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薄桜鬼黎明録ポータブル 斎藤一ルート

出ました薄桜鬼黎明録ポータブル!黎明録発売前から特集記事を見てどきどきしてたので、移植嬉しい!
乙女ゲーム派生で、恋愛要素の(ほぼ)ないエピソード、しかも主人公が新キャラの男ってことで非難轟々だったけれど、個人的にはすごく楽しみでした。

貧しい武家に生まれた井吹龍之介にとって、武士という立場やそれにしがみつく人間は、見苦しく嫌悪すべきものだった。武家の妻であることを誇示し、現実を見ないまま生きて死んだ母の所為だ。
両親亡きあと京へ出てくる途中、井吹は金も食料も尽きて行き倒れる。特に目的のない行動ではあったが、報われることのない人生が終わろうとしていた。
そんなかれを助けたのが、浪士組の一員である芹沢鴨だ。とはいえ決してまっとうな、人道的な救助ではない。地面に倒れ込んでいるかれを挑発し、期待させたあと落胆させ、更には試して、ようやく助けた。

八木邸の一室で目を覚ました井吹は、挨拶もそこそこに出て行こうとする。それを、次々現れる隊士たちが制止して、なんとかかれが芹沢に礼を言うように仕向ける。
助けてもらったくせに、つっけんどんというか無礼な態度の井吹。もともとの生意気な性格と、武士嫌いが合わさっているのだろう。平助が焦り、原田が叱り、永倉が止める。沖田は勿論嫌味を言って、山南井上はそれなりの客人への対応をして、近藤は得体のしれない井吹にも親切だ。まだ浪士組の一員でしかない近藤は、試衛館にいたときと同じスタンスのようだ。決して自分たちの生活が豊かなわけでも、今後のめどが立っているわけでもないのに、いきなり芹沢が拾ってきた井吹を歓迎し、食事を与える。これがかれの人望の理由であり、ざる経営しかできない原因でもある。
ともあれ夕飯を一緒にとっていると、外で揉めている声が聞こえる。芹沢・新見・平間の三人と、土方が対立している。島原や祇園で暴れてばかりの芹沢に、浪士組の評判を落とすなと土方が食ってかかっている。かっとなった芹沢が鉄扇を振り下ろすも、土方は引かない。攻撃を避けることも受け止めることもせず、眼を閉じることすらせず、鉄扇など存在しないかのように芹沢を睨みつけたままだ。この土方のスチルが凄く好き。噛みつくような目と一歩も引かないところが超土方さん。

結局翌朝井吹は芹沢に挨拶する。礼を言ってとっとと浪士組から出て行くつもりだったが、命の恩人に恩返しをしろという芹沢に押し負けて、かれは芹沢曰く「犬」の小間使いとなる。
この頃の隊士たちはまだ新選組ではなく、「浪士組」という名前だけを持つ、どこにも所属しない烏合の衆だ。偽りの主張で人を集めた清河八郎に反発した芹沢や近藤たちには後ろ盾がない。ひとまずは芹沢の兄が会津藩にいる伝手から、会津藩の重役に話をするという狙いがある程度だ。多摩から出てきた百姓上がりや大した実績のない武家の子息たちから成る近藤一派とは違い、芹沢には計画や伝手がある。そのことが元々態度の大きなかれを増長させ、押しに弱い近藤をして「芹沢『殿』」と呼ばせることになる。

・『憎悪と殺意』沖田
井吹視点で物語が進むため、かれがいない場所・かれが知り得ない状況でのエピソードは「十六夜挿話」として補足される。
沖田はこの時点ですでに芹沢を憎んでいる。嫌っているのではなく、今すぐ自分の手で命を奪いたいほどに強く、憎んでいる。それはかれが「この世で一番尊敬している人」を侮辱したから、らしい。まだ人を殺めたことがない沖田は、いずれくるその日がいつなのか、相手が誰なのかを楽しみに待っている。

芹沢の「犬」は一匹ではない。犬と呼ばれるわけではないが、かれを旦那さまと呼んで仕える平間もまた、芹沢の犬のようなものだ。気が弱くてお人よしの平間は一人でいくつもの用事を背負わされている。さすがにそれを他人事だと放置できない井吹は、芹沢から頼まれた仕事だけでなく、平間の仕事を手伝ってやることもある。
その一貫として芹沢の酒を買うために外へ出た井吹は、八木邸の前で一人の黒ずくめの男を見る。他の隊士たちとも自分とも異なる方に刀を差した男、斎藤登場!かれが何者か分からない井吹は、土方に会いたがるかれを案内することになる。そして斎藤の顔を見た土方は喜び、かれを歓迎する。更には試衛館の連中もやってきては、斎藤との再会に喜びの声を上げる。
斎藤は土方・近藤を訪ねて八木邸を訪れたけれど、試衛館時代に同じ釜の飯を食った他の連中が一緒にいることを知らなかったことにはちょっと驚いた。まあでもそんなものなのか。土方の「今までどうしてたんだ」という問いを逸らして答えない斎藤は、刀を交えた沖田曰く以前と比べて「色々と変わった」らしいが、井吹には分からない。
斎藤と沖田が壬生寺で戦うシーンも好き。斎藤と沖田って凄く気が合わないと思うんだけれど、そのちぐはぐ感が面白い。

・『恩返し』斎藤
浪士組に合流した日の夜、斎藤は土方の部屋を訪ねる。そこで土方より、浪士組の現状を聞かされる。中心人物が近藤率いる自分たちではなく芹沢であること、当初の予定が狂って資金がないこと、など。先にマイナスの面を打ち明けて、それでも浪士組に参加するという意思を変えない斎藤に、その理由を問う。一度は自分たちの前からいなくなった斎藤が、なぜ再び現れたのか。斎藤を疑っているとか不審に感じているとかではないだろうが、理由が分からないというのも素直な気持ちなのだろう。
それに対して斎藤は、江戸で世話になった恩返しだと言う。単純かつ言葉少なな理由だが、それでも土方は納得した。
近藤たちへの恩を返すために自主的に浪士組に参加した斎藤と、芹沢に恩返しを強いられて浪士組に留まらされている井吹という構図が面白い。

近藤たちの提案で、浪士組は将軍家茂の入洛の警護をすることになる。とは言え何の権利もないかれらなので、勝手に集合して、何も起きないように見張っているだけだ。しかし目の前で将軍を見たというのは、近藤にとっては感動すべき事実だった。
それを揶揄し、かれのモチベーションを下げるのが芹沢だ。何かと噛みついてくる芹沢について、平助は本庄宿の一件を井吹にそっと教えてくれる。芹沢たちの宿を手違いで用意できなかった近藤に腹を立てた芹沢が、火を付けたという事件だ。平助の言葉に合わせて出されるスチル、今にも芹沢を殺しそうな沖田を制止する土方の目も、血走っている。せつない。
過去も今も、近藤を嘲笑してばかりの芹沢。耐えかねた土方は近藤に、芹沢にへりくだるのを止めるよう提案する。土方も山南も他の誰も呼んでいないのに、近藤だけが芹沢を「殿」で呼ぶ。他意はないのかもしれないが、そういう態度が芹沢を増長させるのだ。

後ろ盾のない隊士たちは、京都の見回りを続けて不逞浪士をとっ捕まえることで名前を上げようとしている。ある日沖田は、不逞浪士と斬り合いになって返り血を浴びた斎藤と永倉を見る。子供が泣きだすほどの姿を見た沖田の心が揺れる。
返り血いいね!しかし服はまだしも肌についた血はその場で拭おうよ!

・『実績を積むために』山南
どこにも所属していない浪士組の問題点は、給金が出ないことやそれに準じて新しい人員を募集できないことなどだけではない。権威をもたないかれらは、主人に断られてしまうと、店の中に入って行った不審者を追いかけること・建物を改めることができないのだ。強制力がない。
不十分な見回りしかできないけれど、結果を出すためには見回りを続けるしかない。

芹沢の伝手の甲斐あって、浪士組は会津藩のお預かりとなる。ひとまずの成果を喜んで、芹沢たちとともに井吹は島原へ飲みに行くことになる。一見さんお断りの店に、暴力で無理やり入店した芹沢は、まだ若い舞妓・小鈴の生意気な口調に激昂し、彼女に傷を負わせる。
本編の君菊さんのときも散々感じたし、別に島原だけでなくて普段の道を行く人たちに関してもそうなんだけれど、薄桜鬼の京ことばのイントネーションは聞いてて苦痛だ…方言・訛りはきっちりしたルールがあるわけじゃないし、同じところに暮らす人だって異なる抑揚で話すこともあるけれど、それでも突っ込みどころが満載過ぎて疲れる。ゆっくり喋ればいいってもんじゃないわよう!これならいっそみんな標準語で喋ってくれたらいいのに、というレベル。

会津お預かりになったのを機に、浪士組は三人の局長と二人の副長、そして局中法度を定める。破れば切腹という厳しい掟に、井吹は大きく動揺し、反発する。名誉を重んじて、何かとあらば腹を切ったり人を切ったりする武士は、かれが一番嫌うところだ。
その法度自体にも納得ができないし、何より浪士組と共に行動するけれど、決して浪士組の一員ではない自分の立場を確認しておきたかった。つまりこの法度が自分には無関係のものであること、自分は守る必要がないし、この法度に反することをしても切腹する必要がないことを、きちんと確認しておきたかったのだ。
井吹は浪士組の一員ではない、と山南は明言してくれた。芹沢が個人的に使っている小間使いだ。そのことは、かれが浪士組幹部たちと同じような行動をとることが増えた今でも変わっていない。しかし、芹沢が何かしらの罪を犯したとき、芹沢の「犬」であるかれが安全かどうかという保証はできない、とも山南は言う。

・『失望感』斎藤
発表された法度に動揺したのは、井吹やこれまで法度に反するような行動を多数とってきた新見だけではなかった。近藤の人柄に好意を抱いてここまでついてきた平助は、戸惑いを覚えている。平助には、斎藤のように、破らなければいいのだ、という割り切りはできない。対芹沢策のひとつなのだと、受け流すこともできない。
「思ってたのと色々違うよなあ」とかれは落胆する。

会津藩お預かりの身分となったものの、給金が貰える目処は立っていない現状に、当然不満の声が上がる。自分達の立場の不安定さを憂える面々の中、沖田はいつものように飄々とした顔で剣の稽古をしようとする。難しい話は分からないと笑うかれは、あらゆる行動・判断の指針を近藤として、それ以外のことを考えない。本編で言っていた通り、近藤の剣となることが全てで、それ以上も以下もないのだ。自分の価値をそこに見出す沖田は、同じ試衛館あがりの斎藤・永倉が不逞浪士を斬ったことを「ずるい」と言う。自分も早く不逞浪士を斬って結果をあげたい、そして会津に浪士組を認めさせたいとかれは笑う。
その理屈自体は、これまで土方や山南が散々言ってきたことだ。しかし、言葉をぼかさない沖田の主張は必要以上に不穏に聞こえる。弟分の沖田の言葉に皆が戸惑っていると、土方が「江戸に帰れ」と言う。百姓あがりのかれとは違う武家の長男で、腕もたつ沖田ならば浪士組で不安定な生活をしなくても済む。武士として生きる道が、ここ以外にもあるのだ。そして、まだ若い沖田は暴力的で口の悪い芹沢の傍にいることで感化されているから、と。
元々相容れず、口論になりやすい二人の間に入って仲介しようとしていた近藤も、土方が沖田の姉の名前を出すと黙るしかなくなる。自分のために喜んで人を斬る沖田を思えば、近藤も居た堪れなくなる。
勿論沖田はそれに納得しない。元から土方を目の仇にしているかれは反発し、その場を去る。

その頃、芹沢派でも近藤派でもない殿内が、芹沢に近づいていた。近藤一派を不満に思っているかれは芹沢を持ち上げ、芹沢にとって邪魔な存在になりうる近藤の始末を、時が来れば自分がやりたいと主張する。殿内の主張に言葉少なに応じていた芹沢は、その事実を誇張して沖田に伝える。

・『沖田からの相談』殿内
芹沢にはゴマをすっていた殿内だけれど、当然かれは心底から芹沢を支持しているわけではない。ひとまず近藤一派を片付けて、そのあと芹沢たちを始末しようと目論んでいるのだ。
そんなかれは、沖田から土方・近藤のことについて相談を受ける。江戸に帰れと言われたことで、反近藤・土方になったというかれは、いずれ殿内に幹部に引き上げてもらうことを条件に、二人を斬ることも辞さないと言う。
安っぽい言葉と芝居で芹沢を騙した(つもりでいる)殿内は、沖田の稚拙な芝居にまんまと引っかかる。自分を過信するものほど、自分を騙そうとする相手に気づけない。

沖田が八木邸に戻ってこないことを心配した永倉たちは、かれを探しに行くという。夜中に出歩いたところで役に立てるはずもない井吹は、土方と、かれの部屋にいる斎藤に、芹沢との一連のやり取りと現状を報告する。慌てて沖田を探しに行こうとする土方は、制止する井吹の言葉など聞く耳を持たないが、斎今土方が言ったところで沖田を煽るだけで逆効果だという斎藤の言葉に立ち止まる。土方のイエスマンのように見られることが多い斎藤だけれど、実際は結構辛辣で遠慮がない。だからこそ土方が信用しているというのもあるだろう。
そこへ、返り血にまみれた沖田が帰ってくる。これは私闘ではなく、近藤局長の暗殺を計画していた男への処罰なのだとなんでもないことのように笑う沖田に、土方も返す言葉を持たない。

