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荒川弘「鋼の錬金術師」23

荒川弘「鋼の錬金術師」23

マスタングがエンヴィーに向かって、ヒューズを殺した犯人を問うたシーンを見て、鳥肌が立った。そうだこの男はずっと、その相手を探していたのだ。国を、世界を揺るがすような大きな事件に巻き込まれても、世界が大きく変化しようとしているうねりに呑みこまれても、決してかれはそのことを忘れなかった。志半ばで死んでいった仲間のことを、何よりも大切な家族を残して死ななければならなかった仲間のことを、かれはずっと覚えていた。その傷を負って、それ以外にもたくさんの傷を背負って、かれはとうとうここまでやってきた。
実際、ヒューズが死んでからここに行きつくまでの時間は、読者である我々が体感している時間ほど長くはない。オンタイムで読んでいたわたしにしてみれば、ヒューズが死んだのはかなりとおい昔のことになるけれど、マスタングにしてみればそれほど過去ではない。それは分かっているのだけれど、それでも、随分遠くまで来たな、と思った。「鋼の錬金術師」の終わりが近いことは誰の目にも明らかだ。終わってゆく物語、きれいに少しずつ閉じられてゆく物語の、その一片を目にしていると実感した。

盟友を、薄汚い方法で陥れて殺した犯人を目の前にして、マスタングは暴走した。守るべきもののためではなく、仲間の無念のためでもなく、ただ自分の恨みのために、かれはエンヴィーを攻撃する。自覚があっても止められないのだろう、ひどく荒んだ表情をするかれは、かれ自身にも憤っているように見える。ずっと共に戦ってきた部下にそんなことを言わせる自分に、年下の後輩に心配をかける自分に。
エンヴィーにとどめをさしたのがエドだというのは多少出来過ぎかなとも思ったが、エンヴィーという名前の割にはそれほどその特質を表に出してこなかったかれが、最後の最後でその名前にふさわしい終わり方をしたのはとても良かった。

賢者の石を手に入れたアルの発言もいい。自分たちが元に戻ることを諦めてみんなを助けるなんて馬鹿げている、みんなのことを放っておいて自分と兄が元に戻ることを第一に考えればいいじゃないかという甘言に、アルは動かされなかった。優先すべきは「皆」であることには変わりがない。しかし、そのために自分たちを犠牲にするつもりもない。両方救う、両方叶えるつもりだとかれは言う。
アルフォンスは、他人の言葉に翻弄されて、それまで信じていたものを疑うこともあった。何が正しいのかわからなくなったこともあった。知らない人間の言葉を信用して、危ないところへほいほいついていったこともあった。そういうかれが、決して迷わずに、つまらない誘惑を切って捨てた。兄の行動や、これまで出会った様々なひとたちとの交流がかれを変えた。容姿が一切変わらない少年は、それでも、確かに成長しているのだ。
この作品の根本に流れているものは、こういう眩しさだと思う。照れくさいほどの純粋さ、向こう見ずなほどのまっすぐさ、そういうものがきちんと芯にある。たとえ迷っても、間違えても、道を踏み外しても、ちゃんと戻ってこられる強さがある。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 23:49 | - | - |

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