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「冷血2」

「冷血2」
鬼泉桂(和泉桂)、酷原音瀬(木原音瀬)の合同誌。
存在はずっと知っていたのだが、そこかしこで見る注意書きの「爬虫類」という文字がネックで手を出せずにいた。
しかし他の同人誌を通販するときに、ふと魔がさしたので一緒に買ってみた。
というか丸尾だの何だのと読んでおいて何を今更躊躇することがあるのだ、と思ったのだ。DDTは結構トラウマです。

・鬼泉桂「残灯一盞野蛾飛」
三年に渡る飢饉の所為で、人々は飢えに飢えていた。幼いころに母を亡くし、大黒柱の父は怪我で働きに出られず、家では幼い妹が寒さに震えている。困窮した状態の中で景雪は、息子のために犬を探している男と出会う。犬が手に入らなければ、四足で歩くものなら何でもいいと言う男に、景雪は自分を犬として買うように持ちかける。

景雪はもともと犬になりたかったわけではない。ただ、かれは父と妹を救いたかった。家族が死なないために、犬という職業に就いた気でいた。人間としての仕事は余っておらず、犬としてならば金が稼げた、だから犬になった。家族だけでなく、自分も食べるものを与えられ、屋根のある寝床を享受することができるのだ。
しかしそんな考えは甘かったのだと、かれはすぐに思い知ることになる。
犬になるから、と言った景雪の提案を飲んだ男の屋敷には、上から永大、永伯、永山という三人の息子がいた。三人は全く異なる接し方で景雪を扱った。
まだ幼い子供である永山は、景雪を四つん這いにさせてその上にまたがり、長時間走らせた。更には殴る、蹴る。その行為を誰もたしなめないのは、かれがこの大きな屋敷の息子だからというだけではなく、相手が景雪だからだ。犬だから、だ。
長男の永大は、性欲の捌け口として景雪を扱った。食べ物で釣ったり、家族をたてに脅したりしながら強いられる行為に景雪は戸惑い、嫌悪し、そして慣れる。屈辱的な行為に次第に肉体は喜びを覚える。景雪の心と体がばらばらになってゆく。心を裏切る体に、かれの心は一層揺れる。
次男の永伯はどちらの方法でも、景雪に接したりはしなかった。ただ体調が悪ければ薬を与え、汚れていれば風呂に入れるように手配し、犬としての心得を説いた。その素っ気ない態度に、景雪の心は救われた。それは、かれが自分に暴力を加えず、何も搾取しようとしなかったからだ。永伯とたまに交わす言葉だけが、景雪の支えになった。
その事を知った永大はやけに張り合うような態度を見せる。怒ったり、余裕ぶったりと様々な態度に出る永大を見て、景雪はかれが自分を思っているのではないかと感じる。自分をめぐって永伯と争っているように思えたのだ。そんなことをしても、自分は永伯が好きなのに。

しかし二人の兄弟の真意は全く違うものだった。それを知った景雪は、何度も繰り返された言葉を改めて思いかえすことになる。お前は犬なのだ、と。つまり自分は最初から蚊帳の外だったのだ。
犬をめぐって喧嘩していた二人は、本当に犬が欲しいわけではなかった。奪い合ってまで手に入れたいわけではなかった。犬が景雪ではないほかの犬でも、生命を持たない宝玉でも、二束三文の他のものでもよかったのだ。駆け引き自体が目的であり、目的にされていたものはお飾りだった。自分は、お飾りだった。

その絶望の中で、しかし景雪は幸福を感じる。自分が本当に取るに足らない存在になってしまったこと、もはや人間ではなくなったこと、支配され隷属されるだけのものになってしまったことが、かれに悦びをもたらした。仕事として犬を演じていた人間は、本当の犬になった。

確かにダークと言えばダークだし、ラブレスと言えばラブレスだが、目を背けるほどのものではない。暴力描写もそれほど酷くない。どちらかと言うと精神的なSMで、普通に面白かった。最後のモノローグが秀逸だなあ。

・酷原音瀬「熱砂と月のマジュヌーン 2」
父の会社の倒産によって借金のかたにオークションにかけられ、奴隷として富豪・ラージンに買われたファウジは、昼夜望まない性交を繰り返させられている。それは、ラージンの兄やラージンの家にいる使用人たちが、ファウジの父イワフから受けた手酷い仕打ちの復讐だった。