・『覚悟』近藤
そして土方と近藤は、沖田をたきつけた芹沢に文句を言いに行く。しかし芹沢は動じない。状況だけ見れば、芹沢は殿内の暗殺から近藤を守ってやったとも言える。しかし芹沢の目的は、殿内と近藤を天秤にかけて近藤を取った、というようなものではない。
沖田の近藤への心酔も、近藤・土方がどれほど沖田に目をかけ、弟のように可愛がっていたのかも見抜いていた芹沢は、だからこそ沖田が一人のときに殿内の話をしたのだと思う。近藤のために手を汚すことを望んでいる沖田と、浪士組の一員として連れてきたくせに沖田にだけはきれいなままでいてほしいと望む近藤・土方。その屈折を理解していて、芹沢は沖田の背中を押した。
それは芹沢の悪趣味な楽しみであり、いつまでも煮え切らない兄弟ごっこを断ち切る手助けでもあった。「江戸に帰るべきはお前ら」と言う芹沢の言葉が決して間違っていないことに、近藤も土方も本当は気づいている。沖田を可愛がりながらも、かれをひとりの独立した大人としてみている山南の「彼はもう子どもではない」という言葉が正しいことも、知っている。
覚悟が足りないのはどちらだ。

芹沢・近藤・土方たちが大坂へ資金調達に行く間、伊吹は山南たちと留守番をつとめる。こんなときにだって一切浪士組の脱走を考えない井吹。芹沢への恩義のためというよりは、特に逃げ出したいという強い意志もないのだろう。
山南に頼まれて買い物に出た井吹は、かつて芹沢と揉め事を起こした小鈴と再会する。服装が異なる所為もあって目の前の少女が誰だか分からない井吹と、すぐに浪士組の一員だと気づいて敵意をむき出しにする小鈴。結局諍いを起こしたままの喧嘩別れになってしまう。

同じく留守番の斎藤から、井吹は稽古の見学に誘われる。居合を学んだ理由として、他の武術よりも相手をしとめる確率が高いからだと斎藤は言う。人を殺すこと、武士というものへの抵抗を隠さない井吹に対して、自分や近藤・土方は「そうせねば生きられぬ」のだとかれは言う。
沖田(やかれと同じ境遇の永倉)には他の道がある、とかつて土方は言っていた。それは裏を返せば、自分には他の道がないということでもある。勿論百姓としての道は存在するけれど、武士としての道は他にない。「そうせねば生きられぬ」ことの不自由さとよ。

会津公と接見できることが決まった浪士組。挨拶だけでは何だと、上覧試合の計画を立てたのは土方だ。前もって対戦相手を決めておいたかれが発表した組み合わせは、土方対藤堂、永倉対斎藤、沖田対山南。

・『斎藤と稽古』斎藤
指名された斎藤は壬生寺で熱心に稽古をする。緊張よりも昂揚が勝っている斎藤の様子を見ていた井吹に、「剣術馬鹿」だと見抜かれてしまう。

そしてご接見の日。土方の読みは当たり、会津公の方から試合を見たいという言葉がかかる。三試合ともに十分に浪士組の力を見せ付けることが出来、浪士組はまずまずの評価を得る。

芹沢の提案で、浪士組にだんだら羽織の隊服が準備される。喜ぶもの、複雑な気持ちを抱くもの、あまり気にしていないものなど、色々。 会津公接見といい隊服といい、追い風が吹いてきたように思われる浪士組の前に、とある人物が現れる。会津藩経由で、幕府から派遣されてきたのは、蘭方医の雪村綱道だ。幹部隊士ですら排除され、局長・副長のみが、綱道の話を聞くことになる。
事情も分からず苛立ちながら話が終わるのを待っている幹部達と井吹。そこへ、悲鳴が響く。外へ出た井吹が見たものは、白髪に赤い瞳という容貌で、理性を失った一人の男だった。襲い掛かる男に殺されそうになったところを、間一髪で斎藤に助けられる。男の首を落とす斎藤の姿に、かれが稽古のときに話していた居合いのエピソードを思い出す。

話を聞くより早くこの眼で見てしまった幹部たちに、綱道たちから説明がなされる。変若水の話、羅刹のメリットとデメリットの話。先ほど羅刹になったのは、法度を破って切腹することが決まっていた浪士組の隊士であったこと。
給金がなくろくに人員を集められない一方で、これからどんどん人手が不足する。その状況を打破するものが、上手く改良されれば何十人分の力を発揮できる変若水なのだ。しかしそのためにはいつ結果が出るとも知れぬ研究と、なにより実験台となる人間が必要となる。その実験がうまくいかなければ実験台になった人間は理性を失った化物となり、始末されるほかなくなる。さらには京の人々を傷つけるかもしれない。あまりにリスクが大きい計画だが、実際このときのかれらに断る手立てはなかったのだろう。ようやく手に入れた会津藩お預かりという身分だけがかれらの支えであり、会津経由の命令を拒めば、それすら失うことになる。
自棄に改良に乗り気の新見、特に反対もしない芹沢。近藤派では山南だけが研究に加わると言った。暴走しかねない新見のストッパーを買って出たのだろうし、芹沢派だけが幕府の命に応じるという状況も良くない。それ以外の気持ちがあったのかどうかは、井吹には分からない。
ここで綱道を登場させたのは上手い。ご接見で浪士組の力量を知ったからこそ会津藩は綱道をよこしたのだろう。かれらにしてみれば会津藩に評価されたと喜ばせておいて、実はていのいい実験台にされるという、あまりにもひどい侮辱だ。

新入りに稽古をつける永倉と斎藤は初っ端からひどく厳しいため、かれらがいなくなると新入りたちはこぞって不満を漏らす。自分のことは棚に上げてそれに憤っていた井吹も、浪士組に入る以外に生活の方法がないくらいに貧しい生活をしているかれらの事情を知れば、それ以上の追求もできない。
しかしそんな事情はとうに理解していたであろう斎藤は、腕を磨かなければ生きてゆけないという。生きるために浪士組に入ったとはいえ、弱ければ見回りの最中に殺されてしまうかもしれないのだ。

・『土方の劣等感』井上
体調や状況を心配する故郷の姉からの手紙に、土方は返事をかけずにいる。会津藩お預かりという状況は故郷の姉からすれば喜ばしい事態だけれど、それは芹沢の手柄であって自分の、自分達の手柄ではない。自分(たち)の出した結果ではないことより、芹沢という、人間的には決して尊敬できないろくでもない男が出した結果であること、なんだかんだ言っても芹沢は揺るがない意志を持って行動していることが土方をためらわせ、悔しがらせる。そういう芹沢の姿は「武士」そのもので、それになれないことが、土方のコンプレックスなのだ。

新入りの隊士が紹介される。永倉と古馴染みの島田、大坂出身の山崎などもここから参加する。

・『新入隊士歓迎会にて』山崎
宴席が苦手な山崎と、酒よりも甘いものが好きな島田が輪から離れて会話をする。自己紹介のあとのすこしの会話のやり取りで、一瞬にして土方に心酔した山崎が、土方のすばらしさを熱弁するところが可笑しくて好き。立ち聞きしていた沖田が「尊敬する相手を間違えない方が良い」とイヤミを言うところも、それが全く山崎に通じてないところも好き。

不逞浪士の本拠地が京から大坂へ変化しているという情報を握っている芹沢の言葉により、一行は大坂へ。不逞浪士を捕獲したのち、舟で盛大な夕涼みをしていると、斎藤が体調不良を訴える。先に戻るという斎藤の言葉に何か思うところがあったのか、芹沢は斎藤一人を帰すことを認めない。
更に宿に帰ったあとも体調が戻らない斎藤は、大坂が地元の山崎と共に病院へ向かうと言う。同じく許さない芹沢は、かれの犬であるところの井吹を連れていかせる。
三人になった瞬間に仮病であること・土方の命令で芹沢を介さない人脈を作ろうとしていることををバラす斎藤に焦る山崎。最近入ったばかりのかれにしてみれば、井吹は芹沢の息がかかった、芹沢専用の小姓である井吹を信じられないのは当然だ。
井吹は決して芹沢を正しいと思っているわけではないし、近藤派の連中にも好意を持っている。けれど山崎があまりに芹沢批判を繰り返せば、苛立ちもする。しかし山崎にしてみれば、そのどっちつかずの態度がまた腹立たしい。この頃の山崎はまだ尖ってて、いきがってる若者って感じで面白いな。
喧嘩になる二人を諌めるのは斎藤だ。斎藤に対する山崎の態度が、先輩犬の背中を見て一生懸命いい犬になろうとする後輩犬でオモシロ微笑ましい。斎藤は山崎を諌めたあと、井吹に「身の処し方を考えておけ」と言う。
力士との乱闘もばっちり抑える。

大坂の夜の一件以降、井吹は自分の今後を、まさに「身の処し方」を考えるようになる。そもそも自分が今後の生活の目途をたてたら、解放してもらえるのだろうか?かと言って浪士組に留まり続ければ、色々な意味で生命の危険を感じ続けることになる。これまでのように流されていれば無事に一日を過ごせる時期は終わったのだ。
けれどこの先どうするか、何も見えてこない。

芹沢への不信感も募る。「武士」をひとくくりにして嫌悪し続けるには、井吹は色々な武士に会いすぎた。必死に生きているもの、理想や尊敬できる相手のために最善を尽くすものも多い。その中の一人である芹沢を、暴力的で高圧的な男、で片付けておくことが出来なくなっている。
変若水の実験台にされた不逞浪士が、屯所から脱走した。放っておけば平隊士にすら隠している羅刹の存在が一般的に知られることになるし、何の罪もない街の人々に危険が及ぶ。けれどそれを聞いた芹沢は、寝転がって酒を飲み始める。羅刹を不眠不休で探し続ける隊士がいる一方で、芹沢は関心すら抱かずに酒を飲む。

平助からも、出て行くなら早い方が良いと言われるが、相変わらず目途は立たない。そんな中、斎藤が剣術の稽古を提案する。刀を腰にさしているものの殆ど握ったことすらない井吹に、技術があって損はないと斎藤は熱弁をふるう。

・『足りぬものばかり』斎藤
土方の部屋へ報告に行く斎藤。どうでもいいけど斎藤ルートなのに斎藤の部屋っていちども描かれなかった。大体壬生寺か土方の部屋にいるねこの人。
監察方の設置を決めた土方。浪士組が唯一の居場所なのだという斎藤。

稽古での斎藤は物凄く理屈っぽくて厳しくて口うるさい。かれが言うことは全て正しいのだけれど、初めて稽古をする初心者の井吹にしてみれば出来ないことだらけで、元々短気なかれはすぐに腹を立てる。教えることがうまくない斎藤と、教わることがうまくない井吹。
武士になんかなりたくないと井吹が言い捨てれば、何になりたいのか考えてみろと斎藤は言い返す。斎藤のすごいところは、井吹がどんな捨て鉢になろうとひどいことを言い捨てようと、決して逆ギレしないところだ。上から暴力や権威で押さえつけて強制することもない。ただ真っ直ぐに言葉を返す。そしてどれほど拒まれても嫌な顔をされても、しつこく稽古に誘い続ける。
斎藤が繰り返す言葉の中で、井吹はひとつの記憶を浮かべる。絵を描いていた幼い頃。母親に叱られてやめてしまった、好きだったこと。

稽古から逃げるために島原に同行した井吹は、芹沢から「何も出来ないのに世にあるものを辱めて悦に入っている」と指摘される。酔ったかれの、いつもの憎まれ口だけれど、それは紛れもない事実であった。井吹の痛いところを突いただけでなく、芹沢という男が決して馬鹿ではないことを示してくる。
そして芹沢の言葉に煽られるようにして井吹は絵を描き始める。衝動的に何枚も絵を描いているところを斎藤に見られる。
井吹は武士になるのかなあ、でもあまりにも素人だし、そもそも浪士組に入ってたら本編に出てこないイコール死だよなあ、とか思っていたので、絵描きという流れは面白いと思った。

山南・綱道と共同で研究をしている新見だが、どうにも暴走しがちなことを山南は懸念している。鋭いかれの予想は当たる。井吹は新見の部屋で、拘束された浪士を見つけてしまう。芹沢によって無実の罪を着せられて連行されたと主張する男の言葉の真偽を図りかねた井吹は、斎藤に相談する。
話を聞いた斎藤と共に新見の部屋へ向かうと、浪士は既に逃げたあとだった。なんとか発見し、斎藤との稽古を思い出して応戦する井吹が斬りつけると、浪士は羅刹になった。
何とか羅刹を始末したのち、今回の件は芹沢にも報告していない新見の独断であったと判明する。

引き続き稽古に誘う斎藤に、井吹はどうしても疑問を乱暴な言葉でぶつけてしまう。たとえ規律違反を犯したものであっても、仲間を実験台にするのが武士なのか、と。尊厳を保つ死としての切腹に比べて(おそらくこの思想も井吹は嫌いだろうが)、羅刹の実験台はあまりに惨い。
斎藤は直接の回答をしない。ただ、ここ以外に自分を武士として扱ってくれる場所はないのだ、と言う。かつて土方に「唯一の居場所」と言ったこととリンクする。

解せない井吹は、永倉に斎藤のことを聞く。芹沢と同じ流派なこともあって行動を共にする機会が多く、ストレートな物言いの永倉はこういうときにベストの相手だ。
そして永倉の回想で、斎藤が試衛館に現れた当時のエピソードが描かれる。
貧乏な試衛館に他流試合の申し込みに訪れた斎藤。好戦的な沖田が勝手に試合を受けて手合わせをすることになる。結果が出たあとも打ち合うことをやめない二人は、真剣で、楽しそうだ。
腕に自信のあった斎藤にとって沖田ほどの腕の相手と戦えたことも驚きだったが、何より衝撃だったのは、かれも試合を見ていた近藤も土方も、斎藤の利き手について言及しなかったことだ。斎藤が話題にして初めて近藤は「器用だ」と笑い、土方は「勝ちは勝ちだ」と当たり前のように述べた。
それは永倉が予想するに、利き手のことで正当な評価を得られずにいた斎藤にとって初めての経験だったのだろう。自分のことを話さない、感情が表に出ない斉藤だけれど、皆といる時間は有意義だったはずだ。
しかしかれはしばらく顔を出していた試衛館に突如来なくなり、いきなり浪士組に現れた。そのあとは、井吹の知るとおりだ。
回想シーン良かった!他の隊士の回想もあるのかなー楽しみ。贅沢を言えば服とか髪型が違うと良かったけど、貧乏だろうから仕方がないことにする。

