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小野塚カホリ「生日快楽」

小野塚カホリ「生日快楽」

やおいに目覚める平均年齢などと言うものがあるとしたら、おそらくわたしはそれよりも早くやおいに出会っていたと思う。出会って夢中になった年月が続き、そのあと少し食傷気味になった。飽きたとまでは言わないが、それ以上に新しいもの・新しい刺激を探していた。そしてたどり着いた先がサブカルだった、というあたり本当に思春期剥き出しで恥ずかしいのだが、わたしは自意識過剰のアングラ少女だった。BLが台頭し、ハッピーエンドが席巻するノリについてゆけなかったのもあるだろう。
そんなときに偶然手にしたのが、「深夜少年」だった。タイトルも表紙も裏表紙のあらすじも、とにかく何もかもに吸い寄せられて、買って、心を撃ち抜かれた気がした。寺山修司を筆頭に、そこかしこに散らばる作者の嗜好がびしびしと刺さり、一筋縄ではいかない展開と繊細な絵柄に惹きこまれた。今思えばわたしにとって小野塚作品は、やおいとサブカルという二つの異なる点を繋いでくれる一本の線だった。
そんな小野塚カホリ、「虜囚」以来9年ぶりのオリジナルBLコミックス。
とは言え収録作品は99年〜00年に雑誌に掲載されたものである。なので当然ながら新境地ではなく、あの頃書いていたものの純然たる延長線上にある作品ばかりだった。

表題作の「生日快楽」はハッピーバースディの意、だそうだ。
一人暮らしの(おそらく)フリーター中野は、遊びに使う金を借金するうち、とうとう返し切れない金額にまで膨れ上がってしまった。金貸しに詰め寄られたかれは、電車で見かけた男を殴って財布を盗むことにした。そうしなければ、自分がひどい目に合うからだ。なぜそいつにしたのかは、その男が電車の中で他の男に痴漢行為をしていたからだ。犯罪者だからとか、同性愛者だからとかではなく、かれがその男にしていたある行為が、どうしても許せなかったからだ。
中野が男の財布を探っているときに、男は意識を取り戻す。状況を把握した男・森中は何故か、財布の中から中野にキャッシュカードを投げてわたし、暗証番号を教えて去った。口座には、中野の借金よりもはるかに高い金額が入っていた。

複数の男と寝ては甘い言葉をまき散らす森中は、しかしながらちっとも精力的ではない。口ばかりの嘘を吐いて、相手のことも自分のことも憎んでいそうな、厭世観に満ちているかれのもとには、そういうものを求める男たちが群がる。恋愛の最高潮のときに死にたいと願うような、破滅衝動を持った男たちだ。そういう男と片っ端から寝て、森中はある実験材料を摂取し続けている。かつて実験材料だった自分を知るために。

おそらく敢えて、話の全容を明らかにしないように作られた物語だ。
ほぼ正体の明らかになった森中と、中野の関係。実験を続けるかれの本当の狙い。金貸しとの関係。ぼんやりと輪郭が見え始めると、一気に姿を消してしまうそれらの真実には、どこまで想像してもたどりつけない。けれど、おそらく中野も一生かかっても森中の真実を知りえないのだろうから、これでいいのだ。
明らかにならない、ということが作品の濃厚な雰囲気を演出している。密室でじわじわと麻痺してゆく感覚、不明瞭になっていく思考。飼いならされることの恍惚、騙されているとわかっているのに逃れられない。真実が見えない不安と、いつまでこうしていられるのか分からない猜疑と、森中から与えられる快楽の中で中野は答えにたどりつく。
知りたくないことは知らないまま、聞きたくないことは聞かないまま、それでも全てを受諾することはできる。森中が聞いた「好きかな」「何もかも?」という言葉に、かれのことをほんの一握りしか知らない中野は「うん 何もかも」と答えた。今知っているところを何もかも、知らないところも何もかも、好きだと言う。いつか知ったときにも、何もかも好きでいるよ、という誓いでもある。神に祈るしかない無力な中野は、神にも救われない森中をこのとき一瞬だけでも、救ったのだ。

「ピーナッツポップガン」は「息もすんじゃねえよ」のしゅーじとナカコーのその後の話。「キャラコリ デュ ネギュス」のキャラも出てくる。懐かしい!物々しかったり陰惨だったりする作品が多い中、まっすぐにラブコメしているかれらは清涼感があって、バランスをうまく保ってくれていた。そしてそれは今回も同じことだ。
付きあってそれなりに経つけれど、相変わらず二人の間には肉体関係がない。以前よりも大分晃司は落ち着いていて、してもいい、という気にはなっている。しかしそうなると、今度は別の不安がかれを襲う。「うまくできなかったら…申し訳ないし…」と思って、なかなか自分からは言い出せないのだ。もしも自分から言ったら、あとには引けなくなる。やっぱり駄目、とは言えない。それをやってひどく罵られた過去があるからこそ、余計に出来ない。修二がそういう人間ではないとわかっているけれど、古傷はまだ癒えていないのだ。
だからかれはぼんやりと思う。「心(じぶん)を失くすまで抱いて」と。なにもかもわからなくなるくらいに、奪われて流されて、すべて済ませてしまいたい。自分の意志とは関係なく、既成事実を作ってしまいたい。けれど、修二はそれをよしとしないだろう。我慢していることを冗談めかしてしか言わないかれは、非常に強い意志で晃司を待っている。いつかかれが自分で決めて、自分で行動することを、信じて待っている。ちゃらんぽらんだけど包容力のある年上と、しっかりしているけれどやっぱり甘ったれな年下。最後の真剣な恋と、初めての真剣な恋が始まっている。

「ポーラー」はすごく懐かしかった。この作品目当てに本誌を買ったことを思い出した。まさかそれがコミックスになるまで九年もかかるなんて、ね。
もうすぐ引っ越していなくなってしまう男と、かれにずっと片想いされていたことをつい先日知った男。実は両想いだったというようなドラマも、かれの思いに心が動いて何もかも捨てて引っ越しについていくような熱意も、遠距離恋愛を続けるような甘さもない。かれらは年の離れた友人同士だったけれど、それは男の告白によって終わった。そこにあるのは、告白した男と告白された男という関係だ。その間に生まれたのは一晩の語らいと、抱擁。
お互いにその日のことは、今後長く思い出すことになるだろう。だからと言って電話をしたり、会いに行ったりはしない。ただ、思いだして、きっと空を見上げる、それだけ。惑星と、そのまわりを回りつづける衛星のように、一定の距離を保ったまま、離れた場所で生きてゆく。そのどうしようもないラストが凄く好きだ。
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 20:55 | - | - |

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