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砂原糖子「スリープ」

砂原糖子「スリープ」
時刻や場所を問わずに突発的に眠気が襲ってくるナルコレプシーを患っている倉知は、同じマンションに住む不眠症の上木原と行動を共にすることが多い。正反対とも言える睡眠障害の内容だけでなく、容姿も性格も全く違う二人だったが、上木原は倉知の面倒をよく見てくれていた。

不眠症の男と、過眠症の男の恋という発想がまずもって良い。
主人公の倉知はナルコレプシーだけでなく、カタプレキシーと呼ばれる、感情的になると筋肉が脱力して立っていることもままならなくなる病気も抱えている。その二つがどれほど大変で危険と隣り合わせであり、更にはストレスを感じるものであるのかは、決して病気メインの話ではないこの作品を読んだだけでも伺い知れる。だからと言って物語が病中心にはならない。そういう特殊な環境にいるかれらの、不器用な恋愛が飽くまでもメインであり続ける。そのバランスがとても良かった。どこまで行ってもこの作品はラブストーリーで、穏やかで微笑ましいラブコメ道を貫いてくれているので安心して読める。

ナルコレプシーは眠気が襲ってくると抗えない。歩行中であれ、いきなり眠ってしまうというのは非常に危険だ。かれの病気のことは学校でも知られており、教師は理解してくれているけれど、やはりその様子を快く思わないものもいる。自分の授業中の居眠りは叱られて、倉知の眠りが容認されているのが納得いかないと絡まれたりもする。女顔ながら容姿も整っており、眠ってばかりいるのに成績優秀な倉知はそれだけで妬みの対象になりうるのだ。
子供じみた嫌味でからかわれたり挑発されても、倉知は普段のローテンションを崩さず涼しい顔反論するにとどめる。それは元々のかれの性格もあるけれど、何より、感情の急激な起伏によって起こるカタプレキシーの発作を出さないようにするためだ。
更に倉知は家でかなり勉強をしている。授業中に眠っていた分の遅れを、起きている間に取り返すべくかれは努力しているのだ。そういった、病気が原因で起こる面倒や不具合を、かれは黙々と処理し続けている。その上同居している従兄弟は度を越した過保護な男で、心配してくれる優しいひとであることは確かだけれど、その愛情が重苦しいほどだ。
とにかく倉知の生活はあらゆる方向から圧迫されていて、とても息苦しいものであるように見える。しかし当の本人はあまりそのことに悩まされている様子もない。中学のときから発症している病気だということなので慣れもあるだろうし、前述のローな性格もあるだろうけれど、決して鈍感でも楽天的でもないかれがこれほどフラットな状態でいられることは凄い。

その状態を倉知が保つことに一番尽力しているのはおそらく上木原の存在だ。女子からの人気が高く、そのうちの多くと適当に割り切った遊びを繰り返すかれは、中学からの倉知の友人であり、同じマンションの住人でもある。更に内容は違えど同じ睡眠障害を抱えているという仲間意識もあってか、二人はなんとなくいつも一緒にいた。気が合うわけでもないし、倉知は上木原にあまり優しくないのだけれど、気づくと行動を共にしている。倉知が発作的に眠れば抱えて家まで連れて帰るし、行列に並んだりすることもできないかれのことを把握しているので予測した行動もできる。
上木原が恩着せがましくないうえに非常に自然にふるまうのでなかなか気付けないけれど、かれの懇切丁寧なサポートは倉知が今の生活を続けるのに必要不可欠なものだ。決して助けてやっているのだという空気を出さない上木原の自然なサポートが良い。

憎まれ口を叩きつつ気楽に付き合っているかれらの友情は、微妙に変化してゆく。病気の所為もあって、肩を貸したりするスキンシップが多いかれらは、そのことを今更気にしている素振りもない。それはもはや慣れた日常でしかなかったはずだ。
しかし倉知は、上木原の体温を心地よく感じている自分に気づく。これまで築いてきた、半ば完成されていた関係が、崩れはじめる。
上木原は明るくてノリが軽くて、それでいて絶対に本音を表に出さない。不眠症のことも多くを語らないし、かれが何を思っているのかもはっきりしない。適当に笑ってごまかしているその態度に、倉知は苛立ち始める。今までさほど気にならなかったかれの些細な部分が気に障るのは、かれを意識しているからだ。倉知のことを何でも知っているくせに、自分のことはろくに話さないから、腹が立つのだ。それはかれを知りたいからだ。
寝ている自分にキスをした上木原に、倉知はなぜそんなことをしたのか問うた。かれの応えは本音ではないと簡単に分かるようなものだった。そして倉知がある日目を覚ますと、目の前には上木原がいた。倉知は半裸で、ひどい姿だった。ぼんやりとした頭でお前がやったのかと聞いた倉知に、上木原はそうだと肯定した。当然倉知は怒る。普段殆ど感情を出さないかれが、激昂した。寝ている自分にこんなことをした卑怯さへの怒り、信頼を裏切ったことへの怒り、そしておそらくこんな方法を取ったことへの怒りだ。倉知の絶望の中に、きちんと筋を通せばこんな卑怯なやり方を選ばなくても許したのに、という嘆きがみえる。今更そんなことを言うわけにもいかなくて、怒鳴れば体の力が抜けて呂律が回らなくなって、最も憎むべき相手に助けられているという屈辱に打ちひしがれる倉知が切ない。

最悪の関係に陥ったあとも、学校に行けば顔を合わせるし、帰り道だって同じだ。被害者であるはずの倉知はそんなことがあった翌日も、上木原に近づいて、かれの本音を聞き出そうとする。
上木原のことだけ考えていた倉知だけれど、そうもいかない。かれを好ましく思わない連中の嫌がらせ、正体不明の怪事件の連発で、かれらは休まる暇がない。誰を信じて誰を疑えばいいのかはっきりしない上に、上木原の考えも行動も分からない。そんな中、これまで自分から何かを求めることのなかった倉知が積極的に行動し始める。誰かを真剣に問いつめたり、かと思えば大嫌いな人間に頭を下げたり、かれの人間らしい面が出てくる。

とにかく最後まで大忙しで、読み応えの十分ある作品だった。一気になにもかもが解決しないところがいい。砂原さんはシリアス度の強いものからオバカなエロコメディまで色々なものを書く作家さんだけれど、個人的にはこういうどシリアスが好きなので満足。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 23:41 | - | - |

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