相撲の興行をすることになった浪士組。斎藤の熱心な推薦により、井吹は引き札を描くことになる。井吹の絵を見た斎藤は、その絵に感じるものがあったようだ。
ためらいつつも引き受けた井吹が引き札に取り組む様子を見た芹沢は、どこか嬉しそうだ。邪魔をすることもない。自分ではないものに興味を持ってのめりこむ姿が嬉しいなんて、芹沢にとっての井吹が決して犬ではないことを証明している。
井吹は無事に引き札を完成させ、興行自体も成功に終わる。そのことについて斎藤は、井吹は絵に「天分」があるのだと述べる。自分が刀から離れられないように、井吹も絵と離れられない。それは幸福なことであると同時に、大変なことでもある。

興行のこともあって少しずつ浪士組が京でも見直されてきている最中、芹沢が大和屋に大砲を打ち込んだ。かれなりの理屈があったとは言え、暴挙以外の何ものでもないその行動が、浪士組の評判を地に落とす。

・『らしくない』斎藤
芹沢の行動に斎藤は怒っている。近藤や土方たちの努力が散ったことにも勿論憤っているだろうが、なにより、寝食を忘れて引き札を描いていた井吹を思うと腹が立つ。かれの努力や作品までもが冒涜された気がするのだろう。

八・一八の政変により、浪士組は正式な京都守護を会津藩より命じられ、「新選組」という名前が与えられる。本当の意味でかれらは、主君より仕事を命じられる武士となった。そのことに感動した斎藤は、「会津公のためなら命を落とすことも厭わぬ」と言う。本編の斎藤ルートを想起させる言葉だ。過去が未来を補完している。

最近の井吹の絵がつまらないと感じる芹沢は、自分を納得させるだけの絵を描けば、井吹を自由にしてやると言う。恩返しを強いたかれが、自分から解放を口にした。

変若水の資料を持って、新見が失踪した。綱道とも連絡が取れないという。法度の一つ、「隊を脱する」にも触れる行動をとった新見はその後発見され、切腹させられた。
このあたりは井吹が聞いた事実だけを述べるに留まっている。他ルートで見られるのかな。

ようやく斎藤が過去を話す。真剣勝負を挑まれたかれは、それに応じた結果殺人の罪を負い、脱藩することとなった。主君を失ったかれは、このとき一度、武士ではなくなった。
そしてかれは浪士組の話を聞き、ここを訪れた。そして今新たな主君を正式に得て、ふたたび武士となったのだ。そうなった今だからこそ、斎藤はようやくこの過去を口にしているのかもしれない。かれの行動規範は一つだった。「どうすれば後悔せずにあの世にいけるのか」

近藤・土方の誘いで芹沢は島原へゆく。屯所から文が届いたので一人先に帰るという芹沢を、土方・沖田が送ると言う。何も知らない永倉は自分も送ると言うが、それを斎藤が引き止める。
まるで茶番だ、と思う。打ち合わせをしていたのだろうがグダグダで、かれらの中に計画があることは火を見るより明らかだ。そのことに芹沢はどれくらい気づいていたのだろうか。聡明なかれのことだ、そもそも新見が腹を詰めさせられたときに、もう駄目だと思わなかったのだろうか。
芹沢の暗殺に気づいた永倉が後を追うのを、斎藤が制止する。従うべき会津のためでも、土方のためでもなく、永倉と今後も共に生きるため・新選組として戦うために斎藤は刀を抜いて、永倉を止める。
刀はどうしたって武器で、誰かを傷つけるための道具であるけれど、少なくとも斎藤にとってこのとき、かれの腰にさした刀は人を救うためのものだった。古くからの友を守り、生かすための刀だった。

芹沢は暗殺された。表向きにどんな発表があろうとも、近藤局長をはじめとした一派が計画的にかれを死に追いやったことを、井吹は知っている。次に消されるのは芹沢の小間使いであり、新選組の隊士でもない自分であることも、知っている。
知っていて、逃げるでも命乞いをするでもなく、かれは絵を描いた。それは斎藤が言う「天分」であり、かれらが刀に向ける情熱と同じ狂気に満ちている。

死刑宣告をするのは、当然土方と山南だ。自分の信念のためには泥を被ることも辞さない芹沢の生き様を、嫌悪しつつも本物の武士だと感じていた土方は、今、新選組のために井吹を殺そうとしている。かれの行動の是非は別として、かれは武士になったのだ。
覚悟していた井吹を制止したのは斎藤だ。井吹が描いた絵を持ってきた斎藤は、生前の芹沢との約束を持ち出して井吹を庇う。
斎藤のお陰で解放されることになった井吹は、「俺が選んだ道」として、絵師を目指して生きる。斎藤の別れの言葉は短く、簡潔だ。

その後大坂、江戸と移り住みながら絵の勉強を続けた井吹は、苛烈さを増す戦の中でしか見られないものを描くようになる。戦を追いかけて会津へ向かうかれは、途中で斎藤の訃報を聞く。それでも進み続けた井吹は、会津で、羅刹になった斎藤が単身戦う姿を見る。銃を持った数名の男相手に戦いぬいたかれの元に駆けつけるのは、少年の姿をした少女・千鶴だ。わー千鶴にも声がついてる!桑島さんの千鶴は清涼感があってほんとカワイイ。
千鶴と言葉を交わしたあと彼女を先に帰らせた斎藤は、自分達を伺っている存在に声をかける。敵意や殺意を持たない存在があることには早々に気づいていた斎藤も、まさかそれが井吹だとは思っていなかった。再会を喜ぶ二人だが、それほど時間があるわけではない。斎藤が土方たちと離れて会津に留まる選択をしたことを、井吹が今得の勉強をしていることを簡潔に報告しあう。いつかきちんと絵をかけるようになったとき、最初に書くのは斎藤だと井吹は告げる。戦を追い続けた自分が本当に書きたかったものは何だったのか、かれはようやく気づいたのだ。死ではなく生を。奪うものではなく生かすものを。
二度目の別れが一度目と違うのは、「またな」という言葉を迷わずかけられることだ。

・『【ここ】にある平穏』斎藤の妻
斎藤終章。さっき散々出ておいて、今になって名前の入力をさせてくるこのシステムは凄いな…見事だわ。
最後は斎藤の帰りを待つ千鶴目線で語られる。斎藤がいつもより帰ってくるのが遅かった理由は、かつて浪士組にいた男から連絡を貰ったからだという。錦絵を学んだかれの最初の作品を受け取った斎藤は、それを千鶴に見せる。羅刹の姿の斎藤だ。
絵師という、絵を発表することで生計を立てる職を選んだ井吹の最初の作品は、誰にも見せることのできない絵になった。歴史からは消された、表に出してはならない存在・羅刹。けれど確かにかれらは居た。誰にも知られることがなくても確かに存在した。

***
自分で書いておいてなんだけどちょっと狂気だなこの長さ。他ルートはたぶんもうちょっと短くなる…。
相変わらず史実に沿って進みながら、ねじ込まれたファンタジーが痛快。斎藤ルートだけ見ると物足りないところも多々あって、それが他ルートで補完されて素晴らしい「薄桜鬼黎明録」になるのか、それともどれをやっても半端なままになるのかは今のところ不明。ともあれ楽しいです。血沸き肉踊るはくおうき。
千鶴には積極性のかけらもなくて、何かあれば帰れ帰れといっていた斎藤だけれど、井吹相手だとものすごく強引で面倒見が良すぎて空回っている。男と女への接し方の違いなのかな。性別だけでなく、自分の意見がはっきりあって、人を気遣うことのできる千鶴と、自分が何がしたいのかが分からなくて、配慮のたりない井吹という正反対っぷりなので、そのあたりでも接し方の差が楽しめる。

さあ次はどのルートにいくかな!
ネタバレするといやなので特典CD関連は終わってから聞く!ドラマCDも黎明録になってから買ってないのだ。(そこまでしてPS3を買わない吝嗇)
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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 22:53 | - | - |

薄桜鬼 碧血録 第二十二話「夢幻の薄桜」

蝦夷地の雪解けを待って、新政府軍が攻め込んでくる。それを迎え撃つことになった旧幕府軍。部下たちに「命だけは無駄にするな」と げる土方は、かれが指揮をとった今回の戦が順調に進んでいることもあるかもしれないが、非常に穏やかで優しい。
二手に分かれていた大鳥の舞台が突破されたことによって退却を余儀なくされたあとも、苛立ちや不満を表に出すようなことはしない。副長であったときならまだしも、部隊の指揮官が感情に任せた行動をとるのは士気に関わる。ここまで共に戦ってきた仲間に対して、責めるつもりもないだろう。再会した途端に詫びる大鳥を宥めて元気づけ、 更には「弁天台場を頼む」と自ら手を差出した。初対面の大鳥が差出した握手を、不審がって無視した土方が、握手を求めた。土方が時代の流れに非常に柔軟であること、大鳥を信頼するに足る、任せるに足る人物と認めたことがありありと描かれている。
会うなり「土方局長!」と駆け寄ってくる島田の相変わらずの忠誠っぷりも見事。今となっては一番古くから、近くで土方を見てきた男となった島田は、新しい仲間たちと談笑する土方を感慨深そうに見つめている。「かつての鬼の副長があんなにみんなに慕われて」と言うかれの声に、嫉妬も皮肉もないところがいい。
しかしあまりに穏やかな土方の様子に不安も募る。発作を起こして、「ガタがきてる」と笑う様子などは、単に丸くなった・穏やかになったというのとは違う。いやに儚い笑顔は、色々なことをすでに諦めているようにも見えてしまう。終わりを悟ったものの笑顔のようだ。

蝦夷地に向かう新政府軍の船に、風間は同乗する。いきなり現れて、乗せろ、というだけだ。そんなかれの性格も、拒んで敵に回したときの強さも知っている薩摩藩は、二つ返事で了承した。
このとき乗せた「クロダ」は酖沈粁瓦世蹐ΑJ未北樵阿鮓討个覆ても薩摩訛りの男を出しておけば良いシーンなのにこの細かさ…!

最後の夜。仕掛けてくるなら明日だろう、と土方は確信している。こういうかれの勘は決して外れない。明日にはこの辺りが戦場になる。 そうなれば自分はおろか、千鶴もどうなるか分からない。それが分かっているからこそ土方はどうしても躊躇ってしまう。「本当にお前」 と、おそらく何度も繰り返したやり取りをはじめようとしたかれの言葉を千鶴が掻き消した。傍にいます、と言う彼女に、土方が折れた。そもそも千鶴が蝦夷地に来たとき、彼女の「江戸の女」の強さに一度大きく譲歩している。あそこが最後の分岐点だったはずだ。そこで彼女を帰せなかったのが土方の愛情であり、弱さでもあった。傍にいたいと主張する千鶴の気持ちに押し負けたのは、そのことをかれ自身が望んでいたからだ。
それでもここへ来てもう一度千鶴の今後を考えてしまうのは、彼女だけでも死なせたくないという土方の愛情だ。そして多分、千鶴の答を半ば分かった上で何度も彼女の心を聞きたがる弱さだ。
最後まで決して迷わなかった千鶴に、土方は本音を明かす。千鶴の存在が、死んでもいいと思っていた土方に、「生きたいと思う理由」を 与えたと。

戦いの朝。銃弾に撃たれて落馬した土方を必死に運んで止血する千鶴は、一度五稜郭へ退く事を提案する。いくら羅刹で常人の回復力の比ではないとしても、千鶴の血を与えられたとしても、前線に出て戦えるような状況ではない。
彼女に肩を借りて五稜郭までたどりついた土方は、大きな桜の木の前で立ち止まる。桜を前に思い出話をする二人の前に、風間が「全ての決着をつけに」現れる。どう見ても土方が大怪我をしていることは明らかだし、そんな状況のかれと戦うことは卑怯だ。たとえ勝ったとしても、本来の実力ではないと感じられる。
けれどそんなことは、風間だって分かっているはずなのだ。なのにかれは今ここで、決着をつけようと決めている。そして一人で歩くこともままならなかった土方は、風間の胸のうちにある覚悟を見透かした。鬼であることに大きな誇りを抱いていたかれが、それすらも投げ打って挑んでくるのだと分かったから、戦いを受ける。桜の下で喋る土方が、一瞬過去の、羽織を羽織った長髪の土方に重なる。

桜の下での戦闘シーンは、一部バッター振りかぶって打ったー!状態にも見えたけれど、おおむね迫力があって、美しくてよかった。銀色の髪で赤い瞳をした鬼が、この上なくきれいなシチュエーションで命をかけて戦う、というのが醍醐味。
どこまでも羅刹を自分達純血の鬼の下に見ている風間は、しかし土方のつよさに心を変える。剣の腕のつよさと、心のつよさ。羅刹という紛い物の名は、土方の生き様にふさわしくない、もはや一人の鬼だ、とかれは言う。土方にしてみれば、本人が言っていたとおり「鬼として認められるために戦ってきたわけじゃない」ので、風間に鬼と認め られようが紛い物と罵られようがたいした問題ではないだろう。けれどこれが風間にとってこの上ない賛辞であること、は分かる。鬼であることを至上としていた男が、鬼でないものを鬼だと認めたのだ。
そして風間は土方に「薄桜鬼」という名をつける。あとあと考えてみると、鬼としての名と言ったって、風間も不知火も天霧も普通に姓名を持っているじゃないか、という気もするんだけれど、そういう有無を言わせない力がこのシーンにはある。風間はこのシーンのために存在しているのだ、とすら思う。
そして最後の一太刀。土方の刀は風間の胸を貫き、決着がつく。

