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西炯子「娚の一生」1

西炯子「娚の一生」1
東京の大手企業でばりばり働く有能な30代のOLつぐみは、長期休暇をとって、田舎にある、家主が入院中で誰もいない祖母の家で日々を過ごしていた。そこに長患いしていた祖母が亡くなったという知らせが入る。葬式に訪れた親戚が帰ったあと、ひとり残ったつぐみの前に、謎の初老の男が現れる。かれはつぐみ同様に祖母から鍵を預かっており、少し前から離れで暮らしていたという。

おんな偏におとこと書いて、「おとこ」とルビが振ってある。おとこのいっしょう。
basso作品を彷彿させる眼鏡初老男子の素敵な表紙。あああ絶対わたしこの人好きだ、と思って読んでみたら、想像以上。想像以上にこの海江田という男は意地悪で、ひねくれ者で、醸し出す雰囲気がいやらしい。

主人公つぐみは、有能で努力家なので早くから出世している。会社での人間関係も上々で見た目も整っているけれど、なぜか男運だけがない。はっきりとは描かれないがうまくいかなかった過去の恋愛の所為で、彼女は恋愛を自ら放棄している。ひとり、祖母のいない祖母の家で日々を送っている彼女は、このままこの家に住んで、在宅勤務に切り替えようかと迷っている。誰もいない家で食事を作り、洗濯をし、掃除をする。買い物に出て、たまに風呂は不精して、そうやって毎日を送る彼女は、楽しそうだけれど、人生を早めに諦めたようにも見える。精神的には隠居しているようだ。

彼女の前に現れたのは、海江田という謎の男。煙草を咥えて関西弁を使うかれは、つぐみの祖母と自分の間にあった出来事を語らない。相続が片付いていない現段階では、鍵を与えられたという意味では二人は対等なのだと海江田はつぐみに言った。反論する理由も切り口も気力もないつぐみは、そのまま、奇妙な共同生活を開始する。
そして共同生活の中で、つぐみは海江田という男の人となりを知る。51歳、大学教授で専攻は哲学。未婚。かれは祖母の教え子であったらしい。

51歳!天命!!!
海江田は一見枯れかけた草食動物のようなのに、中身はきっちり肉食。ひとり浮いている関西弁も相俟って、何とも言えない色気がある。垂れ流す色気ではなく、滲み出る色気。骨と血管の浮いた手がきれいで、遠近両用眼鏡をかけた男。風呂上がりに上半身裸でビールを呑み、脱いだトランクスを勝手に洗濯機に突っ込む男。長らく女子大で教えていたために、あらゆる女の思考パターンを把握している、仕事でオンオフの切り替えがきっちりできる、外面のいい男。口が悪くてひとの気持ちを察するのが速くて、強引なところもある男。なんという素晴らしい51歳!
どこもかもさらりと乾いていそうな容姿とは裏腹に、海江田の内面はぎらついている。野心だってある、欲だってある、処世術を身につけた大人の男だ。

そのことにつぐみはなかなか気付かなかった。それは年齢差の所為か、年齢からくる落ち着いた風貌の所為か、海江田の巧妙な演技の所為か、それともつぐみ自身がそういったアンテナを全く張っていなかったからだろうか。一緒に暮らしていた男が、男なのだということを彼女はあまり考えていなかったのだ。
海江田の思いを知って、その直後にかれが祖母に向けていた思いまで知って、ようやくつぐみは海江田を男として見るようになる。そうして向き合って、かれの思いを受け止めて初めて、彼女は「怖い」と言った。彼女は恋をすることに怯えている。恋愛にもう一度一生懸命になることにブレーキをかけて、世間一般が言う幸不幸や勝ち負けを考えることに疲れて、田舎に籠った彼女の扉を強引に海江田は開いた。そこから顔を出してくるものははたして何なのだろうか。
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posted by: mngn1012 | 本の感想 | 20:39 | - | - |

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