度」の系統かな。チョコ密の人間関係で、「ビターショコラの挑発」と「ヒマワリのコトバ-ススメ-」の、遥か昔に釦を掛け違えてしまって今更どうすることもできない膠着状態に陥ったような、言葉が足りなさすぎる二人の物語。

真面目一本やりで人づきあいが苦手な千晶が、数少ない大学の友人に誘われて出た飲み会にいたのが、当時すでにホストとして働いていた柴主将嗣だった。王将という源氏名を持つかれの、威圧感に千晶はえも言われぬ嫌悪感を覚えつつも、なぜかかれのことばかり気にしてしまう。集団の中心にいるかれと、隅っこでひとり酒をちびちび飲んでいる千晶では全く接点などないはずなのに、些細なことがきっかけで、二人は距離を一気に縮めることになった。将嗣の仕事の一部、データの打ち込みや集計などを千晶が手伝うようになったのだ。そしてそこから先はもう、なし崩し。
仕事を手伝い始め、一緒に行動するようになり、女との濡れ場を見せつけられ、そのまま食われた。それはすべて将嗣が強引に行動した結果で、千晶がか細い声で拒否しようと、細い腕で抵抗しようと何の意味もなかった。そして何より千晶は、将嗣に惹かれていた。
将嗣が好きだからこそ、千晶は将嗣の行為に傷ついた。自分をその他大勢のうちのひとりとしか見ない将嗣に、好きだと告げたところで結果は知れている。鼻で笑われるか、逆手にとって利用されるか、重いからと捨てられるか。それならば決して口にせず、言うことを聞いて、せめて捨てられないようにしようと思ったのだ。
更に、将嗣は千晶と暮らし始めてからも、家に女を連れ込んだり、外で枕営業をすることを止めなかった。それがホストなんだから理解しろ、と乱暴に告げただけで、優しいフォローも言い訳もなかった。別に引きとめたり、機嫌を取ってほしいわけではなかったのだけれど、それらを一切されなかったことで、自分にはその価値がないのだと千晶は受け取ってしまった。

そこから先は、ずっと奇妙な関係が続いている。一緒に暮らしているけれど、仕事が忙しい将嗣はあまり家に帰らない。たまに帰っては千晶をひたすら抱くだけで、仕事の会話も雑談もなにもない。それに疲れた千晶が別れを切り出せば、一蹴に伏された揚句、散々に抱かれてなかったことにされる。

とにかく千晶が痛々しい。拒みきれないかれにだって問題はあるし、他にいくらでも方法はあるはずなのに、別れ話をうやむやにされてしまうあたり、本気で別れたいようには見えない。だけれど、やはり将嗣が無茶苦茶すぎる。言い訳をしない、嘘をつかない、とにかく欲しいものは自分で手に入れる、そうやって成功してきたかれは立派かもしれないが、一般常識から外れすぎている。そんな将嗣のことを、かれのことをおそらく一番よく知っている親友の春重が「頭と心が複雑骨折している」と称している。うまくつながるべきところが繋がっていないのだ、ということらしい。

上にあげた三作品と異なるのは、将嗣がはたして何を考えているのか、最後までろくに分からないということだ。かれの家庭環境が最後に少し語られるけれど、それだけでは到底説明がつかないようにも思える。将嗣は最初から最後までずっとあのままで、それに振り回されていた千晶が大人になって強くなったからこそ、関係が変化してゆくのだ。行動を起こすのは将嗣だけれど、それを解釈して自分たちの関係に落とし込むのはいつだって千晶だ。
優しい態度をひとつもよこさない、言葉をくれない男だけれど、本当はずっと自分にべた惚れだった、というのはお決まりの展開である。それは目新しさに欠けるけれど、ある意味素晴らしい王道だし、期待通りでもある。ただ、今回はその流れを汲んでいるはずなのに、最後のオチが弱いように思った。
動物的な勘で動き、飾った言葉をよしとしない将嗣はろくに語らない。そのことが千晶を不安にさせるけれど、かれはそういう自分を改めたりはしない。自分に自信がありすぎる結果なのか、将嗣は歩み寄ることが非常に少ない。
恋愛は常に対等ではないし、性格やスタンスが違う以上どうしようもないのだけれど、あれだけ傷ついた千晶を思うと、将嗣の態度は腑に落ちない。将嗣の多少の努力もあるんだけれど、少なすぎる。ストレスばかりが重なっていって、カタルシスしきれなかったという感じがする。もうちょっとなんとかなるような気がするので勿体ない。

崎谷さんの書く、やけくそになって心を閉ざしてしまったひとはすごく好き。そのやさぐれ方とか諦め方が半端じゃないから、読んでいてとても痛々しくてくせになる。そういう意味では中盤の千晶はすごく良かった。一番心をつなぎたかった相手とだけ、どうしても気持ちを交わせなくて厭いていくあたりが生々しい。あとは年齢を重ねていくことと向き合う心情も相変わらずうまい。信頼して、尊敬て、安心しあえるひとと共に過ごしたいと思うようになってゆく、勢いだけで生きるにはもう年をとりすぎた千晶の寂しさがせつなかった。
好きだからこそ、将嗣とセックスしたくなかった、と呟く千晶の吐露も良かった。ここの一連のセリフは本当に沁みて、胸が詰まった。だからこそオチが惜しい。でも、その不条理加減も乗り越えてしまうのが恋愛か。破れ鍋に綴じ蓋だと分かっていても、結局お互い以上に欲しいものなどないのであれば、仕方がない。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 22:44 | - | - |

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