こちらは2とついている通り続編。あらすじがきちんと記載されているので、1を読んでいないけれども話はきちんと分かった。ちなみにマジュヌーンというのは検索したところ「狂気」という意味だそうだ。

父の借金の方に売られたファウジは、既にかなりの人数に弄ばれているようだけれども、態度は不遜だ。かれ自身ではなく父の罪とはいえ、幼いかれも父の所業を目の当たりにして笑っていたのだ。口のきけなくなった元奴隷もいる。命を失ったものも沢山いる。しかしそれを知ってもなお、かれは決して父の非道を謝罪したりはしなかった。自分は徹頭徹尾被害者なのだと、居丈高にかれは振る舞い続ける。
そんなかれだからこそ、周りの人間は決して許してやらない。もっと酷い目に合わせなくては気が済まない、と心底思っている。そのためには、ラージンがファウジに課した回数のセックスを乗り切ってもらわなくてはいけないのだ。イワフがこれまでに奴隷たちに強要した回数、1800回が終わるまで、かれには正気を保って生きてもらわなくては困るのだ。早々に死なれたり、諦められたり、狂われたりしては元も子もない。
そのためにラージンが思いついたのは、最高に悪趣味な方法だった。

ファウジの世話役をつとめるハッサンに、ファウジに恋しているような素振りを見せて、かれを誘惑する。そしてかれがほだされ、恋を生きる希望にするようになればいい。恋人との蜜月があればファウジは死のうとは思わないだろう。それは復讐を全うすることを意味するとともに、恋人がいながらも他の相手と寝なければいけないという新たな苦悩をも生み出す。なんて残酷。

あまり乗り気になれないままファウジを誘惑するハッサンに対するファウジの態度はとても酷い。ハッサンが自分に思いを寄せていると知れば、鬼の首を取ったように馬鹿にして、上から物を言う。好きなんだから、という言葉を免罪符にして、どんな我儘も通そうとする。木原さんは本当に性格の悪い男を書くのが上手い。
そして、性格の悪い男が、少しずつ恋愛に溺れて臆病になっていく過程を描くのもうまい。全く味方がいない世界で、自分を好きだと言ってくれる男にファウジは心を許し始める。体ではなく心を求められている気がしたのかもしれない。自分を庇って代わりに怪我をしたかれの姿に、ファウジの心は動いた。
騙されていると知っているこっちが読んでいて気の毒になるくらい、かれは降ってわいた偽りの恋愛に夢中になる。ハッサンの言うことを聞き始め、勝手に恋人を名乗り始める。愚かで情けなくて幼稚で、それなのにどこか憎めないから不思議だ。

そしてラージンの狙い通り、ファウジは更に苦悩することになる。恋人がいるのに他の誰かに抱かれたくない、とかれは泣き叫ぶ。しかしその懇願が聞き入れられるはずもない。
そんなあわれなファウジと、ファウジに情を持ちつつあるハッサンの恋愛にばかり意識が向かっていたため、ラストの展開には本気でびっくりした。さすが、最後の一ページ最後の一行で話を大きく展開する作家だ。衝撃。続きは、続きはないの!?

爬虫類はこちらの作品でした。駄目なひとは本当に駄目だろうけれど、案外平気だった。単に私の想像力が貧困なのかもしれない。
あとは1800回のセックス、という題材がなかなか荒唐無稽なので、あまり感情移入せずに読める。トンデモな設定の上に立つひとたちの感情は非常に生々しくて、心情の些細な変化にはらはらさせられるので、バランスが良いのだろう。
なんだかここまでくるとポルノというよりは一種のスポーツのようですらある。100メートル走を50本とか、スクワット100回を30セットとかそういう感じ。数字にすることで、ちょうどいい具合に感覚が麻痺する。痛々しさが若干抑えられるので、本筋に集中できる。


あとがきが非常にお二方とも楽しそう。ノリノリ感がいいね!同人誌はこうでなくっちゃ!
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posted by: mngn1012 | 本の感想(BL・やおい・百合) | 21:02 | - | - |

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