かつて土方は「紛い物も貫けばまことになる。俺がお前を倒せば本物になれるってことだろ」と風間に言った。まさにかれは今風間を倒し、かれから本物の鬼だと言われた。そこまで分かっていて風間は土方を「一人の鬼」だと認めたのだろうか。自分が負けると分かって?それとも勝つ意味がないと分かって?
風間が何を考えていたのかは分からない。これ以上深入りすれば鬼のコミュニティから排除されてしまうというようなことを天霧は言っていた。それを分かった上で風間は土方との決着をつける道を選んだ。 選んだ以上は、なにも「今」でなくても良かったはずだ。けれどかれは、このときしかない、と思いつめていたようにみえる。
土方の寿命が終わりに近いことに気づいていたのか(実際に終わりに近いかどうかはさておき、本人は大分ガタがきていると自覚していたようだし)とも思ったけれど、あくまで推測のひとつの域を出ない。
最後に土方の刀を受けたときも少し嬉しそうに笑っていた風間は何を思っていたのか分からない。けれど、かれの戦いは千鶴への愛情や鬼の頭領としての人間への復讐のようなものに影響されない、純然たる戦いへの欲求であったように見える。誰かのための戦いではなく、自分のための戦い。それがいい。

そしてエンデイングは、これまでの仲間たちとの別れのダイジェストで始まる。しかしこれ、千鶴に向けている言葉のところもあれば土方に向けての言葉のところもあって、いまひとつどういう視点で選んだのか分かりづらい台詞もあった。けれど一期で死んだ山崎・井上が出てきたのには興奮した。山崎さんの手足の台詞すごいすき。
そして回想は出会いのシーンへ戻る。千鶴が事情を話した直後に近藤が言った、「はるばる江戸から大変だったなあ」というシーンが切ない。江戸からひとり京都までやってきた少女は、新選組について仙台 まで流れ、好きな男を追って蝦夷地までやってきた。優しい言葉や意地悪な言葉で迎え入れてくれた仲間は誰もいない。
こんなに遠くまで来てしまった。
青空に誠の旗が浮かび、だんだら羽織をまとった隊士たちの背中がひとり、またひとりと増えてゆく。自分の膝で目を閉じている土方に、「見えますか」と千鶴は呼びかける。彼女の目に浮かんだ涙を拭う手は現実のものか、それとも幻か。彼女の名前を呼ぶ声は現実のものか 、それとも。

土方が生き残ったとも、死んでしまったともつかないラストだった。史実では五稜郭の戦いで亡くなっているので、それをこういうかたちで踏襲したとも考えられるし、休んでいるだけとも考えられる。
薫や綱道が、故郷の清水の話を一切出してこなかったので、最後はどうなるのかと思っていたのだけれど、こういう終わり方になった。寿命を急激な速度で消費することで強さを得る羅刹という設定と、乙女ゲームのハッピーエンドを擦り合わせるためには、羅刹の効果を薄める清水というある種反則技のような設定が必要だった。原田と風間を除いたキャラは羅刹になるので、戦いを終えても寿命がろくに残っていない・使いきったではハッピーエンドにはならない。薄桜鬼が多くのひとにとって後味の良い、乙女ゲームであるためには必要なことだった。そんなばかなと思いつつも、かれらが生き残って主人公と幸せに暮らすエピローグに一安心したのも事実だ。
けれどアニメはその技を使わなかった。過剰なまでに歴史の要素を詰め込んで、武士の生き様や在り方を描いたアニメらしい終わりだった。個人的にはこっちの方が好きだけれど、それは「原作」であるゲームがそうじゃない終わりを迎えたから言えることなのだろう。斎藤の離隊と同じく、この道もある、というのがいい。

原作を理解して丁寧に誠実につくられたいいアニメだった。色々なアニメがある中で、薄桜鬼のアニメがこのチームでこういう風に作られて幸せだなあ。

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12/17 拍手で間違いツッコミ頂いたので、地味に直しました。ありがとうございました。恥ずかしいのでどこかは言わない!
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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 19:37 | - | - |

薄桜鬼 碧血録 第二十一話「雪割草の花咲きて」

千鶴を置いて蝦夷地へたどり着いた土方は、慣れない気候の中、新しい仲間たちと戦いの日々を続けている。新型兵器での戦いにひとまず勝利した土方は、捕縛された敵を見下ろして、かつての自分達を思い起こす。気合いだけで戦おうとするかれらに、薩長に向かっていった新選組を重ねる。その様子がいかに愚かなものだったかと噛み締める土方の心情は、わかるようでいて読めない。
無闇に斬りこんで死に急ぐまねはするな、という言葉に斎藤を思い出す。

相変わらず本編よりも史実に乗っ取っているアニメ様。千鶴のモノローグが知らせる戦況が細かくて非常にいい。二隻の船を座礁・沈没させて海上戦力の要を失ったかれらが何とか策を生み出そうとしている会議中、土方を発作が襲う。ゲームでは千鶴視点のみで話が進むので、離れ離れになっている間のことは殆ど分からなかったけれど、アニメは視点の切り替えが自由なのでいい。
ひとり逃げ込むように自室へ戻り、羅刹化して発作で苦しむ土方は千鶴の幻覚を見る。誰もいない暗い部屋で、なにもないところへ手を伸ばす土方の様子が哀しい。けれど心配した大鳥が扉の向こうから声をかけると通常の状態に戻ってしまうあたりもまた土方らしい。

雪が降り厳しい寒さが続く蝦夷地とは違い、千鶴は穏やかな気候の中、墓参りに向かう。人のよさそうな和尚に声をかけられた彼女の返事は、らしくなく暗い。
綱道の墓前で彼女を待っていたのは風間だ。どこまでのいきさつを知っているのかは定かではないが、千鶴を庇った結果である綱道の死を「鬼の道を踏み外したものの末路」なんて言ってしまうのが風間だなあ。その言葉は綱道の死を侮辱し、千鶴を怒らせるのだけれど、それよりも彼女がむきになったのは、土方についてかれが話したときだ。かれは土方が千鶴を守ると言ったのに、置き去りにした・裏切ったと言う。千鶴はそもそも守って欲しかったわけではないと反論するが、それは彼女の気持ちであって土方の言葉とは関係ない。風間にしてみれば、非力で身よりもない千鶴を一人きり放り出したとしか考えられない。この風間の、いきなり現れたり手段を選ばずに行動するくせに、誓いに関してだけは絶対に守り通す・決して嘘をつかないところがいい。人間の機微が分からないということもあるんだろうけれど、ばかみたいにまっすぐで気持ちがいい。
だからこそかれは誓いを果たすため、土方と戦うのだ。
しかし風間ろくに見せ場がないな!今回こそはと思ったのに!

墓参りの帰り道、和尚が千鶴に手紙を届けにくる。役職を任されて更に仕事が増えた土方を心配した大鳥が、彼女を函館に召集するための手紙だ。それを読んだ彼女は心の中で函館に行くことを決心する。彼女の目を見た和尚が「行きなさるか」と何もかもを理解したようにコエをかけると、「お世話になりました」と千鶴が言う。なになにどういうことになってたの…墓参りして感心だ、って言われてたかと思えば、すべての事情を知っているかのような和尚。手紙を読んだわけでもないだろうに、内容をすべて分かっている和尚。なになに。
てっきりここだけ風間ルートでもなって、風間ともども蝦夷地へ向かうのかと思っていたら、土方ルートのままだった。それはいいんだけど、この手紙のくだりは無理があるな…。(見落としてるだけだったらすいません)

ともあれ函館に、正式に任命された土方の小姓として千鶴は赴くことになる。辞令などというものに簡単に頷くわけがない土方の性格も見越していたのか、千鶴は早々とそれを破り捨て、彼女自身の言葉で傍にいたいと伝える。土方の傍にいたいという千鶴の気持ちと、これまでに別れてきた仲間たちから決まって言われた「土方を頼む」という願い。それに応えなくてはならないと言う彼女のつよい気持ちに、千鶴と離れたあと弱っていた土方は押された。
それまでずっと、見捨ててきた仲間や自分についてきてくれる仲間、志半ばで息絶えた仲間や千鶴のために我を殺してきた土方が、とうとう千鶴に手を伸ばした。そして土方が一端腹を括ってしまうとあの男が出てくる。
デレ方さんが。
大鳥のからかいや冷やかしにも一切動じないどころか、何倍もの強さののろけでもって対抗する土方さん。聞いてないことまで言う土方さん。全く羞恥心がなくて、しれっとした顔で言う土方さん。ヒー!

個人的には、土方が千鶴の自覚よりも早く彼女の気持ちに気づいて、自分では彼女を幸せにできないからと、先手を打つかたちで気持ちには応じられないと千鶴を一端突き放すくだりがすごく好きなので、ここもちょっと挟んで欲しかったなー!百戦錬磨のモテ男っぽくていいとおもうのだ。大物芸妓に男前って言われても「よく言われる」って返す男だし!

宮古湾艦隊の奇襲も結局は負け戦になった。命からがら逃げ出す仲間が、己の無力さを嘆くのを見た土方は、かれらにやさしい言葉をかける。もともと優しい男だけれど、こんなふうに分かりやすい優しさを表に出すようになったのは、近藤がいないからかもしれない、とふと思った。近藤という人好きのする男が奥に構えている限り、土方はどれほど鬼になってもよかった。かれが無意識の飴をいくつも撒いてくれるので、土方はひたすら鞭を振り回していればよかったのだ。
けれど今はそうじゃない。優しい近藤も、自分を諌める山南も、あとから平隊士を慰めたり律したり鼓舞したりと言ったフォローをする仲間も殆ど残っていない。そういう状況と長い戦局が、そして多分千鶴が待っていてくれるということが、土方の心を柔らかくする。
だからと言って負け戦は負け戦だ。帰還した土方は、千鶴の肩を無言で抱いて、やりきれない敗北を噛み締める。函館が戦場になるからと、また千鶴を突き放すことを言いながら、それを否定してくれる彼女の言葉にどこか安心してもいるようだ。
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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 21:39 | - | - |

薄桜鬼 碧血録 第二十話「散ずる桜花」

斎藤との別れのあと、先行している羅刹隊を追って仙台へ入った土方だが、羅刹隊との連絡がとれない。
榎本武揚も登場。元々土方とは知り合いであるかれは、仙台藩主に掛け合おうとするも、何の返答もないことを漏らす。更には、仙台藩にはおかしな部隊があるという噂、世間を脅かしている辻斬りの犯人が城を出入りしているという噂があると言うかれに、土方と千鶴が反応する。辻斬りは、長らくかれらを悩ませてきた懸案だ。京にいる頃、千姫が聞かせた噂が始まりだった。羅刹隊に所属する新選組隊士が、もっと言えば山南が辻斬りをしているという疑惑は、浮かんでは消えた。誰が調べても確証は得られないまま、ただ疑念ばかりが深くなって、とうとう仙台まできたのだ。その件を自分に預けて欲しい、と土方は言う。何度消そうとしても完全に拭い去れない疑念と、とうとう向かい合うときがきたのだ。

気落ちしたままの千鶴のもとへ平助が現れる。仙台城で綱道と山南が 密会していることを知った平助は、山南が裏切ったかもしれないと告げるため、土方のもとを訪れたのだ。
一本気で嘘や隠蔽工作が苦手なかれの行動など、当然綱道はお見通しだ。新型羅刹を大勢率いた綱道が現れる。原田・不知火と戦った綱道が生死不明になっていたことを知らないかれらが、綱道の登場にさほど驚かないのも無理はない。しかし「原田くんといい君といい困ったものだ」と、モノローグやひとのいないところではなく、敢えてかれらの前で言った綱道に二人が反応しないのはちょっと勿体無い。

人間に滅ぼされた一族の栄華を取り戻すため迎えにきたという綱道に、当然千鶴は抵抗する。平助が身を挺して守ってくれるけれど、向こうは数え切れないほどの羅刹がいる。のみならず、太陽の光に怯む平助と違い、新型の羅刹は日中の行動に苦痛を感じない。勝てるわけがなかった。千鶴は父の手で意識を奪われ、仙台城へ連行される。
人間の道理を曲げて寿命を削る危険な薬を飲ませて羅刹を作り出し、数にものを言わせて搾取や攻撃を続け、乱暴な真似をして娘を拉致した綱道の言葉は、しかし優しい。千鶴の良心に訴えかけたり、まだ幼い子供だと思い込んでいる千鶴をうまく騙そうという心もあるだろうが、どうもそればかりでもないように感じられる。わざと薫の名を出す綱道の説得は卑怯だが、かれが薫について語る言葉のすべてが嘘だとも感じられない。人間にすべてを奪われた被害者としての綱道、一族を復興させたいというまっとうな感情を持つ綱道、たとえ血縁関係になくとも千鶴や薫を心から思いやる父としての綱道がところどころ顔を出す。マッドサイエンティストとしての、大きなクーデターを起こそうとしているテロリストとしての綱道の合間から顔を出す良心に向かって、千鶴は必死に復讐の無意味さを説く。

そこへ山南が現れ、羅刹の研究のために綱道と協力することに決めたと話したとき、羅刹との戦いを切り抜けた平助が土方とともに城へ来る。話を聞かれた山南はうろたえず、どころか奥羽同盟が戦争回避をもくろんでいて仙台城が見方に成り得ないこと・新政府軍側の綱道が実際は新政府軍に不満を抱いていることを理由に、羅刹隊と綱道が描く鬼の王国の共存を訴える。
綱道もまた、千鶴に、羅刹を使い雪村家を再興しようと話す。綱道が羅刹を「使う」と言うことは、千鶴に距離感をおぼえさせ、土方に不信感を募らせるだろう。羅刹より鬼を上に見ている綱道は、山南や平助の前でもかれらを道具として見ていることを明かす。

