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川唯東子「雫 花びら 林檎の香り」

川唯東子「雫 花びら 林檎の香り」
酒が全く飲めない体質の榛名は、頑固な造り酒屋となんとか取引をすべく営業まわりを続けている。そんなかれが怯えながら向かった先で出会った好みのタイプの男・中川と、会社で再会することになる。 

別にものすごく分厚いわけでもコマが小さいわけでもネームが多いわけでもないのだが、すごく読み応えがあった。川唯さんの話はどれもそういう感じだけれど、これは特にそう思った。

帰国子女でイケメンの榛名は、葉に衣着せぬ発言の所為で誤解されやすい。そういう自覚もあるけれど、いまひとつ直しきれずにいる。会社で営業職についているかれは、非常に評判がいい造り酒屋と契約するために会社を出る。どの社員が押しかけてもけんもほろろに断られ続けているその造り酒屋は、蔵元がいかにも頑固な職人という感じだ。
そして榛名は怯えながら押しかけた造り酒屋で、同世代の男と出会い、一目惚れをする。蔵元の孫だというその男中川は、しかし酒造りを手伝わず、SEとして榛名の会社に派遣されてきた。どこか乙女チックな思考回路を持つ榛名には、それが運命だと思えた。

運命を感じたあと、とにかく榛名は頑張る。自分の気持ちを知る前も知ってからも変わらず異常に無愛想な中川に振り向いてもらうため、家族経営をする頑固な蔵元に契約してもらうため、ただひたすら頑張る。この頑張りが卑屈すぎず健気過ぎず、ポジティブに突っ走るので見ていて気持ちがいい。痛々しさがなく、仕事も恋もひたすら前向きに諦めないかれのスタンスが良い。失敗しても酷い目にあっても、笑顔で頑張る。
そのガッツを、恋の事情を知らない会社の人間や、酒造りを手伝う中川の妹は好意的に受け取って応援してくれる。だからかれは、いくら蔵元に邪険にされようと、中川に冷たくされようと頑張れるのだ。そのまっすぐさ、眩しさが蔵元と中川、二人の心をゆっくり動かしてゆく。

だからと言って、すぐにうまくいかないところもまた良い。榛名の体当たりの愛情表現と仕事っぷりを見て、中川は以前に比べればかなり心を開いてくれるようになった。最初は挨拶、普通の会話、親しい会話ときて、榛名が望めば多少のスキンシップはしてくれるようになった。ただそのハグもキスも、榛名に対する愛情からではなく、別に大したことじゃないからできるという意味合いが強いので、嬉しいけれど寂しくもなる。中川が本当はとても真面目で不器用な優しい人間であるとわかるからこそ、せつない。抱き合っているのに遠い。抱き合っているからこそ余計にその距離を痛切に感じてしまう。

結局、過去のとある事件がきっかけで閉ざしてしまった中川の心を開いたのは榛名のあからさまなアプローチではなく、誰にも見抜かれなかった本音を榛名が言い当てたことだった。それは蔵元たちの仕事と中川個人、その両方を追いかけていた榛名だからこそわかる真実だった。
榛名が必死で仕事に向き合ったことが、単に業績という結果を出すだけでなく、かれの精神的な成長にもきちんと作用していることが分かる、すごくいい展開だと思った。心の一番奥を見抜かれてしまったら、もう、暑くて重たい鎧をわざわざ着込む必要はない。

とにかく最後まで、一段飛ばしを許さない厳密さで階段を上り続ける品だった。お年寄りの作画が物凄く微妙だったりするのだが、物語の丁寧さと読み応えには大満足。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 21:11 | - | - |

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