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本間アキラ「兎オトコ虎オトコ」1

本間アキラ「兎オトコ虎オトコ」1
医師の卯月は、夜道に倒れているヤクザを助ける。応急処置だけして逃げだしたその翌日、卯月の勤める大学病院にそのヤクザが現れた。脅されるのではないかと怯えている卯月をよそに、昨夜の記憶が曖昧な野波は、自分を助けた相手が「スズキ」という女性だと思い込んでいて、その女性を探していると言ってくる。

可愛かった!
大学病院勤務の卯月は、小柄で童顔でお人よし。なかなか強く出られない性格をしているけれど、責任感はあるので、たとえヤクザであろうと銃によって負った傷であろうと、倒れている人を見過ごすことはできなかった。通報するなと威嚇する野波の言葉に従った卯月はわざわざ病院から治療器具をこっそり持ち帰り、路上でかれの治療をして、思いっきり、逃げた。野波に聞かれるがまま、勤務先と名前を名乗ったあとではあったが。
翌日、どこかから自分の所業がばれないかとおびえている卯月が仕事に出ると、そこには舎弟を入院させるようにごねている野波がいた。上司からの命でその舎弟の担当に回された卯月は、かれが決して入院を必要とするような体調ではないこと、野波が人探しのために仕組んだことを知る。昨夜倒れていた自分を助けてくれたひとが、ここの病院で働く「スズキ」と名乗る「女性」だった、と勘違いしているかれに乞われて、卯月は病院内のスズキ姓の女性のリストを作らされる。実際に対面しても自分が助けた相手だと気づかれないことに安堵しつつ、いつかばれるのではないか、ばれた時に物凄く怒られるのではないかと怯える卯月が可笑しい。

怪我で意識が朦朧としていた野波は、自分を助けた人物の姿かたちもろくに覚えていない。走り去る後姿が、ウサギのようだったということだけを頼りに、大勢いる鈴木さんを片っ端から当たってゆく。色男である自分に優しいスタッフもいたけれど、野波はその誰も、自分を助けた人物ではないと確信する。根拠はないけれど、かれの背中に彫られた虎の入れ墨が、違うと鳴いているているような気がするのだ。
そしてその虎の勘と携帯番号を頼りに、野波はスズキさんの招待が卯月だと知る。そして男であろうと、あの夜助けてくれたことが忘れられないこと、なにより虎が卯月を欲しているのだと主張する。
騙していること、知らないふりをしていることがばれたら怒られる殴られる殺される、とばかり思っていた卯月は、その求愛についていけない。しかも野波の愛情表現は即物的な上に暴力的なので、卯月はその気持ちをどう信じていいものか、どう対処していいのかもわからない。

何もかもについていけずぐるぐるしている卯月と、そんな卯月にいらいらしている野波のアンバランスさが良い。最初は助けてもらったことへの恩義と、走り去る後ろ姿で卯月に惚れた野波は、自分や自分の部下たちに怯えているくせに、決して信念を曲げたりしないかれの姿勢に更に恋をした。仕事のやりがいを、今までに見せたことのない笑顔で語るかれに、本気で落ちた。力任せに奪えないほど、好きになった。
殴られそうになったり襲われそうになったりして、涙目で震える卯月と、その顔を見てしまうと決してそれ以上はできない野波の両方が可愛らしい。惚れた弱みと目尻を下げる野波はとっても普通の男で、普段恐れられているかれの姿とあまりにも遠くて切ない。

野波の強引で一方的な思いは、しかし卯月を少しずつ動かしてゆく。かれからの連絡がないと寂しくなる。かれに貰った、ちっとも趣味じゃないものを大事に眺めるようになる。そういう自分に戸惑う。そして野波のおかれている環境と、かれが自分に向ける気持ちの大きさを知った瞬間、卯月の中で急激な変化が起きた。
あれほどまでに嫌がって怯えていた野波に、かれは自分から体を差し出そうとした。今までのかれにない無表情のまま。「ごめんなさい」というモノローグが刺さる。多分卯月はいろいろなことが怖くなったのだろう。好きになるわけがない相手と本気の恋をしそうになっている自分に怯え、自分を変えてしまったかれの心の強さに怯え、卯月はそのすべてから、逃げた。

そして非常にいいところで終わるのだ。続くのだ。巻数が表紙にきちんと書いてあるのに、まったく忘れていて愕然とした。すっごく続きが気になる。

インテリ然として、実際頭もきれるのに、態度も口調も乱暴なヤクザの野波も、小動物そのものの卯月もすごくいい。更にたまに二人が虎と兎そのものになってしまうコマがあるのだが、それがすごくかわいい。でっかい虎にちびっこい兎が追い詰められたりキスされたりしているのが、超絶、かわいい…。

コメントペーパーを見たら、月夜に野波と歩いている卯月の影がウサギ型になっていて、異常に、もえた。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 17:55 | - | - |

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