俺達の戦いに羅刹隊は必要ねえ、と土方は言った。綱道と手を組むつもりはないとか、新選組の本願は羅刹隊の富強や生存にないとか、そういうことは全部飲み込んで、一番ひどい言葉を吐いた。
けれどその言葉に刀を抜いた山南は、目の前にいる土方ではなく、周囲にいる羅刹を次々斬り殺し始めた。「戦うことしか出来ない羅刹に戦いの場が残されていないと言うのなら、ここで終わりにしてやるのがせめてもの情け」だとかれは言う。そして「新選組の局長命令は絶対」だとも。山南が当然のこととして土方の言葉を「局長命令」と受け入れたことに、かれの覚悟を知る。山南が抜いた刀に、向かい合っている土方の姿がちいさく映るのもいい。
羅刹隊は必要ない、と土方は言う。その言葉に、羅刹隊を率いてきた山南と、実質かれの右腕になっていた平助が賛同する。羅刹は必要ないと、三人の羅刹が言う。白い髪と赤い目で、常人の域をはるかに超えた腕で、仲間をひたすら斬り殺してゆく。狂っている。この狂いこそが激動の時代であり、薄桜鬼だ、と思う。
いかなる研究をもってしても、寿命の問題も吸血衝動の問題も解決できなかった。今後も進めてゆけば何か分かるのかもしれないが、そんな時間はもう自分には残されていない。綱道を除けば、山南ほど羅刹に対して熱心に研究を重ねたものはいなかっただろう。かれほどの明晰な頭脳を持っているものもいなかっただろう。つまり山南が解決できなかった時点で「羅刹には未来がない」のだ。僅かな残り時間を使って山南に出来ることは、すべての羅刹を一箇所に集めて、幕を下ろすことだけだった。遂にかれは自白する。羅刹は「生み出されてはいけないもの」であったと。
「どのみち俺らもお前らと同じ運命」だと平助は笑った。かれもまた、酷使してきた自身の肉体の限界を悟っていた。山南が言う「未来がない」「生み出されてはいけない」羅刹、平助が言う「同じ運命」をたどる羅刹には、土方も入っている。土方も、かれ自身が言う「戦に必要ない」羅刹のひとりなのだ。少し時期が遅かったとは言え、変若水を飲んで羅刹化し、その肉体を酷使してきた。かれの先は決して明るいものではない。土方もそれを知っている。知っていると分かっているから、ふたりは平気でそんなことを言う。
それを知っているかれだから、山南は最後まで裏切らなかった。どんなに意見が合わなくても、ともに行動した。どんなに合わない意見もぶつけられた。

我を忘れた羅刹の暴走に、千鶴は思わず綱道を背に回した。自分に薬物を嗅がせて意識を奪い、拉致してくるような男でも、彼女には大切な父なのだ。無意識であろう千鶴の行動は、いつだってまっすぐだ。 そして羅刹が襲い掛かってきたとき、今度は父が娘を庇った。自身が生み出した新型羅刹の刃に斃れた綱道は、「お前の信じる道を行きなさい」と今際の際に千鶴に言った。千鶴の言葉が綱道を動かした。千鶴にその言葉を言わせたのは、これまで彼女とともに行動してきた新選組の在り方だ。彼女が鬼だと知っても態度を変えなかった隊士達の優しさやつよさが、彼女に確信を与えた。人間と鬼は共存できる、ということ。

寿命が尽きた山南と平助は、遂に立ち上がる事も出来なくなる。今後の戦いを勝てると思うのかという山南に、「負けるつもりで戦うやつはいねえ」と土方は返した。勝てる、とは言わなかった。
土方とぶつかることもあったけれど、土方を認めていたと笑う山南。一度離隊した自分を受け入れてくれたことを感謝していると言う平助。こんなときだからこそ言える、こんなときでなければい言えないことばだ。平助の言葉に対して、「俺だけじゃねえ、皆心配してるさ」となんでもないことのように笑う土方がいい。あまり平助に対して言及することのなかった土方の、最初で最後の言葉だ。
これまで新選組を離れていく人間が皆言ったように、二人もまた「土方君のことを頼みます」「土方さんをしっかり見張っててくれ」と、千鶴に土方を託してゆく。平助が千鶴に向ける「笑ってくれ」がとってもかれらしくていい。わたしは平助が一番最初に千鶴を気に入って、ずっと千鶴を一途に、あからさまに思い続けてきたと思っているので、かれが最後までそのままであることが、哀しいけれど嬉しい。平助ルートより、他ルートで報われない平助とか、ドラマCDで皆にからかわれる平助の淡い恋心が好きだなー。とにかく千鶴千鶴言って、千鶴の心配ばかりしていた平助が死ぬこの回に、「散ずる桜花」と言う名前がついたことが良かったと思う。にくい!

新選組は額兵隊を加えて蝦夷地へ向かうことになる。こういうところほんと細かいアニメだ。離隊しても構わないという土方に、来るなと言ってもついていく、と島田を始めとした隊士たちが笑う。それにつられて笑みを浮かべる土方が、どこか哀しそうに見える。
どこまでもついていくと決めているのは隊士たちだけではない。千鶴だってそうだ。けれど土方はそれを許さない。お前の未来を探せ、生き延びろ、とかれは言う。負けるつもりで戦うやつはいないと言ったかれは、自分が蝦夷から生きて帰ってこられないこと、を覚悟している。寧ろ確信している。

雪の中船を見送る千鶴と、雪に掻き消されて見えないであろう陸地を見つめ続ける船上の土方。
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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 16:17 | - | - |

薄桜鬼 碧血録 第十九話「天道の刃」

負傷した土方に代わって、新選組を率いるのは斎藤だ。会津藩主であり、これまで新選組を庇護しつづけてくれた松平容保に直接謁見することになった斎藤は、かれから忠実なる藩士30名を託される。
松平容保が森川さんなのにびっくりした。豪華!同じく豪華なのが、会津藩士のリーダー的存在である正木を石田さんがやっていることだ。終盤、ゲームでは登場しなかった(松平公は名前は何度も出たけれど)おそらく一話だけのキャラでこの豪華さ。正木さまがひとりだけ前髪を残しているのも、姫カットなのも、あきらかに年下なのも、お小姓臭がするのも気にしません。

松平を心から慕い、会津のために命を賭ける覚悟を全員が持っている会津藩は、新選組をよく思わない。会津は会津藩士で守るという気概もあるのだろうが、何よりかれらには斎藤をはじめとした隊士の洋装と、左利きの斎藤が刀を右差しにしていることが許せないのだ。松平の命令である以上行動を共にはするけれど、決して心を許すつもりはない、どころか言うことは聞かないと正木は真っ向から宣言してくる。島田や斎藤の言葉ではなく、正木の命令に従う他の藩士も同意見なのだろう。
そこで声を荒げたり、無理に命令を通したりしないところが斎藤だと思う。だからと言って黙っているわけでも退きさがるわけでもない。身軽な洋装こそ戦闘に有利であること、なにより、刀の差す向きで武士の魂の有無が決まるわけではないことを淡々と話すかれは、いつも通りの斎藤だ。その落ち着きがかえって哀しい。改めて、斎藤がこれまでに何度となく言われてきたことなのだと実感させられる。
正木率いる会津藩士との不和は、実際の戦場においても影響する。勝ち目がないと撤退命令を出す斎藤の指示には誰も従わず、直後に正木が放った「退くな」の言葉にかれらは応じる。勝てそうもないから、殺されるから退くと斎藤を罵る正木に、斎藤が声を張る。命はいつでも捨てられるからこそ、捨てどころを間違えると犬死にになるのだ、と。無駄に藩士の数を削ること、負けると分かっていてがむしゃらにぶつかって行くことには何の意味もない。それは結局のところ、少ない人数で踏ん張ろうとしている松平公の足を引っ張ることにもなる。斎藤は細やかな説明をしない。ただ、「いまは退くことが
真の忠孝」なのだと言った。正木が理解できると分かっているからか、これが分からないようならもう無駄だと思っているからか。自分への敵意や蔑視を隠さない自分たちを命がけで庇って撤退させた斎藤の姿に、会津藩士たちは何を思うのか。
次に斎藤が現れたとき、会津藩士は全員洋装になっていた。更には斎藤の姿が見えた段階で正木が整列の声をかけ、かれの元に並ぶしまつだ。斎藤の言葉が、言葉より何倍も雄弁な態度とつよさがかれらを動かした。

会津で斎藤・島田と顔を合わせた大鳥は、会津藩士への不満を口にする。その融通の利かなさ、気の回らなさを肌で感じたかれは、「愚直」だと呆れている。思考の回転がはやく、進んだものの考え方をする大鳥にしてみれば会津は古臭く、物足りない印象を覚えるだろう。けれど斎藤は笑ったまま、「それこそが頼るに足る証」だと会津を称した。庇ったのではなく、心からそう思っている。斎藤はそういう男だ。

会津にいる斎藤・山南・平助のもとに土方と千鶴が合流する。しかし圧倒的な人数の差もあり、戦局は悪化する一方だ。このままでは勝てないと判断した大鳥からは退却命令が下る。英断だろう。しかし敵にしてみれば、むざむざ逃がして形勢を立てなおされるのは良くない。執拗に攻撃してくる旧幕府軍に、正木は自分達が戦場を引き受けると主張する。新選組たちが無事に撤退できるよう、「盾となる」と言うのだ。
つい先日もこのようなことがあった。撤退命令が出ている戦場で、かれらはそれを呑まずに戦いに向かった。その時のようにまた死にに急ぐのかと責める斎藤に、正木はかつてとは違う澄んだ真っ直ぐな瞳で否定する。「今こそ我ら命の捨てどころ」だと。かつて斎藤が言った「命の捨てどころを間違えるな」という言葉で頭を冷やした正木は、その言葉の意味をずっと考えていたのだろう。考えた上で今だと思ったのだ。
それが正しいのか、は誰にも分からない。けれど自棄や見栄のためでなく、武士として冷静に判断したかれらが決めた答えであるならば、誰にも邪魔できるものではない。感情的になりやすく、うわべだけを見てものごとを判断していたかれらだが、今回の判断はそんな薄っぺらいものではない。だから斎藤はかれを「正木殿」と呼び、かれの提案に乗った。

会津での勝ち目はないと悟った大鳥は、仙台へ向かうことを決意する。容保公への恩義、自分達が離れていけば一層勝てなくなる会津への配慮に揺れる土方に、それが容保公の意向である、とかれは言った。早くから新選組を見出し、いかなる時もかれらの味方だった容保公は、最後の一兵になるまで会津で戦い抜くかわりに、かれらを仙台へと向かわせる。その潔さや深慮があるからこそ、正木たちがあんなにも忠実に従ったのだろう。容保公が信じた新選組を信じ、かれらを生かすために命を捨てることも惜しまなかった。
そういう容保公だからこそ、土方は余計に後ろ髪を引かれる。大鳥の判断が正しいことも、トップに立つかれの命令が絶対なことも分かっている。分かっていて、それでも人格者であり恩義のある容保公を置いていくことに焦りがある。近藤の時の二の舞だと自嘲気味に吐き捨てるかれがやるせない。

そんな中、斎藤が会津に残ると言う。百戦錬磨のかれだからこそ、戦いの勝敗ははっきりと見えている。会津は負ける。けれど、かれはそれでも残るのだ。これまで自分達を庇護してきてくれたのが会津だからこそ、会津で微衷をつくしたいと言う。
アニメオリジナルのエピソードであった正木たち会津藩士の行動に、斎藤がいかに心を動かされたのか、非常によく分かる。大鳥が愚直と称した生きざまこそ、斎藤が共感できる在り方だった。忠義のために生き、最期まで忠義のために行動しつづける。死に向かうのではなく、死すらも畏れないで戦う。それこそが「まことの武士の魂」なのだとかれは実感した。自分の行動理由や存在理由、なにより信じられるものを探し続けてきた斎藤にとって、会津は格好の場所であった。
武士として、生死や勝利よりも優先すべき物を見つけた斎藤に、土方は「耳が痛ぇ」と苦笑する。武士であること、を他の隊士ほど重要視してこなかった土方だが、普段無口で自分の最大の理解者のひとりであったかれから言われると、さすがに堪えるものがあるのだろう。
けれど斎藤には嫌味を言っているつもりも、土方を批判しているつもりも当然ない。土方がやるべきことは、近藤から引き継いだ新選組を率い、最期を見届けることだ。単なる感情論ではなく、「武士を導く道標」としての新選組を継続していくこと、を斎藤は求めている。

「薄桜鬼」を全ルートプレイした中で一番好きなエピソードが、この斎藤と土方の決別のシーンだった。土方の命令とあらば、それが新選組のためとなるならば、離隊して御陵衛士入りをすることも辞さなかった斎藤が、思想によって土方のもとを離れる。別の道を選ぶ。それは、かれにとっては決して理解も納得もできないような諍いで藩を離れて以降、ずっと自身の指針を探し求めてきた斎藤が、最優先すべきものを見つけた瞬間だった。それが新選組の中になかったこと・土方の進む道になかったことは哀しかったけれど、話し合いの末にようやく答えを見つけた斎藤を土方が最終的に送り出してくれるきれいなエピソードだった。
アニメはゲームのエピソードとはかなり違う。上述の正木たちオリジナルキャラによる話が入ったこともあるが、二人の決別はスムーズだ。ゲームの展開を期待していたので少し残念だけれど、同じことをアニメでやるより、他の選択肢があったほうが広がりがあっていいのだろう。原作の良さを台無しにするどころか、膨らませる話だったと思う。

新選組とは行動を別にすることとなった斎藤は、誠の旗を掲げることを許可してほしいと願い出る。土方は笑って、「おまえの旗でもある」と受け入れる。旗を掲げるということは、新選組隊士として戦うという斎藤の宣言でもある。誠の旗は窮地に立たされている武士たちを導く道標だ。のみならず、武士たらんとするものひとりひとりの心のよりどころでもあるのだろう。「離れていても、俺たちの魂は旗のもとにひとつだ」と言う土方の言葉が斎藤の背中を押す。それとともに、仲間に去られてゆく土方自身を慰めるのだろう。
仙台に向かう土方たちとは行動を別にした斎藤は、新選組の名乗りをあげて、戦に駆けてゆく。

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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 22:33 | - | - |

薄桜鬼 碧血録 第十八話「輝ける暁光」

斎藤の報告で一堂は近藤の最期を知る。武士として責任を取る切腹すら許されず、罪人として斬首に処された近藤。斬首のシーン、かれの前に掘られた穴がなまなましい。再三繰り返すけれど、このアニメはこういうところが本当に細かくていい。ゲームでやらなかったこと、ゲームではできなかったことが沢山織り込まれていて、どれも蛇足になっていない。

近藤を見捨てたこと、見殺しにして自分達だけ逃げたことに対して、沖田は土方を罵る。近藤のこととなると感情的になるうえ、その場にいられなかった自身への苛立ちも相俟って暴走する沖田に、土方はひとことも返さない。まだ癒えていない傷口が開いてもなお黙って沖田の好きにさせている土方の自責の念がつよすぎてやるせない。
近藤に、結果的にかれの命と引き換えに逃がしてもらったのは千鶴も同じだ。あの場所にいたものとして、彼女は沖田を追う。近藤が自分達を送り出してくれた日のことを語る彼女の言葉に動揺しないところから見て、沖田は全て分かっていたのだ。土方が、自分が生き残るために近藤を見殺しにするような男ではないこと。自分の命を捨ててでも、近藤を守ろうとする男であること。今も、怪我をおして新選組を守っていこうとしていること。分かっていて土方を責めた。沖田には、自分にとって兄だった近藤、自分にとっては何よりも大切な存在だった近藤と一番仲が良かったのが土方だ、というつよい思いがある。かれに非はないこと、どうしようもなかったこと、かれが自分を責め続けていること、そしてこれからの新選組を引っ張るのは土方しかいないと分かっていて、それでも沖田は土方を許せない。土方が言い返さないと知っていてかれを悪し様に言うのは、沖田のこれまでの嫉妬と、なにより甘えだろう。近藤が兄なら、その友人としていつも傍にいた土方もまた、沖田にとっての兄だ。二人の兄の仲を羨む年の離れた弟は、長兄にいいところを見せたいと頑張り、次兄には遠慮せず我儘を言って甘える。そのバランスは、長兄がこの世から去った今、永遠に取り戻せない。
土方は悪くない、土方を許せない、土方のことを頼むと言って去る沖田がせつない。自分と近藤のことばかり主張していたかれが、土方のために千鶴とはなれた。

土方に心を許しているからこそかれに甘える沖田の一方で、土方を尊敬するからこそかれの方針に真っ向から意をとなえるものもいる。体調を無視して前線指揮をとるという土方を止めるべく、斎藤は刀を抜いた。平助の制止も聞かず、かれらは勝負する。
本調子からほど遠い土方に負けるような斎藤ではない。かれの喉元に切っ先を向けた斎藤は、激戦地に土方を送るわけにはいかないと言う。戦っていれば忘れられるかもしれないが、忘れてもらっては困る、という斎藤の台詞がいい。かれは幹部の誰よりも土方を慕い、誰よりも土方に忠実だった。土方の命であれば、そしてそれが新選組のこれからにとって必要だと感じられれば、誰に何と言われようと御陵衛士に参加したような男だ。常に土方を気にかけていたかれだからこそ言える言葉であり、斎藤がよくぞ言った、という言葉でもある。ただの部下、ただの忠実な僕ではないところがいい。
真実を言い当てられて納得した土方の決断により、前線指揮をとることになった斎藤が千鶴に言う。「土方さんを頼む」と。

彰義隊は上野で新政府軍との攻防を続けている。彰義隊に参加している原田のもとへ、不知火が現れる。二人の狙いは、羅刹を率いて現れるであろう綱道だ。そしてその読みは見事的中。
強くなるためには手段は選べないと綱道は言う。かつて滅ぼされかけた鬼の一族としての恐れや経験がそういわせているのだと思えば、かれもまた不幸な存在だ。けれど地獄を見た鬼はかれだけではないし、何より綱道の動きに心を痛めているひとがいる。「あんたのせいで千鶴がどんだけ苦しんだと思ってんだ」と叫ぶ原田がせつない。父親を探すために、単身、慣れない男装までして京へやってきた千鶴のことを原田は気にかけていた。これ以上新選組として生きていくことはできないと離脱した気持ちに迷いはないけれど、千鶴の父親探しを最後まで手伝ってやれないことが心残りだった。もはや綱道は千鶴にとって、探し出して会いたい優しかった父様ではないけれど、原田にとって綱道の存在は気がかりだったのだろう。これが原田の示す義であり愛なのだ、と思う。せつない。
遂に羅刹を全滅させた二人。綱道に銃を向けた不知火は、弾切れしていることに気づく。その隙をぬって爆弾を取り出した綱道を、槍で原田が攻撃する。川に落ちた綱道は上がってこなかった。
甲府の借りは返した、と言う原田に、不知火は高杉を思い出す。墓参りに戻るというかれと、新八の待つ会津へ行くという原田。地面に座り木にもたれている原田の目から、光が消える。
「このあと二人に会うことは二度となかった」という、低めの千鶴のモノローグが刺さる。彰義隊の上野戦争を持ち出して、そこへ綱道・羅刹との決戦を絡めた話の展開もいいし、上野戦争で死んだ事になっている、このあと生死不明の原田のエピソードの使い方もうまい。原作以上に史実をベースにするアニメの恐ろしさよ…。

千鶴に背を向けた沖田は、神社の境内に腰掛けている。「お兄ちゃん何してるの」と問いかけてきた子供の顔が千鶴に被る。自分は一体何をしているのだろうかと、冷静になったかれは考える。
土方の暗殺を狙う集団が話しているのを聞いてしまった沖田は、ひとり、咳の止まらない体を引きずってかれらを尾行する。あまりにも大量の赤黒い血を吐いた沖田は、それを見て覚悟を決める。もう会えない近藤の背中を宙に思い描いて、近藤が新選組を託した土方さんなら僕も守らなきゃだめだよね、と話しかけて、かれはひとりで大勢の剣客に立ち向かう。誰だと問われて名乗りを上げるところがすごく好き。

沖田の名乗りに、体を休めるべく布団に入っていた土方が、呼応するように眼を覚ます。白髪の男が、宿場を守る仁王のように戦っている様子を見たという老人の話を聞いたかれには、それが誰なのか分かってしまった。薄桜鬼らしからぬタイプの展開だと思ったけれど、これはこれで。老人は鳥海さんが兼ね役!
体を引きずって沖田のもとへ向かう土方に追いついた千鶴は、沖田を見捨てるわけにいかないという土方の言葉に、制止することをやめ、かれについていくことにする。途中、階段すら上れない土方に千鶴が肩を貸す場面があって、いかにかれが弱っているのかが分かる。この状態で会津で指揮を執ると言った土方の無謀さが今になって響いてくる。それほどまでに自暴自棄だったのだとも、分かる。それと同時に、こんなかれがあの大勢の剣客に攻め込まれたら決して生き残れなかったであろうと思わされる。

そして二人がたどり着いた場所にあったのは、大量の死体と、沖田の刀。それを見て全てを悟った土方は、その場に背を向けて引き返す。 大量の死者の間にかれの亡骸が埋もれているということも考えられるけれど、そうすれば生き残りがいるはずだ。全ての敵を倒したあと、羅刹としての力を使ったことと病の進行によって寿命を迎えた沖田が、あとかたもなく消えてなくなったと考えたほうが自然なのだろう。残されたのは刀だけ。常々近藤の刀だと自称していたかれは、近藤が命をかけて守った、命と引き換えに新選組を託した土方を、自分の命を賭けて守り抜いた。
かれは近藤の遺志を継いで新選組を守る、近藤の刀になったのだ。
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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 21:00 | - | - |

薄桜鬼 碧血録 第十七話「玉響の夢」

今回作画がひどくて熱演が勿体無いほどなんだけれど、悲しい別れの回ではなく、比較的穏やかな話のときでまだましだったと思うことにする。

近藤と別れた土方たちは、旧幕府軍と共に行動することになる。かれらが壬生狼と呼ばれて恐れられ乃至は軽視されていた頃を知っている連中は、本人に聞こえることも気にせず噂話に夢中になっている。そんな、仲間とは呼びがたい態度の集団の中にいること、近藤の消息が不明であること、更には日中の移動が重なって、土方の表情がどんどん荒んでいく。

新八ともども新選組を離脱した原田は、ひとり江戸にいた。かれにはかれの、やるべきことがあるようだ。そこへ現れたのは不知火だ。いつでも命を賭けた戦いをする気持ちでいる二人は、その一方で、お互いの状況を越えた情報交換をする。新しい羅刹を開発した綱道は、大勢の羅刹のため、血を得るための戦を起こすつもりだと不知火は言う。義のため信念のためではない行動に、全く立場の違う二人の男は同じ憤りを感じている。
人間の戦に介入するつもりの不知火に、原田は事情を聞く。風間や天霧と比べても、人間に思いいれの強そうなかれは、多くを語らない代わりに、高杉晋作が気に入っていたという吉田松陰の句を口にする。ゲームでも細かいことは明かされない、この不知火の過去の話がわたしはすごく好きなので、短いエピソードがきちんと含まれていたことが嬉しかった。不知火にとっておそらく何よりも大切な思い出である過去を、かれがきっと何度も噛み締めるように諳んじた句を原田に明かすというのは、かれが原田を認めたという証明だろう。仲間にはならない。馴れ合うこともない。必要とあれば相手を殺すこともためらわない。けれど、確かに二人はお互いを高く評価しているのだ。
そして原田は原田で、甲府での恩をいつか返すつもりでいる。

大鳥圭介登場。握手を求めて手を差し出してきたかれに、その行為自体を知らない土方は一瞥をかえす。総督として、仕事の一部を土方に任せたいという言葉にも、あまり良い反応はしない。疲れと旧幕府軍の態度で気が立っていること、なにより大鳥というのがどういう人間なのか分からない以上は信用しない、というところか。
大鳥がうまいと思うのは、土方に依頼するときに新選組の名前を出すところだ。それを言われてしまえば、かれは決して断れない。どころか、持っている最大限の力を使うだろう。新選組の名を背負うこと、守ることとはそういうことだ。
だからかれは腹心の島田を別の部隊へ配置する。その意図を汲みきれない島田は不安を口にする。大きな集団の中に、新選組がもはや吸収されてしまったように見えるからこその不安だろう。自分は新選組の島田として参加する、誠の隊旗を掲げる、というかれの言葉がいい。
斎藤、山崎、島田と土方の関係性がとってもすき。

休憩中の土方が珍しく弱音を吐く。自分ひとりで新選組を支えられるわけがない、何を信じて生きればいいんだ、というかれの言葉は、誰かに答を求める類のものではない。ただの愚痴だ。けれど、ただの愚痴をはけるほど千鶴を信頼しているということでもある。残っている隊士は土方を信じている、という千鶴の言葉に、土方は「見失ったものは自分でもう一度見つけるしかない」と結論を出す。千鶴の言葉に触発されたというよりは、千鶴に本音を吐くことで気持ちを晴らしたというところか。
そんな気持ちとは裏腹に、土方を発作が襲う。血を与えるために刀で自分を傷つけようとする千鶴を制して、土方は自分がやるから、と言う。血を飲む自分を見られたくないという気持ちもあるんだろうけれど、千鶴にしてみれば、自分の手で自分を傷つけるより、土方に無言でうなじを切りつけられるほうがよっぽど恐怖だと思うよ…。血を与えるシーンはアニメで見ると案外ぱっとしなかったな、というのが本音。作画の問題か演出の問題か。

己の信念に基づいて行動する新八は、旧幕府軍に合流する。そこで近藤の状況を知らされたかれは、「土方さんでかいものを背負い込んじまったな」と言う。近藤への心配もあるだろうが、かれは残された土方を先に気遣う。大雑把で荒っぽく見えて、実はとても細部に気の回るかれが、沢山の人間を残していく・荷物を背負わせると承知で新選組を離れたのには、並外れた決意が必要だったのだと思わされる。

旧幕府軍は宇都宮城を攻める。新しい戦い方、西洋式の戦い方はなかなか決着がつかない。そのことに痺れを切らした土方は、敵陣に突撃するように命令を出す。銃が一発くらい当たってもすぐに死なない、というかれの言い分は勿論簡単に受け入れられるものではない。
かつての新選組の連中ならば笑いながら我先にと敵陣へ突っ込んでいったかもしれない。(義のため自分の信念のために戦うかれらは、自分の命をもったいぶることはなかったけれど、無駄にするつもりもなかったから、実際は拒んだかもしれないが。)少なくとも土方はそう思っているようにみえる。けれどここにいるのはそういう仲間ではないし、何より時代が違う。それに、銃が当たってもというのは、土方が羅刹だからこその台詞のように思えてしまう。
命令通り動かない軍に苛立った土方は、単身、刀を抜いて敵陣へ突っ込んでいく。次から次へと敵を斬ってゆくかれの姿に、銃を持っていた部下たちはついてゆく。拒んだ部下をひとり斬ったゲームに比べるとまだおとなしいほうだけれど、ここは個人的に解せないエピソードだ。いくつもの苛立ちや不安を抱き、口にはしないけれど戦い方が変わって刀の時代が終わることへの焦燥もあるだろう土方のとった行動は、自棄のように見える。それに部下を巻き込むことは賢明とは思えない。なにより、そういう土方に感銘を受けてついていくほかのひとびと、が腑に落ちない。うーん。

とはいえ、結局刀で土方は城内へ入っていく。そこにいるのは風間と天霧だ。土方との邂逅に、かつて顔を傷つけられた恨みが癒えない風間じはいきりたつが、私怨で動く風間に天霧は冷静だ。けれど風間は聞く耳を持たない。どころかかれは、対土方戦用にと、簡単に治癒しない傷をつける鬼殺しの刀を持ってきている。それは風間が、土方を危険な存在だと捉えているということだ。「まがい物相手にずいぶん大層な」と、普段羅刹を軽視したことばかり言う風間の言葉を使う土方の皮肉がいい。
深手を負わされ、羅刹化すらとけた土方を立ち上がらせるのは風間への怒りだ。「新選組を葬り去ってやる」と言ったかれへの怒りだ。自分のことはまがい物の武士、まがい物の鬼といわれても動じない土方が、新選組の名を汚されることを極端に嫌うのがとてもいい。もはや勝てるはずもない旧幕府軍についていても何ら良いことはない、「沈みゆく船にこのまま乗り続けるか」と天霧に問われた土方は言う。俺が守りたいのは幕府でも将軍でもなく新選組だ、と。
新選組を守る、とは何だろう。消息どころか生死すら不明の、そしておそらくもう戻ってこないと分かっている局長。組長たちも、あるものは死に、あるものは「鬼のまがい物」となり、あるものは離脱し、あるものは病に伏している。残っている人間の方が少ない有様だ。それでも土方は新選組の名を背負って戦い続ける。新選組と言われれば無様なことはできないと人の何倍も行動し、汚名がつくことを許さない。天霧は幕府や将軍を沈みゆく船と言ったが、もはや新選組だって沈むしかない船なのだ。再興されることなど決してない船。留まる港を失った船。必死になってそれを守ることは、たぶん、旧幕府軍の中にあっても隊旗を掲げる島田の気持ちと同じだ。

傷を負った土方は日光に暫し逗留する。
体調を省みず仕事をしようとする土方を千鶴が叱る。それを土方はかつてのように強く拒むことはしない。どころか、真剣に自分を思っているからこそ口うるさく言う千鶴の小言を、どこか楽しそうに聞いている。
見舞いに来た大鳥が土方を、参謀としては失格だ、と叱りつける。頭脳が死んでしまっては、手足が残っても駄目だ、と最初に飛び込んでいった土方を非難するかれの言葉に、土方はかつて同じことを言った仲間を思い出す。正気を失っていた自分を庇って死んだ山崎が、死ぬ直前に言っていたことばだ。そのことを言わずに土方はただ笑う。
このときに土方は大鳥への認識を改めたのだろう。爽やかな坊ちゃん然としたかれは、むくつけき武士達の中では非常に弱そうに見えるし、穏やかでのんびりした話し方の所為もあって頼りなさそうに見える。けれどかれはきちんとした信念を持ち行動しているのだと、土方は思い知る。折角落としたにも関わらず数日で取り返されてしまった城について話した新八に、「城は取り返せるが、お前の命は取り返しがつかない」と笑うかれは、自分が忘れていたこと、何度も見落としてしまったことを取り戻した。

そして次回予告が…とってもきつそう…。楽しみ!

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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 18:15 | - | - |

薄桜鬼 碧血録 第十六話「誠心は永遠に」

最近横行している辻斬りと山南の夜間の行動の関連性を追求すべく、かれを尾行する斎藤は、血に狂った羅刹が天霧と対峙しているところに出くわす。斎藤が一瞬右利きになっていることはおいといて、土佐藩から抜け出してここ一月ほど辻斬りを繰り返しているという羅刹が目の前で砂になって消えた模様は、斎藤にとって衝撃的なものだった。羅刹は斎藤が手を下したことで絶命したのではなく、ちょうど寿命がきていたのだと天霧は語る。まだ若かったその男の寿命は、かれが羅刹化してその力を使ったことで、こんなにも早く訪れてしまった。羅刹化によるあらゆる特徴は、寿命 を削って得られるものなのだと斎藤は知る。

そのことを知った斎藤はすぐに土方に報告したのだろう、土方は早速羅刹隊の増員・羅刹の増強を中止するとの決断を下した。原田・永倉の離隊や先の戦いでの戦死者からしても羅刹の増強は必要不可欠だし、羅刹に欠陥があるからこそ研究を続けるべきだと山南は反論する。「羅刹になった君のためにも!」という山南の叫びが痛い。
自身が羅刹だから、寿命を縮めないために羅刹を禁じるのか。自身が羅刹にも関わらず、助かる道を探す研究を禁じるのか。土方がどうしようもなく後者の人間だと分かるから、みんなかれについていく。みんながかれを見て心を痛める。そっと部屋の外で会話を聞いていた近藤もまた、そのひとりだ。

江戸での駐屯を取りやめ、隊士を募って立て直すため 新選組は会津を目指す。死んだことになっているかれらをいつまでも江戸においておくのは危険だと、山南 藤堂は羅刹を率いて先に会津へ。
部屋で二人きりになった途端、千鶴は土方に、羅刹の力を使うことを制止する。「何故お前にそんなことを言われなければならないんだ」という土方の返事はもっともだけれど、あまりに鋭い。原田が気付いてるくらいだ、土方は千鶴の気持ちに気付いていてもおかしくない。その上でこういう質問をしてくる。
自分の所為で土方が羅刹になったと言う千鶴に対して、土方は自分の意思で変若水を飲んだのだと言う。そこで「羅刹になんてなりたくなかったって本当の気持ちを言ってください」と返す千鶴がいい。それを聞いたところで土方の状況は変わらないし、ただ千鶴が己を更に責めるようになるだけだ。けれどそれでも彼女は、真実を聞こうとする。普段は穏やかな彼女がここ一番という時に見せる強さがいい。
土方を突然発作が襲う。刀を取り出して自分の血を与えようとする千鶴を追い出して、土方は平助がくれた薬でなんとかその場を凌ぐ。襖越しの発作が…いい… 。どうすることもできずにそばで歯がゆい思いをしていたのは千鶴だけではない。近藤もまた、土方の苦しむ声を聞いていた。

一向はひとまず下総流山へ。斎藤は訓練のため別行動 。
千鶴が近藤の下へ茶を運ぶと、かれは軍記物を読んでいる。それらに書かれた武人に憧れた近藤は、立派な武将になって、自分ではない誰かのために戦おうと心に決めたのだという。その思いを抱いてかれは仲間と京へ出て、新選組局長となり、大名の位までを手に入れた。けれど、それが自身の望んだあり方からは程遠いことをかれは実感している。「望むだけでは名君になれないことに気付くのが遅かった」と笑う近藤の表情は悲しみに満ちていて、既に先がないと思っている 。名君になる未来が永遠に訪れないことを知っているし、もはや欲してもいない。

そこへ土方と島田が現れ、圧倒的な数の敵に包囲され始めていることを報告する。ここは何とかする、と一人留まろうとする土方に対して、近藤は自分が行くと主張する。大名の位がある自分は簡単に殺されないから、お前たちが逃げる時間を稼げる、と近藤は言った 。それはかつて仲間の前で得意げに自身の位を発表し、そのことに喜んでいたときのかれとは違う。ただ今目の前にいる土方を納得させるため、土方ではなく自分が留まることが正しいのだと思わせるための言葉だったと思う。そのことは土方も気付いている。だからこそかれは、「旧幕府から貰った身分なんざ奴らには 毛ほどの価値もねえ」と言って近藤の考えを変えさせようとする。けれどそれは、既にその事実を知っている近藤を、やはり傷つけたのだろう。哀しそうな笑顔を浮かべる近藤がやりきれない。
なんとか自身が残る理由を作ろうとする近藤に、土方は負けていない。羅刹の自分は「心臓を貫かれない限り死ぬ事はねえ」から残る、という暴論はかれの本音だけれど、それは先ほどよりも更に近藤を傷つけただろう。近藤の体はもう近藤勇一人のものじゃない、という土方は、周囲の人間が自分の体に対しても同じように考えていることを知らない。のみならず、たとえすぐに回復しても、たとえ死ななくても傷を負わせたくないと思っていることも、知らない。敢えて知ろうとしない。土方の痛々しい生き様は、かれには物理的な傷を負わせ、周囲の人間に精神的な傷を残す。ばかだなあ。ばかでいい。
ついに近藤は命令という言葉を使う。かれが持っているたった一枚のジョーカーをこの場で使ったことに、さすがに土方は動揺する。話し合いではなく絶対の権限を振りかざしてきた近藤の決意のつよさ、覚悟の深さに土方の声が震える。
そしてその次に近藤が言った「そろそろ楽にしてくれ」という言葉は、何よりも土方を傷つけただろう。近藤が土方の言葉に傷ついたように、土方は近藤の優しいひとことでこの上ない傷を負った。その一言で、かれは自分がどれほど近藤を追い詰めてきたのか悟ってしまった。近藤を喜ばせたい、一緒に楽しいことをしたい、近藤を上へ担ぎ上げたいという土方の思いは最初からずっと変わっていない。ただ、時代が変わり、状況が変わり、近藤も変わった。変わらなかったのは土方だけだ。それはきっと、並大抵のことではない。普通の人間に出来ることではない。人並み外れた機転と信念を持つ、そういう土方に、揺らがない気持ちを注がれ続ける事が、近藤の重荷になった。自分のために鬼と呼ばれる厳しい副長になり、身を粉にして働き、とうとう本当の鬼になってしまった。近藤が土方の生き様を見ることが辛いのは、自分が追い詰めたせいだと思ってしまうからだ。せつない。
命令という言葉と、その裏に隠された近藤の本音に気づいた土方は、遂に近藤の提案を呑んだ。土方が島田ともども準備に行ったあと、残された千鶴は、近藤から逃亡資金を預かる。皆が言いたくて言えない、「一緒に逃げましょう」という言葉を彼女が言えるのは、彼女が武士ではないからだ。羅刹の寿命の事を知っていた近藤は、「今の」自分が生き延びるために、土方の命を引き換えにするわけにいかない、と言う。もはや名君になれないことを知ってしまった、変動する時代から取り残された、「今の」自分の命は、土方の命よりも優先されるべきものではなくなったとかれは確信している。これまで散々大らかで鈍感で、少し道化のような立ち回りにもあった近藤が最後に見せる冷静な判断は、おそらく事実をついているからこそやるせない。
仲間のために囮になることはできる、というかれは、今まさに「自分ではない誰かのため」に戦う「立派な武将」となった。かれが憧れた名君と同じ生き方をしている。

最後に重てえ荷物を俺一人に背負わせて、と土方は言う。今まで敢えて何も持たないからこそ動き回れた、自分の身すら数に入れずに暗躍できたかれが、何よりも重いものを受け取った。受け取って、生きていく。
千鶴との約束も、近藤の真意も知っていて、それでも土方は羅刹になった。圧倒的な数の敵と戦うにはそれしか方法がないというのもあるが、寿命が縮むと知っていて羅刹の力を出し惜しみせず敵に立ち向かう土方の戦い方は、自傷行為のように見える。近藤が受ける苦痛、自分が与えてしまった苦痛を思えば、そのほうが楽なのだろう。
けれどその行為も長くは続かない。自分が全滅させた敵の屍の中で、戦う相手を失った土方が立ち尽くしている。自分の言葉を拒否して傍にいる千鶴に、自分がこれまで築いてきたものが瓦解した空しさを口にする。ゲームでも大好きだった、土方の後姿のスチルと共に語られるこのシーンはやっぱりアニメでもすごくいい。きれいな夕陽、夕焼けに照らされた地面、そこに広がる無数の死体というアンバランスな場所で、土方は自分を責める。自分のこれまでを問う。一番大切にしていたものを失っただけでなく、自分の手で壊したような自己嫌悪とか、絶望とか、もっと単純な哀しみとか。そういうもので満ちていてたまらない。

前回の原田・永倉に続き、今回は近藤がいなくなる。どんどん仲間が減っていく中、心も体もぼろぼろになって、北へ。日常の中に戦いがありつつも、なんだかんだで平和で皆でばかをやっていた頃が暖かくて好きだけれど、このやりきれない展開も大好き。
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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 21:28 | - | - |

薄桜鬼 碧血録 第十五話「遠き面影」

これまでの羅刹の最大の欠陥のひとつであった、日中行動できない・太陽の下で行動できないという点を克服した新しい羅刹を綱道は開発した。人間よりも力もすばやさも上で、回復が早く、なにより忠実な羅刹を用いて、綱道は雪村家の再興を目指さんとする。
開発を知らなかった不知火は怒る。知らなかったことではなく、自分よりも強いかもしれない存在が大量生産されていることでもなく、その非人道的な行いに怒る。そしてかれは、敵でありながらもその志を買っている原田に一時休戦を持ちかける。羅刹を倒さなければ、原田と自分のまっとうな戦いは出来そうもないからだ。いずれきちんと命をかけて戦うために、手を組んで共通の敵を倒すという行動は矛盾しているように見えるけれど、かれららしい。

山道を抜けようとする近藤と千鶴の前に、男の格好の薫が現れる。薫は自分が本当は男であること、千鶴の兄であること、綱道が千鶴や自分の実父ではないことなどを彼女に畳み掛けるように告げる。千鶴を救うために来た、とかれは言った。けれど薫の目標は、綱道ともども雪村家の再興にある。人間に滅ぼされた自分たちの家を復興するためには、当然、人間を滅ぼす必要がある。そのために綱道が作ったのが羅刹だ。薫が千鶴を、妹を救いたい気持ちは本物だろうけれど、それは千鶴の望むものではなかった。
千鶴に優しい言葉をかけて、一緒に行こう、とかれは言う。その言葉も表情も、離れ離れで暮らしていた妹への慈愛に満ちているように見える。けれど一方で、刀を抜いた近藤を容赦なく叩きのめす。千鶴が世話になっている新選組、千鶴が大好きな近藤を倒す。千鶴の幸せが何なのか、千鶴の哀しみが何なのか、薫は全く分かっていない。
千鶴には、近藤を守って生き抜くと土方と交わした約束がある。そのために彼女自ら刀を抜いた。既に手が震えている彼女が何かできるとは思えないし、やり手の薫に勝てる可能性は万に一つもないけれど、揃いの刀を向けられた薫の心は確かに傷を負った。
ルートによって薫の性格は微妙に変化する。全く千鶴と相容れない、非常に厄介な敵のときもあれば、敵として登場しても心の奥にどこか非情になりきれない気持ちを秘めた兄のときもある。なので、千鶴に真摯な目を向ける薫の本音がなかなか見えない。千鶴に刀を向けられた薫の表情は、傷ついて揺れるけれど、それが本当なのか疑ってしまう。優しくして千鶴を絆しておいて、一気に形勢逆転を狙っているのではないかと言う目を向けてしまう。
千鶴に刀を向けられた薫は応戦する。勿論かれがいとも簡単に千鶴を倒す。覚悟を決めてとどめをさそうとしたかれを後ろから刀で貫くのは、土方が準備した洋装に袖を通した、羅刹化した沖田だ。もとより訝っていた薫を見過ごせなかったのか、病床で苦しんでいたはずのかれが現れた。
しかし羅刹化したところで沖田の病態は悪いままだ。すぐに発作で人間に戻ってしまうかれに、「変若水じゃ労咳は治らない」と薫は笑う。近藤と千鶴が驚いていたけれど、近藤はここまで病名を知らなかったのかな。さすがに気づきそうなものだと思うのだけれど。一気に薫に刃を向けられる沖田を、近藤が助けようとしないのがちょっと哀しい。本人も満身創痍なのは分かるんだけれど、沖田の思いの強さを知っているだけにやるせないなあ。勿論沖田はそんなことちっとも望んでいないのだけれど。
その場を制するのは風間だ。鬼の誇りを忘れ、雪村の名を汚す薫をかれは許さなかった。このタイミングで出てきたということは、風間が沖田を死なせたくないと、心のどこかで思っていたということなのだろうか。沖田を殺した薫を殺すのではなく、沖田を殺す前にかれの命を奪ったことに意味があるといい。
地面に倒れこんだ薫は、這うようにして千鶴に近づく。この期に及んでも、まだ薫が何かしでかすのではないかと思ってしまう。命をかけた罠を張ろうとしているのではないか、と。しかし実際は、千鶴が兄と遊んだ幼い頃の楽しい思い出を回想するだけだ。薫に手を伸ばすけれど時は遅く、その指が薫に触れる前にかれは息絶える。いつも真っ直ぐな千鶴らしくない迷い、躊躇いが見られていい。
鬼の誇りを大切に思う風間は、このままいくと次は綱道に刃を向ける。そして父親がかれに敵うはずがない、と千鶴は思ったのだろう。風間が手を下す前に、話をする時間がほしいと彼女は主張する。

ひとまずの撤退を成功させ、身を寄せている旗本屋敷でまだ明るいうちから隊士たちは酒を飲む。このときは全員同じ洋装なのだけれど、それぞれが好きなように着こなしているのが制服のようでかわいい。着崩したりきっちり着たり。
相変わらず新八は近藤の不満をこぼす。原田が庇うけれど、お約束の応酬になるだけだし、その言葉にも力がない。もうどうしようもないところまで亀裂は入っている。
綱道のことで気を落としつつも、自分に出来ることをしようとしている千鶴を慰めるのは原田だ。一緒に元の家を訪ねてみたり、昔のように団子を食べようと誘ってみたりするけれど、慰める側のかれだって決していい精神状態ではない。思い出話をしながら、「少し前のことなのにあの頃が遠い昔みてえだ」というかれは、楽しかったあの頃にはもう戻れないこと、再び同じような時代は来ないであろうことを知っている。
団子を持って沖田の見舞いへ。明らかに体調が悪そうだけれど、沖田の世話って誰がしてるんだっけ…。帰り際、新八によろしくと言う沖田に、原田は一瞬返事に詰まる。沖田と新八が再会することがおそらくないだろうと思っているからか。

近藤が帰還したことを喜ぶ隊士たちの中、険しい顔をした新八が近藤を呼ぶ。ならば、と自分も向かう原田を見て、土方はお前もか、とだけ言った。話を聞く前から、またすべてを分かっている。その頭の良さや勘の鋭さはかれの長所だし、そのお陰で何度も勝利や成功を収めてきたのだけれど、かれ個人としては良いことばかりでもないんだろうと思わされる。

原田・永倉、離隊。
近藤との話し合いや、それを最初に聞かされたときの千鶴の驚きなどは描かれない。けれど、これまで散々近藤への不信感を滲ませていた新八たちの口ぶりや、以前斎藤と平助が離隊したときの千鶴の様子から想像できる。
離れていくことを決めた新八は、もう近藤のことをとやかく言ったりはしない。ただ後悔しないために自分の思う道を行くのだ、と笑うかれの態度は清々しい。守ってやりたがったが途中で放り出すみたいですまないな、と原田は笑う。平助のときと同じだ。千鶴を守ってやりたい気持ちは確かにあるけれど、かれらにはそれよりも優先すべきことがあるのだ。原田にしてみれば、千鶴を守るべき存在は自分ではないと分かっているというのもあるだろう。かれが言った「あの人」という言葉に動揺するような千鶴なのだ。自分の出る幕ではない、とも思っているだろう。
しかし原田との思い出回想、原田と新八二人との思い出回想はあるのに、新八と二人きりや原田がいない輪での回想がないあたりが物悲しい。これが攻略キャラと非攻略キャラの差ってやつなのか…。
別れを惜しむ千鶴に、同じ空の下でこれからも戦うんだ、と言って二人は去る。また会おうとも、また会えるとも言わない。偶然会う可能性は勿論ゼロではないけれど、限りなくゼロに近いし、偶然以外の理由で会う可能性は、きっとない。そうと知っていて去っていくふたり、そうと知っていて見送りに行かない平助、そうと知っていて笑顔で分かれる斎藤と島田。いろいろ。

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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 19:37 | - | - |

薄桜鬼 碧血録 第十四話「蹉跌の回廊」

病床の沖田は、近くに置かれた自分用の洋服を見て、土方と千鶴が訪ねてきたときのことを思い出す。
近藤とともに甲州へ向かう、と知らせにきた土方を沖田は責める。それは怪我から復帰したばかりのかれを連れての遠出への怒りだけれど、自分が行かれないことへの憤りや、土方が行けることへの嫉妬、新選組と離れることへの不安などがあるのだろう。もはや隠せないほどに体調が悪い表情で、自分が近藤を守るんだと立ち上がろうとする沖田は痛々しい。近藤は沖田に甘いけれど、沖田もまた近藤に甘いというか、近藤のことになると冷静な判断ができなくなる。
今のかれは土方の言うとおり「足手まとい」にしかならない。沖田本人だって分かっていることをはっきり言ってかれの動きを止めてから、「待ってるぞ」と言う土方のアメムチっぷりが素晴らしい…。しかも無意識でやってるからな…。

故郷の日野でもてなされる近藤を置いて、一行は甲府へ向かう。宴席に出てばかりの近藤は危機感がないと不満を抱く新八、故郷だから仕方がないと情にあつい原田、新しい隊士への配慮だととりなす土方。どれが真実なのかは近藤のみぞ知る、むしろ近藤自身にも分かっていないのか。全部あるんだろう。
そんな中斎藤は、今回の戦に勝てると思っているのかと土方に聞く。その質問自体、斎藤がそう思っていないこと・思えないでいることの表明だ。そして土方もまた、難しいだろうと素直に答える。そのことが千鶴には信じられない。戦に勝てないかもしれないと思いながら戦うことも、思っているのに戦うために前進することも。

夜、ひとり陣を抜け出す斎藤を見かけた千鶴はそっとついていく。気配に気づいた斎藤に叱られるところなんかは斎藤ルート。薄桜鬼のアニメは、土方メインで進んでいることに間違いはないけれど、他の隊士をおろそかにしないのがいい。絵柄にクセはあるけれど、ほんとに丁寧に愛情を持って作られていると実感できるいいアニメだよ…。
死ぬことではなく、信じているものを見失うのが恐ろしい、と斎藤は言う。それはかれが信じているものを見失いそうだと実感しているということだ。一度は失ってしまった「本当の強さ」の答え、新選組に入って取り戻したその答えを斎藤は見失いそうになっている。新八や原田のように口に出して誰かにぶつけることをしない分、かれの不安はこれまで拭われずにきた。斎藤の揺れに気づけないから、誰も斎藤を落ち着ける答えをくれない。本人は自身で見つけるべきだと思っているんだろうけれど、それだけでは保ちきれないところにまで来たのだ。
そして不安を打ち明けられた千鶴が、斎藤に答えをくれる。刀が必要なくなっても斎藤が必要なくなるわけではない。大切なのは武士の魂だ、と。

守るために向かっている甲府城が既に敵の手の中であることが判明する。中腰で松明持ってる千鶴がちょっとカワイイ。
ここは一端退くべきだという新八・原田に対して、近藤は飽くまで交戦の構えを崩さない。その理由が、お上に命令されている任務だから退却すれば面目が立たないというものだから、かれらは呆れてしまう。近藤の権威欲や名声欲が透けて見える。それが真実かどうかは問題ではなく、かれらにはもはや近藤は「そう見える」のだ。
鳥羽伏見の戦いを経験していないからそんなことが言えるのだ、と新八は尚も食い下がる。新しい武器の威力を目の当たりにしたかれらには、いかに現状が不利で勝ち目がないかが実感できる。けれど近藤にはその感覚がない。それでも進むのだという近藤は、ひとり守っている和服と相俟って、とても時代遅れに見えてしまう。ついこの間まで皆が髪を伸ばして和装だったのにおかしなものだ。時代の流れはあまりに早く、そしてほんの僅かな過去にすら戻れない。
喧々諤々の討論を収めたのはやっぱり土方だった。援軍を呼んでくるから交戦してくれというかれの意見に、「あんたが言うなら」と新八は話を呑んだ。土方の言うことならば聞こう、信じよう、という風潮が強まっている。精神的支柱の近藤と、実際の策を練る土方という役割分担から、土方に全てが預けられるように変化している。いずれは他の道を選ぶことになる原田・新八と近藤の間に、徐々に亀裂が入っていく様子が丁寧に描かれているのもいい。

見送りにきた千鶴に、土方はここを離れろと言った。しかし新選組の力になりたいから行きたくないと彼女は主張し、頭を下げる。ここで頭を深々と下げた千鶴に対しては土方も何も言わないんだなあ。前回あんなに頭を下げるなと言ってたのに。
必死で主張する彼女に、土方は二つの命令を下す。ひとつは近藤を守れというもの。そしてもう一つは、絶対に死ぬなというもの。命を懸けて守ることと楯になって守ることは、たぶんきっと、絶対的に違うのだ。
千鶴の小太刀と金打したあとに、武士が誓いを立てるときにするものだ、と説明する土方の、ちょっと違和感のある物言いがすごくいい。自分が「本物の武士」ではないことを苦笑いしてはいるけれど、卑屈な感じはない。こういう細かい芝居が…!

戦はかれらの多くが見込んだとおり勝てるようなものではなかった。どんどん死んでいく隊士を見て、撤退命令を出せと言う原田・新八の言葉にも近藤は耳を貸さない。
どころか総大将自ら突撃をして銃撃をくらい、命を投げ打った隊士に庇われて助かる始末だ。自分に寄りかかる、もはや息絶えた隊士を見て、近藤はようやく戦場を見る。刀の時代の終わり、それは気合いや根性の時代の終わりでもあった。近藤が信じて、必死で上り詰めようとしていた時代の終わりだ。自分の古いこだわりがどれほどの被害を出したのかということと、信じていたものが終わったことに呆然とした近藤は、遂に撤退を決める。
しかしかれ本人は撤退をしようとしない。多くの部下を死なせて生きて帰れるか、と死を決意したかれからは、優しくて思いやりのある近藤らしい罪悪感よりも、逃避の願いが強く滲んでいる。
そうだと知っていて千鶴は、生きてくださいと言う。最初からずっと暖かく接してくれた近藤を死なせたくないという気持ち、ひとはやり直せるという気持ち、そして土方との約束が彼女を突き動かす。「近藤さんを信じて死んでいった皆さんのために」生きろという彼女は優しいだけの、弱いだけの子供ではない。
そして近藤は生きることを決める。

撤退を決めたかれらの元に、いくつもの厄介な存在が現れる。原田の前にやってきた不知火、かれらごと巻き込もうとする、昼間に太陽の下をうろつける新型の羅刹。しかも傷を負っても異常な速さで修復するかれらが相手では勝ち目がない。
存在に驚くあまり、敵である不知火にどういうことなのかと原田が問い詰めるも、かれも本当に知らないようだ。しかし、ひとつだけ分かることがある。こんなことが出来るのは、こんな羅刹を開発できるのは、たったひとりだけだ。変若水を作った当の本人、雪村綱道だけだ。
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posted by: mngn1012 | 薄桜鬼 | 20:57 | - | - |